猫こそ至高であるゥ!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「俺は常々思うんだ! ペットを飼うなら猫を飼うべきだと! だって、そうだろ? 猫は可愛い! 猫はもふもふ。気まぐれな所が特にイイッ! なんつーか、あれだ! 攻略し甲斐があるって言うか、何と言うか……。とにかく、細けぇ事はイイなだよ! そう思っちまうくらい猫がイイって事だからなッ!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、信者達は幸せそうな表情を浮かべ、沢山の猫達と戯れるのであった。

●都内某所
「猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、信者達は猫と戯れるのに夢中で、ビルシャナを助けないかも知れません」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)
リリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)
弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)

■リプレイ

●教会前
「ねこはいいよね……」
 三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)は猫の事を考えながら、ビルシャナが拠点にしている教会の前にやって来た。
 ビルシャナは猫こそ至高と訴えており、教会を猫屋敷にしているようである。
 そのため、猫が棲みやすいような環境になっているらしく、自然と野良猫達が集まって楽園と化しているようだ。
「猫が可愛い? 猫こそが至高? わかっとるやーん」
 猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)が、悔しそうな表情を浮かべた。
 本来ならば、ビルシャナの教義を否定する立場にあるのだが、今回に限っては認めたくて仕方がないようである。
 ……と言うよりも、認める要素しかないように思えてきた。
 もちろん、立場上はビルシャナの教義を認めるべきではないのだが、そのまま入信しそうな勢いでワクワク感が止まらない。
「うーん……否定のしづらいビルシャナがきたなぁ……ずるいや……。確かに可愛いもんね、猫……」
 メルティアリア・プティフルール(春風ツンデレイション・e00008)が、複雑な気持ちになった。
 しかも、教会の中から猫達の幸せそうな鳴き声が聞こえてきたため、遊びたくてウズウズしているようだ。
「確かに猫さんは可愛いですし、僕も大好きです……。大好きですが……」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が猫耳っぽい飾りの付いたパーカー姿で、自らの心に生じた迷いと必死になって戦っていた。
 ここで自らの迷いに屈するような事があれば、その流れで即入信しかねないため、色々な意味で既に戦いが始まっているようだ。
「猫さんが可愛いのは認めるし、気まぐれツンデレはわたしも大好物だけど、強制するのはちょっとねー……そしてなによりもっ! 猫さんよりも、猫ねぇ(千舞輝)の方が可愛い! ここは譲れないっ!」
 そんな中、秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)が、キッパリと言い放つ。
 そう言いつつも、当の千舞輝自身が魅惑のにゃんこゾーンに突入しそうな勢いであるが、必ずやギリギリのところで踏み止まってくれる……はず。
「猫さんは至高、それは認めます……が、ビルシャナ化したらダメです。そんな事をしたら、パートナーからご飯に成り下がっちゃいます!」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)が、猫好きの一般人がビルシャナと化した事を非難した。
 それだけ猫が好きだったのかも知れないが、ビルシャナと化した事で、失ったものの方が多い事に、本人が全く気付いていない可能性が高そうだ。
「これって人によっては強敵、ってカンジ? ま、私は嫌いじゃないけどそのへんこだわりは特にない、ってくらいだから、あんまり気にならないんだけど、ネ」
 リリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028)が、苦笑いを浮かべた。
 この時点で目には見えない強敵と戦っている仲間達がいるため、もしかすると苦戦するかも知れない。
 そんな不安が脳裏に過っているものの、ビルシャナ相手であれば何とかなると思えてしまうところが怖いところである。
「どうやら、ネコ科のヒョウやジャガーも至高のようでございますね。それ故に、このまま放っておくと面倒な事になるのは間違いないのでございます」
 そう言って弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)が、仲間達を連れて教会の中に入っていった。

●教会内
「いいか、お前等! 猫こそ至高! 猫最高! やっぱ、猫ッ! 猫だろ、マジで!」
 教会の中にはビルシャナがおり、信者達と一緒に、猫と戯れている最中だった。
 猫達はみんなと合わせそうな表情を浮かべ、ビルシャナ達にゴロニャンと頬擦り。
 幸せそうな表情を浮かべながら、喉をグルルンゴロンと鳴らしていた。
「猫は可愛い! だがしかし! 猫ねぇはもっと可愛い! ツンとデレの絶妙なバランス! ボケとツッコミに加えて、ノリツッコミまでこなす万能全対応っぷり! そして、そして、そしてぇ! なんと言っても、あの魅惑のぼでー! ……やーらかいんだよ? さ、みんなで猫ねぇ教に改宗しよう!」
 結乃が満面の笑みを浮かべながら、千舞輝にギュッと抱き着いた。
「そうそう、猫ねぇは可愛い……ってウチかーい! え、そこでウチ出すん? いや、そんなツンデレした覚えもないんやけど……べ、別にそんなツンデレしたいわけじゃなんだからね! ……って、いや、待って! そこで微妙に誤解受けそうな物言いは、とりあえずストップせぇへん?」
 千舞輝が酷く焦った様子で、結乃にツッコミを入れる。
「やっぱ、猫だな」
 ビルシャナが白猫を抱き上げ、力強くウンウンと頷いた。
 まわりにいた信者達も、目の前の猫に夢中ッ!
 そのため、イカつい顔で猫語を喋るニャンとも言えない異様な空間が出来上がっていた。
「確かに、猫が至高であるという主張は一理あるでございます。ございますが、猫アレルギー持ちで猫好きでも関われない方らへの救済はあるのでございますか? 至高であるならば、全ての人が楽しめるようにすべきかと思いますが……。それなのに、一部だけしかその良さを味わえないところで猫が至高を主張されるのは如何なものかと……」
 天鵞絨がビルシャナ達を前にして、自分なりの考えを述べる。
「猫アレルギーなど、単なる思い込みだ! 何故なら、猫は至高の存在ッ! 故に拒絶反応を示すようなヤツはいないッ! 例え、そう感じたとしても気のせいだ! 気合とガッツと根性で何とかなるシロモノだ!」
 ビルシャナが興奮した様子で叫び声を響かせた。
 まわりにいた信者達も、『気合と根性とガッツだ!』と叫ぶ。
「猫がかわいいのは否定しないけど、全員が無条件に愛でるべきって論調は、どうかと思うなあ、私……」
 リリィエルが残念そうに、深い溜息をもらす。
「……たくっ! 随分と細けぇ事を気にする奴なんだな。そういうのは、ごく一部ッ! ほんの一握りの人間だ! だから気にする必要なんてねぇよ!」
 ビルシャナがやれやれと言わんばかりに首を振る。
 自分にとって都合の悪いモノは、すべて『なかった』事にしているようだ。
「細かい事はいい、じゃダメです! 猫さんの細かいところも見ないと、体調不良に気づけませんし、ましてや『もう毛繕い止めて』って言葉にならないアピールも気づけません! トイレのタイミングにも気をつけないと、猫砂を清潔に保てません……。『細かいことはいい』なんて言って、これらをないがしろにしては猫さんが可哀想です! ……ところで、この猫さん、毛繕いより、ご飯を希望してませんかね?」
 ミリアがビルシャナ達に語り掛けながら、カリカリを持って猫達に近づいていく。
 猫達は興味を示したり、まったく興味を示さなかったり、遊び始めたりと様々。
「これだよ、これ。これこそ、猫の魅力ッ! 俺達の予想をイイ意味で裏切る、この態度だ!」
 そんな猫達を満足そうに眺め、ビルシャナが興奮気味に語り出す。
 まわりにいた信者達も上機嫌な様子で、微妙な表情を浮かべる猫達をワシャワシャと撫でていた。
「まあでも、簡単に猫を愛でる……なんて言うけど……。猫なんて愛でるまでが大変だよ? 最初は警戒して近寄ってこないし、変にプライドが高かったり……って、すっごく人懐こいんだけど……。あ、いや、だから……その……うわあ!」
 メルティアリアが猫達に飛び掛かられ、困った様子で声を上げる。
「警戒心が強くて、プライドが高くて、気まぐれでって、何だかメルティ君みたいね? ほら、みんな仲間だと思って懐いているし」
 リリィエルが悪戯っぽくメルティアリアを見つめ、からかうようにクスリと笑う。
「……ちょっと。今、だれかボクみたいって言わなかった? おあいにく様、ボクは慣れなくたってかわいいし、慣れたからといって甘えたり媚びるわけでもないもの」
 メルティアリアが猫達と戯れながら、リリィエルにぷんすか怒る。
「これで分かっただろ。猫こそ至高である、と!」
 ビルシャナが妙に上から目線で、ケルベロス達を見下ろした。
「確かに猫さんは可愛いですが、赤ちゃんや他の動物さんと一緒だと、あまり良くないです……。例えば、インターネットで猫さんの背中の上に鳥さんが乗っているような可愛らしい写真をたまに見かけるのですが、実際は狩猟本能を刺激されて、凄惨な光景になっちゃう事が多いです……。まあ、主に凄惨な姿になるのは鳥さんの方ですが……」
 夏雪が猫をヨシヨシと撫でながら、ビルシャナに哀れみの視線を送る。
「その点なら心配ないッ! 俺達にとって、猫は家族であり、友達であり、身体の一部なのだから……!」
 ビルシャナがキリリとした表情を浮かべ、躊躇う事無く答えを返す。
 まわりにいた信者達も何かに取り憑かれた様子で、『そうだ、そうだ』と連呼した。

●ビルシャナ
「いやぁ、たまには話のわかる鳥も居るやん。その調子で猫信者増やしていってなー。頼むわー。ところで、ここの猫達、どこから連れてきたん? この近所? それとも、ここが集会所?」
 千舞輝が猫達と戯れながら、不思議そうに首を傾げた。
「……ん? なんだ、そんな事か。買って来たヤツもいれば、拾ってきたヤツもいる。ここに迷い込んで来たヤツもいれば、勝手に棲みついたヤツもいる……。まあ、出入り自由だから、あまり気にしていないんだが……」
 ビルシャナがペルシャ猫を撫でながら、今更気づいた様子で答えを返す。
 あまり意識をしていなかったせいか、きっちりと把握している訳ではないようだ。
「ところで、みんな……何かおかしくない? ビルシャナは猫じゃなくて、鳥だ。猫の言う事ならまだしも、みんな鳥の言うことを聞いちゃうの?」
 結乃が妙に驚いた様子で、信者達に視線を送る。
「た、確かに……」
 信者達も『それは盲点……』と言わんばかりに、ビルシャナの方を向いた。
「にゃあ!」
 それに気づいたビルシャナが、猫耳バンドをすちゃっと付けた。
「猫じゃねえか!」
 信者達もビルシャナを『猫』だと認識し、ケルベロス達にツッコミを入れる。
「でも、猫さん達は騙せないのでは? 何やら羽毛で狩猟本能が刺激されているようですし……。……それともビルシャナって、猫さんにとっては美味しくない……?」
 ミリアがビルシャナを見つめ、キョトンとした表情を浮かべた。
「美味しい……美味しくないの問題ではない! これは単なる甘噛みだッ!」
 ビルシャナがくわっと表情を険しくさせ、キッパリと言い放つ。
 気のせいか猫が羽毛を引き千切っているような気もするが、ビルシャナ的には甘噛みの一環らしい。
「ねこはいいよね……」
 そんな中、いさなが猫を愛でながら、信者達に関節技を決め、縄で縛りあげていた。
 それはまるで流れ作業の如く的確で、猫達にストレスを与える事のない動きであった。
「キミ達には特に恨みはないんだけど……ごめんね?」
 メルティアリアも申し訳なさそうにしながら、信者達に手加減攻撃ッ!
 信者達は何が起こったのか、理解する事が出来ぬまま、パタパタと重なり合うようにして倒れていった。
「お前等、俺達はただ……猫を愛でていただけなのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 それに腹を立てたビルシャナが殺気立った様子で、孔雀の形をした炎を飛ばそうとした。
 これには猫達も驚いて飛び上がり、一目散に教会から飛び出した。
「猫への歪んだ愛情はあの世で存分に語りなさいねー」
 すぐさま、リリィエルが曲刀をブーメランのように投げつけ、ビルシャナの脳天をかち割った。
「お、俺はただ……猫が……」
 ビルシャナが白目を剥き、血溜まりの中に沈んでいく。
 しかし、その傍に猫達はいない。
 ただの一匹も、そこにはいない。
「教義自体同意できなくもないでございますが、ビルシャナは過激でございますからね」
 天鵞絨がビルシャナを見下ろした。
 教義自体は間違っていなかったかも知れない。
 だが、強いて言えばビルシャナと化した事が間違いだと言えるだろう。
「でも、猫さんの家がなくなってしまいましたね。すぐに飼い主になってくれる人が現れるといいのですが……」
 そう言って夏雪が複雑な気持ちになりつつ、猫達が出て言った方向を眺めるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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