カッコいい男装の麗人こそ至高!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「俺は常々思うんだ! カッコいい男装の麗人こそ至高である、と! だって、そうだろ! 女性が女性らしく振舞うなんて、もう古いッ! そんなのありきたりで面白くないだろ! だが、カッコいい男装の麗人は違う……それだけで萌える! 一粒で二度……いや、三度おいしいシチュエーション! 俺はこれだけで飯が三杯食えるね! だからこそ、俺は言いたいッ! 男装の麗人こそ至高である、と!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の女性信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた女性信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、女性信者達は男装した姿で、凛々しく笑うのだった。

●都内某所
「天音・久詞郎(贖いの対価・e17001)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。女性信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、女性信者達は洗脳によって、男装しているだけです」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、男性信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
天音・久詞郎(贖いの対価・e17001)
シェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
カンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590)

■リプレイ

●教会前
「男装、ですか……。まぁ、たまにやったりはしますけど、だからと言って教義にされるのも困りますね」
 ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)は深い溜息を洩らしながら、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている教会の前にやって来た。
 ビルシャナはカッコイイ男装の麗人こそ至高であると訴え、洗脳した女性信者達に男装をさせているようだ。
 そのせいかか教会の外観もヴェルサイユ風で、一見すると宮殿のようにも見えた。
「男装の麗人……ですか。女装も男装も人それぞれ好みはありますが、趣味の範囲で節度を持ってやって欲しいものですね……。それにしても、明王クラスは似たり寄ったりなのですね……。いっそ、仲間割れとかして減ってくれませんかね…」
 カンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590)がサラシを巻いて胸を潰し、執事服姿が深い溜息を漏らす。
 しかし、ビルシャナ達は『自分は自分、他人は他人』的なお母さんルールを都合よく使っているため、仲間割れする事がないようである。
「それなら、こっちも苦労しないんだが……。ところで、男装の麗人と言う事は、やっぱりビジュアル系の見た目になるんだろうか。男性ウケよりも女性ウケの方が良いイメージがあるのだが……」
 九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)が、何処か遠くを見つめた。
 だが、教会の外観を見る限り……間違いなくアレだろう。
 場合によっては、教会の中で歌って踊っていそうな雰囲気であった。
「外見が格好良いからって、中身まで同じとは限らないんじゃないかな? 見た目だけで至高って言うのは違うと思うけど……」
 スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)が、ビシルャナの教義に難色を示す。
 ビルシャナの教義は中身まで言及していないため、見た目さえ良ければ問題ないと言う事だろう。
「まあ、カッコいい女性も素敵だとは思いますが……。それはそれ、これはこれ。『心に棚を作れ!』です」
 天音・久詞郎(贖いの対価・e17001)がアイドルモード全開で、美少女アイドルに扮して自分の考えを述べる。
 元々、中性的な容姿であったため、メイクを施した事で、可愛さが増しており、一見すると女の子のようにも見えた。
「少なくとも、人から操られて男装してるのって、少なくとも『麗人』ではないかなぁ……」
 シェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977)が、自分なりの考えを述べる。
 最低限、自分達の意志であれば、それなりに理解は示したものの、ビルシャナによって洗脳されている時点で話にならない。
「それに、性指向と性嗜好がビルシャナの主張とごっちゃになっている感は否めませんね」
 ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)も、呆れた様子で口を開く。
 おそらく、ビルシャナ達自分の欲望を満たすため、それっぽく言っているだけなのだろう。
 そのため、何も本質を理解しておらず、歪んだ教義が出来上がったのかも知れない。
「服装の趣味は自由なれど……って感じ。ビルシャナに言われて趣味を捻じ曲げられるのも気の毒だし、早々に始末を付けよう」
 そう言って岬守・響(シトゥンペカムイ・e00012)が、仲間達を連れて教会の中に入っていった。

●教会内
「なんだ、君達は……!」
 教会の中にはビルシャナがおり、室内がまるで舞台のようになっていた。
 しかも、ビルシャナ自身も妙な路線に突っ走っているのか、歌うようにして語り掛けながら、舞い踊るようにしてケルベロス達に近づいてきた。
 そのせいか、口調まで変わっているようだが、相変わらず上辺だけなので、すぐにボロが出そうな感じであった。
「男装の麗人を目指しているようだが、それはかなりハードルが高いんじゃないか? 身長も必要になり、顔立ちも求められる。2m近い男性が女装しても違和感があるのと同じ事だ。また仮に理想的な体系を生まれ持っていたとしても、男装や女装はいわゆる特殊な分類に入るからね。世の中に受け入れられない事もあるし、大変な事もある。例えば、お手洗いなんか困りそうだろう? 中途半端な覚悟では難しい道なんだよ、異性に扮するというのは……」
 そんな中、幻がビルシャナ達の前に立ち、男装の麗人について語り掛けていく。
「何も問題ないさ。大事なのは、立ち振る舞い。それが僕らを大きく見せる」
 それに気づいた金髪の女性信者が、踊るようにして自分の考えを述べる。
 おそらく、ビルシャナに洗脳された事によって、気持ちが大きくなっているのだろう。
 自分にとって、都合の悪い事は排除する考えでいるようだ。
「……とは言え、男装が様になりすぎていると、女子からのアプローチが増え、ラブレターに大量のチョコを送られたり、男性からは敬遠されますよ? 自分よりカッコよく、女心が判る為女子への対応も完璧なら女子から王子扱い、意中の男性には敬遠されてしまう可能性がありますけど、それでもいいんですか?」
 カンナが信じられない様子で、女性信者達に問いかけた。
「それは光栄な事だ!」
 髪をオールバックにした女性信者が、瞳をキラキラさせて、躊躇う事無く答えを返す。
 まわりにいた女性信者達も、妙にキラキラ。
 今にも歌って踊りそうなほど、ビシィッとポーズを決めていた。
「……と言うか、可愛さに自信がないからカッコいいに逃げたいんですよね? 男性である、このボクにさえ可愛さでは勝てないんですから、逃げるのも無理はないですけど……。それにしても、男性にさえ可愛さで勝てないなんて……プークスクス。まぁ、ボクは世界一可愛いアイドルですから、勝てなくて当然ですけどね」
 久詞郎が女性信者達に憐みの視線を送り、言葉も仕草も表情も総動員して徹底的に煽りまくった。
「我々の眼中に映らないモノなど……相手にするまでもない」
 それでも、女性信者達は臆する事無く、上から目線で鼻を鳴らす。
 実際には、女性信者達の完敗だったりするのだが、それを考えさせないほどのオーラが彼女達を包んでいた。
「だったら、男のいうままに男の趣味に合わせた格好をするって、男性にとって都合がいい、女性らしく振舞う女性そのものじゃない? それに、外面だけ整えたところで悪いけど萌えない。やっぱりこういうのは、自分の持ち味を活かさなきゃ、でしょ?」
 響が自分なりの考えを述べながら、女性信者達の顔色を窺った。
「いや、これは……我々の意志だ!」
 女性信者のひとりが激しく目を泳がせ、その迷いを断ち切るようにして叫ぶ。
 本当に自分の意志なのか、正直……分からない。
 ただ、そうしなければいけないと言う使命感があるようだ。
「ところで気になるのですが、あなた(教祖ビルシャナ)は男装の麗人に何を求めているのですか? 『女性が女性らしく振舞うなんて、もう古いッ!』と言う割に、『一粒で二度……いや、三度おいしいシチュエーション!』ともおっしゃっていますね? もしやこれは『男装の麗人がふとした拍子に見せる女らしさがギャップを引き立てる』という意味でしょうか? だとすると、あなたが本質的に求めているのは女性らしさであり、男装の麗人というのはそれを引き立てる為のアクセントでしかないと考えているのではありませんか?」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ウォーグがビルシャナをジロリと睨む。
「あ、いや、その……それは……だな……」
 その途端、ビシルャナが気まずい様子で言葉を濁す。
 どうやら、図星だったのだろう。
 『し、しまった!?』と言わんばかりに、目がギョロギョロと泳いでいた。
「そもそも、その人が喜ぶから男装をしてるっていう考えが凄く女の子っていうか、可愛らしさが出過ぎてるっていうか、内面の可愛らしさを、外見の男装で全く誤魔化せてないっていうか、普通に女の子の格好してたほうが良いんじゃない? だってほら、そのビルシャナさん、男装してる姿だけしか見てないっていうか、その属性だけしか見てないっていうか、あれでしょ?」
 シェリーが『後は察して!』と言わんばかりの雰囲気で、女性信者達に視線を送る。
「ま、まあ、ビルシャナ様に喜んで欲しいと言うか、何と言うか……」
 女性信者達が恥ずかしそうに頬を染める。
 だが、その表情は乙女。
 それまであった男らしさが消え失せ、可愛らしさだけが残っていた。
「あ、いや、お前等……違うぞ、コレは……」
 ビルシャナが慌てて何か言おうとしたが、何ひとつ言葉が浮かばない。
 それでも、何か言おうとしているようだが、クチバシがパカパカ鳴るだけで、何も言葉が出なかった。
「それに男装の麗人ってだけで萌えるなんて、彼女達の内面はどうでもいい、って言っているようなものだよね? そんな最低男、いや……最低ビルシャナの傍にいる必要はないと思うんだ……!」
 スヴァリンが嫌悪感をあらわにしながら、ビルシャナの前に立つ。
「俺は……その……だなァ……」
 しかし、ビルシャナは何も言えない。
 ……言い返せない。
 そんな空気を察したのか、女性信者達も不安げな表情を浮かべていた。
「……こほん。アメリカ精神医学会のマニュアルによりますと、『生活に支障を来す程の重度のものは服装倒錯的フェティシズムとしてパラフィリアの一種に分類される』とあります。……信者の皆さん。マイノリティは厳しい世間の目にさらされると思われます。他人の主張に感化される形で、あえてそのような人生を歩むなど、本当によろしいのですか? こんな教義を信じたところで、ビルシャナがアレでは、お先真っ暗ですよ?」
 そう言ってズミネが諭すようにして、女性信者達に語り掛けるのであった。

●ビルシャナ
「た、確かに、そうかも……な」
 女性信者達が納得した様子で、ビルシャナから視線を逸らす。
 あれほど凛々しく見えたビルシャナが、今はみすぼらしく見える。
 それだけで教義を信じる価値はない。
 ……既に答えは出ている。
 ビルシャナを見ただけでも……。
「う、嘘だろ、おい……。俺はその……お前達の中身も……」
 そこでビルシャナが、ハッとした表情を浮かべる。
 彼女達の何も知らない。
 分かろうとしていなかった。
 ただ、自分にとって、都合がいいように洗脳しただけで、彼女達がどんなものが好きで、どんな事をしていたのかさえ、知ろうとしていなかった。
「……」
 女性信者達も、それを理解したのか、次々とビルシャナの傍から離れていった。
「お前等のせいだ。お前等さえ、ここに来なければ……」
 それを理解したビルシャナが、恨めしそうにケルベロス達を睨む。
「……と言うか、自業自得だよね? 女性達の上辺しか見ていなかったんだから……」
 その視線に気づいたスヴァリンが、警戒した様子で間合いを取った。
「いや、お前等が悪い!」
 ビルシャナがイラついた様子で、孔雀の形をした炎を飛ばす。
 それはビルシャナの怒りを現すかのように荒らぶり、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「結局、こうなりましたか」
 ウォーグがやれやれと言わんばかりに、孔雀の形をした炎を避ける。
 感情をあらわにして攻撃しているせいか、ビルシャナの攻撃は手に取るように、よく分かった。
「まあ、何の問題もないけどね」
 響が苦笑いを浮かべながら、ビルシャナに轟竜砲を撃ち込んだ。
「一度だけ、夢をみた後に……」
 その間にシェリーが、ある少女の想いが込められた哀しい恋の歌を歌っていく。
「な、何故だ! 俺はただ……うわあああああああああああ!」
 ビシルャナが再び怒りを爆発させ、孔雀の形をした炎を飛ばす。
 それは先程よりも巨大で、勢いがあったものの……やはり、当たらない。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
 その間に幻が一気に距離を縮めていき、ビルシャナにスターゲイザーを放つ。
「うおおおおおおおおおおおおおお、何故だあああああああああ!」
 ビルシャナにとって、それは信じられない事だったらしく、ギチギチとクチバシを鳴らして、両目を血走らせた。
「そんなに男装の麗人が好きなら、自分で……あ、なれませんね。その時点で、色々と矛盾していませんか?」
 カンナがビルシャナの攻撃を避けつつ、サークリットチェインを仲間に使う。
「お、俺はいいんだ、俺は……」
 ビルシャナが気まずい様子で、ケルベロス達から視線を逸らす。
 それだけは触れてほしくない。
 出来れば、スルーして欲しかった事柄。
「だったら、答えは出ているじゃないですか」
 次の瞬間、ズミネが精神を極限まで集中させ、ビルシャナの血管を破壊した。
「ぐはっ……!」
 そのため、ビルシャナは為す術もなく、肉の塊と化して崩れ落ちた。
「私達は一体……」
 それと同時に女性信者達が我に返り、驚いた様子で目をパチクリさせた。
「教義を否定するためとは言え、女性達には悪い事をしてしまいました。あ、いや、さっきのは本音ではなく、軽い冗談……だったんですが……」
 そう言って久詞郎が、苦笑いを浮かべる。
 幸い、洗脳されていた時の記憶がなかったため、嫌味を言われる事もなかったが、女性信者達は久詞郎の姿に興味津々な様子で、イイ笑顔を浮かべるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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