静かなる鏖殺

作者:崎田航輝

 自然の息遣いが感じられる森だった。
 樹齢の想像も出来ぬ程の大木に触れると、幹が温かくて不思議と落ち着く。周りに広がる美しい緑も多種多様でありながら静謐な気配を漂わせていた。
「霊験が強く得られる──そんな自然ですね」
 月枷・澄佳(天舞月華・e01311)はそっと木から手を離し、目を上げる。
 空は青く晴れていて、木々は風にそよぐ。森の中であるのにひんやりとしていて、どこか俗世と離れた幽玄さがあった。
「あの神社とは違う……けれど、どこか似ているかも知れませんね」
 呟いて目を細める。
 こんなふうに、人里離れた景色の中で修行した日々を思い出していた。
 今は多くの人に触れ、都会を歩き、体の弱さに悩むこともない。けれど僻地で過ごした日々と記憶は澄佳にとって大きなもので、それがどこか懐かしくもあった。
 きっと、そんなことを想起していたからだろう。
 自然の世界に入り込んだ異分子の気配にすぐに気づいたのは。
 緑の葉が揺れ、木々の間に影が奔った。
 虫でも動物でもない、明らかな人型。澄佳はすぐに警戒を浮かべて、視線を巡らす。
「──ただの人ではありませんね。何者ですか」
「……被発見状態確認。距離、時刻、予想範囲内。戦闘力推定の上方修正必要なし」
 響いたのは澄佳とも変わらぬほどの少女の声だった。
 現れた顔も、一見はあどけなさすら残る可憐なもの。ただ、その外装と乏しい表情、そして手に携えた刃がその印象を塗り替える。
 澄佳は一歩下がって、姿勢を低く取っていた。
「ダモクレス、ですか」
「質問に答える意味はありません。ですが、肯定しても構いません──死ぬならば、同じことですから」
 機械の少女は無機質に間合いを詰めてくる。そうして言葉を続けた。
「SR-05【マーダー】。私の名です」
 声には抑揚もなく。ただ己が目的のために、刃を振り上げた。

 静寂の森で月枷・澄佳が襲撃される。
 一刻の猶予も無い強襲事件。イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はその説明とともに、ケルベロス達を見回していた。
「判明しているのは、予知に見えた情報と、あとは僅か数点です。ただ一つ、時間が無いことだけは確かですけれど」
 いわく現時点で、澄佳は既に予知にあった森にいる。
 予知にあった強襲も、程なく起こる。こちらも連絡を試みはしたが、何かの原因によってそれがうまくいかない。澄佳が1人の状態のまま敵との邂逅を果たしてしまうのは、避けられない事態だろう。
「それでも、今から急行して澄佳さんの救援に入ることはできます。時間の遅れは多少出てしまいますが、充分にその命を救うことはできるはずです」
 ですから確実に、作戦を練った上で戦闘に当たって下さい、とイマジネイターは言った。
 現場は自然の豊かな森。
 木々を含めた緑の多い場所で、周囲は無人の状態。一般人の流入に気を使う必要はない。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、急ぎ戦闘に入ることに集中して下さい」
 大きく視界が開けているわけでもないが、静かな場所でもあるので、澄佳を発見すること自体は難しくないはずだ。
「無論、敵は強い相手です。合流後も細心の注意を払って戦ってください」
 敵は『SR-05 【マーダー】』というダモクレス。澄佳の命を狙ってやってきたらしく、行動には慈悲も躊躇もない、危険な相手だ。
 能力としても多彩で、手強い敵となるだろう。それでも澄佳を無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「だから、行きましょう。僕たちの仲間を助けるために」


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
月枷・澄佳(天舞月華・e01311)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
ボニー・バルトル(ワーキングランチ・e61446)

■リプレイ

●宿縁
 そこは清らかな緑が広がる森だった。
 木々の葉も静かにそよぎ、美しい。ただどこか危険な気配も漂っていて、降り立ったジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)はその不穏さに辺りを見回した。
「近くにいる……つっても、見えるのは予想通り木だけか」
「頼りになるのは聴覚、ですね」
 頷く霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は、未だ穏やかな表情を保ちながら。それでもつぶさに耳を澄ましている。
 全ては1秒でも早く、仲間の元へ辿り着くため。
 だから皆はそれを聞き逃さなかった。遠方から響く衝撃音と、樹木の倒れる大音を。
 ベージュの髪をふわりと翻し、ボニー・バルトル(ワーキングランチ・e61446)はそちらへ視線をやっていた。
「あちらの方から聞こえたようです! 行きましょう!」
「先頭は俺に任せて! 道を作るよ!」
 いち早く駆け出したのは甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)だった。隠された森の小路の力を発揮して枝葉を避けさせ、一直線の進路を後方の皆にも走らせる。
 木々を縫っていくと、りん、りん、と鈴の音も聞こえてくる。それを辿るように進むうち、リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)は遠くにその人影を見つけていた。
「どうやら間違いない。既に戦いも始まっている」
 垣間見えたのは2つの影。仲間と、そしてデウスエクス。
 荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)の表情は静かで、変わらず動きはない。けれどその赤い瞳は真っ直ぐに向いていた。
「お助けしましょう……ケルベロスといえど……一人で戦うのは危険ですから……」
「ええ」
 頷くウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)もその穏やかな声音の内に、力強いものを滲ませる。そこにあるのは仲間を助けたいという、飾り気のない想い。
「──月枷さん、今暫くの辛抱です」

 月枷・澄佳(天舞月華・e01311)は振り上げられた刃から素早く間合いを取っていた。
 見つめるのは正面の機械少女、SR-05【マーダー】。
「SR……以前に倒したダモクレスの姉妹機ですか」
 呟く声音は、もうその正体に思い至っている。SRのナンバーを持つ対ケルベロス戦闘機を、既に幾度も打ち破っていたからだ。
「彼女達の仇討ち、でしょうか?」
「仇討ちなるものは人間的な感情と類推。ただ、撃破された同胞の為、果たせなかった使命を私が継ごうと判断しただけです」
「……きっとそれを、仇討ちというんですよ」
 心の無き少女へ澄佳は応える。同時に、一対一が不利な状況とは既に判っていた。
(「懐かしさから気軽に一人で森に入ったのは少々軽率でしたか」)
 ダモクレス相手に無謀な孤軍奮闘、それでも。
「──抵抗はさせて頂きます。武器を置いてきたのも失敗でしたが……無ければ無いで何とかするだけですから」
 瞬間、澄佳は魔人降臨【紅霧装】を行使。憑依させた魂により、紅霧を纏った白髪紅眼の魔人へ変貌した。
 同時に霧を刃へと変化させると、振り抜いて剣風を飛ばす。
 マーダーは澄佳の姿に一瞬目を見開きつつも、機敏な動きでそれを躱した。
 樹木だけが倒れる中、反撃の刃を投擲されて澄佳は血を散らす。霧で威力を抑え、意識を集中して体力も保つが、マーダーは鏖殺領域を広げて内部まで蝕んできた。
 浅い息を零す澄佳へ機械少女は歩み寄る。
「あらゆる分析で、私が負ける確率はゼロです」
「……確かに、一人であなたを相手するのは流石に厳しいですね」
 ですが、と。澄佳は視線を横へやっていた。
「来て下さると信じていましたから」
 ──仲間と一緒なら、この状況は覆せる、と。
 思いと共に見つめたそこに、駆けてくる仲間の姿があった。
「おい! 伏せてろ!」
 声を張って制圧射撃を放つのはジョーイ。
 地を弾く銃弾を、マーダーは咄嗟に後ろに跳んで回避する。ただ、その頃には澄佳を守る位置へと割って入る影があった。
 それは【幻想武装博物館】製『M・P・Cマント』を翻すツカサ。留め金代わりのアミュレットを輝かせ、見せる笑顔はまるで日常の延長のよう。心を柔らかく解きほぐす声音で、澄佳に振り向いていた。
「澄佳ちゃん、お待たせ!」
「甲斐さん──それに皆さんも、ありがとうございます……!」
「ええ、澄佳さん、ご無事ですか……!」
 次いで、駆け寄ったウエンが傷を確認すれば澄佳は健常に頷いてみせた。
 実際、ツカサが分身体を生み出してその傷を肩代わりさせることで、澄佳はほぼ万全となっている。
 ほっとした様子を見せたウエンは、すぐに敵へ眼光を向けていた。
「一先ずは安心、ですがゆっくりお話ししている暇はまだなさそうですね」
「……敵戦力増大、確認。……仲間、ですか」
「そういうことですよ~。どうもどうも」
 静かに呟くマーダーに返すのは、背後から包囲する裁一。その手には既に、煌く流体が渦巻いていた。
「デストロイですよ~、というわけで、まずは感覚強化しときましょうね」
 瞬間、輝く粒子が仲間に溶け込み、意識を澄みわたらせる。ボニーもそこへ細かな光の群を踊らせて、皆の知覚力を一気に引き上げた。
「これで狙いも確かになるはずですっ!」
「よし、ここからは俺達と……反撃開始だ!」
 ツカサの言葉に澄佳も頷き、敵へ距離を詰めていく。マーダーは刃を投げようと構えていたが、そこには既にウエンが跳躍。手元を弾いて刃を落とさせた。
 綺華は妖精弓Nemesisに光を集め、祝福の力を矢にしてリノンへ与える。
「今です……魔を砕く力で……攻撃を……」
「ああ」
 応えたリノンは『アディス・カロ・マヴロ・ヒェリ』。自在に動く影を形成したかと思うと、それを使役し地を滑らせる。一瞬の内にマーダーの足元を捕らえたそれは、装甲の一部を闇へ引きずり破壊。その機動力を奪っていった。

●反撃
 風が枝葉を揺らす音だけが響く。
 マーダーは包囲陣の中心で、出方を窺うように姿勢を低めていた。
「しかし、螺旋忍軍より忍んでそうなダモクレスですね。こんな森で暗殺とは心得てると言いますか──」
 と、裁一は改めてその姿を見て言葉を零す。声音はあっけらかんとしているが、観察するほどにその敵の脅威は理解していた。
「──予知が出来なければ普通にアウトでしたね」
「ま、それでも間に合ったんだ。クッソ面倒臭ェ相手だが……ここでぶっ倒してやるよ」
 ジョーイは既に地を蹴り、マーダーの正面に踏み込んでいた。
 握り込むのは家宝の冥刀。業物の一刀をその膂力を活かして振るうと、横薙ぎに斬撃を打ってマーダーの装甲にひびを入れる。
 よろけた彼女へ、更に返す刀で連撃。金属の破片を散らして防護の一部を粉砕した。
「自慢の速度も多少は落ちたか。次やってやれ!」
「……私が行く」
 小さく、静謐の声音で応えたのはリノンだ。
 その瞳と表情はどこか、内面の窺えぬ色。だが視線は冷静で、下がるマーダーの動きを的確に見て取ると、一瞬だけ光の翼を輝かせて飛翔。ブロンドにも似た艷やかな茶髪を靡かせて頭上を取っていた。
 瞬間、体を翻し一撃。強烈な蹴り落としで半身を打ち、機械の体をひしゃげさせて動きを鈍らせる。
 マーダーはそれでも止まらず、振動剣で中衛へ斬りかかってきた。
 だがツカサは退かず無銘刀“伝無”を抜刀。その黒一色の刃で敵の刃を真っ向から受け止めている。
「やらせないよ。誰も、傷つけさせるなんてこと──!」
 真っ直ぐな声音に力を込めて、振動剣を弾き返す。
 衝撃波だけでもツカサの体には細かな傷が刻まれていた、けれど直後にはその傷を淡い光が包んでいる。
「大丈夫です……その傷も……苦しみも……すぐに取り除いてあげます……」
 それは、そっと囁きながら天に祈る綺華の力。『少女ノ献身ハ傷ヲ癒ス』──名に違わず、綺華の想いが空に昇るたび、光は温かくツカサの傷を撫でて痛みを消していく。
「これで……完治もすぐのはずです……」
「それでは、あとは私が面倒をみて差し上げます!」
 優しく言ったのはボニーだった。
 笑顔と声音で作り上げる愉快な空気は、『冒険はお酒の中に』。心に希望を抱かせる言葉の一つ一つが、前を向く原動力となってツカサを癒やしきっていく。
「ふたりとも、ありがとう!」
 と、明るく笑うツカサは、自身だけでなく仲間にまで『悠久に燃えし冒険心』を抱かせていた。それは意志を力に変えることで戦闘力を高めさせる能力だ。
 短時間で建て直された形勢に、マーダーは微かにだけ険しい顔色をしていた。
 ボニーはそこへ顔を向ける。
「機械兵は正確無比と聞き及んでおりましたが、どうやら勘定を間違えたようですね」
「……」
「9人をもてなすには些かリサーチが足りなかったのでは?」
「……だとしても、暗殺を完遂するのが私の役目です」
 マーダーは刃を握り込んで疾駆する。
 が、その手元を直後に衝撃が打ち据えた。綺華のウイングキャット、ばすてとさまの放ったリングだ。
 隙が生まれた瞬間、澄佳が肉迫。紅霧の刃で斬って温度を奪い、武装を凍結させている。
「これで更に、苦しくなったはずですよ」
「……っ」
 息を零したマーダーは、跳躍。木々の間を巡り、隠れるように間合いを保ち始めた。
「随分と遊ぶような真似をしてくれますね」
 ウエンは視線を巡らせながら、いつもの笑みに交え、微かに眉を顰めさせる。
「ですが、僕たちは遊ぶつもりはありませんよ──仲間の命がかかっていますからね!」
 刹那、強く地を蹴って直進する。
 柔らかな髪をさらりと靡かせながらも、振りかざす斧は巨大。握る柄に重みを感じないのは膂力に加えて意志の力まで加わっているからか。
 振り下ろされた刃は違わずマーダーを捕らえ、衝撃でその肩を深々と抉る。
 よろけるマーダーへ接近しているのは裁一だった。後退しようとする敵へ、許さず追い縋って刃を振り上げる。
「させませんよ。魂の底から反芻して苦しむべし!」
 刀に湛えた呪詛を黒く棚引かせ、大振りに振るった刃で一閃。苛烈な斬撃で体を袈裟に裂き、消えぬ裂傷を刻みつけていく。

●静寂
 自然の大地に金属の破片が落ちる。
 機械少女は、体の機能を如実に低下させつつあった。ただ、それを自身で認識しながらも、機械的な殺意は衰えず。ただ刃を構え直し真っ直ぐに前進してくる。
 ジョーイは放った斬撃が未だ機敏に避けられるのを見て顔をしかめた。
「まだ避けんのか……ったく、クッソ面倒臭ェ──」
 ぼやきながら、しかし今更狼狽えはしない。直後には刀を上段に構え、煌々とオーラを纏っていた。
「──じゃあこれはどうよ!?」
 振り下ろす斬撃は『鬼神の一太刀』。強烈な縦一閃にマーダーは前進を止められる。
 ならばと左右に跳ぼうとするが、そこへも裁一が追いついていた。
「ちょこまか鬱陶しいので少し大人しくして、どうぞ?」
 言葉と共に打ち込むのは、毒入り潤滑油を含んだ注射。『嫉妬暗殺術』によるその一撃はマーダーを止めて地に落とす。
 ただ、彼女は動かずとも膝をついたままに鏖殺領域を広げてきた。
 が、広域を取り巻くそれを、ツカサはマントを翻して防御。多重に庇い受けて被害を抑えている。苦痛があろうとも見せるのはやはり、笑顔だ。
「大丈夫、皆、俺が守ってみせるからね!」
「……あまり無理をするなよ」
 小さくリノンが呟くのは心配の表れでもある。だがそこへボニーがすぐに治癒の力を生み出していた。
「その傷もすぐに治してしまえば、大丈夫ですっ……」
 ツカサを中心に前衛の体を覆うのは、エクトプラズムの輝き。発光する優しい煌めきが、被害の及んだ全員の傷を吸収するように治癒していった。
「これで万全となったはずです!」
「ああ、ありがとう!」
 声を返したツカサはすぐに伝無を振るって敵へ連続斬撃。リノンもまた手を伸ばすと氷結の槍騎兵を召喚。氷気の剣撃でマーダーの足元を凍結させていく。
 マーダーはそれでも刃を投擲しようとした。が、それが甲高い音に弾かれる。綺華が銃を構えてマズルフラッシュを閃かせていたのだ。
「これ以上の……攻撃は……させないです……」
 銃を握る綺華は、平素から想像もできぬ程機敏で、狙いも正確。連続射撃で敵の体を穿っていった。
 弾け飛ぶ体のパーツにマーダーは呻く。
「こんなことが……」
「だから言ったでしょう。遊ぶ気はありません、と」
 すたりと歩み寄るウエンの甘い蜜の眸は、いつしか冷たい月冴に変わっていた。
 手加減は無く、最後まで戦い切る。瞬間、強力な電磁場が機械少女を包んだ。その能力は『Lausbub puzzle』。金属の体は抵抗できず、動きを失う。
「月枷さん」
 ──その手で止めを。
 ウエンの視線に、澄佳は頷いた。
「ええ。SR-05 【マーダー】……これで終わりです」
 中段に構えた霧の刃には、降魔の力も含めていた。澄佳は全霊の一刀を放つと機械少女を両断。その魂を喰らい、命を打ち砕いた。

 森に静寂が戻る。
 さわさわとした葉音だけが聞こえる中、機械少女の残骸は消滅を始めた。光の粒になっていくそれは、風に流されるようにして跡形も無くなっていく。
 澄佳は暫しそれを見上げていた。
「……完全に、消えましたか」
「もう危険は無ェみてェだな」
 周囲を見回していたジョーイが呟く。もう不穏な気配はそこにはなく、元の幽玄な空気が漂っているのが皆にも感じられた。
 ツカサは息をついて皆を見る。
「みんなお疲れ様。澄佳ちゃんも無事で何よりだよ!」
「ええ。皆さん、ありがとうございました」
 澄佳が改めて言うと、皆も頷いた。
 リノンは皆の様子を見て回る。
「皆、大きな怪我はないようだな」
「全員が……無事に終えられたことが……何よりです……」
 綺華もぽつぽつと、静かに応えていた。
 ボニーは木々に視線を巡らす。
「では、周囲のヒールだけでもしておきましょうか?」
「そうですね。荒れた部分は、できるだけ元に戻るように」
 澄佳もそれに続いて、周りのヒールを行った。全てが元通りとは行かない、けれどその周りの緑も木々も豊かなら、きっといつかはそこもまた自然の一部となるだろう。
 作業も済むと、ウエンは再度安全を確認して頷いた。
「これで為すべきことは為せたでしょうか」
「そうですね。では、そろそろ帰還しましょうか?」
 裁一が言うと、ツカサは森の探検へと飛び出していっていた。
「それじゃあ折角の良い感じの森なんだし、ちょっとひと歩きしようか!」
 それに続いて歩みだす者や、ゆっくりと歩を進める者。
 澄佳はそんな皆を目にしつつ、一度だけ敵が散った跡へ振り向く。それからすぐに視線を戻すと自分も歩みだした。
 一度深呼吸をする。澄んだ自然の空気は、心が洗われるようだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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