ダモクレスとの戦術比べ

作者:ハル


 ズラリと、物々しい機械が並べられた製鉄所では、溶鉱炉から鉄が取り出され、モクモクと黒煙が噴き出していた。
 これから鉄は急速冷却を加えられた後、数ミリ……もしくはさらに薄くなるまで圧縮される。
 機械の中を出来上がった鉄が高速で運ばれていく様は、どこかロマンを感じさせた。
「ふぅ……疲れたぜ」
 と、終業のベルが鳴り、職員達が手を止める。凄まじい熱気に、絶えず流れる汗を拭った。
 やがて、終業のベルが鳴り止むと、
「えっ、これ……!」
 直後に、警報が作動していた事に気付く。完全に気を抜いていた職員達の思考が、一瞬停滞する。そして、その隙を突くように。
「ぎゃっ!」
 ふいにどこからが、断末魔の叫びが響いた。音の聞こえた工場の上階を一人の職員が見上げた瞬間――。
「「「う、うわあああああっ!」」」
 苦悶に満ちた表情の同僚……だったものがドサリと落ちてきて、工場内を悲鳴が満たす。
 逃げようとした職員達は、見た。血に濡れた黄色いロボットを。小柄な女性とそう変わらぬ大きさではあるが、情け容赦は欠片も感じられない無機質なボディーを。
 また、侵入者はその黄色のロボットだけではない。一体どこから入り込んできたのか、巨大な青のロボットまでもが工場内に姿を現し、工場内を検分、解体しているではないか!
 だが、2体の黄色ロボットに追われる職員達に、それを阻止する手立てなどあろうはずもない。
 ……そして、逃げ切れるはずもなかった。
「……ぐ、ふっ……おぶっ……」
「任務、終了デス。直チニ、帰還シマス」
 ハンマーで頭部の骨を砕かれた逃げ遅れた職員は、どこかに報告をするように口を開くロボットの姿に、溢れんばかりの無念を宿しながら息絶えるのであった。

「コチラモ敵影ケルベロス、確認デキズ」
 黄色ロボット・シモーベを3体引き連れ、工場の周辺でケルベロスの警戒にあたっていた赤のロボット――戦闘用ライドロイドは、グラビティ・チェインの略奪の任にあたっていた2体のシモーベから任務終了の報を受け、魔空回廊へ移動を開始していた。
 程なく到着すると、少しして、職員を惨殺して血塗れのシモーベと、巨大な2体の青のロボット――作業用ライドロイドと合流を果たす。
 やがて、作業用ライドロイドが獲得した大量の資材の搬入を終えると、ダモクレス達は魔空回廊を使って悠々と撤退するのであった。


「ダモクレスの海底基地が破壊できたのは、間違いなく皆さんの活躍のお陰です!」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、品良く嫋やかに頭を下げる。
「今後、ディープディープブルーファング事件で使われていたダモクレスは、製造されなくなる筈です。今回得られた情報を精査すると、ダモクレスの研究の全貌解明までには至りませんでしたが、死神とダモクレスの関係は、一方的なダモクレス側からの供与ではなく、なんらかの目的の沿ったものだという推測が成り立ちます。これからも、警戒が必要でしょう」
 加え、海底基地では、ダモクレスの資源採掘基地が、海底に存在する可能性も示唆されている。仮に資源採掘基地を発見して破壊する事ができれば、ダモクレスの大規模な作戦行動を掣肘する事さえできるかもしれない。
「――と、今回の話はそれで締めたかったのですが、どうやらそうもいかないようなのです」
 桔梗が、苦笑を浮かべる。
「実は、海底基地が破壊された影響で、資源の補給が充分に行えなくなったダモクレス達が、資源を求めて工場を襲撃する様が予知されました」
 現れるダモクレスは、工場建設に従事していたダモクレスのようだ。
「幸い、ダモクレスの戦闘能力は高くはないようですが、資源の強奪、ケルベロスの警戒、グラビティ・チェインの略奪と、手分けをして襲撃を計画しており、決して油断する事はできません」


「ダモクレスの編成は、戦闘用ライドロイド1体、作業用ライドロイド2体、シモーベ5体で、計8体の混成部隊となっております。ダモクレスは、以下の4部隊に別れての襲撃を計画しており……」
 桔梗が、ダモクレスの計画を纏めたレボートをケルベロス達に提示する。

 ケルベロスの警戒にあたる部隊――戦闘用ライドロイドとシモーベ3体。
 工場と職員を襲撃、殺害し、グラビティ・チェインの獲得を目指す部隊――シモーベ2体。
 工場の資材の簒奪を目論む部隊――作業用ライドロイド2体。

「この中で、作業用ライドロイドの2体は、それぞれ別の区画から工場への襲撃を画策しており、別行動です。そのため、皆さんが守らなければならない襲撃ポイントは、四カ所という事になります」
 ちなみに、両ライドロイドは、シモーベを強化改造した個体だ。分離は不可能となっている。
「事前に、職員の皆さんに避難を行ってもらう案は、考慮した結果、難しいという判断が下されました。別の工場に目標を変えてしまう懸念があるのです。ダモクレスの襲撃ポイントは判明しているので、それぞれ被害が出る前に先回りする事が可能です」
 ただし、戦場と戦場間の移動には、2ターンを要することも、頭に入れておいて欲しい。
「肝心の敵戦力についてですが、シモーベ1体は、皆さんよりも少し弱い程度と考えてもらって大丈夫です。作業用ライドロイドは、お1人では確実に押されてしまいますが、二人いれば、終始優勢に戦闘を運べるでしょう」
 もちろん、戦闘用ライドロイドは、その2種に比べれば高い戦闘力を有するが。
「それでも、単体ならば皆さんが4人同時にかかれば、充分に撃破できる程度のものです。3体のシモーベを含めても、6人いれば対処できるでしょう」
 どうやら、戦闘用ライドロイドは、ケルベロスが邪魔しなければ、戦闘になっている区域に救援へ向かうようだ。
 職員の襲撃を担う2体のシモーベは、複数のケルベロスの襲撃を受けた際は、職員への攻撃を諦める。が、ケルベロスが1人だった場合は、一体がケルベロスを抑え、その間にもう一体が職員への襲撃を続行する戦術をとる。
「作業用ライドロイドに関しては、7分が経過した後、持てるだけの資材を持ち、移動を始めます。移動地点は、作業用ライドロイド2体の中間地点で、その移動にも1分がかかると見られています。そして、この中間地点に、どうやら魔空回廊が開くようです」
 大量の資材搬入に、作業用ライドロイドはさらに1分を要する。撤退が完了するのは、開始から9ターンの最後となるだろう。
「資材の搬入は、戦闘中には当然行えないでしょう。そのため、搬入中に皆さんから攻撃を仕掛けることで、戦闘状態にもっていく事も可能だと思われます」
 桔梗は、説明が長くなってしまった事をケルベロス達に詫びる。
「被害者を出さない事は、確かに皆さんが望む結果です。ですが、一度に全てを成し遂げる事は、たとえ皆さんであっても……」
 難しい、桔梗の顔には、そう書いてあった。
「敵の挙動や移動時間を考慮に入れつつ、一つでも多くの成果を出すための作戦を練るようお願いします」


参加者
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
冷泉・椛(地球人の妖剣士・e65989)

■リプレイ


「な、なんだ、一体!?」
 工場内では、けたたましく警報ベルが。仕事終わりという最も気の緩むタイミングに起きた異変に、職員達は激しい動揺を示している。
「ひぃっ!」
 ふいに、工場上階から、短く切迫した悲鳴。悲鳴を上げた張本人の眼前には、無感情にハンマーを振り上げるダモクレス――シモーベが迫っており……。
「残念ですが、貴方達にくれてやるものは何一つありません」
「……ぎゃっ! …………はっ?」
 だが、振り上げられたハンマーが、職員を傷つける事はなかった。篠村・鈴音(焔剣・e28705)が、流星の煌めきを帯びた蹴りで、シモーベを吹き飛ばしていたからだ。
 さらに、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)が、まるで水鏡のような刀身で鮮やかな弧を描き、追撃を仕掛ける。
「お主、怪我はないでござるか」
 呆然とする職員に、カテリーナは安心させるように笑いかける。
 しかし、職員は安心する事はできない。何故なら、工場内にはもう一体のシモーベが!
「ああ、そういう事ですか」
 もう一体の存在を必死で伝えようとする職員に、やはり鈴音も笑う。
「HAHAHA! 安心するでござる。面妖な一つ目ダモクレス、一体たりとも逃がさんでござる。いい汗をかいているパパさん達の救出は、いい女の拙者達にお任せでござるよ」
 慌てず騒がす、カテリーナは告げた。
 そしてその意味は、すぐに明らかになる。
「通さねえし、殺させねえ」
 端的な九十九折・かだん(スプリガン・e18614)の声は、しかし確固たる強靱な意志と共に紡がれた。
「――――お聞き」
「ケルベロス発見、ケルベロス発見!」
 かだんの永劫に似た似た咆哮、命を掻き乱す呪いが、警戒を発する2体のシモーベを纏めて縛る。
「あなたたちの、好きにはさせません」
 両シモーベ共に、ケルベロスは既に捕捉していたのだ。
「いただきます」
 ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)が、ポンッと手を合わせると、工場のコンクリートを割って巨大な肉食動物の顎骨が迫り出し、シモーベに喰らいつく。
「そういう訳ですの、で。職員の皆さん、は、避難をお願いしま、――」
 ハンスは、最後まで言い切る事は叶わなかった。エネルギー光線とハンマーで、シモーベが反撃を仕掛けてきたからだ。
「あ、ありがとう!」
 しかし、職員達はケルベロスの意を汲んで、素早く避難を始める。
 かだんと鈴音が、シモーベ双方の攻撃を、それぞれ地獄を帯びたハンマーと雷の霊力を帯びた緋焔で応戦する。
 カテリーナとハンスは、その隙を突き、歪に変形させた対デウスエクス用高周波苦無と、不可視の「虚無球体」で攻め立てるのであった。

 時は少し遡り、対シモーベ班と少し離れた地点に、4人のケルベロスの姿が。
「これ以上敵の力が戻らないように、私達で妨害するのだわさ!」
 蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)が、早速重力を宿す飛び蹴りを放つ。矛先を向けられたのは、資材の奪取に動いていた作業用ライドロイドだ。
「資材集めなんてさせないよっ!」
「ケルベロス、ケルベロスノ襲撃アリ!」
 冷泉・椛(地球人の妖剣士・e65989)に睨まれた、ライドロイドの搭乗口に組み込まれているシモーベが、警戒を発している。
「チームで、襲ってくる、とはね。厄介だ、だけど」
 その警戒の意味は、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)の予測に恐らくは違わぬのだろう。そして、だからこそ――。
「好きには、させない、よ」
 霊装の長い袖とウサミミが風に靡く。
 『首を刎ねろ』……そう耳元でがなり立てる妖刀を黙らせるため、十三は呪詛を刀身に乗せ、一閃。
「迎撃スル、迎撃スル!」
 だが、作業用ライドロイドも、4人のケルベロスに圧倒的に押されながらも、苦況を脱するために大量のミサイルで前衛を薙ぎ払う。
「サイ!」
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は呼びかけると、ミミックのサイと共に、守りを固める。それでも、今は攻め気を忘れるわけにはいかず、檳榔子黒に肉食獣の霊気を宿して殴りかかった。
 椛がゾディアックソードを構えると、周囲に描かれた守護星座が光を放つ。
(「初めての作戦……ちょっと緊張するね。でも、身体は動くよっ!」)
 1分、2分と経過すると、次第に椛の硬さが取れていく。
「残念、当たらない、よ」
 十三が、自身とエンチャントの破壊を意図して迫った機械の拳を回避し、返す刀で「虚」の力を込めた御霊狩りで斬りつける。
「椛ちゃんの援護、ありがたいわ!」
「そう言ってもらえると、頑張りがいがあるよー!」
「じゅーぞーさんが仰っていたように、油断は大敵ですよ、お二人共!」
 スズナの一言に、もちろんだと、カイリと椛が目配せする。
 その証拠に、口を動かしつつ足も止めず、カイリは縦横無尽に戦場を駆け回ると、
「我が身模するは神の雷ッ! 白光にッ、飲み込まれろぉッ!」
 文字通りの粒子――雷と化したカイリが、椛より与えられたオウガメタルの加護も受け、光速で作業用ライドロイドの外殻に罅を入れる。
 スズネが狐のそれに変化させた拳を突き立て、サイがエクトプラズムで生み出した武器で襲い掛かる。
「当たったら痛いよ~?」
 椛が素早く剣を振り抜き、発生させたカマイタチで狙いを定めた。
「この調子なら――ううん、来た、ね」
 十三が目を細める。あと1分か2分あれば、容易く仕留められたであろう。だが、そうは問屋が卸さない、それが戦場。
「援軍、感謝ダ」
「待ッテイタゾ、ケルベロス!」
 3分が過ぎようという時に、作業用ライドロイドを越える威圧感を伴って、戦闘用ライドロイドが姿を現す。3体のシモーベを引き連れて。
「出ましたね、赤色! わたしとサイがいる限り、通しません!」
 スズナが、大地を踏みしめる。フワリと、銀髪が舞った。それは、一歩も引かぬという意思表示。
 だが――。
「くっ、サイ!?」
 ススナが呻く。サイが、摩擦炎を伴うチェーンソー剣により、大きな傷を刻まれたのだ。
 ただでさえ4人では戦力の劣る警戒部隊相手に、消耗しているとはいえ作業用ライドロイドが加わり、ケルベロスは一転して圧倒的な劣勢を余儀なくされるのであった。


「私の前で、命を殺せると思ったかよ?」
 かだんのナイフが、踏ん張るシモーベを押し切って、強引に残骸へと分解する。その残骸を浴びながらも、かだんは4人で仕留めた2体のシモーベに、もう一瞥もくれなかった。
「そっちに戦闘用ライドロイドが現れたでござるね!? 了解でござる、なんとか耐え抜くでござるよ!」
 何故なら、作戦開始から4分が間近に迫ったシモーベ撃破直後、カテリーナの元に、一体目の作業用ライドロイドを襲撃していた班から報告が上がってきていたからだ。
「では、私とハンスさんは、援護に向かいますね」
「……急ぎましょ、う」
 職員に被害が出なかった事を喜ぶ暇もなく、鈴音とハンスが窮地に陥っているだろう仲間の元に向かう。
 かだんとカテリーナは、もう一体の作業用ライドロイドを狙い、二手に分かれて行動を開始した。

 カテリーナが用意していた時計が、5分経過を示すアラームを鳴らす。それから少しして、作業用ライドロイドの推定所在ポイントに、カテリーナはかだんと共に到着。
「いたぜ」
 すると、かだんの視界に、何やら工場や製鉄所で作られた資材の搬入を進める作業用ライドロイドが飛び込んで来た。
 このまま放置しておけば、少なくない資材を持ち帰られるのは必至。
「死神と組んだり、工場を襲ったりとダモクレスどもは節操なしでござるなあ!」
 考える一瞬すら惜しいとばかりに、カテリーナが作業用ライドロイドに接敵し、弱点に痛烈な一撃を見舞う。
「ケルベロス確認、ケルベロス確認!」
 すると、作業用ライドロイドは慌てふためく。その名の通り、戦闘は本文ではないのだから、仕方の無いことだろう。まして、援軍はやって来ないのだから。
 それでも、作業用ライドロイドは重厚な拳に装着されたドリルを唸らせ、応戦するが!
 かだんは苦もなく、ヒラリと身を躱す。通常のデウスエクスに劣る上、耐性を整えていれば、作業用ライドロイドの攻撃を躱す事はそう難しくはない。
「――おらッ!!」
 かだんは、地獄の炎を轟々と纏うナイフを、力任せに作業用ライドロイドへとねじ込んでいく。
「やはり、シモーベよりも硬いでござるな!」
 カテリーナが、弧を描く斬撃を一閃させる。
 だが、作業用ライドロイドはダメージを負いつつも、弱った素振りは見せず、雨のようにミサイルを放ってくる。
 その全弾が、腰を落としてカテリーナの前で待ち構えるかだんへと直撃した。
「……厄介だな」
 かだんは行動を制限されないためにも、仕方なくシャウトを強いられる。
 それでも、時間さえあれば、作業用ライドロイドを撃破できるだろう。
 ……時間さえあれば。
「かだん殿、作業用ライドロイドが撤退していくでござる!」
 だが、7分が経過すると、ケルベロスには目もくれず、作業用ライドロイドが中間地点に開く魔空回廊を目指してと撤退を始める。
 かだんとカテリーナはその背を追い、逃がすまいと追撃するのであった。

「――これ、は」
 5分の終わり頃に援護に到着したハンスは、その惨状に言葉を失った。
「鈴音ちゃんにハンスちゃん、来てくれたのね!」
「待ってた、よ」
 二人に気付いたカイリが笑顔を浮かべようとするも、自然と引き攣ったものになる。無表情で掌をヒラヒラさせる十三も同様に。褐色の肢体を伝う脂汗は、彼女達の苦況を言葉よりも雄弁に語っていた。
「篠村さん、スエヒロさんが!」
「っ、大丈夫ですか、スエヒロさん!?」
 椛の叫びに応じて、鈴音がスズナの前に身を晒す。直後、戦闘用ライドロイドのチェーンソー剣が摩擦炎混じりに振るわれ、鈴音の肌を裂いた傍から焼却する。
「……ありがとうございます、わたしはなんとか。ここまで来たら、意地です!」
 スズナはそう言うと、無機物と同調して精神状況を整える。サイが、財宝をばら撒いた。しかし劣勢の中で、サイと共に盾役としてひたすら守勢に回り刻まれた傷は、酷く生々しい。
「こっちも援軍が来てくれたことだし、改めてしっかりと各個撃破するのだわさっ!」
 Dfが追加された事実は大きい。カイリの視認困難な影の如き木刀の一撃を受けて、シモーベの影に隠れていた作業用ライドロイドをようやく撃破する。
「これで、戦力的には、互角の、はずだけど」
 作業用ライドロイドに加え、既にシモーベも一体撃破済みだ。十三の呟き通り、数の上では互角に戦えて良い戦力のはず。問題は、既にかなりの消耗を強いられていることか。
「【月喰み】解放……刎ねる……刎ねる……兎が刎ねる……無明の新月、見て刎ねる」
 十三が、敵陣を一網打尽にすべく、喰霊刀【月喰み】に宿る怨念に殺意を上乗せし、解放。神速の斬撃と化した一刀が、嵐のように荒れ狂った。
 次いで、雷を帯びた鈴音の緋焔がシモーベを貫く。
「増援カ!」
「小癪ナ!」
「ぐっ、この!?」
 しかし、シモーベ2体も案山子ではない。消耗が激しいスズナとサイを狙いうつように、エネルギー光線が集中させる。命中率の低さを利して一方を躱すが、もう一方は躱しきれず、スズナが膝をついた。
(「……スエヒロさん!」)
 その瞬間、ボサボサの前髪に隠れたハンスの目元に、悲痛な色が浮かぶ。
(「わたしは、援護に来たのです!」)
 ハンスの胸中で感情が燃え上がった。スズナをむざむざとやらせはしないと、捕食モードに変形したブラックスライムが戦闘用ライドロイドに絡みつく。
「……まずいわねっ」
 ギリッと、椛が奥歯を噛みしめた。喰霊刀を振り、スズナに魂のエネルギーを分け与えるも、彼女の場合は回復不能ダメージが積み重なっている。おまけに、シモーベ2体の奮闘もあり、戦闘用ライドロイドにはあまりダメージを与えられていなかった。シモーベが倒れるのが先か、それともケルベロスの前線が崩壊するのが先か……紙一重の勝負。
「う~ん、私がいるから、ビギナーズラックでこっちの勝ちっ! ……って事にはならないかな? なんてねっ」
 噛みしめていた頰の筋肉を椛は緩め、無理にでも笑顔を作った。運を呼び込むのも、お小遣いを呼び込むのも、笑顔が大事なのだ。
「その意気よ、椛ちゃん。こういう試練を乗り越えてこそ、晩酌が美味しくなるってものよ!」
「残念ながら、蛇荷さん以外は未成年ですので、その例えは少し分かりづらいですね」
「あら、それは残念。でも、なんとなく鈴音ちゃんは酒豪になりそう」
 カイリと鈴音が軽口を叩く。そうしながらカイリの全筋力を乗せた斬撃が、シモーベの体勢を崩した。
「でやああああああッ!!」
 そこに、鈴音が空中から超重量の弾丸へと変貌を遂げたラギッド・タスクを蹴り飛ばし、シモーベを圧壊に追い込む。
「じゅーぞー達、負けない、よ」
 加え、十三の流水の如き剣技が冴え渡り、シモーベの急所に叩き込まれた。戦闘用ライドロイドを庇ってきたシモーベが、ついに全滅する。
 ――が!
「悔しいですが……ここまでですか」
 無慈悲な刃が、スズナの白磁の肌を深紅に染め上げる。
 ケルベロスが倒れ込むスズナのために出来ることは、眼前の戦闘用ライドロイドを破壊する事のみ。


「……チッ」
 かだんは無言で舌打ちをした。空腹さえも誤魔化せそうな苛立ちが胸中に満ちる。
「……逃がしてしまったでござるな」
 カテリーナが呟く。最後まで追撃に追撃を重ねたものの、9分の終わりまでに作業用ライドロイドの撃破には至らず、魔空回廊の向こうへの撤退を許してしまったのだ。
 それでも、作戦はまだ終わってはいない。
 カテリーナの時計が12分に迫ろうかという時、二人はその死闘の現場に到達した。

「ここで、絶ちます」
 ハンスが、星型のオーラを敵に蹴り込んだ。
「――っ、このぉっ!」
 椛が、満身創痍な鈴音へ、エネルギーを。しかし椛自身、度重なるミサイルの影響で軽傷では決してない。それでも、血塗れの鈴音に比べれば……。
 サイは消失し、戦闘用ライドロイドの強力な単体攻撃によってカイリも地に伏せている。
 鈴音も、カイリと同じ理由で死に体だ。
「じゅーぞー達の、勝利だ、よ」
 だがその時――御霊狩りで戦闘用ライドロイドを斬りつけた十三は見た。そして、知った。これまで堪え忍んできたのは、決して無駄ではなかったと。
「お待たせしたでござる! そしてお主! おおっと、動くなでござる。動いたら、お主のベッドの下の秘密のアレをバラすでござるよ?」
「もう誰も傷つけさせねぇ」
 カテリーナが胡散臭い表情で嗤い、かだんがナイフを振り上げた。
 戦力で逆転したケルベロス達は、戦闘用ライドロイドを無事に撃破するのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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