地上最強のパンチはこうだ!

作者:一条もえる

 とある国道沿いに、廃墟となった建物がある。そこはかつて、ゲームセンターだった。
 郊外ではあるが、その街にある大学の学生が飲み会の帰りに立ち寄ったりして、小さな賑わいは見せていた。
 しかし、今どきの学生は飲み会なんてあまりしないのだろうか。そもそも、わざわざゲームセンターに足を運んでまでゲームなどやらないのだろうか。
 時代と言えば時代。企業努力の不足と言えば不足。とはいえ、最新のゲームを入荷し続けるのは大変なのである。
 様々な事情でこの店が閉店に追い込まれてから、かなりの時間が経っていた。
 中にあるのは、古ぼけて価値もないゲームの筐体。そこに年月の埃が降り積もり、そのことだけが、かつて賑やかだったこの場所に時間が経過していることを示している。
 ところが。
 その片隅に、埃を巻き上げているモノがいる。
 握り拳ほどのコギトエルゴスムが模型のような関節を動かして、蜘蛛のように地面を這っていたではないか。
 それはうち捨てられたゲームの筐体に潜り込んだ。
 わずかな振動とともに、筐体と一体化していく。
「パパパパ、パンチングマ、シシシシシシ~ン!
 コノオレヲ、タオスコトガデキルカナ~♪」
 やたらと軽快な音楽とともに、ダモクレスは立ち上がった。

「へぇ……あたしにパンチをお見舞いされたい、そういうことか?」
 懐から煙草を取り出しながら、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)はせせら笑った。
「ダメ。ヘリオンは禁煙」
 そんなハンナから煙草を奪い取り、崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)は様々なクッキーの載った皿を差し出す。
「口にするなら、こっち。
 いっぱい焼いてるからみんなも食べてね。お茶も入れるから」
「あんたが焼いたのか? 意外だな……」
 仕方なく、ハンナは1枚を手に取った。その間に、凛はクマの形に型抜きされた数枚を口に運ぶ。
「もぐもぐ……。
 ダモクレスが出現するのは、廃業したゲームセンターの跡地よ。
 といっても、今の段階ではまだコギトエルゴスムの段階だろうけど。
 でも、このままだと多くの犠牲者が出ることになっちゃう。だからぜったいに見逃せないの」
 と、凛はプレーンとココア、2色の生地で市松模様が作られたクッキーを、ミルクたっぷりの紅茶で流し込んだ。
 ゲームセンター跡地は山道へと向かう街の郊外にあって、周辺に建物はほとんどない。
 とはいえ、そこは近隣の市や町を結ぶ交通の大動脈である。もしダモクレスを見逃して、あるいは食い止めることが出来ずに建物の外に出られるようなことがあれば、多くの車が標的にされ、無数の死者が出ることだろう。
 凛は真剣な表情で一同を見渡し、その手でチョコチップクッキーをかじった。
「もぐもぐ……。
 敵は、20年くらい前に登場したパンチングマシーンのゲームが素材になってるみたい。
 ……ゲームって、よくわからないんだけど。
 とにかく、プレイヤーが目の前の……パンチングミットっていうの? それを思いっきり叩いて、その威力でスコアが出るっていう」
 敵は、かなりしぶとい相手のようだ。
「ずっと殴られ慣れてたからかな? ともかく、お願いね」

「いいだろう。悪いが……あたしの拳は、そんじょそこらの奴とは違う」
 ハンナはニヤリと笑って、拳を握りしめた。


参加者
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
鬼塚・彌紗(とりあえず物理で殴る・e50403)
ファラハ・アルワーキ(オウガの光輪拳士・e50604)

■リプレイ

●復活のパンチングマシン
「確かにこれは年代物ですね。バブルの残滓というか」
 建物を見上げて、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)はのんきに笑った。
「ん、バブル……?」
 と、フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)が小首を傾げた。
「まぁ、僕だって見たことある訳じゃないけどね」
 ネットで見るそれに、似通った雰囲気だ。肩をすくめて、東西南北は応えた。
 彼らの背後では、ひっきりなしに多くの車が行き交っている。
「すいませーん! ちょっと危険なので、止まっててもらえますか~?」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)とロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)が、それぞれ上下線で車を止めていた。運転手たちは驚き、つい不満を漏らす者もいたが、
「申し訳ありません、事態が事態ですので」
 と、ロフィに丁寧に頭を下げられては、致し方ない。間もなく警察も来て、辺りを封鎖してくれるだろう。
「パパパパ、パンチングマ、シシシシシシ~ン!
 コノオレヲ、タオスコトガデキルカナ~♪」
「お出ましのようだな」
 建物から、やたら陽気な電子音が聞こえてきた。物と物とがぶつかる衝撃音、こちらは現実のものである。
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は軍帽の鍔をつまんで被り直し、建物へと飛び込む。
「修行に行っている間に、すっかり見なくなっていたが。面白そうにリニューアルされてるじゃないか」
 古めかしい筐体にゴテゴテと機械の部品が張り付き、奇妙な手足がついている。身体の真ん中にはパンチングミット。画面には、ノイズを発して奇怪な色で表示された、『対戦相手』が映っていた。
「オマエノパンチ、見セテミロ!」
 ダモクレスが声を発するのに合わせて、画面の中でも口がぱくぱく動く。
「ほほう、これは面白そうじゃな! 地球にはこんなに面白そうなものがあるのか!」
 ファラハ・アルワーキ(オウガの光輪拳士・e50604)が歓声を上げる。
「もっと早く来ていればよかったの。真理は知っておったのか?」
「男子はよくスコアを自慢してましたが……私は、あまりやったことは。
 どちらかというと、レースとかシューティングとかの方が好きですかね」
「どれも男子みたい、ってところは変わらないね」
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)が呟いた。
 自分にだけ察せられるかすかな微笑みを感じて、
「クレーンゲームだってやるもの。……まぁ、欲しいのがあるときに挑戦するくらいは」
 と、真理は頬を膨らませた。
「9対1の割合くらいで?」
「もう!」
「ふふふ」
 それを見ていた鬼塚・彌紗(とりあえず物理で殴る・e50403)が、思わず微笑む。
「ところで私、こういうのはよくわからないんですけど……」
 彌紗は小首を傾げながら、がま口を取り出した。パンパンになるほど、小銭が詰まっている。
「100円払えば、思いっきりブン殴ってもいいんですよね?」
 などと、物騒なことを言う。
「まぁ、そうだけど。
 ……今日は特別。タダで殴り放題よ。好きなだけどうぞ」
 そう言って、マルレーネはオウガメタルを輝かせた。
「まぁ!」
 表情を輝かせた彌紗は拳を握りしめ、ダモクレスめがけて叩きつけた。その拳から黄金の角が瞬時に伸びる。
 バシィンッ!
 乾いた音が室内に轟く。敵は拳を、パンチングミットで『受け止めた』。
「ピコピコピコ……ザァンネン! コノ程度デデデデ、オレハ倒セナイ!」
「あら……なんだかちょっと、カチンときますね」
「今度は私の番なのです」
「ん、わたしもやってみたいの。おもしろそう」
 真理が拳を握りしめて突進する。フォンも尻尾をふりふりしながら、向かっていった。
 ライドキャリバー『プライド・ワン』が炎を纏って突進する。
 そこからすかさず飛び降りた真理は、
「本当はダッシュしてのパンチは危険ですが、今はいいですね?」
 強烈な拳をたたき込んで、パンチングミットの生地を炸裂させた。
「ん……!」
 いい点がでますように。
 フォンの拳は獣のそれへと変じ、鋭い息とともに、重い重い一撃を命中させる。
「ピコピコピコ……マダマダ、アアア甘イナ!」
 効いてはいるだろうが。ダモクレスの筐体が開き、あちこちから無数のミサイルが放たれた。
 それらは白煙をあげてケルベロスたちに襲いかかり、外れた弾がテーブル型筐体などを吹き飛ばす。
「クルル、お願い」
 ボクスドラゴン『クルル』が、マルレーネをはじめ、ケルベロスたちに次々と属性をインストールしていく。ミサイルを受けた痺れが、徐々に消えていった。
「チチチ地上最強ノパンチハ、コウダ!」
 嵩に掛かったダモクレスは拳を猛烈に回転させ、叩きつけてきた。
 そのパンチを、ロフィが正面から受け止める。凄まじい回転に、服が裂けて千切れた。
「うぐぅッ……!」
「待てい! お次はファラハの番なのじゃッ!」
 ファラハがエアホッケーの台に飛び上がり、そしてさらに跳ぶ。流星の煌めきが込められた蹴りはダモクレスの側面に命中し、敵はたたらを踏んだ。
「こちらの方が、性に合うておる。キッキングマシンの開発が待たれるところなのじゃ」
 と、肩をすくめた。
「しっかりせい!」
「ふ、ふふふふふ……さすがのいいパンチです。効きましたわぁ」
 腹を押さえてうずくまりながらも、ロフィは恍惚とした笑いを浮かべていた。
「うわ」
 ファラハが思わず、半歩退く。
 ロフィは笑みを浮かべたままで跳躍し、美しい虹をまといつつ、ダモクレスに蹴りを命中させる。
「さぁ、もっと殴ってくださいませ。私もそのぶん、全力であなたを殴りましょう……!
 殴られたがりのあなたと、私。同じ嗜好を持つ者同士の、Win-Winの関係というもの……!」
「ドン引きですよ、それ」
 異性の闇を見せられた気がして、東西南北はよろめいた。ミサイルの痛みばかりではない。
 ともあれ、
「実はボク、この手のゲームは初体験なんですよね……。置いてある店も少なくなってるみたいで……時代遅れなんでしょうかね?」
 それを思うと敵も、哀れである。
「そうかもな。せめて楽しんでやるのが、置き去りにされた者への供養だろう」
 双牙は瓦礫を飛び越えて間合いを詰め、筐体の隙間に指一本を突き込んだ。配線か何かを傷つけたか、敵の動きがビクリと止まる。
「殴って欲しそうだからな。今日は、手業だけで相手してやる」
「ボクは肉弾戦には自信がありませんが、しかと受けて立ちましょう!
 目に焼き付けろ、ニートの本気!」
 言葉の力強さとは一転、東西南北は腰をくねらせ、頬に手を当てながら敵にめがけて投げキッス。
「ボクといいこと、しませんか……?」
 ハート型のビームが、敵を貫いた。

●なぁゲームをやろうじゃないか
「閃く手刀に紅炎灯し、肉斬り骨断つ牙と成す!」
 双牙の手刀に炎が宿る。
「受けろ! 閃・紅・断・牙―Violent Fang―!」
 それは凄まじい熱と鋭さで襲いかかり、ダモクレスはまともに喰らって吹き飛ばされた。筐体が割れ、内部の部品が砕け散る。
「ピコピコピコ……今ノハ、痛カッタゾゾゾ!」
「そうか? だったらハイスコアで表彰でもしてくれ」
 と、双牙は嘯く。
「ヌガガッ!」
 画面の中の敵が喚くと、大きく開けられた口からエネルギー光線が放たれた。
「この攻撃も……全身が焼け尽くされるような痛みで……素敵です」
 ロフィが仲間の前に立ちはだかって、それを浴びる。とはいえ、幾度もそれでは身が持たない。
 たまりかねたのかテレビウム『クー』が間に割って入り、顔から閃光を放ちつつ防ぐ。
「えええ……」
「いや、そこは素直にありがたいと思いましょうよ」
「酔狂な趣味も、限度を超えると命に関わるのじゃ」
 東西南北とファラハとが、呆れたようにため息をついた。
「きゃ……」
 唸る敵の拳を、彌紗は飛び退いて紙一重で避ける。
「お返しです」
 降魔の拳がダモクレスを打つのとほとんど同時に、ファラハは彗星のごとく光を発しながら、体当たりした。
「体当タリハ、キキキ禁止!」
「フン、遊びではないのじゃ。大目に見よ!」
「だいたい、パンチングマシンが殴り返してくる時点で、ルールもなにもないでしょうよ!」
 信じる力が魔法に変わる。引きこもり歴7年にだって、未来がある。東西南北の拳が、ダモクレスを貫いた。
 敵はうめきながらもミサイルを乱射する。その1発が命中して、たまらず真理はよろめいた。
「大丈夫?」
 と案じる代わりに、マルレーネはダモクレスを横目に睨んだ。
「パンチングマシンだから、殴られたって本望でしょ? まさかそれが嫌で、避けるつもり?」
「ドドドンナパンチモ、受ケ止メテヤル~ッ!」
「……単純」
 ため息をついて、マルレーネは茂った攻性植物に黄金の果実を実らせた。これで、仲間たちに残る麻痺もやがて消えるはず。
「ありがとです!」
 真理の四肢に力が戻る。チェーンソー剣が唸りをあげた。凄まじいモーター音とともに、ダモクレスの外板がズタズタに切り裂かれる。
「ん、バラバラにしてあげるの!」
 バールのようなものを握りしめ、フォンは躍り掛かった。得物からはさらに無数の釘が生え出でて、ダモクレスの筐体にめり込んだ。
「ゆけぃ!」
 主にけしかけられたボクスドラゴン『メジェリーナ』のブレスも、命中する。
 敵の外板は完全に砕け散り、内部の部品が露わになった。
 それでも、「どんなパンチでも受け止める」と豪語するだけはあって、ダモクレスはケルベロスたちの攻撃を次々とミットで受け止め、防いだ。
 左右から繰り出されたフォンと彌紗の『指天殺』も、右に左にと振られたミットに受け止められてしまった。
「ピコピコピコ……ハズレ!」
「……ん、せめてこの電子音だけでも、止めてやりたいのです」
「ストレスのたまるゲームですねぇ……。いわゆる『クソゲー』とかいうものでしょう」
「なるほど、そのとおりなのです」
 フォンの尻尾はしょんぼりと垂れていた。
「タフな奴だ」
 ミサイルを浴びた双牙は火傷の痛みと痺れを覚えながらも、獣と化した拳を叩き込む。
「赤、緋、紅い水。命を抱きし紅い水。再生せ燦たる紅い水……」
 ロフィの呪言とともに指先から一滴の血が流れ、宙へと浮かび上がる。それはやがて血流となって、双牙の傷を癒していく。
「ありがとう」
「いいえ。私がお力になれたのなら、光栄です」
 もっとも、負傷の度合いは彼女の方が酷いくらいだが。
「命そのものが流れ出るような痛み……最高です」
 またも拳を浴びながら、なおも笑みを浮かべ続けている。敵を殴りつけた拳の痛みも、また心地よい。
 もはや、違うところに行ってしまっているような気もする。半ばは、傷の深さで朦朧としているのであろうが。
「援護、するですよ!」
 さすがに見ていられない。真理はドローンをロフィ周辺に集中して飛ばし、彼女を援けた。
 マルレーネもケルベロスチェインを地に這わして、魔法陣を描いていく。
「しぶといね」
「すべてのゲームは、遊ばれるために生まれてくる……。
 彼だって、何千何万という拳を繰り返し受けてきたんでしょう。その、意地ですかね?」
 東西南北がため息をついた。
 彼のテレビウム『小金井』も、応援動画を繰り返し流して、ケルベロスたちを助けている。双方、持久戦である。
 幸い、ケルベロスたちの攻勢に耐えかねて、ダモクレスは屋外に出て行くことはできない。
「もっとも、このままでは建物が崩落しそうじゃがの」
 ファラハが、辺りを見渡して肩をすくめた。
「たとえ意地があろうと、はた迷惑この上ないわッ!」
「ごもっとも」
 ダモクレスに躍り掛かったファラハは、手刀を頭上に振り上げる。
「かち割ってやろうかの」
「ヒビガガガッ!」
 敵本体への傷はさほど大きくはなかったが、脳天から振り下ろされた手刀で、液晶画面にヒビが入る。敵は狼狽し、反撃に放ったエネルギー光線はあさっての方向、トイレへ続く壁を粉砕した。
「どうか成仏してくださいよッ!」
 東西南北が、バールのようなものをフルスイングで叩きつける。液晶画面のヒビはさらに拡大し、敵の動きはさらに鈍った。
「もっと行きますよ!」
 ハートマークのビームが再び、ダモクレスを襲う。
「ん、びりびりにしてあげるの」
 フォンが、敵の眼前でくるりと身を翻す。凄まじい静電気を帯びた尻尾で、ダモクレスを打ち据えた。
「ンガガッ!」
 画面に激しいノイズが走って一瞬真っ暗になり、焦げ臭い臭いが辺りに漂う。
「点数が出てないじゃない。やり直しよ、もう一度殴られなさい」
「オノレ……!」
 嘲るマルレーネに、悪態をつくダモクレス。
「一緒に行こう、マリー!」
 真理が敵に突進しつつ、呼びかける。
「そうね。……サキュバスの操る霧を、油断はしないことね」
 発せられた霧は、味方ではなくダモクレスを押し包む。
「霧に焼かれて、踊れ」
「これで、最高得点なのですッ!」
 唸りをあげる、真理のスパイラルアーム。防ごうとしたミットを粉々に打ち砕き、液晶画面を貫いた。
「ガガガガガッ!」
 もはや画面には、意味の分からぬ模様しか映っていない。
「もうおしまいでしょうか……?」
「物足りなさそうな顔をするでないわッ!」
 敵を殴った拳を見下ろしてため息をつくロフィを、ファラハは敵を蹴り飛ばしつつ怒鳴りつけた。
「残念だが、もう閉店の時間だ。役割を全うして、壊れて逝け」
「あら~。もっと、思い切り殴り飛ばしたかったですねぇ」
 双牙の手刀が、再び炎を宿す。そして彌紗は腰を落として拳を握りしめ、精神を集中する。
「この一打が、今の私の持てる力のすべてです。……いざ、参りますッ!」
 ダモクレスは防ごうとしたが、そこにパンチングミットはもはやない。彌紗の拳がダモクレスを貫き、敵は埃を巻き上げながら仰向けに倒れた。
 画面に表示されたのは99999の数字。
「ピコピコピコ……オマエガ、チャンピオンダダダ……オマエガ、チャンピオンダダダ……!」
「やりましたね」
 彌紗が画面を指さし、無邪気に笑った。

「チャンピオン……チャンピ……」
 ブスブスと煙を上げつつ、ダモクレスは同じ言葉を繰り返していたが。
 ブツン、と最期に音を立てて、動かなくなった。
「ノックアウト……これで、終わりです」
 東西南北が、その姿を寂しげに見下ろして呟いた。
 辺りには、壊れて見捨てられた様々な筐体が、瓦礫となって散らばっている。建物はともかく、それらはヒールしたところでどうにもなるまい。
「……ねぇマリー、帰りにどこかゲーセンに寄って行かないです? プリとか、撮りたくなったのです」
「……そうね。レースとかシューティングとかも、今日はやってみようかな」
 真理とマルレーネは手をつなぎ、ダモクレスに背を向ける。
 せめてできることは、今ある『彼ら』を、心から楽しんでやることだ。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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