発進、巨大氷白クマ!

作者:七凪臣

●夏だ、海だ、巨大氷白クマだ!
 暑い。
 暑い。
 とにかく連日、暑い。もう「熱い」でいいんじゃないってくらいって暑い。
 そんな夏真っ盛りの、とある日。炎天下のビーチは、耳に心地よい潮騒と、海水に涼を求める――夏に浮かれただけなのもそこそこ――人々でたいそう賑わっていた。
 波打ち際で戯れる親子。浜辺から遠いところまで泳ぎ出す少年たち。パラソルの下のサマーベッドに寝転がる若人。シャチ型やバナナ型のフロートに乗って、きゃっきゃうふふな恋人たち。
 そこにあるのは、定番の夏の光景。
 しかしその平和な日常は、唐突に終わりを迎える。
「ちょっ、何だこれ?!」
 最初に気付いたのは、海の家で注文した焼きそば待ちをしていた青年だった。
 裸足の皮膚に細かな振動を感じたかと思うと、彼の世界が傾き始める。
 否、世界が傾いたのではない。
 彼の足元が隆起し始めていたのだ!
「ねぇ、あれヤバくない?」
「おい逃げろ!」
 異変に気付いた人々は、その身一つで散り散りに逃げ出す。
 そして――。
『ア・ツ・イ!!!』
 地中より、体長7メートルはあろうかという巨大な白クマが出現する。
 それはただの白クマではない(そもそも、体長7メートルある時点でただの白クマじゃない)。白く輝いてはいるが毛並は硬質。とどのつまりが巨大ロボ! 巨大ロボ型ダモクレス!!
『冷・ヤ・スウウウ!!!』
 然して、長い眠りより覚めた巨大白クマ(型ロボ)は、逃げ惑う人々を殺めグラビティ・チェインを奪わんと、氷の息をぶぉおおおっと吹き出した。

●涼みに行こうぜ!
 鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)氏は言いました。
『夏だ! 海だ! 白熊だ! と……?』
「そうです、夏の海を凍らせる機械熊の出没を危惧されていらっしゃったんです。的中でしたね……」
 可愛らしいこぐま柄の扇ではたはたと仰ぎながら、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は語り始めた。
 それは、とあるビーチに現れた巨大ロボ型ダモクレスが巻き起こす災禍。
「巨大ロボ型ダモクレスは、先の大戦末期にオラトリオによって封印されたものです。今回はタイプは白クマ型のようですね」
 しかもフォルムはリアル寄りではなく、ぬいぐるみみたいな可愛い系。うっかりすると脱力しそうだが、これでも歴とした巨大ロボ型ダモクレス。とは言え、復活したばかりのグラビティ・チェイン枯渇状態なので、戦闘力は大きく低下している。
「ですが多くのグラビティ・チェインを得て力を取り戻してしまうと、体内に格納されたダモクレス工場でロボ型やアンドロイド型のダモクレスの量産を開始してしまいます。しかも起動から7分経過すると魔空回廊が開き、このダモクレスは撤退してしまい撃破出来なくなってしまうのです」
 要するに、リザベッタ。ケルベロス達に『7分以内に巨大ロボ型ダモクレスを撃破して欲しい』と言っている。
 敵は万全な状態ではないとはいえ、戦闘中に一度だけフルパワーの攻撃が出来るらしい。
「基本の攻撃は、氷の息と、氷の手で鷲掴みにしてくるのと、キンキン冷え冷えボディプレスと思われますが。フルパワー時は目からビームを発射して、辺り一帯を凍らせてしまうようです」
 ただの巨大白クマではありません。巨大氷白クマです――と、謎の熱弁をふるったリザベッタ。はた、と我に返った。
「……こほん。今回は事前に避難勧告を出す事も可能ですし、海の家に被害が及んでもヒールですぐ修復してしまえるので、皆さんは心置きなく思いっきり暴れ……じゃなくですね、戦うことが出来るでしょう」
 ――どうやらリザベッタも、この暑さで少し思考回路が緩んでいるらしい。
 ともあれ、困った事態が起きるのは事実なので!
 ケルベロスの皆さん、お力をお貸しください!!
 キーンと冷え冷えな敵だし、涼むには良い機会になると思いますよ! よ!!


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
花露・梅(はなすい・e11172)
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)
セレス・アキツキ(言霊の操り手・e22385)
綿屋・雪(燠・e44511)

■リプレイ

●発進!
 ――むっくり。
 海の家を押し上げ、最初に現れたのはまぁるいフォルムの手が二つ。それが重い天井を抉じ開けるよう、ぐぐっと左右へ開き。
 ――ひょこ。
(「はわわわわっ」)
 現れたお顔に、綿屋・雪(燠・e44511)の両手はバケツヘルムに覆われた頬に添えられ、光の翼も歓喜にぱあああっと明るく輝いた。
 円らな黒い瞳に、半円型のお耳。全体的に丸っこくデフォルメされたフォルムは――。
「くまさん、かわいい。とても、かわいい。かわいいのです」
「可愛いは正義です!」
 鈴音の吐息に漏れた雪の感嘆に、いつもは梅柄のキャスケットを白くまタイプに変えた花露・梅(はなすい・e11172)も全力同意できゃっきゃ。
 だが、しかし。
 とっても可愛らしい巨大氷白クマに八歳児と十三歳児がちょおわちゃわちゃしてるのを横目に、にじゅうごさいセレス・アキツキ(言霊の操り手・e22385)――常識人――の心はしぃんと冷えていた。
 可愛いや綺麗は、セレスも好きだ。でも、これは。
「……大きすぎ、よね?」
 そうなのだ。何気に素早い動きで現れた全貌は、抱き着きぎゅっとするには巨大が過ぎる。
 しかも、ふわふわに見せかけて硬質! もこもこ詐欺!
 その上。
「え、うそ」
 きらーんと煌いたクマさんの目に、ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)は瞠目し。風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)は一も二もない反射の動きで走り出す。

●急進!
「なんでフルパワーが目からビームなんだーー!」
『ア・ツ・イ、カラーー!!!』
 ゼロアリエのツッコミも虚しく、巨大氷白クマの目から発された光がケルベロス達の視界を白く染める。
 ぴっきーん、ちゅどーん!
「わ、わたしは、だいじょうぶですっ」
「わたくしも!」
 敵対する者らの準備が整う前に癒し手を潰してしまおうという、見た目に反しえげつないビームが一帯を凍りつかせた直後、狙われた雪と、巻き込まれる筈だった梅が礼儀正しく手を挙げ無事を知らしめた。
 と、いうことは。
「……あー」
「ごめん、間に合わなかったっ」
 松永・桃李(紅孔雀・e04056)から憐れみの視線を、ゼロアリエから侘びを受けた鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)が、海辺のイケメンな黒い装いを霜と氷で真っ白モード。辛うじて雪と梅を庇うのに間に合った和奈とゼロアリエのウイングキャット、リューズもほぼ同じ状態。
「いや、雪と梅が喰らうより、全然オーケー、っ」
 体力の九割近くを持っていかれ乍らも雅貴は青い唇で不幸中の幸いを告げ、
「私たちもなんとかね」
 盾として凌ぎ切った和奈も、地面に突っ伏してはいても立ち上がる余力はありそうなリューズを隣に、胸を撫で下ろした。
「連日のこの暑さ。確かにかき氷を食べたいと思った……が」
 奇跡的に保たれた戦陣から、霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)が飛び出す。
「自分がなりたい訳じゃない――つまり、だ。人間を直に凍らせるのダメ、ゼッタイ」
 予想だにしていなかった展開と、直近の暑さにやられた感のある奏多だが(普段はこんな事は言わない、絶対。本人談)。氷で覆われた砂上を華麗に滑って敵の後ろを取ると、ぶすぶすと煙を吹き出す背を意識一つで爆ぜさせた。
『イタ、イィ?』
「っ、作戦変更!」
 破壊屋の強烈な一撃に、ゆらぁっと白クマが振り返る。その隙に、ゼロアリエが跳んだ。
「これ以上、後ろに通すわけにはいかないから。ねっ」
「その通りよ――嫌なもの程気に掛かる。気に掛かるから縛られる。さぁ、貴方が厭うものを教えて頂戴?」
 虹の尾を引くゼロアリエの蹴りが巨大氷白クマの肩口を捕らえたのに合わせ、セレスが言の葉を操る。喉に手をやり、想いを込め。囁きは、ゼロアリエが打ち込んだ楔をより強固な形で完成させた。
 ダモクレスの視線が、セレスによって増幅された怒りで以てゼロアリエへのみへ向かう。
「――――オヤスミ」
 再び攻撃に晒される可能性が限りなく低くなった雅貴も、強張る体躯を引き摺り果敢に挑む。
「雅貴ちゃん、後でしっかり治してあげるわ! 私じゃないけど!」
「はい。おまかせされました」
 雅貴が影より生じさせた刃が冷気ごと鋼の塊を切り裂いたのを追い、艶やかな黒髪を靡かせ疾駆した桃李が冷え冷えボディに雷帯びた刃を突き立てた。
 傍目には頼れる美女な桃李。実際の性別は雅貴と一緒――なんてのは今は棚に上げ。若干、愉快(時々カワイソウ)な弟分をいぢっているだけな気がしないでないが、回復を任された雪はナチュラルに素直にうんと頑張り、己が血の滴りで雅貴を癒す。
「むむ。敵ながらあっぱれですよ!! そういう白クマ様へは遠慮なく……忍法・春日紅!!」
 そして梅は安定のマイペース。自分の仕事をしっかり果たすべく、高い命中率を活かし、海風に乗せた紅の花弁の奔流で巨大氷白クマの足を止めにかかった。
『イヤ、イヤ、イヤァ』
 地に縛られて、巨大クマちゃんが地団太を踏む。ぱりん、どすん、ぱりん。揺れる浜辺に、せっかく張ったばかりの氷が割れる。それがリューズの羽ばたきの恩恵の先触れであるのを察しつつ、和奈は静かに、吐く様に――ぼやく。
「氷が邪魔、ついでにダメージも邪魔」
 力ある一言は魂の咆哮となり、和奈を癒し浄め、盾とし戦線で邁進する余力を取り戻させる。

●推進!
 クマさんが跳んだ。そこかしこからぶすぶす言わせながら跳んだ。
 そのまま、どーん。ゼロアリエを中心に、むぎゅうっ、ぷちっ☆
「暑さ、増してないか?」
 巻き込まれて下敷きになった奏多、冷え冷え巨大氷白クマの下から這い出て来て気付く。何だかさっきまでより外気が蒸してるような。いや、気のせいじゃない。最初にクマが張った氷が溶けて――つまり、湿度急上昇!
「地獄か……」
 涼を求めてやってきた筈なのに! まさかの事態に奏多、とりあえず気とポジションを取り直し。
「……やっぱり、そうだよねー。うん、知ってたけど。知ってたけど、俺にも少しくらい優しくしてくれてもいいんじゃないか、な?」
 同じく這い出て来たゼロアリエ、リューズに恵みの羽ばたきを求めるが、ぷいっと振られてしまってしょんぼり。仲間にはとっても献身的なリューズ、ゼロアリエだけは例外。いや、ただのツンデレさんなだけ。だからゼロアリエが『花こそ散らめ』と桜の枝を振る雅な癒しの技で和奈の回復をはかる間に、そそーっとふぁさふぁさっとゼロアリエへも治癒を齎してくれる。
 ともあれ、こんな感じで。ケルベロス側には前線面子が自分たちで立て直せるだけの技量があった。これがなければ、きっと巨大氷白クマに押し負けていただろう。
「まったく! 冷やしてくれるだけの無害な白クマだったら良かったのに! 癒しどころか破壊と湿度をもたらす存在なんて以ての外よっ」
 そりゃあ、お肌的には適度な湿度は大切だけど! と桃李は、敵が起き上がろうとして出来た隙間に身を起こし、惨殺ナイフでぐいっと一突き。更に、ちゅーちゅーどれいん。
「うわー……転んでもただで起きてない、えげつな――」
「なぁに、雅貴ちゃん?」
「なんでもないデス!」
「雅貴様はすっかりおげんきですね。よかった、です」
「ああ、ありがとうな」
 これ以上、藪を突いたら何が出るか分からないと。自分たちの漫才(本人たちにそのつもりはない)にコロコロ笑う雪の安堵に、雅貴は「応」と胸を叩き。よいしょっと直立した巨大氷白クマへ肉薄する。
 実際、雪が幾度もヒールしてくれたお陰ですっかり持ち直した雅貴。頭の中も元通り!
「暑さにやられた戯言が現実になるなんてな。夏の海といや水着美人だろ! おのれ白クマ、夢返せ!!」
 ――元通り?
「涼しいだけなら歓迎だケドな。リア充爆発――もとい、熱い浜辺の夢や希望まで奪うのは論外だ! 水泡に帰りな!!」
 余計な事まで色々駄々洩れてるっぽいが、それはそれとして。イケメンの無駄遣い感が否めない雅貴、クマさんの足元を刃でばさぁっと薙いで装甲を剥がしにかかった。見下ろしてくる視線や、仕草があざと可愛くて罪悪感が刺激されるけど、そこは意地で捻じ伏せるっ!
「雅貴様のおっしゃるとおりです! 例えどんなに、可愛いクマさんで、もっ」
 此方は捻じ伏せきれてない梅。ぐぐっと帽子を深く被って、物理的に視界を狭めて。そうしてやっと、走り出す。
「花露の梅。夏の平和を守ってみせます、みせますとも! 暑さには熱さを! そうです、わたくしはやるのです、やれるのです!! 氷には炎です、にんにんにーん!」
 斯くして飛び込んだ懐(別に離れてても良かった。けど気合の問題)で、梅は炎塊をぶっぱした。
 着弾、どごーん。消えぬ炎に、巨大氷白クマじゅうっ! 蒸気、もわぁ!
『蒸シ、ア・ツ・――』
「それ以上は言ったら駄目、暑さが増す気がする」
 負の感情が表に出ない和奈の、地獄で補う光の翼が緑に輝く。そこはかとなく、滲み出る苛立ち。
「そもそも『ア・ツ・イ!』なんて論外。クマならちゃんと『クマーー!』と叫びな」
 いや、滲んでるどころじゃなかった。お約束を踏襲していないクマへの不満を爆発させ、和奈も黒いオーラを棚引かせるピアノシューズで巨大ダモクレスを蹴り倒した。
「そうなのよね。暑いのも困るけど冷えすぎるのも問題でしょ? 溶けたらこんな蒸し蒸しになっちゃうし。限度が大事なのよ、限度が。それに白クマなら手触りももふもふしてないと。それなら見た目だけは楽しめ――」
「かわいらしく……ないですか?」
 ――セレスの熱弁、雪の尋ねにぴたと止まる。
「大きすぎて和むには――」
 ――がんばる。
「おおきいぬいぐるみは、かわいくないですか?」
 ――くううっ。
 可愛くない、と言い切りたいセレスであったが。その度に、雪の無垢な眼差しがきらきらちくちく。
「わたしは、とても、かわいらしいと……」
「えぇ、可愛いわ! とっても可愛いわ! 負けたわっ」
 純粋無垢な熱意に、セレスのツッコミ体質も敗北。捻じ曲げた持論は鋼の鬼へ転じさせた拳に乗せて、巨大氷白クマへ叩き付ける。ばりーん。装甲が、また割れた――のは、いいとして。
「はい! やっぱりくまさんはかわいらしくて、あいらしくて、つよいです!」
 喜んだ雪、はっと思い出す。
 そう、これは敵。倒さねばならぬモノ。ご褒美ちっくな涼をくれるとしても、だ。
「……暑いのは、わかるのです。わたしも正直、暑いので……。ですので、くまさんと袂を別つのは、たいへんこころぐるしいことではあります、がっ」
 ぎゅう。バケツヘルムの内側で目を瞑り、そして開き。雪は現実と向かい合う。ここまでずっと雅貴を癒してきたけど。今からは、そうもいかな――。
「皆様、がんばってください!」
 いや、そうでもなかった。癒し手の本分は回復。なので雪、被弾しっぱなしの前線へ盾の守護を与える。ちなみにそれは、即座に功を奏す。
「うん、知ってた!」
 ダモクレスにぎゅうっとゼロアリエがハグされる。きぃんとひんやり。でも思ったほど苦しくない。でも冷たいっ。
「――尊い犠牲は無駄にはしない」
「俺、生きてるよ?」
 むぎゅむぎゅされるゼロアリエを奏多は供養し(だから生きてるって!)、気概を吼える。
 ――セ(以下自主規制)!!
 黒き残滓の丸呑み一撃。発した台詞は氷白クマに縁ある名だったとか、何だったとか。苗字が『霧島』だし、仕方ないね!?

●大躍進!
「まさに! 夏にうってつけの攻撃です――が!」
 ぶおおお。ドライアイスみたいな冷煙を全身に浴びて、梅が跳ねる。痛みがないではない。でも、涼しい方が大事。されどそろそろお別れの時間。
「わたくしは負けません! 華麗にかき氷にして差し上げます!」
 小柄な体躯はエネルギーの塊。小さな翼できゅーとなクマさんの眼前まで飛んだ梅は、必殺の忍法で眉間をずさぁ。
 ……ぱきん。
「「「ぁ」」」
 全員の顔が引きつる。だって顔が割れたのだ。雪、涙目(セレス、納得顔)。クマ、顔を隠す。でも和奈は同情なんかしない!
「喰らいなっ!」
 クウ君と名付けたオウガメタルを左手に纏わせ、突進。さながら竜の爪と化した一手を、そのまま顔面めがけてずさぁ。ずさぁ。ばりん。
「な、夏の海を楽しみにしてる人達も多いんだから。冷やせばいいってもんでもないのよ、よっ!」
 ぼろぼろ崩れ始めた敵に一瞬(絵的に)怯んだセレス、しかし気合で拳を固めた。
「お痛の時間はもうお終い、大人しく寝たままでいなさいな」
 さよなら、巨大氷白クマ。私は最初からあなたの事を可愛いなんて思えなかったの――そんな心の声は(雪の為にも)伏せ、セレスは銀に輝く一打でダモクレスを叩く。
 ぱりん、ぱりん、ぱりーん。
 装甲を砕く決定打に、クマさんの崩壊は加速する。つまり巨大かき氷への道まっしぐら。
「ラスト1分だぜ!」
 なんやかんやタイムキーパを務めていた雅貴の声に、奏多も奮い立つ。たて続けに吹かれたブレスに体が冷えたのも幸い。
「お陰で冷静になれたよ、サンキュ」
 思考も正常化したらしい男、零距離から銀を媒介に魔術で編んだ弾丸でダモクレスを撃ち抜いた。
 ぱっきーん!
 内部で起きた凄まじい爆発に、クマが原形を失う。
「あぁ、くまさんが、くまさんが……ごめんなさい、くまさん……」
 ふるふるふる。奏多の正気に背中を押され、雪は目一杯の悲しみを堪えて巨大氷白クマへ手を差し伸べる。
「あなたをかざる」
 せめて最期はキレイなように。冥府の底より招かれた冷気は夏空に雪を降らす。しんしん、しんしん。静かに積もる雪。埋もれたクマは――憐れ、ジグザグ発動炎ぶおおお。
「うんうん。ごめんね、くまさん。ホントは俺も、キミの事が――」
 気が付けば、けっこう適当な扱いをされてたゼロアリエ。我が身の不憫と巨大氷白クマの哀れを重ねて――ついでに実はカワイイもの好きだった――、でも渾身の一撃でクマさんを更に細かく微に入り細に入り砕く。砕く。
「これで心置きなく水着美人で目の保養――」
「雅貴ちゃん? だから水着美人はここにいるじゃない? それにそんなに飢え丸出しなのは……」
「っくう! 俺を、哀れみの目で見るなぁあっ」
「分かってるなら自重すればいいのに☆」
 仕上げは雅貴と桃李のコント――もとい、コンビネーション。色んな意味で自棄を起こした雅貴が雷鳴の一閃で巨大氷白クマ最後の装甲を剥がすと、桃李はウィンクばちこん。
「かごめ、かごめ」
 かこめ、かこめ。
 児戯じみた童歌を怨嗟のように口遊み、逆巻く炎で一片も残さずデウスエクスを焼き尽くした。
 なお、断末魔(極小)は『ア、アツイ・ク……マっ』だったそうな。

『本物のかき氷を食べて帰りましょうよ、奢るわよ?』
 提案は、実に太っ腹なセレスから。
 お仕事終わりは、すっきりさっぱり。ケルベロス達、きーんと冷たい本物の美味しい幸せを各人の胸にしかと刻んで帰りましたとさ。夏だね!

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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