マジカル☆コットンキャンディー

作者:皆川皐月

 かちかち、細い金属のぶつかる音。
 重なり合う不法投棄物と家電の隙間を、紅玉を腹に抱いた蜘蛛が行く。
 壊れた電子人形。ロボットの犬猫の瞳はただの硝子玉のようにどこも見ない。
 子供向けのクレープメーカーの箱はここの暮らしが長いのか、雨で染みだらけ。
 しかし小さな機械蜘蛛は頭部を右へ左へ、何の感慨も無く歩み。
 ふと、立ち止まる。
 蜘蛛にとって見上げる程大きな機械上部に透明な筒状カバーが印刷された一点。
 女児を意識した可愛らしい、“魔法のコットンキャンディー☆”のロゴ輝く箱。
 たっぷり見つめて十秒。
 素早く飛びつくや箱の中へと身を押し込んで暫し。
『ふっわぁ』
 カシャンカシャン。
 何か組み替えるような音が響いた後、聞こえたのは幼い子供のような声。
『ふ、  わっふわだヨぉ』
 カシャカシャ、ギシリ。
 引き連れて集めて一緒になって、出来上がったのは――。
『マほうのフわっふワ、しちゃおー!』

 まるで少女の様な、わたあめメーカー。
●ふわふわの逆襲
 最近流行りのレインボー。
 山のように大きな三角に、棒無しで洒落た袋入りの“食べられる雲”も。
 見れば見るほど魅力的。たかが砂糖。されど砂糖。ああ、なんて奥深い事だろう――。
「わたあめワールドです……!」
「わたあめワールドですね……!」
 にやにやとにやける漣白・潤(滄海のヘリオライダー・en0270)と烏麦・遊行(花喰らう暁竜・e00709)の竜尾がゆらゆら。
 集まった面々が、祭りの話しか?と首を傾げれば、お茶を並べたドルデンザ・ガラリエグス(拳盤・en0290)が机上の資料をこっそりと指差し。
 “不法投棄家電のダモクレス化発生”、の一文。
 なるほどと皆々察したところで、ドルデンザが二人に声を掛ければ揃って伸びた背筋。
 皆さんが居たの知っていましたとも!と言わんばかりの顔で潤が資料を手に取った。
「都内の河川敷に不法投棄されていた綿飴メーカーの、ダモクレス化が発生しました」
「夏休みが終わりましたから……そういう玩具が廃棄される気がしたんです」
 まさか当たるとは――と、肩をすくめる遊行。
 でも尻尾はゆらゆら、好奇心が隠せていない。
「烏麦さんの危惧もあり発見が早く、幸い犠牲は出ていません」
 しかし放置すれば人々を襲うことは間違いなく、数多のグラビティ・チェインが奪取されてしまう。
「皆さんには早急な対応をお願い致します」
 件の綿飴メーカーは周囲の廃材を集め、少女のような形をしている……らしい。
 綿飴メーカーの写真下部に潤が描き足した下手な、たぶん少女っぽい感じの人型から推測するにたぶんそう。
 遊行がチラッとドルデンザを見たら頷いたので、たぶんではなく100%そう。
「綿飴メーカーは少女のような形を取り、頭部のメーカーから綿飴を投げつけてきます」
「えっそれって食べられるってことですね?」
 息をするように問うた遊行の目が純粋な輝きを帯びている。
 が、潤の答えはNO。
「食べると舌というか体が痺れたり、毒が回ったり……あと、その……」
 その綿飴って実は毒キノコじゃない?と誰かが突っ込みたくなった時だった。
 皆々、潤がもそもそ言い淀む感じ首を傾げる中、遊行は覚えがある。
 脳裏を過ぎる夏のワッフル。
 嗅覚だけ刺激されるって辛いんだなと実感した夏。
「香りが……いいんですね?」
「……はい」
 遠い目をした遊行が、きゅっと蛍光ペンで『フレグランスC☆C 理力 遠列 魔法+催眠』に線を引いた。
 予防は大事だと、遊行自身の中の経験が言う。
「あ、あの、えっと、その……辛い戦いになるかもしれませんが」
「ええ、ええ。大丈夫です。大丈夫ですよ」
 目が遠くを見たままの遊行。あわあわとファイルを捲った潤が差し出した一枚の紙。
 カラフルなチラシには“ゆめかわ☆オータムフェア!”の文字。
「あのっ、ここにお花型綿飴のお店が限定出店されているので、ぜひ!ぜひ!」
「わぁ、これはたべられるおはなですね……!」
 少し遊行の瞳に光が戻ったところで、さぁヘリオンへ。


参加者
烏麦・遊行(花喰らう暁竜・e00709)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)

■リプレイ

●マジカル☆
 幼い少女なら大抵は夢に見るであろう、所謂“魔法少女”姿の元わたあめメーカーが可愛くキメポーズ!
『マほうのフわっふワ、しちゃおー!』
「香りもだけれど、美味しそうな綿飴が攻撃手段か……」
「みゃお」
 勿体ないなぁとコットンガールを見つめるのはラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)。
 行き道で烏麦・遊行(花喰らう暁竜・e00709)が、匂いだけって皆さんの想像より結構きますからね!と説いていたものの、いざ甘い香りは目の前にすれば甘党としてはつい。
 そんな主の頬を“だめよ”とウイングキャットのルネッタがぷにぷにの肉球でぺちり。
 いつだって油断は大敵で禁物で、一寸先は香り酔いなのだから。
「大丈夫だよ、ルネッタ。綿飴は後で楽しむって決めているからね」
「……みゃあう」
 ルネッタのジト目も何のその。ラウルがいつも通りルネッタを空へ送り出せば、同じくウイングキャットのネコキャットに笑いかけるマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)と目が合った。
「なぁんか、名前は可愛いけど攻撃方法は可愛くないよねぇ……」
「んにゃ」
 やや遠い目のマサムネにネコキャットが“うん”と添えて。
 同じく頷いたラウルは感慨深げに。
「そうだね、食べたら痺れたり毒とかちょっと惜しい……」
「いやいやいや食べちゃだめだからね!ね!」
「ふふ、知ってるよ」
 ね、ルネッタ。と微笑む主人のお茶目さを知るのは従者と大切な人ばかり……マサムネとネコキャットはというと、見目よりお茶目なラウルが本気なのか冗談なのか迷い、チラチラと窺っている。
 一方、ワンステップごとにポーズを決めつつ迫るコットンガールを霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は冷静な目で見ていた。
「日朝とかに出てきそうですよね」
「でも、甘い匂いだけ……絵に描いた餅の親戚みたいです」
 現実なのに虚構に似た淡い偽りです、と。
 裁一の怪しげな黒装束の裾を握り、齢に反し大人な言葉を零したマロン・ビネガー(六花流転・e17169)が溜息を一つ。
 切なく下がった細い肩を、裁一の手が優しく叩いた。
「マロン、大丈夫ですよ。あの日朝を爆破すれば本物のコットンキャンディはすぐです」
「……うん!」
 優しさ滲む裁一の笑顔に、マロンが嬉しそうに微笑んだ。
 その隣に並び立つ二人は正反対の色。
「KAWAIIはジャスティス!そしてワタシもジャスティスデース!!」
「ふわふわ……綿あめ……むぅ、秋祭りでも使えそうなのにな……」
 向日葵より華やかに、牡丹より大輪の笑顔で見得を切ったオリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)の隣では、逸見・響(未だ沈まずや・e43374)が無表情ながらやや真剣な眼差し。
 そんな二人も気にせず迫るコットンガールはあと少しで射程圏に入る。
 徐々に強くなる甘い香りに、オータムフェアで綿あめ買いたいと呟いた響の後ろ――……にゅるりと竜顔を挟んだのは、この危機を予知した遊行本人。
「お二人とも、やはり俺からアトバイスできるのはただ一つ」
 おかしい。このちょっと乙女チックに空気に抗うシリアスな影が遊行に差している。
 戸惑う二人に小さな溜息とゆっくりと首を振った遊行が、ぽそり。
「戦闘中に嗅覚を刺激されるのはとてもつらい。……では気をつけて行きましょうね!」
「なんだか嫌な予感がしマース……」
「大丈夫だよオリビアさん。……たぶん」
 オリビアも響も揃って前衛。言わずもがな、最も綿飴の脅威にさらされてしまう――が、覚悟の上。
 じっとコットンガールを見つめていたクララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)がハッとする。
「こういうのを作れれば、子供にも好かれて魔女としての株もあげられるかも……?」
 よくよく悪役にされる魔女だって、本当は可愛い物大好きなのだ。
 なんやかんやとワクワク感やらなにやらが廻ったところで、コットンガールが手首部分から割り箸を射出。
『ふわっふワァ!ふっわァとカワいい、 まほおだヨォー!』
 頭部のわたあめメーカーからもくもく立ち昇った黄色綿飴を、箸先で器用に巻き取るやケルベロスへぽい!
 パチンと弾けるキャンディー。本日一番手、稲妻味でございます!

●フワくる☆
『パチッとシチャうヨ!ドキドキきゃンでぃー!』
「うっわあっぶな!」
「わわっ、舌を麻痺させるパチパチ攻撃です!」
 ぱりりと弾けるパチパチキャンディーの綿飴が弾けた瞬間、前衛陣の口内で不思議と淡いレモンの香り。
 突然刺激された味覚と追って迫る痺れにクララが口元を押さえれば、パチパチと三度キャンディーが跳ねまわる。
「うう、やはり危険なわたあめ製造機です……!」
「参ったねとは言ってられないよねぇ。さ、千里眼の如く狙え!」
 痺れを払拭する事はできずとも前衛陣が感じる不思議な感覚は吹き飛ばさんと、マサムネが掻き鳴らすナンバーはAudientis gratias ago!
 男性らしい低い声は力強さ。青いギターの音色がターゲットへの狙い研ぎ澄ますのに合せ、ふんわり舞う白い羽はネコキャットのもの。
「にゃぁん」
「みゃあん」
 合わせる様にルネッタも羽を舞わせれば、まるで白い綿飴の雨のよう。
 美味しそうだね、とラウル的には褒めているつもりの言葉はごくりと飲み込んで。ホルダーから抜き取った愛銃 Luneの輪胴を回し、撃つ。
「――存分に哭け」
 淡い微笑みで引き金を引いたのは一度だけ。
 しかし、小さな流星より素早い弾丸は無数の雨となりコットンガールを追い立てる。
『わ、ワ、ワッフワわたあめー!』
「ああやはり、惜しむらくは声はともかく外見ですか」
 先程溜息をついた娘のためなら、纏わりつく痺れなど何のその。
 踏み込んだ裁一が、ずるりと喰サバ刀を引き抜けばマサムネの曲が狙いを補正したところで、じいっと頭上舞うネコキャットとルネッタのふんわり愛らしい様子に目を奪われていたマロンが裁一の声にハッとした。
 ぺちぺちと自分の頬を叩いて気合いをイン。今すぐ綿飴が味わえないことはとってもとっても惜しいけれど、この後には何と言ったって――。
「本物の為にも、頑張るのです!」
『ワったあめ、つくラナい?』
「マロン達との先約がありますので」
「あとでです!」
 鋭い裁一の一太刀と、星纏うマロンの一蹴がコットンガールを吹き飛ばす。
 重ねるようにクララがステップ。
 踵を三度鳴らし、不慣れさに目を瞑ってジャンプ!その身は天高く軽やかに。
「“不変”のリンドヴァル、参りまっ……やだ!見えちゃう!」
 軽やかな飛翔から放つ急降下の一蹴は柔らかなワンピースを巻き上げるには十分。
 あわあわあたふた。それでも、キッと番犬の矜持で赤い眦吊り上げ、思い切りコットンガールを蹴り飛ばせば、虹の軌跡が散る。
『フ、ァガガガガガ、ピ っだヨ!』
「ああ、もうっ!」
「足元にお気をつけて。大丈夫ですか、クララ」
 黄金を実らせた遊行のブルーデイジーが、蹴った反動でバランスを崩したクララを受け止めた。
 ありがとうございますと照れた魔女へ、どういたしましてと紳士的な微笑みを。
 眩い黄金の輝きは三重に前衛陣を包み込む。
「……これで準備万端です。大丈夫、きっとだいじょう……」
『あまぁいあマァいふっわっフわぁー!ふー!!』
 コットンガールはまだ元気。きゅと手を握りながら遊行は祈る。
 皆が香りに苦しまないように。でもぶっちゃけるなら香りのアレが来ませんように。
「不精に亘る勿かりしか、貴方の名前は分からないが貴方が成した行いは不滅である……」
「DEUS- EXでもKAIJUでもブッタ斬ってやるデース!!」
 遊行の両脇から、駆け抜けた堅牢な氷柱と走り抜ける赤い影。
 超低空をいっそ這うように飛ぶ六花の氷柱は響のもの。
 細い指が描いた氷魔法の魔法陣は六花の現身。吐く息すら真白に変える冬の一端がコットンガールの右足を打ち据えると同時。
「ハァイ、コットンガール!」
 明るい声に反す絶叫の如き駆動音。
 にっこりと笑うオリビアの背には、過去赤錆丸より回収した一対の巨大チェーンソーアームが鎌首擡げ。
「ゆめかわフェスのため、散ってもらいマース!」
 片腕一本、斬り落とす。

 斬り結び打ち合い、時に人造わたあめに巻かれながらもケルベロスが有利に進む。
 パチパチキャンディーの痺れる綿飴に続き、襲い来る紫色は葡萄の香りの毒綿飴。
『みンなー!いーっぱイふっわぁシヨーネー!』
「わわっ、紫の毒わたあめです!」
「アウチ!パチパチしすぎデース!」
 絡めば絡むほど厄介な綿飴。
 攻撃手として猛威を振るう裁一も例に漏れず綿飴塗れ。だが、しかし。
「このしつこいほどの甘さはリア充に同じ……負けてっ、たまるかぁー!!」
「裁一さん、すごいです……!」
 気合一発。裁一渾身の叫びで吹き飛ばす。
 頑張る裁一へマロンから小さな拍手と、コットンガールに釘バーコードリーダーのフルスイングを。しつこい綿飴にはマサムネの歌声で。
「次の曲はブラッドスター。行くよ!」
 爪弾くは生きることの罪を肯定する一曲。力強くも優しく、皆の傷を癒しつつべたつく異常を拭い去る。また、最前線に立つ響からドルデンザ・ガラリエグス(拳盤・en0290)への指示は的確に。
「ドルデンザさん、次はオリビアさんに癒しの拳をお願い」
「心得ました」
 時折綿飴に絡め取られそうになるも、致命傷は無く。
 テンポよく着実に進め、あと一歩。
『ワワふわ、フ、 フふフワ、ワマ ジまじっくー!ふわっふワ、にしチャうねー!』
「……! いけません、来ます!」
 コットンガールの口上と空気感が何となく違うと読み取れたのは遊行だけ。
 ハッと気付いた異常に鼻と口を覆い叫ぶ。
『みんナ、ふわっふワふー!!』
 立ち昇る真っ白な綿飴は瞬く間にマジカルステッキに似た棒へ絡め取られ。
『ふっわふっワ フゥーー!!』
 ふんわりふわふわ、あまぁいかおりの雲が行く。ポンと落ちるは―――……。
「マロン!」
 裁一では盾になりえず、無慈悲に雲がぽっとん。
「みどりのわたあめ、おいひい」
「マロン!マロン落ち着いてください!それ攻性植物ですよ!」
 虚ろな目のマロンは裁一が止めるのも構わず腕に絡まるパンプキンヴァインをもぐもぐ。
 食まれたパンプキンヴァインは焦ったようにうねうね。
 片や。
「ルネッタ、もしかして君はわたあめの妖精……いや、わたあめそのものなんじゃない?」
「みゃぐ」
 ラウルはふわんふわんなルネッタの尻尾を今にも食べそうで、ルネッタの方はと言うと目を輝かせてラウルの頭をもぐもぐ。
 前衛にも散った甘すぎる香りに響が僅かに顔を顰めた時、何となく後ろを見た。
 すれば、しゃがみ込むドルデンザ。と、その手には河原の石が握られていて。不思議に思い声を掛けようとした響はハッとする。もしかして。
「あっ、ちょ、ちょっと待って……!」
「いけまセーン!チェストー!」
 危機一髪。叩き落とされなければドルデンザは石を食べるところだった。
 催眠の所為と知りつつ問質せば。
「いえ、あの……割ったら中から綿飴とか」
「ありえまセーン!」
「うん、無い……いやでも、オータムフェアでそのネタも?」
 テンション高いオリビアのツッコミと頷きつつネタになるかもと密かにメモする響。
 なんというか大変なことになっていた。
 唯一“知ってた”顔の遊行の目は遠く。
「ね。空腹時に良い香りは駄目ですって」
「確かにそれは危険です……」
 辛そうな後衛へクララがステップ。
 降る花の清涼な香りが僅かばかりでも意識を明瞭にする隣、遊行の指先に魔力が集い。
「ですが言ったところで詮無いことですね。決着をつけるとしましょう」
『ア 、アアアッ、あナタもわ タ、あめいーかッがー?』
 ガリガリと遭遇時よりも遥かに雑音が混ざるコットンガールの音声。
 軋む体と、消えぬ炎や足に絡むグラビティ・チェインは、不思議な寂しさを彷彿とさせ。
「綿飴沢山、ご馳走様でした。それでは、」
 おやすみなさい。
 遊行の呼び降ろした紅蓮の竜が、迷える機械を一吹きに溶かす。

●ゆめかわ☆
 ヒールも終えて人心地。
 賑やかなフェスの中、手を繋いで歩く幸せは尊いもの。
 マロンは薄いピンクの桜花の綿飴を手ににこにこ。
 あおは真っ白な野花の綿飴を手に羽をぱたぱた。
「裁一さん、ありがとうございます!綿飴って、こんなにふわふわなのですね……」
「……!」
「マロン、あお、貴女達が喜んでくれるなら、一緒に来た甲斐があります」
 はー誰だよこんな天使を生み出したの、と裁一が天を仰ぐ。同じく微笑んでいたロゼが、店から戻った恋人 アレクセイに尚頬を緩ませる。
「わ、アレクセイは薔薇なの?……私にも一口下さいな」
「喜んで。ロゼ、あーんして?花弁一枚ずつ、食べさせてあげる」
 皆と同じく買ってもらった綿飴を手に季由が振り返ったところで凍り付いた。
 折角の綿飴が麺よろしく愛猫のミコトにふわつる吸い込まれるのが気にならないくらい。
 何故なら、季由曰く俺のロゼと、永遠のライバルたるアレクセイが綿飴食べさせあいっこなどというリア充もびっくり綿飴即溶けなことをしようとしている。
 あろうことか、フッと流し目で笑ってきたではないか――!!
 ロゼが関わると妙に細くなる季由の堪忍袋の緒が即切れ。
「許せねー……団長、爆破だ!」
「オッケードッカンとーって……よぉーし、季由。派手に行きますよ!リア充は爆発しろォ!」
 父親兼団長顔はどこへやら。怪しい黒頭巾を被った裁一の目がヒャッハー!と光るも、マロンには慣れたもの。繋いでいたあおの手を引いて。
「あおちゃん、あっちのお店に行ってみます?」
 不思議そうに目を見開いていたあおがこくこくと頷くと同時、巻き込まれ防止という名の屋台巡りが再開する。
 遊行や響、オリビアと合流したルエリラのイベントマップはチェック済み。
「お財布よし。朝食抜きよし。お店のチェックよし。……ん。勝った」
「YUMEKAWA!なんてドリーミングなフェスティバルデース!」
「あっ見てください!噂のお花型のお店です!」
「ねえ皆、あっちの綿あめの店はトッピングが選べるらしい、よ?!」
 皆で一緒のはずが瞬く間に二つに分裂した皆に響は目を白黒。
 ローストビーフ丼目指すオリビアがルエリラの手を引いて。花形綿飴目当ての遊行が響きの手を引いて。
 賑やかな再会は両手一杯の美味しい物が揃ってから。
 オリビア達の手には響達の分も買ったローストビーフ丼。遊行達の手には花形の綿飴が四輪。きらきらのお砂糖ラメ華やかな響の青い綿飴も皆で味わって、ブルーベリー味!と結論が。
「ローストビーフ丼。あり」
「ソースがたまりまセーン! みんな仲良し!!フレンドシップは魔法デース!!」
「そうですね。離れて数ヶ月経つけど、こうして一緒に楽しめるのはとても嬉しいです」
 頬一杯に頬張るルエリラも、笑顔いっぱいのオリビアも、眦緩める遊行の姿も。
 クールな響の頬を緩めるには十分。
「……私も、皆と一緒で嬉しいよ」
 ふわふわきらきら。
 甘い香りを召しませ、ゆめかわ!
「ふあっふあだ……!へへ、ミニュイが隠れちまいそーなくらいだな!」
「私の知ってる綿飴と違うー!猫になったら、私もシズネにぃも埋まっちゃうかなぁ?」
 いっそ山。顔より大きな七色の綿飴山が、シズネとミニュイの手元に聳え立つ。
 幼子の如く瞳を輝かせる二人はまるで兄妹のよう。あまりの愛らしさにラウル頬は緩ませた時、ふと目についた撮影コーナー。
「ねえシズネ、ミニュイ、あっちで写真を撮らない?」
 ポーズを揃えたり鏡合わせにしたり、はたまた元気よくジャンプをして。
 わいわいぴょんぴょん終えた頃、シズネがラウルを手招きすれば小首傾げた彼が寄り。
「ラウル、おめぇもわたあめ食べろよ」
 にひっと笑った友人の顔が、ラウルの疲れをゆるりと癒す。
 二人で居れば何でも楽しい。
「男は黙って肉だ!」
「ふむ、うわさに聞くローストビーフ丼か」
 様々二人味わい尽くし、撮った写真は肉が艶々な丼に、カラフルなアイシングドーナツ。零れそうなフルーツパフェときらきらしクリームソーダと鮮明。
 楽しかったねと微笑みあった二人の目に付いたのはコットンキャンディブーケの店。
「そういえば、ひっそりやった式はブーケとか無かったよね……」
「ん。ブーケ……あれがあれば、おいしい時間が長続きしそうだな」
 答えはいつものシャルフィンで。
 自然と頬緩んだマサムネが、愛しい人を強く抱きしめる。
 並んでそわそわ。
 悩みに悩んだクララが選んだのは、十月限定ローズブーケ。
 月限定のお品です!の歌い文句に乙女心が刺激されないはずが無い。
「……。まぁ!素晴らしい出来ですこと」
 甘やく優しい果物の香りは自然のもの。柔らかな色の薔薇の花束は、食べるのが勿体無いほど。
「ふむ……子供たちへ作るのならばこういうの、ですね」

 勝利のご褒美は夢の雲のように甘く。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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