花火大会の日に

作者:宮下あおい


●発生
 大阪市内の花火大会に向かう人々で混んでいる市街中心部。
 鮮やかな浴衣があちこちで見られ、楽しそうな笑い声も聴こえる。花火大会の会場へ向かう臨時バスも出ており、いつも以上に賑わっている。
 人々の知らぬ間に、花粉のようなものが漂う。
 人で混雑している中、花粉がついた街路樹5本が突如デウスエクスと化す。
「きゃあああああああ!」
 女性の叫び声。一斉に皆が逃げ出そうとし、混乱を引き起こす。
 花火大会の日に惨劇が始まろうとしていた。

●概要
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は、ヘリポートに集まったケルベロスたちを見回した。
「ご存知の方も多いでしょうが、爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出しました。攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしていいます」
 大規模な侵攻ではないものの、このまま放置すればゲート破壊成功率もじわじわと下がっていってしまう。それを防ぐためにも、敵の侵攻を防ぎ、更に隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「今回現れる敵は、市内の街路樹の攻性植物で、謎の胞子によって複数の攻性植物が一度に誕生し、中心部の駅付近で暴れだそうとしています」
 この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとするため、とても危険な状態だ。
 5体と敵の数は多いが別行動することなく固まって動く。戦い始めれば逃走などは行わず、対処は難しくない。
 しかし数の多さは脅威であり、同じ植物から生まれた攻性植物だからか、互いに連携もしっかりしている。
「中心部の駅付近、それも花火大会前の夕方ですから行き交う人々は多いはずです。5体の攻撃方法は光花形態、埋葬形態、蔓触手形態です。攻撃方法に特別変わった点はないですが、人間を見つけたら取り込まず殺してしまいます」
 連携が取れている分やっかいだが、リーダーなどはいないようだ。敵の数も多いため、避難誘導は警察などに任せ、戦闘に集中したほうがいいだろう。
 アーウェルはケルベロスたちの顔を見回し、質問が出ないことを確認した。
「攻性植物がいくら連携しようと、皆さんの絆の前には敵ではないと信じています!」


参加者
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
リン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)

■リプレイ

●戦闘開始!
 花火大会自体は夜だが、やはり浮足立った雰囲気は明るいうちから流れるもの。まだ日は高いが、花火大会当日であるため、普段より人の多い駅付近。
 ケルベロスたちは避難途中の人々と攻性植物との中間点に立ち塞がる。
「よしよし、クゥ、一緒に頑張ろうね。――行くよ!」
 リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)はサーヴァントであるボクスドラゴンのクゥをぎゅっと抱きしめ、己に言い聞かせるように呟いた。クゥをそっと降ろし、仲間たちと共に駆けだす。
 最初の一手は、リュートニア。武器から物質の時間を凍結する弾丸を精製し射撃する。同時にクゥが己の属性である星と風を主人に注入した。
 浴衣を着ている少女、サラリーマンの男性、親子連れ、学生。まだ日のあるこの時間、仕事中や学校帰りの人も多いだろう。
 狙うは少し後方にいる攻性植物。不意打ちを狙い、そのまま次の一手はユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)だ。踏み込みざまにすれ違った、警察官に言葉をかける。サーヴァントのウイングキャットも、主人に従い走る。
「奴らは私たちが抑えるわッ。その間に、よろしくお願いします!」
 卓越した技量から放つ達人の一撃。前方にいる4体の間をすり抜け、ユスティーナがターゲットの1体に迫る。
 あと1歩。
 そこへ影が割って入った。2体目がターゲットにした攻性植物を庇ったのだ。
 ターゲットにした攻性植物の後方。ケルベロスチェインを使い、後ろに回り込んだクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が仕掛ける。
「まずはお主から叩かせて頂く。――いざ、参るでござる! 分身殺法 斬影刃!!」
 ブンシンサッポウザンエイジン。自らの分身を生みだし敵一体に同時多重攻撃を仕掛けるグラビティ。その斬撃は回避困難を極める。
 ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)が雷の壁を構築する。
「1体ずつ……よね。支援は任せてちょうだい」
「夏を楽もうとしている矢先に、こんな事件……悲しいですわね」
 シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は抜刀すると、緩やかな弧を描く斬撃で、腱や急所のみを的確に斬り裂く。
 同時にアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が、大鎌を構え走る。
「邪悪が街に迫れば、必ずその影に正義の兆しあり! それがわらわ! 正義の告死天使じゃ! そなたらにくれてやる街もグラビティチェインもこの星にはない! 神妙に覚悟するがよい!」
 刃に「虚」の力を纏って敵を激しく斬りつけ、傷口から生命力を簒奪する。
 アデーレドの邪魔をするかのように、3体目のツルクサのような茂みが伸びてきた。黒い煙がツルクサの行く手を阻む。
「相手が違うだろう。――凍て付け」
 リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)のクリュスタッロス・ニパス・オラ・パゴノ。
『とある魔術師』から教わった魔法のひとつ。使役する影の一部を煙状にし、細氷化したそれは包み込むもの全てを凍らせる。
「その通りや、行かせへんのやよ!」
 リン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)は、ハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾を放つ。
 敵の数は5体。ターゲットを1体に絞ったなら、必然的に残り4体の足止めも必要になる。
「これから花火大会だっていうのに……早く倒してしまわないとね」
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)はズミネと同じ、ライトニングウォールを放った。もちろんズミネと対象が被らないように変えてある。
「ああ、迅速かつ的確に。オレも加勢するぜ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が天空より無数の刀剣を召喚し、戦場に解き放った。

「なんとしても大阪の街を守る。人の住む領域を守る。それが我らケルベロスの責務!」
 アデレードが大鎌に地獄の炎を纏わせ、ターゲットの1体目へと踏み込んだ。
 大鎌の刃が攻性植物に届くより前に、それはケルベロスたちの足元を襲った。
 攻性植物の埋葬形態。地面に接する体の一部を大地に融合する埋葬形態に変形させ、戦場を侵食し敵群を飲み込む。
「いかん、ヤツを止めるでござるよ!」
 真っ先に動いたのはクリュティア。スタイルの良さから、仕草に合わせ胸が揺れている。螺旋を籠めた掌は軽く触れただけで、敵を内部から破壊する。
「皆、しっかり!」
 創介の歌が響く。生きることの罪を肯定するメッセージが、戦う者たちを癒やした。
「数が多いというのは、厄介ですわね」
 1体目へシアが仕掛ける。進行を邪魔しようとする他の攻性植物。蔦を伸ばしてくるが、それも綺麗に避けた。雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰りだす。
「1体ずつ確実に削っていくしかない」
 リノンは冥府深層の冷気を帯びた手刀を放ち、近距離の敵群を凍結させる。ターゲット以外の4体の足止めに専念しているため、敵に対する直接的なダメージは多くない。しかし僅かずつでも削っていることに変わりはない。
 ある1体が身体の一部を光を集め光花形態に変形し、破壊光線を放った。
 破壊光線の射程の先にいたのはズミネ。
「……ズミネ! 危ない!」
 ユスティーナが寸でのところで、ズミネを背に庇った。
 直撃。
「ありがとう、ユスティーナ。助かったわ、今回復するから」
 ウイングキャットも主人に向けて、翼をはばたかせる。
 ズミネはオーラを溜めて回復する気力溜めをユスティーナへ使った。
 攻性植物が蔦を伸ばす。
 狙われているのはズミネ。
 しかしそれを、泰地の重力振動波が止める。
「邪魔はさせないぜ!」
 裂帛の気合を重力震動波に変換し、敵群に炸裂させる。
「……今は、容赦なくいかせてもらうんよ…こっちも人命が優先やきん!」
 リンが歌う奇蹟を請願する外典の禁歌は、敵軍を呪縛するもの。
 ターゲットにしていた攻性植物にクゥがボクスブレスを放つ。それに合わせて、リュートニアも踏み込む。
「1体目は、これで最後です!」
 全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と化し、拳で敵の装甲を砕いた。

●中盤戦
 1体目を倒して2体目を撃破し、続いて3体目となった。邪魔をしてくる4体目、5体目を牽制し、時にダメージを与えながら激戦は続いている。
 攻性植物の蔓がリンを放り投げた。
 激突。
 コンクリートが砕け、砂埃が舞う。
 何かの店舗だろうが、今やそれも分からない。
「いたたたた……思いっきりやられたやんなぁ」
「リンさん! 今治すわ」
 ズミネの魔術切開とショック打撃を伴う強引な緊急手術で、味方の負傷を大幅に回復するグラビティ。
 攻性植物が蔦を伸ばしてくる。それを阻むようにリノンがグラビティを放った。
「――これで終わりだ!」
 リノンの半透明の御業が炎弾を放ち、敵を焼き捨てる。3体目が跡形もなく消えた。
 残り2体。
 皆土埃に汚れ、小さな切り傷すり傷も多い。
「お主達のせいで花火大会を中止にさせる訳にはいかぬでござる!」
 クリュティアの同時多重攻撃の分身殺法、斬影刃。回避の難しいグラビティだと学習でもしたのか、横から邪魔しようともう片方の攻性植物が、地面に接する体の一部を大地に融合する埋葬形態に変形させた。
「うわっ……っと!」
 攻性植物が戦場を侵食していく。足元から崩れていく。泰地が飛びのこうとするが、足を取られて上手く逃れられなかった。
「クゥ、ボクスブレス!」
 リュートニアの指示に従ったクゥが大きく飛んだ。埋葬形態になった攻性植物にブレスを放ち、邪魔をする。
「これなら、あと少し……!」
 萌葱の弾丸・改――ヴェール・クレール・バール・ドゥズィエム。
 味方へ近距離射撃をすることで傷などを癒すもの。
 攻性植物へのダメージは確かに蓄積している。残り2体といえど、万全ではないはず。
「さあ、芽吹きましょう」
 菫花――キンカ。
 シアのグラビティ。対象者の足元からフェアリーサークルのように魔法の菫が芽吹き、咲き、散った後に魔法陣に変化。対象者を攻撃する。
「夜空に咲く大輪の花も、美味しいものも、我らケルベロスが守ってみせるのじゃ!」
 続けてアデレードが大鎌を構え走る。刃に虚の力を纏って敵を激しく斬りつけ、傷口から生命力を簒奪する。
「あとひと息、頑張ろう。みんな」
 創介が再び雷の壁を構築した。
 4体目へ最後の一撃。
「力を合わせたほうが強い、そのあたりを学習したとしても、私たちはその上を行って見せるッ!」
 ユスティーナのオーラの弾丸が、敵に喰らいついた。

●最後
「残るはあなただけです!」
 シアは空の霊力を帯びた武器で、敵の傷跡を正確に斬り広げる。
 確かに手応えがあった。
 けれど。
 光花形態の破壊光線。その先にいたのは創介だ。
「……っ!」
 即座に羽猫が走る。翼を羽ばたかせ、邪気を払う。
 クゥも皆の回復に走り回っていた。
 リュートニアがHache de lune――ルーンアックスを手に踏み込む。
 今は攻性植物の攻撃を邪魔できればそれでいい。
「クゥ……がんばって! あとすこし!」
 サーヴァントたちも土埃で汚れたり、疲れているためか、最初に比べたらその動きに精彩を欠いてる部分も多い。
 最後の抵抗でもするかのように、攻性植物は蔓触手形態に変形させ、ツルクサのように蔦を伸ばす。
「しまった……っ!」
 足を取られ、ユスティーナは締め上げられる。
 ズミネの髪がそよぐ。揺れる服の裾。甘い香りとともに、大きく武器を掲げる。
「ほら一緒に食べよ♪ (戦争?)ダメよ♪ (侵略?)禁止♪ (定命化は?)オッケ~♪ デウスエクスやめたらウキウキだし~♪」
 おやつの時間――メリエンダ。
 ズミネのグラビティだ。武器を振り下ろした先、魔法陣から現れたのは童話から抜けだしてきたようなお菓子の家。甘い香りを漂わせることで、敵群の食欲を微妙に刺激する。
 甘い匂いに気をとられたのか、攻性植物がユスティーナを放り出した。
 地面を転がるものの、態勢を立て直す。
「……乱暴ね、女の子は丁寧に扱わなくちゃ、嫌われるわよ。――示すわ、自分自身を!」
 Blue lotu――スイレンノハナコトバ。
 託された武器を構え、防御専心の構えを取る。信頼という言葉に恥じない生き方を示すために。
 泰地が踏み込む。
「一気に畳みかけるぜ! 旋風斬鉄脚!」
 グラビティの力を全身に込めた後、旋風のような身のこなしで、対象の死角から高速かつ強靭な回し蹴りを放つグラビティ。蹴りの軌跡は、まばゆい光の弧を描く。
 反撃の隙を与えることなく、続いたのはリノンだ。
「手間をかけさせてくれたな」
 ナイフの刃をジグザグに変形させ、敵の肉を回復しづらい形状に斬り刻みます。
 リノンとほぼ同時にアデレードが薬液の雨を降らせた。
「これでがんばるのじゃ!」
「無限の幻想曲、第二楽章……しっかりとその耳に! 体に! 刻み込むなぁん!!」
 常夏の野生の力を感じる、大地の鼓動を相手に叩き込む。体の不調があるものはテンションが上がりすぎて体調が悪化するというはた迷惑な楽曲。一部の人から懐かしい雰囲気がするという噂がある。 裸足でかつ、できる限り薄着、可能なら裸で、剥きだしの大地の上に立ちながら放つと効果が上がる。……ような気がするが、別にそこまでしなくても普通に効く。
 クリュティアがケルベロスチェインを自在に操り、忍者の名に恥じぬ動きで足場を変える。そのまま、攻性植物の上空で抜刀。
 ポニーテールの髪がなびく。
「5体目! これで本当に最後でござる!」
 クリュティアの緩やかな弧を描く斬撃が、腱や急所のみを的確に斬り裂いた。

●花火と屋台と帰路
 戦闘が終わった後、ケルベロスたちは怪我の手当や破壊してしまった街の修復に当たっている。
「無事に戦いが終わった……怪我はしたし建物は壊してしまったけど、街を守れて良かった」
 ユスティーナが瓦礫を片付けながら呟く。安堵からか大きく息を吐いていた。戦闘中はやはり気を張っている。足元に寄ってきたウイングキャットを撫でようとする手はどこかぎこちない。しかし普段から可愛がっているらしく、ぎこちなくともその愛情はサーヴァントに伝っているようで、自分から撫でられにいっている。
 共に片付けをしていたクリュティアがふと空を見上げる。
「この後、フーリューな花火を見ていくでござるか」
 シアがこの戦いの余波で倒れてしまった道端の花にそっと手を伸ばした。
「こんな事件はありましたけど、空は綺麗に晴れてますしね」
「ほら、今は街の修復が先だ」
 黙々と瓦礫の片付けや修復をしていたリノンが冷静に皆を制する。無表情で言葉少ななだが、真面目な彼らしい物言いだ。
 一方、少し離れた場所の修復をしていたリュートニアの足元にクゥがすり寄ってくる。 笑みを浮かべ修復の手を止めて、リュートニアはクゥを抱え、そっと撫でた。
 4人の話が聞こえ、クゥの頭を撫でながら視線を合わせるようにサーヴァントの顔を覗く。
「おつかれさま、ありがとう。クゥも花火、見たい?」
 泰地が笑みを浮かべる。
「屋台もあるだろうし、それも楽しそうだな!」
「いいわね、花火。夏だもの」
 ズミネも修復の手を止めて、空を見上げた。現場に到着したのが昼を過ぎていたため、既に日が傾き始めている。
 1日の中で、暑さもひと段落し始める時間帯。
 リンの身体が楽しそうに揺れているのは、彼女も音楽や踊りを好む部分があるからだろう。
「街の人らが困らんようにしといた後で、ウチらも少し花火見てから帰ろか」
「たまにはそれも良さそうだね」
 近くで修復をしていた創介が頷く。
 そこへアデレードの薬液の雨が降り注いだ。食べることが好きな者も多い。花火見物もさることながら、屋台巡りも悪くない。
「屋台ならば、食べ歩きも良さそうじゃのぅ。美味しいものを食べて英気を養うのじゃ」

 夏のある日の花火大会。空に輝く大輪の花が、皆の心を癒す一時。
 それぞれの時間を楽しみ、ケルベロスたちは帰路につくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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