●夏色紅茶タイム
そこは季節の花が咲く庭だった。
緑豊かなアーチから始まり、広々と季節の花が広がっている。
そしてこの時期、紫陽花が植えられた場所がとても賑やかだ。
紫陽花はまるっとしたシルエットでその色を柔らかに咲き誇る。
大きく育ったそれは人が隠れてしまう場所もあるほどだ。
そんな一角の中心には東屋があり、少し開けている。
そこでは例年、この時期だからこそのおもてなしがあった。
アイスティーである。
ガラスのポットはずんぐりむっくりとした形や、しゅっとした背の高い形と様々。
どれもお洒落でそれらを見るのも楽しい。
そのポットから注がれるのはフレーバードティー。
柚の香りするさわやかさっぱり、すっきりとした味のもの。
華やかな花の香りする少し甘さもあるフルーツティー。
ベリーの香りにハイビスカスとトロピカルな雰囲気のもの。
重厚なスミレの香りする甘美なもの。
緑茶ベースにミントを加えたものや、柑橘の香りが満載のもの。
ほかにもキャラメルの香りやチョコレートの香りなどもあり、何種類かが準備されているという。
それも常時同じ物、というわけでなく時間帯によって変わるのだとか。
そんなもてなしは近くにある紅茶店からの計らい。それを楽しみに来る人もいると言う。
しかし、近くにある大きな主要道路がデウスエクスにより破壊され、人々の生活に問題が起こっていた。
観光客なども通る道であり、都市としての収入を考えると急ぎ修復すべきものだ。
そんなわけで、ケルベロス達へと修復依頼が出されるのだった。
●ケルベロスさんにお願い
「ある都市の道路の修復をお願いしたいんだ」
そう言って、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は集ったケルベロス達へとある地方にある道路の修復を持ちかけた。
「修復自体は全員でぱっとやればすぐ終わると思うよ」
それから、良ければと案内もきているんだと言葉続ける。
修復すべき道路、その近くにあるとある庭園。
その庭園は広く、季節によっていろいろな花が咲いているのだと言う。
そして、今は紫陽花が見頃。
その紫陽花の一角にアイスティーが楽しめる場所があつらえられているという。
「この季節の風物詩みたいなものでね、出会えるかは時の運……みたいなおもてなし。でも、道路直してくれるのでお礼にってことらしいよ」
「アイスティー! 好き!」
と、ザザ・コドラ(鴇色・en0050)はその尾を跳ねさせながらぱぁっと表情輝かせる。
イチは笑って、何種類かのアイスティーが用意されているんだと紡いだ。
大きなグラスに大きな氷を入れて。そこにこのもてなしをしてくれる紅茶店の店主が気になるアイスティーを注いでくれる。
尋ねれば、これはどんなフレーバーなのか答えてくれるし、迷えば好みを聞いてオススメを振る舞ってくれるとの事。
「ちなみにおやつは無しだし、持ち込みもダメ。アイスティーを楽しむ、だからね」
「それはミルクティーもあるのかしら?」
「ミルクティーはありません」
了解、とザザは頷く。なんにせよ、美味しいアイスティーが振る舞われるのは間違いないのだからと。
「そうそう、この紫陽花の辺り、ちょっと開けてはいるけど別に周囲にイスとかがあるわけではないんだよ」
「そうなの?」
「そう。だって席があったら居座っちゃうでしょ?」
美味しいアイスティーがあって、座って、紫陽花を楽しんで。
それは確かに長居ができる環境とザザは笑う。けれど、この庭園は皆の者だから。
アイスティーをそこそこに楽しんだら、次の人に譲ってあげてねとイチは言う。
「まぁもっと飲みたい場合は、庭園を一周して、少したってから再度っていうのは有りだと思うけど」
「あいすてぃーまらそんすればいいのね……」
「何週かする気だね」
するに決まってるじゃない、とザザは言う。でもちゃんと、ほどほどにするわと笑って。
「うん。折角の素敵なおもてなしだもんね。楽しもう」
そう言って、イチはヒールもよろしくねとケルベロス達へと託したのだった。
●紫陽花の庭で
アーチを潜った先の四片が綾なす世界にレカは感嘆零す。
「美しいですね……」
そんな光景にゆっくりゆっくり歩いてしまいましょうかとルリは誘う。
そして辿り着いた場所で。
「ルリさんにお似合いの……こちらのルーツティーはいかがでしょうか?」
そう言ってレカが示したのは甘いストロベリーをベースにカシスを少し加えたもの。
「可愛らしくてお優しいルリさんによくお似合いかと思いまして……!」
その言葉に笑んで、ルリは。
「アカシアミモザのような、甘く爽やかなフレーバーはあるでしょうか?」
レカさんはとってもあたたかくて、陽だまりのような方ですからとルリは言う。
それを聞いて私にはもったいないお言葉ですがとレカははにかみつつ、そのような存在でいられたら嬉しいと紡いだ。「思い浮かぶ色が陽の色や黄色なのですよねぇ」
「戴きます、ね」
そしてそろりと口にすれば。
「爽やかで優しい味です……!」
「気に入っていただけましたでしょうか」
「ええ、もちろん気に入りましたとも!」
涼やかながら、あたたかなティータイム。
飲みきってしまうのはもったいなく、一口ずつ大切に。
リボンタイを結んだカペルはメロゥおねえさんをエスコートするの! と背伸びをして。
お揃いリボンで襟元飾って、メロゥはカペルにふふと笑む。
そして二人でアイスティーを。
ほわりと、赤み帯びたようなそれから漂ったあまい香りにカペルは思わず。
「ももだ!」
ガラスのポットの中で揺れる鮮やかな色。
グラスから注がれたそれからは甘やかな、さくらんぼ。
メロゥはその香りに笑み零し、傍らでグラスを見詰めるカペルに向き直る。
「ストレートもとっても美味しいから、カペルが気に入ってくれたらうれしいわ」
「にがいかな、だいじょうぶかな」
桃の香った紅茶を選んで、恐る恐るひとくち。
ジュースのように甘くはないけれど、想像していたような苦みや渋みはまるでなくて目を瞠る。
そして桃の香りがすぅっと喉を通る心地よさ。
「あまくないけど、あまいの。ふしぎでおいしい!」
その笑顔にうれしくなって、メロゥも笑顔に。
「ね、美味しいでしょう?」
ひんやりと琥珀色が喉を潤してくれる。
しあわせなひととき、とメロゥも思わず表情弛む。
「ねえ、メロゥおねえさん。これでぼくもおとなにちょっぴり近づけたかな?」
「もちろん」
頷いて、メロゥは一層笑み深める。
「カペルも素敵な大人の仲間入りよ」
くすくすと愉快そうに、お互い肩揺らして。
紫陽花の中に、一際鮮やかに。
その色の中に紛れるようにラカは近寄って。
「……かくれんぼ。なんてな」
その様子に笑い、染が手を伸ばして撫でたのはラカの紫陽花に映える髪。
「見ーつけた」
その手をとって引っ張って、緑に紛れた先、東屋がある。
お楽しみをとティーポットの前でラカはその香を楽しんで。
「うん。花の香りがするこの子にしよう」
「………お前も花の香りがするんだよな」
ふと零れた言葉。それに良い匂いするかなとラカは首傾げ。
「じゃあこの子とは仲間だな」
そう言って冷たい紅茶に頬寄せて笑う姿に、染は目元緩め、さっぱりしたものをと頼めば緑茶とミントのものを。
喉を潤した後にラカは染を見て。
「なあ、もう少し遊びたい」
「今度は、俺が隠れてみようか」
「……臆、なればすぐ見つけよう」
なんて、新たな季節の始まりに花の庭園をもう一巡り、戯れ交えて。
また一つ鮮やかな想い出を共に。
ラ・フランスの香りは爽やかだけれど、とろりと甘い。
含めばいっぱいに広がる風味に萌花は最高にあうねと笑む。
その隣で如月は驚きの顔。
「!?」
甘い、チョコの香りのする紅茶。けれどそれはチョコのように甘いわけではなかった。
「……どうしたの、如月ちゃん、そんな顔して?」
「……そっか、ストレートだから甘くないのよね……」
その言葉にあは、と笑って。
「チョコの匂いだからってチョコの味はしないでしょ。紅茶だし」
「って萌花ちゃん、笑わないでよぅ」
と、その頬は朱に。
「香りは甘いのに、すっと溶けるような……お茶の苦みもほんのりある感じで……凄く不思議」
「あたしのも味見する?」
私のもどーぞと如月は両手でグラス差し出す。
「こっちはチョコってよりカカオっぽい感じだね」
「わぁ……梨の香りがふんわり……お砂糖なくても甘い感じで……すっごく、不思議……♪」
味と香りと、その余韻に如月が寄り添えば、萌花はそっと抱き寄せる。
「さわやかに夏っぽいの……おおう、初めて見掛ける」
ルードヴィヒの目を引いたのはマンゴーのアイスティー。
しっとりした梅雨時期に、さっぱりしたそれを飲むのは。
「とっておき感でぜいたく……夏っぽくていいねぇ」
冷たいグラスを手に味わう一口は甘さから始まる。
そして目にした紫陽花に、少し感じる申し訳なさ。
それは花が大好きなあの子じゃなくて、僕が眺めているという所。
「あの子の分まで、季節の花々たくさんたくさん見ていかないと」
そう呟いて、グラスを飲み干せば次はあれにしようとすでに心に。
王道なアールグレイもまた心惹かれるのだ。
そのために、きれいな紫陽花の中、そぞろ歩く今だけの醍醐味をもうしばし。
紫陽花って不思議だよねとセルリアンは言いつつ、アイスティーを眺め。
「青い水色のが飲みたいとこなんだけどなー」
それは無いか、と一息。
「銀木犀とかないかなー」
金木犀だとちょっと香りが強すぎるとセルリアンは零す。
「そいえば、あまねはどんなのが好きなのかな?」
自分は淡い感じのフレーバーが好きなんだけどね、とセルリアンは言いながら問うと。
「ぼく、渋みの少ない、サッパリしたアイスティーがいいなぁ。ありますか?」
と、周が尋ねると柑橘系のはと勧められる。
そしてそれを貰えば爽やかな香りがして笑顔になり、一口。
「んん! 美味しい! ぼく、コーヒー党だけど、このアイスティーめっちゃ好き!」
その様子にセルリアンは良かったなと笑み。
「こうしてお出かけするのも久しぶりだけど、最近どう? 恋の進展とかはあるのかなー?」
困ったこととか相談事があったらいつでも呼んでよと笑って。
紫陽花が綺麗な季節に、一緒に来たかった。
そう思いながらウリルはリュシエンヌへと笑いかける。
新婚の二人にとっては素敵な時間だ。
「へぇ……凄いな」
ウリルの選んだ緑茶ベースにミントのお茶。ミントが強いのかと思えば、緑茶の味がしっかりと。
「ルルのは、どう?」
と、柔らかなツインテールにピヴォワンヌが開くのを見て、それは言葉よりも早い気持ちの表れ。
スミレのアイスティーは一口でふわりと、甘い香りを立ち昇らせる。
「うりるさんもひと口飲んでみて?」
グラス差し出しつつ、リュシエンヌの目はウリルのグラスに。
それに気付いたウリルは柔らかな笑みを浮かべる。
「……ん、どうぞ」
嬉しそうな笑顔に、また一つ花が咲く。
今日は新しく好きな物を見つけたら良いな、とアラドファルは傍らの春乃を見て思う。
それは一緒に飲む為にだ。
「香りとか気にしたことないね」
どれでも楽しめそうだけど、と春乃はアラドファルを見上げ。
「折角だから別々のもの頼もうね!」
薔薇の香り。それが鼻孔擽ればアラドファルはあの日を思い出すなと微笑む。
そう思っていたのは春乃も同じで自然と目が合う。
どれも美味しそうで悩んだ末に、お任せにしたらザクロの甘味と酸味の丁度良いものが。
「アルさん、フルーツティーにしたの?」
じゃあ、と春乃はとことん甘くしようとキャラメルの香りがするものを。
「口の中から、とろけちゃうかな」
キャラメルと、それからヴァニラ。その香り纏うアイスティーの色は濃い。
「紫陽花を見ながら飲むのは格別だな」
きっとこれから、これを飲む時紫陽花を思い出すのだろうとアラドファルは瞳細める。
春乃と過ごしたひと時を、と。
「アルさん、アルさん、そっちも、ひと口飲ませて?」
「俺も君が飲んでいるの気になる」
アイスティーを差し出しおねだりすれば、間接キス――というのを春乃はそっと胸に秘める。
これを飲んだ時、思い出すのは紫陽花だけではさみしい。
だから、わたしとの出来事もと思って。
ひと口と交換し合えば違う味。
「あぁ、キャラメルも良いな」
そう言って、アラドファルは。
「縁側や庭で紅茶、も良いかもしれない。今度家で一緒に試そうか」
その言葉に呼ばれたらいつでも行くよと春乃は笑む。
そしてまた、二人の思い出が形作られていくのだから。
紫陽花の間を抜けながらムジカは市邨へと笑み向ける。
「紫陽花の季節になったのネ、1年あっという間」
「今年も君と一緒に観られて、嬉しい」
市邨へとムジカもうんと頷いて。
「今年も市邨ちゃんと一緒が、すごく嬉しい」
そしてアイスティーの前。
「きゃー……色々あって迷っちゃう」
はしゃぐムジカの傍ら、市邨はキウイとオレンジのフルーツティーを。
「甘酸っぱい感じのアイスティーだったら何がお勧めカシラ?」
問うて出てきたのは柑橘のアイスティー。ゆずやオレンジ、他にも色々なものを組み合わせているのだとか。
「市邨ちゃんは何にしたの? 飲みたいっ」
「俺のも少し、呑む?」
「ねアタシのと一口交換こしましょ♪」
交換の声が重なって、笑いあって。
そういえば、と市邨は思い出す。
昨年は写真を撮ったことを。そして久々に撮ろうかなと。
紫陽花が綺麗な季節は、雨の季節。
しっとりしとしと、むしむしするときもあるけれど。
「氷の音もきれいで、冷たいアイスティーと一緒だとこの時期だけの、とっておきなお花見ね?」
別段なんてこともない、平静な日々。
花も、アイスティーも、それから笑う君も綺麗だからと。
市邨はその姿を一緒に。
そしてムジカもまた同じようにスマホを構えて。
「ねね、市邨ちゃん」
グラスと紫陽花と、市邨と並んでぱしゃりと。
「帰ったら家でも、見様見真似で造ってみようかな」
今年の夏の、愉しみにとグラス掲げて見せる市邨へムジカは楽しみと笑みを。
なるほど、これは椅子があると長尻になりそうだとつかさは庭園の様子に感嘆を零し、笑う。
それに確かに、とレイヴンもまた頷いた。
「綺麗だな……」
「うん? そうだな……アイスティー楽しんだら、庭園を散歩しようか」
つかさの腕の中でミュゲははしゃぐ。その様子に笑いながら、まずはアイスティー選び。
「柑橘系の、さっぱりしたのと……ミュゲには甘い香りのが良いかな?」
今日はおやつはなしだからさというと残念そうではあるのだが。
レイヴンは悩んだ末、お任せに。
「ミュゲは甘い香りか……キャラメルかチョコレート、ミュゲはどっちがいい?」
レイヴンが問えばチョコレートとすぐに応えるミュゲ。
それでは、とつかさに差出されたのはゆずの香りのするアイスティーだ。色は少し薄めで琥珀色のようにも見える。
レイヴンにはミントの香る爽やかな、でもちょっと刺激的なアイスティーだ。
グラス越しの景色もまた鮮やかだとレイヴンはふと笑み零した。
そして何より、一緒に過ごせる時間は嬉しい。
ちゃんと見て回る事も、もちろん忘れていない。
ささやかな日常にちょっとした特別な時間はまるで贈物の様だ。
紅茶色は赤みを帯びて。けれど涼やか。
アイヴォリーが選んだのは南国果実のもの。
甘い馨に軽やかで瑞々しい後味は夏の気配をすぐそこに感じさせる。
傍らで夜が選んだのは芳醇な白葡萄の香りの紅茶。
梅雨時の湿気を吹き飛ばすようにすっきりさっぱりした味わいは爽やかな風を齎す心地。
「其方はどんな味? 俺のも飲んでみる?」
シェアすれば一度にふたつ、楽しめるねと差し出されたグラス。
けれどその一口は。
間接キスにどきどきして、味などよくわからなくて。
「ちょっと待ってくださいもう一口」
そう言って飲めば。
「……あっ思わず全部飲んじゃっ、」
けれど、その手を悪戯するように笑ってとる夜。
紫陽花の鞠形は彼女のふわふわ丸い髪型にも似ていて、だから真っ先にそれを思わせるポットを選んだ――なんて、胸の裡は秘密。
手を繋いで、そして囁くお誘い。
「次はチョコレートフレーバーを試してみたいな。アイスティーマラソン、勿論行くよね?」
「次のフレーバーはチョコレート、そうしてその次はもっと甘い――」
「ショコラも堪能させて?」
貴方のご所望は、わたくし? と、アイヴォリーは笑み。
ちゃんと飲み干してくださいね、と精一杯澄まして応えてみせるのだけれど、その頬の色は隠せないまま。
染まる頬は苺チョコみたいで、美味しそう。
「アイスティー、どれにしようかな。果物系、花系にハーブ系……選べない……」
と、迷いながらウォーレンは考え込む。
ベリーとハイビスカスのトロピカルなものと、ミントの緑茶までは絞れたが最後が決めれない。
「先輩は何に……って選べへんのかいな」
そんな姿が微笑ましいと光流は思いつつ意地悪く笑う。
「あんまり時間かけると後ろがつかえてまうで」
「うーん、あっ、そうだね。じゃあ、えーと、トロピカルのください」
ベリーの甘い香りと深い赤色。
口にすれば少し酸味のある夏の味とウォーレンは思う。
「そういえば光流さんは何にしたの?」
「俺はミント緑。濃いめの緑茶にミントの清涼感が合わさって最強やで」
それはウォーレンが気になっていたもの。
「一口もらっても、良い?」
遠慮がちに、僕のも一口飲んで良いからーと頼む。
「一口? 良えよ。ほな交換やね」
「わぁいありがとう。すっきりした味わいー」
「今、口の中は同じ味だね、きっと」
それはそうやろうけど、と光流は零すが落ち着いていた心は流行るばかり。
ふと、まあるく仄彩づく紅四葩の先に見えた二人の姿にオルテンシアはふと笑んで。
「ザザ。いま何周目?」
「三週目ね」
それなら一緒に如何とお誘いを。
粋なもてなしに感謝を告げていざ、となれば迷いもする。
「ねえザザ。どれが美味しかった?」
問えば、すっきりしたのはこっちで甘いのは、と尾を躍らせながらザザは答える。
それもよさそうなのだけれど。
「でも実はもう決めてあるの。ほら、あれ、私の可愛い子に似てると思わない?」
ポットの中で踊る茶葉は色とりどりで宝石の様。その様子にザザもイチも確かにと笑う。
華やかな香りに、ちょっと感じるスパイシーさは悪戯心の現れの様。
「そういえばどこに?」
「紫陽花の庭でかくれんぼに夢中なの」
グラスを開けたら迎えに行きましょうねと紡げば、近くの紫陽花がかさかさと動いてその姿がひょこり。
甘いアイスティーではないのはクィルにとって新鮮な事。
口を近づければほんのり、キャラメルの甘い薫りが鼻腔を擽る。
飲んだら甘いのだろうと思わせるそれは――すっきりとした味でちょっぴり不思議だ。
「ふふ、クィルには少し甘さが足りないかな」
それが表情に現れていたのだろう。ジエロは瞳細め、自分も口つける。
チョコフレーバーのアイスティーを選んだのは、クィルの好きなものだから。
チョコレートの香り、口に広がる味わいに舌を巻く。
丸いグラスに注がれた色はいつもより濃く見える。
陽に透かすようにみて、クィルはジエロの口元へ。その手を重ねてジエロはグラスを傾ける。
「美味しい? ジエロ」
「美味しいな。ありがとう、クィル」
そのお返しは甘い香り。
ひとくち貰って、クィルは小さく笑み零した。
「ちょっとジエロの味がする。なんて」
「それじゃあ、さっきのはクィルの味かな?」
くすくす楽し気にジエロは笑って、喉を潤したらまた一歩。
紫陽花を眺めながら、空いた手はいつも通りに繋がれる。
「ふふふ。ねぇ、ジエロ。もう一周しちゃおうか」
「そうだねえ、次は何にしようか」
手を繋いで、紫陽花の間巡るうちにきっと、次のお目当てが決まるはず。
未知の紅茶たちを前に宝探し気分。
説明を興味深く聞きながらヒコは店主へと。
「紫陽花をイメージしたモノはあるか?」
見た目の色ならばと茶葉にスミレの花を含むものを示される。見せて貰えば確かに紫陽花の色の様。そして茶葉にも紫陽花の葉が含まれているという。
「あの……っ、マスカットティーって、ほんまにポットにそのままマスカットが入っとるんですか?」
春次はそわそわして尋ねる。すると、店主はありますよと教えてくれた。
そして、ちょうどそれがもうそろそろ来る頃、と。
面の下で期待に瞳輝かせる春次。やや前のめりだったことに気付き身を引きながらそわそわ。
そしてしばらく待てば、待望のマスカットティー。
「わ、ヒコ見てみ、宝石みたいやわ」
「へえ、マスカット。生果を入れるのもあるのか」
嬉しそうな春次につられ思わず笑んでしまう己を咳一つで律し共にグラスを覗き込む。
そのグラスを陽に翳すと煌めいていて。
「……なんや、ヒコの瞳みたいな色やね」
「そりゃ褒め言葉だ。嬉しい事を言うな。俺の目も宝石みたいか? それとも美味しそうに見えるか?」
見比べた二つが似ていると笑って、一口。
爽やかに甘く抜ける馨りはもう一口を誘う。
そしてヒコの、紫陽花味は口に含めば甘い。そしてスミレの香りがアクセントだ。
どんな味だろうかと問う視線に秘密とヒコは答える。
「……二週目かな」
その呟きに春次も気に入る味に違いないとヒコは笑った。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年7月5日
難度:易しい
参加:28人
結果:成功!
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