城ヶ島強行調査~ドラゴンの拠点を探索せよ

作者:遠藤にんし

 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はケルベロスたちを見渡すと、まず一礼した。
「集まってくれてありがとう。……今日は、ドラゴン勢力のことで話がある」
 鎌倉奪還戦の際に三浦半島南部にある城ヶ島を制圧、拠点を作っていたドラゴン勢力。
 城ヶ島にはドラゴンが多く生息しているため、今までは攻略を控えていた――だが、と冴は言い、エスツーイ・フールマン(シルバーナイト・e00470)に視線を向ける。
 冴の視線を受け、エスツーイは口を開く。
「拠点確保活動の結果、ドラゴン本隊の戦力は手薄になっておると思うのじゃ。調査をするならば、今が最適だと思うのじゃよ」
「……強行調査に危険は多くあるだろう。だが、どうか調査をお願いしたい」
 続いて、冴は説明に入る。
「正面攻略は至難であることが予想されるから、小規模部隊を多方面から侵入させ、内部を調査してもらいたい」
 戦力や拠点の情報が分かれば、更に攻略作戦を立てることが可能になるだろう。
「潜入の方法じゃが……城ヶ島にヘリオンで侵入することは出来ないのじゃな?」
 エスツーイの確認に、冴はうなずく。
 城ヶ島上空は、多数のドラゴンによって警戒されていることが予想される。
 そのため、三浦半島南部まで移動後の作戦は、調査を行うケルベロスたちに一任される。
「こちらでも支援は行う。小型船や潜水服、水陸両用車くらいならば準備したいと思うから、必要ならば教えてくれ」
 城ヶ島到着後、何が起こるかは分からない――ドラゴンとの戦闘になる可能性もある。
「ドラゴンとの戦闘が発生した場合、勝利後は速やかに撤収してくれ。なおも調査を続行しようとすれば、別のドラゴンとの連戦になる」
 戦闘を行うか否かもケルベロスたちの作戦次第。
「同じく潜入している他の班の調査活動の援護として、派手に戦闘を行い、ドラゴンを引きつけることも出来るはずだ」
 内部の状況が不明な以上、何が起こるかは分からない。
 どのような状況に陥っても大丈夫なように、事前の作戦を練ることが求められるだろう。
「引き際を誤れば、もう二度と帰って来られないかもしれない……今回の任務はそれだけ危険なものだ。戦闘になった場合は勝利することではなく、迅速に撤退し、死傷者を出さないことを優先して欲しい」
 真剣な眼差しで冴は告げ、ケルベロスたちを見送るのだった。


参加者
ラーダ・ナーザ(煙竜・e00864)
スレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886)
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
日崎・恭也(明日も頑張らない・e03207)
牧島・奏音(うお座のこいのぼり・e04057)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
旋堂・竜華(純粋なる真黒の狂戦士・e12108)

■リプレイ


 一同は、三浦半島から小型船で移動を開始した。
 灘ケ崎を大回りする船はもう一隻。青く塗られた船体には、別働のケルベロスたちが乗っていることだろう。
 泥や海藻、フジツボなどで漂流船を装う都合上、ケルベロスたちはボロ布を羽織っている。海面を見つめていたヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)は、海中にドラゴンがいるのを目にした。
「思ったほど多くはないのですね」
 旋堂・竜華(純粋なる真黒の狂戦士・e12108)は呟く。
 回遊するドラゴンもいるが、そう多くはない……ここは、警戒の薄い場所なのかもしれない、と竜華は考える。
「みんなー! あれを見……あっ」
 大きい声を出してしまったガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)は慌てて自分の口を塞ぎ、見付かってはいないかと周囲を見回す。運良く、回遊するドラゴンに気付かれることはなかったようだ。
 ガドの見ていた方を向けば、そこにはホテルと城ヶ島灯台がある――しかし、いずれも黒く変わり、ドラグナーの尖塔へと変化していることが分かる。
「灯台が二つある時点で嫌な予感しかしなかったが……的中したようだねぇ」
 溜息をつくラーダ・ナーザ(煙竜・e00864)。小型船の運転を買って出た日崎・恭也(明日も頑張らない・e03207)が岸へと停泊するのを確かめてからラーダはドライスーツを着用し、水中スクーターの用意をしながらイシコロエフェクトで存在感を消す。
 泳ぎの得意な遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)は既に水中に潜り、陸へと向かっている。牧島・奏音(うお座のこいのぼり・e04057)も音や飛沫に注意しながら、ゆっくりと着水した。
 ――冬の近付いた冷たい水の中を泳ぎ続け、一同は岸まで到着する。
「陸の孤島に到着か……」
 海から上がったスレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886)は呟き、ドライスーツを脱いでから双眼鏡でホテルと尖塔の様子を確認する。
 いずれも尖塔化されており、敵影はない……条件が同じならばホテルを目指すべきだろう、と思うスレインに、背後から声がかけられる。
「よぅ、あんたたちもこっちに来たんだな」
 スレインが振り向くと、そこには獣人の姿をしたケルベロスが立っていた。見れば赤いマフラーを巻いた男性が青い船をロープに繋いで停泊している。彼らは、あの船に乗って上陸してきたのだろう。
「あんたたちも見たんすか? あのホテルと灯台の状態」
「ああ。あんたらもかい?」
 ラーダの問いに、竜の角を生やした赤髪の男性は頷きを返す。
 互いに目的地は同じ。それを確認してから、十六名は揃ってホテルへと向かうことにした。
「城ヶ島か。こういう機会でもなきゃ来なかっただろうけど……」
 呟くヴィットリオの横、恭也は辺りを見回している。
 共にホテルへ向かう彼らは隠密気流を、こちら側はイシコロエフェクトと隠密気流を使ってはいるが、油断はならない。岩や木の影に隠れながら、大所帯となった彼らはゆっくりと歩みを進める。
 スレインは機械部である耳に意識を集中させ、敵の気配を探っていた。どうやらこのまま進む分には、戦闘の危険はなさそうだ。
 道なりに行けばホテルに着くことが出来るだろう。幸いにも敵に見付かりそうになることもなく、ケルベロスたちはホテル付近まで――。
「あれは……!」
 竜華の声は小さいものだが驚きが滲んでいる。その視線の先を追った少女も金色の目を微かにだが見開き、右側にある城ヶ島灯台を見つめている。
 ――黒く姿を変えた城ヶ島灯台には、一体のドラゴンが出現していた。


 遮蔽物があるためはっきりと確認出来るわけではないが、猛り牙を剥く様子からすると、何者かとの戦闘を繰り広げているようだ。
 城ヶ島灯台へ向かったケルベロスの誰かと戦っているのだろうか――思う奏音はふと違和感を覚え、背後にあるホテルに視線を送る。
 ホテルは、しんとそこに佇んだままで。
「援軍がホテルから出てくる気配……ないね」
「……確かに妙だね、あの騒ぎならホテルから灯台に増援が向かってもいいものだけど」
 眼鏡をかけたオラトリオの青年も不審そうにホテルを見やるが、ホテルから敵が姿を見せることはない。
 幸いにも、城ヶ島灯台に出現したドラゴンは戦闘に注力しており、こちら側に気付くことはない。今はホテルの探索を優先すべきだと判断し、一同はホテルまでの道を急いだ。
 ――黒く変色した上に形も大きく変化したホテルだったが、正面と後ろに一つずつ入口があるのが分かった。
「では、私達は正面から行かせて貰います」
「私たちの方は裏から回るですよ」
 二手に別れて内部の探索をするべきだろう――思って鞠緒が言うのと、青い髪の女性が言うのは同じタイミング。その偶然に、二人は思わず笑みをこぼしてしまう。
「では、ここからは別行動じゃな」
「うん。何かの情報が見付かったらすぐ撤退するよ。僕達が撤退する時には、音楽をかけるから」
 ホテルは外観も大きく変わっており、館内スピーカーが使える状態にあるかどうかは分からない。
 万が一使える状態ではなかったとしても、持ち込んだ小型スピーカーから音楽を流して陽動の役目を果たす――ヴィットリオはそう告げると、レプリカントの女性は分かったと答える。
「気を付けてな」
「アンタたちこそ、ちゃんと無事に戻って来なさいよ」
 長い髪を指で弾き、尊大な態度で告げる少女がホテルの裏手へと消えるのを見送ってから、ガドはホテルの正面入り口に向き直る。
「さ、行くとするかね」
 ラーダはつぶやいて、黒い扉に手をかけた。
 ――重い音を立て軋みつつ、扉は開く。
 外観同様、内装にも大きな変化が見て取れた。天井も壁も床も黒く変わり、フロントや売店などがあったはずなのにその面影もない――しかし、彼らは室内の様子をじっくり見ることは出来なかった。
 なぜなら。
「……なんで」
 漏れた声は奏音のもの。眼前に立ちはだかる存在に、ケルベロスたちは呆然とするほかない。
 城ヶ島はドラゴンの拠点だ。だから、彼らが敵と対峙するならば、それはドラゴンである……そのはずだった。
 しかし、目の前で敵意を向けてくる存在は、ドラゴンではない。
「……ケルベロスか……」
 棘のある言葉。その者の手に握られた日本刀が、鈍い光を放つ。
 驚きのあまり言葉を失う鞠緒の隣、ウィングキャットのヴェクサシオンは戦いの予感に翼を大きく広げる。
「ここを作戦司令部だと見抜いたことは、褒めてやろう。……だが」
 敵の日本刀を握る手に力が込められるのを見て取り、恭也もガトリングガンを構える。しかし、思いもよらない敵との遭遇に、まだ少し現実感がなかった。
「知られた以上、生きて帰すわけにはいかぬ――」
 駆ける敵――日本刀の切っ先には、氷の螺旋が纏われていて。
「――行くぞッ!」
 敵は――螺旋忍軍は叫び、ガドへと攻撃を放つのだった。


「っ!」
 螺旋忍軍の攻撃を腕で受け、ガドは暴風を伴う蹴りを放つ。
 ドラゴンではなく螺旋忍軍との遭遇は、彼らにとって想定していなかったこと。しかし敵が現れた以上、戦うほかない。
(「ドラゴンとは一度やりあってみたかったのですが……螺旋忍軍との戦いになるとは、思っていませんでした」)
 竜華は思いつつ、ガドを包むように霧を広げる。ライドキャリバーのディートは炎を纏い螺旋忍軍へと特攻し、主であるヴィットリオはゾディアックソードによる神速の一撃を叩きこむ。
 戦闘を開始しながらも、ケルベロスたちは考えることをやめない。
 螺旋忍軍は、このホテルが『作戦司令部』だと言った。何の作戦か――螺旋忍軍の企みとして、ガドはケルベロス・ウォーに貢献した後援者を螺旋忍軍が狙った事件を思い出す。
「要人暗殺計画……」
 声に出したのは、フランスで要人警護に当たったことのある鞠緒。言葉と共に放たれたブラックスライムに左腕を侵蝕されながらも、螺旋忍軍は嗤う。
「海外の要人暗殺計画のことか? あれは我らではなく、ドリームイーター側の者が起こしたことだ!」
「……ほう、螺旋忍軍も一枚岩ではないってことかい」
 期せずして得られた情報にラーダは声を上げ、煙草を一服。
 煙はもくもくと増殖し、戦場を覆うほどになる。視界を奪う煙を螺旋忍軍は手で払おうとするが、いくら腕を動かしても煙が晴れる様子はない。滑稽な踊りとも取れるその動きに、ラーダは僅かに笑む。
「煙に巻かれて踊りな」
 煙の中を泳ぐのは奏音のWirbel Nixeによって召喚を受けた熱帯魚たち。黒い部屋に、白い煙。その中を舞う熱帯魚の鮮やかな色彩は美しかった。
 奏音の歌声が響く中、恭也は螺旋忍軍に問う。
「じゃ、お前らは何やってんの?」
「我らドラゴン軍は偽ケルベロスコートでもって、偽ケルベロス作戦を遂行している!!」
 胸を張って答える螺旋忍軍。その情報を頭で反復しながら、スレインは問いを重ねる。
「螺旋忍軍は、それだけか」
「見くびってくれるな! ザイフリート王子に仕える螺旋忍軍は、ライフラインの破壊工作も行ったのだぞ!」
 言うと螺旋忍軍は口を閉ざす――現時点で活動している螺旋忍軍は、以上の作戦に従っていると見て良さそうだ。ヴィットリオはひとつ気になることがあって、再び尋ねる。
「仕える……って言ったよね?」
「うむ、螺旋忍軍とは主に仕え、主の意向の下に作戦を行うのだぞ!」
「なんだ自分では何も出来ないデクノボーってことか」
 軽口を叩く恭也は何かの気配を覚え、咄嗟に床に伏せる。
 ギリギリの所を飛んできたのは螺旋忍軍の螺旋の氷。壁に深い穴が空いているのを見て、恭也は直撃を受けていた時のことを思い起こして青ざめる。
「す、すんませんっしたぁ……」
 ぷるぷる震える恭也だった。
 竜華の竜縛鎖・百華大蛇は意志を持つかのように宙へ浮き、八本に分化したかと思えば螺旋忍軍を囲む。
「全て燃えて砕け!」
 命じる竜華の声に呼応して、炎を伴う鎖は螺旋忍軍の体を貫く。紅蓮のオーラを鉄塊剣に込めて叩き斬る竜華に続き、ラーダは鋭い爪を螺旋忍軍の腹部をえぐった。
 むき出しとなった生々しい傷痕めがけて、ガドはマインドリング【風花】のエネルギーを纏わせた槍を持って突撃する。
「これがうちのッ! 今できるッ! 最上級の一撃やァ!!」
 渾身の力で振るわれた一撃――対抗して螺旋忍軍は日本刀で全体を薙ぎにかかるが、ヴィットリオとディートが前に出、仲間を刃から守るのだった。


「これは、あなたの歌」
 代わりにダメージを引き受けてくれたヴィットリオに目礼し、鞠緒はレチタティーヴォ「淵源の書」を展開する。
「懐い、覚えよ……」
 こぼれ出る歌声に、螺旋忍軍の動きが鈍くなる――しかし螺旋忍軍は奮起し、解き放った螺旋の力をスレインへと叩きこむ。
 スレインは声を上げず、表情も変わることがない。それでも太刀筋の鋭さからは受けたダメージが窺い知れた。
「ま、気軽にいこうぜ?」
 ヴェクサシオンの生み出した風に乗るのは、恭也のぐーたら☆ヒーリングの作りだしたユルユルフワフワなムード。それらに癒しを受けたヴィットリオは、スレインへと白い炎を向ける。
「燃え上がれ、活力の炎っ!」
 ヴィットリオのセイクリッド・ホワイトフレアはスレインに癒しを施す。
 奏音の赤茶けた双眸が螺旋忍軍を見つめれば、螺旋忍軍は内側から破裂を起こし、その場に倒れる。しかし螺旋忍軍は残る力を振り絞り、日本刀でラーダを斬る。
 背から溢れる鮮血に息を詰まらせるラーダの元へ届いたのは、スレインの歌声。
 フォード家に伝わる『おまじない』には、スレインによって癒しの力を加えられていた。たちまちラーダの血が止まり傷も塞がれていくのを見た螺旋忍軍は怒りと驚愕に目を見開くが、対するスレインは無表情なまま。
「この残響のある限り、私の活動は停止しないと思え」
「助かったよ。……さて、往生際の悪いアンタも、そろそろ年貢の納め時さね」
 言って口の端を吊り上げるラーダ――こぼれた炎は、徐々に激しさを増していく。
 吐き出された炎の吐息が螺旋忍軍の体を呑み込むと、螺旋忍軍は黒い塵となってその生を終えた。

 戦闘後、手早く周囲を探し回ったケルベロスたちだったが、特に貴重な物品などは見当たらなかった。
「放送設備も破壊されている。ヒールは出来ないな」
「でも、情報は手に入りましたね」
 設備の確認を終えたスレインに、鞠緒はゴーストスケッチで情報を記録した紙を防水袋に入れつつ言う。
 城ヶ島のホテルは偽ケルベロスコート作戦を実施する螺旋忍軍の作戦司令部となっていること。
 ドラゴン軍につくこの螺旋忍軍の他に、ドリームイーター側について海外要人暗殺計画に携わる螺旋忍軍、ザイフリート王子に仕えライフライン破壊作戦を行った螺旋忍軍がいること。
「主人の意向に沿った作戦を遂行しているのですね……」
 つぶやくのは竜華。
 任意の主の下で、螺旋忍軍は作戦行動を取っている……そう分かっただけでも、収穫としては十分だろう。
「別の螺旋忍軍が来てもまずいし、そろそろ出ないとな」
「そうだね、でもその前に……」
 恭也の言葉に奏音は言い、持参した小型スピーカーの出力を上げて音を出す。
『ライブハウスKB』のメンバーの協力のもとで録音した鞠緒と奏音の歌が、フロアを満たす――この歌が裏口から入った彼らの助けになれば良い、と奏音は思う。
「撤退は北側からだったね?」
「ああ。堤防まで急ごう!」
 ラーダの問いにうなずくヴィットリオ。サーヴァントのヴェクサシオンとディートも連れて、一同は城ヶ島から撤退することにした。
 ――堤防までの道を走り抜け、海を渡って三浦半島へと向かいながら、ガドは一瞬だけ城ヶ島へと目を向ける。
 ここにいる八名は誰ひとり欠けることなく、満足のいく成果を上げることが出来た。
 ……でも、同じく強行調査を進めた全てのケルベロスが無事だとは限らない。
「ガドさん?」
 鞠緒に問われ、ガドはかぶりを振って三浦半島へと急ぐ。
 情報を持ち帰り、次なる一手を打つために。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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