彷徨い求むる剣の名を

作者:麻人

 それは、ある日の学校帰りの出来事だった。
「あれ?」
 ちょっと気になるお店を見つけて、寄り道をしていたノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445) は、いつの間にか自分の周りから人気がなくなっているのに気がついた。
(「何かいる?」)
 戦士の勘がノルンに戦闘の構えを取らせる。不意打ちを避けるため、見晴らしのよい場所へと移動する――階段を駆け上がり、飛び出した屋上の先に紫色のオーラを放つ剣の姿。
「あなたは?」
「我はモルブレント」
 名を告げて、それは鋭い切っ先をノルンへと差し向けた。
「その命、我がもらい受ける!!」

「皆さん、集まってくださってありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はすぐさま依頼の説明に入った。
「今回の予知は、ノルン・ホルダーさんを狙う宿敵が彼女を襲撃するという事件によるものです。既にノルンさんとは連絡がつかず、事態は一刻を争う状況と考えられます。どうか、ノルンさんの救援に向かって頂きたいのです」

 場所はショッピングセンターの屋上。
 宿敵――ドリームイーターである剣型のそれは、名をモルブレントというようだ。その見た目通り近接攻撃を主体とするクラッシャーで、執拗にノルンを狙い、ドレインや足止めといった効果のある斬撃を浴びせてくる。
「ただ迎撃するのではノルンさんが集中攻撃を受けてしまいますから、どうやって彼女を守りつつ戦うのかが大事なポイントとなりそうですね。配下は連れていませんが、攻撃力が高いので気を付けてください。特に突きのような動きをするドレインのついたグラビティは強力です」
 戦場は宿敵によって既に人払いされているため、一般人が迷い込む心配はないだろうということだった。
「駆け付けた時の位置関係としては、ノルンさんを挟んで屋上の柵側に宿敵がいる状態ですね。皆さんはノルンさんの背後から合流する形になります」
 タイミングは、宿敵とノルンが邂逅したまさにその直後となるだろう。

「絶体絶命の状況ですが、どうかノルンさんを救い、宿敵の撃破をお願いします。皆さんなら……きっと、助けてくださると信じています」


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
立花・吹雪(ウラガーン・e13677)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
工藤・千寛(御旗の下に・e24608)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)
椋鳥・渚(アトリエ通い・e47983)

■リプレイ

●追い求め続けたモノ
「はッ……!」
 真っ直ぐにこちらに狙いを定めた剣のドリームイーター・モルブレントを、ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)は石化を及ぼす光線を撃ち放って迎撃する。甲高い音と共にヒビ割れのような模様がモルブレントの表面に穿たれるも、それは気に掛ける様子もなく、再び飛翔を始める。
「――ノルンちゃん!」
 師団で聞き慣れた声がして、ノルンは自分を襲いかけた刃が回転しながら投擲されたバールの直撃によって体勢を崩すのを目の当たりにした。
「来てくれたの?」
「当然♪ 可愛いノルンちゃんを狙うとは許しがたいわね」
 漆黒のスーツを身に纏ったデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)は、勇ましく背の翼を羽ばたかせてノルンの前方、彼女を守れる位置に割り込んだ。
「ふうん……剣だけとはまた変なのもいたものね」
「じっくり分解してみたいですよねー」
 興味津々で頷くのは村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)である。
 彼女はうっとりとした目で、中空へと浮かぶモルブレントを眺めやった。
「実験材料になっていただけないものでしょうかねぇ? ああいう素材ってすべからく知識欲求をそそられちゃうんですよー」
 我慢我慢、と体をしならせつつ念のための殺界形成の展開は忘れない。
「私はどんな魂の感じなのかが気になるわ。けどまあ、ここは攻撃した時の味見程度にしておきましょうか♪」
 デジルが言い終わるより先に、モルブレントの背後で大剣を構えた鎧姿の――そう、まるでビハインドのような人影が派手な剣戟の音を奏でた。
「剣には剣、ってね♪」
 自分の攻撃を囮のように使い、不意をついたデジルは楽しげに微笑んだ。
「制服姿のノルン殿……キター!!」
 だが、直後に響き渡った歓喜の叫びに思わず、ずっこけかける。
「ラプお兄ちゃん?」
 ノルンが呆れたようにラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)を振り返る。だが、彼はぶつぶつと何事かを呟きながら次々と如意棒を繰り出した。
「今回の敵、某配管工がやるRPGで出てきた敵と似ているような、似ていないような……まあ、創造主は幾らかは被るという事でござるね。というか、この宿敵、端から見るとロリコンでストーカーなのでござるね? ……よし、完膚なきまでに消そう。猫っ娘に危害をくわえる奴は塵も残さないのでござるよ」
 剣型の敵もまたラプチャーの猛攻たる斉天截拳撃を刀身で受け止め、自らも斬撃を繰り出して激しい鍔迫り合いを演じながら反駁した。
「誰がロリコンでストーカーだ!!」
「えっ、違うのでござるか?」
 跳躍し、落下する勢いをつけてスカルブレイカーを振り下ろすラプチャー。斧と剣がせめぎ合い、ガッ!! と轟々たる音を奏でながら両者はいったん距離をとった。
「……ところで、そちらは?」
 今気づいたかのようにラプチャーが『謎のヒヨコ売り』に声をかける。
「渚だよー」
 戦場と化した屋上に迷い込んだ一般人――ではなく、変装の達人こと椋鳥・渚(アトリエ通い・e47983)は、べりっと変装を剥がしつつ戦闘態勢に入った。
「ノルンちゃんのピンチと聞いたら、駆けつけないわけにはいかないよねー」
 それにしても、と小首を傾げる。
「剣型のデウスエクスかぁ……ホント色んな奴がいるよね……」
 その姿がいつの間にか可愛らしいウェイトレスと化して――渚はにっこりと笑い、お辞儀する。
「ご注文ありがとうございます。こちらご注文下さいました地獄への片道切符となります」
 そして、挨拶代わりのフォーク串刺し――!!
「うぬッ!?」
 ジャマ―2人による集中攻撃を受けて、モルブレントは自由の利きづらくなった体を引きずるように呻いた。
「おまえ、なんで、わたしの命を狙う?」
 シュヴェルトラウテの剣先を突き付けながら、ノルンが尋ねる。
 モルブレントが含み笑った。
「理由? そんなものを聞いてどうするのだ。我が貴様を狙い続けていた事実は変わらんわ!」
「危ない!」
 咄嗟に工藤・千寛(御旗の下に・e24608)が飛び出して、モルブレントの顔面へと容赦のない蹴りを入れる。
「ノルンさんが過去から狙われ続けていた相手……ここで断ち切りましょう」
「ドリームイーターってびっくりするほど執念深いのよね」
 神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)は肩を竦め、テレビウムのテレ蔵を呼び寄せた。
「そんじゃ、テレ蔵君もがんばろーか。相性的にはかなり有利よ、きっと」
 テレ蔵は嬉しそうに跳ねて、純恋に言われた通りに顔面から眩いばかりの光を放った。
「うおッ!?」
「効いてる効いてるー。ファイトだよ。テレ蔵君」
 モルブレントは目を抑える手はないので、必死に体を捩って苦痛に耐える。
「回復するわー。避けないでねー」
 純恋はぱすぱすと祝福の矢を後衛の吹雪と千寛に飛ばしながら、更にテレ蔵を応援。フラッシュフラッシュ!
「ぐ、ぬぬぬ……!?」
 翻弄されるモルブレントは、その身に迫る抜き身の刃の気配にも気づかない。
「剣の姿をしたドリームイーター、ですか。人が用いる剣術とはまた違ったものがあるのでしょうね」
 すらりと鞘から抜いた日本刀を構え、立花・吹雪(ウラガーン・e13677)はアスファルトを蹴った。
「――ッ!」
 敵の急所のみを見極めた月光の如き一撃。
「ぐッ……」
 よろめくモルブレントへと、吹雪は凛々しい声色で告げた。
「剣術であれば私も負けるわけにはいきません。いざ勝負です!」

●執念
(「まったく、身に覚えのない相手につけ狙われるっていうのも困ったものね」)
 仲間たちに守られながら、ノルンは執拗に自分を標的とするモルブレントを見据えた。頭上にはベルの展開したサークリットチェインが煌めく魔法陣となって前衛を守護し続ける。
「あっ」
 不意に足止めが効いて、ノルンは声を上げた。
「大丈夫ですかぁ?」
 けれど、すぐさまベルが散布する紙嵐がノルンの身から足止めを解除していく。
「ありがとう」
「いいえー。これがお仕事ですから!」
 ベルは後方でぐっと拳を握ってみせた。
「……むー。でもなー、剣とか分解とか解剖したいなー」
「そうでござるねえ。ところでさっきの援護はナイスタイミン! でござるよ」
 状況に応じて器用に武器を使い分けながら、ラプチャーはベルの要所を抑えた行動を褒める。
「やっぱり仲間と共に戦うのはよいものでござるね」
 目の前で、吹雪が目にも止まらぬ剣技によってモルブレントを追い詰めていく。複数人で同じエフェクトを撃ち込んでいくので、溜まるのが早い――!
「足止めとは捕縛は十分かと」
 スターゲイザーによる星光の名残を纏ったまま後方へと着地した吹雪は、攻撃を入れ替わる際にラプチャーと目配せを交わした。
 日本刀を鞘に戻して、代わりに弓――己の霊力をより上げ、氷の霊気を宿したそれ――を手に取った。
「承知でござる」
 ラプチャーは剽軽な笑みを浮かべたまま、吹雪が斬り付けたモルブレントの傷跡をなぞるように刃を迸らせる。
「うぬ、くッ……邪魔をするでないッ!!」
 その身に受け続けたエフェクトが耐えきれない量にまで至っている。
 モルブレントの体が生身なら、大量の血を流しているところだろう。その代わりに彼の刀身にはいくつものヒビが入り、柄の一部も欠けてしまっている。
 ベルが口許を手で抑えて言った。
「あらあら、痛そうですねー」
「ほざけ!!」
 それでも目的を果たそうとノルンに向けて突進するモルブレントを、ベルのシャーマンズゴーストであるイージーエイトと渚のライドキャリバーであるキャメル二世号がその身を盾にして庇った。祈りを捧げ、何とか持ちこたえるイージーエイトの前へと走り出たキャメル二世号が、機銃掃射で追撃を牽制する。
「邪魔をするなと言っている……!!」
 もはや捨て身ともいえる攻撃で襲いかかってくるモルブレントの刃は、だがしかし、ノルンへと届くより前に純恋の紫に染まる縛霊手によって阻まれた。
「ほんっとにもー、ドリームイーターのしつこさって姪っ子ちゃんが言ってた通りだね……」
 心底呆れたようにため息をつく純恋の傷口は、ベルの遠隔手術によって瞬く間に縫合されていく。
「どうせ狙ってる理由もろくでもなさそうな感じだし、遠慮なくぶっ壊すしかないわねー♪」
 にこっと微笑んだデジルはその可憐さとは裏腹に俊敏な動きで屋上の柵を足場に跳躍すると、モルブレントの頭上を取った。
「いくよ!」
「はい!」
 それまでスターゲイザーと轟竜砲を打ち続け、モルブレントの足止めに寄与していた千寛が頷いた。デジルと同じく、両の拳を握りしめる。
「なにッ!?」
 回復体勢に入っていたモルブレントは、デジルと千寛の連携によって同時に繰り出された拳によって後方へと吹き飛ばされた。
「がふッ!!」
 屋上の柵にぶつかり、その場に横倒しになる。
 同時に破剣が解除され、呻きを上げた。
「わ、我が倒される……だと……?」
「案外あっけないなー」
 周辺にファイアーボールをひゅんひゅんと飛ばしながら、渚があっけらかんとして言った。ラプチャーの押し広げた傷跡へと更に炎まで燃え広がらせたのだ。いまのうちに、と渚はノルンの体に格好いい絵を描いて体力を回復させてしまう。
「く……あの女、だけは、必ず……やっと見つけ、たのに――」
 ずる、とモルブレントは地を這うようにノルンへと近づいた。近づこうとしているのに、なぜか届かない。
「残念でしたー。それはテレ蔵君なのだ!」
「な――!?」
 モルブレントの眼前で、テレ蔵がテヘヘと頭をかいている。
 怒りを誘発するフラッシュが敵の目を惑わせたのだ。
「なん……だと……?」
「――拘束制御術式三種・二種・一種、発動。状況D『ワイズマン』発動の承認申請、『敵機の完全沈黙まで』の能力使用送信ー限定使用受理を確認」
 ベルの全身を魔法陣が覆い、大量の霊鎖が生み出されていく。
「キモい敵はゲームだけで充分、さっさとお帰り願うでござる。……万が一、使い手にされても面白くないでござるし」
 パシッと掌にヌンチャクを引き戻したラプチャーの言葉が引き金となり、遂に仕上げの絶空斬へと切り替えた吹雪の操る日本刀がモルブレントの傷跡をもはや修復不能なまでに斬り広げていく。
「ぐあ、ああッ――!!」
「勝負ありましたね」
 吹雪が告げ、
「勝利への道しるべを!」
 千寛の掲げたゲシュタルトグレイブに結び付けられた旗が空にはためいた。
「いきなさい、ノルン」
 デジルに背を押され、ノルンはしっかりと頷いた。
「この剣の希望を以て、その欲望を斬り捨てる」
 援護してくれる彼らの攻撃に合わせて、既に立ち位置はモルブレントの死角を捉えていた。
「どこだ、ノルン……!?」
「剣神解放」
 金色に輝く髪が風になびいた次の瞬間、モルブレントは何が起こったのかも分からないままに砕かれ、その破片に陽の輝きを照り返しながら消滅していった。

「ノルン殿もヒロイン体質というか、大変でござるね」
 厄介な敵につけ狙われていたノルンをラプチャーはそんな言葉で労った。屋上の破損個所にはヒールがかけられ、問題のない状態に修復されている。
「帰りに甘い物でも奢るでござるよ? 無事祝いに」
「わたしも、皆で何か食べに行こうと思ってたんだ」
 ノルンは頷き、かつて奴隷であった頃よりも豊かになった表情で微笑むと、「行こう」と皆に呼びかけた。

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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