切り札の切り方

作者:刑部

「今の手持ちのカードは……全部で45枚か……おや?」
 カードの束を弄びながら歩く村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は、地面に落ちている黒いカードを見つけ小首を傾げた。
 普通のカードなら柚月は気にもしなかっただろうが、そのカードからは微かに何かの『気』を感じたのだ。
 だが次の瞬間一陣の風が吹き、その風に煽られたカードは、くるくると回転しながら脇の路地へと消える。
「あ……待って」
 思わずそのカードを追って路地へと駆ける柚月。
 まるで掴もうとする柚月を弄ぶ様に、その指をすり抜け路地の奥へと飛んで行くカードが一人の男の手に吸い込まれた。
「お兄さん、いいカード持ってるじゃないか……」
 眉を歪め歪んだ口角を上げた男がいやらしく嗤い、そのカードを拾い上げた手がモザイクに包まれていた。
「ドリームイーター!?」
 思わず飛び退さり戦闘態勢をとる柚月に、
「悪い様にはしないから、大人しくカードを渡しな」
 ドリームイーター『御門雪人』はカードを扇の如く広げ、柚月に向って一歩踏み出す。
(「回りに一般人は居ない……だが、一人で勝てるか?」)
 柚月は冷静に状況を分析しながら、流れる汗を拭うのだった。

「柚月さんがドリームイーターの襲撃を受ける予知が見えたんや。
 連絡取ろうとしてるんやけど連絡もとれへん。ヘリオンかっ飛ばすから柚月さんが無事な内に助け出すで!」
 杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) はそう早口で説明し、ケルベロス達を乗せたヘリオンは猛スピードで風をきる。
「場所はこの路地裏で、ドリームイーター……名前は御門雪人っちゅーみたいやけど、コイツと柚月さんが睨み合っとる。
 路地裏やから道幅は狭く、歩くならギリギリ4人……戦闘する事考えたら3人が並んでギリギリってとこやな。
 奴っこさんの得物はカードで、色んなもんを召喚して攻撃してくる。
 どうもカードに固執しとるみたいで、カードを持ってる人を狙い易い傾向があるみたいや」
 と現場の状況と敵の能力について説明した千尋は、
「迅速な行動が鍵となるな」
「そや。柚月さんを助け、みんなで御門雪人を撃破したってや!」
 ケルベロスの発言に頷き皆に発破を掛けたのだった。


参加者
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
クラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881)
ジョニー・ファルコン(夜をぶっとばせ・e04101)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)

■リプレイ


 跳び退いた村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)に向かって一歩踏み出したドリームイター『御門雪人』は、手に持ったカードを扇の如く広げ、
「悪い様にはしないから、大人しくカードを渡しな」
 と、柚月の持つカードを指して手招きする。
(「こいつは何者だ? 俺のカードを狙ってたのか?」)
 柚月の脳がフル回転を始め、現状の分析と打開策を見出そうとする。
(「……いや、問題はそこじゃない。今、ここには俺とこいつだけ……一般人の姿が無いのは不幸中の幸いだが、一人で勝てるか……?」)
 視線だけを動かし辺りを伺う柚月。
 黙したままジリジリと後退する柚月に痺れを切らした雪人が、
「早くしろと言ってんだよ!」
 とカードを構えた瞬間、柚月の後ろで派手な煙が上がり、路地の向こうから次々と人が跳び込んで来た。
「神宮寺家筆頭戦闘侍女、ユーカリプタス。戦闘機動に移ります」
 その煙を上げたユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)が、スカートの裾を摘み折り目正しく一礼すると、彼女のミミックである『トラッシュボックス』が跳ねる様に駆け、
「カードゲームじゃ手札の良し悪しも大事だろ? オレは最初の手札としては悪くないと思うんだけど、どうだい?」
「札は多いほど良いとも言うが、定められた札というのは自覚が無くとも『やってくる』のだ」
 そう笑って拳同士を打ち鳴らしたジョニー・ファルコン(夜をぶっとばせ・e04101)の肉薄に続き、リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)が電磁エンジンV7の付いたハンマーを一回転させると、炎に包まれた雪人はカードを盾の如く広げ、炎を払う様にして回避行動をとる。
「欲しいカードがあれば自分で買うなりなんなり集めるべき! 人のを奪うのはだめですから! 立派な犯罪ね!」
 その間にズビシィと人差し指を突き付けたエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が、駆ける仲間達にオウガ粒子を放出する。
「なんだ貴様らッ、邪魔をするな!」
 次々と現れるケルベロス達にカードから喚び出した殺戮機械を嗾ける雪人。
 刃煌めき駆動音を響かせ迫り来る殺戮機械の前にスパークする雷の壁が現れ、その進行を押し留める。
「村雨さんの救出……バジルさんの偽物は蛇でしたけど、村雨さんの偽物は小悪党です?」
 その雷壁を展開したミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)が、髪に咲いた梅の花を揺らし小首を傾げる間に、抜き様に放った斬霊刀の一閃で雷壁に捉われる殺戮機械を抹消したクラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881)が、
「黒き竜の家系。大切な絆を守るためにこの牙を振るいましょう!」
 そのまま一気に距離を詰める。
「狭……っ、と。お待たせ」
「来てくれたのか!?」
 パニックテレパスを使用し周辺の人払いをした為、少しだけ出遅れた夜殻・睡(氷葬・e14891)が、路地裏の狭さに閉口しつつ、柚月の肩を叩くと、驚く彼を庇う様に前に出た。
 その睡の眼鏡の向こう、狭い路地裏で苛烈な戦いの火蓋は既に切って落とされていたのである。


「そのカードを寄越せェ……」
 肉薄したジョニーが広げた『蛇神さまの護符』を見た雪人が、カードから喚に出した竜を嗾ける。ユーカリプタスとトラッシュボックスがその射線を遮る様に動くも、両腕で薙ぐ様にして払い、ジョニーに食らい付く竜。
「……咬み付くって事は、避けられないって事だぜ!」
 食らい付かれた痛みに一瞬眉を顰めたものの、ジョニーが雷を纏った拳を竜に連続で叩き込むと、竜の体を構成していたエネルギー体が霧散して掻き消える。
「偽物で小悪党のくせに一撃が重い様です」
 ジョニーの体を濡らして地面に垂れる鮮血を見たミリアが、直ぐに緊急手術を施す間。
「狭さは厄介ですが、作戦通りにすれば大丈夫。さっさと倒してしまいましょう!」
 ジョニーの穴を埋める様に迅雷の如き速さで距離を詰めたクラトが、駆けた勢いをそのまま雪人に切っ先を突き入れ、一瞬睨み合ったクラトが跳び退くタイミングで、雪人の体にリカルドと柚月の竜砲弾が炸裂した。
 その竜砲弾による煙を裂く様に、刃を回転させる殺戮機械が現れ、路地の壁を削りつつ前衛陣の体力をも削りに掛る。
「自分の手を汚さない所がいかにも小悪党ですね」
 嘆息して肩を竦めたミリアが、手にしたライトニングロッドを振るうと、雪人とケルベロスの間に新たな雷壁が展開し、雪人の動きを牽制し、
「カード好き……でしたか。拘る理由は分かりませんが、相手を殺してまで取るというのは外道がする事で、それ相応の報いというものを受けて頂くべきです」
 雪人の喚んだ氷騎兵が繰り出す穂先に穿たれながらも、霊体を憑依させた刃の斬撃を叩き込んだクラトが、反撃を喰らう前に跳び退さり、エルスの悪魔を象る黒炎が爆ぜたところに、踏鳴りを越した睡の一撃! 更に、
「切り札を切るタイミングは、それを切るべく場を整えるからおとずれるのだよ」
 僅かに口角を上げたジョニーの人差し指が突き入れられた。

「邪魔を……邪魔をするな。カードを寄越せ!」
 雪人が両碗を延ばし大きく円を描く様に動かすと、その掌にあったカードが宙に留まり、連なるカードがサークルを形成する。次の瞬間、その円をくぐる様に2体の殺戮機械が現れ、道路と壁を破壊しつつケルベロス達を蹂躙しに掛る。
「無粋な客は神宮寺家の門を通る事かないません……無論、ここも然り、押し留めます」
 紅瞳を光らせたユーカリプタスが『ナデシコの護り』の掌を向け、トラッシュボックスと共に大地を踏み締めると、ジョニーと睡もその左右に立ち、狭い路地を荒れ迫る殺戮機械を押し留める壁となる。
 鮮血が飛び散る中、ミリアの癒しの雨とエルスのオウガ粒子がユーカリプタス達を支え、リカルドとクラトが前衛陣を圧迫する殺戮機械を排除すべく攻撃を加える。
「使い手を牽制しないと次々と喚ばれるだけだからな」
 その間にドラゴニックハンマーを砲撃形態に変えた柚月が、雪人に狙いを定めると、トラッシュボックスに喰らい付かれた殺戮機械の姿が霧散し射線が拓けた瞬間、竜砲弾をぶっ放す。
「さあ、主導権を取られっぱなしにはいきません。盛り上がっていきましょうか」
 ユーカリプタスがスイッチを押すと、ケルベロス達の背後でカラフルな爆発が起こり、その煙が路地の出口を塞ぎ、背水の陣を敷いたかの如く味方を掻き立て、2体の殺戮機械に押された分を取り返す様に雪人に迫ってゆく。
「俺を狙ったのが運の尽きだな!」
「貴様のカードを……よこせっ!」
 跳躍した柚月の蹴りを交錯した腕で受けた雪人は、短く視線と言葉を交わすと柚月にその腕を延ばすが、リカルドの放った大気の圧縮弾を受けて悔しそうに唇を噛み、竜を嗾け距離をとる。

「カードは持ってないんだよな。紙兵じゃダメか? ……駄目かー」
 メンバーの中でカードを持っているのは柚月とジョニーだけであり、2人が視界に入ると雪人が目を血走らせて攻撃しようとする為、睡は紙兵を撒いてその2人を中心に守りを固めていた。
「カードを……カード……えぇい、邪魔をするな!」
 畳み掛けるケルベロス達に苛立ちを募らせた雪人が、黄金の融合竜のエネルギー体を叩き付け、仲間を庇ったユーカリプタスが吹っ飛ばされる。
「しかし、攻撃パターンが読みやすい分、楽ではあるな。さぁ巻け叡智、示し導き、風よ絶て。吼えよ、絶風の『咎凪』よ」
 吹っ飛ばされたユーカリプタスをミリアが回復を図るのを横目に、リカルドが飛ばした圧縮弾が、カードから更に喚ぼうとしていた雪人に爆ぜ、舌打ちして下がる雪人。だが、
「逃がす訳ないでしょう」
 逃がさじとエルスが時空凍結弾を放ち、クラト達が相対距離を縮めに掛る。
「もう観念すればいいのに……往生際が悪いね。それ以上下がらないでくれるかな? 此の華は香らず。只、白く舞い散るのみ」
「お前がとっておきの札を使う前に、息の根を止めてやろう」
 白蓮の裾を揺らしクラトに続いた睡が、嘆息気味に詠唱を紡ぎ『雨燕』の刃を振るうと、雪片から迸る冷気が雪人の足を縛り、続いたリカルドの重い飛び蹴りを喰らった雪人の頭ががくんと揺れ、その足元がふらついた。
「ギッ……おのれ!」
 それでもカードで円を描き、槍騎兵をリカルドにぶつける雪人。
「無駄な足掻きです。その一挙手一投足は、私達の前に全て無駄になるでしょう」
 エルスのオウガメタルが鋼の鬼となり、現れたばかりの槍騎兵をその拳で粉砕した。


 再びカードの円から現れた殺戮機械達が前衛陣を押し捲る間に、飛び出したクラトとリカルドが跳躍し、左右から雪人に重い飛び蹴りを見舞うと、その立ち位置を入れ替え、そのまま雪人の後ろへと走り抜ける。
「なにっ!?」
 慌てて顔だけ後ろに向けた雪人に、
「横に狭いなら、場所を縦に使えばいいだけだろう」
「その通り、なかなか抜けなかったが、暴れる機械に油断したな」
 リカルドとクラトが頷いてみせる。
 2人は僅かな油断を突いて雪人の背後に回り込んだのだ。
「抜けれましたか。ではここで一気に畳み掛けましょう。皆さんもう一踏ん張りです」
 その様子を見たミリアが、癒しの雨を降らせて味方を鼓舞し、その援護を受けた仲間達が殺戮機械を排除して雪人へと迫る。
「紅蓮の天魔よ……」
 エルスが掲げた掌に、現世の隙間に漂う虚無の力が渦を撒いて集まり、最初に肉薄した睡が雨燕の刃を鞘走らせ一閃を見舞い、
「退路遮断は任せてもらおう」
 そのまま雪人の後ろへ抜け顎をしゃくると、睡と入れ代わる形でクラトとリカルドが雪人の背後から攻撃を仕掛ける。
 背後からの挟撃に、前後にせわしなく動く雪人の顔。
「我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ!」
 そこにエルスの詠唱が結び終わり、悪魔の如き黒炎が唸りを上げて叩きつけられ大爆発を起こす。
「切り札ってのはこう使うんだよ」
 そのエルスが叩き付けた黒炎の爆発の中から、ジョニーの声が聞こえ生じた煙を払う様に、雷を纏った拳が降り注ぐ瞬雷の如く叩きつけられ体をくの字に曲げる雪人。
「調子にッ……乗るなケルベロス供ッ!」
 ギリギリと奥歯を鳴らし、黄金の融合竜のエネルギーを嗾ける雪人だったが、直後背後からのリカルドとクラトの攻撃に晒され、
「ここはユーカリにお任せあれ。皆様早くトドメを」
 軽く会釈したユーカリプタスがトラッシュボックス共に、紫色のポニーテールを踊らせて黄金の融合竜を受け持ち、その間に次々と脇を抜ける仲間達。
「お前はもう、終わりだよ。お前が持っていない『とっておき』だ。天より落ちよ星の閃き! 顕現せよ! シューティングスター!」
 柚月が雪人の眼前にカードを突き付けると、思わずそのカードに手を伸ばす雪人。
 柚月の周りに次々と星型のエネルギー弾が現れ、柚月と雪人の周りを高速で周回して上昇すると、1つの『星』となって雪人の脳天に降り注いだ。
「ガッ……カード……を……」
 血涙を流しカードを繰り出そうとする雪人の手から、カード達がばらばらとこぼれ落ち、地に落ちたカードが鮮血に彩られると、妄執のドリームイーターはその上に崩れ落ちたのだった。

「切り札も大事だけどそれまでの布石も大事だよね!」
「なかなかに厄介だったが、無事で何より」
 雪人が完全に動かなくなった事を確認したジョニーが、いい笑顔で振り返ると、頷いたリカルドが柚月に顔を向ける。
「助かった……ありがとう」
 柚月は頭を下げ仲間達に礼を述べる。
「無事に倒せて良かったですね。しかし、戦いで壊れた部分が……」
「しっかし、またド派手にやったなぁ……」
 柚月に笑顔を返したクラトが周囲を見回すと、女性陣と距離をとりつつ、主に殺戮機械によって蹂躙された路地裏の残状に嘆息する睡。
「ではしっかりヒールするとしましょう。元以上に綺麗に仕上げるのがメイドの腕の見せ所です」
 寄ると離れる睡を気にした様子も無く、トラッシュボックスを連れたユーカリプタスが、被害の惨い場所からヒールを始めると、
「カードゲームというのは極めようとすると奥が深いですからね。そう言えば全部で11万5535種類のカードがあるゲームがあるらしいとか……」
 ユーカリプタスと話しながらエルスもヒールを始める。
「路地裏と言えば猫さんです。こんな事になってこの路地裏の猫さんのアフターケアをしなければ……」
 とミリアが猫を探して路地の奥へと姿を消す。
 しばらくして周辺のヒールを終えたケルベロス達は、猫が見つからなかったのか、しょげかえって戻ってきたミリアを回収し、路地裏を後にしたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。