汝ら、死をもたらす者となれ

作者:一条もえる

「あぁ、ひどい雨だねぇ……」
 なんと雨の多い年だろう。今日もまた、一日中雨が降り続いた。その雨はやむどころか、夕刻にいたってさらに激しさを増したようである。
 額の水滴を拭った女は、嫌でも人目を引く姿をしている。大きな一つ目が描かれた布で、自らの両目を覆っていたのだ。
 葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)である。
 今日、彼女はたまたま『上客』に納品する機会があって、山間の小さな町を訪れていた。
 商売は上々。引き止められているうち、ついついこんな時間になってしまった。
 道沿いの川はみるみる水量を増し、土色の濁流がドウドウと音を立てている。そんな天気だから、辺りには人通りもない。
 氾濫の恐れがあるらしい。近くの学校への避難を呼びかける役場の車が、咲耶の面相にギョッとしながらも、注意を促して傍らを走り抜けていく。
「キヒヒ♪ 怖い怖い、さっさと引き上げないとねぇ」
 突然、強い風が吹き、咲耶は思わず顔を背けた。
 その視界の端に通り過ぎた、何か。
 咲耶は顔をしかめ、その後を追って駆けだした。
 追うことしばし。ソレは、橋の上で咲耶を待ちかまえていた。
「待っててくれたのかなぁ?」
 誘い出されたか。いくぶん焦りを覚えながらも、咲耶は戯言を口にする。
 すると、蒼衣を纏い薄暗い街灯に照らされた異形のモノ……ビルシャナは目を閉じて、自らの前で拝むように手を合わせた。
「……この世は苦界である」
「うん?」
「デウスエクスは不死なるが故に、終焉なき戦いに身をおかねばならぬ。それはまさしく、地獄である。
 しかしながら、汝らケルベロスよ。
 汝らは唯一、この終焉なき地獄において死をもたらす者……あぁ、なんと素晴らしい」
 咲耶に対し、ビルシャナは陶酔したような、崇拝するような、狂信的な目を向けてきた。気味の悪さに、思わず半歩退く。
 そのビルシャナが、突如として目つきを改めて咲耶を睨みつけてきた。
「何故、殺さぬ」
「は?」
「汝らは何故、デウスエクスさえも受け入れようとする? 何故殺して、安らぎの眠りを与えてやらぬ!」
 憤怒の形相を浮かべ、ビルシャナは跳んだ。
「己の力を忘れた迷える者よ、愚かなる者よ。我が代わって、死の安寧に導いてしんぜよう!」
「く……!」
 孔雀の形をした炎が、次々と襲い掛かる。かろうじて身を翻した咲耶。橋の欄干が、すさまじい高温で飴のように溶けてねじれた。

「ちょっとみんな、大変なのよ! 咲耶ちゃんが、デウスエクスに狙われてるみたいなの」
 崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)が慌てた様子で、姿を見せたケルベロスたちの方を振り向いた。
 その前には、ぐらぐらと煮えたぎる大鍋。ザルを使って一気に、中身をすくい上げる。
 それは大量の団子であった。熱いままのそれをひょいッと、ひとつ摘まんで口に運ぶ。
「もぐもぐ……。
 咲耶ちゃん、仕事とかなんとかで、山奥の町に行ってるみたいなの。
 もちろん連絡しようとしてみたんだけど、繋がらない。山の中で電波が悪いのかもしれないけど……。
 とにかく、襲撃まで時間がないのは間違いないわ。急いで向かって、助けてあげましょ!」
 もしかすると、敵に誘い出されてしまったのかもしれない。咲耶とてむざむざやられはしないだろうが、ひとりでデウスエクスと戦うのは無謀にすぎる。
 冷水にさらした団子の水気を切り、凛はいくつかのバットに分けていった。
 そのひとつには、きな粉。
 たっぷりとまぶしながら、その途中でひょいひょいッとつまみあげる。
「もぐもぐ……。
 敵の名前は、迦楼羅縁涅槃導手(カルラエン・ニールヴァナ)。
 もともとがデウスエクスでも、力を貸してくれるのなら一緒に戦いたい……仲良くなれるならそれに越したことはないんだけど、敵はそういうのは許せないみたいね」
 もちろん、そんな主義主張に聞く耳を持つ必要はない。万が一にも幻惑されないよう、気を配るべきである。
 咲耶が襲われるのは、橋の上のようだ。折しも悪天候で、川は増水している。転落すれば……ケルベロスだから死にはしないが、苦しいものは苦しい。なにより、その勢いでかなり下流まで流されてしまうだろう。
 もし橋が崩落すれば、それが水をせき止める恐れもある。

「さぁ、腹ごしらえしたら出発よ」
 凛は笑って、みたらし餡を絡めた団子をひょいひょいひょいッと口に運んでいった。
 その前には、きな粉、みたらし、そして餡子がまぶされた団子がそれぞれ、山と積まれていた。


参加者
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
西・小夜子(ミッドナイトデイライト・e36737)
アズミ・サンタマリア(一日千歩・e37177)
浅葱・マダラ(光放つ蝶の騎士・e37965)
星・龍飛(隻眼の蛇竜・e43434)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)

■リプレイ

●死をもたらす力
 ヘリオンは現場にほど近い畑に降下した。
「うへ。雨の中とか、マジやってられないし」
 激しい雨のせいで地面は泥濘となっており、ヘリオンは低空でホバリングした。西・小夜子(ミッドナイトデイライト・e36737)は愚痴をこぼしながらも、躊躇することなく飛び出して泥を跳ね上げた。
「葛之葉のねーさんの宿敵だって? どんな奴か知らないけど……」
「おねーさんを虐めようとするんなら、うちらが相手になるわ!」
 浅葱・マダラ(光放つ蝶の騎士・e37965)とアズミ・サンタマリア(一日千歩・e37177)も駆け出す。この川沿いの道を進んでいけばいいはずだ。一歩踏み出すごとに、足下の水が大きく跳ねた。
 激しく降る雨の音、それ以上に怒濤の勢いで流れる川の音で、隣にいる者と話すときさえ、声を張り上げないと聞こえない。
 そんな中では、写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)の呟きなど誰の耳にも届かない。
「死を教義とするビルシャナ……もしかすると……いや、違うか」
 彼女もまた、宿敵を抱える身である。
 声は聞こえずとも、その深刻な面もちはウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)の目に入った。
 いつもは微笑みを絶やさないウォーグではあるが、さすがに表情は曇っている。
「死が、安らぎだなんて」
「なに言ってんだコイツ、って感じっすよね。そんなのに狙われるなんて、葛之葉さんも災難っす」
 カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)にとっては恩人だという。しかし、この少年はそんなことは関係なく、
「助けるのなんて、当然」
 その心情が形になったように、カーラは真っ直ぐに前を見て走る。
「咲耶……!」
 星・龍飛(隻眼の蛇竜・e43434)は駆けつつ、奥歯を噛みしめた。
 道に並ぶ薄暗い街灯が彼らを照らすが、その、なんと頼りないことか。この道はまるで、闇の中へと続いているかのようである。
 あれは……!
 ちらちらと明滅する街灯に照らし出された、橋の上。対峙するふたつの人影。
「己の力を忘れた迷える者よ、愚かなる者よ。我が代わって、死の安寧に導いてしんぜよう!」
 その瞬間、ビルシャナの姿は数倍の大きさに膨れ上がったように、葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)には見えた。
 次々と襲い来る、炎の孔雀。
「く……!」
 反射的に身を翻したのは、さすがケルベロスの本能と言うべきだが。橋の欄干が凄まじい高温に歪んで、溶け落ちる。
 喉まで駆け上がってきた悲鳴を、咲耶はかろうじて飲み込んだ。しかし、顔の上半分を覆う布に手を当てて、へたりこんでしまう。
 この炎が! この炎が、みんなを、アタイの顔を……!
 このままではいけない。しかし、全身の震えが止まらない。
「そう、怯えずともよい。死は汝にも安らぎを与えてくれる……」
 ビルシャナは気味の悪い薄笑いを浮かべたが……。
「そんなわけ、あるかぁッ!」
 バスターライフルから放たれた閃光が、それを遮った。
「勝手なこと、言ってんじゃねぇ!」
 雨に打たれて蒸気をあげるライフルを抱えたまま、カーラが怒鳴る。
「葛之葉のおねーさんは、俺が困ってるとき、力になってくれたんだ。今度はこっちが助ける番だよねッ!
 行こう、アズミねーさん!」
「いいこと言うね、マダラ君。
 覚悟しとき、容赦はせぇへんからな!」
 跳躍したアズミは、美しい虹を纏いつつ蹴りを放つ。
 マダラは、体内を巡る地獄を放出した。それは無数の蝶となって敵にまとわりついていく。
「ほらほら、こっちだよ……!」
 まとわりついた蝶が、次々と炸裂する。
「ぬおッ!
 ……おのれ、度し難い衆生どもめ」
 アズミとマダラ、両者の攻撃を受けたビルシャナの目が怒りで濁る。
「この炎は、浄化の炎!」
 再び放たれた炎の孔雀が、マダラと、そして咲耶へと襲いかかっていく。
 マダラは直撃こそ避けたが、それでも灼熱が肌を焼いた。そして、欄干にもたれ掛かったままの咲耶は……。
「伏せてくださいッ!」
 龍飛が、その前に立ちはだかった。攻性植物を伸ばして払いのけるが、防ぎきれなかった炎がその身を焼く。
「龍飛ちゃんッ!」
「見過ごすわけには、いきませんからね」
 ここで、彼女の苦しみの根源を絶たねばならない。ビルシャナを睨みつけ、
「お前はこの人からいろいろなものを奪ったが……これ以上は、何も奪わせない!」
 痛みに耐えながら、爆破スイッチを押す。
 しかし敵は爆発をものともせず、再び襲いかかってこようとした。
「奪え、命を!」
「そんなこと、させないよぉ!」
 声を上げたのは、立ち上がった咲耶だった。
「アタイの前で……もう悲劇は起こさせないからッ!」
 これぞ、秘符中の秘符。氷のような薄い霊気が仲間たちを覆っていく。
 震えている場合ではない。駆けつけてくれた仲間たち。大切な人の前で、情けない姿なんて見せられない!
「なぜ苦しもうとする。愚かなことだ!」
「価値観押しつけてきて『愚か』とか、まじウザいし!」
 顔をしかめた小夜子は刀を抜き、
「あたしら、殺すために戦ってるんじゃないっつーの!」
 雷の霊力を込めた突きを繰り出した。刃が法衣を切り裂くが、傷は浅い。
「……永遠の戦いから免れる方法は、死だけではありません。あなたはそれを……いえ、そちらはあえて、見ないようにしているだけなのでしょうね、きっと」
「だろうねー。頭のカタいビルシャナには、いろんな自由があるってことがわかんないだろうけど」
 努めて穏やかな表情を浮かべているが、きっと不機嫌なのである。ウォーグは眉を寄せて深々とため息をついた。在宅聖生救世主の方は、軽い口調で肩をすくめる。
 しかしながら、ふたりともこの敵を葬らんとしているところは同じ。
 大斧を振り上げて跳躍し、左右から挟み込むように叩きつけた。
「ぐおッ!」
 刃は深々とビルシャナの両肩に食い込み、おびただしい血が吹き出した。しかしそれも、瞬く間に雨が洗い流していく。
「ふははは! さすがよ、ケルベロス」
 ビルシャナは自らの傷口を眺めて、陶酔した表情を浮かべて笑う。
「なぜ、この力ですべてのデウスエクスを滅ぼさぬのだ!」
 眩い光によって傷を癒し、ビルシャナは再び立ち向かってきた。

●止まない雨はなく
 炎が再びケルベロスたちを襲う。避けたら避けたで、炎はアスファルトを炙って溶かしていく。
「く……」
 ウォーグは顔をしかめつつも、
「ノブレス・トレーズが一騎、山吹のウォーグ! 参るッ!」
 大槌を振り回し、敵めがけて叩きつけた。しかし敵は、
「無駄よッ!」
 と、嘲笑してそれを避ける。狙いを見失った大槌は橋に叩きつけられ、橋全体を大きく揺らした。
「ヤバ。このまま戦ってたら、橋、壊れちゃうんじゃない?」
「西先輩! うちが引きつけるから、いまのうちに……!」
 アズミが小夜子に声をかけつつ、一気に敵前に飛び込んだ。
「ひとりじゃまずいって。西も仲間に入れてよ」
 鋭い鉄爪がビルシャナの胸を裂く。続いて小夜子の刀が弧を描きつつ襲いかかったが、両者とも浅い。
 ビルシャナは身を翻し、掠めただけで終わる。
「この程度とは!」
「やばい!」
 ビルシャナの炎が襲うかと思われたとき、カーラのバスターライフルが再び吠えた。光線が命中した肩口は瞬く間に凍り付き、その隙にケルベロスたちは、敵との距離をとった。
「しゃふ……なんとかさん!」
「しゃふればる、だよ。私に任せて」
 苦笑しつつマダラをたしなめ、在宅聖生救世主は翼を広げて地面を蹴る。大きな雨粒が羽を打つが、
「雨の日に傘もささず飛ぶオラトリオがいてもいい……自由ってそういうことなんだよ~」
 退きつつ、戦いによって破壊された橋を修復していく。
「……実のところ、飛ぶのは苦手なんですがね。そんなこと言ってる場合じゃありませんか!」
 咲耶の危機を救い、多少はゆとりが出てきたのか。龍飛はいつもの口振りにもどって苦笑いを浮かべた。
 傷の痛みにも耐えつつ、咲耶を抱えたまま飛ぶ。
「待てぃ!」
 ビルシャナは追おうとするが、
「引っ込んでてよぉ!」
 咲耶のブラックスライムが大きく顎を開いて、敵を飲み込んだ。
 その隙を逃さず、マダラの如意棒が鋭く敵を打った。
「葛之葉のねーさん、いつもの調子が出てきたね」
 その笑顔は、天使のようである。
「おのれ……」
 傷が痛むのか。ビルシャナは脇腹を押さえたまま、岸へと逃げ込んだケルベロスたちを追ってきた。
 見開かれた目が炯々と、ケルベロスたちを射る。
「ケルベロスよ、偉大なる者よ。己の使命を思い出すがいい。汝らこそ、デウスエクスを滅ぼす唯一の存在。
 汝ら、死をもたらす者となれ……!」
 濁流の轟音を切り裂いて響いてくる不可思議な経文は、ケルベロスたちの脳に直接響いてきた。
「なに、これ……」
「く……」
 小夜子と龍飛の意識に靄がかかる。
「冗談じゃない……!」
 小夜子は歯ぎしりして刀を構え、眼前のデウスエクスに斬りかかった。
 その刀を、受け止めたのはウォーグだった。
 滅ぼせ、汝の敵を滅ぼせ。彼女の脳裏にも、声はわんわんと響く。それに抵抗するのは、容易ではない。
 肩に食い込む刃を押し返して、
「落ち着いて!」
 と、叫んだ。
 小夜子は頭を振りながら、
「ごめん。……このままじゃ、終わらせないから。こんなんじゃ、今まで鍛えてきた意味、ないし」
 一方で、
「……すまない」
「大丈夫だよぉ」
 攻性植物に絡みつかれながらも、咲耶は笑う。吹き抜けた癒しの風が、龍飛たちの心を癒していった。
「厄介だねー、これ」
 生きることの罪を肯定する歌が、在宅聖生救世主の口からこぼれ出る。その歌声も、仲間たちを癒す。
「汝らが心置きなく戦えるよう、真実を教えてやったまで」
「何が真実だよ!」
 憤ったマダラは泥水を跳ね上げながら駆けて、ビルシャナの肩をつかんだ。凄まじい怪力で、その肉を引き裂く。
「……渦巻け、焔」
 敵がのたうつところに、アズミが放った手裏剣が炎を纏って、螺旋の弧を描いて襲いかかった。
「ぐおおおおッ!」
「さすがニンジャ、すげー」
「おおきに」
 しかしビルシャナは、血を流し炎に巻かれながらも、いまだ倒れる気配はない。またしても経文を唱えて、ケルベロスたちの心を乱す。
 今度はマダラが、続いてアズミまでもが頭を抱えてよろめいた。
「本当にもぉ、鬱陶しい!」
 在宅聖生救世主が苛立って、髪をかきむしった。
「そんな屁理屈、聞いてられるかぁッ!」
 彼女は何度でも歌い、仲間たちを立ち直らせていく。在宅聖生救世主だけではなく他の面々も、それぞれが催眠を受けた仲間を助けた。その際に心を守護する力も付与されていくのだが、敵の経文はそうであってさえ、脅威だった。
「さぁ、ケルベロスたち! 殺せ、すべてを殺すのだ!」
「うるせーッ!」
 怒鳴ったのは、カーラだった。雄叫びを上げ、自らを苛む靄を打ち払う。
「お前に言われて、洗脳されて、それで戦うなんて! そんな理由じゃなく! 何が正しいかなんかじゃなく!
 俺たちは……俺たちが守りたいものを守るために、戦うッ!」
「よい言葉ですね、カーラさん」
 ウォーグは微笑んで、大斧を構える。
「もはや問答など不要。それほど死を望むのなら、あなたの教義通り……『死』を与えましょう!」
 ビルシャナは立て続けに炎を撃ち込んできたが、ウォーグのボクスドラゴン『メルゥガ』が割って入り、それを受け止めた。自身は炎に巻かれてもんどりうったが、主が飛び込む隙は、十分に作った。
 振り下ろされた大斧が、ビルシャナの肩を深々と割る。右腕がだらりと、力なく垂れ下がった。
「俺を忘れるなよ! 穿け、刻め、弾丸!」
 カーラのライフルから放たれた弾丸は、ビルシャナに達するやジグザグの刃となって敵を内部から切り刻んでいく。
「ぐ、ぐぐ……!」
「チャンスだし。お返しだよ! 根性見せるよ、みけ!」
 小夜子のライドキャリバー『みけ』が、激しいスピンでビルシャナを下敷きにした。小夜子自身は、体内で練り上げた炎を刀に吹き付ける。
「降参するなら、今のうちだけど!」
 烈火の刃が、敵を灼いた。
「いまさら言うたところで、絶対に許さへんけど!」
 アズミの爪が襲いかかったところに、
「死が救い? くだらねー、お前ひとりで消えとけよ!」
 如意棒が突きこまれた。マダラが吐き捨てる。
「おぉ、消えよう。しかしそれは、己の分を忘れたケルベロスとともに、よ!」
 ビルシャナはなおも孔雀の炎を無数に放ってきたのだが、その炎は、ケルベロスたちを燃え上がらせるには至らない。
「いつまでも、そんなのが効くなんて思わないでよね」
 炎を払いながら、在宅聖生救世主は進む。手にする大斧が、光り輝く呪力を伴ってビルシャナに叩きつけられた。ズタズタに裂かれ、真っ赤に染まる法衣。
「わからぬ奴らめ……!」
 敵はケルベロスたちを睨みつけ、そして、大きく跳び下がろうとした。
 しかし。
 その足に、攻性植物が絡みつく。龍飛が放ったものだ。
「なに……!」
「逃がしはしません。
 ……いいか、覚えておけ。二度と手を出そうなんて思うな。咲耶はもう、俺の所有物だからな」
「なにを、寝言を……」
 ビルシャナの背後に、護符から生み出された槍騎兵が立つ。その槍は宿敵カルラエン・ニールヴァナを田楽刺しにして、高々と頭上に掲げた。
「おぉ……これぞ、死をもたらす素晴らしい……」
 それが、最期の言葉だった。

「ビルシャナといえば奇妙な教義を持つものですが……」
 今日の相手は、最悪と言ってもよかった。それでもウォーグは、微笑みを浮かべる。
「よかったよ、葛之葉さんが無事で」
 そう、カーラの言葉通り。仲間を救い、宿敵を倒すことができたのだ。
「龍飛ちゃん、アタイ……アタイ、動けたよぉ! みんなを守れたよぉ!」
 その咲耶は感極まって、龍飛の胸に飛び込んだ。嗚咽が肩を震わせる。
「あぁ……よくやった」
 龍飛はしっかりとその身体を抱き留め、頭を撫でてやった。
 その様子を、ほかの連中は橋の修復に忙しいというフリをして、しっかりと見ていた。
「うわ、葛之葉おねーさん大胆やなぁ」
「もしかして……あのヒトが咲耶チャンの?」
 アズミと小夜子とが、いかにも年頃の女の子らしくヒソヒソ話をしては、「きゃー」と声を上げる。
「ヒュー♪ 知らなかったな」
 マダラが、口笛を吹いた。
「少し冷えてきちゃったよ。そこの熱いおふたりさんも、はやく雨を防げる暖かいところに移動しよう?」
 在宅聖生救世主がくしゃみをして、手招きする。さすがにふたりも、照れくさそうに笑った。
 雨はもうすぐ、上がりそうだ。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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