蓮の花は鮮やかに濡れる

作者:天木一

「わぁっ一面に蓮の花が……綺麗ね」
「ああ、暑い中来てよかったな」
 カップルの目の前に広がる池には、一面を覆うように見渡す限りの蓮が花を咲かせていた。周りには同じように花を楽しみに来た人々が、夏の日差しも忘れたように満開の蓮に魅入っていた。
 多くの観光客で賑わう場所。その上空に突如として巨大な牙が現れる。それが落下すると池に突き刺さり、水飛沫が上がり雨のように人々に降り注ぐ。突然の出来事に呆気に取られていると、牙が変化し甲冑を纏う5体の竜牙兵へと姿を変えた。
「ゾウオを! キョゼツを! ニンゲンよ、イマからウバイつくしてくれるぞ!」
「ドラゴンサマ、ニンゲンどものグラビティ・チェインをササゲます!」
「おお、オオゼイいるぞ! すべてコロしつくしてくれるぞ!!」
 一斉に竜牙兵が蓮を蹴散らしながら地上に上がり、人々に襲い掛かる。
「ひぃっ!!」
「ぎゃああああ!!」
 カップルの悲鳴が上がり、剣で頭を潰され、大鎌で首を斬り落とされる。次々と血飛沫が上がり、やがて静かになると周囲の人間が全て息絶えた。流れ出る血が池を濁らせ、美しかった蓮の花は乱れ、真紅に濡れていた。

「みんな集まったかな? 夏らしい観光地が襲われるんじゃないかと調べたら、ちょうどこれから事件が起きる場所を特定できたよ」
 そう小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)がケルベロス達に話しかけた。
「このままでは蓮の咲き誇る池が竜牙兵に襲われ、多くの犠牲者が出てしまいます。そうなる前に皆さんに迎撃してもらい、人々を守り敵を倒してもらいたいのです」
 続けてセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件の詳しい説明を始める。
「敵は竜牙兵が5体。ゾディアックソードと簒奪者の鎌で武装し、連携して攻撃してくるようです」
 個々の力は大したことはないが、敵のペースに巻き込まれれば想定以上の力を発揮してくる。
「現れるのは埼玉県にある蓮が植えられた池で、敵の出現より前に現場で待機出来ますが、敵が現れる前に避難させることはできません。敵はケルベロスを優先して狙うようなので、戦って引き付け、一般人が巻き込まれないようにしてください」
 敵は人の集まる場所を狙うので先に避難は出来ない。現れれば同じように待機している警察が避難誘導を行う手筈だ。
「花を楽しむ人々が襲われ、花も踏みにじられてしまいます。夏の風流も理解でない敵が何もかもを台無しにする前に、皆さんの力で止めてください」
 よろしくお願いしますとセリカは一礼し、ヘリオンの準備に向かう。
「暑さも忘れるような蓮池か……見てみたいね。その為にも竜牙兵の好きにさせられないよ。みんなで力を合わせて撃退しよう」
 涼香の言葉にケルベロス達も蓮の花を楽しみに思い、それを台無しにしようとする敵を倒そうと準備に動き出した。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
英・揺漓(花絲游・e08789)
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)

■リプレイ

●蓮池
 大きな池には無数の蓮が浮かび、満開の花を咲き誇らせていた。それを見ようと観光客達が集まり池の周囲は賑わっている。
「うわわわ、一面蓮の花だ……凄く綺麗」
 実際に目の当たりにした小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)は、思わず見惚れて足を止め、その肩に乗ったウイングキャットのねーさんも同じように釘付けになっていた。
「蓮は極楽浄土に咲く花とされているがな……」
 だからといって現実で死者を出す事件を起こす必要はないと泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)は花を楽しむ涼香に目をやる。
「やれやれ、無粋な相手だね。風流ってやつが分からない奴ばかりなのかな」
 こんな場所で殺戮を起こそうとする者の気持ちが分からないと、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)呆れたように肩を竦める。
「心なしか、竜牙兵たちの動きが活発化している気がするな……やはり魔竜の影響か?」
 気にはなるが今は一つずつ目の前の事件に対処するしかないと、マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)は集中する。
「竜牙兵……ほんと最近活発だな……」
 同意した頷いた暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)も熊本の一件を連想して表情を曇らせる。
「こういう綺麗な場所を襲撃して荒らし行為とか………ちょーうざいんだけどぉ。来るなら多少荒らしてもいい場所選んで欲しいよねぇ」
 わざわざこんな景色の綺麗な場所に現れることはないのにと、グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)は愚痴る。
「この時期だけ蓮は泥の中より美しい花を咲かせますわ」
 水面に顔を出した鮮やかな花を眺めながらも、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)は油断なく周囲に気を配る。
「日本の夏は本当に暑いな。だから皆こうやって見にくるのだろうけど」
 湿度の高いむっとする風に、英・揺漓(花絲游・e08789)は気怠げに流れる汗を拭った。そうして強い日差しの中待っていると、空に巨大な牙が現れ池に落下した。水飛沫が上がり一瞬視界が遮られた後に現れたのは5体の竜牙兵であった。

●濡れる花
「ゾウオを! キョゼツを! ニンゲンよ、イマからウバイつくしてくれるぞ!」
「おお、オオゼイいるぞ! すべてコロしつくしてくれるぞ!!」
 蓮を無造作に荒らしながら竜牙兵達が池から上がったところで、ケルベロス達の迎撃が始まる。
「現れたな。だが誰一人死なせはしない」
 すぐさま守人は雷の霊力を纏う小太刀を抜き、地面に守護星座を輝かせ仲間達に加護を与える。
「さぁ皆は逃げてね。あぁ急がなくていいよ。アレは私達が抑えておくから」
 優しく声をかけたシェイは、敵を牽制するように狼牙棒を砲に変えて撃ち出し、敵の足元で爆発を起こし体を煽る。
「落ち着いて下さい。暫くの間避難願いますわ」
 冷静な声で怜奈が人々を落ち着かせて指示を出す。それと同時に周囲に待機していた警察が避難誘導を開始した。
「あらあら、雑魚牙兵がまた来たのね……折角だから遊んで あ・げ・る ♪」
 そして敵に振り向くと、ブラックオニキスに封じた邪なる者の力を一時介抱し、放たれる力が敵を呑み込み動きを封じた。
「落ち着いて行動願います。我々が竜牙兵如き食い止めますから……行政機関の指示に従ってください」
 そう声をかけながらも壬蔭は敵から目を逸らさず、高く跳躍すると急降下しながら蹴りを頭に叩き込んだ。そして踏み台にするように更に跳んで距離を取る。
「テキか! ならばキサマらからさきにシトメてくれるわ!」
「みずからシニにきたか!」
 下がった竜牙兵が剣を掲げて星座の光で癒し、大鎌を持つ竜牙兵達が喜び勇んで前に出て刃を振るう。それを揺漓と涼香が受け止めた。
「まずはこちらに有利な状況にする。おいでませ、いーわっ君!」
 マイは拡張警戒管制システムを起動させ、小型ドローンで全周囲を観測し仲間達に敵味方、そして避難中の一般人の動きを逐次情報伝達する事でサポートする。
「此の暑さでよくもまあ……元気である種羨ましいな。だが涼やかな場所には不似合いだ。御引取り願おうか」
 目を閉じ深呼吸ひとつで戦闘へと意識を切り替えた揺漓は、ナイフを抜き刀身に幻を映し敵の心を抉り傷つける。
「うぐぁっ!?」
 竜牙兵が幻を斬り払うように誰も居ない場所へ剣を振るう。
「憎悪も拒絶も、この綺麗な場所には似合わないんだよ」
 弓を構えた涼香は矢を放ち、グレイシアの体に吸い込まれるように消える。それは妖精の祝福をもたらし敵の守りを破る力となる。ねーさんも翼を羽ばたかせて清らかな風で仲間達を包み込んだ。
「さぁて、お邪魔虫はバシバシ殴るよぉ」
 屈伸して体をほぐしたグレイシアは、ローラーダッシュで加速し炎を纏わせた蹴りを勢いを乗せて叩き込んだ。
「熊本のドラゴンさま劣勢らしいが、パシリに来ても大丈夫か? 飼い主居なくなっちゃうぞ」
 挑発しながら壬蔭はライフルを構えて光線を撃ち、敵の胸に大きな穴を空けた。
「ワレらはドラゴンサマのためにハタライテおる!」
 怒鳴りながら胸の骨を修復しようと剣を光らせ体を包み込む。
「堅い陣形だな。ならば纏めて吹き飛べ」
 敵の攻防を見て取ったマイは、二丁のライフルを構え重ねて巨大な光線を放ち敵群を呑み込み薙ぎ倒した。
「さがれ、コウゲキはオレがふせぐ」
 剣を手に仲間を庇う竜牙兵。その言葉に大鎌の竜牙兵が池の中へと戻ろうとする。
「おっと、そっちはダメだよ。蓮の花は荒らしたくないからね」
 そこへシェイはバールを投げつけ、回転して飛ぶ凶器の先端が敵の胸に突き刺さった。
「コロす!」
 目を光らせた竜牙兵がシェイに向かって大鎌を投げつけ、弧を描いて飛ぶ刃が太腿を斬り裂いた。
「武器を手放せば隙だらけだな」
 その敵に向かって揺漓は両手の間にエクトプラズムを集めて放ち、戻る大鎌をキャッチしようとした敵の脚に当てて太腿から右脚を吹き飛ばした。
「カイフクを!」
 すぐに剣を掲げて治療と強化が行われ足が繋がる。
「守りを突破できるように援護するね」
 涼香は怜奈に矢を放ち、その身に祝福を宿して魔に対する力を与えた。
「能力増加感謝致しますわ」
 礼を言った怜奈は御業を出現させて敵に組み付かせ、力強く押し込んで動けぬように拘束する。その隣を突こうと敵が大鎌を怜奈に向ける。
「まずは攻撃役を倒していかないとね」
 いつもより凛々しい顔をしたグレイシアは鎖を伸ばし、獲物を狙う獣のように敵の脚に絡みつかせ、引き寄せるようにして攻撃を邪魔した。
「なかなかの連携だが、俺達の方が場馴れしてる。お前等のお仲間のお蔭でな」
 小太刀を掲げた守人は星座の輝きを維持し、仲間達に守りの力を与えながら傷を癒していく。
「避難は終わったようだ。ここからは加減無しで攻撃といこう」
 ドローンの情報を確認したマイは仲間に報せ、展開したミサイルポッドから焼夷弾を発射し、炎の柱が立ち敵達を纏めて焼き払う。
「ぐああああ」
 炎に巻かれながらも竜牙兵はケルベロス達に襲い掛かる。
「君たちみたいなのでも、塵になれば蓮の養分くらいにはなれるかもね」
 ならばとシェイは狼牙棒を剣の上から叩き込み、押し切って龍の牙の如き無数の棘が鎧に突き刺さり穴を空けた。だが敵の刃もまたシェイの脇腹へと突き刺さる。だがそれでもシェイは力を緩めず押し潰す勢いで地面に叩き伏せた。
「さて、誰から蓮の栄養分になってくれるんだ?」
 そこへ跳んで頭上を取った壬蔭は顔面に踏みつけ、髑髏を打ち砕いて粉々になるまで地面に押し込み活動を停止させた。
「キサマをニエにしてくれる!!」
「チをまきちらせろ!」
 2本の大鎌が一斉に壬蔭に投げつけられる。首と胴を狙う殺意の乗った刃が回転しながら飛翔する。
「絶対にさせないよ!」
 間に飛び込んだ涼香は鎖を四方に伸ばし結界を作り出して大鎌を防ぐ。だが一本の大鎌が鎖を断ち切って迫る。
「大きな得物は見切るのも容易い」
 そこへ横から割り込んだ揺漓が刃の平を手で払い、攻撃を受け流して軌道を変えた。
「すきをミセタナそこだ!」
 攻撃を防いだ油断を狙い、剣を手に竜牙兵が体当たりするような勢いで突進して突きを放とうとする。
「余所見をしていてよろしいの? 貴方の相手はこちらにも居ますわよ」
 その背に向かってロッドを振るった怜奈は雷を放ち、閃光が敵を貫いて弾けよろけるように膝をつかせた。
「その恰好暑そうだね。これで涼しくしてあげるよ」
 隙を見せたところへグレイシアは空気を凍らせ、無数の氷の針を飛ばして敵の鎧を穴だらけにして、内部の骨もボロボロに削った。
「コロ……ス」
 立ち上がり剣を振るいオーラの斬撃を揺漓に放ったところで、剣が手からすり抜けて地面に刺さり竜牙兵が力尽き崩れ落ちる。
「どれだけお前等が攻撃しようと、俺が全部癒してやる」
 守人は軽く手の甲を切り、流れる血を飛ばして揺漓に付着し傷を癒していく。

●沈むもの
「よくもやってくれたな!」
「ニンゲンふぜいが!」
「まだだ! ゾウオとキョゼツをテにするまでたたかうのだ!」
 1体が剣を手に守り、後方から大鎌を振るって2体の竜牙兵が攻撃を仕掛ける。
「暑くて干乾びたじゃないか?」
 軽口を叩きながら壬蔭は上段回し蹴りを叩き込んで敵を薙ぎ倒した。そこへ反撃に大鎌が振り抜かれる。
「残り3体。確実に仕留めるとしよう」
「ちょー暑苦しいから、全員まとめて瞬間冷凍してあげるね」
 ライフルの銃口を向けたマイは冷凍光線を放ち、剣を抜いたグレイシアは星座のオーラを放って連続攻撃で敵群を纏めて氷漬けにしてしまう。
「イヤシを!」
 庇うように剣を振るい竜牙兵は仲間達の凍結を解いていく。
「ドラゴンさまにでも怒られるといいよ」
 そこへ涼香は魔力弾を撃ち出し、敵に悪夢を見せて悶え苦しませ、そこへ飛びついたねーさんが爪で引っ掻く。
「おおっオユルシくださいドラゴンサマ!」
 恐怖に震え竜牙兵が幻に許しを請う。
「うーん、竜牙兵って不甲斐ないの多いわね。ドラゴンさまみたいに本気にさせて下さいませんか?」
「キサマ! ワレらをブジョクするか!」
 怜奈の挑発に乗って大鎌を手にした竜牙兵が迫る。そこへ怜奈はブラックオニキスを向けて封を解き、漏れ出る力で敵を金縛りに掛けたように足を止めさせた。
「金属も石になれば脆くなるかな」
 シェイは魔法光線を放ち、敵の体を石へと変えゆき動きを鈍らせる。
「ニンゲンが!」
 大鎌を振り上げ竜牙兵が斬り掛かる。
「後ろに居ても安全とは限らない」
 そこへ揺漓はエクトプラズムの塊を飛ばして足先を砕き、姿勢を崩し隙を作った。
「カイフクするヤツをさきにコロセ!」
 竜牙兵が大鎌を投げ、刃が弧を描き逃れようとする守人の背中を斬り裂く。
「我、邪を払う一振りの刃なり……」
 精神統一した守人の傷がみるみるうちに塞がり、心と刃を一体とし目つきが刃のように鋭くなり、気温が下がったように感じる冷たい殺気を纏うと、黒鞘の刀に手をかけ居合の構えを取る。
「……避けろ!!」
 その声に仲間達が飛び退くと同時に霊刀が抜き打たれ、波紋のように雷の華が乱れ咲く。雷の斬撃が敵達を横薙ぎに斬り裂き流れる電撃が体を麻痺させた。
「癒し手が戦えないって誰が言ったよ」
 そして敵に向け不敵に笑ってみせる。
「背後が隙だらけですわ、もう終わりですわね」
 怜奈は御業を操り敵の背後から羽交い絞めにする。
「なかなかの連携だったけど、数が減れば一気に精彩を欠くね」
 動きを止めた敵に青龍刀を手にしたシェイは、得物の重さを活かして連続で刃を振るい、反撃に振るわれる相討ち狙いの刃を弾き、逆に手痛い一撃を加えて絶える事のない連撃で石となった鎧を崩し骨を断ち切って、人の形だったとは思えぬ程バラバラに斬り裂いた。
「金属の鎧は硬く強いが、電撃には弱いものだ」
 マイはアームドフォートからプラズマ弾を撃ち出し、大鎌を構えた敵を感電させて動きを鈍らせた。
「この一撃を受け止められるか」
「しゃらくさい!」
 続けて揺漓は右の拳に真白のオーラを纏わせて打ち込む。対して足を止められた竜牙兵は柄を盾にして受け止める。無駄なく真っ直ぐに放たれた一撃は敵の守りを打ち崩し大鎌の柄を折って胸を貫く。内部に力が浸透しカタカタと揺れた骸骨は崩れ落ちた。
「攻撃陣はもう居ないぞ……残りはお前だけだぞ」
 踏み込んだ壬蔭は拳を放ち、炎纏う一撃は防ごうとした刀身を叩き折って顔面にめり込んだ。
「ドラゴンサマおちからを! ゾウオとキョゼツをささげます!」
 最後の竜牙兵が折れた剣でオーラの刃を放つ。
「そこ、危ないよ?」
 ニヤリと笑ったグレイシアが地面に這わせていた鎖を引き、罠に掛かった獲物のように敵の足を引っ張ると転倒して池に倒れ込む。
「どんな感情であれ、あなた達に渡すものなんて一つもないんだよ!」
 涼香は鎖を敵の体に巻きつけて締め上げ、全身の骨を粉々に砕くと、水底へと沈んでいった。

●涼やかな景色
「目の前の蓮たちは泥の中から咲くのに、こんなに綺麗……泥……か」
 ヒールを掛けた涼香がすくすくと元に戻る花に元気を貰う。
「もし良かったら……なんだけど。 一緒に蓮見て回りません、か?」
 緊張しながら涼香が誘うと、壬蔭は顔を綻ばせて頷いた。
 周囲には一般の人々も戻り出し、感謝の言葉をケルベロス達に伝え花々の鑑賞を始める。
「何を企んでいようと、この平穏を守らないとな」
 花を楽しむ人々を見た守人は、その視界に映る全てを守ってみせようと心に誓う。
「普段都会の真ん中にいると、なかなか見られないからね。偶には、こういうのもいいものだ」
 リラックスした様子でマイが蓮を見物する。
「そうだね。こうやって暑さも忘れてのんびりとするのも、たまにはいいものさ」
 シェイも同じように涼しげな風を感じながら花を愛でる。
「水辺と透き通るような花弁も相まって涼やかで。観ていると暑さなど忘れてしまう……不思議なものだな」
 先ほどまでの暑く苦しさを忘れたように揺漓は穏やかな顔で鑑賞する。
「吹く風も何となく心地良く感じるのは自分が単純なのだろうか」
 だがそれでも効果があるのなら今は暑さを忘れていようと吹き抜ける風を感じる。
「日傘が無いと焼けてしいますわ」
 日傘を差した怜奈が花の鮮やかさを楽しみながら蓮池の周りを散歩する。
「綺麗に撮れたかなぁ……んーいい感じ、それじゃあ送信っと」
 グレイシアが花々を写メに収め、ご機嫌に双子の姉の元へと送った。
「蓮の花綺麗ですね……」
「……はい」
 日差しが当たったまま緊張で固まり茹でる涼香に、壬蔭はそっと日傘を傾けて陰を作った。そんな二人を見上げ、ねーさんが応援するようににゃーと鳴いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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