城ヶ島強行調査~凍星の行方

作者:犬塚ひなこ

●調査依頼
 鎌倉奪還戦後、ドラゴン勢力は三浦半島南部の城ヶ島を制圧した。
 半島を拠点化した現在、城ヶ島の外に出たドラゴン達はほとんどがケルベロスによって撃退された。そのためドラゴン達は守りを固め、配下のオークや竜牙兵、ドラグナー達による事件を引き起こしていると考えられている。
 そして、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は現状を語った。
「三浦半島は多数のドラゴンが生息する拠点なので、現在まで攻略は考えられていなかったっす。ですが、ケルベロスの皆さん強行調査作戦の提案があって動く事になったっす!」
 危険な任務ではあるが是非お願いしたいと告げたダンテは作戦提案者のひとりであるケルベロス、哭神・百舌鳥(病祓いの薄墨・e03638)を紹介した。
 
 百舌鳥は一歩前に踏み出し、軽く挨拶をしてから話しはじめる。
「ドラゴン達から城ヶ崎を奪い返したいからね……」
 だが、城ヶ島を正面から攻略する事は難しい状況だと百舌鳥は語った。
 そのため、まずは小規模の部隊を多方面から侵入させ、内部の状況を調査してくる事が必須となる。そうすれば城ヶ島の敵の戦力や拠点の情報が判明し、その後に攻略作戦を立案することが可能となる。
「つまり今回は潜入と調査が目的ということになるよ……」
 城ヶ島への潜入方法はそれぞれの部隊次第となる。だが、多数のドラゴンが警戒する空域にヘリオンで侵入することは自殺行為になるので不可能だ。
 その代わり、小型の船舶や潜水服、あるいは水陸両用車程度ならば用意できるので作戦に応じて申請が可能だ。その後は部隊ごとに調査を行うことになる。
 しかし、ただ潜入して様子を窺うだけでは情報にはならないので何を重点的に調べるかは自分達で決めなければいけない。
「ただ……向こうも簡単には調査させてくれないだろうね……」
 百舌鳥は考え込み、以前の戦いを思い返す。
 前に戦ったことのある凍星の竜も半島のどこかにまだいるのだろうと考えた百舌鳥だったが、今は皆と相談すべきだと思い直し、特に取り立てて口にはしなかった。
 潜入中に発見された場合、十中八九ドラゴンとの戦闘になる。戦闘になれば、たとえその個体に勝利してもすぐに戦闘音を察した別のドラゴンがやってきてしまうだろう。そのため、それ以上の調査を行うことはできなくなる。
「調査が最重要だけど戦いも覚悟しておかないと……」
 最低でも情報を持ち帰るのは一部隊でも構わないという旨を百舌鳥は話した。
 ある部隊が囮になり他部隊を活かすのもまた作戦のうちのひとつ。できるだけ派手に戦って他の調査班が見つからないようにするといった形の援護や協力も重要になる。だが、何連戦もして勝ち続けることは難しいため、機を見て撤退を選ぶことも必要だ。
「引き際を誤ると最悪の事態もあるかもしれないから気を付けよう……」
 百舌鳥は仲間達を見つめ、話を締め括る。
 三浦半島のドラゴン勢力との戦いがどうなるかは今回の任務次第。
 敵がどれほど強くあろうと決して恐れ過ぎてはいけない。吉報を持ち帰るために、今こそ力を尽くす時なのだから。


参加者
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)
サーシャ・グレイソン(陽光の護り手・e01863)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
哭神・百舌鳥(病祓いの薄墨・e03638)
須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)

■リプレイ

●上陸へ
 揺らぐ水面、近付く陸地、そして――不穏な気配。
 冬を目前にした海の水は冷たく、身体の熱を容赦なく奪っていく。だが、目指す三崎港はもう間もなくだ。水中スクーターに掴まり、行く先を見据えるサーシャ・グレイソン(陽光の護り手・e01863)はぎゅっと掌を握る。
(「ドラゴンの島に潜入なんて緊張するなあ……でも、皆が一緒だからね」)
 ちらりと横を見遣ったサーシャは、同じく水中スクーターを用いての潜入を行うケルベロス達の数を確かめる。自分達の班を含め、その数は四十名ほど。
 同じ手段を用いて三崎港に向かうチームは多く、大人数となっている。
 マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)達が決めた狙いは、ひとまず東側からの上陸を目指し、道筋に沿って公園を窺ってから中央方向に進むこと。
 それから、とある竜を倒すことだ。
 哭神・百舌鳥(病祓いの薄墨・e03638)は以前に戦った竜を思い、独り言ちる。
「こんなに早く再会の可能性が巡ってくるとは少しワクワクもするね……」
「前回は敵わなかったけれど、今回は決着をつけたいところね」
 イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)も静かに呟き、自然と仲間の声に応える形で頷いた。ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)も凍星の鱗から作ったナイフを握り、思いを強めた。
 進む先、弾けた波飛沫が髪を濡らしたが今は構うことはない。
 須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)は冷たい水にも慣れてきたと感じ、ふっと息を吐いた。
「こんなに長く泳ぐの、初めてかも。けれど、今は魚を見てる暇もないね」
 そうして、水中を進むこと暫く。
「あれは……海竜?」
 祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)が双眸を細め、見据えた先には影が見えた。他の班の仲間もそれが迎撃に来たドラゴンだと気付き、戦闘準備を整える。
 敵の数は三体。
 しかし、うち一体は船で乗り込もうとしていた班の方へと向かったようだ。水中スクーター組に迫り来る二体の海竜は侵入者を阻もうと吼えた。
 しかし、鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)は慌てずに仲間達に確認の言葉を向ける。
「他の竜との戦闘は可能な限り回避だったよね」
「うん、城ケ島東岸を目指そう」
 マサムネが答え、進路をそちら側に向けた。そして、輪夏やイリア、サーシャをはじめとした仲間達は、戦いの準備を整える他班の者達の後ろ側を擦り抜けた。
 この場の戦闘を回避したことで結果的に抜け駆け状態となってしまったが、彼らが目指すのは海竜との戦いではない。
「何処に居るのでしょう……凍星の竜は――」
 ユイは無意識にその名を呼びながら、仲間と共に陸地を目指した。

●邂逅
 海竜との戦闘を避けた仲間達は、単独班で上陸を果たした。
 隠密気流を纏った百舌鳥とユイを先頭にして進む仲間達が向かうのは城ヶ島公園だ。細心の注意を払って物陰を進み、サーシャはドラゴンの気配がないを探る。
 サーシャは海竜と戦う他班の仲間達の身を案じていた。
「大丈夫かな……。ううん、仲間ためにも自分にできることをやらなきゃね!」
 心配だけでは力になれないと思い直したサーシャは首を振った。静葉は彼女の言葉を聞き、励ましと余裕を見せた思いを口にする。
「なあに、大した事ないさ」
 ミミックのシカクケイも蓋をかたかたと鳴らし、主人の思いに同意を示していた。
 無論、静葉はデウスエクスとケルベロスとの力量差があることをしっかり認識している。しかし、そのうえで案じすぎないことが彼女のポリシーだ。
 マサムネは息を潜めて道の先を見据え、輪夏も大きな足音を立てぬよう心掛ける。進む度に空気は張り詰め、四方八方からプレッシャーが押し寄せてくるかのよう。
「凍星の竜か。会った事はないが噂は聞いている。どんな奴だろうとケルベロスの闘志までは凍らせる事はできねぇ」
 シズクは警戒を強める中で思いを巡らせ、自らも最優先目的とする凍星の竜を撃破したいと願った。百舌鳥は同じ思いを抱いてくれている仲間を有難く感じ、胸を衝くような緊張を解きほぐしてゆく。
(「再び相見えることを願って……」)
 そっと抱いた思いは言葉にせず、百舌鳥は皆と共に公園を目指した。
 その最中、ユイは周囲を注意深く見回している。もし途中でドラゴンを見ることがあれば種類、数、強さを重要情報として記録していこう。そう思っていたのだが――。
「あまり……いえ、全くドラゴンを見かけませんね」
 港の東側から上陸して暫く、遠くに気配は感じていてもドラゴンそのものとは出会っていない。戦いにはならずに済んでいるが情報は得られていない。イリアは嫌な予感を感じながらも冷静な言葉を紡ぐ。
「目標は撃破よ。とはいえ、全員で戻ることも重要ね」
 逸って引き際を誤ってしまうのは絶対に駄目だ。イリアは妙な胸騒ぎを押し込め、進む先に見えて来た城ヶ島公園を示した。
 マサムネがこのまま公園内を窺おうと歩を進めた瞬間、サーシャが息を飲む。
「待って……!」
 声を殺して仲間を呼んだサーシャは震えそうになる指先で公園を指差した。
「何、あの数……」
 とっさに茂みに身を隠した輪夏も言葉を失い、目の前に広がる光景を再確認する。
 ケルベロス達の瞳に映ったもの。
 それは――数え切れぬ程のドラゴンの姿だった。
 シズクと静葉は息を殺し、このまま近付くのはまずいだろうと判断する。見つけた敵が数体だった場合は陽動を行うと決めていた。だが、この数は予想外だ。
「この数を引き付けるとなると死人が出るぜ」
「致し方ないね。隙を見て離れようか」
 シズクが小声で話し、静葉が皆に公園傍から離脱を促す。この時の彼女達は気付くことが出来なかったが、城ヶ島公園は数多の竜が集まる『ドラゴンの巣』と化していたのだ。
 たとえ暴走したとしても単独班で複数との戦いは無謀であり、確実に死が待っている。
 百舌鳥達は撤退の判断を下し、この場を離れようと茂みから出た。
 幸いにもこちらの存在はまだ気付かれていない。だが、そのとき――氷の翼を持つドラゴンがケルベロス達の方を向いた。
「凍星の竜……見つけた……!」
 百舌鳥は一瞬だけ自分の目を疑ったが、すぐに確信する。間違いない、かの黒躯の竜こそがあのときに戦って敗れた相手だ。思わずイリアも宝瓶宮が刻まれた剣と天秤宮の短剣を握り締めた。されど、この場で戦うのは自殺行為だ。
 だが、次の瞬間。凍星の竜がケルベロス達から滲む戦意に気付いて翼を広げた。
 どうすべきかと考えたユイは思う。もしかしたら、凍星の竜も無意識のうちに自分達を待っていたのかもしれない、と。
 そして、状況を察したイリアは即座に仲間達へと呼び掛けた。
「このまま凍星の竜だけを引き付けて公園を離れるわよ」
 他の竜ならばやり過ごせたかもしれない。だが、相手は目標としていた竜だった。それが幸運なのか不幸だったのか。今は誰にも分からない。
 そして、公園に背を向けたケルベロス達は頷き合い、一気に駆け出した。

●戦う為に
 ここまで至るにあたってドラゴンの姿は見かけなかった。
 ならばそれを利用してやろうと考え、仲間達は元来た道を駆け抜けてゆく。背後には翼をはためかせて追いかけて来る凍星の竜。引きつけようと逃げるケルベロスに対し、ドラゴンは氷のブレスを吐いた。
「わっ! この攻撃、すごいよ……!」
 背後からまともに攻撃を受けてしまったサーシャは身体が凍りつくような感覚に震える。しかし、ここで立ち止まってはいけないことも知っていた。
 まだ公園は近く、こちらから攻撃を仕掛ければ標的以外の敵が音を聞きつけてしまう。元より敵を障害物の無い場所へ誘うと決めていたシズクは先陣を切って駆けてゆく。
「ドラゴンのお手並み拝見ってところだな」
 シズクは先程通った道の先を指差した。上陸してすぐの場所にあった開けた地ならば、一体との戦いに集中できるはず。
 その際、マサムネはサーシャを癒すべきかと考えた。だが、引き付ける為とはいえ逃走の最中では十分な回復はできない。
「ごめん、もう少し我慢して欲しい!」
「ああ、今は辛抱の時だね」
 逃げる間にもブレスが静葉を襲ったが、彼女はペインキラーで痛みを誤魔化す。ユイはこの場で戦いたい衝動を抑え、輪夏も掌を強く握って耐えた。
 追ってくる敵からほぼ一方的に攻撃されている状態だが、二体以上に囲まれるよりはマシだとイリアは感じていた。
 駆け抜ける最中、凍星の竜はこちらを一人ずつ狙って氷の吐息をぶつけてくる。蓄積する氷の衝撃はおそらく戦いの際に不利を引き起こすだろう。しかし、百舌鳥はそれすら覚悟して挑もうと心に決める。
 迫り来るブレスを受け、傷付きながらも必死で引き付けて駆けた先、目的の場所が見えて来た。ここまで来れば公園に居たドラゴン達が駆け付けて来ることはないだろう。
「着いたぜ、やっと相手をしてやれるな!」
 シズクが急停止し、追ってくる凍星の竜へと向き直る。百舌鳥も乱れそうになる呼吸を抑え、仲間に注意を呼びかけた。
「皆……気を付けて……」
 皆が皆、ドラゴンからのブレスを受けて疲弊している。その攻撃は激しく、ほぼ全員が体力の半分近くを削られていた。
「流石はドラゴンだね。こんなにもやられるなんて……けれど、頑張らなきゃ!」
 サーシャは気力を振り絞り、喰らった魂を己に憑依させて禍々しい呪紋をその身に宿す。形勢は不利としか言えないが、マサムネも味方を鼓舞する力強いメロディを奏でた。
「負けはしない……みんなを守ってみせるよ!」
 季節の灯が仲間を癒す中、静葉も浮遊する光の盾を具現化して防護の力を施す。
 その間にシカクケイが皆を守るように布陣し、敵に噛みついていった。更に輪夏が影法師を発動させ、凍星の影を切り裂いてゆく。
「あなたの影、ちょっともらう、ね」
 輪夏の斬撃が敵を引き付ける様を見つめ、イリアは手にした星座の刃で守護の力を発現させる。そこへユイが紡ぐ透き通った歌声が響き渡った。
「めくるめく 世界は廻る 永久に♪」
 きっと再び凍星と出会うことが出来たのもめくるめく縁の思し召しだとユイは感じる。
 だが、巡った運命は実に厳しいものだった。

●幕引き
 引き付ける際に受けた氷の衝撃は癒しを行った今でも重く響いていた。
 体力が完全に回復できぬまま百舌鳥に竜の爪が迫る。そして――百舌鳥が痛みを覚悟した瞬間、咄嗟に飛び出したサーシャが一閃を肩代わりした。
「……っ! ごめんね、最後まで守りたかったけど……もう立っていられない、みたい」
 予想以上の衝撃に貫かれ、サーシャはその場に倒れる。
「やりやがったな、テメェ!」
 シズクは伏した仲間を庇う形で布陣し直し、不退転の覚悟で斬霊の一閃を放った。
 敵が大きく鳴いて痛みを訴える。しかし、それもただ一瞬のこと。
 マサムネと静葉が更なる癒しを向け、仲間を支えているがやはりそれだけでは間に合わない。イリアも福音書の一節を歌い上げることで自らを癒したが、防戦一方になってしまっている現状は否めなかった。
 そうして攻防は巡り、次に倒れたのは静葉を庇ったシカクケイと、シズクだった。
「シカクケイ! シズクも大丈夫かい?」
「すまねぇ……後は、頼んだ……」
 静葉が呼び掛けるが、シズクは戦う力を失って倒れ伏す。百舌鳥は唇を噛み締めながら錫杖を掲げ、敵へと雷を迸らせていった。
 竜にも痛みや衝撃を与えられていたが、それ以上にこちらのダメージが大きい。
「嫌な予感はこれだったのね……こんな、ことって……」
 やがて、唯一の前衛となったイリアも凍星の尻尾撃に穿たれ、膝をついた。
 戦線は崩壊し、癒し手の二人は回復に徹するほかない。輪夏と百舌鳥は攻撃を続けたが、既に危うい状況だ。
 次をどうすべきか考える暇もなく、攻撃は歌を紡ぎ続けるユイにも迫っていた。
「駄目です、避けきれません……!」
 氷のブレスがユイを貫き、その身体が地面に伏した。これで倒れた者は四人となり、輪夏はある条件を思い出す。
「もう、撤退するしか、ないのかな」
「……そうかもしれない」
 輪夏の呟きにマサムネが答え、悔しさを押し込めた。
 事前に決めていた撤退条件は、サーヴァントを除く半数が戦闘不能になったとき。敵の体力が一割未満ならば戦闘継続も考えていたのだが、凍星の竜はまだ三割ほど余力を残しているように思えた。
 撤退条件は完璧に満たしている。ただ、果たしてこの状態で逃げ切れるだろうか。
 暴走を覚悟していたのは倒れたイリアを含めて輪夏とマサムネの三人。その条件はいずれも仲間に死の危機が訪れた時のみなので、暴走を選ぶには未だ早い。しかし、万が一も有り得るだろう。
 彼女達の脳裏に走の文字が浮かんだ、その瞬間――。
『グルアァアアア……!』
 城ヶ島公園の方から別の竜の咆哮が聞こえ、それに反応した凍星が振り向いた。
「今だ、撤退するよ!」
 その隙を察した静葉が苦渋の判断を下し、頷いた仲間達は戦闘不能者を背負って駆け出す。マサムネがシズクを、輪夏がサーシャを、百舌鳥がユイを、静葉がイリアの補助を担当し、今ならば暴走せずに逃げられると確信した。
 おそらく、あの咆哮は他のドラゴンからの連絡だったのだろう。
 ちらりとケルベロス達を見遣った凍星は暫しその後ろ姿を見つめていたが、やがて公園の方角へ飛び立っていった。
 そして、仲間達は命からがら城ヶ島からの脱出を果たす。
 ――その結果は、敗走。
 サーシャにイリア、シズク、ユイ、シカクケイ。安全な場所まで逃げて来た今も、倒れた者の意識は戻っていない。
 情報は得られず、ドラゴンの陽動も出来ず、敵を倒すことも叶わなかった。単独班で敵の巣窟である公園に向かってしまったことがこの状況を招いた原因だろう。
「もし公園に行くまでに他の班と協力していたら……」
 また、撤退条件を振り切って戦い続けていた場合もぎりぎりで凍星の竜を倒せたかもしれない。マサムネがもしもの可能性を示唆すると、静葉がその言葉を止める。
「やめな、もう終わったことさ」
 シャーマンズカードを指で挟んで振った静葉はゆっくりと息を吐いた。輪夏も傷付いた皆を労わり、仲間を介抱していく。
「勇敢に戦ってくれて、ありがとう。今はわたしが、皆を守るからね」
 潜入が失敗した代わりに皆の命だけは助かった。今はきっと、それだけでいい。
 何故なら、一歩間違えば全員の死もありえたのだから。
 そして――仲間達は後ほど、公園方面に戻った凍星の竜が他の仲間によって討ち倒されたという報を聞くことになる。
「…………」
 百舌鳥は竜の巣となった城ヶ島半島を無言で見据え、受けた傷の痛みを思い返す。
 因縁が断ち切られたことが果たして良かったのか、悪かったのか。その答えはおそらく、命を賭して戦った者達の心の中に在る。

作者:犬塚ひなこ 重傷:イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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