ミッション破壊作戦～眠れぬ屍がうごめく地へ

■リプレイ

●臥蛇島へ
　ヘリオンは九州の上空を抜けて、海の上を移動していた。
　向かう先は臥蛇島。鹿児島に属する無人島であり、九州本土と沖縄との中間に位置する諸島のうち１つ。
『……それでは、不実の生に終わりを与えにゆきましょうか』
　超高速で移動するヘリに乗り込む前に、罪咎・憂女（刻む者・e03355）がそう呟いてからまだそれほど時間はたっていない。
「帰りは……泳ぐことになりそうだね」
　降下前に念のため、帰路を確認していた御門・美波（断罪の少女・e34803）が呟く。
　眼鏡をかけた目で海を見下ろす少女の両耳に、それぞれ三日月と星の形をしたイヤリングが揺れていた。
「いちおう、ミッションに向かうケルベロスと連絡が取れるなら、船で合流してくれるよう伝えてほしいと要望を出してはおいた。はっきりと確約は取れなかったがな」
　やはり地図で退路を確認していたアルベルト・ディートリヒ（昼行灯と呼ばれて・e65950）が、眼鏡の下にある青い瞳を美波に向けた。
　仮に船がなかったとしても、ケルベロスの身体能力ならば泳いで帰るくらい簡単だ。とはいえ、泳がずにすむならそれに越したことはない。
「島にいるのは、屍隷兵なのよね」
　バジル・サラザール（猛毒系女士・e24095）が呟く。
　緑色の長い髪を持ったエルフは、屍隷兵に対してなにか思うところがあるようだ。
「どうにも気に入らねえな、屍隷兵ってのは。自分の死体を利用され続けてると思うと、ぞっとするぜ」
　額から二本の角を生やした青年が言った。
　長久・千翠（泥中より空を望む者・e50574）はゆったりとした袖なしの服から伸びた腕に軽く力を入れると、手のひらに軽く拳をぶつける。
「行き場のない魂という奴は、実を言うと見慣れているんだけど」
　金色の鱗を持つドラゴニアンが口を開く。
　瞳のほうは軽く閉じて、ガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）は過去のことを思い出しているようだ。
　輝く黄金を身にまといながら、けっして人の希望に応えられない存在であったことを反芻していたが、それをあえて口に出すことはしなかった。
「だが、だからこそ、容赦はしないよ。彼らの『存在』を踏み越え強くなることが、彼らの『証明』になるはずだからね」
　青い瞳を開いて、バジルに向ける。視線を受け止め、バジルが頷く。
　その頃には、もうヘリオンは臥蛇島の上空、目的の場所にさしかかっていた。
「そろそろ作戦開始の時間ですわね。お兄様、お姉様がた、準備をいたしましょう」
　ハチミツ・ディケンズ（彷徨える琥珀・e24284）が落ち着いた声で仲間たちに言う。
　ボクスドラゴンのババロアとともに、若草色の髪をした少女は立ち上がった。
「行こう。オレたちで、人々の無念を晴らしてやろう」
　目面・真（たてよみマジメちゃん・e01011）が力強く告げて、そしてヘリオンからはるか下にある臥蛇島へと飛び出す。
　続いて、他のケルベロスたちも次々に空へと身を躍らせた。

●死者がうごめく島へと叫べ
　海に囲まれた小さな島へと、一直線にケルベロスたちは降下していく。
　最初は小さく見えた島がどんどん大きくなっていく。
「人であったモノの残渣か。言うは容易いが、内容は狂気に満ちているな。そんなモノを製造する施設があった場所を前にして、オレは平常心ではいられないぞ」
　真が険しい表情で島をみらみつける。
「そんな場所を捨ててはおけん。この場を清浄にし、屍隷兵となった人々の無念を晴らしてみせる！」
　決然と告げた彼女が、島を覆う魔空回廊のバリアへと輝く小剣を叩き付ける。
　最初の爆発が島へと広がり、爆炎と雷光が覆っていく。
　その前に、大柄な屍隷兵たちが岩だらけの島をうごめいている姿が見えた気がした。
「生きた姿は知らないが……死しても縛られた魂に解放を！　造られた冒涜の生に終端を！　武人としてこの在り様は認めはしない！」
　憂女が寡黙な口を開いた。
　そして、二度目の爆発が島へと広がっていく。
「死者を弄ぶとか、胸糞悪すぎて言葉も出んな。だが、お前達をそんな姿にした連中は、俺達ケルベロスが必ず地獄に突き落としてやる」
　語りかける言葉がアルベルトの想いを高めていく。
「だから、安心して眠れ……この島は生者に返してやれ」
　祈りを捧げるように３度目の爆発が広がる。
「屍隷兵にはこの地球を奪わせはさせませんの。ここはあなた方の好き勝手にしていい場所ではありません。何故ならわたくし達番犬がここにやってきたのですから」
　続くハチミツもまた、死者たちを悼む声を空に響かせる。
「不完全で哀れな生き物の出番はここまで」
　落ち着いた声ではあったけれど、その言葉には確かに強い想いがこもっている。
「安らかにお眠りなさい。死者を弄ぶのはもうお仕舞いにしましょう」
　そして４度目の爆発。
　もはや煙に隠れて見えない島から、絶叫が轟く。
「てめぇらのその叫びがどうしようもなく嫌いなんだよな」
　千翠の声は怒りを隠そうともしていなかった。
「その声が悲痛すぎて聞けたもんじゃねぇ。元の命と今の行動がちぐはぐすぎて見てらんねぇ。有り様が気に入らないから、全力で叩き潰してやんよ」
　オウガの角が風を切り裂き、島を貫くほどの勢いで彼は落下していく。
「さっさと生まれ変わって楽に、幸せになりやがれ！！」
　その勢いのままに千翠はグラディウスをバリアへと叩きつけた。
　大きな爆発が島を揺らす中、残るケルベロスたちも次々に降下していく。
　事前に聞いていた通り、敵はそれを防ぐ手立てがないようだった。
「割り切れるわけないわ、でも、屍隷兵をこれ以上産まないために……二度と産まないために、ここは絶対に破壊させてもらうわ。どうかこれ以上苦しまないように……」
　バジルの緑色の髪が６度目の爆発で大きく翻る。
「確かに、取り返したところで人が簡単に住める地域じゃないんだろうさ。自然災害も多い地域だしな。だが、お前たちに土地を渡す理由にはならねぇ」
　ガロンドが語りかけている相手は、おそらく屍隷兵たちではないのだろう。
「また随分と悪趣味なモンまで作りやがって……」
　金色の竜は、この地を作り上げた螺旋忍軍への怒りを募らせている。
「ああ面倒くせぇ。邪魔だ。邪魔だ邪魔だ！　邪魔だ！！　邪魔だ！！！　こんなとこまで！　来るんじゃねえよ！！　全員纏めて帰りやがれぇ！！！」
　螺旋忍軍に、あるいはすべてのデウスエクスへの怒りを込めた一撃が、ひときわ大きな爆発となってバリアを揺らす。
「死の安息を与えられない屍隷兵」
　美波は背に天使の白翼に似た後光を背負って、臥蛇島へと降下していく。
「螺旋忍軍、酷いことを……死すら愚弄するなんて絶対に許せない」
　彼女もまた螺旋忍軍へ怒りを募らせていた。
「助けられなくてごめんね……絶対に美波たちが解放するからッ！」
　叫びと共に少女は輝く小剣を振り上げる。
「この一撃で壊れてッ！！」
　そして、８度目の爆発が島の空へと広がっていった。
　煙が渦巻く島へとケルベロスたちが降下する。
「どうだ、壊せたか！？」
　千翠が仲間たちへと呼びかける。
「いや……残念だけどね。そこまでの手応えは感じなかったよ」
　ガロンドが首を横に振った。
「そう……」
　バジルが目を伏せて首を横に振った。
　屍隷兵のミッションは残っている中では比較的難易度が低いが、それでもこれまで攻撃が行われていない地域を一回の作戦で破壊するのはそう簡単な話ではない。
「仕方がありませんわ。今はまず、ここから無事に帰ることを考えましょう」
　グラディウスを懐にしまいながら、ハチミツが言った。
「残念だけど、しょうがないね。でも、いずれはきっと解放しなきゃ」
　美波の言葉に仲間たちが頷いた。
　屍隷兵の絶叫が轟く島から脱出するべく、ケルベロスたちは走り出した。

●襲い来る死者の兵
　煙の向こうから叫びが聞こえてくるが、しばしの間ケルベロスたちの前をはばむ敵は現れなかった。
　もっともヘリオライダーが言った通り、敵と遭遇せずに撤退することは不可能だった。
　煙を突き抜けて、凌駕巨兵リローデッドの巨体が飛び出してきたのだ。
　振り回されるその腕から、ハチミツがアルベルトをかばった。
「悪いな、ハチミツ。助かった」
「お気になさらないでくださいませ、アルベルトお兄様。すぐにババロアが回復してくれますから」
　近くで真のボクスドラゴン、翔之助が主をかばっているようだ。
　屍隷兵とはいっても、強化版だけあって威力はなかなかのものがある。
　しかし、足止めされているわけにはいかない。
　真は鈍色のプロテクターで身を守りつつ、屍隷兵の巨体と対峙する。
「このような姿に変えられて、さぞや無念であっただろう。オレ達にできるのは、この姿で生きる苦しみから解放するコトだけ」
　眼前にある異形へと語りかけるが、応えてくれないことはわかっている。
「人としてやりたかったコトもあっただろう。ツライだろうが、ほんの少しの辛抱だ」
　それでも彼女は敵へと語りかけながら、プロテクターの形をした凶器を操る。
「参るぞ諸君、眠れし感覚を研ぎ澄ませ！」
　オウガメタル粒子を放出し、敵を捉える力を真は仲間たちへと与えた。
　憂女はその間に、小刀を手にして中距離から敵へと接近した。
　近づくと屍隷兵の全身から怨嗟の声が聞こえてくる。
「牙交える時はお互いこそがすべてと思っていたが……な」
　死してなお使役される、その存在と対峙し、彼女は不快を感じる。
　だが、仲間たちのように救ってやろうと言うつもりは、憂女にはない。
「……さぁ、己の我を通すために牙を交えようか！」
　深い藍色をした護身小刀は心象を映すというが、なにが映っていたにせよ今は雷光によって覆われている。
　足元を狙った刺突が貫くと、痛みを訴える声が憂女の耳に聞こえる。
　なんの感情も顔には出さずに、再び憂女は敵の近くから離脱した。
　入れ替わりにガロンドが重力を操った飛び蹴りを敵の巨体へと叩き込む。
　ハチミツが妖精弓で仲間たちに祝福の矢を飛ばして力を与えた。バジルはそのハチミツへと心霊手術を施して回復している。
　敵の動きは巨体に似合わず素早かった。他のケルベロスたちも攻撃を行うが、すべてが命中しているわけではない。
　短期決戦を挑む必要があるこの状況では、まず敵の足を止めなければならない。
　美波は魔力を用いて爆裂弾を生成する。
「あなた達をその戒めから助け出すから」
　黒い魔導拳銃の引き金を引くと、その銃口から爆裂弾が次々に飛び出した。
　敵の動きを制限する爆発が次々に起こる。
「今はこうするしか、出来ないの。ごめんね」
　爆発に取り巻かれて動きが鈍ったところに千翠が呪詛を仕掛ける。
「歪め。蝕め」
　刀のごとく伸ばした２本の指を敵に向けると、絶望の叫びをリローデッドが上げた。
　アルベルトは敵の動きが鈍ったところに接近する。
「見れば見るほど、胸が悪くなる姿だ。だが安心しろ。それは、お前達のせいではない。だから……そこを動くなよ」
　腕を引き、『梔子』の名を持つ斬霊刀を構える。
　狙うのは人であれば急所であるはずの場所。
　風神のごとき速さで襲いかかる刃は強烈な威力をともなって屍隷兵を貫く。
　撤退するために必要だというだけでなく、敵を構成する材料にされた者たちを眠らせるためにも、アルベルトは全力で攻撃を続ける。
　リローデッドは時折絶叫を轟かせて傷をふさぎ始める。
　だが、回復されるのを見過ごしていては短期決戦で終わらせることができない。
　ガロンドは前衛で守りを固めているミミックのそばへと一気に接近した。
「こいつでいこうか……」
　アドウィクスの力を借りて、黄金に輝くルーン文字が刻まれた爪を両腕に具現化する。
　ミミックを飛び越え、爪を敵の巨体へ突き立てる。
　爪が刻んだ傷は復元を妨げる力を持つ。
「……解放が救いになるかは知らないが」
　さらに憂女がジグザグに切り刻んでその傷を広げていた。
　真とハチミツに、翔之助とアドウィクスで守りを固めているおかげか、今のところ誰も倒された者はいない。
　もっとも、それもバジルやババロアが回復で支えていたおかげもあるだろう。
　バジルは仲間たちを傷つけるその姿を、仲間たちに傷つけられるその姿をしっかりと見据えながら回復を続けていた。
「正直、心が折れそうね」
　じっと見つめるその先で、真が敵に蹴り飛ばされるのが見えた。
「でも心を蝕むからって逃げないわ。毒を食らわば皿までよ」
　バジルは呟いた。
「隙だらけだよ。喰らえ！」
　真の声とともに敵が爆発する。吹き飛ばされながらも、彼女は攻撃後の隙を狙ったようだった。
　自らを奮い立たせてバジルは真へ心霊手術を施す。
「あまり無理しないでね」
「ああ、無理をするつもりはない。ただ、皆で戻るために必要なことをするまでだ」
　答えた真が、また屍隷兵へ向かっていく。
　ケルベロスたちは敵の足止めをし、氷らせたり防具を壊してダメージを底上げしながら戦っていたが、なかなか敵は倒れなかった。
　味方側にも倒れたものはいないが、サーヴァントを守りに回している分攻撃役がもっと多くてもよかったかもしれない。
「気をつけてくださいませ。煙が薄れてきていますわ」
　ハチミツは薙ぎ払う腕から美波をかばいながら、仲間たちに声をかけた。
「敵も弱ってはいるはずだ。さっさと片付けてやろうぜ」
　不機嫌そうな声で応えたガロンドが、ハンマーを振り上げる。
「…………疾ッ！」
　憂女が翼を広げ、尻尾で体勢を整えながら高速飛行で接近し、抜き打ちの刃で敵を裂く。
　凍りついた傷口から、ガロンドが進化の可能性を奪ってさらに敵を氷で閉ざした。
　ハチミツはエアシューズで岩肌を駆けた。
　摩擦熱で巻き起こった炎が、氷とともに敵を追い詰めていく。
　時間切れになる前にと、皆が全力で攻撃を続ける。
　敵の巨体は各所が欠けて、限界が近いことを示していた。
「これで、終わりだよ」
　光る翼を広げた美波の突撃が敵の体をさらにえぐりとる。
　アルベルトの双児手甲から飛び出した霊気の網が敵を捕らえるが、屍隷兵はそれを振りほどくようにさらに腕を振り回す。
「破ッ！」
　拳を受け止めながら、真が振り上げた足が巨体を左右に断ち割る。
　千翠は固く拳を握って、屍隷兵へ接近した。
　体を分断されかけても、敵はまだ倒れていない。憂女やガロンドも攻撃しているようだ。
「じゃあな……もし機会があれば、次はちゃんと会おうぜ」
　オウガの拳が屍隷兵の体を粉砕し、ようやく敵は動きを止めた。
　ケルベロスたちは薄まっていく煙の中を急いで駆け抜ける。
「待ってて、今度こそはみんなを解放して見せるから」
　短く祈りを捧げる声が聞こえて、それから美波が追いかけてきた。
　きっと、誰もが同じことを思っていただろう。
　悲痛なうめき声が響く島を、ケルベロスたちは駆け抜けていった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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