仇討します!

作者:秋津透

「鍛錬! 鍛錬! 鍛錬、鍛錬、鍛錬!」
 鹿児島県屋久島宮之浦岳。
 周辺諸島を含めた九州最高峰として名高い山の山頂で、ヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)は、いつものように鍛錬に励んでいた。
「ふう……」
 額に流れる汗を拭いて、ヤクモが一息ついた時。
 その背に、ぞくりと悪寒が走った。
「誰だ! 誰かいるのか?」
「あのう……お訊ねします。このあたりで、シロクロパンダのデウスエクスを見かけませんでしたか? なりたての死神なんですけど……」
 丁寧な口調で言いながら、ウェアライダーのような容姿をした可憐な少女が姿を現わす。そしてヤクモは、彼女を見据えて呻く。
「死神……か?」
「はい。エルレイアと申します」
 穏やかに応じる少女を見据え、ヤクモは一瞬躊躇したが、すぐにきっぱりと答える。
「死神と化したシロクロパンダは、私を襲ってきたので、仲間とともに斃した」
「ええええーっ!?」
 少女は愕然とした声を出し、今にも泣きだしそうな表情になって続ける。
「そ、そんな、どうして……でも、だったら、私、シロクロパンダの仇討ちします! すみませんけど、か、か、覚悟してください!」

「緊急事態です! 鍛錬中のヤクモ・プラブータさんが、死神に襲われるという予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「彼女は、屋久島の宮之浦岳に修行に行っているので、今すぐ全力急行します! 一刻の猶予もありません!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。死神は『エルレイア』と名乗っており、ウェアライダーのような容姿をしています。以前、ヤクモさんが斃した『シロクロパンダDF(デスファイター)』をサルベージした死神で、仇討ちをすると称しています。使用グラビティはウェアライダーの種族グラビティ三種に加え、複数の相手を催眠に陥れる列攻撃呪文と自己回復のシャウトがあるようです。ポジションは、おそらくキャスター。一見可憐で弱そうで、戦い慣れはしていないようですが、死神としての力は見かけによらず強力で、一対一で戦ったら、ヤクモさんに勝ち目はほとんどないでしょう」
 そう言って、康は一同を見回した。
「幸いというか何というか、敵は単体で、増援は呼ばず、撤退もしません。ですから、死神を斃すか、ヤクモさん……と、救援に入った皆さんが全員斃れるか、どちらかになります。どうかヤクモさんを助けて、死神を斃し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 よろしくお願いします、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)
ユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)
ヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)
潟梛木・瑠美奈(オウガの女子高生・e50589)

■リプレイ

●重なる因縁を断て!
 鹿児島県屋久島宮之浦岳、山頂。
「私、シロクロパンダの仇討ちします! すみませんけど、か、か、覚悟してください!」
 今にも泣きだしそうな声を出し、ウェアライダーのような容姿をした可憐な少女……その実、強大な死神の『エルレイア』が告げる。
 対するヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)は、厳しい表情で相手を見据える。
(「……さて、あのワイルドパンダDFやエリュミニアとかいう死神達が気にしていたエルレイアという死神が、まさかこのような少女の姿をしていたとは……いえ、見た目に騙されてはいけませんね」)
 先日、この地で対戦し撃破した死神『エリュミニア』は『エルレイア』を愛人と称していました(リプレイ『目障りだから、あなた、殺すわ』参照)が、それについて敢えて触れるべきでしょうか、と、ヤクモは内心で呟く。
 巧くいけば動揺を誘うことができるかもしれないが、逆上させて暴走攻撃を受けてしまう危険もある。
 いちかばちかの賭け、するべき時は今ではない、と、ヤクモが冷静に自重した時。
「死神なのに死者に思うところがあるのは珍しいな。また欲しくなったなら、死者の泉で探せば良いだろうに」
 冷静というか、冷淡な口調で告げながら、ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)が高空から高速で翼飛行してくる。
 それに対して『エルレイア』は、むきになったように激しく応じる。
「そんな、簡単そうに言わないでください! 死者の泉でサルベージをするのは、どの死神でもできることじゃないんですよ! まして、いったん死神にしたものを再びサルベージなんて……無理です! できません!」
「ほう?」
 着地したファルゼンは、従えるサーヴァント、ボクスドラゴンの『フレイア』ともども、ヤクモを護るように位置取りする。
 そこへ更にスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が着地、前衛が三人になる。
(「新型ドローン展開するか……いや、もう少し前衛が揃うのを待つかな?」)
 戦術眼に優れたスミコは、ファルゼンと同様に自分の行動を後回しにして、敵の挙動を窺いながら仲間の集結を待つ。
 それに対して少女の姿をした死神は、かろうじて丁寧な口調は崩さないものの、あからさまに苛立った声を出す。
「な、なんなんですか、あなた方は? 私が、シロクロパンダの仇討ちするのを、邪魔するんですか? どうして?」
「どうしてと問われれば、それはヤクモさんが大事な仲間だからです」
 続いて降下してきたユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)が、九歳という実年齢からすると随分と大人びた口調で応じる。
「仲間が危機に陥っているのを、見過ごすことなどできません。あなたも、シロクロ……パンダですか? それを大事に思っていたのなら、野放しなどにせずに、しっかり見守っているべきでしたね。倒されるのを見過ごして、後から仇討ちだとか騒いでも、死者は喜んだりしませんよ」
「そ、そんなこと、言われても……」
 自分より可憐な容姿をしたユリス(でも実はドワーフの男性)から理詰めで指摘され、『エルレイア』は当惑した声を出す。
「シロクロパンダを倒してしまう人がいるなんて、想像もしてなかったんですもの……なりたてとはいえ、デウスエクスの死神なのに……」
「だから定命の人間を、何の危険もなく一方的に殺戮できるはずだ、と、楽観していたのか? さすが死神、見かけによらず傲慢で残酷なものだな」
 いや、往々にして可憐な少女というのは、自覚なく傲慢で残酷だったりするが、と、降下してきた雑賀・真也(英雄を演じる無銘の偽者・e36613)が、どこか苦い表情で呟く。
「とはいえ仲間の仇討ちとは、死神にしては律義なものだ。俺はお前の仲間を知らないが、ここで討たせてもらうぞ」
「私を……討つ?」
 言われて初めて、自分が仇討ちをするより先に、どんどん増えてくる相手に討たれてしまう可能性がある、と気が付いたのだろうか。
 死神は、少々愕然とした表情になって、周囲のケルベロスたちを見回す。
 そこへ降下してきたアメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)が、彼女基準では随分と厳しい口調で言い放つ。
「仇討ちと言いますが、先に危害を加えてきたのはそちらでしょう。というか、シロクロパンダの命を踏みにじったあなたこそ、シロクロパンダの仇と言えます。復讐の連鎖はここで止めます!」
「命を……踏みにじる? 何のことですか?」
 愕然とした表情のまま、死神はアメリーに訊ね返す。
「死者をサルベージするのは、私たち死神に与えられた権能です。死にたくないのに死ななくてはならない定命者にとって、私たちにサルベージされてデウスエクスに新生するのは、救済以外の何なのでしょう?」
「本気で、そう思ってる……のでしょうね、あなた方死神は」
 怒りを押し殺した声で、ヤクモが告げる。
「ですが、はっきり言わせてもらいましょう。死の安息から引きずり出され、傲慢な死神の奴隷にされて、定命の同胞を襲ってグラビティ・チェインを強奪する浅ましい怪物にされるぐらいなら、まさに死んだ方がマシです! シロクロパンダも、きっとそう思っていたはず!」
「そ、そんな……」
 危うくへなへなと崩れそうになった『エルレイア』だが、そこは腐っても死神デウスエクス、どうにか態勢を立て直して言い放つ。
「わかりました。本当は、仇討ちができたら、後であなたのことをサルベージしてもいいかな、と思ってたんですけど、それは止めます。でも、すべての定命者が自分と同じ考えだとは、思わないでください。死すべき者の多くは、死にたくないと呻きながら死に、どんな形でも蘇ることができれば、それを喜びとするのです」
「そうですか。ですが、サルベージされた本人の意志がどうであれ、他の定命者を見境なく襲って殺す不死身の怪物は、断固として討たねばなりません。そして、その怪物を作り出す者も……お覚悟あれ」
 ヤクモが、語気鋭く応じた時。
 場のシリアスな雰囲気を見事にぶち壊す能天気な声とともに、サーヴァントのビハインド『妖剣の怨霊』を従えた潟梛木・瑠美奈(オウガの女子高生・e50589)が降下してくる。
「ヤッホー! ヤクモン救出隊、出撃っしょ! 救出成功したら、後でお礼ってことでまた何か奢って、何か!」
「ええ、もちろん喜んで」
 苦笑交じりにヤクモは応じたが、さすがに呆れたのか、ファルゼンが珍しくも声に出して指摘する。
「おいおい、他人事のように救出とか言っているが、お前も仇の一人なんだぞ?」
「……え、アタシも仇!? でじま!?」
 瑠美奈が素っ頓狂な声を発し、何だその長崎の歴史遺構みたいなのは、と、ファルゼンが小さく溜息をつく。
 そして瑠美奈は少し考え、そしてポンと手を打った。
「……あー、そいやアタシもシロクロパンダ倒してたし」
「何ですって!?」
 ヤクモを見据えていた『エルレイア』が、血相を変えて瑠美奈の方に視線を転じる。
 その瞬間、前衛が揃うのを待っていたスミコが、オリジナルグラビティ『ブレス』を発動させ、前衛に状態異常耐性を付与する。
「新型ドローン射出! 敵攻撃に備えるよ!」
「仕掛け時ですね! 行きます!」
 アメリーが即応、こちらもオリジナルグラビティ『la Vierge(ラ・ヴィエルジュ)』を放ち、前衛の命中力を上げる。
「処女宮の能天使よ、彼の者たちに精細な力にて加護を……la Vierge!」
 そしてユリスが先陣を切り、重力蹴りを死神に打ち込む。
「その動き、止めます!」
「くっ!」
 瑠美奈とヤクモに注意を向けていた『エルレイア』が、躱しきれずに蹴撃を受ける。よろめいたところへ、真也が容赦なく襲い掛かる。
「さあ、始めよう。生きるか死ぬか、ルールはそれだけだ」
「ひいっ!」
 雷の力を帯びた斬霊刀が、死神の肩口を貫く。ちなみに真也は二振りの斬霊刀『夫婦双剣【干将】・【莫耶】』を駆使するが、往々にして左右を持ち替えたりして変則的に使うので、どっちで突いたか、あるいは斬ったか、見定めるのは至難に近い。
「おのれっ……惑え!」
 さすがに少女よりはデウスエクスの死神に寄った口調と表情になり、『エルレイア』はケルベロスの前衛に向け催眠をもたらす邪風を放つ。
 ファルゼンのサーヴァント『フレイア』がスミコを庇い、瑠美奈は自分のサーヴァント『妖剣の怨霊』を盾にして被害を免れる。サーヴァント二体とファルゼンはダメージを受けたが、状態異常耐性がついているので催眠にはかからない。
 そしてヤクモがエアシューズ『韋駄天の皮足袋』で重力回し蹴りを入れながら宣告する。
「先日、私は死神と化したシロクロパンダのみならず、私を一方的に目障りと称して殺そうと襲い掛かってきた死神を一体、この地で返り討ちにしました。確か『エリュミニア』という名だったと思いますが……心当たりはありますか?」
「えっ!?」
 愕然とした表情になった『エルレイア』の側頭部を、ヤクモの蹴りがまともに捉える。衝撃で吹っ飛ばされながら、死神は叫ぶ。
「シ、シロクロパンダのみならず、エリュミニア姉さままで……ひどい! ひどい! ひどい!」
「ひどいのは襲ってきたそっちだし! ヤクモンいつでもピンチを正当防衛で切り抜ける的だし!」
 言い放ちながら、瑠美奈はブーツから花びらのオーラを放つ舞を行ない、前衛のダメージを癒す。言動は相当にアレな瑠美奈だが、舞踏の技量はなかなかである。
「ちなみにあたしも、そのエリュなんとか討つのに一役買ったし! ていうか、ヤクモンが死神と揉める時は、いつもあたし駆けつけてるし!」
「……つまり、お前も二人の仇というわけか」
 不意に口調どころか声音まで変え、死神はぎらつく目でヤクモと瑠美奈を睨み回す。
「許さんぞ、オウガども……生かしては帰さん!」
「……たぶん、生きて帰れないのは、あなたの方だと思いますよ、死神さん」
 最後に降下してきたリリベル・ホワイトレイン(微睡・e66820)が、小声で呟きながら前衛に残るダメージを癒したが、幸か不幸か、その呟きは『エルレイア』の耳には入らなかったようだ。

●死の連鎖を砕け! 
「うりゃあっ!」
 スミコが機械翼(ペイルウイング)を開き、スラスターで急加速急接近をかけて漆黒の槍『デモニックグレイブ』を振るい、突撃した威力そのままに稲妻を帯びた超高速の突きを叩き込む。身体の前面を何か所かで貫かれた死神は、口から血だろうか、赤黒い粘液を吐く。
「ぐはっ!」
「まあ、悪いがこれも給料のうちだ」
 ちょっと偽悪ぶって、スミコが笑う。彼女の見るところ、サーヴァントを含む十一体に包囲された時点で、敵は既にほぼ詰んでいる。
(「後は、誰が斃すか、どうやって斃すか、だな」)
 声には出さずに、スミコは呟く。続いてファルゼンが、ドラゴニックハンマーを砲撃形態にして撃ち放つ。
「攻め時、でしょうか?」
 オリジナルグラビティ『妖精の夏(ピスカ)』を駆使して仲間に状態異常耐性を付与していたユリスが、攻撃に転じて重力蹴りを放つ。
 そして真也が、まさに遠慮も会釈もなく、オリジナルグラビティ『血に飢える電光石火の猟剣(フルンティング)』を放つ。
「さて、新技を試させてもらおうか。こいつを避けるのは、少々骨が折れるぞ」
 言い放つと、真也は異空間から特殊な弓を召喚し、右手に持つ。次に異空間から電光を纏った黒い剣を召喚し、左手に持つ。その後、剣を矢のように細くさせながら弓を引いて剣を放つ。敵の血を求めるが如く高い誘導性能と最大速度マッハ10以上を誇り、突き刺されば纏った電光が敵の体内に流れ込んで筋肉・神経を麻痺させる。
「血に飢える電光石火の猟剣よ。その力をもって、敵を亡き者にせよ。喰らいつけ、血に飢える電光石火の猟剣(フルンティング)!」
「ぎひいいいいいいいいいっ!」
 真也の猛撃をまともに喰らってしまい、死神はほとんど本能的に自己治癒を行う。そうしなければ、次の一撃で確実に死んでいただろうが、しかし、それは苦痛を先延ばしする行為にしかならない。
「往生際が、悪いですよ!」
 チェーンソー剣を振り回し、アメリーが死神に痛撃を与える。しかし、細身の美少女アメリーがチェーンソー剣をぶんぶんと振り回す姿は、どうにもアンバランスで怖い。
 そしてヤクモが、ワイルドウェポンを二つ重ねたギガントナックルで死神を殴り飛ばし、瑠美奈はオリジナルグラビティ『フリーズナックル』を叩き込む。
「覚悟はいい? この一発は……めっちゃ冷たいっしょ!」
「きはあっ!」
 熱量を殴り飛ばすというオウガの滅茶苦茶な一撃を喰らい、死神はきりきり舞いして凍りつく。
 そこへすかさず……と言いたいところだが、残念、次の手番のリリベルは治癒グラビティしか持参していない。代わりに彼女のサーヴァント、ウイングキャット『シロハ』が、がりがりがりと爪で引っ掻く。
「ふむ……」
 スミコが唸り、達人の一撃を放つ。そして真也は、ヤクモを見やって告げる。
「さぁ、お前の因縁の相手だ。引導を渡してやれ」
「……では、有難く」
 応じると、ヤクモは満を持してオリジナルグラビティ『乱神闘技・雷之型『韻弩羅』(ランシントウギ イカズチノカタ インドラ) 』を放つ。
「撃ち貫くは、雷霆のごとく! 穿て、インドラ!」
「ぎゃああああああああっ!」
 自身を雷槍に見立てて突撃するヤクモに容赦なく貫かれ、死神の全身が千切れて四散する。まさに完璧な粉砕であった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。