ポンペリポッサの魔女作戦~子を乞うて魔女を騙る

作者:そらばる

●巨大な魔女に姿を変えて
 時はハロウィン。
 平時ならば目立つであろう真っ白なドレス姿の女性も、ハロウィンに賑わうパーティー会場では、好奇の視線を集めることもない。
 思い思いの仮装姿で大人たちの間を巡り、お菓子を調達していく子供たちの姿をどこか悲しげな瞳で見つめながら、ドレスの女性はぽつりと呟く。
「ここなら……ルーナはわたしを見つけてくれるかしら……」
 その瞬間、凄まじいエネルギーが集束し、女性は姿を変えながら巨大化を始めた。
「ばっ化け物……!」
「いやだぁっ、こわいよぅ、こわいよぅ!」
 混乱に逃げ惑う人々を、10メートルに及ぶ長身から見下ろすのは、異様に鼻の長い、しわくちゃの老婆。
 かつてケルベロスの前に立ちはだかった、『ポンペリポッサ』そのものの姿をした化け物だった。

●偽ポンペリポッサ
「今年もやって参りました、ハロウィンにございます」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)がそう切り出せば、ケルベロス達の反応も慣れたもの。
 またか、と早々に察しをつけて耳をそばだてる一同を、次に続く鬼灯の言葉が瞠目させた。
「こたびハロウィンの力を求め動き出したるは、ドリームイーターの魔女ポンペリポッサにございます」
 寓話六塔戦争で謎の不死性を示した、巨大な魔女ポンペリポッサ。
 かの戦争でケルベロスに受けた痛手を回復するためにハロウィンの魔力を狙ったのであろう、と鬼灯は推測する。
「とはいえ、ポンペリポッサ自身が現れるわけではございません」
 事件は、ポンペリポッサの息がかかったドリームイーターが、ハロウィンパーティーが開催されている街角に現れ、ハロウィンの魔力を利用して『ポンペリポッサの姿に変身して巨大化』するというものだ。
 ポンペリポッサ化したドリームイーターの全長はおよそ10メートル。
「戦闘力は本物のポンペリポッサには及びませぬが、かなりの強敵となりましょう」

 ケルベロス達に向かってもらう現場は、茨城県つくば市の街角で開催されるハロウィンパーティー会場となる。
 ポンペリポッサ状態の敵は、香しいお菓子の香りで催眠を誘い、ウインナーソーセージ乱舞で複数人を痛烈に痛めつけ、『好奇心』を刺激することによって傷を癒す、といったグラビティを使用する。
 ポンペリポッサの姿に変身し戦闘するには、ハロウィンの魔力を消費してしまうため、変身していられる時間はもって5分程度。
「5分が過ぎれば変身は解け、元のドリームイーターに戻りますゆえ、以降は有利に戦うことが可能でしょう」
 また、やりようによってはハロウィンの魔力を奪い取ることもできる。
「戦闘時、皆様がハロウィンらしい演出を披露することができれば、ハロウィンの魔力を奪い取り、5分よりも早く変身を解除させることができましょう」
 変身が解かれた状態の元のドリームイーターは、ウェアライダーを思わせる金髪の女性で、名を『サフィール・フネラル』。
 子を乞う歌で脳髄を痺れさせ、幸せを羨む眼差しで戦意を削ぎ、手に抱える黒狼のぬいぐみに守られ傷を癒す、といったグラビティを使用してくる。
「ハロウィンにドリームイーターが暴れ出すことは、もはや恒例でございますね。ハロウィンの魔力たるや、ドリームイーターにとっていかほど重要なものであるやら……」
 ともあれ折角の楽しいハロウィン、台無しにされないためにも気合いを入れていかねばなるまい。
「ポンペリポッサ化したドリームイーターは強力でございます。皆様、準備を怠りなく、よろしくお願い致します」


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)
セレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)
ユグゴト・ツァン(ぐるぐる・e23397)
唯織・雅(告死天使・e25132)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
ノエル・ジュブワ(葱色の農鶏機・e44911)

■リプレイ

●愉快な街角
 ハロウィンに賑わう街角では、快活な声とお菓子が飛び交っていた。
「ハッピーハロウィン。今日はみんなで楽しみましょうね」
 メイド服姿のラーズグリーズ・クラテンシュタイン(癒しの姫医師・e25214)は、優しい笑顔で子供たちにお菓子を配り歩いていく。
「がおー! お前らにお菓子をやろう!」
 小気味よくキャンディをばら撒くのは、人狼とゾンビをごちゃまぜにしたような姿のセレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)だ。オルトロスのタフトもお揃いの包帯を巻いて、一緒になってゾンビのように振る舞っている。
「はっはっは! これでも持っていけ!」
 豪快にマントを翻して現れたのは、吸血鬼姿の白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)。明るく振る舞うセレッソへ複雑な視線をちらりと流しつつも、気丈にお菓子を配っていく。
 矢筒にお菓子を目一杯詰めた死霊騎士に、鴉の濡羽の如き翼持つ烏天狗。ケルベロス達の仮装は人々の目を惹き、お菓子と合わせてとても喜ばれた。
 とりわけ魔女に扮したノエル・ジュブワ(葱色の農鶏機・e44911)お手製の南瓜菓子は、子供たちに大好評。
「はーい、まだまだありますよぉ。慌てないで、一人ずつ、一人ずつですぅ」
 南瓜の飴煮、南瓜飴、かぼちゃのお化けシュークリーム、虹色わたパチ。子供たちは大喜びで我先にとお菓子をゲットしていく。
 仮面舞踏会のようないでたちのヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)もケルベロスクッキーにハロウィン用お菓子の詰め合わせ、ハニークッキー、チョコパイ、パンプキンマドレーヌと多種多様に配り歩きながら、子供たちへの『仕込み』に怠りない。
「ハロウィンはあの世とこの世が繋がる日。魔女が出てもおかしくない。僕たちケルベロスが追い返すから皆、応援よろしくね!」
 例年よりも賑やかなハロウィンに、子供も大人もニコニコ顔。
 宴もたけなわ、嬉しそうな子供たちの顔を見回していた視界の端に純白がかすめ、セレッソは息を呑んだ。

●巨大な魔女とお菓子の雨
 人ごみの向こうに佇む、美しくもどこかうらぶれた雰囲気の、ウェアライダーめいたシルエットの美女。
 美女は羨むような眼差しでハロウィン会場を見回すと、何かを呟くやたちまち巨大化を開始した。集束するハロウィンの魔力が、その姿をむくむくと奇怪な老婆へと変貌させようとしている。
「ばっ化け物……!」
 誰かの悲鳴を皮切りに、恐慌に満たされる会場。
 その瞬間を狙いすまして、ヴィルフレッドがプリンセスモードを燦然と輝かせながら声を張り上げた。
「ここは僕らがなんとかする! みんな、逃げるんだ! できたらお菓子を投げて応援してね!」
 高所より跳躍し会場中央に降り立ったのは、骸骨、鎖、棘をあしらった重々しい鎧姿の死霊騎士。
「魔女が出たよう。さあ逃げろー」
 地獄の炎に包まれド派手な登場を決めたラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)は、いつも通りの兜から炎を吹きこぼしながら、大げさな身振りで人々を促した。
 濡羽はためかせ誰よりも前に躍り出たのは、勇ましい烏天狗。
「悪い魔女は……ケルベロスが、祓います。皆さん、ご安心を……」
 自前の翼を天狗の羽に見立てた唯織・雅(告死天使・e25132)の言葉が、人々に勇気を振り撒いていく。
「ふんぐるい。むぐるうなふ。くとぅるぅ。るるいえ。うがふなぐる。ふたぐん」
 いあいあ囁きながら参戦したのは……なんとも名状しがたい奇妙な着ぐるみ。緑色のぬめらかな皮、膨らんだ腹部、貌の無い頭部に生えた触手、烏賊とも蛸ともつかぬ酷く奇怪な輪郭、唐突な『かぼちゃ』の四文字。正気をガリガリ削っていきそうな物体だが、所有者にして中の人、ユグゴト・ツァン(ぐるぐる・e23397)はこれを「とてもかわいい」と信じて疑わない。
 対照的に、清浄な光を輝かせるラーズグリーズ。プリンセスモードでメイド服から魔法少女に変身だ!
「癒しを司る白き飛翔天女ラディカルラーズ参上です」
 現れたのは、ニチアサアニメに出てきそうなお姉さんヒロイン。にっこり微笑み、不安そうな子供たちを導いていく。
「さあ、お姉さんについてきてくださいね。はぐれちゃうとこわーいお化けに攫われちゃいますよ。ついてきてくれた良い子にはお菓子をあげますよ」
 なだめられ、ほっとする子供たち。その中の一人が、目を真ん丸にして空を指さした。
「あ! 魔女のおねえちゃん!」
 南瓜飾りのとんがり帽子にワンピース、スカート付きコルセットのクラシックな魔女姿のノエルは、箒にまたがり街灯の上から飛び降りると、すいーっと子供たちの頭上を滑空していった。
「みなさん、今が応援の時ですぅ。もらったお菓子の出番ですぅ!」
 子供たちは避難の傍ら、必死にケルベロスへの声援を上げながら、戦場へとお菓子の包みを投げ入れた。
 悲鳴と歓声、お菓子の乱舞が入り混じる中、偽物のポンペリポッサはとうとう変身を完成させた。
「てめぇ……誰の許可もらってそのひとの体を使ってんだ……!!」
 怒りも露わに巨体を睨み上げながら、ミリアは己の肉体を硬化させていく。
「本日のヒーローは彼女たちにからにございます」
 気取った口調で嘯きながら、ラーヴァは地面に描いた守護星座の魔法陣をスポットライトとばかりに輝かせる。
 その光にくっきりと照らし出された人狼ゾンビのセレッソは、地獄の炎を噴射しながら巨大な敵へと突っ込んだ。
「トリックオアトリートぉ! お菓子をくれなきゃ悪い狼がお前を食べちゃうぞ!」
 炎纏う黒狼牙が、魔女の足元に盛大に叩きつけられる。
「トリック・オア・トリート!」
 続けざま、溌溂とした掛け声と共に巨大な敵へと蹴撃をかけるヴィルフレッド。手に持つランプの炎が美しい軌跡を描き、流星の煌めきが弾けた。
「貴様の物語を否定する」
 Eraboonehotep。ユグゴトは相手の存在を否定する。証明を混濁させる。混濁は己の在り方を見失わせ、己の物語を、敵意への対処を放棄させる。此処に真実など無いのだ、と。
「トリックオア~トリート♪ 魔力くれなきゃ~イタズラしますよぉ♪」
 再度箒に跨り高所から敵へと突っ込んだノエルは、星屑散らして強烈な跳び蹴りを魔女の巨体に浴びせた。
 偽物のポンペリポッサの全身を取り巻いていたソーセージが、ぷちぷちぷちん! と軽快な音を立てて、次々弾けて宙を舞った。降り注ぐ大質量が、ケルベロス達を強烈に打ち据える。
「治療は……お任せ下さい。皆さんは、攻勢を」
 雅はすぐさまオウガ粒子を輝かせ、前衛の傷を癒していく。
「ハロウィンの日におとぎ話の魔女が顕現ですか。趣向としてはよいのですが……いささかそのいたずらは悪趣味が過ぎるのでは」
 とりあえずの避難誘導を終えて前線に参加したラーズグリーズは、ボクスドラゴンのルーチャに攻撃を任せ、オウガ粒子を振り撒きながら魔女の巨体を見上げた。
 ――次の瞬間、魔女の体は突如として風船のように膨らみ、そして盛大に弾けた。
 魔女が魔女でいられたのは、せいぜい一分。そこに残されていたのは、白ドレスの女性が一人きり。
 ドリームイーター、『サフィール・フネラル』。
「あら……?」
 サフィールはひどく不思議そうに、大きな瞳を瞬いた。

●母でない母
 サフィール・フネラルの困惑は本物のようだった。自身の手や体を見下ろして、しきりに首をひねっている。
「姿が戻ってしまうだなんて……ポンペリポッサ様、これはどうしたことでしょう? ……助けては頂けないの?」
 虚空への呼びかけにいらえはない。サフィールは切なげに吐息を零した。
「そう……謀られたの。……でも、いいわ。どうせルーナはここにもいなかったのだから」
 ミリアとヴィルフレッドがはっとしてセレッソを見る。
 セレッソはただ静かに拳を握り、その姿を人狼から人型へと戻した。
「ルーナはいない。いるのはセレッソだけだ」
 断言するセレッソを、サフィールはぼんやりと不思議そうに見つめ返した。
 その眼差しに、理解の色は浮かばない。
「そう? ……なら、いらない子たちはもう殺してしまいましょう」
 酷い言葉を紡いだ喉が、そのまま子を乞う哀歌を紡ぎ始めた。言い知れぬ悲しみが浸透する感覚に、前衛の面々は思わず耳を塞いだ。
「う……」
 一人、無防備に聴き入ってしまうセレッソ。瞳から生気が失われ、腕がだらりと落ちる。
 そのまま落ち崩れそうになる体を、月の光が照らし出す。MoonLight Blessing。雅の展開する『生命の場』が、安らぎと休息をもたらし、魂の波長を整え、脳裏の迷妄を祓っていく。
「私に戦意、ある限り。簡単に、誰かに膝を……付かせたり、しません」
「……ああ。助かった」
 セレッソは小さく破顔すると、何かを吹っ切ったように稲妻を身に纏い、神速で敵の懐へと飛び込んだ。
「いやっ……」
 鋭い突きに小さく悲鳴を上げるサフィール。退いた先にも、次々とケルベロス達のグラビティが降り注いでいく。
「敵の邪魔はたのしい。おまつりもたのしい。せっかくなのでたのしくやりましょうね」
 バケツヘルムの中の地獄を盛んに燃え上がらせながら、ラーヴァは凍結光線を照射しサフィールの熱を奪った。
「いあ……いあいあいあいあキィィィィエエエェェェェエエエエ!!」
 戦いのさなかに突如として踊り狂わんばかりの歓声を上げるユグゴト。噴出する溶岩がその背景を彩り、ついでにサフィールを足元から打ち据えた。
「痛い……いたいわ……どうしてこんなことするの……? あなたたちは幸せなのに。わたしは不幸せなのに。どうして、どうして……?」
 細腕に抱える狼のぬいぐるみ越しに、羨むようなサフィールの眼差しがセレッソを捉える。しかしその視線を、割って入ったミリアが強引に切った。
「あたしにとっては拳を振り上げたくない相手だけどよ、セレッソを傷つけるってんなら話は別だぜ!」
 視線の威圧を撥ね除け、ミリアは全身に高速回転をかけて突撃した。
 変身が解除されてなお、サフィールの戦意は減退を見せず、誰かに操られている様子もない。
 口では子を恋しがりながら、陰気な眼差しで人を羨むばかり。命のないぬいぐるみを後生大事に抱えながら、本当に大切なものにも気づかない。
「ルーナ、ルーナ。どこにいるの、たすけて、ルーナ。お母さんの幸せのために、戻ってきて」
 大事なはずのぬいぐるみを盾にして己の命を守るそれは、確かに母性の抜け殻だった。
 蓄積していく不条理が、苛立ちが、ミリアの内で沸点を超えて爆発した。
「――地獄じゃ生温い!! 更に底まで墜ちやがれぇええ!!!」
 魔獄爪痕。手にした緋爪が、『敵』を滅多打ちにする。何度も何度も何度も何度も、果てぬ暴欲が全てを破壊しつくすまで。
 よろめき後ずさるサフィールの周囲が、グラビティに塗りつぶされ、いつのまにか洋館の吹き抜けエントランスホールにすり替わっていた。
「ようこそ、終わらないハロウィンの世界へ!」
 ノエルが明るく声を上げた。It's a Halloween Project。そこはお化け達が巣食う廃洋館。雄鶏の鳴き声と共に現る巨大なコカトリス。睨まれたサフィールの皮膚は焼け爛れ、痺れ毒に侵されていく。
「あ、あぁ、あ……」
 痺れの中、ぬいぐるみを掲げようとするサフィール。しかし治癒の力は戦いのさなかに投射されたウイルスの力で、十分な効力を発揮しない。
「聖なる癒しの御手よ、母なる大地の息吹よ。吹き抜ける緑の風となりて、我が手に集い力となれ」
 ラーズグリーズの風が吹き荒れる。Grune Brise。破壊の風は緑色の荒れ狂う竜巻となって、サフィールを渦中に呑み込んだ。
 竜巻の去った直後、サフィールのすぐ傍らで、快活な声が上がる。
「さぁ君にラブコールを!」
 一切の気配を消し、出し抜けにそこに現れたヴィルフレッドは、致命的な一撃を叩き込んだ。Thanatos。恐れる勿れ、死への本能は己の中に。
「逢瀬の、お相手。お間違いに、なりませぬ様……」
 強い意志を秘めて呟きながら、雅はエネルギー光弾を射出した。さらにウイングキャットのセクメトのリングが追い打ちをかけ、サフィールの力は容赦なく弱体化されていく。
「お菓子か。悪戯か。悪戯と化す母にお菓子を『渡す権利』など無い。私が母親だ。私が黒山羊だ。狼の友人で在る。救済と抱擁は私に任せ、貴様は胎内で永劫を貪るが好い。真の愛に縋って、甘えるが好い」
 独特の文言で持論をぶちながら、ユグゴトは混沌の舌の刃を複雑に変形させ斬り込んだ。サフィールの絶叫が辺りに轟き渡る。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 ラーヴァ・フォールズ。地獄の炎纏う矢が、上空から滝の如く降り注ぐ。害悪をまき散らし連鎖する地獄の中で、サフィールの哀れな声がこだまする。
 細工は流々、とばかりにラーヴァは大仰に右手を広げ、セレッソを促した。
 セレッソは千疋狼を構えた。嘆きやまぬサフィールへと。
「貴方の娘は幸せに生きてる! でももう戻ってこれない! だから、諦めてくれ!」
 全身全霊を籠め、投擲する。
 放物線の先で女の細身を貫き、槍は血に染まる。
 柄に描かれた狼が、ケタケタと嬉しそうに笑った。

●ハロウィンはこれから
 会場はすぐさまヒールに包まれ、戦いの収束を知った人々もぽつぽつと戻り始めた。
「お騒がせ……しました。皆さん、ハロウィン……愉しんで下さいね」
 主催や参加者たちに礼儀正しく頭を下げる雅。その傍らで、ラーズグリーズは避難誘導した子供たちに取り囲まれて、すっかり懐かれた様子だ。
「ふむふむ、なかなかの釣果ですねぇ」
 会場中に散らばったお菓子を、オウガメタルの力を借りて回収したラーヴァは、重たくなった矢筒にご満悦である。
「余ったお菓子は、皆さんにもおすそ分けですぅ」
「やった! 本当はちょっと楽しみだったんだ」
 おっとりとしたノエルの提案に、年相応の笑顔を見せてはしゃぐヴィルフレッド。
「南瓜のお菓子とクッキー達は如何。茸鍋の方が好い」
 謎の着ぐるみはやはり解読の難しい文言を呟きながら、何食わぬ顔でハロウィン会場に溶け込んでいった。
 皆から少し離れたところで、セレッソはようやく見つけた三叉尾狼のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「本物か偽物かは分からなかったけど、心配してくれてありがとう」
 うずくまるセレッソの後ろから、そっとミリアの暖かな体温が覆いかぶさり、安心させるように頭を撫でた。
 しばしして、セレッソは顔を上げ、ミリアに笑いかけた。
「しんみりさせてごめんよ。改めてハロウィンを楽しもうか」
 そうして楽しいハロウィンは今年もやってきた。笑顔と、喜びと、ほんの少しの苦さを秘めて。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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