金色の雨

作者:崎田航輝

 世界が金色に染まっている。
 空が青色から夕焼けに主役を譲る時刻。葉がそよぐ中で、人々は一様に上方を仰いでいた。金木犀に満ちる花の園で、涼風に踊った花びらが無数に降り注いでいたからだ。
 陽の光を吸い込んだ花弁は、元の黄金色が相まって翻るたびに煌めく。頭上から舞い降りるそれは金色の雨のようで、麗しい薫りもまた幻想を彩るようだった。
 それが余りに美しいから、或いは人々は刃が陽光をきらりと反射するのに気づかなかったのかもしれない。
 細い悲鳴と共に人が倒れる音が響く。
 人々が視線を下ろすとそこに巨躯の男がいた。
「どうして花など見ているんだい。自然にあるだけのものを愛でるなんて退屈だろう」
 呟く大男は、花園に似合わぬ鈍色の鎧を身に着けている。
 光も反射しないその姿は、まるで黄金の中に落ちる影か闇。掲げる巨剣だけがただ眩しく、妖しく光っていた。
「もっと美しいものがある。血の彩に、命を削る剣戟。それこそ最高じゃあないか」
 自明の理を語るように剣は振るわれる。そのたびに刃が血を吸って赤々と照っていた。
 金色の雨は尚注ぐ。それでも巨躯は空を見上げず、血潮だけを滾った目で見つめていた。

「花園に、エインヘリアルが出現するようです」
 集まったケルベロスたちへ、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は説明を始めていた。
 現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだ。
「金木犀がたくさん咲いていて、その花びらが風で巻き上げられることで雨のように注ぐ……そんな景色が見られるらしいです」
 夕刻だが人の数もそれなりにいる。
「この人々を護るために、是非、皆さんのお力をお借りしたいんです」
 イマジネイターは現場の地図と共に言葉を続ける。
 花園は街の中の一角にある。
 街道から続いているところでそこだけは建物もなく、金木犀だけの景色。南北に伸びる真っ直ぐの道の両側を、満開の花が挟んでいるという景観だ。
 ここにエインヘリアルは現れる。
 注意点としては予知がずれるのを防ぐため、事前の避難が出来ないこと。なので現場到着後は人々の警護が必要になるだろう。
「敵はかたまって歩いている人の群に強襲してくるわけですが……その際、南北のどちら側から来るのかが分かっていません。なので、片側だけで警護していると人々に被害が出る可能性が出てしまうでしょう」
 敵が道に沿ってやってくることは確かなので、人のかたまりを挟むように二手に分かれて警護しておくと良いかもしれない、といった。
「この場合、短時間ですが少ない人数で敵と戦うことになる場合がありますので、注意しておくと良いかもしれません」
 強力な敵ではあるが、戦って勝てない相手ではない。
「人々と、きれいな景観を守るためにも。是非頑張ってきてくださいね」


参加者
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
ルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)

■リプレイ

●迎撃
 金花が空に踊り、綺羅びやかな花雨となる。
 はっとするほど鮮やかな景色の中で、番犬達は冷静に持ち場に着き始めていた。
「……では、各員の健闘を祈る」
 北側へ向かう仲間を見送りながら、款冬・冰(冬の兵士・e42446)は南側にて班の仲間と方角を確認し合う。
 配置は南北に四人ずつ。両端に同数を置いて穴を作らない策だった。
 揺れる銀髪に金色を反射させながら、冰はアイズフォンで北側との連絡も確認する。
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)もまた携帯を片手に南側で待機。北側との意思疎通も問題ないと見れば、人々を背にして紅色の瞳を道に注いだ。
「後は、待つだけですわね」
「ええ。みるくも、なにか見つけたら私に教えてくださいね?」
 ルリ・エトマーシュ(フランボワーズ・e38012)は警戒を続けつつも、おっとりと翼猫に語りかける。美しい翼をひと羽ばたきさせて、みるくは鳴き声を返していた。
 涼風が吹くと木々が一層美しく揺れる。
 けれど何かの気配も確かに近づいているようで、カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)はゆるりと視線を巡らせる。
「さて、風情もへったくれもないデカブツ野郎さんはどこかな……」
 そんな中、ふと猫のように鋭い勘が意識を後方に運ばせる。
 それは人々の向こう、北方だ。

 北側の道にて四辻・樒(黒の背反・e03880)は警戒態勢を取っている。
 はらはらと舞う金木犀が美しくて、目を細めた。
「敵などやって来なければ、灯と一緒にこの景色を堪能していられるんだがな」
「ん、本当に困ったものなのだ」
 隣の月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)は、それでも戦いの先にある時間に期待を込めている。
「敵を倒したら、ゆっくりお散歩しよう? 樒」
「ああ。そうだな」
 視線は前へ向きつつも、心は確かに寄り添って、樒も頷く。
 だから灯音は魔力を湛えた銀槍を携えて、微かに声音を低めた。
「──そのためにもまずは、招かねざる客人をもてなさなければ」
 その視線の先。
 濃密な気配が顕れる感覚がした。
 どん、と微かに地が揺れたのは、それが宙から出現したからだろうか。道の前方に立膝を突き、着地する巨躯の姿があった。
 鈍色の鎧に身を包んだ、異星の罪人。
 勿論、彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)は慌てることもなく。作戦通りに携帯を手にとっている。
「こちら側に現れましたわ」
「急ぎ誘導と合流をお願いします。四人で抑えておきますので」
 西院・織櫻(櫻鬼・e18663)もハンズフリーのヘッドセットから南へ連絡していた。その後人々へ逃げるよう声かけをすれば、後は二刀を抜いて戦闘態勢を取るだけだ。
 逃げ出す人々へ、樒もつぶさに声を届けていた。
「老人、女、子供から先に逃がせ。応援のケルベロスも来る。お前たちが逃げ切るまで必ず食い止める。だから、落ち着いて行動するように」
 その言葉にも人々は勇気を得る。退避が淀みないと見れば、樒も道の前に出ていた。
「では、行くか。灯、バックアップは頼むな」
「任されたのだ、樒。仲間が来るまで耐えるのだ」
 灯音は雷光を生み出している。銀に煌めくそれは、花にも負けぬ鮮やかな壁となって仲間を守護していた。
 こちらへ接近していた巨躯──エインヘリアルはそれを発見して、どこか興味深げな色を浮かべている。
「君たちは……ケルベロス、か。君たちも斬り合いをしにやってきたのかい」
「間違ってはいませんね。こちらとて至高の刃を求めていますから」
 刀を構える織櫻は、静やかな眼光で応える。
 ──ならばこそ、血潮に塗れ五臓六腑を晒すは是非もなし、と。
「あなたも剣劇と血を好むのならば同じでしょう」
「人間にも面白いやつがいるみたいだ」
 これなら楽しめそうだ、と。エインヘリアルは剣を手に踏み込んでくる。
 だがその攻撃より疾く、金色の雨中に紫色が揺らめいた。紫が高く跳躍して上方を取っていたのだ。
「さぁ、先ずはその素早い動きを封じてあげますわ」
 まるで花舞の一部になったかのような空中輪舞。放たれる蹴撃は強烈に、巨体の動きを鈍らせる。
 エインヘリアルが唸る頃には、その眼前に織櫻が迫っていた。
「ではいざ、死合うとしましょう」
 滑る剣閃は、空落ちる花弁の一枚すら正確に切って捨てるほどに冴え渡る。
 雨音断ち──刃先の残像も窺えぬ一閃は足元から鮮血を散らせた。
 樒が神速の刺突を畳み掛けると、エインヘリアルは牽制の横薙ぎを打ってくる。が、直後には灯音が『桜花』──鮮やかな桜吹雪を生むことで傷を回復していた。
 間隙を作らず織櫻が掌打を加え、紫が雷華を咲かせて連撃すれば、樒も漆黒のナイフを踊らせて斬撃の嵐を喰らわせる。
 尤も、エインヘリアルは未だ苦悶を見せない。
 寧ろ戦力差を見取って有利と悟ったか、笑みと共に剣を振り上げてこようとした。
 だが瞬間、その腕を眩い炎が焼く。

「……了解。直ちに移動する」
 北側から連絡を受けた冰は、すぐに人々へ呼びかけていた。
「避難を勧告。急ぎ南への退避を求める」
「後は私達に任せて、今は逃げることに集中するのですわ」
 カトレアも言葉を重ね、人々を送り出していく。
 少しでも惑う様子の者がいれば、ルリが優しく言葉を伝えていた。
「安心して下さい。きっと、平和を取り戻してみせますからね」
 柔らかい声音でパニックも抑えられれば、ルリは彼らを邪魔せぬように迂回して北上。隠された森の小路で枝葉を避けながら、迅速に仲間の姿を捉えた。
 その先に巨体を見つければ、カタリーナはどこかのんびりと──手元に焔を湛えた。
「まぁ、いつも通りに狩っていくとしようか」
 声音に反し、炎は赤々と燃え盛る。瞬間、放ったそれがエインヘリアルの腕を炎上させたのだった。
 冰は合流した仲間へ視線をやっている。
「シキミ、被害状況は」
「問題ない。早く合流してくれて助かる」
「そう」
 ──ならば攻撃に徹するだけ、と。冰は既に砲撃態勢に入っていた。
「交戦を開始」
 刹那、射撃で爆炎を上げて巨躯を足止め。
 ルリが攻性植物に木苺を生らせて味方の防備を固めると、同時にカトレアは薔薇を想起させる美しい刀を抜刀していた。
「この一撃で、その身を凍らせてあげますわ」
 薙いだ斬撃は、空気を巻き込んで氷の花を咲かす。美しき氷気はエインヘリアルの体を包み込み、零下の衝撃で全身を襲っていく。

●花と刃
 花嵐にきらきらと氷片が交じる。
 後退したエインヘリアルは、割れた鎧から覗く、自らの血滴に触れて笑みを浮かべた。
 最高じゃないか、と。
「これこそ血の滾る剣戟だ。君たちを斬って終われれば、最上の結末だね」
「血だの斬って終わるだのと──結局は、殺戮の事しか考えていないんですのね」
 紫は清楚な表情に、かすかな呆れを含ませている。
 カトレアも仰ぎ、そっと頷いた。
「ええ。そんな敵に花園を荒らさせる訳にはいきませんわ。私も、花は好きですので」
「花、か。僕にはその良さは全くわからないね」
 巨躯はあくまで首を振る。カタリーナはそれに肩を竦めて返してみせた。
「まぁ、こういうのの良さも分からない低能だから、英雄候補とは名ばかりの犯罪者になるんだもんね。しょうがないよ」
「……言ってくれる」
 エインヘリアルは顔を歪めて一歩踏み寄る。
 が、カタリーナはひらりと跳躍。猫のように縦横に翻弄し、白光の鎗で輝く刺突を加えた。
 首を押さえながら巨躯は剣を薙ぐ。が、その一撃は織櫻の奔らせた刃が逸らしていた。
 敵は舌打ちして再度の剣撃。だが、織櫻の二刀流の疾さはそれにも勝る。素早く巨剣を弾くと共に、間を置かず刺突を繰り出せば、深々と巨躯の胸部が抉られていた。
「太刀筋は中々のものですね。いい糧となりそうです」
「……まだ、こんなものではないぞ」
 エインヘリアルは呻きつつも、刃に焔を纏わせる。だが、振り下ろされた一撃は樒が盾となって防いでいた。
「灯も、皆も。お前に傷つけさせる訳にはいかないからな」
 血を零しながらも、樒は零距離から反撃。闇色の刃で刺突を打って巨体の腹を貫く。
 同時に、灯音は花弁状のオーラを舞わせている。淡い光を伴ったそれは収束しながら溶けゆき、樒の傷を癒やした。
「樒、平気か?」
「ああ、ありがとう」
「私も助力させてもらいますね」
 ルリもまた、そっと手をのべて白光を生み出している。『Douce fleur』──光から咲き乱れる彩り豊かな花々は、甘い香りを伴って樒を治癒していた。
 流れる紅い髪は、素早く疾駆するカトレアのもの。
「紫、参りますわよ」
「分かりましたわ、カトレア様」
 頷く紫は紫電鋼──オーラを纏った流体金属を解き放っていた。
「オウガメタルよ、敵を砕きなさい!」
 うねるように宙を駆けたそれは、弾丸の如き速度で巨体を打ち据える。そのタイミングでカトレアが直上へ跳び、体を上下反転させていた。
「炎よ、敵を焼き尽くしなさい!」
 一瞬の後、半円を描くように踵を蹴り下ろして炎を発射。焔で巨体の脳天を焼いていく。
 ぐう、と声を漏らすエインヘリアルは、ふらつきながらも剣を取り落とさない。
 しかし攻撃に移ろうとしたときには冰が狙いをつけていた。
「先手は譲らない。ドローン射出……攻撃開始」
 弧状の軌道で飛び出したのは、冬影「独立粒子砲"椿"」。折り紙の椿を象ったかのようなそれは、花舞の中にあって美しく空を翔ける。
 それでいて、放たれる無数の光線は巨体を封じ込めるほどに眩しく連射された。剣の一本では防げぬその熱量に、鎧の破片が散り、鮮血が零れていく。

●花雨
 金色の世界に血溜まりが広がっていく。
 赤い水面に映った顔には苦悶の色。それでも巨躯はすぐに嗤い顔を作っていた。
「良い戦いじゃないか……。君たちも、剣戟と血の彩の美しさが判ってきただろ……?」
「いいや。命を削る剣戟はまだしも、血の彩などに美しさを感じないな」
 樒の投げた声に、エインヘリアルは睨むように見返す。
「君も……花の方が美しいとでも言うのかい。どこまでも、愚かな事を……」
「愚か、と言えるでしょうか。少なくとも──花の美しさを否定して、刃が鋭くなるわけではありませんよ」
 それは織櫻の静かな声音だった。
 西院の者は武を研きつつ雪月花を愛でるという。或いは記憶が無くともその名残が顕れたのか。織櫻の表情は変わらず静謐ながら、その瞳に花の雨を映していた。
 エインヘリアルは問答も諦めたように、踏み寄ってくる。
「……勝負がつけば分かることさ」
「ならばお前こそが散るといい。金色の雨の代わりに、刃の閃きを浴びてな」
 声と共にナイフを投擲したのは樒だった。
 吸命の呪符を張り付けた刃による、『奪』。それは名の如く呪いで生命力を奪っていく。
 カトレアはひとりの残霊を喚び出していた。
「行きますわよ。その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 その影はカトレアと共に薔薇の模様を描くように巨体に斬撃を見舞い、花弁が散るかの如き爆発を起こしていく。
「今ですわ!」
「ええ。雷光よ、迸りなさい!」
 紫は鉄杖を真っ直ぐに突き出して魔力を集中。紫電を閃かせて巨体の全身へ鋭い衝撃を与えていた。
 エインヘリアルは声を上げながらも、乱舞で後衛の意識を澱ませている。
 歪む視界の中で朦朧と、灯音は樒へ銀槍を振り上げた。
 けれどそれより先に、樒の声が優しく灯音の耳朶を打つ。
「灯、しっかりしろ──大丈夫だから」
「樒……私、は」
 はっとする灯音はそこで始めて手を止める。舌打ちし、銀槍を握り直していた。
「……全く、嫌な技をかけてくれる」
「治療は任せてくださいね」
 その頃には、ルリがふわりと裾を揺らめかせ、かつんと可憐な舞踏。ぽぽんと紅い果実も舞わせる、絢爛ながら可愛らしい花嵐で仲間の正気を保っていた。
「さあ、みるくも一緒に」
 鳴き声を返すみるくも、花輪をくるりと踊らせてそよ風を吹かす。清浄な空気であたりを包むように治療を進めていた。
 灯音が桜香る治癒の雨を降らせれば、仲間は万全となっている。
「後は、お願いするのだ」
「了解。迅速な決着を目指す」
 冰は変わらぬ無表情で敵へ向き直ると、砲塔の全てを前方へ向けた。
 冰の動作そのものは機敏ではない。けれど一斉砲撃の火力は巨躯が間合いをとっても意味を成さない程に苛烈だった。
 よろめくエインヘリアルは、それでも巨剣を暴れさせる。最早精度の失った剣撃を、織櫻は容易く避けて二刀の衝撃波を叩き込む。
 カタリーナはそこへ槍を眩く輝かせた。
「それじゃ、これで終わろうか」
 口調は変わらずも、油断はそこにはない。大切な人の為に戦い、その人の元へ帰る。それを誓っているから。
 ──流星きたり、我らは闇夜に願いを謳う。
 白の煌めきを伴うそれは『闇夜を裂く白光の鎗』。まるで流星の如き美しさと鋭さを持った一閃で巨体を貫き、散らせていった。

 花が風にそよぐ。
 皆は景観を修復し、鮮やかな花の世界を取り戻していた。織櫻は血の始末の後、赤色に浸った花も拾って洗い、戦闘の痕跡を全て無くしている。
「これで景色も保たれることでしょう」
「ええ、そうですわね」
 ヒールを手伝っていた紫も見回す。そこはもう金色の光景だ。
 樒は軽く息をつく。
「皆お疲れ様だな。さて折角の見事な景色だ、今度こそ仕事抜きでじっくり堪能しようか」
 言うと灯音に手を伸ばす。灯音はその手をとった。
「そうだな、ゆっくり楽しみたいのだ」
 そうして二人で歩き出す。
 小さな金木犀は甘い香りを漂わせていて、手をつないで進むと風と共にそれが感じられる。晩秋も近づいて風は冷たい、けれど二人は互いの温度に幸福な温かさを実感していた。
 人々も戻り、道には平和な空気が満ちる。
 カトレアは暫しそんな景色を眺めた。
「のんびりと花園を眺める時間もいいものですわね」
「ええ。美しい自然のある場所は、こうあるべきと思いますわ」
 紫も微笑んで、人々の笑顔を見つめる。
 冰もそんな光景をじっと見ていた。
「金の、雨。それを見る人々。両方とも、綺麗」
 どこか色味の薄い瞳は、しかしその金色を鮮やかに映し出しているようだった。
 ルリは帰る途中、ふと手折れてしまった金木犀を見つけて拾う。
「あら、まぁ。私のお店に、来ますか?」
 自身の開くタルトのお店の光景をふと想像する。木の看板の傍に置いてもいいし、レースやリボンのある店内ともきっと合うことだろう。
 みるくも喜んで迎えるように、花のたくさんついた枝を受け取っていた。
 カタリーナはひとり、道を歩んでいく。
 金色の雨はどこまでも幻想的だった。
「いい景色……」
 こういう景色の中を一緒にあの人と歩けたらいいのに、と。ふと思ったりする。
 いつかまた──そう考えつつも、今はその美しさを覚えて帰ろうと、歩を進めながら花を見上げていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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