城ヶ島強行調査~スニーク

作者:あき缶

●城ヶ島という竜の巣
 鎌倉奪還戦と同時に、ドラゴンは城ヶ島を制圧し、拠点を守っていた。
 島の外へ出てきたドラゴンは、尽くケルベロス達に撃退された。配下のオークやドラグナー、竜牙兵は今も付近を蹂躙しようとしては、退けられている。
「そんな竜の巣に、強行調査に行こうって話になりましてん。かーなーり危ない話やけど、お願いできます?」
 香久山・いかる(ウェアライダーのヘリオライダー・en0042)は、ブラッド・ハウンド(生き地獄・e00419)をはじめとするケルベロス達にそう尋ねた。
 ブラッドは元より、『城ヶ島のドラゴン制圧圏に対し潜入調査をすべきだ』と思っていたので、この依頼は渡りに船であった。
 任務を受けると告げたケルベロス達に、いかるは礼を述べてから、詳細を伝える。
「城ヶ島を正面から攻略するんは、ちょっと難しすぎるわなぁ」
 故に、小規模の部隊を多方面から侵入させるという作戦がとられることになった。
「どっか一部隊だけでも島の内部を調査できれば、御の字やと思いますわ」
 城ヶ島の敵戦力、拠点情報、何かしら情報がつかめれば、次の一手が打てる。
「潜入方法は皆さんに任せるわ。せやけど、ヘリオンで島へ直接降下! っていうのは自殺行為やからやめときましょ。僕は、皆さんを三浦半島南部まで送りますさかい、あとはケルベロスだけで潜入してほしいんや」
 島の中はドラゴンが多数潜んでいるだろう。多くのドラゴンに囲まれれば、なすすべがない。
「敵に発見されたとしたら、ドラゴンとの戦闘になると思う。たとえ勝っても、次のドラゴンがすぐ来るで。勝ち負けにかかわらず、戦闘後は絶対に撤退するんやで。強行はやめてや」
 つまり敵に出逢えば、もう調査どころではなくなるということだ。
「それでな。もし、戦闘になったら、出来るだけド派手に戦って、他の部隊がおるって悟らせんようにして欲しいんや。これはチームワークやから、援護も大事な仕事と思ってな」
 だが、引き際を間違えれば命にかかわるだろう。
「……いのちだいじに、やで」
 いかるは真剣な眼差しでケルベロス達を見つめるのであった。


参加者
寺本・蓮(平平凡凡・e00154)
ブラッド・ハウンド(生き地獄・e00419)
蛇荷・カイリ(笑う二十八歳児・e00608)
立花・佑繕(六重鐵鎖・e02453)
リン・グレーム(機械仕掛けの銃使い・e09131)
山口・ミメティッキ(サキュバス失格・e10850)
ソル・ログナー(希望を護りし勇士・e14612)

■リプレイ

●雲霞
 ソナー付き小型船舶は、全速力で竜の巣たる城ヶ島へと向かっていた。
 ケルベロスが上陸地点として選んだのは、島の東側にある安房崎である。
 周囲の者が敵地へと乗り込む事に緊張しているのを見て、山口・ミメティッキ(サキュバス失格・e10850)は口元に笑みを浮かべた。
(「周りはガチガチね……でも、リラックスリラックス。余計な力は要らないの。いつも通りで……」)
 なぜなら、相手が何者であろうと普段通りの皆なら成し遂げられる、とミメティッキは信じている。同じ黒猫師団のメンバーが多いためか、彼の心は平静であった。
 逆にリン・グレーム(機械仕掛けの銃使い・e09131)は、どこか落ち着かない様子である。仮面に隠された奥には、ドラゴンという強敵と対峙するという恐れが隠れていた。
 しかしリンの恐れは怯えではない。ただ目的達成を成し遂げんと慎重になっているだけだ。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……。ん?」
 船の舳先に立ち、島を眺めていた寺本・蓮(平平凡凡・e00154)は、不意に異常に気づく。
 目指す安房崎の目印となる灯台、そのすぐ西側から黒い点が次々に湧き上がったのだ。
「あそこは、たしか城ヶ島公園の方? で、あれは烏……?」
 事前に調べておいた島の地図を見て、蓮は一瞬首をひねりかけたが、青くなる。
 まるで夕暮れにねぐらへ帰ろうとする烏の群れ。だが烏にしては大きすぎ、そしてこちらに向かって飛んできている。ならば今の状況を鑑み、導き出される正体はただ一つ。
「ドラゴン……」
 信じがたいとばかりに、リンが双眼鏡をひっつかみ、そして蓮の予想が正しいことを思い知る。
 そう、あれは烏ではなく、ドラゴンの群れだ。
「まだ藪もつつけていないというのに……!!」
 レイ・ライトブリンガー(九鬼・e00481)は渋面で、ドラゴンを睨んだ。
 ドラゴン達はグングンとこちらに向かって影を大きくしていた。その数、両手では数えきれない。
「多すぎる!」
 蛇荷・カイリ(笑う二十八歳児・e00608)は青ざめた。
「大橋より断然こっちのほうが警戒が厚かったようだね」
「……そこに何か、あるのか?」
 冷静に立花・佑繕(六重鐵鎖・e02453)とソル・ログナー(希望を護りし勇士・e14612)が分析するものの、彼らの思考を破くように、
「回頭すべきっ?」
 ミメティッキが舵を掴んで叫ぶように尋ねる。
「もう遅えッ!」
 ビリビリと空気を震わせ、ブラッド・ハウンド(生き地獄・e00419)ががなった。
 小型船舶も全速力、ドラゴンも全速力。もう間もなく接敵することになるだろう。考える時間は少なすぎる。
「さて、どうする?」
 レイがブラッドに尋ねる。
「チッ! ~~~~ッ」
 ギリギリと歯噛みし、ブラッドは斜め下を見やった。
 水中を潜行していくケルベロス達の影が見える。
 この任務はチームプレイ。自分たちが成せなくても、誰かが成し遂げてくれればケルベロスの勝ちだ――。
「上陸は諦めて、ここで陽動して、引き付けるっすか」
 リンが提案した。
 一瞬、しぃんと船上が静まり返り――、ブラッドが口火を切った。
「生き残れよ」
 静かに言い、拳を突き出す。
 真顔で佑繕がその拳に己の拳をぶつけた。
 それを見て、レイは微笑むと応える。
「なに、妻と義娘を残して死ぬわけにはいかないさ」
 リンは仮面を外すと、頷いた。
「やれることをやれるだけやりましょうっす」
「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。――生きてりゃ、万事OKだ」
 ソルの微笑を伴った言葉に、
「なぁに、皆が一緒なら大丈夫よ☆」
 ミメティッキは微笑みを返して、コツンと拳を軽く当てた。
 カイリは心のなかで誓う。
 ここにいるメンバーは皆、大切な人が帰りを待っている。だからこそ。
(「私が、皆を連れて帰るんだ……!」)
「さあ、用意は良いかい? 来るよっ!!」
 蓮はリボルバー銃を上空に向けると、銃弾を大量にばら撒いた。
 それを合図にして、ミメティッキが舵を切り、船は城ヶ島から一転遠ざかり始めた。
 十ちかくのドラゴン達の目が、こちらに向く……。
 このまま、島からドラゴンを引き離し、仲間の上陸を助ける。それがケルベロス達の任務になった瞬間であった。

●圧倒
 レイが指弾で礫をばらまく。
 リンのライドキャリバー『ディノニクス』がガトリングを乱射する。
 カイリが縛霊手から巨大な光を放った。だがドラゴンもさるもの、体を傾けて、楽々と避けていく。光は虚しく遥か遠くへと飛んで行く。
 リンのガトリングガンが轟音を上げながら回転し、目にも留まらぬ速さで飛び出した弾丸はドラゴンの翼に見事あたっているはずなのに、翼に穴があかない。
「硬いっすね」
 ミメティッキのビハインド『アメちゃん』が心霊の力でドラゴンを縛ろうとするもうまくいかない。
 ドラゴンが口を開いた。しかも、複数。
 炎が襲いかかり、冷気が降り注ぎ、雷電が走り、毒が漂う。
 火傷を負い、凍傷を負い、感電し、毒に侵され、苦しむ面々にミメティッキは、攻性植物の果実から放たれる黄金色の光を当ててやる。
(「ヒール以外のことをやってる暇なんて、くれないわね……」)
 状況は思ったより深刻であった。
 精神力を極限まで高めることで、ドラゴンを爆破しようとするも、うまく目当ての場所を爆破できないソルは、天を仰いで歯噛みする。肉弾戦が出来れば、ソルももっと戦いようがあったのだが。
「降りてくる気はない、か」
 ドラゴンはあくまで飛び続けるつもりだ。上空から睨みをきかせ、一方的にブレスを吐いて、ケルベロスを沈めるという作戦なのだろう。
「クソが。棒立ちで的になってろってのかよ」
 ブラッドは視線で殺せるならば、ドラゴンをも殺していたであろう強い視線で天を睨めつける。こちら側の火力が足りない。十全な八人が全力になったところで、七体もいるドラゴンに歯が立つかといえば、それは否だが。
「……」
 ソルは佑繕を見やる。ブラッド同様に、佑繕は遠くにいる敵を攻撃するすべを持たない。
 佑繕はソルの視線に気づくとヘラリと笑って、大丈夫だと視線だけで応えた。
 後列に放たれた焔の息……カイリはミメティッキを、佑繕はリンを庇った。攻撃手段がなくとも、佑繕には他の者を庇うという大事な仕事がある。
「これが終われば、ソルと『真剣勝負』だからね。死ぬ気はないさ……」
 分身の幻を生みつつ佑繕は呟くも、彼の内部は大いに恐怖していた。強大なデウスエクス・ドラゴニア、それも複数体が、上空を旋回しているのだから。
「そんじゃ、ここいらでいいところ見せるかね。『起動(イグニッション)』!!」
 蓮が召喚した九つの銃器と延焼弾が、次々に火を噴く。
 焔にまかれたドラゴンだが、あまり苦悶の様子は見せなかった。
 そもそも一体相手でも、今のケルベロスにとっては命がけだ。複数相手ともなれば、戦況は絶望的であった。
 左手に光を集めたレイは、詠唱する。先ほどの礫と同じく理力を用いる技だ。見切られてはいるだろうが、このまばゆい電磁投射砲は陽動にはちょうどいい。
「数多煌めく光の粒子よ。我が左手に集いて彼の敵を撃ち滅ぼさん。我が名は光の運び手(ライトブリンガー)なり!」
 しかし、それは電撃のブレスが押し返した。紫電が船に這いまわり、佑繕は痺れて動けなくなる。
 カイリが前衛達にむけて、霊力を秘めた紙兵を大量にまいて、支える。
「しっかり! 全員で生還するんだから!」
「そんな悲痛な顔しないで、心配しなさんな」
 ミメティッキはカイリを落ち着かせようと微笑み、ほんのりと甘い香りを空気に乗せて漂わせた。
 優しい香りがカイリの鼻腔をくすぐり、カイリはこわばった気持ちが少しほぐれる思いがした。
 リンの体からミサイルポッドが露出、ディノニクスの放つガトリングガンバレットと共に、大量のミサイルが上空へと迎撃していく。
 確実に当たってはいるのだが……ドラゴンにとっては、問題にするほどの損傷ではないらしい。攻めは一切緩みを見せない。

●水底
「残念だが……もはや船がもたないぞ」
 レイが悔しげに言った。すでに船はところどころ損傷し、燃えている。着岸までに沈没することは火を見るより明らかであった。
 船はだいぶ本土側に移動できていた。上空のドラゴンも、島からは十分に離されている。
 陽動という目的は、達成したといえるであろう。
「んじゃ、船は諦めて、海に飛び込んで逃げようか」
 リボルバー銃の弾丸を天にばらまき、蓮は言った。
 真剣な面持ちでカイリが頷く。
「皆、生き残るんだよ」
 ソルが目を閉じ、薄く笑う。
「俺達全員が結束すれば、なんてないさ」
 ミメティッキが全員に再び黄金の果実の光を当て、
「……よし、いくか!」
 と言うと海へと飛び込んだ。アメちゃんが彼に続いて、水の中へと移っていく。
 彼らを皮切りに、カイリ、ライドキャリバーを連れたリン、蓮、レイ、ソルと佑繕、ブラッドが飛び込んだ。
 次の瞬間、氷のブレスが船に直撃し、船は真っ二つになるとエンジンから火を噴きながら沈んでいく。
(「間一髪っす……」)
 リンはほっとしたが、その安堵も一瞬で掻き消えた。
 ぐわぁっと深海から大きな口を開けて、海竜が襲いかかってきたのだ。
「!」
 巨大な爪に貫かれ、リンが沈んでいくのをカイリが抱きつくようにして止める。
「私が……、連れて帰るんだ……『人』の力で……最後まで、足掻いて……ッ!」
 カイリはオーラを分け与え、リンの命をつなぎとめる。
 しかし、水中のドラゴンは諦めない。カイリに追いすがらんと尾をくねらせて加速しようとする。
 そのとき。
「ぶっ散れァッ!」
 打ち上げて、打ち下ろす。ブラッドの強力な拳が水中ドラゴンを吹き飛ばした。
 船上での鬱憤を込めに込めた渾身の一発は、痛烈にドラゴンを苛んだらしい。ドラゴンは苦痛の声をあげた後、島に向かって戻り始めた。
 一匹退けたとはいえ、水中のドラゴンはまだいる。
 今度はレイに向かって巨大な尻尾が打ち下ろされた。蓮が庇うも、かばい切れる痛みではない。
 佑繕が蓮を受け止め、ソルがドラゴンに星の力を込めた拳を叩き込む。おまけとばかりに、佑繕が練達の一撃を続けざまに放つ。
 島から離れようとするケルベロスに、そこまで執着はないのか、ドラゴンはつまらなそうに水底へと帰っていった。
 ケルベロスは海岸を目指し、ひたすらに泳いでいく――。

●そして
 結果的に七体のドラゴンの目を、他のケルベロス達から引き剥がした一同は、漁船に助けあげられていた。
 ブラッドは、彼にしては無言を貫き、島を睨みつけていた。
 ブラッドにとって、今回は無念の一言であった。潜入もドラゴン殺しも叶わなかった。陽動と、他チームの支援という立派な任務を果たせたが……やはり自分があの島に入りたかった。
「…………役には立ったのかな」
 漁師からふるまわれた温かい汁の入った椀を抱え、佑繕は誰にともなく言う。
「少なくとも、水中から進んだ者は上陸できたさ。そう信じたいね」
 レイは島を見やる。そこここで戦闘が起きているらしく、島は騒がしいようだ。喧騒が風にのって届く。
 ミメティッキとカイリは、リンと蓮にヒールをかけてやっている。あのドラゴンの猛攻を受け、誰一人沈まずに済んだだけでも僥倖である。
 特にカイリは、誰も暴走することなく、はぐれもせずに戻ってこれたことに、素直に安堵していた。
(「ちゃんと、連れて帰れた……」)
 ソルは椀の中身を飲み干し、冷えた体に染み入る暖かさを噛み締め、呟いた。
「生きてたんだ。万事OKだ」

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 23/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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