城ヶ島強行調査~探索? 揺動? 危険な任務

作者:缶屋


 セリカ・リュミエールの顔には、今までにない緊張の色が浮かんでいる。
「現在の城ヶ島は予断の許さない状況となっています」
 城ヶ島は鎌倉奪還戦と同時にドラゴン勢力に制圧され、今もなお拠点とされている。
「幸い、城ヶ島から外に出たドラゴンは、皆さんにより撃退されました。しかし、それが基でドラゴンは、城ヶ島に引きこもり力を蓄えている状況です」
 現在は配下のオークや竜牙兵、ドラグナー達に事件を起こさせ、グラビティー・チェインの奪取を行っている。
「ここからが本題となります」
 今回の作戦は今まで、ドラゴンが多数生息し、攻略を行うことができなかった拠点をアーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)さんの作戦提案により、強行調査を行うこととなったのだ。
 セリカが心配そうな眼差しを、ケルベロスたちに向ける。
「危険な任務になることが予想されますが、無事に帰還してください」

 ふぅー、と深呼吸し自分を落ち着けると、セリカは再度口を開く。
「作戦概要の説明を行います」
 城ヶ島を正面から攻略するのは困難である。そのため、小規模の部隊を多方面から侵入させ、内部の状況を調査するのだ。
「城ヶ島の潜入では、ヘリオンを使うことができません」
 城ヶ島周辺の空域は、多数のドラゴンにより警戒されており、ヘリオンでの侵入は自殺行為となる。
「今回の潜入に関しては、小型船舶や潜水服、水陸両用車程度は用意することが可能ですので、作戦に応じて申請を行ってください」
 とはいえ、小型船舶等を使ったとしても、ドラゴンとの遭遇の危険はある。
「ドラゴンとの戦闘になった場合、たとえ勝利したとしても、すぐに別のドラゴンがやってくるため、それ以上の調査を行うことができません」
 もし、戦闘になった場合は、できるだけ派手に戦い、他の調査班がみつからないようにする、といった援護も重要になってくる。
「今回の任務はとても危険なものになると予想されます。場合によっては、最悪の事態もあり得るかもしれません。……どうか、無事に作戦から帰還してください」


参加者
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
祁答院・大和(不動絶刀・e01382)
ファン・バオロン(煌爆龍・e01390)
アクセル・グリーンウィンド(緑旋風の強奪者・e02049)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)

■リプレイ

 海を進む船は3隻。
 その中の1隻、小型船舶の甲板には気持ちの良い潮風が吹いている。
 天気も問題なく、波も高くない。クルージングには適した日和だろう。
「海と言えば筋肉だろ?」
「いえ、海と言えば眼鏡――水中ゴーグルですよ」
 甲板でポージングをとるムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)に、メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)が水中ゴーグルのレンズを拭きながら張り合う。
「城ヶ島に何か宝物ってあるのかな?」
 自称トレジャーハンターのアクセル・グリーンウィンド(緑旋風の強奪者・e02049)がワクワクした様子で城ヶ島の方向に目をやる。
「ドラゴンといやぁお宝守っているってもんですが……どうも今回はお金にはならなそうで」
 タダ働きか、とグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)はそっとため息を吐く。
「ねぇねぇ、本拠地責められるってどんな気持ちなんだろうね?」
 不敵な笑みを浮かべるディートリンデ・アーヴェント(凶月のネヴァン・e16595)。
 船首にはファン・バオロン(煌爆龍・e01390)と祁答院・大和(不動絶刀・e01382)の姿がある。
「竜殺し。剣士として拍をつけるには良い相手だ」
 と大和が、
「ただこの身が燃え尽きるまで進むのみ」
 ファンは決意を口にする。
「あ~、くっそ、仕事が済んだら存分に呑むからなァ」
 甲板に転がり勝利の美酒を心待ちにする伏見・万(万獣の檻・e02075)。運転をしなければならないので、今日は素面なのだ。
 8人は思い思いに、城ヶ島までの航路を過ごしていた。そんな時、城ヶ島の方角を眺めていたアクセルの目に3体の飛行物体が映る。
「みんな、あれ何だろ?」
 ケルベロスたちが一様にアクセルの指さす方に目をやる。
「ドラゴンみたいっすね」
 グーウィが言う。
「わードラゴンだー……あっはは、ブッサイクな顔!」
 ディートリンデが飛翔するドラゴンたちを指さし、ゲラゲラと笑い声をあげる。
「目的は私たちだろう。橋に行くのは難しくなったな」
 ファンがそう言うと、待ってましたとばかりに、メリッサが水中ゴーグルをつける。
「さぁ、これで水中用メリッサさんの登場です!」
「肩に力を入れても仕方ねぇ、俺はやるべき事をやり遂げるだけだ」
 ムギは筋肉を隆起させ戦闘態勢に入る。
「ああ、島に潜入すらできないなら、本格的にお宝は諦めっすね」
 本格的に肩を落とすグーウィ。
「赤い奴に青い奴、そして紫か……俺達の相手はどれだ?」
 万は値踏むようにドラゴンに目をやる。
「気楽にやろう。なんて、言ってる暇はないだろうね」
 一直線に近づいてくるドラゴンを見据え、大和は日本刀を抜き放つのだった。


 飛来したドラゴンたちは各舟に1体ずつ狙いをつけている様子である。
 こちらに向かってくるのは、海のように蒼い竜鱗を持つドラゴン。蒼鱗のドラゴンは、体から雷を迸らせブレスを放つ。
「おいおい、あれは洒落にならないだろ?」
 船の側面を掠ったブレスを目に、呆れたように万が言う。
「禁断の果実とまではいかないけどね」
 アクセルの攻性植物が収穫形態へと変わり、仲間たちに聖なる光を宿す――黄金の果実。
「死になよ、クソ蜥蜴!」
「食らってやらァ、覚悟はイイか!」
 ディートリンデが妖精の弓を2つ束ね、強度を高めた弓で神々をも殺す漆黒の巨大矢を放つ――武神の矢。次いで、万が甲板から勢いよく飛び立ち、炎を纏った蹴りを放つ――グラインドファイア。
 しかし、2人の攻撃を蒼鱗のドラゴンは悠々と躱して見せる。
「1つ彫像にして持って帰らせてもらいましょうか」
 古代語の詠唱と共に魔法の光線――ペトリフィケイションが、蒼鱗のドラゴンに迫る。ドラゴンはそれを急降下で躱すと、その勢いを殺すことなく船に突進し、その尾を振るう。
 尾がファンと大和に迫る。しかし、尾は2人には届かなかった。
「俺の筋肉を舐めるな」
「ビッグメガネシールドの力をみせてやります」
 メリッサのビックメガネシールドが尾の勢いを殺し、ムギがその筋肉で受け止めたのである。
 尾を受け止めたメリッサとムギを飛び越え、大和とファンが蒼鱗のドラゴンに肉薄する。
 ブラックスライムが捕食モードに変形し、ドラゴンを呑み込む――レゾナンスグリード。と、大和の日本刀が緩やかな孤を描きドラゴンの体を切り裂く――月光斬。
 刃を受けた蒼鱗のドラゴンが急上昇し、メリッサとムギを振り払うとそのまま滞空し、ケルベロスたちの様子を窺がう。
 その時、船の脇をすり抜けるホバークラフト。そのホバークラフトを追うように炎のような赤鱗をしたドラゴンが追尾していく。
 赤鱗のドラゴンが、ホバークラフトに向かい炎のブレスを放つ。それを掻い潜り、ホバークラフトは城ヶ島へ向かっていく。
 赤鱗のドラゴンは諦めたかのように滞空し、こちらに竜首を巡らせる。
「これって、冗談だよね?」
 アクセルの口を衝いて言葉が漏れる。
「冗談じゃないっす。全員、何かに捕まるっすよ!!」
 グーウィの声に、従いケルベロスたちは船に掴まるのだった。


 赤鱗のドラゴンは勢いを殺すことなく、船に舞い降りた。いや舞い降りたではない、それはまさに突進と言っても過言ではない。
 その衝撃は大きく、船首が水面につき、船尾が大きく跳ね上がる。船が転覆しそうになるほどの衝撃であった。
 揺れが収まり、ケルベロスたちが立ち上がる。
 目の前には赤鱗のドラゴン、上空には蒼鱗のドラゴン。ケルベロスたちは2体のドラゴンを相手取ることになったのだ。
 赤鱗のドラゴンが大きく息を吸い、灼熱の火炎を吐く。炎の奔流がケルベロスたちを襲い、小型船舶の甲板は火に包まれる。
「こりゃ、船はもうダメだな。落とし前はつけてもらうからな」
 万が赤鱗のドラゴンに目をやる。
「眼鏡の恐ろしさを見せてやります」
 気合を入れるメリッサ。
「不動四神流――祁答院・大和、推して参る……」
 赤鱗のドラゴンに向かい、大和が駆け、電光石火の蹴り――旋刃脚を見舞う。
「ねぇ、遊ぼ? ……オモチャは君自身だけどね! あちょー」
 ディートリンデの放った矢が赤鱗のドラゴンの魂を喰らう。
 赤鱗のドラゴンに肉薄するファン。バトルガントレットに地獄の炎を宿し、拳を横腹に叩きこむ。
 赤鱗のドラゴンもただやられているわけではない。
 その鋭い爪をムギに向かい振るう。爪は皮膚を裂き、血がしたたり落ちる。
「お前は強い、だが勝つのは俺達だ」
 ムギは1歩も退かず、ルーンアックスを肩から腹に向かいクロスに切り裂く――ダブルディバインド。
「大丈夫? 今、回復するからね」
 アクセルが溜めたオーラでムギの傷を癒す――気力溜め。
「竜が不死などとんだまやかし……貴方には死の未来しか見えません」
 グーウィが大地をも断ち割るような一撃を、赤燐のドラゴンの腹に見舞う。
 ドラゴンは1体だけではない。頭上を旋回していた蒼鱗のドラゴンが雷のブレスを吐く。頭上から降り注ぐブレスはケルベロスたちだけではなく、船にもダメージを与える。
「この船は私が沈ませません。世界に眼鏡を。眼鏡に光を――大顕現眼鏡郷」
 船を神々しい眼鏡空間が包み、数多の眼鏡が降り注ぐ。その光景は船だけでなく、ケルベロスたちの傷をも癒す。
 降り続く眼鏡を掻き分け、万が赤鱗のドラゴンに躍りかかる。
 惨殺ナイフがドラゴンの皮膚を切り裂き、返り血が万の傷を癒す――血襖斬り。
 赤鱗のドラゴンが、ケルベロスたちの攻撃に悲痛な叫び声をあげる。と、ケルベロスたちを払いのけるように尾を遮二無二に振るう。
 頭上から降り注ぐブレスと相まり、船のダメージが極限まで高まってしまう。ゆっくりと沈み始める船。
 船の状況を確かめ、アクセルが口を開く。
「これって本格的にまずいよね」
「うーん、もう遊ぶ時間は少ないのか」
 ディートリンデは赤鱗のドラゴンを見、不敵な笑みを浮かべるのだった。


「逃がさない、デウスエクスは絶対に全部殺すんだ……ふふっあははは! ――鬼ごっこ」
 ディートリンデは両手に構えたボウガンを乱射しつつ甲板を縦横無尽に駆ける。矢が尽きるや否や赤鱗のドラゴンに肉薄し、素手で殴りつける。ケタケタと笑いながら行う様は、ドラゴンだけではなく、ケルベロスにまで恐怖を植え付ける。
「ディートリンデさんは怒らせない方がいいっすね。次はあっしの番す。お金があれば大体のことは何とかなります。しかし、ドラゴンさん、どうにもならいこともあるんす。……例えばそう、ここに見える貴方の終焉のように――いくら積んでも変えられない終焉」
 グーウィの水晶玉が覆せない滅びの結末を映し、ドラゴンに突き付ける。それはあまりにも無残な結末で、ドラゴンの動きが止まる。そのすきに魔力の塊をドラゴンにぶつける。
 しかし、頭上から滑空してきた蒼鱗のドラゴンの尾が、グーウィを薙ぎ払う。
 ディートリンデを払いのけ、赤鱗のドラゴンの爪がムギを切り裂く。
「まだだ、まだ此処で倒れるわけにはいかねえんだ。唸れ筋肉、魔力を糧に倒れぬ強さを示せ!!」
 ムギの鍛え上げられた筋肉が、魔力を糧に再生し、傷をふさぐ。
「みんな、食べていいよ……」
 アクセルにより放たれた攻性植物やブラックスライムが、一斉に赤鱗のドラゴンに襲い掛かり、その頑強な鱗ごとドラゴンを捕食する――暴食特化暴走形態。
 血を流し、悲痛な叫びをあげる赤鱗のドラゴンを助けるべく、今一度、蒼鱗のドラゴンが頭上から滑空してくる。
「とことん邪魔させてもらうぜ」
 急降下してくる蒼鱗のドラゴンをムギが、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りで迎え撃つ――スターゲイザー。
「いきますよ、万さん――ジグザグラッシュ」
「任しとけ、メリッサ――惨劇の鏡像」
 左右から赤鱗のドラゴンをはさみ撃つように、2人が駆ける。
 万のナイフの刀身が、ドラゴンの忘れたいトラウマを映し具現化させる。次いでメリッサがナイフの刀身をジグザグに変化させ、ドラゴンの皮膚を切り裂く。
 間髪入れず、赤鱗のドラゴン目掛け頭上から急降下するファン。
「喰らえ、我が命の一打を――真武活殺法・喰命打ち」
 掌に込めた膨大な闘気を、正確にドラゴンの経路へ打ち込み、致命の一撃を与える。
 しかし、ファンの一撃をうけても赤鱗のドラゴンは立っていた。口から溢れ出す灼熱の火炎。
「させない」
 赤鱗のドラゴンに肉薄する大和。
「見切れるか? 炎帝の軌跡を――いざ、参る! 不動四神流肆ノ太刀『朱雀』!」
 赤鱗のドラゴンがブレスを吐く、その刹那、懐に飛び込んだ大和がドラゴンの死角から十五の剣閃を放ち、ドラゴンが凄まじい殺気に気を取られた瞬間、最後の一撃がドラゴンの心臓を貫くのだった。


 赤鱗のドラゴンが倒れ、船が大きく揺らいだ。それに足を取られた瞬間、頭上から雷のブレスが降り注ぐ。
 ブレスは運の悪いことにエンジンを捉え、船が再度炎上する。
「このままじゃヤバい。飛び降りろ」
 船の状況を見た万が叫ぶ。
「飛び降りたら、できるだけ船から離れるっす」
 グーウィも声を上げ、ケルベロスたちは一斉に船を捨て、海に飛び降りる。
 ケルベロスたちが飛び降りた瞬間、船が爆発し、炎上する。そして船はまるで海に引きずり込まれるように、赤鱗のドラゴンと一緒に沈んでいくのだった。
 なんとか、沈没から逃れたケルベロスたちは1か所に集まり、プカプカと浮かんでいた。
 どうやら、蒼鱗のドラゴンはケルベロスたちを見失ったらしい。
「目的は達せたんだよね?」
 大和の問いにアクセルが答える。
「蒼鱗のドラゴンは倒せなかったけど、赤鱗のドラゴンは倒せたから十分だ」
「にしても、ここから城ヶ島までかなり距離があるっすね」
 そう言うグーウィは遠い目で、城ヶ島の方角をみる。
「それに城ヶ島周辺には海を泳ぐドラゴンも居るみたいだ」
 グーウィの言葉に付けたすようにファンが言うと、
「鍛え上げられた筋肉があれば、何も問題ない!」
「水中ゴーグルを付けているれば、何も問題はありません」
 ムギの言葉にメリッサが続く。
「ん、まぁ、そうかもしれないが、もうここまでで十分だ」
 それにみんな少なかれ傷ついてるんだからな。と、万が付け足すと皆の意見が一致する。
 泳ぎ始めるケルベロスたち。
「もっと遊びたかったなぁ。次は何して遊べるか楽しみにしとくよ」
 ディートリンデはそう言うと、皆の後に続き遠泳に参加するのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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