水無月に潤う涙

作者:幾夜緋琉

●水無月に潤う涙
 六月、水無月。
 雨露が降り注ぎ、地面を濡らす梅雨の時候。
 神奈川県鎌倉市の、とあるお寺は、咲き誇るあじさいが有名で、参道を囲む青色の紫陽花が、間もなくに迫った時に向けて準備を始めている。
 ……そんな咲き始めの紫陽花を見に、お寺を訪れる人達もちらほらと……。
「咲き始めの紫陽花って言うのも、中々綺麗よねー」
 と、目を細め、紫陽花に鼻を近づけ、香りを楽しむ。
 周りにも、同じ様に咲き始めの紫陽花を楽しむ人達の姿。
 ……が、不意に。
『グゥォォン……』
 遠くから聞こえてきたのは、何かの稼働音。
「ん? ……今何か聞こえなかった?」
 と楽しんで居た女性が顔を上げて、周りを見渡す。
 ……取りあえず、見回した範囲には、何もない様だが。
「……あ、おい、あれを見ろ!!」
 と、別の男が指さした先。
 源家の建立せし神社の境内を割り裂いて、姿を現わしたのは……巨大なロボット型ダモクレス。
 神社の参詣者含め、周りに居る人々を全て恐怖に陥れながら、ダモクレスは進み始めた。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね。それでは……説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに軽く一例すると、早速。
「暦の上では間もなく六月……梅雨の時期ではありますが、そんな梅雨に美しく映える紫陽花で有名な鎌倉のお寺近くに、巨大なロボット型ダモクレスが現れた様なのです」
「この巨大ロボット型ダモクレスは、鶴岡八幡宮の境内を割り裂き現れると、そのまま紫陽花で有名なお寺の方に向けて稼働し始めます。これをこのまま放置しておけば、咲き始めた紫陽花も、そして観光に来ていたお客さん達も、全てがダモクレスの餌食となってしまうでしょう」
「幸い、稼働したばかりでグラビティ・チェインが枯渇している様なので、戦闘力は高くはありません。しかし、人を殺し、多くのグラビティ・チェインを略奪し、体内に格納されたダモクレス工場からロボ型、アンドロイド型のダモクレスの量産をする可能性があります。皆さんには、その事態が起きる前に、止めてきて欲しい……という事になります」
「尚、巨大ロボ型ダモクレスには、動き出してから7分すると、自動的に魔空回廊が開き、撤退するという機能が組み込まれている様です。逃げ込まれれば、ダモクレスの撃破は不可能……魔空回廊が開く前に、巨大ロボ型ダモクレスを撃破してきて頂ける様お願いします」
 更にセリカが。
「巨大ロボダモクレスの戦闘能力についてですが……先ほど伝えた通り、グラビティ・チェインが枯渇している為、全体的な性能や攻撃力は減少している状態です」
「しかし、一度だけではありますが、リミッターを外す様に全力の攻撃を行う事も可能な様です。この攻撃を仕掛けると、ダモクレス自身も大きなダメージを負う決死の攻撃になる様です」
「又、幸い巨大ロボダモクレスが現れるまでには、多少の時間敵猶予がある様ですので、市民の方々への避難勧告を行う事は可能です。又、心苦しい所ではありますが、壊れた街並み、仏閣もヒールグラビティで修復する事は可能ですから、可能な限りダモクレスを倒す事を重点に置いて頂く様お願いします」
「尚、このダモクレスには弱点の様なポイントは特に無い模様です。頭部に攻撃を与えなければダメージが与えられない、という様な事はありませんので、そこはご安心下さいね」
 最後にセリカは、もう一度皆を見渡して。
「紫陽花を楽しみに来た人達を、無差別に殺そうというダモクレスの行為を許す事は出来ません。皆さんの力で、確実に仕留めてきて頂ける様、お願いします」
 と、深く頭を下げた。


参加者
キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)
夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)
立花・佑繕(身命二刀・e02453)
尾守・夜野(ドミノ始めました・e02885)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)
クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)

■リプレイ

●露に濡れて
 雨露の降り注ぐ六月は水無月。
 梅雨入りも間近な神奈川県鎌倉市、あじさいの有名なお寺もあれば、由緒正しき神社もある。
 ……そんな古き良き古都、そこに突如として現れてしまったのが、巨大ロボット型ダモクレス。
「ふむ……ダモクレスが参拝に来るとは世も末ですね。それに参拝ついでに虐殺とか、何とも罰当たりです。境内ではお静かに、を守れなさそうですしデストロイする他にはありませんね」
 と霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)が肩を竦めると、クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)も。
「数多く残る歴史的建造物……それを破壊するダモクレス。決して実行させる訳にはなるまい。ここは仲間と協力して、守る事にしなければな」
「ええ。観光に来ている一般人を狙うダモクレス、それだけでも許せませんが、この景色まで破壊しようだなんて……どうにか被害を最小限に留めて倒させて貰いますっ……!」
 ぐぐっ、と拳を握りしめる夢姫に対し、キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)が。
「まったく。世界中のどこだってダメだが、鎌倉は特にダメだ……出る場所を間違えたな、デウスエクス・マキナクロス!」
 と格好良く決めると、尾守・夜野(ドミノ始めました・e02885)、夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)の二人も。
「そうだねぇ、本当出る場所を選ばないと言うか……いや、選べないのかな? 一般人を殺してグラビティ・チェインを補給する為に現れているみたいだしねぇ……」
「ああ。ま、巨大ロボつったら男の子の浪漫ではあるんだけど、暴れ廻るヤツはノーセンキューってことで。ささ、さくっとやっちゃいますかね!」
 そして橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)と立花・佑繕(身命二刀・e02453)が。
「ええ。普通の人たちの普通の日常……デウスエクスの手から守りましょう」
「……そうだな。制限時間もあり、余り余裕も無い状態……しかし、此処から逃す訳にもいかない」
「そうですね。逃がさない為には倒す他に無いのですから、倒すしかありません。最初から、攻撃力全開で行くしか在りませんね」
 そして夢姫が。
「正直、由緒ある建物も多いですから、戦いであっても、できるだけ周辺を壊さないように出来ればいいのですが……」
 と呟くも、キサナが。
「そうだな。でもデウスエクスが自重する訳ねぇし、そこは身を張るしかねぇ。巨躯から繰り出される一撃は正直耐えきれるか不安だが、やるしかねえ! よっし、行くぜ!!」
 と、更なる気合いを入れつつ、ケルベロス達はダモクレスの現れる現場……鶴岡八幡宮へと急ぐのであった。

●しとしとと
 そして、ケルベロス達は鶴岡八幡宮へ到着。
 当然、周りは今からダモクレスが現れる、等と露にも思っていない為、極めて普通の日常が広がっている。
「さて……日常の平穏を過ごしている中申し訳ないが、始めるとするか」
 とキサナの言葉に皆もうなずき。
「皆さん、デウスエクスがここ、鶴岡八幡宮に出るとの情報がありました。鶴岡八幡宮に居る皆さん、安全に避難する様、協力をお願いします!」
「ボクらはケルベロス! ここは間もなく戦場になるよぅ。怪我しないよう落ち着いて避難して!」
 雄一と夜野が声を上げ、一般人の注目を集めつつ、この場所が危険である事と、避難する様に指示。
 突然の避難誘導に、慌てふためく人や、もう終わりだ、と絶望の叫びを上げる人、等々……様々な光景。
 それに、極めて穏和な対応を心がけるのは雄一と、也太。
「大丈夫、皆さんは我々ケルベロスが守りますから、安心して避難して下さい」
「ひとまずは落ち着いて避難を。安心して下さい、ボクらがいますから……ね?」
 何だか也太の砲は、別の下心がありそうだが、それはさておき。
 そして避難路の中、ちょっと人が殺到すると危険そうなところに張り付いて。
「大丈夫大丈夫。ほら背筋を伸ばして、走らず騒がすしかし早歩きで。難しい注文ですが、ここは神域・古の都鎌倉です。そのくらいのこと、やって見せましょう!」
 とキサナが声をかけて、つまづいたりして大惨事にならない様に呼びかける。
 そして、ある程度周囲から人が逃げた位で……ズシン、という衝撃音とともに、地面が割れる。
 勿論、地面を割り裂いて現れたのは、巨大なロボット型ダモクレス。
「早速現れましたね……佑繕くん」
「ああ……」
 息の合った二人が、二手に分かれて瞬く間に戦闘区域を囲う様にキープアウトテープを張り巡らせる。
 その一方、裁一とクオンは。
「タイマースタート、と……七分間のバトルの開始ですね」
「そうだな。絶対に時空回廊に逃がしはしない!」
 と言いながら、殺界形成と翼飛行で展開する。
 そして、殺界形成による、張りつめた気配に気づいたケルベロス達が、残る避難誘導を周囲の警察、消防、そしてお寺の人に任せ、早急に戦場へと戻る。
 勿論、巨躯のエインヘリアルから来る威圧感は半端なものではないが……。
「絶対に負けねえ。このきれいな神社を破壊する様な罰当たりにはな!!」
 とその足下へ地烈撃の一閃をキサナが叩き込むと、流れる様にクオンが、憑依弧月の一閃。
 共にクラッシャー効果もあり、かなりの大ダメージを叩き出すと、ダモクレスは。
『グゥオオオ……!』
 とうなり声を上げる。
 いかんせん、その巨躯の誇る体力は多く、弱っているとは言えない。
「流石ですね。では……こちらも始めましょうか」
 と眼鏡を掛けながら、雄一は相手の懐へと飛び込み、そして。
「ここから先は通行止めだ」
 という言葉と共に、戦術超鋼拳を深く突きたてると、さらに続く也太が。
「いやぁ、やっぱりでかい奴は適当に撃ってもだいたい当たるから有り難いわ」
 等と軽口しながら、前衛陣にブレイブマインで攻撃力を引き上げる。
 そして、ディフェンダーの夜野、裁一が稲妻突きと、月光斬。
 夢姫と佑繕は敵の至近へ近接すると、左から夢姫の螺旋掌、右から佑繕の雷刃突、のコンビネーションアタック。
 ……そして、次の刻。
 ダモクレスは、その体の重さを生かした、頭上からの強力な振り落とし攻撃で、ケルベロス達に攻撃してくる。
「大きい身体だから、まるわかりだよぉ?」
 等と夜野はいいつつ、その攻撃を回避する。
 そして、攻撃した際の隙をついて、夜野はファミリアシュートを打ち抜くと、裁一はデスサイズシュート、そして佑繕の二刀斬霊波に続き、夢姫の月光斬。
 クラッシャー二人、キサナは。
「目をそらされるより早く 吐息の距離でささやくの 空気に染みた体温 首筋 胸元 滑り落ちてく――さあ、私の肉を汚して?」
 と、『私の肉を汚して」を奏で、敵にホーミング効果を付与する一方、クオンは絶空斬で、その傷跡をさらに広げていく。
 そして、中衛、後衛の也太、雄一はそれぞれ戦術超鋼拳や、斉天截拳撃で攻撃。
 刻一刻と体力が削れ、苦しげな叫びを上げるダモクレスだが……。
「容赦はしない。倒すことだけが、お前の末路だ」
 冷静な雄一の一言。
 そして、三刻、四刻、五刻……時の経過と共に、ケルベロスの攻勢はさらに激しくなり、明らかに体力は危険域へと近づきつつある。
 そして、六分目。
 ……今までとは、明らかに違う動き。
 その動きに気づいた裁一が。
「来るぞ……皆、回避だ!」
 と叫び、来る攻撃を、身を翻して回避させる。
 そして回避後には、フルパワーの結果、一気に稼働率が落ちたダモクレスが……。
「全く、神社に来るならお賽銭のやり方を知ってから来なさい!」
 と、デスサイズシュートから、小銭を撃ち出していく裁一。
 小銭が次々とダモクレスの体の中へと埋もれていき……かきむしるような動き。
 そして、時空の裂け目が、微かに開いた七刻目。
「我が剣よ、刹那の刻すら喰らえ」
 と、クオンの『秘奥義【無閃】」が決まると、その腕一つがボトン、と落下。
 そして、佑繕が。
「二刀以て身命賭すが我が名の所以ならば」
 まっすぐに見据えた鐵鎖陣六重斬撃式の一閃がダモクレスに命中すると……ダモクレスは、熱い蒸気をあたりにまき散らしながら、壊れた玩具の如く、その場に崩れ落ちていった。

●清廉な祈りと
 そして、どうにか制限時間以内にダモクレスを倒したケルベロス。
「……ふぅ、終わったかな?」
 と汗を拭うキサナに、夢姫が。
「そうだね、キサナさん。佑繕くんもお疲れ様でした」
「ん、ああ……怪我は無いか?」
「大丈夫、だよ」
 夢姫と佑繕の会話……それを聞いた裁一が、心なしか嫉妬の炎を燃え上がらせている様な気がするが、それはさておき。
「それじゃ、後は壊れた所の後片付けかな? 出来る限り被害は少なくしたかったけど……でも、修理しない訳には訳にはいかないしねぇ」
「……うーん。でも、オレ個人的な好みを言うならば、ヒールでも此処をファンタジックにする事は避けたい所ではあるんだよなぁ……」
 周りを見渡し、ぼやくキサナ。
 神社の本宮の辺りには大きな被害は無いものの、参詣路の石畳は盛り上がり、裂け、ボロボロ。
 そして周囲に静謐さを生む木々も折れたりしていて……争った後として無惨な状況この上ない。
「……なぁ、皆にちょっと頼みたいんだが……手の付け所がない所だけヒールしないか? 出来れば見た目に影響ないところだけ、な」
「ああ……そうだね。俺も、何が何でもファンタジックにしたいって訳じゃないし。余り見えない所だったら、目立たないだろうし」
 キサナ、也太の労いに皆も頷き、ヒールする場所は最小限に。
 そして、人の手で直せそうな所は……キサナが神社の社務所に出向き、寄付と言う名目で、ケルベロスカードを渡す。
「……溜め込んだ私財、ここで費やしてみようかーッ!!」
 並々ならぬ気合いと共に、このお寺が元の景色を取り戻してくれる事を……心より祈る。
 そして、キサナが戻って来た頃には、他の皆も修復を一通り終えて。
「さて、終わったな。皆、鎌倉の名物を食しに行こうではないか。それが楽しみで、この仕事に来ているのだからな」
 とクオンの言葉に、夢姫は。
「あ、私はせっかくですし、紫陽花を楽しんで帰ろうかと思います。佑繕くんも……?」
 そっと視線を配すと、頷く佑繕。
 ……そして少し歩いての、あじさいの寺へ。
 美しく青紫色に咲き誇る、一面の光景は……とても美しい。
 そして、そんな紫陽花畑の中一歩先を歩く彼女……。
「夢姫」
 と、静かに呼び止める佑繕。
 その手をそっと……微かに潤わせ……小さく、その耳に囁く佑繕。
「……」
 と、仄かに顔を染めた。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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