月の音楽会

作者:崎田航輝

 宵空に旋律が踊っていた。
 月の光を浴びて煌くのはピアノの音色。清らかな和音は夜の時間を美しく彩り、時折遊び心を加えたアルペジオが心に驚きももたらす。
 そこにヴァイオリンの音の流線が加われば、華やかなメロディが耳を惹き付けるアンサンブルとなっていく。
 そこは野外の音楽堂。
 ほんの少し小高い土地に造られていて、一段高い舞台は人々が周りを囲う円形。澄んだ夜は月光を遮るものがなくて、演者達は月明かりの下歌い、演奏する。そんな日のここは月色劇場と呼ばれ、夜に輝く音楽を人々は楽しんだ。
 この日行われているのは、チャリティーの演奏会。ふらりと立ち寄った人々や、無名の演奏家たちに興味を惹かれたものも合わせ、様々な人が訪れる。
 興味のなさそうだった者も、月の照明と流麗な音の協奏、そして想いのこもったパフォーマンスに段々と魅了されるように。小劇場を埋める程の人の数が、舞台を見上げていた。
 しかし流麗な音楽は、ときに異形の者も惹き付ける。
 音に聴き入る人々は始め気づかなかった。月光に影を落とす巨躯が現れたことに。
 初めにそれを見つけたのは、舞台にいた演奏家達。だが彼らが音を止めて驚いた時には、既にその巨躯は舞台に乗り上げ、剣を振り上げていた。
「美しい夜と、美しい音楽。いい響宴だ」
 それは星霊甲冑に身を包んだ、細面の男。掲げた刃は身の丈を超えるほどに長く、月明かりをきらりと反射した。
「けれど血の艶めきに満たされれば、もっと美しい。だから──悲鳴の協奏を」
 瞬間、血潮が弾ける。
 つんざく悲鳴に、巨躯は目を細めた。まるで美しい交響曲を聴いてでもいるかのように。

 月の音楽会に、1人の男が現れて人々の命を狩っていく。
 それが予知の示す未来なのだと、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は語った。
「勿論、この巨躯の男というのはエインヘリアルのことです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者が、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれている、この敵もそんな1人だという。
「殺戮に躊躇はないでしょう。だからこそ、皆さんの力をお借りしたいんです」
 そして必ず討伐を、とイマジネイターは語る。
「場所は、野外劇場です。小高い場所にある音楽堂で、丸い舞台をお客さんが囲むような造りになっているみたいですね」
 日によっては月明かりが照明のようになり、明媚なステージとなる。当日に人の入りが多いのもそんな理由もあるのかも知れない。
「エインヘリアルはそこを襲ってきます、けれど。人々を先に避難させてしまうと、予知がずれて敵が来なくなる可能性があります」
 敵は音楽と人々を遠くから見つけてやってくるという面があるらしい。
 場ががらんどうだと、この場が標的にされずに敵が去ってしまう恐れがあるのだ。
「なのでお客さんは残したまま、出現を待ち構えておく形になります。敵を見つけたらすぐに避難させて戦闘に入る、という流れがいいでしょう」
 演奏会を警護する形をとってもいいが、事前に人々に危険を知らせると多少のパニックは起こってしまうだろう。
 そこで提案されるのが、演奏会の参加者として舞台に上っておく方法だ。
「演奏会側に話は通してあるので、希望があれば敵出現時前から演者として舞台に出ておく事ができます。元々アマチュアの演奏家たちの音楽会ということもありますので、演奏や歌などは最低限の心得があれば舞台に出ても不自然はなさそうです」
 舞台上ならば全方位を見渡せて敵出現にいち早く気づける。
 無論、舞台に出ずに警戒することも出来る。適宜作戦を練ってください、と言った。
「何より大事なのは人々の命と、敵を倒すことです」
 そして音楽と夜の時間を。ぜひ守ってくださいと、イマジネイターは言った。


参加者
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
月岡・ユア(孤月抱影・e33389)
ココ・チロル(箒星・e41772)

■リプレイ

●月に響く
 藍夜に、淡いベージュの光が差す。
 丘の音楽堂は月光に煌めいていた。かつり、と舞台への段差を上がるヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)は、幻郷に来たような気分だ。
「本当に、すごくステキな所……!」
「ええ。月夜に照らされた演奏会なんて、とても幻想的で」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)も青の瞳に光を映して、くるりと見渡す。客席には、沢山の人の姿が見えていた。
 音楽会が始まって暫く。前の出番の奏者と入れ替わりに舞台へ上がった5人は、観客達の期待の視線を受けていた。
 アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)は気負う様子も無く、電子キーボードを爪弾き音量を調整する。
「こちらは準備万端、です。いつでもいけます、です♪」
「オレも大丈夫だよ。皆に合わせる」
 森光・緋織(薄明の星・e05336)はピアノの椅子の位置だけ調整し、静かに伝えていた。
 それに頷くのは月岡・ユア(孤月抱影・e33389)。鮮やかな満月のような瞳を細めて、一度皆へ微笑みかけている。
「ヴィヴィアンさん、緋織さん、麻亜弥さん、アンジェラさん。改めてよろしくねっ!」
 ──偶然集まったメンバーだけど、素敵な舞台にしよう。
 そしてせっかくだから楽しんでしまおう、と。
 言葉に4人が頷くと、ユアは息を小さく吸い、Ah、と短い高音で発声を確かめた。
 それに惹かれて、僅かなざわめきも消える。
 手は抜かない。聴く人がいれば紛うことなきステージなのだからと、皆は息を整えた。
 最初に空気をとらえたのは、麻亜弥の弾くギターだ。
 曲は、ブラッドスター。
 ソロ演奏のそれは太い弦の振動と細い弦の清らかさが波状で訪れる、巧みなアレンジ。静かな響きは、麻亜弥の海色の髪が揺れるたび、水が揺蕩うような心地よさを運んだ。
 人々は月夜に訪れた漣に魅了されながらも、他の面々は弾かないのかと怪訝な様子。けれどそれも途中まで。
 曲はいつしか転調し、艷やかな音色が交ざっていた。
 緋織が指を踊らせ、ピアノを唄わせたのだ。
(「ここで、うまく曲の入口を迎えられるように」)
 大胆なテンポの変化も加えたそれは、ヘリオライト。まるで一曲であるかのように、滑らかにそのイントロへ入っていた。
 ピアノの腕はそれなり、という自己評価の緋織だけれど、音楽への強い思いは美しい音に表れて眩しく輝く。
 そこへアンジェラがベースを加えた。アコースティックにも溶け込む音色を選び、低音で曲の世界を一段階広げる。
(「本物のベースはちょっと扱えません、ですけど。これなら……!」)
 元よりこの曲のベースラインは好みでもあった。気持ちが乗れば音楽は息づく。旋律とコードをしっかり支えて、曲を歌へと導いた。
(「ここにボーカルが入れば、最高、です!」)
 思いの通りに、落ち着いたアレンジの伴奏にヴィヴィアンが歌声を乗せた。
『──』
 声音は鮮やかで綺羅びやか。歌唱は美しく可憐。
 シンガーとして活躍するヴィヴィアンの歌はアドリブの曲調を的確に捉え、しっとりとした印象を与えながらも原曲の前向きな色を崩さない。
 そしてサビに歌声が重なる。
 ユアがギターのコードを奏でながら、コーラスに加わったのだ。
『──』
 三度上の音階が乗ることで煌めき出すハーモニー。
 ユアの歌声は真っ直ぐで淀みが無くて、月の輝きのよう。それでいて月影の深さもどこかに含んでいて、耳を惹くメロディに奥行きを生んでいた。
 ヴィヴィアンとユアは目を合わす。
 ──ステキな歌声のユアちゃんが一緒で嬉しい。
 ──こっちこそ、ヴィヴィアンさんと歌えるなんて、夢のようだよっ!
 交わしたのはそんな思いだろうか。
 舞台下の仲間達を心強く思いながら、ヴィヴィアンはこの夜だけの穏やかなヘリオライトを歌う。ユアも精一杯に、詩にある未来を歌った。

 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は光と皆の演奏に美しさを感じていた。
 月夜を愛する心には、この舞台の尊さが判る。
(「月色劇場、か。綺麗な、いい名前だ」)
 だからその全てを、台無しにしたくなかった。
 離れた位置を見ると、ココ・チロル(箒星・e41772)も客の中で待機している。
 時折月光と音楽に瞳を煌めかせながら、同時に警戒を欠かさずに。
 そんなココと距離を置いて目を合わすのは、リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)。同じく客に紛れる形で見張りを続けていた。
(「時間としてはそろそろ、ですか」)
 リモーネは丘の下方を見る。真剣ながら焦りがないのは、待機側の面々で三方隙間なく監視できているためだろう。
 だから、北方から現れた影を見逃さなかった。
 それは丘へ歩んでくる、紛うこと無き巨躯。
「皆さん、デウスエクスがやってきます──南へ逃げてください!」
 瞬間、リモーネが声を上げると人々がざわつく。そこでココも声を力いっぱいに張った。
「私は、ケルベロスです。落ち着いて、どうぞ、振り向かずに真っ直ぐ、逃げて──後は、お任せください!」
「ああ、貴方達を必ず助ける。だから慌てず僕達に従ってくれ」
 ノチユも素早く誘導を始めると、人々は堰を切ったように動き出していく。
 そんな中でもノチユは自力で動けぬ人や子供、老人にも手を貸していた。
「……大丈夫。番犬は、貴方達を見捨てない」
 口振りはいつもの通り少しぞんざい。それでも思いが本物だからこそ、人々も勇気を得て退避していく。
 ココは敵の接近も見て取って、2人に向く。
「急ぎ、ましょう」
「ええ。抑えはお願いします!」
 リモーネが顔を上げると、舞台上からも人々へ声をかけていたヴィヴィアン達が、力強く頷いていた。

●狂刃
 丘を登ってきた星霊甲冑の騎士。
 彼を舞台上から呼び止めたのは、ユアだった。
「やぁ、いらっしゃい♪ 演奏会に惹かれてきたの?」
「……無論だよ。今は、休憩中のようだけれど」
 と、その巨躯、エインヘリアルは避難していく人々を見やる。
 ユアはそこへ終焉ノ月律──月光を宿した刀をすらりと抜いてみせた。
「なら、折角だ。自分が舞台へ上がるかい? 沢山踊らせてやるよ」
「……君達が、協奏を彩ってくれるのかい」
 巨躯は応じるように舞台へ足をかける。ただ、それに応えたのは上方からの声だった。
「その通り、です! わたしたちが相手、です──が!」
 それは飛翔したアンジェラ。棚引かせるのは、虹の光だ。
「せっかくの音楽会を、めちゃくちゃにさせるわけにはいきません、です! だから負けはしません、です!」
 美しい流線を描くとそのまま高速で滑空。巨体へ蹴撃を叩き込んでいく。
 一歩下がる敵が次に見たのは、狩人の如きユアの笑み。瞬間、光を宿した蹴りが巨躯の顔面を直撃した。
 蒸気駆動で紙兵を舞わせていたヴィヴィアンは、霊力の淡い輝きの中で槍を握り、流麗な動きで刺突を繰り出していく。
「緋織ちゃん、今だよっ!」
「ああ、任せて」
 頷く緋織は、巨体の背後から紅く輝く魔力の刃を振るっていた。『断罪の枷』。投擲されたそれは巨躯の足首を貫き地に縫い止める。
「次、いけるかな」
「ええ。この一撃で、氷漬けにしてあげますよ」
 応えて高く跳んだのは麻亜弥だった。
 足に履くMaelstromは蹴り落としと同時に海流を生み出し、瞬間的に凍結して巨躯を蝕む。
「……、美しい。けれどこんなものでは」
「足りませんか。ならば次は逆に、焼き尽くしてあげます」
 声を返す敵へ、麻亜弥は連撃。海流を火の海にして巨体を焔で包み込んだ。
 衝撃に下がったエインヘリアルは、しかし笑みを見せて剣を握る。
「素晴らしいじゃないか。美しい夜に美しい音楽を奏でるだけでなく、強者とは」
 ならばこそ協奏を、と。
 巨躯は剣風で血煙を上げようとした。
 しかし前衛の受けた傷は、直後に仄かな光に覆われて消えてゆく。素早く合流したココが魂の一部を燦めきに変え、治癒の力として施していたのだ。
「そのまま、跳んで!」
 と、ココが呼んだのは相棒のライドキャリバー。大きくエンジンを轟かせたバレは、舞台への段を駆け上がり宙へ。豪速のままに巨躯へ突撃した。
 その頃にはリモーネとノチユも場に戻っている。
 改めて無人を確認し、ようやく憂いはないとノチユは息をつく。ただ、敵を見据える視線に心楽しさはなかった。
「“美しい夜に美しい音楽”か。お前にもそれを感じ取れるだけの感性はあるのにな」
 勿体無い、と。
 ココも静かに頷く。
「そう、ですね。そんな心を、お持ちでも。害するならば、容赦は、できません、から」
「害する気など無い。悲鳴によって、一層美しくするだけだ」
 エインヘリアルは首を振るが、ノチユはその手の刃を下げなかった。
「そうか──ならお前の悲鳴を、今すぐ聴かせろ」
 刹那、地を蹴ると漆黒の髪が星屑の如く煌く。巨躯がそれに目を奪われる暇もないままに、ノチユは月を描く斬撃で腹を裂いた。
「このまま、次の一撃を」
「了解しました」
 言って駆けるのは、リモーネ。舞台に上がって銀の髪が美しく翻ると同時、業物の斬霊刀を抜き放っていた。
 【鬼切】の銘を持つその一刀は、繰り出す剣撃も剛烈で鋭い。
「防いでも、無駄なことですよ」
 敵が剣で受けようとしてもそれすら弾き返し、返す刀で一閃。強烈な突きで巨躯の腹部を貫いた。

●月夜
 浅い息を零すエインヘリアルは、緩く首を振る。
 何も分かっていないとでも言いたげに。
「これも悪くはないが、違う。君達の苦しみがあってこそ、僕の耳に届く協奏が生まれる」
「……君にしか届かない協奏なんて、協奏じゃない。そんなものは認めない」
 緋織は凛然と返していた。
 声音に含むのは、強い意志。
 音楽は人の心を救うものなのだと緋織は思っている。自身が音楽に救われてここに居るからこそ、その想いには偽りがなかった。
「ここにある音楽は、人と人を繋げるものだよ。だから──音楽とそれを愛する人達を、オレは絶対に守ってみせる」
「そう、みんなの大切な音楽の時間は、あたしたちが守るんだから!」
 ヴィヴィアンの真っ直ぐな言葉に、麻亜弥も頷きながら疾駆し、手を伸ばす。
「ええ。ですからこの神聖な場を荒らさせはしません。海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……!」
 巨躯を襲うのは暗器【鮫の牙】。鮫の牙の如き刃が巨体に食い込み、鮮血を散らす。
 リモーネは鬼切を鞘に納めると、持ち替えた日本刀を神速で抜刀。流れる斬撃で巨体の足元を斬り裂いていた。
「さあ、この隙に」
「ああ。斬り刻んでみせる」
 緋織は短刀を奔らせて同箇所を連撃、一気に敵の傷を深めていく。
 巨躯は唸りながらも剣を振り上げていた。
「……死ぬものか。血の交響曲を、耳にするまでは……」
「いいえ。そんなもの、今も、この先も、聴くことはありません──」
 月光に影が落ちたのは、ココが頭上へと機敏に跳躍したから。そのまま手元に橙のオーラを集めると、高速で撃ち下ろした。
「──ここに緋色の音符は、いりません!」
「ああ、血飛沫とか悲鳴とか、無意味な物を継ぎ足すんじゃねえよ」
 負傷によろめく巨躯へ、ノチユも眼下から迫る。既に刃を振りかぶりながら。
「それでも血潮が見たいなら見せてやるけどな……勿論、お前のを」
 狙い研ぎ澄まされた一撃は『冥府に消ゆ』。逆袈裟の斬撃で血の雨を生んだ。
 膝をつく巨体を、ユアが覗き込む。
「ほら、まだまだボクと遊んでよ? お望みどおり、血で満たしてあげるからさ」
 直後に敵が血を吐いたのは、ユアがその胸に刃を突き立てたからだ。
 その背景で響くのは、アンジェラの奏でるヘリオライト。
「続けて行きます、です。あなたの血を使った音楽と血潮の共演……沢山聴いていくといい、です♪」
 ミドルテンポのリズムと共に、アンジェラは敵を掴んで飛翔。『天使の散歩道』──錐揉み回転の軌道を取って巨躯を地に叩き付けた。
 衝撃で舞台の一部が欠けたのを見て、アンジェラは眉尻を下げる。
「あっ……や、やってしまいました、です、あとでヒールしませんと、です……」
「く……」
 エインヘリアルはそんな事に構わず、斬撃を放った。
 が、麻亜弥がそれを防御すると、ヴィヴィアンのボクスドラゴン、アネリーが紫に輝く光を施して治癒。ココも『癒の策・天恵』による甘い丸薬でその体力を癒やす。
 ヴィヴィアンは『藍に宿る月の夜想曲』。持ち曲である『Moonrise』を元に癒やしの旋律を歌っていた。
『月よ その光は淡く白く 悠久の調べを運ぶ──』
 仲間が万全となれば、ユアも美しいメロディに繋げるようにすうと息を吸う。
「最後は君の命を、綺麗に飾ってあげる」
 そして唄うのは『死創曲』。
 ──赤き月が見守るその刹那、死に満ちるキミの命灯よ。さぁ、最期を飾ってあげようか? この歌と共に乱れ逝け……。
 響く歌は赤い月を生み、それが刃となって巨躯を刻んでいく。
 死にゆく敵へ、リモーネは刀を掲げた。
「終わりとしましょう」
 放つ絶技は『雷鳴三段突き』。雷の如き速度の三連刺突で、エインヘリアルの命を散らしていった。

「さあ音楽会、再開、です!」
 アンジェラが翼から煌めかせた光に、客達は拍手と感謝の声を上げていた。
 戦闘後。皆は舞台を修復して人々も呼び戻した。
 脅威がなくなれば音楽を止める理由はなく。音楽会はすぐに再開されている。
 舞台にいるのはリモーネ。皆の演奏に刺激を受けて、自身も歌を披露したくなったのだ。
『──』
 歌はカラオケを嗜む程度のリモーネ、けれど「今度こそ心から音楽を楽しもう」と思う気持ちは、透明な声音を生んで人々を惹き付ける。
 その次はヴィヴィアンもステージへ。ゆったりとした『Moonrise』で皆を魅了していた。
『今宵 魔法をかけてくれるなら 永遠の夜を願おう ずっと月の光のそばに──』
「やはり、平和な中で楽しむのが一番ですね。私もまた演奏したくなります」
 舞台を見上げつつ、麻亜弥は響く音楽に身を委ねている。
 ココも頷いた。
「皆さん、楽しそう、で。良かった、ですね」
「うん」
 頷く緋織も、皆が無事で良かったと改めて感じる。きっとこの音楽に救われる人もいるのかもしれない、と。
 ノチユも観客の1人として眺めている。
「やっぱり、いい場所だね」
 これからも此処に居る音楽家達が美しく音を紡いでくれるだろう、と思いながら。
 ユアもまた、舞台を見ていた。
 心は皆が無事でほっとする気持ちだ。
「いい音楽で、いい夜──」
 ふと見上げると月が美しい。
 満月の夜は好きだった。その中で音楽を聴くのも、歌うのも。今夜はそんな“好き”がつまってる素敵な夜だ。
(「音楽ってやっぱりいいな。とっても元気になる。だから──」)
 いつか自分も、自分の力に声に臆さず、歌を届けられる人になりたいと思った。
 月は尚美しく光る。それは皆の想いや願いに、応えるかのようだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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