取り残されたバーベキューコンロ

作者:baron

『ババァバ! バーベキュー!!』
 砂浜で肉の焼ける臭いと、その数倍にも及ぶ煙臭さが漂った。
 そして木々を燃やし現われたのは、長方形に折り畳み式の足が付いた……。
 バーベキューコンロだったのである。
『ボボボボー!!』
 そいつは炎を上げ、炭を撒き散らしながら右往左往。
 すっかりシーズンの過ぎた浜辺に周囲に誰も居ない事を確認すると、犠牲者を求めて街の方に向かったのである。


「持って帰るの面倒ですから、こんなこともあるかと思ったのですがよーぅ」
「はい。古いタイプの、家電式バーベキューコンロがダモクレス化したようですね」
 人首・ツグミ(絶対正義・e37943)の言葉にセリカ・リュミエールが頷いた。
 地図とカタログを手に説明を始める。
「既にシーズンは終わって居ますので幸いにもまだ被害は出て居ませんが、放置すれば大変なことになってしまうでしょう」
「まぁ、放っておくわけには行かないですねーぇ」
「単に吸収するならまだしも、虐殺なんて見過ごせないわよね」
 セリカの言葉にツグミたちケルベロスが応じる。
 古いからといって捨てられた機械には想う事もあるが、放置する訳にもいかない。
「このダモクレスの攻撃手段は、車輪の付いた足での打撃、炭や串をミサイルの様に飛ばす等ありますが、何よりも最大の攻撃は火炎攻撃になります。感覚的にはチェンソー剣のレプリカントの方が近いでしょうか?」
 とはいえ炎を押しつけて来る以外は斬撃を放つというイメージではないので、もっぱらレプリカントのグラビティがサブなのかもしれない。
「スケジュールにもよるので場所次第だと思いますがよーぅ、何処なんですかねーぇ」
「場所は神奈川県の浜辺に成ります。あまり有名では無い場所なので、周囲に人はいませんが、早めに倒していただけると幸いです」
「涼しくなって過ごし易くなって来たし、パパっと行って片付けて来るか」
 セリカは地図や資料を置くと、ヘリオンの準備に急ぐのであった。


参加者
テルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
美津羽・光流(水妖・e29827)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)

■リプレイ


「良え浜辺やん」
「こじんまりとして居ますが、少人数で過ごすには良い場所ですね」
 水着で男女が浜辺を歩く。
 とはいえテルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)達にはしゃいでいる様子は無い、何しろケルベロスとしての出動なのだ。
「こないな綺麗な海岸にポイ捨てしてくアホがおるかいな。ごっつ腹立つ」
「BBQはマナーの悪さが最近問題化していると聞きましたが、まさかの海辺にコンロさん放置とは明確な迷惑行為なのです!」
 美津羽・光流(水妖・e29827)の言葉にマロン・ビネガー(六花流転・e17169)が可愛らしい拳を握る。
 小さな体(年相応なのです)を震わせていた。
「まー喰いたくなる気分自体は判るよ。確かにこんな所で肉くったら美味そうだしな」
 でも捨てて行くのはねーよなあと日月・降夜(アキレス俊足・e18747)は口を挟みながら、潮の香りにくしゃみが出そうになる。
 大口開けたまま牙を剥いてくしゃみ我慢して居ると、マロンが『きゃー♪』と驚いて見せたので、降夜はガオーとサービスしておいた。
「旧型で重いうえに、臭いでも染み付いたのかねぇ。バーベキューのコンロってね、いっぺん汚れが付くと其処がまた焦げ付くんだよなー」
「気持ちは判るけど、使うんなら洗ろうとけと言いたいわ」
 降夜と光流はそんな事を言いながら笑い合い……。
「では戦場はお願いしますね。セットを一式持って来ましたので」
 なんて言うテルルの言葉に、藪蛇だったかと顔を見合わせたのであった。

 とはいえそんな平和なやり取りもここまで。
 木々の間から、ダモクレスが現われたのである。
「コンロには罪はあらへんけどダモ化してもうたからにはしゃーない、元の持ち主に代わって俺らが片付けたる」
 来や。
 光流はそう言いながら砂浜に足跡を増やし、マロンの周囲に自分の幻影を造り出した。
 戦いの要である回復役を庇う為だ。
「ありがとうなのです……あれ、カセットボンベはどこに消えたです?」
「内部に吸収されたんじゃないでしょうか? 解析してしまえば、ダモクレスならば内部で量産できるでしょうしね」
 お返しにマロンが星剣を転移掲げ、山羊座の加護を前衛陣にもたらした。
 テルルは先生に後で確認してもらいましょうかと言いながら、冷凍高線を放って牽制を開始。
「後で色々見て回したいんだよね。苦しませる気も無いし、早く壊れてくれないかなぁ」
 降夜は気乗りしない表情で棍を分解すると、口とは逆にせわしない動きで連打を浴びせて行く。
 こうしてケルベロスとダモクレスの戦いが始まったのである。


「こんなところで捨てられた境遇に同情いたしますが……だからと言って放置はできませんね」
「不法投棄も悪ですが、デウスエクスは存在そのものが悪ですからねーぇ」
 シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)と人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は距離を詰めながら、飛びかかる機会を窺った。
 まずは逃がさない様に徐々に距離を詰めていく。
「人が居る場所に移動する前にここで止めを刺してしまいましょう」
 シトラスは翼を広げると光の軌跡を描きながら突撃を掛ける。
 急加速を掛けて貫き、炭の粉を跳ね上げながら押し込んで行く。
 するとどうだろう。ダモクレスはお返しとばかりに炎を吐き出したのだ。火炎放射と言うには短いが反面強力に見える。
「暑い時期にまた暑苦しい敵ですね」
「罪無き人々がバーベキューされる前に、しっかり解決しますよーぅ!」
 噴き上がる炎に対抗すべくエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)は幻術を編み始め、ツグミは直接自分の体で防ぎ留める。
 ジクジクとした痛みに舌打ちをだけを入れて、ツグミは意識を活性化させる。
 慣れ親しんだ衝動が走り抜け、破壊の力を自らの正義を持って制御した。

 防いだにもかかわらず大ダメージを負う恐るべき攻撃ではあるが、ケルベロスは恐怖に怯えることなど無い!
 むしろ積極的に阻害するべく、即座に行動に入った。
「使わないバーベキューコンロはしっかりと片付けておかねばなりません。まずはそこ!」
 エレスは棍で打撃を浴びせる仕草から、グラビティーで打突の感触そのものを飛ばす。
 そして編み込んだ幻影を被せることで、敵が抱える炭や網目模様の金属棒を覆い隠し始めた。
「バーベキューコンロ……依頼が依頼なら、美味しいバーベキューを食べながらの依頼もあったりしたのかな」
 陽月・空(陽はまた昇る・e45009)はちょっとだけビルシャナを退治する依頼を羨ましく思った。
 何しろあっちは依頼にもよるが、美味しい物を食べながら説得できるからだ。
 とはいえからずしもそうではなく、大抵は訳のわからない理屈と戦うはめになるのだが……。
「……今回は焦げているみたいで残念。暑くて臭い……お仕事が凄く大変」
 軽く臭いをかいでみるとロクな事には成らなかった。
 美味しい香りよりもよっぽど強い悪臭を感じて、空はさっさと倒そうと心に決める。
 怨霊の導きで斬撃を浴びせるが、勢い込んで近付き過ぎたので蹴飛ばして距離を稼ぐと再び前に出た。
「次は美味しい匂いがする物で来て」
「……? 援護しますね。次はそこです」
 空は刀を突き刺して怨霊を流し込みつつ、流されそうになって思わず顔をしかめる。
 その様子に首をかしげつつも、エレスは回転させた棍で大地を叩いた。
 確かな音がリアルにアスファルトに響いた後、幻影を伸ばして虚実を入れ換える。そうすることで偽物の痛みを与えつつ、既に与えた痛みを嘘で塗り固めながら。


「さっきのが最大の攻撃として……次はアレが来ると思うかい?」
「気が付いたなら動いてくださいねーぇ」
 聞けば炎による攻撃をメインに、ダモクレス(レプリカントと同様)の力をサブに使うらしい。
 嫌な予感がした降夜はツグミに尋ねてみるが、実にそっけない物だった。
『ババァバ! バーベキュー!!』
「だよねえ。そんじゃ可能な限りなんとかしますか」
 降夜はハンマーを射撃体勢に移行させながら、空に向かって放り投げる。
 入れ替わりにやって来る竹串や炭の塊を防ぎながら、グラビティの爆発に腰を入れて対処。
 落ちて来る得物をブラインドでキャッチして重低音を戦場に響かせた。
「まあ範囲攻撃ならばこんなものですかーぁ? じゃあ反撃と行かせてもらいますーぅ」
 ツグミは敵の攻撃に対し片腕を立てて目だけを守りながら、回し蹴りを浴びせた。
 打ち終わると即座に身を翻し、腕の痛みを無視してグラビティを集めておく。
 その力を治療に使うか、それとも反撃か。まあどちらでも最後にやることは同じなんですけどねーぇ。
「焼け栗にならないように、鎮火しておくのですよ」
 マロンは周囲を爆発させて、ダモクレスが放った熱気に対抗する。
 爆風が戦場を走り抜けて、充満する熱を吹き飛ばした。そして噴き上がる風は仲間達の力を支援していく。
「良い風ですね。さて、バーベキューコンロを燃やすというのも面白いですね。さぁ燃やしてさしあげましょう!」
「なら私は反対に凍らせてみましょうか。それにしてもこう言う組み合わせは面白いですね」
 シトラスは発火装置にグラビティを注ぎ込むと、ダモクレスの中にある炭に火を付けた。
 重砲撃を加えていたテルルは、燃え盛り怯むダモクレスに即座の二撃目を放つ。冷凍光線を浴びせながら反作用も相殺もしないことを面白がる。
 もちろん自分なりに研究すれば、作用を利用したオリジナルの技が出来るのは知っている。だが知識と体験は別物だ、後で先生に録画を見せてもらおうと主た。
「見た目通りパワー特化の殴り屋やな。アレに注意するのは専門家に任せるとして、まずは予定通り他を抑えに掛りますか」
 光流は冷静に敵を眺めて、盾役の防御を簡単に突破できる攻撃力には目を見張った。
 しかしながらソレはあくまで単体攻撃、しかも連続して強烈な攻撃が来ることはほぼ無いことも理解して居る。
 ならば残り半分、先ほどの炭や竹串状のミサイルの方を対処しようと分身してダミーを形成する。
 一人の光流が二人の光流に、三人・四人。五人の次は十人だ(一杯なのです!)。影の軍団を率いてダモクレスに立ち向かう。


「良く見た方が良いですよ? それはもう、使い物になりませんね」
『ボボボボー!!』
 エレスは何分もの時間を掛けて、相手の炭や噴出するガスの位置を入れ換えた。
 仲間たちと共に与えた損傷を幻影で覆い、逆に何も無いところに損傷を上書きする。その力で敵が本来持つ力を出せなくして居たのだ。
「相変わらず強烈だけど、なんとか成ってきたかな」
「今すぐ治療するのですっ」
 こうして時間の経過と共に掛ける負荷も累積し、ケルベロス達は対応に慣れ始めていく。
 降夜が腕をクロスさせて炎を遮ると、即座にマロンが対応を開始する。
「ゆるやかティーブレイクなのです!」
 マロンが用意するのはリラックス効果のあるカモミールティー。
 お酒は入って無いけれど、シフォンケーキと一緒にご馳走します。砂糖入りで、飲むとすっきり元気になれるのです!
「あ~くつろぐわぁ。……って仕事しないとな。凍り付いとけ」
 普段から飄々としている降夜は更にのんびりティータイム。
 肉球を表にして眠そうになるが、流石に戦闘中ではそうもいかない。
 拳で殴りつけた瞬間にダモクレスの熱を奪い、表面を凍りつかせて行く。
「ここからは逃がさへんようにする戦いやで!」
「少しずつ追い込んで行きましょうか。先生、お願いしますね」
 光流は網目の隙間に刀を突き立てて、ダモクレスの内部機構に直接ダメージを与えて行く。
 負荷が増大した所にテルルは重砲を浴びせつつ、テレビウムの先生に包囲をお願いした。
 敵は火力こそ高いが防御力はそうでも無い。回復の必要が減れば自然と攻撃の密度が増して行くのだ。
「ではでは、ご静聴あれ! きっと楽しい時間になりますよーぅ♪ ええ、本当に。自分にとっては」
 ツグミは余裕もできたことで、積極的に打って出る。
 声は悪くないなのに調子はずれな鼻歌を唄いながら、呪いと怨念を上乗せして自らリズムを台無しにしていく。
 それは受け取るモノにとっては不協和音、そして彼女自身にとっては楽しい時間だ。
 序盤で光流がくれたオウガメタルの囁きを聞きながら、拳と共に呪詛を叩き込んだ。
「暑い中で長くなってきましたし、ラッシュですかね。斬り刻む? 串刺しとする? 粉々に砕きます? いいえ、貴方の存在を虚無へと誘いましょう」
 シトラスはトンとバトンの様に大鎌で大地を切り裂き、地獄への招待状を送りだした。
 奈落よりも深い永久氷土の谷に墜とされた魔王を呼び出し、闇の力で引きずりこんで行く。
「そういえばバーベキューの準備してるんだっけ……」
「ええ。個人差もあるので十分な量かは判りませんが、愉しむ分には問題無いかと思います」
 なら早く倒してごはんたべよ。と空はテルルの言葉で気合いを入れ直し(マイペースなのでとてもそうは見えないが)、怨霊よりも強い食欲の導くまま一太刀浴びせることに成功した。
 テルルもそれを支援しようと冷凍光線を放って戦いの締めに入る。
「夏は焼肉よりカキ氷だと主張したいのです」
「そう言う時は、どっちも食べれば良いと思うよ」
 マロンはささやかな抗議の声をあげながら残る傷を治療していたが、空のさりげない食欲に目を見張った。
 しばし迷って考えた後、やっぱり冷たい方が好みだと拳を振るって力説する。
「そろそろですかねーぃ? 安心してくださいねーぇ。貴方のことは、しっかりと、徹底的に、一片までも処分して差し上げますぅ♪」
「では手早く火元を消して行きましょうか」
 ツグミの下段蹴りがまるで剣のようにダモクレスの足を叩き折る。
 そこへエレスが魔法を撃ち込むが、ただ撃ち込むだけではない。
 幻影で覆い隠した傷口を露わにして、多大なダメージを与えた風に装ったのだ。
「それでは閉幕です。さようなら」
 シトラスがうやうやしく一礼すると、ダモクレスの体が漆黒の中に呑み込まれて行く。
 水ならばブクブクと飛沫があがるのであろうがそうもいかない。最後は煙すら出す事無く残骸と成って朽ち果てたのである。


「海の家も無い砂浜ですので問題無いと思いますが、木々や岩礁でも見て回りますか?」
「ていあんなのです! 草の根清掃活動なのです、ケルベロスは良い子なのです」
 トドメを確認した後でシトラスが尋ねると、マロンがハイはーいと手を上げた。
「せやな。浜が汚れとんのはごっつ腹立つし、それやってからBBQなりひと泳ぎしたろか」
「ゴミ等も、落ちているなら軽く拾っておきましょうかーぁ」
 光流が汗を拭いながら提案に乗ると、ツグミは『等』ということばを強調しながら冷たい笑顔を浮かべた。
 ゴミそのものよりも、捨てて行った馬鹿者の至るナニカが無いかと目を輝かせする。
「おなか……すいた」
「あれだけバーベキューアピールをされるとお腹が空いてきますね。早く片付けて食事をしたい所です」
 空はお腹をすかせていたが、店を探すよりも手伝った方が早い。
 エレスに宥められながらゴミを拾い、早く食事がしたいなあと浜辺を歩く。
「お、ここひょっとして良いポイントになるんじゃ」
「釣りですか? 穴場スポットという訳ではなさそうですが、のんびり楽しむのなら良さそうな場所ですね」
 降夜がフンフンと鼻を鳴らしながら釣り竿を握る仕草でゴミを拾うと、テルルは先生と一緒にゴミ拾い。
 木々の中にはビニールゴミやら薪の残りやら散乱しており、簡単には終わらないのが残念だ。
「ダモクレスの方法も結構長くなってるけど……不法投棄が無くなるまで続く?」
「悪から悪が生まれる……これこそ悪循環ですねーぇ。こういうものは、丁寧に、念入りに、じっくりと根を断ちたい所ですがーぁ……」
 空の言葉にツグミは頷き、せめて周囲のゴミを取り切ってBBQに挑む自分達の様に区切りが訪れる事を祈った。
 正義執行するその時を夢見ながら待ち続ける。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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