美しき白紫陽花、戦いの果てに何を見るか

作者:ほむらもやし

●山寺の紫陽花
 風に乗って流れてくる霧が時折、谷間を覆い、一寸先も見えない程の白い闇を作り出す。
 段々状に整地された斜面の一画に、こぢんまりとした寺があり、その一帯には、色鮮やかなたくさんの紫陽花が濡れ咲いていた。
「ふはははは、おぬしらは人々を惑わす魔性、この魔法少女はるなが退治してやるのじゃ!」
 他人に聞かれると恥ずかしそうな科白を、キャラになりきった口調で叫びながら、野良着姿の婦人が手にしたヘッジトリマで、伸びすぎて通路を塞いだ紫陽花の枝を切って行く。
 雨の日は水の重みでたわむため、伸びすぎた枝を見つけやすい。
「ただ切れば良いってわけじゃないのじゃ。やっぱり妾は出来る娘じゃ」
 異変が起こったのは、本堂から奥社に続く階段までの通り道を綺麗にして、はるなが腰を下ろした時だった。
 背後にある白い花をつけたあじさいの一株が突如として、動き始めて、背後からはるなを包み込む。
「やだ、いやだ! お願い、いやああっ……!」
 本堂から離れた、人目につかない紫陽花の茂み響くのは、攻性植物の体内に取り込まれてゆく痛々しい、はるなの泣き声と、粘液まみれの蔦の擦れ合う水音のみ。
 間も無く完全に、はるなを取り込んだ攻性植物は、濡れた地面を荒らすこと無く、ゆっくりと動き始めた。

●ヘリポートにて
「で、周りの紫陽花と見た目がそっくりなので、全く気付かなかったようなのです!」
 頭にボケの花咲くオラトリオ、華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)はそう言うと、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)に話を継いだ。
「現場は佐賀県の多久市の山中、地元では紫陽花の名所として知られているお寺だよ」
 敵の数は1体であること、一万株を越える紫陽花の中の一株が攻性植物となったこと、見た目が普通の紫陽花と似ている為、不意打ちされる可能性が高いことを補足する。
「攻性植物は紫陽花園の中にいます。近くを通れば、向こうから襲いかかって来ると思うのです」
 先手を取られそうなのは癪だが、雨で地面が慣らされており、また刈られた紫陽花の枝が散乱している為、さらに区別がつきづらくなっていると、灯は頭を抱えた。
 お寺の本堂から奥社に続く階段までの間に紫陽花園は広がっている。
 その距離はおよそ100メートルほど、面積は野球場ほどの大きさがある。
 はるなさんが襲われた奥社へ続く階段がある場所までの、道筋は3通り。
 紫陽花の茂みの真ん中を縦断する道、外周を右りに迂回する道、反対側の左に回る道、である。
「紫陽花の名所ではあるけれど、まだ寺のホームページでも、市の広報誌でも、拝観の案内がされてがいない。訪れる人はいないだろうから人払いは無用だよ。本堂の裏手にある家も、住職であるはるかさんのお父様や、お母様が住んでいるのだけど、夕方まで帰ってこないから、連絡は無用だ」
 今回の敵の攻撃手段は三種、特殊な戦闘力は無さそうなので、普通のエルベロスが、普通に戦えば、普通に勝てるぐらいの強さと見て間違いなさそうだ。
 但し、普通に倒すだけでは、取り込まれたはるかさんも一緒に殺してしまう。
 助ける為には、バランス良く敵にヒールを掛けながら戦わなければならない。
 本当に大丈夫なのだろうかと、ケンジの表情が急速に曇る。
「あの、ケンジさん、何でそんな難しい顔するのですか? ヒールを敵にかけても、ヒール不能ダメージが少しずつだけど溜まって行くってことですよね。要するに、癒しを続けながら粘り強く攻撃していけば、はるかさんを助けられるということで合ってますよね?」
 堂々とした言葉に尻込みするケンジだったが、戦い方については、実際に戦うあなた方が詳しいのが道理、それもその通りだと、安心した表情をみせる。
「絶対、成功させて下さい。それじゃあ、出発しよう」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)
シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
楪・熾月(想柩・e17223)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)

■リプレイ

●惑わしの紫陽花
 救いたい命が失われるまでにどれほどの猶予があるだろうか?
 もし尋ねられれば、何日もあると考える者はいなかっただろう。
「救うしかないでしょ!! 絶対に死なせたりしないわ!!」
 危険な攻性植物を撃破する好機であると同時に、被害者を助けられる最初で最後の機会だと、天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)は雨に濡れて鮮やかに見える紫陽花を睨み据えた。
「助けれる命があるなら助けないと……悪いデウスエクスは別だけど、ね」
 頷きを返しつつ、シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)は、黒い剣で払う仕草を繰り返しながら先頭を行く。脚力には自信がある。赤いドレスを靡かせ、器用に泥濘を避けて進む。
 道の幅は一定ではないが、狭いところでも、大人ふたりが並んで歩ける程度の広さはあった。
 およそ100メートルを進んだ紫陽花園と杉林の境界あたり、奥社に続く階段の前には石の鳥居があった。
 そこが予知で示された襲撃場所である。
「なんで魔法少女が紫陽花の枝打ちをしてるのかは良く分かりませんが――」
 カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は拾い上げた枝の一本を投げ戻すと、次の道を探そうと、急かす。少しの間を置いて、上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)が、少し落ちつこうと、口を開く。
「今の時期、一番素敵な花ですよね。童心に戻ったと考えれば、気持ちは理解出来る気もしますね」
 助けを求める人がいれば手を差し伸べたい。気持ちは紫緒も同じ。
 それは魔法少女に特別なものではなく、助け合うことで繁栄してきた人類とっては、ありふれた感情かもしれないけれど。当たり前だからこそ、失ってはいけない感情だ。
(「救える命は救うって決めたんだ。医者の矜持、甘く見ないでよね」)
 楪・熾月(想柩・e17223)は、依頼を受けた理由に思いを巡らせると、不意打ちに警戒して、五感に意識を集中させる。
 耳に届く音だけでも、雨粒が紫陽花の葉を打つ音、地面を踏み締める音、風が葉を揺さぶる音、他にも視界を遮る霧、肌に当たる雨の冷たさ……、自然界には沢山の情報があった。
 単に全てに注意するだけでは、敵に結びつく異変を速やかに判断するのは難しい。何に着目すべきか、そう考えようとした瞬間、先を行く、シャルロットの声が聞こえた。
「道が塞がっているみたいだよ」
「それ以上進むと危険です。少し待って下さい——」
 不吉な予感がして、カルナが花の色を聞き返そうとした、その時、攻性植物は躊躇うこと無く仕掛けて来た。
 瞬間、緑の茂みは、そそり立つ壁の幻影と変わり、津波の如くに押し寄せて来る。
「敵襲!」
 緑の幻影に飲み込まれながら、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)、シャルロット、裏鶴、そしてサーヴァントの2体は、たちまち深い催眠状態に陥る。
 この状況を脱しなければならない、感情の奔流に押し流されるまま、強く催眠の影響を受けた朔耶の魔法弾が、裏鶴のライフをゴッソリと削り取った。
「もっと気を付けるべきでした」
 難を逃れたカルナは、奥歯を噛みしめながら、牽制の蹴りを叩き込むのが精一杯だった。
 今にして思えば、花の白色だけではなく、枝打ちの有無にも気を払う必要があったと気付く。
 そんなタイミングで、愛が孕む罪を肯定する、紫緒の歌声が響き渡り、崩壊しかけた前衛の窮地を救う。
「……白く鮮やかに、雨の中青々と茂る緑に映える色、確かに、これは人の心を惑わす」
 確実性を見定め、ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)は湿りを帯びた空に跳び上がる。ホイールアックスを頭上に掲げる刹那に、周囲の風景が俯瞰できた。紫陽花の葉の緑の瑞々しさと、花の色は若葉萌えるこの時季にあっても際立って見えた。
「……削る」
 囚われた被害者が犠牲にならぬよう願いを込めて、ディディエは落下の勢いと共に刃を振り下ろす。機を合わせる様にして、催眠から解放された、シャルロットは声を張り上げる。
「起きなさい! そして、抗いなさい! 貴女は強いはずよ!」
 もう同じ手は食わない、散布された紙兵が飛び回る中、トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)はケルベロスチェインを展開、それに描かれた魔方陣が青白い光を放ち盾の守護を発現させる。
「俺たちならできるさ、そうだろセイ!」
 一拍の間を置いて、ボクスドラゴン『セイ』が深傷を負った、裏鶴に癒しと加護を送る。
「平気、平気、もう大丈夫。仕方ないよ。でも、二度と遅れは取らないよ」
 ダメージを癒された裏鶴は、一定の確率で起こる事故だから仕方が無いという趣旨で、朔耶に言い置くと、護法覚醒陣を発動する。光の翼と共にもたらされる癒しが、破剣を重ねて行く。
「これで、だいぶ対策できたね。もう好きにはさせないよ」
 ボディヒーリングで作り出した疑似肉体を中衛に向かわせると、熾月は前に躍り出た、シャーマンズゴースト『ロティ』の方に目を向けた。瞬間、振り下ろされる爪の一撃が白い花弁を散らし、その体力を削り取った。

●かつて通った道
 白紫陽花の攻撃は一行が睨んだ通り、バッドステータスに頼ったものであった。故に戦いは目指した通り、作られた膠着状況の様相を見せる。
 紫緒の放つ濃縮された快楽エネルギーを孕んだ桃色の霧が、裏鶴に莫大な癒力をもたらすと共に、身体に染み入った毒を消し去る。
「……もう大丈夫よ」
 裏鶴のダメージは癒やされた。しかし心做しか肩が呼吸の度に上下しているように見える。
 本人が考えている以上に消耗が激しいのかも知れない。紫緒は懸念しつつも、伝えることは出来なかった。
「……もうしばらくかかる、だが必ず助ける、確りと希望を持て」
 ディディエはスピニングスティックをヌンチャクの如くに振り回し、触手の如くに形を変えた紫陽花の枝を目がけて、強かに打ち下ろした。次の瞬間、悲鳴の如き咆哮を上げる紫陽花、取り込まれた被害者に声が届いているのか、痛みを感じているのかは分からなかったが、言わずにはおられなかった。
「響いて、届いて、このあたたかさ」
 もたらされるのはやわらかな陽を浴びるが如き心地のよいあたたかさ。熾月の贈る絆の癒やしは薄青の飾り紐に咲いた藍玉と花水木は大切な雫となって、敵を包み込んだ。
 頑なに攻撃に徹する朔耶は、容赦の無い蹴りを叩き込む。攻性植物としての本性を現した白紫陽花は緑の龍の如くだった。そして禍々しくも美しい姿を幾ら見つめても、取り込まれた何処に被害者がいるのか、それ以前に原型を留めた状態で取り込まれているかも、この攻性植物に関しては全く分からなかった。
 オルトロス『リキ』の斬撃が緑の巨体を裂いた。攻撃が命中する度、敵は悲鳴の如き声を上げる。
「ヒールが足りてないんじゃないか?」
 攻撃が好調でかつ、味方へのヒールの必要となれば、敵へのヒールは手薄になる。
 敵へのヒールが不足する傾向は時間が経つにつれて、酷くなりトライリゥトが癒し手に回っても追いつかなくなっていた。
「心配しないで、ちゃんと戦えるから」
 敵を侮っているわけでは無い。普通に倒してしまって良いなら倒したい。しかし救える命を自分たちの手で殺したくないから、裏鶴は戦いに影響を及ぼさない一手を繰り出さざるを得ない。
 阿頼耶識から溢れる光が、背中側に新たな光の翼を生み出し、味方に加護を重ねる。
「時統べる意思よ、我と共に在れ」
 展開された、時空干渉治癒方陣は、カルナの導びきに従うように時計の針を加速させて傷ついた敵を癒す。
「そろそろ、攻撃には気を付けたほうが良さそうです」
 朔耶は静かに視線を返して頷いた。だが攻撃を緩めるつもりは無かった。今は最悪の事態にならないことを信じるしかない。きっと大丈夫だと不安から目を背けるしかない。
 朔耶の放った超音速の拳が空を切り、続くオルトロスの剣が緑の巨体に傷を刻む。
 実際、攻性植物に取り込まれた者を救うのは、とても骨の折れる仕事だが、全員がやってはいけないことさえ把握していれば、多少のフォローは効くし、滅多なことでは失敗しない。
 遺憾なことだが、今回、被害者の命運は管理できない偶然に委ねられていた。
 押し寄せる壁の如き霧に耐えた、シャルロットの呼び寄せた雷雲が霧と入れ替わるように頭上に立ちこめる。
「猛る雷雲、戦場の硝煙、駆ける煌き……出でよ竜の雷!」
 掲げた得物に受け止めた稲妻を一閃の光と放つシャルロット。鋭い光は両者の間合いを瞬く間に飛びぬけて、逃れようとする緑の巨体の周囲を旋回する様にして爆ぜた。爆発の衝撃が雨粒を粉砕し圧力を帯びた風となって吹き抜けて行く。
「……さて、如何か」
 積み重ねた戦いの経験あるのだから、攻撃とヒールを交互に繰り返すぐらいしないと被害者を殺しかねないと言うことは、ディディエも分かっていたはず。しかし用意したオラトリオヴェールの生み出す癒力は甚だ弱い。
 最早、手段を選ばずに癒さなければ、救助が失敗すると確信して、紫緒は敵を睨む。
「今の私の夢は世界中の、宇宙のみんなが恋をして幸せになること、ハルナさん、アナタの夢を思い出して下さい」
 次の瞬間、莫大な癒力を孕んだピンクの霧が死に行く敵と、取り込まれたはるなの命を繋ぎ止めた。
「私たちも知恵を絞りますから、アナタも夢をかなえるためにも、今は堪えて下さい」
 23歳と言えば5年次、卒業試験や医師国家試験に向けて猛勉強を始める頃、夢を現実にしようと走り抜けようとする時期でもある。
「諦めんな! 終わってんじゃねぇ……終わらせんじゃねぇぜ!」
 下手に攻撃すれば、倒してしまうかも知れないと察した、トライリゥトは皆に呼びかけつつ、敵にヒールを重ねる。攻撃の過剰は被害者の死亡に繋がるが、ヒールに関してはその心配は無い。
「なあセイ、ケルベロスが8人揃えば、なんだって出来るとこ、見せてやろうぜ!」
 ボクスドラゴンのセイが、その小さな羽根を懸命に上下して飛び回り、手薄な仲間を狙って属性を注入する。
「そろそろ、行くわよ……我が剣気は流星が如く!! 剣魔剛輪……烈派・天鬼雨!!」
 強力な破壊の力を秘めた、桜色の剣が降り注ぐ、緑の巨体を裂く。続けて、この戦いを終わらせようと足を踏み出そうとした、朔耶の進路を遮るように、熾月とカルナが前に出る。
「——何ッ?!」
「少し待って頂戴。お膳立て、してあげるから」
 熾月の放つ癒術に合わせるように、カルナも時空干渉治癒方陣を展開する。柔らかな陽を浴びるが如き、穏やかな刹那が、永久に続くような錯覚を覚える中、ボロボロの緑の巨体がもとの瑞々しさを取り戻して行く。
 それを目にした朔耶は側面にまわり込み、気配がピークを越えるのと同時に超音速の拳を突き出した。
「これで……そろそろ仕舞いにしようぜっ!」
 拳が砕けんばかりの衝撃と共に、穏やかな気配は消し飛ぶ、満身の力を乗せた拳は深々と突き刺さり、朔耶の半身が緑の巨躯にめり込むほどであった。
 脈動が止まる。直後、巨体は数回、ぎこちなく揺れて、動かなくなる。
 鳥のさえずりと共に、霧が流れて来て、刹那の白い静寂が場を支配する。
 熟れ過ぎた果実が腐るようにして、緑の塊は崩れ落ち、重い水音と共に地を揺らした。
 青臭い粘液塗れになりながら、攻性植物の残骸を睨み据える朔耶の目に、生まれたままの様な、被害者の身体が見えた。
 戦いが終わったと確信して、後ろを振り向いた朔耶の目に、偶然に運命を委ねざるを得なかった仲間たちの疲れ果てた安堵の表情が映った。

●戦い終わって
「無事かな? よかったよかった〜」
 裏鶴の明るい声が響く中、救助される、全裸のはるなに背中を向けると、カルナは穏やかに目を細めて膝を折る。
 目線の高さには、スイカほどの大きさの花塊がある。
「白い紫陽花って初めて知りました。青とか紫、赤も綺麗ですけど、白もいいですね」
 熾月が痛んだ紫陽花にヒールを掛けてくれたお陰かも知れないが、雨に濡れた紫陽花は晴れた時よりも、確かに色鮮やかに見えるような気がする。
「……白は鮮やかだ。青々と茂る緑には最も映える色かも知れないな」
「魔法少女(23歳)も無事だったみてえだし、一杯やりたい気分だぜ、皆はどうだ?」
 結構危うかったと言うのが本音だが、そこには触れずに、トライリゥトが提案すると、こんな山奥に飲める場所なんてあるはずないと思うと、ぴよを肩に乗せた熾月が冷静にツッコミで返す。

「どこか身体におかしい所は無いかしら?」
「……胸が小さくなったような気がします」
「え? 胸が」
 真面目に問いかけた、シャルロットであったが、はるなが、いきなりボケで返して来たので困った顔をした。
「アナタもそれだけ元気なら、大丈夫でしょう。私たちはこれで帰りますけれど、良いですよね?」
 紫緒は内心、色々手伝ってあげるつもりもあったが、甘やかすと碌なことにならなそうな気配がしたので、敢えて、突き放してみた。
「ちょっと空気を和ませたかっただけでした、折角助けて頂いたのに、変なことを口走って、すみません」
「お医者さんになるのでしょう。冗談も時と場所を選ばないと、ダメですよ!」
 しょんぼりする、はるな。雨は相変わらず、降ったり止んだりを繰り返していて、空気もひんやりしている。
 そこに、熾月が戻って来る。
「さて、壊れたところはもう無いけれど、刈った枝がかなり残っているね」
 腕まくりをしながら、熾月は片目を閉じて笑み、トライリゥトが胸の前で腕を組む。
「これだけ、ケルベロスが揃えば、庭掃除など、造作もないことだぜ!」
 ケルベロスの仕事は、見知らぬ土地に出向いて、敵を倒すだけじゃあ無い。人の命も助けるし、助けたならば、その人の心にも寄り添う。壊れた場所があれば、後で困らないようヒールだって掛ける。
「皆でお手入れした、紫陽花が沢山の人に楽しんで貰えるのも、きっと素敵です。やりましょう!」
 鮮やかな紫の紫陽花から視線を外した、紫緒は遍く人々に、この花の美しさと、恋する幸せな気持ちが行き渡ることを願う。
「あら? 紫陽花が虹のように見えるわよ」
 シャルロットの声がする方に行ってみると、眼下に斜面の紫陽花を一望できた。
 みんなのために、守らないといけないものがある、共有するものもある。
 自分にしかできないことが、みんなのためになるのは、悪くない気持ちだ。
 風に運ばれてくる霧の塊が流れた後に見える風景は、数分前と同じ風景の筈なのに、不思議と鮮やかに見える。
 降り注ぐ光は太陽から供給され続けるエネルギー、いつも同じに見えても、それは常に新しく届けられたものだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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