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七月である。
どこにでもある電器屋の倉庫。
そこには古くなって新品と取り換えられたエアコンが放置されていた。個人宅で長年、働いて来たのだが、古くて故障気味だということで、先月新品と付け替えられたのである。
暗い倉庫で忘れられているエアコンは、心なしか寂しそうにも見えた。
そこにカサコソと近づいて来る蜘蛛のような宝石、コギトエルゴスム。
コギトエルゴスムが壊れたエアコンに入った途端に、廃棄家電は巨大化変形!
エアコンロボとなって大発進!
「夏だ! エアコンだ! 俺の出番だー!! 暑いも寒いも自由自在!!」
はしゃぎ気味でエアコンはシャッターを破壊し、倉庫の外に飛び出てしまった!
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ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は真面目な顔で話を聞いている。
「広島県の電器屋の倉庫で放置されていたエアコンがダモクレスになる事件が発生するようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいのです」
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ソニアは説明を続ける。
「このダモクレスはエアコンを元にしたロボットのような形をしています。能力もそれにちなむものです」
灼熱風……炎の刃をまじえた熱風で敵を攻撃します。頑健/遠列/破壊+炎。
凍結風……氷の刃をまじえた冷風で敵を攻撃します。理力/遠列/魔法+氷。
クリーナー……内部をクリーニングして自己回復します。敏捷/自単/ヒール+BS耐性。
「ダモクレスが発生するのは、平日の11時頃、電器屋の倉庫です。倉庫のシャッターを破壊して出てくるのですが、ちょうどそこが広い駐車場になります。駐車場に車はほとんど停まっていません。ですが店内にはお客様も従業員もいますので、キープアウトテープや殺界形成で人払いをして戦ってください」
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最後にソニアはこう言った。
「罪もない一般人を虐殺するデウスエクスは許せません。必ず討伐してください」
参加者 | |
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ギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606) |
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892) |
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995) |
安藤・優(名も無き誰かの代表者・e13674) |
シルフォード・フレスヴェルグ(風の刀剣士・e14924) |
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882) |
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638) |
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788) |
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広島県の電器屋にエアコンのダモクレスが発生する――。
その情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始した。
ケルベロス達は午前11時直前、該当の電器屋に到着した。
ちょうど特売セールを行っていた電器屋は、平日の午前中だというのに結構客が来ていた。どの人間もチラシと商品をしきりに見比べ、中には店員を呼んで熱心に話し込んでいる者もいる。みんな、良い物を安く買いたいのだ。
「まだ店内に人が残っていますね。まずは彼らの安全を確保しましょう」
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)は店内に入ると『凛とした風』を利用した。
そしてギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606)と共に、まずは店内の従業員と客にデウスエクスが現れる事を説明した。
「デウスエクスが襲撃する。大至急、敷地内を離れろ!」
「これからここはダモクレスによる戦場になります。逃げてください!」
ロベリアの凛とした風が効いたのか、それほどのパニックは起こる事がなく、敷地外に誘導することが出来た。後の避難は店長達に任せる事にする。
「悪いな。すぐに終わらせてやっからよ」
不安そうな表情を見せる一般人にギルはそう言った。
その間に彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)とミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)が駐車場の出入り口にキープアウトテープを貼り、人払いを行った。
シルフォード・フレスヴェルグ(風の刀剣士・e14924)、霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)、霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)は駐車場周辺にいた人間達に避難を促し、シャッターの前で警戒していた。安藤・優(名も無き誰かの代表者・e13674)も人に聞きながら手伝った。
「夏は俺の季節だぁあああ!!」
ガラガッシャーーーーンン!!
雄叫びとともにシャッターを叩き割り、エアコン型巨大ロボットがその場に現れた。
ダモクレスである。
「フハハハハ、暑さも寒さも自由自在! 正に夏は俺の時代!!」
訳の分からない事を喚きながら、ダモクレスは巨大ロボのポーズを決めている。
「ついこの前ファンヒーターのダモクレスを送ってやったところに、今度はエアコンとはの……冷房ならともかく、暖房は勘弁してほしいのぅ。暑くて敵わんのじゃ。暑いといえば勝手に冷房掛けてくれ、寒いと言えば勝手に暖房掛けてくれるようなダモクレスならば喜んで仲間に引き入れたのじゃがの……ま、所詮は鉄くずじゃな」
戀は、アスファルトが太陽の熱を反射する駐車場でそう言った。
「まったく暑くなってきたってのに、温度を操れる相手とはな。冷やしてくれるのは歓迎だが、暑くされんのは願い下げだぜ。それよりもまずは人助けだ。俺に任せておきな!」
ギルは年長者の貫禄を見せ、煙草を吹かしながら堂々と現れた。
「じゃあ、仕事開始と行こうぜ、皆」
ケルベロス達は出て来たダモクレスの前方に立ちふさがっていく。
「エアコンダモクレスですか……涼しいのはありがたいですけど、寒いのと暑いのは遠慮願いたいですね……」
ミリアは我慢大会をイメージして萎れている。
(「熱中症なのか少々頭が痛いのです」)
優はふらつく額を指で押さえている。
「頭痛いから休んでていいかな…ダメ? ………そっかぁ…」
聞こえないぐらいの声でそう言っていた。
「極端に暑いのも寒いのも迷惑極まりないです。被害が及ぶ前に倒さなければ」
シルフォードはウェアライダーの尻尾をピンと立ててダモクレスに向かった。
「……暖房と冷房兼用なのって最近だと逆にそこまで珍しくもねーけど、……夏先で実際暖房押したまま作業してた事に気づいたやつ、たまに、いるよな。というかむしろこいつ除湿ついてねーのか。やっぱり昔の?」
トウマは様々な事を気にしている。
「師との、初の、共闘……頑張る。ダモ、クレス、懲りない。無駄な、こと、繰り、返してる…………寒暖差、激、しいと、体長、崩す。常に、一定、温度、保つ、重要。室温、26度、が、最適、言われる。体感、寒、かったり、暑、かったり、する、かも、しれない、が、長、時間、いる、なら、この、温度、に、すべき」
ソーニャは師匠である戀の手前、気合いが入っているようだ。
「向日葵畑の騎士 ロベリア見参!」
ロベリアは剣を振り上げて名乗りを上げる。中身は所帯じみているのだが、このときばかりは騎士らしい。
「なんだ、きさまら……ケルベロス達か!?」
ダモクレスは自分を取り囲んで隊列を組んでいる人間達に気がつき、そう怒鳴った。
「俺の邪魔をするな! 夏は俺の季節、俺の出番なんだー!!」
そう叫び、一人で勝手にヒートアップ。
ダモクレスは両腕を怒りを示すようにぶんぶん振り回した後、気合いを入れるガッツポーズを取った。
すると胴体のエアコン部分が唸り声を上げ、ダモクレスの装甲全体がキラキラと輝き始める。
『クリーナー』を発動したダモクレスは、全身に強い耐性を得た。
戦闘態勢に入ったダモクレスに対して、ケルベロス達は応じた。
『俺の奢りだ! 一杯ヤろうぜ!!』
ギルは竜魂印酒(ドラゴンインストール)を行う。
おもむろに酒を取り出し、一気に飲み干す。それによりテンションが大幅に上がり、何でもできるような気がしてきて周囲にもその雰囲気が伝わる。気分爽快! 嫌な気分も掻き消えてしまう!
彼のボクスドラゴンのリウは属性インストールを自身に行った。
優はゾディアックソードで駐車場のアスファルトに守護星座の射手座(サジタリウス)描き上げる。輝く星座が自身と仲間を守護していく。
(「あー頭痛い……だるい……あ、剣がアスファルトに引っかかった。折れたらどうしよう……ま、いっか……」)
ロベリアは耐性を得たであろうダモクレスへと、ゾディアックソードを振り上げる。
星座の重力を宿した刃が、真っ直ぐにダモクレスへと振り下ろされていく。打ち砕かれるダモクレスの加護。
彼女は盾と甲冑を拠所にどっしり構えて守り、攻撃はパワーの乗ったシンプルな動きを身上である。
トウマはロベリアの攻撃が入ったのを視認すると同時に、生死の境目で見た刹那の力を手に乗せる。「零の境地」――その力の乗った鉄拳がダモクレスへ命中し、手足の先端から徐々に石化させていく。その拳は怒りの嵐を思わせる。
「お前達を根絶やしにするために、私は強くなったんだ!」
シルフォードは星空と共に歩む道(エアシューズ)でローラーダッシュすると、その両足を摩擦熱で燃え上がらせながら、炎の旋風の如き蹴りをダモクレスへとお見舞いする。
「それ、往くのじゃ、妾の忠実な下僕よ」
戀は見えない幽霊のようなエネルギー体を操る。
エネルギー体は、構えたゲシュタルトグレイブの先端に稲妻を宿す。閃く電光をそのままに、走り出すと超高速に乗って、そのままダモクレスを突き貫いた。神経回路に当たる部分が麻痺しちえくダモクレス。
ほぼ同時にミリアはライトニングロッドを振り上げて、迸る雷光を操り、ダモクレスへと撃ち貫いた。二重の麻痺を受けるダモクレス。
そしてソーニャがエアシューズに流星の煌めきと重力を宿し、高々と跳躍すると鮮やかに、跳び蹴りを敵へと炸裂させた。
「うぐっ、きさまら、よくも……!」
せっかくの耐性の加護を打ち砕かれた上に、立て続けに攻撃を食らったダモクレスは、目に怒りの赤い電光を光らせる。
苛立ちに機械の足を踏みならして、ダモクレスは戦いの雄叫びを上げた。
「俺達エアコンの力を思い知れ! 凍結風!!」
ダモクレスのエアコン部分が拡大していき、そこから氷の刃を交えた凄まじい冷風がケルベロス達へ吹き付けられた。
凍結風の氷の刃は次々と前列を斬りつけ、裸で吹雪のまっただ中にいるかのような寒さに襲わせた。
「回復します!」
ミリアは冷静に薬液の雨を降らせると、前列達を治療し回復していった。
続いて優は再びスターサンクチュアリで射手座(サジタリウス)を描き上げ、前列達を回復して耐性を与えた。
「お前を喰らう!」
トウマは喰霊刀を構えると、呪いの軌跡を描き、ダモクレスに斬撃を与える。相手の魂を啜り上げる衝撃は、トウマの生命力を回復していった。
「まずは俺達を越えていきな。そうそう後ろにゃ行かせねえよ」
ギルは電光石火の蹴りでダモクレスの間接を貫き、敵を麻痺させていく。
リウは主人と共にボクスタックルを行う。
ソーニャは虚無魔法を操る。触れたもの全てを消滅させる、見えない「虚無球体」を撃ち放ち、ダモクレスの一部を削り消滅させる。
シルフォードは妖刀【黒風】(斬霊刀)を持ちダモクレスに駆け寄ると、「空」の霊力を刃に宿し、それらの傷口を正確になぞり上げた。一気に倍加する傷の威力。
(「なんだかいい匂いがする……近所にお好み焼き屋があるのか……?」)
真面目に戦闘しているんだが、彼の鋭敏な嗅覚はそれを逃がさなかった。
同じく戀のエネルギー体が、エクスカリバールに釘を生やすと、渾身の力をこめ、ダモクレスの至近距離からフルスイング。ダモクレスに与えられた傷の威力が増していく。
『捉えました。一斉砲撃!』
ロベリアは、フォートレスキャノン 『強装弾』(フォートレスキャノンキョウソウダン)を行う。
火薬を増量し威力を増した砲弾による一斉砲撃である。
火力を増したフォートレスキャノンはダモクレスを益々麻痺させていく。
「う……ぐぐ……」
ダモクレスは体を前によろめかせ、一瞬、アスファルトに機械の膝を突いた。
だが、すぐに立ち上がる。
「おのれ、きさまら、許さないぞォ!!」
大きくそう怒鳴ると、ダモクレスは懲りずに胴体のエアコン部分を展開していった。
「喰らえ、灼熱風!!」
今度は炎の刃を交えた熱風がケルベロス達に襲いかかってくる。
熱風は破壊的な熱さでケルベロスの前列を攻撃し、縦横無尽に走る炎の刃は情け容赦なくダモクレスの敵を焼け焦がす。
「そうそう簡単に落とさせません!」
ミリアは無論冷静であり、炎上する仲間の上から猛烈な勢いで薬液の雨を降らして回復していった。
同じく優もメディカルレインで燃え上がる仲間達を救い、治療し回復していく。
(「それにしてもあのダモクレスの灼熱風……暖房機能を解体して止まるならさっさと解体したいな。夏に暖房とか正気を疑うからね。まぁボクもたまにやらかすけどさ……寒いのには強いよ、夏だし。理力的にも。まぁ当たると痛いけど……あと関係ないけど氷の刃とか炎の刃とかって見た目なんかカッコイイよね」)
そんなことを考えつつ程ほどに回復。
動きを取り戻したギルは、縛霊撃でダモクレスへと殴りかかった。拳がヒットする瞬間、蜘蛛の網のように霊力が広がり、ダモクレスを縛り上げていく。
リウはボクスブレス。
ロベリアはそこでアームドフォートの主砲を一斉発射し、ダモクレスをさらに麻痺させていった。
シルフォードは獣化した手に重力を宿す。
犬耳と尻尾で戦意を表現しつつ、シルフォードは速く重い一撃をダモクレスにお見舞いしていく。
「壊れろ」
トウマは喰霊刀で美しい軌跡を描きながら、呪いをこめた斬撃をダモクレスへと命中させた。
『炎よ、集え。風よ、集え。土よ、集え。沈黙させよ、殺戮せよ、討伐せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ』
ソーニャのメギドフレイム。
狙いを定めた1点に、全ての力を、限界を超えても更に収束させ続け、増幅、膨張させる。限界を超えてなお増幅と膨張を繰り返した力は、やがて火山の噴火の如き大爆発を引き起こし、グラビティによって生成された大量の溶岩が敵に襲いかかる。
「死後、の、世界で、償え……」
溶岩の海に飲まれたダモクレスにソーニャが告げる。
そしてソーニャの師匠が攻撃に移る。
『お主ら、出番じゃぞ? 往くが良い、妾の忠実なる下僕共よ……』
戀は、狂詩曲『殺戮の紅月光』(アバタッジ・クリムゾン・クレール・ド・リュンヌ)を使う。
一時的に暴走する機械構成のエネルギー体を召喚し、叙事的な音楽を奏で、より狂化させて襲わせるのだ。
壮大な音楽ととも機械構成の暴走エネルギーがダモクレスへ襲いかかり、狂ったような攻撃の末に、トドメを刺した。
●
戦闘後、ケルベロス達はミリアとロベリアが中心となって戦場だった箇所にヒールを行った。ヒールを持っていない者は後片付けを手伝った。
「……あと倉庫も、屋根に穴がありそうですし、ヒールで塞げますかね?」
コギトエルゴスムの侵入経路が経年劣化を前提にして、ミリアはそう提案し、ヒールで塞いでみた。
「皆の者、お疲れ様じゃの」
戀は仲間に声をかけた。
「しかし、此奴どこからダモクレス化したのかのぅ。……ふむ。ひとまず、この倉庫はしっかり塞いどかねばな」
そんなことを言いながらダモクレスの残骸に小首を傾げている。
「……エアコンが嫌な訳じゃねーんだけど、なんかこう、扇風機と違って付けてる感じがねーんだよなァ。その、「あー」って出来ねぇし」
トウマもそう言って、ダモクレスだったものをのぞき込んでいる。
「快適な場所で心身を癒やしたいですね……」
暑さにぐったりしながらミリアが言った。
「暑いのはこの時期は遠慮したいですし、かと言ってかき氷もまた思い出して冷えそうですし……暑すぎず寒すぎず……温泉か足湯でもあるでしょうか」
ミリアは火照った体を夕涼みで冷やす姿を思い浮かべてる、でも時間帯のズレは気づいてない。
そうこうしているうちに、店長達が逃げていた客を店に戻して、特売セールなどが再開された。
「悪いな。戦闘の間に得られるはずだった利益はここから補填してくれ」
ギルは従業員にケルベロスカードを渡した。
そして、全員で打ち上げを提案した。
「打ち上げ行こうぜー。酒飲めるとこ」
「ちょうどお昼時でしょうか。お好み焼きを食べるのも良さそうですね」
シルフォードがそう答えた。
お好み焼き屋にもビールはある。広島の本格お好み焼きを食べながら冷えたビールもよいだろう。
ミリアは、とりあえず、冷房の効いた店内に入ってみるのもよいと思った。
「次の戦場が私を呼んでいます…!」
ロベリアはがま口財布を握り締めながら威風堂々と戦場(夏の特売セール)へ赴いた。恐らく後から合流するのであろう。
こうして事件は一件落着したのであった。
ケルベロス達は普通の人々の平和な日常を守り、セールやお好み焼きで楽しい時間を得たのであった。
作者:柊暮葉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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