工場長『ヌガークトゥン』の狂的手術

作者:青葉桂都

●倉庫街の血の臭い
 少し風の強い、静かな夜のことだった。
 一番大切な場所である寂れた倉庫へと向かう途中で、彼女はふと足を止める。
 このあたりの倉庫も、だいぶ古びているようだ。
 倉庫街に風が吹くたびに、錆び付いた建物が、打ち捨てられた機械たちがきしむ音を立てる。
 それが、彼女にはまるで音楽のように聞こえていた。
 眠たげな目をしたくせっ毛の彼女は、機械たちが奏でる音楽にしばし耳を傾ける。
 やがて血の匂いが空気に混ざっていることに、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058) は気づいた。
 顔を上げたアトは路上に血まみれの椅子が安置されているのを見た。
 歯医者で――いや、悪の秘密結社の研究室で、と言ったほうがふさわしいかもしれないが――見かける医療用のリクライニングチェア。
 肩のあたりから伸びた棒にモニターが取り付けられている。
 本来なら患者の状態を表示するための画面には、邪悪でいやらしい笑みを形をした目が鈍い光を放っている。
「工場長……どうしてこんな場所にいるのですか」
 ダモクレスは彼女の疑問に答えるつもりはないようだった。
「やれやれ、工場長であるワタシ自ら素材を回収にこなくてはならないとはねえ」
 耳障りな機械音が響く。
 拘束用のベルトが、アームに取り付けられた手術用具が、うごめき始める。
「まったくもって、厄介な話だよ。早いところ次の部下を作らなくては……まあ、これから解体される君には関係のない話だがね」
 ゆったりと動いていたアームは次の瞬間、猛然とアトへと向かってきた。

●救援要請
「デウスエクスによるケルベロス襲撃の事件を予知しました」
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
 襲われるのはアト・タウィルだ。倉庫街を移動していたところに襲撃を受けるらしい。
「敵は機化工場長『ヌガークトゥン』と言うダモクレスです」
 工場長というだけあって通常は配下に襲撃を任せているようだが、今回は何故か自分で動かなければならない状態にあるらしい。デウスエクスの事情については想像することしかできないが。
「急いでタウィルさんと連絡を取ろうとしましたが、残念ながら連絡が通じない状態でした」
 一刻の猶予もない状態だと芹架は告げた。至急、アトを救助に行かなければならない。
 ヌガークトゥンがアトを襲撃するのは倉庫街の一角だ。
 周囲に一般人はいないので、戦闘に集中することができるだろう。
 敵は医療用のリクライニングチェアに似た姿をしている。もっとも、椅子型とはいえ移動することに支障はないようだ。
「攻撃手段ですが、アームについた手術道具による攻撃を行うことができます」
 人体の構造に詳しい工場長は、的確に治りにくい形に傷をつけることができる。
 また、対象を椅子に拘束して集中的に手術を施すことで、他者を自分の配下に作り替えることもできる。
 もちろんケルベロスが配下になることはないが、時折操られて味方に攻撃したり敵を回復してしまうことがあるらしい。
「他に小型の攻撃メカを作り出して、範囲攻撃を行わせることもできるようです」
 メカは対象の体組織を回収して工場長の元に戻り、彼の傷を治癒することができる。
「ヌガークトゥンの目的や、タウィルさんとどのような因縁があるかはわかりません。ですが、いかなる理由があろうとケルベロスを殺させるわけにはいきません」
 よろしくお願いしますと告げて、芹架は頭を下げた。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)

■リプレイ

●工場長は笑う
 夜の静けさをケルベロスたちの足音が打ち砕いていた。
(「生みの親が“我が子”の命を奪おうとする。子が生きぬ抜く為親を倒さざるを得ない。どちらも、哀しい話です」)
 やりきれない気持ちを抱えながら、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)はデウスエクスに狙われているという仲間の元へと走っていた。
「今はアトさんをお助けするのが先決ですね。急ぎましょう」
 戦いが始まってしまう前にと、7人のケルベロスは全力で走る。
 走る彼らの行く先では、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)がダモクレスと対峙していた。
「工場長……」
「無駄な抵抗はやめておきたまえよ。目の前にいる相手の戦力くらい、計算できないはずはないだろう?」
 薄笑いを浮かべたディスプレイがアトへと告げる。
 なにを考えているか、張り付いているだけの顔からは読みとれないが、それでもアトには彼の考えがわかる気がした。
 十分にデータを得たアトを、後継機ならたやすく回収できると考えていたのだろう。
 それが失敗した。だから、自ら出て行くことを決めたのだ。
 最初の秀作である娘を、回収するために。
 アトの考えが正しいか確かめる間もなく、工場長はアームを伸ばしてきた。
 生き物のようにうごめくアームは的確に追い詰め、捕えようとする。
「タルタロン帝、アト殿をかばうのだ!」
 女性の声が聞こえたかと思うと、攻撃の前に飛び込んできたのは何者かのサーヴァントであるシャーマンズゴーストだった。
 しかしそのサーヴァントよりもさらに早い者がいた。
「間にあった、間にあえた」
 代わって攻撃を受けながら、九石・纏(鉄屑人形・e00167)は息を吐く。
 けれどもこれで終わりでないことをすぐに思い出し、彼女はまた息を詰める。
「アトさんは殺させない。仲間も殺させない。アトさんも、仲間も無事に生きて帰還できるのなら、弾よけぐらい、怖くはない」
 片手に骨製の刀、もう片手に小型のマシンガンを構え、纏は呟いた。
「何者です?」
 工場長が落ち着いた声で問いかけてくる。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参! 人々をダモクレスへと変える邪悪なデウスエクスめ。ここで成敗してくれる!」
 日はとうに沈んでいるはずだったが、太陽のような女性が高らかに見栄を切る。
 シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は騎士として得物を構え、纏やタルタロン帝と同様、アトと工場長の間に飛び込んでいた。
「……なんともユニークな姿の相手、ですねぇ。で、人体改造を彷彿とさせる見た目で『工場長』ですか。私達の基準において碌な精神構造をしていないと言えるでしょうね」
 アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)はヘッドセット越しに敵を見据えて、攻撃が有効に働く距離を見定めた。
「というわけで、遠慮なく実力行使で撃退させてもらいましょうか」
 扇のように束ねたブレードを、彼は敵へと向けた。
「ええ。ここで倒すわ。工場長っていうくらいだし、倒せば少しでもダモクレスの侵略を減らすことができるでしょうし」
 比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)の装着していたライトが、工場長の姿を薄闇の中に照らす出す。
「なるほど工場長か……。自ら動くその理由はわからぬが、みすみすアト殿をやらせるわけにはいかんな。我々があるべき姿へと返してやろうぞ」
 露出の多い甲冑に身を包み、ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)も宣言した。
「まったく厄介なものだね、ケルベロスは。だが、ワタシの研究のためにそこのレプリカントが必要なのだよ。邪魔をするなら排除させてもらうとしよう」
「黙れよ! 効率だとかなんだとかかもしれねエが、アンタが生み出した子供みたいなもんだろ!」
 あくまで冷静で、冷笑的な言葉を、1人の少年が怒声で遮る。
「それを会いに来たでもなけりゃ連れ戻しにきたでもなく、パーツ寄越せだ? そのニヤけた面同様に歪んだ考え、ぶっ壊してやっから覚悟しやがれ、ポンコツ野郎!」
 カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)は黒瞳に怒りを秘めて叫ぶ。
 そして、戦いは始まった。

●工場長の改造術
 高速で伸びたアームは、アトを切り裂こうと迫っていく。
 今度はその攻撃を、タルタロン帝がかばう。
 手術道具がシャーマンズゴーストの守りを打ち破って深手を負わせた。見た目はコミカルだが、その戦闘能力は色物のものではない。
「あのような動きにくそうな身体だというのに、これほどまでに強いだと!」
 驚きながらもシヴィルが放った光の矢を皮切りに、黄泉の飛び蹴りや雷をまとったアゼルのブレードによる反撃が工場長を狙う。
 攻撃している間に、ワルゼロムが魔法の木の葉を舞わせて支援していた。
「雷光の守護を!」
 岳も雷の壁を生み出し、敵に接近する仲間たちを守る。
 その壁の後ろから、歌が響いた。
「確かに一人では、あなたに勝つことはできません。ですが……」
 規則正しく響くギターの音色、歌声はアトのものだ。
 立ち止まらずに戦い続ける者たちの歌が前衛のケルベロスたちを守護する。
 纏は彼女の歌声を聴きながら不揃いな鉄片を素早く投擲した。
「こっちだ!」
 努めて表情を変えないようにしていたが、心は決して落ち着かない。
 もしヘリオライダーの予知がなく、間に合っていなければ、纏にとっての日常が壊れていた……アトの歌を聞くと、それを嫌でも考えてしまう。
 仲間たちが現れても、工場長はまだアトを狙った。別に諦めたわけではないのだ。
「此処にもレプリカントはいるぞ? さぁ、解体してみせろ。バラしてみせろ。できないなら、私がお前を解体(バラ)してやる」
 無数の鉄片が突き刺さった敵へ、纏はさらに挑発の声をかけた。
 気を引くための攻撃と言葉と、どちらが効いたのか……アトのほうへと向けられていた工場長の画面が、纏へと向けられた。
 カーラの武器から伸びた鋼鞭がダモクレスを捕らえるが、その鞭の間から工場長のアームが纏へと伸びて、一気に彼を捕らえた。
 無数の手術道具に突き刺され、怪しげな改造を施されながらも纏が椅子から逃れた。
 さすがに長と名がつくだけあるというべきか、ヌガークトゥンはケルベロスたちの攻撃を受けても簡単に倒れる様子はなかった。
 黄泉は仲間たちに回復を任せて、幾度も攻撃を仕掛けていく。
 ダモクレスがいくつ工場を持っているのか、工場長などと呼ばれるものがどれだけいるのか、それはわからない。けれどここで倒せば確実にその数は減る。
「工場長と呼ばれているみたいだけど実力はあるのかな?」
 ルーンアックスを振り上げる。
 気合を入れて高々と跳躍すると、黄泉の大きな胸が空中で揺れた。
 薄笑いを浮かべたディスプレイに刃を振り下ろし、工場長の画面に浅くない傷を刻む。
 小型ロボを無数に放ち、工場長はケルベロスたちを傷つけるとともに傷を修復する。
 前衛、特に纏へのものを中心とした攻撃は、容赦なくケルベロスの体力を奪っていく。
 ただしアトへの攻撃を諦めたわけではないようだ。
 敵の注意を引く纏と、シヴィルやタルタロン帝の守りをかいくぐって手術道具がアトへと突き刺さった。
 ワルゼロムはすぐさま攻撃されたアトへと近づく。
「教祖式光線療法! お題は後で請求する」
 額の赤菱が白く輝いたかと思うと、そこに梵字が出現する。激しい光線を梵字から放つと、浴びせた彼女の傷が治癒していった。
「大丈夫か、アト殿?」
「ええ、ありがとうございます、ワルゼロムさん。自分の能力は把握しています。簡単に倒れたりしませんし、皆さんも倒させません」
 後半はまるで敵へと告げているようにも聞こえたが、ワルゼロムは気にしなかった。
「そのように、私を作ったのですからね」
 言葉とともにアト自らも気を溜めて、さらに体力を回復する。
「いい加減、タウィルさんを狙うのをやめやがれっ!」
 その間にカーラの放つ竜砲弾が敵を打っていた。
 回復できないダメージはもちろん、回復しきれないダメージも蓄積しているが、2人は確実に仲間たちを支えていた。
 そして、支えられている側も思い切って攻撃ができる。
 シヴィルは古代語の呪文を詠唱し始めた。
「悪いが、貫かせてもらおう!」
 光の矢が無数に現れて、翼のように広がった。
 矢は工場長を貫き、仲間たちが与えた傷を広げていく。
「ダモクレスがレプリカントになる理屈を貴様は理解できているのか? 理解できていないのであれば、アト殿をダモクレスに改造すること等できるわけがないだろう」
 光る矢の輝きを背負って宣言するシヴィルに、ダモクレスはなにも応えなかった。
「あのアーム、人体改造のための道具という感じで少々むかつく感じもしますので、壊してしまいたいですね」
 アゼルが爆炎の魔力を込めた弾丸を連射する。
「破っ!」
 岳の槌から飛んだ紫電も、敵を貫いていた。

●過去との決別
 小型ロボの群れが幾度となく襲いかかってきてケルベロスたちの体力を奪っていた。
 ヌガークトゥンの攻撃は治しにくい傷を与えている。その傷がそのままだったなら範囲攻撃も厄介なものだったかもしれない。
 けれど、2人がかりの回復のおかげでしのぐことができている。
 美しい踊りでワルゼロムが花のオーラを降らせ始めた。
 アトは愛用のハーモニカを吹き始めた。
「学び、考え、次に活かす……そのように作ってくれたこと、今は感謝していますよ」
 テンポのいい旋律で、規則正しく紡ぐ行進曲が、小型ロボ群に体力を奪われた前衛の仲間たちの体を『調律』していく。
 ワルゼロムのステップもその行進曲に合わせたものに変わっていた。
 幾度となく攻撃をしのがれ、さらに奪い取った体力もすぐに削り直されて、工場長は徐々に後退をし始めた。
「逃がしませんよ!」
 岳は見過ごすことなく、工場長の背後を取った。
「自分が生み出したアトさんを殺し、新たな存在へ作り変え様とする。そしてその事に一抹の憐憫も抱かない……貴方方が心がない存在だと改めて感じました」
 小ぶりな槌を、岳は高々と振り上げた。
「貴方方デウスは本当にお可哀想です……心を持つ者の想い、強さをその身で、その心で感じて下さい。命を蔑ろにする貴方をここで倒します」
 地面へと手にした槌を振り下ろす。
 その瞬間、紅玉の色をした光を槌が放った。
 紅玉の石言葉は情熱と仁愛。命を護り抜く意思が、槌を通じて広がる。
「これが私達、人間の心の力です!」
 広がる衝撃波が、敵を吹き飛ばす。
 仲間たちの攻撃が工場長の体力を削っていく。
「まったく厄介だよ、ケルベロスというやつは!」
 逃亡を諦めて、反撃に移ろうとした工場長の動きが、止まった。
 麻痺して動きが止まった隙をケルベロスたちは逃さなかった。
「チャンスです。一気に畳みかけましょう」
 アゼルは仲間たちに呼びかけた。
 これまでは足を止めて敵の動きを制限することを重視していた彼は、初めて距離を詰めるために動き始めた。
「ゴミを修理してダモクレスに変えてしまうダモクレスが確認されているが、貴様の身体は修理できないほどバラバラにしてやるとしよう。貴様の悪事も、これでもうおしまいだ」
 うなりをあげるチェーンソー剣で、シヴィルがジグザグに敵を切り刻む。
「ユニット固定確認……炸薬装填……セーフティ解除……目標捕捉、これより突撃する!」
 戦闘用杭打機を構えたアゼルが、彼女の陰から一気に肉薄する。
 椅子の背もたれを杭が貫いた。炸薬が連続して爆発し、その衝撃が工場長の内部を破壊していく。
 黄泉の無表情に振り下ろした斧が敵の装甲を一気にぶった切った。
「我らも行くぞ、タルタロン帝!」
 号令一下、ワルゼロムが死角から敵を切り裂いた軌跡と、タルタロン帝の非物質化した爪による軌跡が×の字を描く。
 岳がドリルのような回し蹴りを叩き込んだのに合わせ、纏が工場長に接近する。
「解体(バラ)すと言った」
 骨の刀でジグザグに切り刻んだ後、止めと銃撃を加えようとしたが、ダモクレスは最後の力を振り絞って逃れる。
 だが、逃れた先にはアトがいた。
「この体の武装も、あなたを倒すには至りませんが、傷をつけるには十分です」
 先ほど黄泉が切り裂いた装甲の傷を、回転する腕がさらに広げていく。
 それでも工場長は倒れなかった。
 いや、アトが倒そうとしていなかったためだろう。
 カーラは愛用の武器に仕込んでいるプログラムを起動させた。
 家族が好きな少年にとって、工場長とアトの関係は決して許せるものではなかった。
(「それでも、タウィルさんに、それだけ思い入れがあるっていうんなら……」)
 武器のグリップから鋼鞭が伸びる。
「絡みつけよっ、「封縛鞭」!」
 距離を詰めながら鞭を振るい、ダモクレスの体を縛り上げる。
 締め上げ、完全に動きを止めながら跳躍したカーラは、それでもなお薄笑いの表示されたままの画面に蹴りを叩き込む。
 金具が吹き飛び、そしてヌガークトゥンの首が宙を舞い、落下した。

●鎮魂歌
 ディスプレイに表示された顔が、消え始めた。
「待てい。最後に聞かせよ。どうしてアト殿を狙ったのだ?」
 ワルゼロムが声をかけるが、もはや答えは返ってこなかった。
 画面が完全に消えて、工場長はもう動きことはなくなった。
 纏が仲間を見回す。皆の……特にアトの無事を確かめると、彼は大きく息を吐いた。
「無事なら、良かった」
 今日も自身の平穏が守られたことに、纏は安堵していた。
(「アトさんは、私の大事な日常の一部です。そうなったのも……あなたが、アトさんを作ってくれたからです。そのことには、感謝しますよ」)
 もう動かないダモクレスへと、彼は心の中で告げた。
「周りの倉庫をヒールしておかなくてはいけませんね」
「そうだな。だが、それは後でいいだろう」
 黄泉の言葉にシヴィルがうなづく。視線の先には、ハーモニカを手にしたアトがいた。
 アゼルが口を開いた。
「もしこの工場長がどこかの組織に所属していたのだとしたら、報復などを警戒する必要があるかもしれませんね」
 だが、それはまた後日のことだ。
 彼はまず、死んだ敵のために黙祷を捧げる。
「倒す事でしかお救いできす御免なさい……。貴方との思い出は、アトさんの心に何時までも在り続けるでしょう。それが心、ですから。地球の重力の元どうか安らかに」
 岳も静かに冥福を祈り始めた。
「誇ってください、あなたの娘はあなたを超える方法を見つけたことを」
 祈る彼らの間を抜けて、アトがダモクレスの残骸の前に立った。
「そして、さようなら……これが私からの鎮魂歌です」
 倉庫街にハーモニカの音が響く。
(「パーツを取りに来ただけの親でも、か……」)
 カーラには怒りしかわかない相手だが、アトには違うのだろう。
 夜の闇に、アトが奏でる鎮魂歌は静かに響き続けた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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