狂乱せし紅蓮の忍

作者:澤見夜行

●再び相まみえる
 山間の平原は、人の寄りつかない格好の隠れ場だ。
 切り株の上に空き缶を立て離れると、立花・恵(翠の流星・e01060)は手にしたリボルバー銃の引き金を引いた。
 乾いた炸裂音と甲高い金属音が同時に鳴る。
 小さな目標であるにも関わらず、確かな手応えと共に命中したことに、腕は衰えていないことを実感する。
「――と、人が来ないからってあんまり実銃を好き放題撃つわけにはいかないよな」
 銃という殺傷能力の高い武器を持つ以上、節度ある運用が求められるのだと思う。
 その責任の重さを握った手で感じながら、銃をホルスターへと仕舞おうとした時、――因縁浅からぬ声が恵の鼓膜に響いた。
「見ィつけたぁ~! その女みたいな顔……リボルバー銃……間違いないアンタだよぉ」
「ッ――! お前は!」
 ――紅蓮痕の迅。
 過去、恵が番犬として覚醒した際に撃退した相手。
 あの当時、自身が付けたであろう傷痕が今も生々しく残っているのが見える。
「疼く……疼くんだよぉ……ガキに負わされたこの傷がぁ、痛くて、痒くてさぁ……!」
 血が出るのも構わず傷口を掻き毟る螺旋の忍。屈辱に歪んだ精神は狂気に染まっている。
「お前の血ィを浴びれば、きっとこの疼きも収まる……! そうさ、お前の血を浴びればぁ――!!」
「狂ってやがるな――!」
 仕舞おうとした銃を構える恵。
 恵を狙い現れた螺旋忍軍・紅蓮痕の迅との戦いが始まる――。


 ミッションルームに駆け込んだクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に説明を開始する。
「恵さんが、宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知されたのです。
 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることは出来なかったのです」
「それじゃ急いで助けにいかないとね!」
 クーリャの言葉に拳を合わせたユズカ・リトラース(黒翠燕脚の寒がり少女・en0265)が元気に声を上げる。
「はいなのです! 恵さんが無事なうちに、なんとか救援に向かって欲しいのです!」
 続けて敵の情報をクーリャは伝える。
「敵は螺旋忍軍の一人なのです。配下などはいないのですよ」
「近くの相手の守護を打ち破る範囲攻撃に、炎で攻めあげる攻撃、それに破壊力を増加させる回復を使うんだね。結構攻めてきそうでやっかいそうだね」
 資料を読み上げながら、ユズカの言葉にクーリャは頷く。
「戦闘地域は山間の草原なのです。人影はなく障害物もないので戦闘に集中できるはずなのですよ」
 説明を終えたクーリャは番犬達に向き直る。
「恵さんを救い、宿敵である螺旋忍軍を撃破してほしいのです! どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
「うん! 恵さんを付け狙うだなんて許せないよ。自慢の脚で蹴り飛ばすんだから!」
 ユズカの言葉にクーリャはぐっと拳を握ると、番犬達を送り出した。


参加者
ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)
立花・恵(翠の流星・e01060)
クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)
アルテナ・レドフォード(先天性天然系女子・e19408)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)

■リプレイ

●過去より変わった現在(いま)
「あぁ……痛い、痒い……疼くんだよぉ~」
 螺旋忍軍――『紅蓮痕の迅』が身体中の傷を掻き毟りながら、呟く。その声色は実に恨みがましくて、対峙する立花・恵(翠の流星・e01060)へと強く向けられたものだ。
 恵は思う。
 ――十年以上昔の話だ。
 迅が襲ってきたとき、幼く無力だった自分。
 その時は偶然にも番犬としての力が目覚めたことで退けることができたが、ずっとその後、迅がどうなったのか気になっていた。
 手にした銃を強く握る。
 迅がここまで狂ったのは、自分の未熟さが招いた結果だと、恵は思う。
 迅がこれ以上狂う姿、他の誰かを傷つける姿は容易に想像がつく。
 そんなこと、させるわけにはいかなかった。
「さっさとアンタの血ィ浴びて、この疼きを押さえたいねぇ……あ? なんだいその目は?」
「お前が真っ先に俺を狙ってくれて助かったよ。――昔とは違う、今なら確実にお前を倒せる……!」
 そう、今こそ決着をつけるとき。
 素早く照準を合わせて手にしたリボルバー銃の引き金を引く。同時、迅を素早く行動を開始する。炸裂音が過ぎれば、そこに標的はなく。
「血ィ……! 血ィィ!」
 噴き出る血をグラビティと変えて、獄炎が発射される。走る恵が前転しながら炎を躱せば、即座にトリガーを引く。
「変わってないねぇ……あの時もそうやって私に傷をつけたんだぁ!」
 放たれた弾丸を紙一重で回避しながら迅が声を上げる。
「変わってない? いや、変わったさ」
 変わってないと思われるのは心外だと言うように恵が返答する。
 そう、あの頃とは違う。
 一人、沸き上がるままに力を振るったあの時とは。
 手にした力。その力を正しく使うこと。そして――仲間がいる!
「めーぐーみーちゃん!」
 空から――敢えて間違えた呼び名で――声が届く。
 降り立つ影は十二。恵の救援に駆けつけた番犬達だ。
「ちっ、仲間かい――!」
 焦りながらも機先を制すが如く、迅が恵へと向けて炎を放つ。影が躍り出る。
「すみません、お待たせしました!」
 炎を受け止めながら恵を守るのは水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)だ。
「自身の非道を棚上げし、逆恨みで我欲を満たそうとする外道! あなたの思い通りにはさせません!」
 恵と迅の因縁を伝え聞いた煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)が憤り燃ゆる闘志で指を突きつける。
「そうです! かわいいめぐみ……ゴホン、頼れる団長に傷をつけられると思ったら大間違いです。
 狂気に満ちたあなたになんか、立花さんは血の一滴だって渡しません!」
 カナと並び立ち朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)がそう宣言する。その言葉通り、今日は仲間達を守り切る心持ちである。
「大丈夫ですか、立花さん」
「中々に危なそうな相手ですね。恵さん、援護致します」
 伊織・遥(滴るは黒染めるは赤・e29729)とアルテナ・レドフォード(先天性天然系女子・e19408)が恵の無事を確認すれば、すぐさま武器を構え臨戦態勢へと移る。一分の油断なく、迅と対峙する。
「立花さんが一人の時に狙うなんて、なんて卑劣な相手なのでしょう」
 ”不変”を冠する魔女、クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)が迅を睨めつける。自身の宿縁依頼で駆けつけた恵に恩返しがしたいと考えていた。
「――一体、昔にどんな悪い事した訳?
 ま、何だろうと僕は恵ちゃんの味方だから、安心してよね」
 軽口混じりに、武器を構えるのはディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)だ。ディルティーノが「めぐみちゃん」と呼ぶたびに、恵の眉間に皺が寄っている気もするが気のせいだろう。
「ぞろぞろとナイト気取りのお仲間さんって訳かい~。ひゃはは、女みたいな顔したアンタにはお似合いだねぇ、め・ぐ・み・ちゃん!」
「このっ……調子に乗って――!」
 女みたいだと言われて激昂する恵だが、仲間に制止され、一人突撃するようなことにはならなかった。その様子がたまらなく可笑しいとでも言うように迅が笑う。
「ひゃはは……いいよぉ~お友達ができて変わったっていうなら見せてご覧よ。
 ――全員まとめて血祭りにしてやるよぉ! それで、この傷も、疼きも収まるんだぁ~!!」
 迅の頭上、何もない空間に忍具が生まれる。その全てが番犬達に狙いを定めていた。
「やるぞ、皆――!」
 恵のかけ声の下、番犬達が一斉に駆けだした。
 螺旋忍軍、紅蓮痕の迅との戦いが始まった――。

●狂乱せし紅蓮の忍
 迅のグラビティによって生み出された忍具が狂嵐の如く暴れ回る。自身の傷を厭うことなく苛烈に、鮮烈に繰り出される攻撃の前に番犬達は苦戦を強いられることとなる。
「ひゃはは……血ィ……! 血ィをもっとだぁ~!!」
 忍らしい素早い動きを見せる迅の思惑は、まさに血祭りの一言に尽きるだろう。多くを巻き込むように忍具を動かし、番犬達の血を見るたびに歓喜の声をあげた。
「血を見て喜ぶなんて……、誰がどう見ても狂ってますね。そんな人にめぐみちゃ――仲間はやらせません!」
 恵を狙って放たれる炎獄の塊をその身を盾に受け止める環。重心を下げ、足に力をいれると、一気に加速する。
 電光石火。鋭い一蹴が迅の急所を狙って放たれる。一撃を受けた迅は大きく吹き飛びながら、体勢を整えようと、バランスを取る。
「悪いですけど、容赦してる余裕はないんで!」
 グラビティによって生み出された無人機が変形合体しロケットランチャーを形成する。環が照準を絞ってトリガーを引けば、白い月のような色をした砲弾が撃ち込まれた。
 放たれた砲弾は迅へと届く直前、無数の弾丸を散発する。研ぎ澄まされた散弾が迅の傷を大きく抉り、広げていった。
「あの時も、今までも、許せることは一つもないけど、
 おかげさまで、俺は地球を守れてるぜ!」
 肉薄し、流星纏う蹴りを放ちながら、恵は言う。それは感謝――とは言えない感情であるが、きっかけの一つであることは間違いない迅へと向けたものだ。
「アンタの血ィさえ浴びれば――この疼きは収まるんだぁ~!」
 しかし、迅の耳には届かない。もはや狂気に染まった精神の迅はただ恵の血を求め暴れ狂う。
 重力の楔を打ち込み足を止めれば、間合いを取りつつ極限の集中力で迅のいる空間を爆破する。転じて再度肉薄すれば、絶空の太刀にて傷を切り広げる。だが、同時に迅が行動に移る。
 肉を切らせて骨を断つ。自らのダメージを顧みない攻めの姿勢に驚嘆するところだろう。
 恵を狙った火炎が吹き荒れる。
「立花さん――!」
 割って入るのは和奏だ。炎に巻かれながらも奥歯を噛みしめ耐える。
「和奏、大丈夫か!」
「……大丈夫です、絶対に護ります」
 恵の心配する声に、気丈に振る舞う和奏。心配させまいという気持ちが伝わってきた。
 環と和奏。共に連携を取るディフェンダーの二人は、こうして恵への攻撃を的確にブロックしていた。絶対に攻撃を通さないという強い意志が感じられる。
 距離を取ろうとする迅に追いすがる和奏。
「絶対に逃がしません。……行けっ!」
 アームドフォートから浮遊砲台を展開し取り囲むと、同時攻撃によってその足を止めていく。
「チィィ! 面倒なやつだよ――!」
「そこですっ!」
 愛用のアームドフォートが火を噴く。目にもとまらぬ早さで打ち出される弾丸が攻撃に転じようとする忍具を破砕し、迅を追い込む。
 その動きにクララも呼応する。
「その武器封じさせてもらいます……」
 クララは遠隔爆破によって攻め手を封じつつ、卓越した技量からなる一撃を、的確に叩き込んでいく。傷つけられた迅の身体が、徐々に凍りつき、その身体を蝕む。
「こんなもん、気合いでなんとかするんだよぉ~!」
 迅が螺旋のグラビティを循環させる。傷が癒えていくと同時に、全てを破壊し尽くす力が宿っていく。
 だがクララのすべきことは変わらない。淡々と、的確に状態異常を付与していく。遥と共に中衛に位置する二人は、そうして多数のグラビティエフェクトを与えることに貢献したといえるだろう。
 迅が回復したのを見てから、少し後。クララは持てるグラビティの一つを放つ機会を窺う。その機会はすぐに来た。
「“彼等の血の通わぬ魂が、血を渇望しているのだ――”……。まぁ!」
 古代語魔法は腐食の呪詛となって迅を襲う。
「血の扱いで魔女に勝てますでしょうか」
「なんだいこれはぁ!? 気が上手く練れない!?」
 クララの狙い通りの効果が上がったと言えるだろう。迅は回復が阻害されたことに奥歯を噛みしめた。
「傷付けられたくらいでアンタは短気だねぇ。
 僕なんか見てよ、同じくらい傷だらけさ」
 そう戯けて言うのはディルティーノだ。迅に追いすがりながら、その力強いグラビティを振るっていく。
 その攻撃は、見事に迅の傷口を狙うもので、それが迅を苛立たせていた。
「おっとごめんね! また、治りかけの古傷、開いちゃったね!」
「あぁぁぁぁ……! 痛ェ……痒ィィ……わざと狙いやがってェ!!」
 迅の忍具が暴風のように蠢いて、ディルティーノの身体に突き刺さっていく。しかし、その暴風の中を進みナイフを閃かせた。
「血を浴びるってね、こうやるんだよ、ほら!」
 徹底的にマウントを取りに行く形のディルティーノだが、その役割はしっかりと果たしていた。雷の刃で敵の防御を突き崩し、空を絶つ一撃で増大させていく。そうして、体勢が整えば、自身の必殺で大ダメージを狙う。
「刀が囁いてるよ。喉がカラカラだってね!」
 神火纏いし刀剣で、神を喰らい、引き裂く刃を閃かせる。終焉を呼ぶ一振りに、迅の身体から大量の血が噴き上がった。
「綺麗なものが見えて来たでしょう? そのまま惑わされていてくださいね」
 笑みを崩さない遥が、剣戟による反響音を響かせる。
 一見すれば余裕を崩さない笑顔のポーカーフェイスの彼だが、恵が襲撃されたという話を聞いた際には、居ても立ってもいられなくなり飛び出したほどだ。……まあそれをひた隠しながら、彼は余裕ある笑顔を覗かせているのだが。
 剣戟の舞踏が、迅の精神を惑わせる。視界の先、『万華鏡のように移ろう光の幻影』を見る。それは己か敵か――。
「微睡んでいる所申し訳ないですが、攻撃はさせてもらいますよ」
 遥が走る。
 振るう一閃を躱されながらも徐々に追い詰め、達人の放つ一撃を叩き込む。
 間合いが離されれば、極限集中による遠隔爆破を織り交ぜ、的確に迅を追い詰めていった。
「……狂える忍者ね。そんなに傷が疼くのであれば、私達の方で二度と疼く事の無いようにしてあげる!」
 迅に対して不快感を露わにし、徹底的に冷淡に言葉を投げかけるのはアルテナだ。普段の優しい印象は形を潜めている。
 ユズカ・リトラースと共に、番犬達を支えるポジションに位置するアルテナは、しっかりとその役目をはたしていた。
 雷の壁を構築し、仲間達の異常耐性を高めれば、襲い来る忍具に対して、薬液の雨を降らす。炎に巻かれ大きな傷を負ったものがいれば、即座に魔術的緊急手術を行い傷を癒やした。
「ユズカさん、異常の回復をお願いします――!」
「うん、任せて!」
 アルテナとユズカは、互いに声を掛け合いながら番犬達を支えていた。
 火力に偏重を置く今回の相手のような場合、癒やし手の貢献は計り知れないものとなる。ともすれば、一瞬にして戦闘不能にされかねない相手だ。仲間の体力を的確に推し量り、最善手となる回復を施し、戦線を維持、支えるのは重要な役目だ。
 今回の番犬メンバーの中ではやや戦闘経験的に劣るアルテナだが、その役割はしっかりとこなせたと言って良いだろう。
「師匠から学んだ剣を受けなさい!」
 裂帛の気合いと共に、カナが霊力で作った刃を放つ。カナの師匠が使っていた技を模倣したものだが、その効果と威力は確かなものだ。
 放たれた刃が迅の身体を蝕み、麻痺に似た効果をもたらす。
 カナは迅の後側面を取るように円運動し、機を窺う。
 すでに自身を含め、仲間達の攻撃によりかなりのダメージを与えてきた。迅の動きが悪くなってきているのも目に見えて明かだ。
 迅が、一瞬隙を見せる。その隙を狙ってカナが古代語を詠唱する。
「もう終わりです! これであなたは動けません!」
「ガッ! 石化魔法か! だけどまだぁ!!」
 その光線を受けて、身体が石のように重くなっているにも関わらず迅は動きを止めない。
 追い詰められているにも関わらず、疼きを無くす血を求め、恵を狙い続ける。
「くっ……これじゃぁ疼きが収まるどころじゃ……さらに疼いちまうよぉ!」
 戦闘中でも構わず、傷付いた場所を掻き毟る迅。その身体は徐々に朱に染まり、傷痕はまさに紅蓮の名に相応しい有様だ。
 暴れ狂う迅にサポートで駆けつけた番犬達がその力を奮う。
「人の友人に何をしようとしているのかな……。
 とち狂った事を騒ぐ奴には、さっさとご退場願いたいね」
 人形片手にそう言うアンセルム・ビドーが、ウイルスカプセルを投射し、視認困難な斬撃を放つ。迅の誇る攻撃も回復も、どちらも弱体化させる動きだ。
「やらせませんよ――!」
 番犬達を守るようにその身を盾にするのは玄梛・ユウマだ。襲い来る忍具の嵐を防ぎきると同時、手にした大剣で連撃を叩き込んだ。
 恵への恩返し……というわけではないが、救援に尽力する形だ。
「いくら立花君に女装趣味があるとは言っても、女顔と言われる筋合いはないだろう――」
「むっ!」
 神崎・晟の言葉にジロリと恵が睨む。
 細かいことは良いだろうと、番犬達の武器に、砲戟龍の力を付与する。生み出される龍の幻影が、狙いをつけた相手を追従し続ける。そうして余裕が生まれれば、グラビティを滾らせ攻撃に向かった。
 ――戦いは佳境を迎えていた。
 番犬達の攻撃によってその肌を紅蓮に染め上げる迅。
 変わること無く、恵の血を求めて攻撃を繰り返すが、その動きは鈍重だ。終わりの時が来たのだと、誰もが感じた。
「何やら縁があるようだが……詳しくは聞かないさ。決めて来い恵!」
 サポートとして駆けつけた、雪村・達也が仲間達を支援しながら恵に声を掛ける。
「今度こそ、あなた自身の手で引導を!」
 カナがグラビティを操りながら声を上げる。
「くそっ! 痒ィ、血ィが足らないよぉ!!」
「逃がしません――立花さん!」
 間合いを取ろうとする迅を環が追い詰める。素早い動きで背後を取れば、二撃、三撃と蹴りを見舞う。そうして恵へと繋いだ。蹴り飛ばされた先、恵が愛用のリボルバー銃と共に待ち構える。
「その狂気を救うことは出来ないが……解放ならしてやれる。こいつで最後にしよう!」
「アンタさえ……アンタさえいなければぁ!!」
 生み出され恵を狙う忍具。だが同時に恵が動く。
  神速の疾走。刹那の呼吸で肉薄すれば、ひときわ大きな胸の傷にリボルバーを押しつけた。
「一撃をッ! ぶっ放す!!」
 気合いと共に放たれる弾丸。恵を狙って放たれた忍具。だが、弾丸を放つと同時、恵は後ろへ跳躍し間合いから離脱している。
 迅の身体の中で弾丸が炸裂する。熾烈なまでの衝撃が迅の内部で起こり、爆発にも似た赤い血を噴き上がらせた。
「ちくしょう……! また、負けるっていうのかい――!?」
 そう言い残して、手足を投げ出し大の字に倒れた迅は、生命活動を停止するのだった。
 螺旋忍軍、紅蓮痕の迅はこうして番犬達に倒されたのだった――。

●過去とは違うこと
 戦い終わり、番犬達が輪を作る。その中心は恵だ。
 恵は手にした銃をくるくると回して、今度こそホルスターに収めると、囲む仲間達とハイタッチを交わす。
「みんな、本当、来てくれてありがとな。その、すげー嬉しかったぜ」
 少し照れながら、そう素直に言う恵。その言葉に番犬達は安堵して、
「追っかけられるのも大変だねぇ。無事かい?」
「いきなり襲われたと聞いて心配しました。無事のようで何よりです」
 ディルティーノとアルテナが、恵の無事を確認する。
「おかげさまで」と返した恵に、ホッと安堵するカナとクララ。
「でも本当に無事でよかった。血とかでてないですよね?」
「大丈夫ですよ! だって二人でしっかり守りましたからね。ねーめ・ぐ・みちゃん?」
 和奏の問いかけに、割って答える環。ふざけて名前の呼び方を変えれば恵の額に青筋が。
「そうそう、『めぐみちゃん』は僕らに感謝しないとね」
 その流れにディルティーノが乗っかって、
「お、ま、え、らー! いい加減にしろー!」
 と、恵の怒りが頂点になるのだった。
 見ていた番犬達に笑顔の華が咲く。
 普段から付き合いのある面々は、こうして笑い合うのが日常なのだろう。
 そう、番犬としての日常だ。
 助け合い、勝利を喜び、笑い合い、時に巫山戯て見たりして。
 そうやって、これまでも、そしてこれからも過ごしていくのだ。
 そう、過去とをは違うこと。
 不意に手にした力は、共に戦う仲間を連れてきた。
 ここに居る者達だけではない。もっと多くの仲間達だ。
 その絆を失わないように、無くさないように。
 手にした力を必要な時に迷い無く、間違えず正しく使えるように。
 恵は笑い合う仲間達を見つめながら、今一度心にそう誓いを立てて、番犬達と共にその場を後にした。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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