ファッション・インポッシブル

作者:土師三良

●美装のビジョン
「どうして、ファッション弱者は黒い服ばっかり着るんだろうねえ? ファッションが戦争だとすれば、黒い服を着るっていうのは降伏宣言と同じ。そう、『僕はセンスのかけらもないクソダサヲタ野郎でーす』と書かれた札を首から下げてるようなものだよ。あー、恥ずかしいったらありゃしない」
 とあるマンションの一室で、ビルシャナ化した男が語っていた。
 聴き手は、七人の青年。全員が黒系の地味な服を着ているが、ビルシャナの言葉を真に受けているのか、恥ずかしそうな顔をしている。
「ファッション戦争に勝ち残りたければ、僕みたいに攻めの姿勢でいかないとダメだ。ほら、見てよ。この超絶お洒落なコーディネート!」
 青年たちの前でビルシャナはマネキンじみたポーズを決めた。そのいでたちといえば、深緑のハーフパンツに真紅のTシャツ、金ラメに彩られたシースルーのベスト。今にもずりおちそうな危なっかしい角度で被っているのは、紅白のドットが散った緑のハンチング。屋内でも帽子を脱がないほどのこだわりがあるのだから、きっと靴も……と、思いきや、裸足だった。足首から下が完全に鳥のそれと化して蹴爪が生えているため、なにも履けないらしい。
「名付けるなら、バンデイラ・デ・ポルトガル&トリコローレ・スタイルといったところかな。カジュアルなのに得も言われぬ気品が漂っているから、ドレスコードが厳しめのハイソな店もフリーパスさ!」
 ドレスコードのない店でも入店拒否されそうな気がするが、七人の青年がビルシャナに向ける眼差しは羨望の色に染まっていた。正月とクリスマスがまとめて来たかのような色合いのこの鳥人のことをファッションリーダーと信じて疑っていないらしい。
「君たちもこんな風に洗練された格好をしてみたいよね? だったら、まずは黒い服から卒業しよう。黒い服なんか着ている者はファッション戦争の勝者にはなれないんだ!」
「はい!」
 力強い声で答え、黒い服をいそいそと脱ぎ始める青年たち。
 彼らの足元にビルシャナが新たな衣装を置いていく。どの衣装も世界各国の国旗をイメージした配色だ。国旗に使われている配色ならば、大きなハズレは少なそうだが、複数の国旗(ものによっては三箇国以上)を組み合わせているので、目に痛い。心にも痛い。
 だが、当人は痛みを感じていないらしく、楽しげかつ誇らしげに笑っていた。
「あー、黒服のダサダサ君たちをお洒落道に目覚めさせちゃったー。例えるなら、僕はお洒落ウィルスのキャリアー? このままだといずれ世界中の人間がお洒落ウィルスに感染ちしゃうかもー! ははははははは!」

●リュイェン&音々子かく語りき
 ヘリポートにて。
「『黒服絶対に許さない明王』とでも呼ぶべきビルシャナが大阪府岸和田市に現れました」
『私服が残念そうなヘリオライダーは?』というアンケートをおこなえば、上位に入るであろう根占・音々子がケルベロスたちに告げた。
「くろふくぜったいにゆるさないみょーおー?」
 と、呆れ顔で復唱したのはリュイェン・パラダイスロスト(嘘つき天使とホントの言葉・e27663)。
「それって、ファッションのこだわりをこじらせちゃったビルシャナなの?」
「こだわりというか……『ダサくてオタクくさい奴は黒い服ばっかり着ている』という偏見に毒されて、強迫観念的なレベルで黒い服を嫌うようになったみたいですね」
「うわー。なんか、イタそうな奴」
「イタい上にウザいですよ。そのビルシャナはお洒落を楽しんでるわけじゃなくて、周りの人たちに自分のセンスをひけらかしてマウントを取りたいだけですから。もっとも、ひけらかせるほどのセンスを持っているかどうかは怪しいですけどねー」
「お洒落通を気取るイキリオタクみたいなもんか」
 イキリオタクであるにもかかわらず、そのビルシャナには七人もの信者が付き従っているという。
 しかし、黒い服の魅力を伝えることができれば……そう、ケルベロスたちが黒い服を身に着けてインパクトをもってアピールすれば、信者たちも目を覚さますかもしれない。
 そこまで話を聞いたところで、リュイェンが難しい顔をして唸った。
「う~ん……これは対ドラゴン戦よりも困難な任務かもしれない。だって、ただ黒い服を着ればいいってわけじゃないもんね。洗脳を解くためにはクールにスタイッシュにファッショナブルに決めないといけないんだから」
「いえ、決めなくていいですよ。ダサくても問題ありませーん」
「へ?」
 目をテンにするリュイェンに音々子は説明した。
「信者たちは洗脳の影響でまともな判断力を失っていますし、洗脳される前もファッションには無頓着な人たちだったんです。だから、色が黒ければ、どんな服でも大丈夫なんですよ。ぶっちゃけ、普段着である必要もないですねー。黒い水着とか黒い甲冑とか黒い着ぐるみとか黒い宇宙服とかでもいいんじゃないでしょうか」
「宇宙服って……」
「重要なのはなにを着るかじゃなくて、どうやってアピールするかです。あと、自分の黒服だけをアピールするんじゃなくて、仲間同士で褒め合ったりすれば、説得力が増すと思いますよ」
「つまり、お互いの衣装をやたらと褒め合う集団になればいいんだね。下手すると、ビルシャナたちよりもイタい奴らに見えそうだけど……」
 眉を八の字にするリュイェン。
 一方、音々子は楽しそうに声を張り上げた。
「では、三十分後に出発しますので、それまでにとっておきの黒い勝負服を用意してくださーい!」


参加者
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)
禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)

■リプレイ

●「グラビティがオレにもっと輝けと囁いているッス」
「な、なんなの、君たちぃ!?」
 七人の信者たちを背にして、ビルシャナが叫んだ。
 彼の前にずらりと並んでいるのは黒ずくめの集団。この部屋に乱入してきたケルベロスたちだ。
「アタシたちは黒の伝道者よ! あんたたちに黒い服の魅力を叩き込んでやる!」
 と、宣言したのはエドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)。黒いピーコートとサングラスという渋い出で立ちだが、オネエ口調がすべてを台無しにしている。
「黒い服の魅力? なに言ってんだかね」
 オネエなキャラに圧倒されながらも、ビルシャナは嘴を嘲笑に歪めてみせた。
「黒い服はダサダサ君の象徴だよ。あんなものを着るのはファッション戦争の敗残……」
「黒い服がダサいなんて、誰が決めたッスか?」
 堂道・花火(光彩陸離・e40184)がビルシャナの言葉を遮り、ずいと前にでた。その身を飾るのは、本革の黒いライダーズジャケットをベースにしたチョイ悪系ファッション。
「カッコよく決めたければ、こういう風にダークなカラーで攻めなくちゃいけないッスよ。なんていうか……グラビティがオレにもっと輝けと囁いてるような? そう、オトコの魅力を引き出す色ッス。黒っていうのは!」
 某ファッション雑誌の有名な(?)キャッチコピーを少しばかりもじって、花火は信者たちにニヤリと笑ってみせた。
「皆さんなら、こういうファッションも似合うはずッス!」

●「軽く不機嫌なのは私が素敵でつまらないからよ」
(「花火は着こなしているけど、この信者たちにこういう系統の衣装が似合うとは思えない……」)
 と、花火の言葉を心中で否定したのはサキュバスの古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)。しかし、彼女はそれを口に出す代わりに花火の衣装を評価した。
「ワイルドでありながら、決して見苦しくない。点数をつけるとしたら……百点ね」
「あざッス! るりの衣装も、なんていうか……かっこいいッス!」
 花火は妙なジェスチャーを見せた。足りない言葉を身振り手振りで補っているつもりなのだが、なに一つ補えていない。
 彼に『かっこいい』と評されたるりの黒い衣装はワンピースととんがり帽子。胸の前には黒猫のぬいぐるみを抱いている。
「なんなの、その格好?」
「見ての通り、魔女よ」
 訝しげに尋ねるビルシャナにるりはそう答えた。
「黒い衣装こそが魔女の正統派スタイル。もし、カラフルだったら、魔女じゃなくて魔女っ子になっちゃうでしょ? あと、忍者もそうよね。カラフルな忍び装束を着てるのは忍者じゃなくてニンジャよ」
「オーララ! ニンジャー!」
 と、フランス生まれのドワーフ娘ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)が『ニッポンの文化の一端に触れた欧米人』さながらにオーバーアクションを見せた。
「ニンジャでなければ、戦隊ヒーローね。魔女っ子や戦隊ヒーローって――」
 るりは肩をすくめてみせた。
「――日曜日の朝のノリじゃない。いい年した大人がそんなことでいいの?」
「ぼ、僕らはべつに魔女でも戦隊ヒーローでもないから、カラフルでいいの! てゆーか、戦隊ヒーローにも黒い奴はいるだろー!」
 ビルシャナがあわてて反論した。後半部は反論になっていないが。
 そんな彼を無視して、黒いケルベロスコートを着た琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)がるりの衣装を褒め称えた。
「魔女スタイルのるり様、素敵ですわー!」

●「ふんばら騎士。もちろん、ナイトと読むんやで」
「千舞輝様のメイド姿も素敵ぃーっ!」
 淡雪は賞賛の対象を猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)に移した。
 そう、千舞輝の衣装はメイド服。
「見よ、このシックな色使い」
 ビルシャナと信者たちの前で千舞輝はポーズを決めた。
「地味と思うなかれ。これこそがメイドのカラー。なぜなら、メイドとはご主人様の派手さを引き立てる存在だから!」
「いや、さっきも同じようなことを言ったけど、僕たちはメイドじゃないからね。むしろ、ご主人様的な立場にな……」
「じゃかましい!」
 ビルシャナの反駁の言葉は千舞輝の怒声に遮られた。
「黒が重要なのはメイドに限ったことやないで! たとえば、フィクションでおなじみの黒ずくめの怪しい集団! あれが白ずくめの集団になったら、一気にエエもんっぽくなってまうやろ! 『どうもー、メン・イン・ホワイトでーす』って、やかましいわ!」
「……」
「それに仮の犯人役の黒い全身タイツみたいなアレもどないすんねん、バーロー! 全身が真っ赤とかピンクとかゴールドとかやったら、賑やかすぎて怪しさの欠片もないやないか! てゆーか、そいつは絶対に犯人とちゃうわ!」
 鼻を噛みちぎらんばかりの勢いでまくしたてる千舞輝に気を呑まれたのか、ビルシャナはなにも言い返さなかった。

●「ヘリポートの最前線に立ち続ける覚悟はあるか?」
「おまえたちは知らないようだな。黒がいかに実用的な色なのか……」
 押され気味のビルシャナを更に押すべく、ゆっくりと足を踏み出した者がいる。
 レプリカントの禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)だ。
 その姿は八人のケルベロスたちの中で最も異様なものだった。
 そして、偉容たるものでもあった。
 黒い夜間迷彩のアームドフォートで全身を覆い隠しているのだから。
「黒には重圧感を出す効果がある。それに闇に紛れることもできる。野戦には最適だ」
 野鳩のアームドフォートは重圧感ばかりではなく、熱気も発していた。ここに来るまでの間に夏の日差しをたっぷりと浴びたからだ。装甲の上で目玉焼きをつくれるかもしれない。
「ほら、近くで存分に見るといい」
 野鳩がまた一歩踏み出すと、床がミシリと音を立てた。セーシェルの国旗よりもカラフルなカーペットもダメージを受けているようだ。
 ビルシャナがそれについて抗議するよりも早く、エドワードが声を張り上げた。
「あぁ~ん! うちの男性陣のファッションセンスの素晴らしさといったらもう! 花火殿のチョイ悪系も野鳩殿の装甲服も黒が映えて素敵すぎる!」
 ハイテションな彼とは対照的に冷静な口調で、るりが野鳩を採点した。
「一分の隙もない歴戦の戦士といったところかしら。点数をつけるとしたら……百点ね」
「ほんと、なんていうか……かっこいいッス!」
 と、花火がまた妙なジェスチャーを見せた。

●「知ってた? 狐は稲荷の象徴なのよ」
「黒い服を否定する人って、絶対に社会に出たことないでしょう。大人になったら……いえ、たとえ子供でも、どうしても黒い服を着ないといけない時があるのよ」
 続いて口を開いたのは、狐のウェアライダーのユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)。普段は獣人型なのだが、今日は人型になっている。信者たちを感情移入させやすくするために。
 そんな彼女が身につけているのは――、
「――喪服じゃん!」
 ビルシャナが久々に声を発し、ここぞとばかりに反撃に転じた。
「『黒い服を着ないといけない時』とやらが来たとしても、僕は絶対に着たくないね。それが喪服なら尚更だよ。たとえ弔事の場でも、黒い服がダサいという事実は変わらないんだから。死人のためにダサい服を着るなんてナンセンス!」
「……ひ、ひどい」
 ユーシスは口に手をあて、顔を伏せた。
「早くに亡くなった主人を悼むため、私はこの服に袖を通しているというのに、その想いをナンセンス呼ばわりするなんて……」
 喪服に包まれた肩が小刻みに震え始める。
「泣ぁ~かしよった、泣かしよったぁ~♪ メェ~トルに言うたろぉ~♪」
「きっと、故人を悼むための礼儀を嘲笑うような貴方にはいないのでしょうね。生涯を捧げてもいいと思える人も、一生忘れることのできない大事な人も……」
 ジジがフランスの童謡(?)めいた調子で囃し立て、ユーシスが嗚咽まじりの声を絞り出しても、ビルシャナは悪びれた様子を見せなかった。
 だが、信者たちは気まずそうな表情をしているし、何人かは涙で目を潤ませている。
 ユーシスが嘘泣きをしているとも知らずに。

●「千の言葉より残念な私という説得力」
「今回、章題がどれもこれもひどすぎるよね。悪ノリにもほどがある。『男たちの拳』的な雑誌を読んでない人は置いてけぼりか?」
 ビルシャナが意味不明の戯言をほざいたが、その声は感極まった淡雪の叫びにかき消された。
「美しすぎますわ、ユーシスお姉様! 目線がちょっとキツメの喪服美女が流す涙、最高っ! これで色っぽい涙ぼくろまで付いていた日には『私が一生しあわせにします』なんて言ってしまうかも!」
 ビルシャナだけでなく、仲間のケルベロスたちまでもをたじろがせるほどの迫力である。
「なんだか、淡雪のほうがビルシャナっぽい……」
「す、すいません。つい脱線してしまいましたわ」
 ユーシスの呟きを耳にして、淡雪は我に返った。
 そして、脱線した話をレールに戻すべく、信者たちに語りかけた。
「野鳩様も仰いましたけど、黒はとても実用性の高い色なのですよ。黒い服は実際よりも細く見せる効果もありますし、それに――」
 淡雪はケルベロスコートを脱ぎ捨てた。無駄にスタイリッシュなアクションで。
 現れ出たのは黒いシースルーのベビードールに包まれた肢体。
「――こんなに魅惑的な空気を醸し出せますのよ! 白い色ではこうはいきませんわ!」
 確かに『魅惑的な空気』とやらが醸し出されている。
 しかし、なぜだろう? 残念な空気のほうが濃い。
 とても濃い。
 それでも淡雪に向けられた信者たちの眼差しは熱かった。残念な空気に惑わされることなく、彼女の真の魅力を見抜いたから……ではなく、ラブフェロモンの影響である(そう、淡雪はサキュバスだった)。
「さすがだわ」
 と、るりが言った。なにが『さすが』なのかは本人にも判っていなかったが。
「文句なしに百点ね」
「なんていうか……かっこいいッスね、淡雪さん!」
 三度、変なジェスチャーを披露する花火。
 二人の高評価(?)に気を良くして、淡雪はセクシーなポーズを得意げに決めた。
 その横ではテレビウムのアップルが皆に頭を下げていた。もし、喋ることができるなら、『残念な子ですいません』と言ってることだろう。

●「黒&黒は正解。だって、うちが正解やから」
「オーララ! ムッシュー、裸足? 今年はチョー暑いですよって、裸足やと火傷してまうよっ!」
 ジジがビルシャナの足元に屈みこみ、自作の黒い靴を置いた。蹴爪が生えたビルシャナでも履けるデザインだ。
「鳥サンのアンヨにちょうどええショシュールを作ってきました! これでコクショを乗り切ってシルブプレー!」
 ちなみにジジの身なりはシックな黒メインのコーディネート。シンプルでありながら、生地の質感、小物、指先、果ては髪の毛の先にまで配慮を重ねている。ビルシャナが言うところの『ファッション弱者』には(ビルシャナ自身もファッション弱者なわけだが)真似ができない上級のファッションだ。
 しかし、ファッション強者たる彼女が見立ててくれた靴をビルシャナは受け入れなかった。
「黒い靴なんて、いらないよ! そんなものを履くくらいなら、裸足で過ごすほうを選ぶね!」
「タギョ-ル! 裸足でええわけないやろ!」
 ジジはビルシャナを怒鳴りつけ、黒い靴を強引に履かせた。
「足元のオシャレ、チョー大事! お洋服がどんだけ素敵でも、ショシュールがショボかったら、女の子に笑われるで! そもそも――」
 ジジは立ち上がり、関西弁に似合う武器を構えた。
 ハリセンである。
「――配色だけでオシャレ語っとるんは三流! 仕立て、素材、さりげなさ、そして、キラリと光るセンス! 小物使いこそがオシャレの達人の極意なんやで!」
『センス』のところでハリセンをビルシャナに叩きつけると、それに釣られたのか、ウイングキャットの火詩羽も蹴りを入れた。
「『センス』と『扇子』を引っかけてハリセンを持ち出してくるような人がセンスをどうこう言えるんかな?」
 火詩羽の主人の千舞輝が呆れ顔で首をかしげた。

●「この瞬間、世界の中心は間違いなく拙者」
「男性陣だけじゃなくて、女性陣も完璧ねぇーっ!」
 エドワードが金切り声を発した。
「魔女のるり殿、下着姿の淡雪殿、メイドの千舞輝殿、喪服のユーシス殿、シック&キュートなジジ殿――みーんな、色々ある中から自分のパーソナルを見極めて、一番似合う服を選んでるわ! 文句なっしぃーんぐ!」
『いや、あきらかにパーソナルを見誤ってる人もいるよね?』などと反論する隙を与えることなく、エドワードはビルシャナに指を突きつけた。
「それに比べて、アンタはセンスがなさすぎ! なによ、その色? まるで幕の内弁当じゃない! ダメよ、アンタたち! こんなの真似しちゃ!」
 もちろん、『アンタたち』と呼びかけられたのは七人の信者だ。彼らは皆、自分の衣装(ビルシャナに与えられたものだ)を恥ずかしげに見下ろしていた。今すぐに脱ぎたくてしかたないのだろう。ケルベロスの衣装自慢が功を奏したらしい。
「こんな奴らの口車に乗っちゃいけない! またダサダサ君に戻りたいのかー!」
 と、ビルシャナが訴えたが、信者ならぬ元・信者たちの表情は変わらない。
 採点に飽きて黒猫のぬいぐるみと戯れていたるりがその様子を見て取り、仲間たちに尋ねた。
「そろそろ殺る?」
 その問いに答える代わりにエドワードはビルシャナめがけてスターゲイザーを放った。
 オネエ口調の咆哮を添えて。
「踏んづけてやるぅ!」
「キミ、それ言いたかっただけやろぉーっ!」
 千舞輝が被せ気味にツッコミを入れた。

「音々子お姉さんにベビードールを差しあげたら、着てくださるかしら?」
「ノリノリで着てくれはるんちゃうかなー」
 死体と化したビルシャナの傍で淡雪とジジが言葉を交わしていた。
 そこにエドワードも(本来の口調で)加わろうとしたが――、
「本人はノリノリかもしれませんが、誰も得しな……ぎょえーっ!?」
 ――野鳩のほうに目をやり、驚愕の叫びをあげた。
 アームドフォートの中からタンクトップ姿の美女が姿を現したからだ。
「野鳩殿は女性だったのでござるか? 大変失礼いたしましたぁ!」
「謝らなくていい。私はべつに怒ってない。そんな心も地獄化してしまったからな」
 無表情にそう言ってのけるブレイズキャリバーの野鳩を見ながら、同じくブレイズキャリバーである花火が例のジェスチャーをした。
「素顔の野鳩さんも、えーっと……かっこいいッスね!」
 語彙が地獄化しているのかもしれない。
 彼の横ではユーシスが涙(に見せかけた目薬)を拭っていた。
「久々に旦那の墓参りにでも行ってこようかしら」
 誰にともなく呟いた後で未亡人は付け加えた。
「まあ、久々といっても、毎月行ってるんだけど」

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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