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その石油ファンヒーターは、回収の日でもないのにマンションの前に投棄されていた。
先日引っ越していった一家が、業者に手続きもしないで置いていったのである。
そのまま何日も、ファンヒーターは梅雨の鬱陶しい雨にさらされながら放置されていた。ファンヒーターはつまらなかった。当然であろう。
(「人間ってヤツは、なんて身勝手なんだ……」)
不平不満を募らせるファンヒーター。
そこにカサコソと潜り込んでくる、蜘蛛のような宝石、コギトエルゴスム。
するとその場でファンヒーターは巨大化変形! ファンヒーターロボに大変身!
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! 身勝手な人間たちめ! 俺達デウスエクスが成敗してやるーっ!!」
●
ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)は真面目な顔で話を聞いている。
「富山県のマンション前に放置されていたファンヒーターがダモクレスになる事件が発生するようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいのです」
●
ソニアは説明を続ける。
「このダモクレスはファンヒーターを元にしたロボットのような形をしています。能力もそれにちなむものです」
ヘルファイア……ヒーターの炎を飛ばして敵を燃やし尽くします。遠列/理力/破壊+炎。
クレイジースモーク……ヒーターから煙を飛ばして敵の動きを鈍らせます。遠列/敏捷/魔法+足止め。
ヒータードライブ……ヒーターを燃やす事によって自身を回復します。自単/頑健/ヒール+BS耐性。
「ダモクレスが発生するのは、平日の11時頃、住宅地のマンションの前です。マンション前の道路は狭いのですが、20メートル先に児童公園があり、そこには誰もいませんので戦場として利用出来るでしょう。気になるようでしたらキープアウトテープを張るといいかもしれません」
ソニアはため息をついた。
「この季節にファンヒーターが炎と煙で大暴れ。しかも自分の炎で自己回復……。我慢大会のような任務ですが、どうぞよろしくお願いします」
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最後にソニアはこう言った。
「罪もない一般人を虐殺するデウスエクスは許せません。必ず討伐してください」
参加者 | |
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霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725) |
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103) |
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893) |
月島・彩希(未熟な拳士・e30745) |
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638) |
茅宮・火奈(赤眼護剣・e56465) |
●
富山県のマンション前でファンヒーターのダモクレスが発生する――。
その情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始した。
ケルベロス達が現場に駆けつけた時、まさにファンヒーターがダモクレスへと巨大化変形するところであった。
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! 身勝手な人間たちめ! 俺達デウスエクスが成敗してやるーっ!!」
元ファンヒーターであったダモクレスは胸部で轟々と石油の炎を燃やしながら喚いている。梅雨の湿って暑苦しい大気が益々暑苦しくなる熱気。
ケルベロス達はファンヒーターを取り囲むように接近しながら、その火力の強さにげんなりしてしまう。
「今年マトモに雨降って無くて暑いから、ちょっと黙ってくれねぇかなぁ……こいつ……。暑いのは夏の日差しだけで十分だっつーの……」
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)は、素直な気持ちを口にした。
「せめてハロゲンヒーターだったなら、見た目が扇風機そっくりだからまだ間違う奴が居たかもしれ……無理か。無理だな」
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)は、強烈に火を燃やしながらうるさい事を喚いているファンヒーターを眺め、そう言った。
「暑くなってきたこの時期にファンヒーターのダモクレスはある意味強敵かも。熱闘を制して皆でアイスを食べれるように頑張るよ」
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)は油断なくダモクレスの動きを見つめながら言った。
「事情を聞くと敵さんも何だかかわいそうですが、人に危害を加えさせる訳にはいきませんね。ケルベロスとしてしっかりお仕事させて頂きましょう」
茅宮・火奈(赤眼護剣・e56465)は、気弱そうに視線をさまよわせている。
「この手のダモクレスも、毎回のことじゃが、やはり跡を絶たぬのぅ。自身の首を自身で締めている現実、目の当たりにせねばわからぬのかのぅ。まぁそれは、不法投棄に限った話では、ないかの。車両の運転も平然と道路交通法違反していく輩がおると聞くが、それと同じようなものかの」
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は難しい顔で考え込みながら呟く。
「要らなくなったらただ棄てる…か。いくら物だからって、確かにそれは身勝手と言われても仕方ないな。でも…それでも、誰かを殺させる訳にはいかないんだ」
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)は、その矛盾を見据えながら勇敢な表情を見せる。
「有為転変は世の習い、か……拙者等に因があるとはいえ、黙って見逃す訳には行かぬ。害を為す前に此処で滅せねばなるまい」
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)は、厳しい声音でそう言い、天舞(日本刀)の切っ先をダモクレスへと向けた。
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は冷静な仕草でパイルバンカーを構え、ダモクレスを睨み付けている。
復讐のため、暴れようとした矢先に現れたケルベロス達に対し、ダモクレスは怒りを表した。
「きさまらケルベロスだな! 俺の邪魔をしようと言うなら、容赦しないぞ!!」
よりいっそう胸部の炎を燃やすものだから熱気が一気に周囲に広がり、ケルベロス達はたちまち汗びっしょりになってしまう。
「一応聞いておくぞ……殺そうとするのを止めて投降する気は?」
緋桜がいったんはソニック・フィンガー(リボルバー銃)の銃口を下ろしてそう尋ねた。
「ハッ、ふざけているのか!? 俺は身勝手な人間達を殺すためにここに存在するんだ!
誰がきさまらなんかに!!」
「無いのなら俺たちは……お前を殺してでも止める!」
緋桜がそう叫び、銃の通常攻撃でダモクレスを撃った。
「やったな!!」
元々人間を憎んでいたダモクレスはかっとなり、緋桜へと突っ込んで来た。
そこで緋桜は北に向かって走り出した。
他のケルベロス達も、それぞれダモクレスを挑発しながら道路を北へ20mほど走る。
そこには誰もいない児童公園があった。ケルベロス達は、うまくその広い空間へダモクレスを誘い込んでいった。
「ククク、ここがきさまらの墓場だ……。全員、俺の炎で燃やし尽くしてやる!!」
安全に戦える場所に誘き寄せられたとも気付かずに、ダモクレスは前方のケルベロス達へと怒鳴った。
ケルベロス達はダモクレスを逃がさないように陣形を組みながらそれぞれ戦闘態勢を取る。
「燃えろ燃えろ……ぶっ殺してやる!!」
そんなことを喚くダモクレスの体の中心で、また猛烈な勢いで炎が燃えさかり始めた。
「ウオオオ……」
それにより己の力を高めていくダモクレス。
その凄まじい暑さに無意識に顔の汗を拭いつつ、ケルベロス達も反撃に転じる。
「負けないよ!」
彩希は紙兵を散布していき、ダモクレスのヒータードライブに対抗する。
彼女のボクスドラゴン、あかつきは、ボクスブレスを発射した。
(「暑苦しいだけの敵は勘弁してくれ……」)
カイトは全身の装甲から光の粒子を放出した。光り輝くオウガ粒子が仲間達の超感覚を覚醒させていく。氷使いの彼としては、本当に相性の悪い敵であった。
彼のボクスドラゴン、たいやきはボクスタックルで攻撃する。
『紡げ糸凪、影を縛り、禍を留めよ。縛れ、暇(いとま)を紡ぐ『凪縫』よ』
風絶針:凪縫(フウゼツシンナギヌイ)を使うリカルド。
大気を圧縮して風の糸を作り上げ、ダモクレスの足を公園の地面に縫い止めた。風による捕縛魔術の一つである。
「ぬうっ」
狼狽えるダモクレス。
「お前の憎しみ……俺が受け止めてやる!」
そこで、緋桜が空高く跳躍していった。頂点からダモクレスに急降下蹴りをぶちかまし、その頭を踏みつける。
「な、何をするかーっ!!」
益々いきり立つダモクレスであった。
「まずは足止めだよ!」
黄泉は流星の煌めきと地球の重力をエアシューズに宿すと、そのダモクレスに思い切り跳び蹴りを炸裂させた。
影二は、雷の霊力を帯びた天舞(日本刀)構え、正面からダモクレスを見据えた。
「……其の装甲、破らせてもらう」
静かに告げると、神速の突きを繰り出す。ダモクレスの胴の装甲にヒビが入る。
「星眼流免許皆伝、茅宮火奈。守るべき方たちの為……参ります!」
火奈は妖剣士の抑え込まれていた狂気を解き放つ。その狂気が仲間達にも感染していき、ダモクレスの加護を打ち破る力を得ていく。
その力を宿した上で、戀は空中高くジャンプすると、流星のごとく、重力の跳び蹴りをダモクレスに命中させ、加護を砕いた。
「ぐっ……きさまら、ゆるさんぞォ!」
立て続けに攻撃を受け、加護まで砕かれたダモクレスは、喚き散らした。人間ならば顔を真っ赤にしていた事だろう。
そしてダモクレスは胸部のヒーターから激しく煙を撒き散らし始めた。黒煙が物凄い勢いで辺りにたちこめたかと思うと、ケルベロスの方へと一気に押し寄せてくる。
「ゲホッ、ゲホッ」
その猛烈な煙を誤って吸い込んでしまい、ケルベロスの前列達が一斉に咳き込む。そうでなくとも煙が目に入って視界が悪い。そのためどうしても動きが鈍るカイト、影二、黄泉、緋桜。
「フハハハハ、こうしてやるっ!」
そこに通常攻撃で殴りかかろうとするダモクレス。
「ファンヒーターを氷漬けにしたら、このむさ苦しいのもおとなしくなるんかね。……無理か?」
そこでカイトが爆破スイッチを押して、仲間達の背後に次々とカラフルな爆炎を起こし始めた。たいやきはカイトの脇からボクスブレス。
ダモクレスの煙と爆炎が混じり合って凄い状態だ。
しかし士気が高まり否応なしに回復して力を得ていく前列。
「治療なら任せて!」
さらに彩希が、満月に似たエネルギーの光を順番に仲間へぶつけ始めた。それにより、前列は治療されていく。
あかつきは彩希と一緒に属性インストールを仲間に回し始めた。
火奈は後列の力を高めるために殺戮衝動を行った。
「凍らせるのはいいんじゃないかな!」
黄泉は精一杯空中高くジャンプすると、ルーンアックスを振りかざす。重力の力も借りながら、斧でダモクレスの脳天を叩き割ろうとする黄泉。
「憎しみをぶちまけろ!」
緋桜はダモクレスに接近すると、鮮やかに卓抜した技量の一撃をダモクレスの胸部に炸裂させる。燃えさかる炎に氷が迫る。
「騒ぐな騒ぐな。暑苦しい行動をするのは冬場だけにしてくれ。冬場でも大概困るがな」
リカルドもまた、バスターライフルを構え、そのヒーターから熱を奪う、凍結の光線を発射した。
「全く、ジメジメしておって蒸し暑い季節じゃと言うのに、ファンヒーターなど……余計に暑くてかなわんの。人を恨む気持ちはわからぬでもないが、お主のようなやつは放っておくわけにも行かぬのでな、さっさと潰れとくれの」
戀はドラゴニックハンマーを振り上げ、重すぎる一撃をお見舞いする。それは「生命の進化可能性」を奪うことで、ヒーターの炎すらも凍結させていく。
たちまち氷に閉ざされていくダモクレスの炎。
影二は空の霊力を帯びた天舞(日本刀)で、その傷口を鮮やかになぞりあげ、傷のダメージを倍加させていく。
「こ、これぐらいで、デウスエクスがやられると思うかっ!」
苦し紛れにダモクレスは喚いた。
「きさまら絶対に……ぶっ殺す!」
仕返しと殺意に満ちた電気の眼光を迸らせて、ダモクレスは威嚇の声で吼えた。
その咆哮とともに、凍結されていたヒーターが恐ろしい勢いで燃えさかり始める。
梅雨の生温かい大気と混じり合いながら暴走ファンヒーターの物凄い熱気がケルベロス達を襲う。
さらに胸部のヒーターから火炎の塊が次々に放たれた。
炎の塊が一斉に、前列達に襲いかかると彼らの体を焼き尽くそうとする。
正に地獄の光景であった。
「みんな、起きてー!」
彩希は紙兵を散布して仲間達の耐性を高め、治療・回復していく。
あかつきも一生懸命属性インストールだ。
「凍れっ!」
それによって、立ち上がり、黄泉はパイルパンカーの先に「雪さえも退く凍気」を宿す。凍気に白く輝く杭。そして黄泉は猛然と、その杭でダモクレスの胸部を貫き凍結させていった。
続いてリカルドはガジェットを「拳銃形態」に変形させていく。黄泉が凍結させた胸部のヒーターを狙い、魔導石化弾を発射!
カチンコチンに固まっていくダモクレス。
そこで戀が、自らの光の翼を暴走させていく。全身を光の粒子に変えて行く戀。そしてそのままダモクレスへ特攻していった。光に貫かれるダモクレス。
『戒めるは凍気、喰らうは貪狼の顎、閉じるは氷獄への棺!『氷獄棺:貪狼』、その欲深き者を覆え!』
カイトは一気に畳みかけた。
氷獄棺:貪狼(コキュートコフィンドゥーベ)で、凍気を練り上げ、氷の棺で相手を包み込んで凍らせていく。その魔術は星の名が意味する様に、欲を以って、欲深き者を棺へ閉ざす……復讐の欲ごと凍てつくダモクレス。カイトの攻撃用氷魔術の一つである。
動きを合わせながらたいやきはボクスタックル。
影二は【葛葉流・螺旋虚影刃】を使う。
猟鬼守(簒奪者の鎌)を構え、ダモクレスに接近した瞬間、螺旋状の気流に包まれ姿をかき消す。
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
その刹那にて、敵の死角に回り込み、鎌の刃で切り裂いていく影二。
「闇拳(アンパンチ)!」
詠唱はせずにその技を叫ぶ緋桜。
ダークエネルギーを集めた拳を対象に叩き込む技だ。ダークエネルギーの重力に反発する力を打撃と同時に対象へ叩き込むことで、ダモクレスのグラビティチェインは体内から蝕まれ、狂い、破壊され、装甲にまで凍傷にも似た症状を連鎖的に引き起こし続ける。
『……いきますッ!』
そして火奈の星眼流壱ノ太刀、『流星』。大きく飛び上がり、上空から体重を乗せた一撃を撃ち放つ。威力を重視したこの技は命中した敵に深い傷痕を残し、凍らせていく。
ダモクレスの燃えさかるヒーターは完全に凍結された。
ダモクレスは完全に氷に閉ざされ硬直し、硬く固まったままその場にひっくり返り、全く動かなくなった。
「……討伐完了」
周辺を確認した後に、影二が小さく呟きながらそう言って、武器を納めた。
●
「み、皆さん!お怪我はないでしょうか?」
火奈が周囲を心配している。だが、深傷を負ったような仲間はいないようだ。
戦闘後、ケルベロス達はそれぞれヒールを行った。ヒールを持って来ていない人間は、後片付けを手伝った。
緋桜はダモクレスに黙祷を捧げた。
(「自分たちで殺しといて死者に祈るか……やっぱり身勝手だな」)
その矛盾について、心の中で考えてしまう。
「皆の者、お疲れ様じゃの」
戀が暑そうな表情でそう言った。実際、戦闘の内容が内容だけに、暑かったのだ。
「適当に風を集めて涼……めないな。アイスとかを用意したほうが早そうか」
リカルドもだるそうにそう言った。
「……夏場に暑苦しいのは勘弁なー」
カイトは、そう言うと、適当にアイスを買いに行った。
彩希は近所にあるという、喫茶店に行って涼むことにした。
「アイスが自慢の喫茶店! どんなアイスがあるのか楽しみだね!」
「いいね。わたしも行きたかったんだよね」
黄泉もアイスを食べて行くようだ。
暑さで疲労していたケルベロスの何人かは、彩希と連れだって喫茶店に向かい、そこで一休みしていくことにした。
こうして無事に任務は終了し、ケルベロス達は、夏が来ている事を強く実感したのであった。今年の夏はどんな事件が起こるやら--だがそのいずれも、ケルベロス達は力を合わせて乗り越えていくのだろう……。
作者:柊暮葉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年6月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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