太陽摘みのロンド

作者:坂本ピエロギ

「ひ、ヒマワリが……! 逃げろ!」
「ギギギギ!」
 血に染まった麦わら帽子を、蠢く根が踏み潰した。
 大人よりも背の高い屈強なヒマワリはいま、地を歩き、奇怪な鳴き声をあげて、破壊光線で観光客の青年を焼き払っている。
 大阪市内、早朝。
 その日、ヒマワリ農園の一角を訪れた人々を襲ったのは、降り注いだ謎の花粉を浴びて、攻性植物化した巨大ヒマワリの群れだった。
 ヒマワリの破壊光線は、若い親子の絶叫をかき消した。
 毒の種子は老人を蜂の巣にし、絡みつく根は逃げ遅れた子供を絞め殺した。
「早く逃げろ!」
「助けて……」
 人々の悲鳴に包まれた農園は、あっというまに静寂に覆われる。
 残されたのは、侵略者の禍々しい息遣いだけだ。
「ギギィ……」
「ギギ……」
 鮮血に染まったブリックロードを闊歩する、黄色い花の異形達。
 畑はえぐれ、炎に包まれた農園に、生きている者は一人もいない。
「ギ……」
「ギギギ……」
 燃え盛る炎を背に、6体のデウスエクスは歩き出す。
 地球人を虐殺し、憎悪と拒絶を振りまいて、大阪を自分達の根城とするために。

「もうすぐ夏休みも終わりなのに、嫌な事件が起こるのだ……」
 鉄・千(空明・e03694)は哀しげに呟くと、ヘリポートの仲間達へと向き直った。
「6月に起きた花菖蒲の事件。調査の結果が出ましたのだ」
「うむ。同じ大阪市で、ヒマワリの攻性植物が出現するようだ」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)が話を継いで、事件の概要を説明し始めた。
 現場は市内のヒマワリ園のひとつだ。開園後間もない早朝、園内の一角に咲くヒマワリ達が謎の花粉で変異し、攻性植物と化して人々を殺戮するという。
「敵の数は6体。状態異常を付与する能力に特化しており、連携も取れている厄介な敵だ。全力で当たらねば敗北する可能性もある、十分注意してくれ。最低でも5体以下に頭数を減らさねば列攻撃でのBS付与は困難だろうから、そこも留意するように」
 敵は毒や炎、捕縛といったバッドステータスを、中距離から怒涛のように浴びせてくる。
 個々の強さも決して雑魚と侮れるレベルではない。
 要するに、シンプルに手強い相手ということだ。
「次に現場の状況だ。農園の正門を北に直進すると円形に開けたレンガ敷きの広場に出る。そこで待機し、北側の花畑から集団でやってくる敵を残らず撃破してくれ。警察の手配は私が済ませておくから、避難誘導や人払いは気にしなくていい」
 王子は説明を終えると、ケルベロス達を見回した。
「奴らの最終目的は人々を大阪から追い払うことだ。そうする事で大阪城の地下に存在するゲートが破壊される確率は下がり、より生息範囲を拡大できる」
 無論そんな事を許すわけにはいかない。
 大阪の戦いは、どちらかが全滅するまで終わる事はない。
 そして、人類が全滅という選択肢を選ぶことはあり得ないのだ。
「平和な日常を守れるのはお前たちだけだ。厳しい戦いになるだろうが、頼んだぞ!」
 そう言って王子はケルベロスに敬礼し、ヘリオンの発進準備に取り掛かるのだった。


参加者
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
鉄・千(空明・e03694)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
影守・吾連(影護・e38006)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ


 8月某日、早朝。
 ヘリオンを降下したケルベロスは、ヒマワリ園の広場で攻性植物を待ち構えていた。
 避難が終わった園内に人影はなく、無人の花畑はシンと静まり返っている。
「もう夏も終わりだね。だいぶ、暑さも和らいだ感じがする」
「全くデス。日差しもずいぶん穏やかになりまシタ」
 太陽を仰ぐジェミ・ニア(星喰・e23256)に、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は微笑んで頷くと、広場を取り囲むように咲くヒマワリ畑を見回した。
 これから始まる戦いなどどこ吹く風で、青空の太陽をのんびり見上げる花々に、エトヴァの胸は小さく痛む。異形と化したヒマワリ達も、本当なら彼らと一緒に夏を終えるはずだったのに――と。
「ヒマワリは人を照らす、太陽の花。人を襲うナド、本来の意ではないでショウ……」
 そう思いながら眺める畑の一角で、ふいにヒマワリがひとりでに動いて道を退き始めた。筐・恭志郎(白鞘・e19690)が『隠された森の小路』で花々を避けさせているのだ。
「これで避難完了ですね。人もヒマワリも」
 農家の出である恭志郎にとって、植物は人間と同じくらい愛おしい存在。これで少しでも被害が減るようにと祈る横で、レンガ道を注視していた葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)が小声で警戒を呼び掛ける。
「……しっ、皆さん静かに。来たようです」
 かごめの注意喚起に、千手・明子(火焔の天稟・e02471)は目を凝らした。
 すると彼女の視線の先、道に断ち切られた黄色い地平線を繋ぐように、6体のヒマワリが一列に並んでやって来るのが見えた。その殺気たるや凄まじく、遠巻きに見つめる明子の肌をビリビリと突き刺すほどだ。
「まあ、あれがわたくし達の相手なのね。でも皆が一緒なら、絶対大丈夫!」
 2メートルを超える巨躯の攻性植物達は、いまやケルベロスを完全に認識し、刃のようなプレッシャーを一層色濃く放出している。怪物と化した彼らの姿に、もはや太陽のように瑞々しいヒマワリの面影はない。
「わたくし達で何とかしなくちゃ。この頼れるわたくし達皆で!」
 熾烈な戦いを歓迎するかのように、ぶんぶんと腕を振る明子。
 敵が放っているオーラを感じ取ってか、影守・吾連(影護・e38006)と鉄・千(空明・e03694)も、ドラゴニアンの翼を広げて戦闘態勢に入っていた。
「なかなか手強そうだけど……でも良かった」
 武者震いを抑えるように、立派な尻尾をブンと振るう吾連。その言葉に千は角を生やした頭を小さく傾ける。
「良かったって……何が?」
「千が調査してくれたお陰で、人々を守れるから。誰の命も奪わせないよ!」
「そうだな……皆が一緒なら絶対だいじょぶ、負けないのだ!」
 既にケルベロスとヒマワリの距離は、お互いの顔が視認できる距離まで縮んでいた。
 張り詰めた空気の中、妙に冷たい風が早朝のヒマワリ園を吹き抜ける。
「そこまでです。ここから先は通しません」
「ギギギギ……」
 ジェミを先頭に包囲陣形を組むケルベロスを見た攻性植物は、敵意もあらわに花から紫の液体を滴らせ、攻撃態勢を取る。
 広場に張り詰める一触即発の空気。ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)は口を開き、静かに戦いの始まりを告げた。
「キミたちにそういう思考があるのかどうかは知らないけれど――」
 エアシューズを踏みしめて、敵を真正面から睨み据えるウェイン。
 その口が告げるのは、敵の殲滅だ。
「――懺悔の時間だ。鋼鉄殲機が、キミたちを解体する」
「ギギギギギ!!」
 ウェインが言い終えるや、一斉に襲い掛かるヒマワリ達。
 かくして戦闘は開始された。


「ギギギギギギ!!」「ギギギギ!」
 攻撃態勢を取るケルベロスめがけ、ヒマワリは一斉に黒い種子を飛ばしてきた。
 アーモンド型に尖った有毒の種が弾丸と化して、前中衛へ無差別に襲い掛かる。
「盾は引き受けます! 攻撃班の皆さんはどんどん攻撃を!」
 明子を庇った恭志郎が、反撃を促した。ジェミとウェインは心得たようにエアシューズで瞬時に加速すると、
「まだまだ未熟な僕ですが、皆を守るため敵を必ず仕留める!」
「容赦はしない。斃れてもらうよ」
 レンガを砕く種の掃射を避けながら距離を詰め、流星の飛び蹴りを放つ二人。
 白い光が同時に走り、電柱のようなヒマワリの胴にX字の傷跡を刻み込む。
「ギギッ……」
 ウェインの蹴りが直撃するも、敵の勢いが衰えた様子はない。ぞわぞわと広場を覆いゆく根をステップで越えながら、明子が『陽炎之太刀』を繰り出した。
「千手の剣を見るがいい……!」
 陽炎めいた揺らめきを纏い、明子の日本刀『白鷺』が一閃。ヒマワリは回避を試みるが、ジェミとウェインの付与した足止めはそれを許さない。
 電柱のように太い茎が横一文字に切り裂かれ、噴出した紫色の液体が広場を汚す。
「ギイィィィ!!」
 クラッシャー2人とスナイパー1人の最大火力に近いダメージを浴びてもなお、ヒマワリは倒れない。それどころか、お返しとばかり毒々しい黄色の花に太陽光を収束させ、一斉に破壊光線の発射態勢に入り始めた。
(「まずい……!」)
 かごめが負った傷を見て、恭志郎は形見の護身刀を手に取った。
 敵の破壊光線には炎を付与する力がある。毒と炎のダブルパンチを浴び続ければ、中衛の彼女は行動不能に陥ってもおかしくない。
「吾連さん、支援を急ぎましょう!」
「任せて。皆の背中、必ず守り抜くよ!」
 護身刀の剣閃が描く地獄の白炎に包み込まれながら、吾連は自身の魔力をオーラへと変換し始めた。
 変換完了。オーラに雷を纏わせ、状態異常の耐性と共にかごめの傷を吹き飛ばす。
「我が身に宿りし雷光よ、此の者に天の恵みを与えん!」
「攻撃するぞ! 覚悟するのだ!」
 かごめの回復とBS耐性付与を確認すると、千は負傷した攻性植物めがけて跳躍し、距離をつめた。幸い、かごめ以外のダメージはディフェンダーに集中している。回復は吾連に任せて大丈夫だろう。
 この戦いは守ったら負けだ。少しでも早く頭数を減らさねば、ジリ貧は必至である。
(「今は攻撃あるのみ! なのだ!」)
 かごめが縛霊手から散布する紙兵を纏い、エトヴァが奏でる「ブラッドスター」の旋律を背に、旋刃脚を叩き込む千。重機を蹴ったような鈍重な感触を振りぬき、敵をマヒの織に閉じ込める。
「ギギギギギ……」
 敵の照準は6つとも、ウェインと吾連に向いている。恐らく先程の攻撃で、こちらの役割分担をあらかた見定めたのだろう。それを見た明子は、敵の連携に舌を巻いた。
「吾連君、気をつけて!」
「ギギギギギ!」
 明子が言い終えると同時、破壊光線が発射された。
 果たして狙いは後衛の二人。均等に分かれて襲いかかる6本の光線を千とエトヴァが同時に庇うも、全ての攻撃は殺しきれない。
「うわ、アチチッ!!」
「……っ!」
 すり抜けた光線を浴びた吾連とウェインは、たちまち燃え盛る炎に包まれた。直撃を受けたウェインのダメージは特に大きいようだ。
「――加護を。状態異常の人は、どんどん申告して下さいね!」
「支援ありがとう。さあ、行くよ」
 恭志郎の纏華で回復したウェインは白いマフラーをなびかせ、スパイラルアームを放つ。
 防御態勢を取ったヒマワリのガードを突き破り、高速回転する機械腕が直撃。最初の敵が、断末魔と共に斃れた。
「千さん。敵が丁度よく減ったよ!」
「さあ、チャンスよお千ちゃん!」
 次なる標的にコアブラスターを叩き込むジェミ。息を合わせて月光斬を一閃させる明子が振り返って微笑む。
「了解。任せて下さいなのだ!」
 紙兵のBS耐性で炎を消し、エトヴァの気力溜めで傷を癒した千は、小さな口から竜の炎を吐いて、ヒマワリの隊列を炎で覆いつくした。
「ギギギ!」「ギギギギ!!」
「熱いのですか? では冷やして差し上げます」
 炎上して転げ回るヒマワリめがけて突き出される、かごめのイガルカストライク。炎と氷の責め苦に敵を突き落とすかごめの後方で、吾連はフローレスフラワーズで後衛の負傷を炎と一緒に吹き消すのだった。


「ギギギギ!」
 種子の掃射が、再びケルベロスへと襲い掛かった。
 BS耐性とキュアを徹底したことが奏功し未だ重傷を負った仲間こそいないものの、その体力はじわじわと削がれてきている。
(「何とか、もう1体……!」)
 有毒種子からかごめを庇った恭志郎は、前衛にBS耐性が行き渡ったことを確認すると、マインドリング『蒼華』で生成した剣を2体目の攻性植物へ叩き込んだ。
 シャウトで負傷を回復するウェインの代わりに放たれた一撃が攻性植物の枝を切り裂き、その体をプレッシャーで縫い留める。
「もう一息よ! 頑張りましょう!」
 斬り下ろされた明子の絶空斬に茎を切られ、ぐらりとよろめく攻性植物。そこへジェミの飛ばす『Devour』の影矢が、千の『兎子氷舞の術』と共に更なる追撃を叩き込む。
「餮べてしまいます、よ?」
「ウサコ、あられやこんこ!」
 ウサギの幻影が踏むステップが、瞬く間に攻性植物を氷で包み込んでゆく。猛攻を浴び、原形を失ったヒマワリは最後のあがきで反撃を試みるも、かごめのマルチプルミサイルの直撃を受けて砕け散った。
「着実に、勝利に近づいている……といったところですネ」
 耐性によって回復しなかった味方のBSを吾連と共に気力溜めで消しながら、エトヴァが呟く。綱渡りの戦況がじわりじわりと優勢に傾くのを、ケルベロスは感じていた。
 明確な役割分担。敵のBSへの徹底的な対策。複数のケースを想定した立ち回り。どれかひとつでも欠けていたら、更なる苦戦は免れなかったに違いない。
 残る攻性植物は4体。お互いに首を絞め合うような戦に臆することなく、攻性植物は再び破壊光線を後衛へと浴びせてきた。
「油断せず、確実に。全員で勝利を掴みまショウ」
「ヒマワリの花言葉は憧れ……子供の憧れを、汚さないで欲しい」
 吾連とエトヴァの回復支援を背に、火力を担うメンバーが次々と攻性植物へ襲い掛かる。
 恭志郎の気力溜めで支援を受けたウェインが、蓄積した魔力を暴走させ、跳躍。次なる敵めがけ、光の粒子の織り成す斬撃を雨霰と叩き込む。
「僕の一撃も、受け取って下さい!」
 ウェインの放つ白い光弾の中から、一際大きな流星の一撃が叩き込まれる。エアシューズ『Schwalbe Licht』を装着したジェミの渾身の飛び蹴りだ。
「ギ……ギギ……!」
「あきらちゃん、今ですのだ!」
 折れ曲がった体で、なおも根を振るうヒマワリめがけ指天殺を叩き込む千。身動きが取れなくなったところへ明子が白鷺を振り下ろし、切断されたヒマワリの花が転がった。
「これで残るは半分ですね。ミサイル、一斉発射!」
 かごめの背中から、肩から、手足から飛び出るポッドから、ミサイルの群れが次々と発射され敵に食いついた。状態異常を活性化させるかごめの技、『ジグザグミサイル』だ。
 攻性植物は、張り巡らせた縄のような根でかごめに反撃を見舞おうとするも、活性化したパラライズで1体が倒れ、残る2体の攻撃はエトヴァと千に食い止められた。
 炎に氷にパラライズ。殆ど最大限にまで活性化した状態異常に絡め取られ、一気に態勢を崩した攻性植物にケルベロスの攻撃が雪崩をうって殺到する。
「さあ千、決着だ!」
「ごーごー吾連! 突撃するぞー!」
 ウェインのスターゲイザーが、次なる攻性植物に直撃。恭志郎のマインドソードで体勢を崩したところへ、吾連の雷のオーラで捕縛を振りほどいたジェミがスパイラルアームで頭部を粉砕する。
 残るは2体。かごめのパイルバンカーを受けて体を折り曲げるヒマワリに、旋刃脚を叩き込む千。炭化した葉の破片が飛び散り、氷結した花びらが砕けて粉となる。
「これで終わりよ! ええいっ!」
 明子の白鷺が鞘走り、獲物を啄む鳥のように攻性植物の頭を刺し貫いた。
 達人の一撃の直撃を受け、斃れる5体目。
「これで最期デス」
 捕縛を気力溜めで解除したエトヴァに向かって破壊光線が放たれるも、もはや悪あがきに等しい。与えた傷は即座に回復され、反撃で放たれるジェミと明子とウェインの集中砲火を浴びて、最後の攻性植物もまた仲間達の後を追った。
「ふうっ……お疲れ様。千、怪我は大丈夫? 回復するよ!」
「ありがと吾連! お返しなのだ!」
 負傷を気遣ってくれた吾連に千はニッコリ微笑むと、分身の術でお礼のヒールを施した。
 幸い重傷を負った者はいない。ジェミはその事実に胸を撫で下ろし、仲間と共に片づけを始めるのだった。


 現場修復と諸々の仕事を終えた頃、ヒマワリ園は再び賑わいを取り戻した。
「折角ですから、ヒマワリ園を見学しませんか?」
 黄色いヒマワリ畑の海に飛び込んでみたい――そんな好奇心を湛えたジェミの申し出を、仲間達は快諾する。
「吾連、ひまわり見に行こ!」
「うん、行こう行こう!」
「皆も一緒に行こ! お疲れさまの後に見たら、元気ちゃーじできるのだ!」
 千と吾連は初めからその気だったようで、すっかり乗り気の様子。千は手を差し出して、吾連はその手を取って、駆けていく二人の背を見送った明子が恭志郎を振り返る。
「わたくし、ヒマワリと背比べしてみたいわ。恭志郎さん、一緒にどう?」
 背比べ、という言葉を聞いた恭志郎は、笑顔をピクリと引きつらせて、
「お、俺はどうしようかな……せ、背が低めなの気にしてる訳じゃないですよ?」
「ふふふ。行きましょ!」
「あきらちゃーん! 一緒にひまわり背比べするのだー!」
 千に誘われてヒマワリを見上げる明子と吾連。それを見守る恭志郎の横では、エトヴァがほんのちょっぴり上背のある花を見上げている。
「ヒマワリ……高いのですネ。青空が似合う、夏らしい花だと思いマス」
「ええ。顔を上げて力強く咲く花、とても好きです」
「千もひまわり大好き! 大好きな皆と見ると、ますますキラキラして見えるな」
 笑いさざめく仲間達を見て、ジェミの顔が自然と綻んだ。
「お日様の光を受けて、皆を元気にしてくれる。ヒマワリはこうでなくっちゃ」
 ヒマワリ畑の散策を終えて広場のベンチに腰掛けると、エトヴァがそっと包みを広げた。アイスコーヒー、ティー、水……冷えた飲み物が、憩いのひと時に彩りを添える。
「皆様、宜しけれバ、お好きなものヲ」
「美味しそう! さすがエトヴァ!」
「夏バテが怖い季節ですカラ、水分補給はこまめにト」
 エトヴァの好意に甘えて、明子はアイスコーヒーを飲み干した。
 程よい苦みと冷たさは、夏の太陽をより強く感じさせる。
「なんだか暑くなってきた! かき氷とか食べたいな……」
「かき氷、良いですネ……せっかくですし、食べて帰りまショウカ?」
「賛成なのだ! 皆は何にするのだ?」
 ゆっくりと過ぎゆく、晩夏の一日。
 風を浴びたヒマワリが、穏やかにさざめいていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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