城ヶ島強行調査~混迷の地

作者:日崎律

●城ヶ島の現状
「ドラゴンが城ヶ島に拠点を築いている事はご存知でしょうか」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は穏やかな笑みを浮かべながらも真剣な声音でそう切り出した。
 三浦半島南部の城ヶ島。青い海に囲まれたのどかな地は、ドラゴンの勢力によって鎌倉奪還戦と同時に制圧された。現在、城ヶ島はドラゴンの拠点となっている。
「城ヶ島の外に出てきたドラゴンがケルベロスによって撃退された為、ドラゴン達は守りを固めながら、配下であるオークや竜牙兵、ドラグナー達による事件を引き起こしていると考えられます。危険な地なので、今まで攻略する事が出来なかったのですが……」
 セリカはそこまで言うと、微かに目を伏せた。
 現在の城ヶ島は多数のドラゴンが生息する拠点だ。彼女の言う通り、危険な地である為に現在まで攻略する事は叶わなかった。しかし。
「ですが、ケルベロス達の作戦提案により、此度、遂に強行調査が行われる事となりました。危険な任務になりますが、ぜひ皆さんにお願いしたいのです」

●調査について
 再び目を開け真っ直ぐにケルベロス達を見据えたセリカは、言葉を続ける。
「城ヶ島を正面から攻略する事は難しい……それが現状です。その為、小規模の部隊を多方面から侵入させる事になりました。その中の1部隊でも良いので、内部の状況を調査してくる事が必要となります」
 調査の結果、城ヶ島に巣食う敵の戦力や拠点の情報が判明すれば、攻略する為の作戦を立案する事が可能となるだろう。
「城ヶ島への潜入方法は皆さんにお任せします。ですが、ヘリオンで侵入する事は出来ません。多数のドラゴンが警戒する空域ですから、自殺行為になってしまいます」
 三浦半島南部まで移動した後は立案した作戦に従い潜入を行う事になる。
「小型の船舶や潜水服、または水陸両用車程度でしたら用意できますので、作戦に応じて申請して下さいね」
 敵に発見された場合は、恐らくドラゴンとの戦闘になる。ドラゴンとの戦闘になれば、例え勝利してもすぐに別のドラゴンがやって来るだろう。その為、それ以上の調査を行う事は出来ない。
「もしも戦闘になったら……えっと、そうですね、出来るだけ派手に戦って他の調査班が見つからないようにする――そういった援護も重要になってくると思います」
 もし発見され戦闘になった場合、派手に戦う事でドラゴンの目を引く事ができれば、他の調査班が潜入しやすくなるだろう。ひいては、それが調査の成功に繋がる事になる。
「場合によってはドラゴンと正面から戦う事になるでしょう。城ヶ島はドラゴンの拠点ですので、勝利が難しくなった場合はもとより、戦闘後は勝敗に関わらずすぐに撤退する必要があります。引き際を見誤らないよう、十分に注意して下さい」
 最悪の事態にならないように――小さく呟いた自身の言葉に、セリカは首を緩く横に振った。穏やかな笑みを浮かべ、ケルベロス達を見つめる。
「――皆さんならきっと無事に帰ってきてくれると信じています」

 一連のセリカの説明を聞いた、弓塚・潤月(潤み月・e12187)は一度考えるように目を伏せた。しかしすぐに赤い瞳を瞬かせ、微笑を浮かべ真っ直ぐに前を向く。
「確かに危険な任務ね。けれどアタシ達にしか出来ない事なのよね。だったら、やらない、と背を向けるわけにはいかないわ。それに――」
 ――あの蒼に囲まれた地を、取り戻したいの。
「頑張りましょうね」
 脳裏にいつか見た空と海を思い浮かべながら、潤月は笑ってみせた。


参加者
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)
鳶風・鶸(招霊木・e03852)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
滝・仁志(風まかせの空模様・e11759)
弓塚・潤月(潤み月・e12187)

■リプレイ

●竜住まう地
 三崎魚市場。そこが彼らの出立地点だった。
「いやぁ、良い天気だなー。強行作戦日和だ」
 光を遮るように目元を手でかざしながら、滝・仁志(風まかせの空模様・e11759)は空を見上げた。その横では彼のテレビウムが主人と同じ格好で空を見上げている。
 その姿に、槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)も相棒と呼ぶライドキャリバーを見て小さく笑みを浮かべた。そして視線を海の向こうへと向ける。
「あれが城ヶ島、か。遠目には綺麗な島に見えますね」
 呟かれた言葉は、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)の耳に入った。
 コロッサスは目を細め、海の先にある城ヶ島を見つめる。本来であればのどかな場所だったのであろうそこは今はドラゴン達に占領され、のどかとは程遠い地となっている。
「斯様な小さな島もドラゴンが守れば剣呑極まりない砦、か」
「……ちょっと緊張しますね。敵の本拠地に乗り込むって事ですし」
 コロッサスと同じようにこれから行く目的地を眺め、ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)は心情を呟く。
 それを聞きながら、柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)は被っていたフードを下ろし、大人びた笑みを浮かべた。彼の横で、藍色の髪を海風に遊ばせながら、鳶風・鶸(招霊木・e03852)がスコープ越しに城ヶ島周辺を見渡す。
「どうだ?」
「今のところはまだ合図はありませんね。敵の動きも今のところ目立ったものは……」
 言葉を続けようとしたその時、遠い空に打ち上がった花火を見た。――作戦決行の合図だ。
「そろそろみたいね。アタシ達も行きましょうか」
「潤月さんの言うとおりなのじゃ! あたし達も出発するのじゃ!」
 弓塚・潤月(潤み月・e12187)の言葉に頷いた、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が真っ先に用意しておいた青の手漕ぎボートへと向かう。彼女に続くように各々もボートに乗り込み、オールを手に取った。
 この先に何が待っているのか――何も分からないまま、僅かばかりの緊張を胸に城ヶ島へと向けて漕ぎ出す。ドラゴンの一党が住まう地へと。

●城ヶ島上陸
 同じ三崎魚市場から出立した他の班とは別に、一行は単独で城ヶ島西側の沿岸部へと無事上陸した。
 海に出てからの距離が最も短かった事が功を奏し、敵に気取られた気配は無い。
「ふぅ……少しどきどきしたのじゃ。まずは第一段階突破といったところなのじゃ」
 周囲を見渡しながら、ウィゼは安心したように小さく息を吐いた。
 これから市街地に乗り込み、常光寺方面へと向かう事になる。その前に、と清登は潤月に声をかけた。
「そういえば、弓塚さんは何故島内の調査を望んだんでしょうか?」
 差し支え無ければ、と付け足し潤月に問いかける。潤月は少し考えるように首を傾げていたが、やがて空を見上げた。
「アタシは空と海の蒼に愛された城ヶ島をね、取り戻したいのよ。だってほら、とても綺麗でしょう?」
 見上げた先に広がる蒼穹。先に見た空も、こんな色をしていた。こんな綺麗なものに愛された場所を、このままドラゴンに蹂躙させて良い筈が無い。
 目を細めて見つめる潤月を見て、そして彼女が見つめる先を見上げ、清登は頷いた。
 彼女に強い想いがあるなら、内容に関わらず協力したいと思っていた。彼女の言った言葉は、理由としては十分なものだ。
「これから市街地へ行くんですよね?」
 ソーヤの緊張を隠せない声音に、鶸は頷きながらも首を傾げる。
「市街地はどうなっているんでしょう。生存者はいるでしょうか。それとも……」
 人ではないものに変化しているかもしれない――脳裏を過ぎったそんな考えを打ち消すように、頭を横に振る。
「生存者がいるなら、出来る限り助けたいところです」
「そうですね。生存者がいたら、こちらの状況次第な部分もありますが、力の許す限り助けましょう」
 決意を述べるソーヤの言葉に頷き返し、鶸はアイズフォンを利用して地図を表示させた。自分達の居場所を確認し、地図と照らし合わせていく。
 任務の達成も生存者の救助も勿論大事だ。そしてもう一つ彼にとって大事なものがある。仲間の命だ。その為の準備は念入りにする必要がある。
「……よし、大丈夫です。行きましょう」
「それじゃ、良い感じに危険な任務だけどいっちょやってやりますか」
 頼りにしてるぞ、との言葉をテレビウムに投げかけながら、仁志はその頭をぽんぽんと撫でる。どことなく嬉しそうに見えるテレビウムから手を離した途端、仁志の顔から先程までの穏やかな表情は消え、冷静さを湛えた表情を見せた。

●市街地の異変
 踏み入れた市街地に、人の気配は感じられなかった。代わりにあるものは多数の醜悪な気配。ドラゴンのような強大なものの気配ではないが、それでも悪意は感じ取る事が出来る。
 進路の確認の為に仲間達よりやや先を進んでいた清登はその気配を肌に感じながら歩を進めていた。その姿は目立たぬようにと塵芥を纏って廃棄物を装っていることもあってか、周囲の景色に良く馴染んでいる。
「……!」
 どれくらい歩いた頃だろうか。清登が不意に息を飲み咄嗟に建物の壁で姿を隠した。足を止め音を消したスマホに打ち込もうと取り出して、しかし後に続く仲間達の姿が確認できると彼らに向けて手で制する。
 ――オークがいる。
 口の動きだけでそう伝え、再び壁の向こうを調べるべく顔を覗かせる。 オークが一体、二体……いや、それ以上にいる。清登と同じように顔を覗かせたコロッサスと目が合い、二人は互いに頷いた。
 どうするべきか。
 口の動きと視線で問いかけたコロッサスに、一行は視線を互いに巡らせる。
 敵は一行に気付いていないようだが、市街地に入ったばかりでまだ先は長い。ここで戦闘して見つかっては目的地とする常光寺まで辿り着けるか分からない。
 声に出さぬ密談の結果、戦闘は回避し先に進む事になった。市街地では隠密行動をすると決めている以上、回避できるのであればするに越した事は無い。
 鶸が示した地図を元にルートを再確認し、再び清登が先行して歩き出した。
 オークとの戦闘を回避しその場を抜けても、また違う場所で複数のオークが見つかった。その戦闘も回避し先を進んでも、またそこでオークに遭遇する。時には戦闘を避けられない事もあった。どうやら、この市街地はオークの生活圏となっているようだ。
(「まさかこんなにオークが暮らしてるなんてな……」)
 市街地をオークに見つからぬよう移動しながら、史仁は唇を引き結ぶ。
 この事態を予想していなかったといえば嘘になる。それでも、まさかここまでとは。
 気持を切り替えるようにフードを目深にかぶり直し、史仁は道すがらウィゼに預けていた目覚まし時計や爆竹を設置していった。潤月も同じように最大音量に設定したキッチンタイマーを所々に設置していく。オークの生活圏となっている以上、回収される可能性もある。しかし何もしないよりは良いだろう。
 そうしてしばらく市街地を進んでいると、再び清登が仲間達を手で制す姿が映った。彼の見る先に目を向ければ、そこには複数のオークの姿。
「……あれは避けられそうにないのじゃ」
 ぽつりと小さな声で漏らされたウィゼの言葉に、コロッサスは同意するように頷く。
「ならば奇襲を仕掛けるが最善か。幸い、敵はこちらには気付いていないようだ」
「ここを抜ければ常光寺までもうすぐです。行きましょう」
 言うなり、鶸は己が身に宿した御業でオークを鷲掴みにした。追うように、コロッサスが突然の襲撃に慌てふためいた様子のオークの懐に踏み込み、破邪の斬撃を振り下ろす。
 鶸の顔からは、戦闘に入ってから表情が消えていた。しかしその眼差しは戦場の異変を、敵の一挙一動を見逃さんと向けられている。その彼の視界の端に、何かが映った。
「反対側にもオークだ」
 鶸の声量を抑えた鋭い声に、咄嗟に潤月が反応する。オークの攻撃を寸でのところでかわし、お返しとばかりに大地ごと割るような一撃を繰り出した。
「元々敵をかく乱するのが目的だ、かえって打ってつけの状況かもしれないぞ」
 まるで鼓舞するかのように言う史仁の操る縛霊手から巨大な光弾が弾け、戦場を駆ける。その後ろで、ウィゼはアームドフォートの技術を応用した携帯用の医療設備を広げた。
「存分に戦うといいのじゃ。あたしにかかればこのぐらいの医療設備は携帯可能なのじゃ」
「生存者は…・・・やはりいないのでしょうか。人の気配は感じ取れませんけれど……」
 オークへと電光石火の蹴りを叩き込み、ソーヤは周囲を見回した。ここまでオークがはびこっていると生存者がいるとは考えにくい。
「奴らにとって女だけは生かす価値があるとは思うが……」
 コロッサスの言葉が途切れる。その女の影も、ここに来るまでの間どこにも無かった。
 多数のオーク。いない島民。オークの特徴。――まさか。
 それらを思い浮かべ、清登は出た結論を口にする。
「元の島民を利用して繁殖した、とか。……我ながら嫌な仮説だと思いますが」
 言ってから、その仮説が一番可能性が高い事に気付き、僅かに眉根を寄せた。仲間達もその可能性が高いという事に気付いたのだろう。一様に口を閉ざした。
 鶸は一度目を閉じた。小さく深呼吸をすると、再び目を開ける。事実を伝えるべく、口を開いた。
「ここに生き残りはいません」
 小さく短く呟かれた言葉は、各々の耳にはっきりと届いた。
 この市街地に生き残っている島民はいない――これは確実に重要な情報だ。元々生き残りがいるとは思っていなかった。それでも、先に立てた仮説を思うと、その事実は心に重く圧し掛かる。
 それを振り払うようにオークを心を貫く一矢の元に射ち伏せると、仁志は思考を切り替えるべく軽く深呼吸をした。
 ――悲哀に流されるな。今はまだその時じゃない。
「先へ進もう。大丈夫、まだ終わったわけじゃない」
 穏やかな表情で、しかし凛とした響きを伴って紡がれた言葉。その言葉を後押しするかのように、薄い霧が前に立つ仲間達を包む。
「たとえ仄かな灯りでも、集まればそれは希望となる」
 史仁の紡いだ詠唱が終わると同時に、霧は仲間の身に触れる。
 闇に溶けゆく霧は、暗闇の中に灯る希望の光が如く、力を与えるだろう。歩み出す力を。前に進む力を。導きの灯たらんとする者から、進む者たちへの祝福を。
「そうね。ここでくすぶっている場合じゃないわね」
 凛と言葉を紡ぐ潤月の背筋は伸び、しっかりと前を見据えている。若者に見せる背中は挫けることを許さない。未来ある者たちに進む道を示せるように。それが、彼女の戦い方。
「その通りなのじゃ。もしかしたら全員逃げた後なのかもしれないのじゃ」
 ウィゼが繰り出した攻性植物がオークの群れを飲み込んでいくのを見つめながら、清登はスマホを取り出した。
「相棒、頼んだよ」
 主の言葉に応えたライドキャリバーが炎を纏い突撃する。
 自宅警備員は自由で気楽だと……そう思う。誰に強要されるでもなく、守りたいものを守る為に生きられるのだから。――そう、まだ守りたいものは、在る。
 例え相手が何であろうと、その思いに迷いはない。
「星塵の如く降り注ぎ、全てを打ち砕け……!」
 スマホ内部に蓄積された、具現化したデータが星屑の如くオークの頭上に降り注いだ。痛みに慄くオークを畳み掛けるように、コロッサスが深く踏み込んだ。
「我、神魂気魄の斬撃を以って獣心を断つ――」
 破邪の斬撃がオークに振り下ろされる。その太刀筋は強く、重い。
「此処は地獄だ。――しかし、冷静に動かねばなるまい。今はケルベロスの総力を以て情報を持ち帰るのが肝要」
 死を呼ぶものをこれ以上この地にのさばらせない為に。この剣は死をもたらす者を退かせる為のもの。
 その真価を発揮する為にも、今この時も城ヶ島で戦っている仲間達と共に、生きて情報を持ち帰る事が重要だ。
 ――ドラゴン一党に断罪の剣を振り下ろすのは……それからだ。
「降されし力を、ここへ!」
 生存者がいないという事実が苦しい。しかし、それなら、その分まで。己が抱く弱さと力を以てこの地に住んでいた人に応えたい。
 そんな思いと共に、ソーヤは特殊な力の流れを込めた拳を叩き込んだ。

●破壊された日常
 オークを倒し市街地を抜け、辿り着いた常光寺は完全に破壊しつくされ、何も残っていなかった。人はおろか、人ならざるものの気配も感じられない。
「見事なまでに破壊されているな……」
 呟かれた史仁の声を背に、鶸はしゃがみ、瓦礫に指先を滑らせた。端整な横顔に、さらりと藍色の髪が一房流れる。
 かつてこの地にはどのような命があったのだろうか。どのような日常が繰り広げられていたのだろう。緑と青空の下で、どのような光景が繰り広げられていたのだろう。ここを愛し参拝する人もいただろう。笑顔で来た人もいただろう。ここだけではない、先程通った市街地も人々の声で、感情で溢れていた筈だ。
 それが今は破壊され、かつての面影は残っていない。命の面影は、無い。
「……これがドラゴン、ですか」
 日常に破壊をもたらすものが、この城ヶ島には息衝いている。
「そういえば、ドラゴンには遭遇しませんでしたね。幸運、と言えるのでしょうか」
 『ドラゴン』の言葉に反応したソーヤが周囲を見回す。仁志は腕を組むと少し考え込むように視線を遠くの空へと向けた。
「……推測になるが、他の班がドラゴンの注意を引き付けてくれたおかげかな、と」
 彼の言葉に、コロッサスは頭を巡らせ目を細める。見つめる先は遠い空の下。この城ヶ島のどこかで、今も仲間達が戦っている。
「皆無事であれば良いが……」
 ――特にあの子は無茶をするから、な。
 秘めた言葉は胸の内で呟き、遠い空の下に思いを馳せる。ウィゼがその横に立ち、髪色と同じ薄紅の付け髭を指で撫でた。
「きっと無事なのじゃ。何せたくさんのケルベロスが協力してるからの」
「そうだな、そう信じよう。俺達は得た情報を確実に届けるとしよう。後に続く者達の為にも」
 ドラゴンに遭遇する事無く、情報を得る事が出来た。成果は上々と言える。
 予め定めておいた撤退ルートを通るべくその場を後にしようとする一行に少しだけ待ってくれるよう頼むと、潤月は一輪の青い花を取り出した。清登が不思議そうに目を瞬かせる。
「弓塚さん、その花は?」
「手向けよ。……前ここに来た時は倒れてしまってね、自分の手で花を捧げられなかったの」
 そう言って、潤月は花を風に遊ばせた。先の戦いでは叶わなかった城ヶ島への手向け。
 もしかしたらこれも彼女の目的の一つだったのだろうか、と胸の内で思うも、口には出さなかった。
「届くと良いですね」
「ええ、そうね」
 青い花弁が空に舞う。――かつてこの地に息衝き、今はいないもの達へ。どうか届くようにと。

作者:日崎律 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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