吾輩はニャンコでにゃる!

作者:ハッピーエンド

 青い空。白い雲。初夏の匂いを運ぶ風。草木がサワサワ揺れている。
 心地よい日差しが木漏れ日となって、あったかぽかぽか身体も心も包んでいく。
「ウニャウォン♪」
 えらくダンディな鳴き声が響いた。
 全長1m。ボッフボフのモップみたいな毛並み。純白。青い瞳。よく見ると麻呂眉毛。
 謎の生き物が、観光客からもらった手羽先をくわえ、うっとりとした顔で空を仰いでいる。
「すごい……デカい……」
「この子……本当に猫?」
「あ、でも一周回って可愛くない??」
 ここは猫島。
 そこらじゅうに、ふわふわニャンコが跳び遊ぶ、この世の楽園。
「な~お♪」
「ふにゃん!」
 観光におとずれた人々は、しなやかに伸びをする猫たちを見つめ、うっとりとした顔でため息をこぼしている。
 この島ではすべての生命体が、うっとりとした顔になってしまうさだめ。
「おいで~、おいで~~」
「みー♪ みー♪」
 猫なで声の人々に、てちてち歩いてよってくる目をつぶったままの子猫たち。
「はぁ、この手ざわり……。まるで天使……」
「あぁ……、可愛すぎる……。ふわふわ……、フニフニ……。夢心地だわ……」
 コテンとした猫をだきあげ、身体をなでなで、肉球ぷにぷに堪能する。
 嬉しそうに手をちるちる舐めるニャンコ。
「たまらん……」
 顔をとろけさせる人々のつぶやき。ため息がとまらない。

 しかし、そんな楽園に、突如、天空から巨大な牙が舞い降りる。
 人々の腕からとびおり、木陰に隠れる子猫たち。
 心配そうな顔で、飛来した牙を見つめる人々。
 牙は、またたくまに鎧兜をまとった竜牙兵へと姿を変えていった。
「ミツケタゾ。グラビティ・チェイン」
 招かれざる者達の剣が、力強く振り上げられた。
「ウニャウォォォォオン!!」
 ビュッ!
 勇敢な猫が人々を護ろうと竜牙兵に跳びかかり、
「猫ちゃん、逃げて!!」
 それを庇うように、力無き人々が竜牙兵へと身を投げ出した――。
 ――ほどなく猫島は静寂に包まれた。


「猫島。そこは麗しの大地。猫島。そこは現代のパラダイス。
 恐ろしい予知でした。猫島が襲撃されます。さぁ皆様、勇敢な人々とフワフワな猫たちを救いに参りましょう!」
 足元に野良のニャンコをはべらせながら、金髪のオラトリオ、アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は高々と拳を振り上げた。
「敵は竜牙兵が3体。クラッシャー、キャスター、スナイパーの攻撃的な構成となっております。個々の能力はさほど高くなく、回復手段も持ちません。迅速な撃破が可能でしょう。しかし、その分攻撃は苛烈となりますので、対策は留意ください。今回の敵は特徴的な嗜好を持っているようですので、お手持ちの資料も参照ください」
 一息に語ったアモーレの前に、お茶が差し出される。お茶を出したエメラルド色のエルフ、ハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)は、アモーレの足元にいたニャンコのお腹を撫で始めた。ふかふか。もふもふ。気持ちよさそうな声が零れる。
 優しげな眼差しで微笑むアモーレ。ゆったりお茶を飲み干すと、キリッとケルベロス達の方を見つめた。
「さぁ、出陣いたしましょう。皆様方の力で、その手に勝利とニャンコをつかみ取ってください!」
 真摯な瞳でアモーレはケルベロス達にお辞儀をするのだった。


参加者
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
朧・遊鬼(火車・e36891)
森平・亮佑(アダ名はもりへー・e37243)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)
風疾・紫狼(リトルロックオーバーチュア・e46765)

■リプレイ

 ポカポカ陽気の猫島に、大中小の竜牙兵。立ちはだかるのはケルベロス。
「猫の楽園を襲う輩は貴様らか……」
 大剣、刹鬼を肩に乗せ、灰髪のシャドウエルフ朧・遊鬼(火車・e36891)が敵を鋭く睨みつけた。
「フハハハハッ!」
 インテリ風の中型竜牙兵が顔を押さえ、
「我ラ、恐怖ト憎悪ヲ糧トセシ竜牙兵……猫トイウモノニ興味ナドナイ! ……ソウ、我ラガ欲スルハ、グラビティ・チェ――」
「男!/女デゴザル!」
「……」
 気まずいしじま。
「我ラガ欲スルハ、グラ――」
「ゥ男ッ!!/女デゴザル!!」
 パンジーナは頭をふった。
「ゴリ、サル、黙レ。竜牙ノ沽券ニ関ワル……」
 と、その瞳が一点に釘付け。
 サーヴァントに混ざって、白いフェネックがいる。
 その正体は、フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)。白いボクスドラゴン『クルル』に掴まれ飛び上がる。
「ん、がおぉなの」
 サーヴァントアピールしている。可愛い。
 パンジーナの瞳が輝きを爆発させた。
「……フン、ソノ程度。我ノ心ハ動カナイ……」
 あ、ツンデレだ。
 はたして、凄絶な緊張感の中、戦いは始まった。

 各々、自身を弱点とする相手に狙いを定めている。
 シャッ!
 ボサボサの赤茶けた髪を揺らし、ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)がゴリを斬り付けた。
「おっと」
 フワリ宙に舞ったガンナーズハット。大切そうに左手でガードする。
「ゴリアテさんの性別がとても気になっていましたけど……愛に性別は関係ないのですね! きっと!」
 ふにゃっとした笑顔を浮かべながら、風疾・紫狼(リトルロックオーバーチュア・e46765)がゴリを蹴り付けた。
「いいこと言うね!!」
 淡い黄緑色の髪を揺らし、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)が爆炎を上げながら嬉しそう。
「そんなに斬られたいのなら俺達が相手をしてやろう」
 遊鬼の斬撃。炎は蒼く纏わりつき、氷り付く。
 同時に、真田・結城とナザク・ジェイドも斬りつけ、蹴りつけた。ゴリは喜んでいる。
 そんな中、息を呑む者が一人いた。
 幅広の眼鏡を付けたボンヤリ少年、森平・亮佑(アダ名はもりへー・e37243)。本日が初陣となる。
 緊張からかおぼつかず、中々攻撃を放つことが出来ない。
「ニャン」
 そんな主をフォローするように、つぶらな瞳のウイングキャット『ショウ』が銃の角度を固定した。
「ニャーン!」
 放てー! ちょこんとした手を敵に向かって突き出す。
「え~、じゃあ、撃つよ~」
 タァンッ!
 はたして銃撃はゴリアテにヒットした。
「やった~、当たったよショウちゃん」
「ニャ~ン」
「次はショウちゃんの番だね~。やっちゃえショウちゃん」
「ニャーン!」
 パンジーナに向かってショウが飛んでいく。
 カリカリッ、カリカリッ!
 やったぜ猫ひっかき攻撃が炸裂だ!
「オ……オオオオ……」
 パンジーナも大ダメージを受けている!
 なんともかわいい連携である。
 ――負けられない!
 サバ主たちの目がキュピーンと光った。
「ん、負けられないの!」
 フォンの声に応え、白竜クルルが目いっぱいまで息を吸い込み、ゴォォォッと青白い炎を猛々しく吐き出した。
「さぁネコキャット、清浄の翼だ!」
 マサムネの声に応え、グレーのウイングキャット『ネコキャット』は鈴をチリチリ鳴らし、優雅に旋回しながら翼を零す。
「善良なにゃんこ好きさんを狙うような竜牙兵さんは、ボッコボコにしてやるのです! ボッコボコです!」
 大事なことなので二度言いました。紫狼の声に応え、水晶のように美しいボクスドラゴン『ヴァーチェ』が華麗にブレスを吐き出す。
「ルーナ!」
「なのなーの♪」
 遊鬼の声に応え、純白のナノナノ『ルーナ』が、ふわりピンク色の可愛い洋服を揺らした。ぽわぽわハートが包み込む。
「アザトイ……」
 たまらずパンジーナは硬直している。
「ソッチバカリ愉シンデ、ズルイデゴザル!」
 サルトルが不満を上げた。
「じゃあ、キミはボクが遊んであげる! 行け、null。アイツを捕まえろ!」
 天真爛漫少女、今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)の鎖がビュンと伸びた。サルトルはグルグル巻きになって地面に墜ちる。
「ヤッター!!」
 猿、大歓喜。
「サルトルクンってなんかムツカシイお名前だけど、女の子大好きなんだよね?」
 そのままペタペタ。ペタペタ。ボディタッチ。アザトイ。この金髪娘アザトイ。
 痺れる猿の前に、勇壮な影がズズンと立った。
「銀天剣、イリス・フルーリア――もふもふの為、参ります!」
 刀を構える凛々しい銀髪オラトリオ、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)。その青い瞳にはクッキリと文字が刻みつけられている。『猫、もふりたい!』『すっごい、もふりたい!!』。
「ふん!」
 力任せに放った炎の蹴りが、サルを勢いよく吹っ飛ばした。
「ん、よろしくお願いするの」
 そんな中、フォンは遊鬼をサポートするために影を纏わせた。
「ありがたい」
 遊鬼がニカッと笑う。
 そんなこんなで、だいたい全員動いたが、一人だけサボっていた者もいた。
 黒猫の着ぐるみを着たシャルフィン・レヴェルス。マサムネの夫。
「シャルフィン、サボッてちゃダメだよ! にゃんこパワーだ!」
「にゃんこぱぅわー」
 ぐもぉ! 猫パンチがマサムネを吹っ飛ばした。
 DV!!
 マサムネはヒィッという顔をしたが、思った。でも好き!

 そんなこんなで戦いは流れる。
 サル、ゴリ、パンジーは、スーパー接待モードでたじたじ。さらに数の暴力でボッコボコにされていく。
 最初に倒れたのはゴリだった。
「僕みたいなハードボイルドにやられるなら、本望だろう?」
 ファルケの精神爆撃を受け、ゴリは高々と跳ね上がった。
「満チ足リタリッ!!」
 満足そうに四散する。
 次に散ったのはサル。
「光よ、かの敵を再び斬り断つ影と為れ! 銀天剣・伍の斬!!」
 イリスの横一文字の斬撃。そして気力によって生み出された、巨大な虹の女神が放つ縦一文字の斬撃。
「女神ガ……女神ガ見エルデゴザル!」
 猿は感動したまま光に溶けていった。
 最後に残ったのはパンジーナ。
「ゴリ……サル……アホダッタガ、嫌イデハナカッタ……」
 力強く腰を落とす。
「コレガ最後ノ一撃ダ!!」
 全身のバネを爆発させ、苛烈な爪撃を番犬に向かって――、
「!!」
 放てなかった。
 一斉に跳びかかるサーヴァントの群れ。パンジーナは固まった。猫耳フードを付けた日和も混じっている。
「光と闇の一撃を受けてみろっ!」
 天空に打ち上げられるパンジーナ。
「フフ……我モ、アホダッタカ……!」
 太陽を掴むように手を伸ばし、どこか嬉しそうに四散したのだった。

●もふもふターイム!
 ファルケはベンチに深く腰掛けた。
 手に握られているのは、香しい匂いを放つドネルケバブと、キンキンに冷えた炭酸飲料。
 猫を見ながらケバブを頬張る。
 ぴきーんっ!
 目を見開いた。
 思った以上に美味い! ちょっと辛口なソースに、肉汁がじゅわあ。もちもちしたパンと、みずみずしいキャベツ。酸味もちょうどいい!
 うん。これ大正義だ!
 もぐもぐケバブを口に押し込み、炭酸飲料をキュッ!
 シュワァァァッ!
 くあーっ! 爽快感! たまらない!
「にゃん♪」
 おや? 猫が分け前をねだりにきたぞ、と。
 じっ。猫とケバブの袋を交互に見つめる。
「ふふ、僕は犬派だ。残念だったな」
 クールな横顔を見せ、ケバブに手を伸ばす。
 シャッ!
 猫がケバブをくわえた。
 なん……だと……っ!
 雑な似顔絵みたいに顔を崩すファルケ。
「にゃん♪」
 いたずらっぽく笑う猫。
「勝負しよう。ということかい?」
「にゃぁん♪」
 ハードボイルドなガンマンと、子猫ちゃんの追いかけっこが始まりを告げた。
 ファルケは笑う。猫もリラックスできていいものだ。

「おいで……おいで……」
 遊鬼は優しく笑みを浮かべると、地獄化していない右手を伸ばした。
 ジーッ。
 猫は地獄の炎を見つめている。シャッ! シャッ! 炎に向かって猫パンチしようとうずうずしている。
 身体を回す遊鬼。炎に寄せられてテコテコ回る猫。回る遊鬼。回る猫。
 くるくるくるくる。追いかけっこのように、回り続ける。
 撫でられない!!
 遊鬼は打ちひしがれた。地面に腕を叩きつける。
「にゃあん♪」
 シュッシュッ! でも猫は楽しそう。めっちゃ楽しそう。
「ウナオン」
 ガシッ!
 どこからか現れたボス猫が、島猫の動きを止めた。
 今です。お撫でなさい。
「えっと、じゃあ、遠慮なく」
 なでなで。モフモフ。あったか気持ちいい。遊鬼の顔がついついモニュっとした。
「アンタは皆を守ろうとした勇者猫だなぁ」
 にゃんのことかな? 勇者は首を傾げる。
「そっか、予知だもんな。アンタは覚えがないか」
 寄っていき、アゴを撫でようとする。アゴ。アゴ? どこだこいつのアゴは。まぁいいか。
 替わりにそのまま肩を抱く。
「ウニャォン♪」
 なんだか、男の友情が生まれたような気がした。
「新しい友達ですか?」
「ユウキか。お前にも紹介するよ。この島の勇者だ」
「それはそれは」
 結城とボス猫もシッカリ握手。
 ふにっふにっ。肉球が可愛い。どうしよう。離したくない。
「お前、ほんっとに猫好きだよな」
 結城は、照れるように瞳を逸らしたのだった。

 初依頼を終えた亮佑は、ショウを頭に乗っけて猫の群れに突撃していった。
「うわ~。黒猫、白猫、茶色にぶち。大きいのから小さいのまで沢山だよ~」
 メガネの裏で瞳がキラキラ輝いている。
「こんにちは~一緒に遊ぼうね~。ほらほら~ショウちゃんも挨拶しなよ~」
「なぁ♪」
「なぁ♪」
 身体を寄せ合い、毛づくろいを始める猫たち。亮佑の目はメロメロ崩れていく。
 ぶちにゃんこが亮佑の膝に乗る。黒にゃんこは肩を登り始めた。
「わ~、みんな積極的だね~」
「ウニャオン」
 巡回するように現れた、ボッフボフのボス猫。
「おお~この猫がボス猫かな~? 初めまして~僕は森平亮佑だよ~よろしく~。こっちはショウちゃん~」
「なぁ♪」
「ウニャオン」
「わ~! ちゃんと挨拶を返してくれた~嬉し~」
 肉球をしっかり握手。
 キラーンッ。
 ショウの瞳が輝いた。
 ふわふわっと飛び上がり、猫に向けて尻尾を垂らす。
「んにゃっ!?」
「にゃにゃっ!」
 ばびょん! 猫たちは尻尾目掛けてお祭り騒ぎを始めた。
「ショウちゃん~、あまりイタヅラしちゃダメだよ~」
 亮佑は笑った。跳び荒ぶ猫に押しつぶされながら。
「やっぱり、猫っていいよね~」

 紫狼はボス猫と対峙していた。
 屋台のお兄さんが言うには、ボス猫が最も好む食べ物はこれ。しかし、本当にこんなものが……?
 !!
 ボス猫の耳がピンッと立った。
 おお、この反応は!
「ウニャウォン?」
「ええ、食べていいんですよ」
「ウニャウォン!」
 ご機嫌で串に食いつく。そう。これは焼き鳥。なんとも渋い趣味をしています。
 おとぎ話に出てくる猫の王様ってこんな感じなのかな? しかし、大きくてかわい……とっても威厳がありますね!
 食べる猫と撫でる紫狼。それは素敵なギブアンドテイク。
 もふもふサラサラきゅーてぃくる。この王様、毛並みもキングですね!
 あまりに手ざわりが良すぎて、ぎゅーっ。抱きついた。
 そして気づく。木陰に隠れてこっちを見ている男の姿に。
 おやおや? あの紫色の翼はナザクさん。……羨ましいのでしょうか?
 ニッコー。紫狼は悪い顔をした。
「ナザクさーん! どうですか? もっふもふですよー?」
 ピクッ。ナザクの翼が反応した。
「今がチャンスですよー?」
 ピクッ。ピクッ。
「にゃんこさんは気まぐれですからね! もふれる時にもふっておかないと!」
「私は補佐をしに来たんだ! 猫に釣られたわけではない!」
 プイッ。はたしてナザクは、向こうを向いて歩きだしてしまった。
 おやおや、素直でない。
 ? おかしいな。近づいて来ている気がする。
 ゴシゴシ。目をこする。
 進行方向が逆! ムーンウォークするように近づいて来てる! そっぽを向きながら手袋を外し、モフる気まんまんだよこの人!
 猫を無心で撫で始めた男を見て、紫狼はふと思った。
 なんだか、この同居人が幸せそうにしている姿を見ているのが、一番落ち着くなぁ。と。

 マサムネ、シャルフィン、ネコキャットは仲良く屋台を回っていた。
「さすがケバブは世界一と言われるだけあるね」
「このクレープも悪くない」
 美味しそうにパクパクむしゃつく。
「あ、向こうに8段アイスクリームだって」
「コンプリートするか」
「いっちゃう?」
「無理だな。胃袋的に」
「うん。胃袋的に無理だよね」
「「「おじさん! 8段デラックスください!!」」」
 三人の声がハモった。三人? 一人多い。お、お前は!
「ん、支払いは最後に食べきったほうなの!」
 現れた刺客。白狐のフォン。
「な、なんだってー! ただでさえお腹がパンクしそうなのに!」
「ん、このバニラ甘くて美味しいの!」
 勝負はもう始まっている!
「シャルフィン……いけるかい?」
「無理だな。胃袋的に」
「無理だよね。胃袋的に」
 勝負はあった。と思いきや、
「愛情パワーだ! オレがシャルフィンのを食べきってやる!」
「なに!? じゃあ俺がマサムネのを!」
 ほとばしる愛情が勝負を分からなくした。
「ん、すごい追い上げなの! ん、でも負けないの!」
 はたして勝負の行方は!
 ネコキャットは見た! 頭を押さえてうずくまる三人の姿を!

 勝負を終え、二人は灰のように白くなりながらベンチに腰かけていた。
「あ、ネコキャット。仲間がいるよ」
 指差した先には、銀黒トラ模様のサバトラ猫。仲間とじゃれ合い遊んでいる。
 ネコキャットはサバトラ猫たちの中に飛んでいった。
「にゃあ?」
「にゃあ」
 ジッと見つめ合い。
 ぴょい。
 跳びついた。みんなで転がりながらじゃれている。
「仲良くなったみたいだね」
 いつの間にか猫たちは遊び疲れて丸まり始めた。
 マサムネたちも、気づけばついついウトウトと、寄り添い眠るのだった。

 一方フォンは猫にまみれていた。
 クルルがお腹の上で丸くなり、子猫が顔の上で丸くなっている。
「ん、ちょっと、息苦しいの……」
「なぁ~ん♪」
 でもほんのり温かくて、どけたくない。
「ん、もうちょっとだけ……楽しむの……」
 不意に視界が開けた。
「ウニャオン」
 覗き込んだ麻呂眉。謎の猫さん!
「ん、あなたと遊びたかったの」
 がばっ! ボス猫に抱き着く。
「ん、この猫さん、今までで一番あったかいの」
 そのまま猫を追いかけ、追いかけられ、フォンは元気いっぱい野原を駆けまわるのだった。

 イリスは抑えきれない笑みを零しながら歩いていた。
 両手に装備したクレープ! いざ、もふもふの楽園へ!
「にゃーん!」
 猫たちがゴロゴロする原っぱに脚を躍らせる。
 ぴょこん。猫たちが耳を持ち上げ、顔を向けた。
 クレープにゃ!
 ぱああああっ。つぶらな瞳がキラキラ輝く。
「にゃん♪」
「なぁん♪」
 ちょうだい、ちょうだい! にゃんにゃん足元にやって来て、すりすりアピール。
「わ、みんな、ちょっと待って」
 踏んづけちゃいけない。イリスの足元はフラフラ揺れた。
 よいしょ。しゃがんで、
「はい、どーぞ」
「「「にゃあああ♪」」」
 ぺろぺろ。ぱくぱく。ちるちる。猫さんたちは幸せ笑顔。わー、目の前にふわふわもっふもふのわがままボディが。
「ふふ、触っちゃお」
 もふっ!
「やだー、もふもふー!」
 もふもふもふもふ!
「なぁん♪」
 可愛いー!
 思わずイリスの翼がパタパタ!
「にゃん!」
「ふにゃあ!」
 ばびょん!
「きゃあ、積極的!」
 銀髪のオラトリオは、もっふもふの猫にまみれて、ふにゃぁぁぁと蕩けていくのだった。

 日和は猫耳フードに肉球手袋。猫に紛れてぴょこぴょこ歩く。
「みつけたー! おっきなネコちゃん! 仲良くしたいなーっ!」
 わぁい。と島のボス猫に抱きつく。
 ぼふぼふフワフワやわらか手ざわり。夢のような生命体。
「にゃーん! ふわふわ~」
 太陽の匂いがまるでお布団みたい! きゅうに眠たくなってきた!
「一緒にお昼寝しよ!」
 うもれるように力をあずける。
 そのまま暫らくポカポカお昼寝。
 すやすや眠る日和にゃんこ。大人びた流し目で見つめる麻呂眉にゃんこ。
「好きな場所はどこぉ? 一緒に行こぉ?」
 日和の寝言を聞き止めて、そのまま咥えて歩き出す。

 潮風の匂いがする。波の優しい音。目の前が朱く染まっている。温かい。
「ふにゃぁ。ここどこ?」
 お目目をゴシゴシ。周りをキョロキョロ。
 おっきなネコちゃんはボクの枕。一緒に戦ってたみんなが周りに座ってる。
「みんな猫に連れてこられたんだよ~」
 そうなんだ?
 ぴょーんと跳び起き、周りを見渡す。
 そこは島の展望灯台。沈む夕日が海を赤橙に染め上げて、キラキラ燃えるように輝いている。
「うにゃーーうぉ!!」
 麻呂眉が一声鳴いた。
 天井からバラバラとなにかが落ちてくる。
「な~お♪」
「にゃにゃん♪」
「にゃ~♪」
 猫のシャワー。
「ここって、猫の集会場だったんだね!」
 椅子に座るみんなの上に、猫もぴょこんと跳び乗り座る。
「ねえっ、スマホ持ってきたから一緒に撮ろう!」
 かわいい猫と暫しの記念タイム。
「にゃん♪」
「うにゃ~ん♪」
「にゃ~んにゃん♪」
 夏の夜長が過ぎてゆく。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 0
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