城ヶ島強行調査~潜入は忍が如く

作者:天満銀灰

「大作戦、開始ですよ!」
 張り切りすぎた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の大音声が集まったケルベロス達の耳に響いた。
 
「遂に、城ヶ島を乗っ取ったドラゴン達を倒す準備を始めるのです!」
 未だ記憶に新しい『鎌倉奪還戦』後、ドラゴン達は三浦半島南部の城ヶ島を制圧し拠点を作っていた。
 ケルベロス達の活躍により城ヶ島の外に出て来るドラゴンは撃退された為、現在は守りを固めながら配下のオークや竜牙兵、ドラグナー達を派遣し事件を引き起こしている。
「先日も発生した三浦市での竜牙兵達による暴動を阻止した後、鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)くんが独自調査してくれたんです!」
「ええ。龍脈を追った所、ドラゴンの前線基地を発見したのです」
 調査報告を終えた潮流も隣でゆっくりと頷く。ねむがお疲れ様です!等労りの言葉をかけると忍者の青年は恐縮ですと丁寧に返した。
「城ヶ島は現在多数のドラゴンが生息する危険な拠点である為、今まで攻略する事が困難でした。ですが私の行動や他のケルベロス達の作戦提案により今回『強行調査』が行われる事になったのです」
 大変危険な任務であるが、城ヶ島奪還の重要な足掛かりになるだろう。
 皆様が参加して頂けるならば心強いですとそこで潮流は言葉を切り、ねむが再度声を上げる。
「現状、城ヶ島を正面から攻略するのは難しいです。なので小規模の部隊を作って多方面から侵入させる形を取るのですよ!」
 少しでも多く、情報を得なくてはならない。その為に戦力を分散させ敵の目を掻い潜り1部隊でも内部の状況を調査したいというのが狙いだ。
 今回の作戦で城ヶ島内部の敵戦力・拠点内部の情報が判明すれば攻略作戦の立案が可能になる。
「潜入方法はみんなに任せます。でも、ヘリオンでドラゴンの警戒空域に侵入するのはすぐにばれちゃうので出来ないのですよ」
 それは自殺行為に等しい為、ねむが案内できるのは三浦半島南部迄になる。
 後はケルベロス達が潜入方法を考え実行して欲しいとねむが続けた。
「勿論色々フォローします! 小型の船舶とか潜水服とか、水陸両用車程度ならばっちりご用意できますので必要なら申請してくださいです!」
 何が良いですか!?と早まるねむにケルベロスは作戦が未だと返すと、少しだけ照れた笑みを浮かべた。
「ええっと、後はですね敵に見つかっちゃった場合は恐らく島に居るドラゴンとの戦闘になるです」
 現在ドラゴン達の巣窟となっている場所だ、例え一匹倒す事ができても直ぐに別のドラゴンがやってくるため交戦する事は調査断念を意味するだろう。
「でもでも、やれる事はあると思うのです! もし戦闘になったとしたら出来るだけ目立つ戦い方をして、他の調査班が見つからないように陽動するのも重要な役目ですよ!」
 如何に見つからず、忍び込み成果を手にするか。
 または見つかったとしてもどれだけ派手に喧嘩の華を咲かせるのか。
「何方も凄く危ない道だと思うのですよ。少しでも危険を感じたら余力がある内に撤退して安全な所まで逃げて欲しいのです」
 引き際を間違えれば最悪の結果にも成り得る。
 最後はねむも気を引き締めた顔をしてぐっと拳を握り、頑張ってくださいですと締め括った。


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)
葛葉・影二(闇を駆ける者・e02830)
風祭・春風(江戸っ娘台風娘・e05406)
藤木・友(滓幻の総譜・e07404)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
皇・ラセン(デイブレイクショット・e13390)
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)

■リプレイ

●航海
 潮風が乗船者達の頬を撫でるも、心地良いと感じる余裕は今の彼等には無い。
 皆一様に此度が作戦の為、身を隠密で固め潜入する道具を持参し海の向こうに望む目標――城ヶ島を見据えていた。
「……好機到来、というやつだな」
 普段見せる見事な銀狐の耳や尾を隠した葛葉・影二(闇を駆ける者・e02830)が呟く。
 ドラゴン達から島を取り戻す決意の下集まった、彼等が選んだ道は忍んで潜入し情報収集を重きに置く事だった。タイミングは陽動班が動き出した後と決め、望遠鏡でウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)が合図を探している。
「ちゃんとお仕事こなしたいね。花火、上がるかなー」
「了解合わせる……俺は死なんよ、あんたこそな。――陽動、始まったみたいです」
 携帯電話で通話を終えた藤木・友(滓幻の総譜・e07404)は確信を得た顔で前を向いた。
「潜水して上陸とはレアな体験ですが、張り切って参りましょう」
 今回の切掛を作った鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)も真剣な面持ちで仲間達を見渡す。
「では皆さん、出発です!」
「おっしゃ、オレっちに任せな!」
 風祭・春風(江戸っ娘台風娘・e05406)が漁船に扮した小型船舶のエンジンをかけ、彼等は目的地へと舵を取った。航路は城ヶ島を一旦迂回して南にある馬の背洞門付近迄進軍、そこから海中を経由し上陸する手筈と成っている。
 波音も未だ穏やかで、進行方向からの向かい風はエリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)に咲くエリカの花弁を一枚攫って行った。
「そうだ、これも隠さないと駄目だな」
 常の陽気な性格毎秘める様に地獄の炎で創られた両足を布で巻き終えた後は、カササギに似た翼を黒服の奥へと仕舞いこむ。
「城ケ島を攻略できたらかなりの前進だ、気合入れないと。響ちゃん、海の方は大丈夫?」
 艶やかな黒髪を編みこみ皇・ラセン(デイブレイクショット・e13390)がシニヨンを整えた頃に隣りに居る同じ旅団の仲間、風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)へ声を掛けた。
「今の所は問題ないだろう。もしかしたら此方側は警備が手薄なのかもしれないな」
 陸続きではない南側からドラゴン達の裏をかく。
 その狙いは今ケルベロス達が持ち合わせている情報の中では得策だった。
 更に少し離れた所にも1艘、同じ航路の船が見える。同じ目的が居るのなら尚更心強い。
 だが――。
「人類が生きる為の第一歩です。少しでも何か持って帰りませんと……?」
 不意に友の携帯がメールの着信音を奏でた。
 内容を確認した彼の顔色が変り……急ぎ皆へ文章を伝える。
『水中から赤い戦艦が近づいて来るから、こちらは迎撃に当たるね』
 それは同じ方角から海の中を水中スクーターで移動している別グループのケルベロス、雪姫からだった。
 示された内容に一同の緊迫感が一気に高まる。

●決断の時
 緩やかだった水面が瞬く間に激戦地へと変化した。
 連絡後すぐさま戦闘が開始されたのか、水蒸気を伴う水柱が周囲に発生し波がうねり大荒れを招く。
「くぅっ、舵が思うように取れないぜ!」
 春風の言葉通り小型船舶がバランスを崩す。偏りを修正する為、響がサーヴァントのバトルキャリバーと共に船端に寄れば仲間も行動を合わせる。
「ここに留まっては巻き込まれるな、移動するか?」
「ですが戦艦相手となれば……彼等は大丈夫でしょうか」
 船べりを掴む友が海面を見下ろす。心配そうに、地獄化した右目の炎が揺れた。
「助けたいが、オレ達も参戦したら島に行く所じゃなくなるぜ?」
 戦う事自体は好きなエリオットだが、今回は訳が違う。目指すべき目標は未だ先にある。
 潜水装備は整えているが飛び込み彼等を援護する事は上陸を断念する事に繋がるのだ。
「ウチらのすべき事は、何だろう」
 ラセンの問いかけは仲間達全てに決断を迫っていた。
 荒れ狂う波の中潮流が先を見据え、ロングコートの襟を握りしめながら睨みつける。
「私達は……!」
 その時、海面を警戒し覗き込んでいた響の瞳が何かを見た。
「皆待て、何かが浮上してくるぞ!」
 只ならぬ気配に皆の視線も集中する。
「あれ、はー……」
 船首付近に居たウォーレンも間近にそれを眼にする。瞬間、身に走る緊張とほんの僅かな悦びでぞくりとした。巨大な影が、何かが、此方に来る。
 声を上げる間もなく轟音が船を襲った。
 誰かの叫び声が交差する。影は確実にこの船を狙い、突撃してきた。
 敵がここを、自分達を見つけた。見つけてしまった。
「……最早、是迄」
 影二が立ち上がり、決意の眼差しで仲間達を見る。彼等も、同じ思いで見つめ返した。
「拙者等の任務此処に在り。皆、戦おう」
 頷く間も無く、全員が潜水具を手にした。

●氷結戦艦竜
「準備は良いですね、行きましょう!」
 酸素ボンベを背負い、潮流の号令を皮切りにケルベロス達が次々と大海原へ飛び込む。
 11月の海水が身体を冷やすも構って等居られない。否、気にする余裕等無かった。
(「大きい……!」)
 身を包む泡が消え、塩水に慣れた視界の先で響は巨大な塊が此方を見ているのに気付く。
 体長凡そ12メートル。硬い鱗に覆われ砲台付きの鎧を纏い、所々に水晶を連想させる透き通った角が生えている。
 それは海底より鮮やかな蒼い瞳で眼前の獲物達を捉える……戦艦を象った大型の青きドラゴンだった。
(「こんなドラゴン迄居るのかよ……!」)
 言わば底の深い海を警備・回遊する専用の種と言っても過言ではないだろう。
 南はより防御を厚くするかのように巨躯な敵が海中に潜んでいたのだ。
 驚愕と高揚感を一気に感じてエリオットの顔が一瞬笑みを宿すも直ぐ様首を振り、冷静に努め武器を構える。両脚の戒めが地獄の炎で消失し水中でも金色が煌めいた。
 相手も既に砲台を此方に向け、臨戦態勢だ。戦う他道は無い。
「ここで突っ切んないとな、行くぜ!」
 言葉は海中の振動と成って消えるも、前に飛び出す春風の気迫は皆に伝わったようだ。
 海の中という特殊な戦闘場所でも仲間達は迅速に位置へ付いていく。合間に台風娘は臆せず戦艦に突撃し、かの掌に籠めた螺旋の一撃を大きな鎧へと当て付ける。
 確かな衝撃は硬い殻に似た身体へヒビを入れさせる。自分達の力が通る、その確信を得る事が出来た。
 小さなガッツポーズを横目に、続いたのはウォーレンだった。水の中を飛ぶように泳ぎ、ヒビの入った箇所へ追撃の蹴りを叩き入れる。
 荒れる水流と相まって身体をぐらつかせるドラゴンが見たのは愉しげに弧を描くサキュバスの視線。
 ひらひらと手を振り、人魚のように仲間の元へと舞戻る。何となく陸上よりも動きが機敏になっていた。
(「次、宜しくねー」)
 ジェスチャーを受け動き出したのは残りのディフェンダー。エリオットの手に絡む攻性植物が凍結の弾丸を産み射出すれば響とバトルキャリバーが後を追って水中を爆走する。
 被弾と同時に流星の煌きを伴う足技と熱を纏う体当たりを受け、ドラゴンに生えていた立派な水晶が一本折れて砕け散った。
 痛みを感じるのか苦しそうに暴れる戦艦竜が大量の泡を吐くと同時に、向けられた砲台の奥が蒼い光を放つ。
 次の瞬間攻撃してきた者達へ水晶と同じ輝きを湛えた透明な弾丸を大量に吐き出した。
(「! これは……氷?」)
 受けきった前衛達の苦悶の表情と、益々冷えてくる体感温度に敵の属性を知る。底冷えしそうな感覚に顔を顰める友がすぐさま唇を開いた。
 言葉が伝わらなくとも、支えたい想いは伝わる筈――ミュージックファイターの歌声が等しく戦う者達に暖かさと癒しを与えていく。
(「友君、ウチが援護するよ!」)
 確かな覚悟を持って、ラセンは両手を前へと突き出す。自身を包む衣服よりも全身を黒く染め上げ、唯一赤く輝く瞳だけが敵を見据える。
 立ち塞がるがいい。抗うがいい。憎むがいい。恨むがいい。叫ぶがいい。助けを乞うがいい。
 願う言葉が力と成り纏いしオーラが海中でも消えぬ地獄の炎と成って襲いかかる。
「その悉くを我は悪で吹き散らそう。去ね、弱神よ」
 有り得ない灼熱の痛みに悶える敵を眺め、人へと戻る彼女は呟いた。
 漸く炎が消え反撃を仕掛けようと体制を立て直した瞬間、死角から殺気を感じ一瞬ドラゴンの動きが止まる。
「影となりて、闇に裁いて仕置する……」
 告げる言葉は届かずとも、暗い水底から忍び来る影二が繰り出した大鎌の刃が大きく回転し確実に肉ごと鎧を剥ぎ取った。
 まだ攻撃の手は止まらない。次に狙いを定めているのは鳴門を冠する巨大銃を構えた忍び、潮流だ。
「地の利は貴様だけのものではない、自然の脅威を見せてやろう!」
 銃口が周りの水を巻き込み渦潮を形成する。やがてライフルの奥から輝く光も巻き込み引きずり込むような水流を生み出した後、水圧を伴う魔法光線が発射された。
 激しい水の流れに各々が耐え切り、獲物の状態を確認する。あれだけの集中攻撃を当てたドラゴンは所々に痛々しい綻びを見せるも、巨岩の如き威圧感と敵意は消えることはない。
(「コイツ、硬いだけじゃねぇ。体力も桁違いだな!」)
 江戸っ子気質か春風の顔はそれでも勝ち気な笑みを浮かべていた。
 次の一手と胸元で印を組み、自らの姿を分散させると同時に受けた傷を治していく。
 敵が如何に難攻不落に見えようと、恐れる訳にはいかない。
 護るべき者達の為に立ち向かう事こそがヒーローの役目とばかりにウェアライダールーヴを名乗る獣人は迫り来る戦艦に臆せず仲間の前へ立つ。
「何度でも来るがいい、だが私は倒れぬぞ!」
 叫んだ台詞は自らに言い聞かせるかのよう。気の弱い自分事振り払う、大きな獣の咆哮は周囲を伝う波紋と成ってドラゴンの身体を揺さぶった。
 相棒が掃射するガトリングの雨が追撃を行い振動と白い泡が大量に発生するも、直ぐ様それらが振り払われる。
 前衛達が眼にしたのは巨木を思わせる太さの尻尾が横薙ぎに襲いかかる瞬間だった。
(「っ、これは結構痛いねー……」)
 甘い刺激を僅かに感じるも、それ以上のダメージにウォーレンの視界が少々鈍る。
 一撃が只管に重い。合わせて一度に多くの味方を巻き込む戦艦竜の攻撃に回復が追いつかなくなる未来を想い一旦快楽エネルギーを放出すると自らを癒やした。
(「このままじゃ押されそうだな」)
 足元から燃え盛る地獄の炎を手にし、エリオットが反撃の弾を撃ち放つ。
 金色の輝きは敵の鱗を喰らい自らの命と繋げたがそれでも追いつかない気がした。
 これでは持久戦、いや回復に徹したとしても未だ敵に余裕がある限り先が見えない。
 仲間の焦りを感じ取ったラセンがフォローをしようと思案を巡らせる視界の中、ふと隣の友が携帯に触れたのを見た。
 視線を感じたのか携帯の画面を此方に向ける……も硬い表情の彼に嫌な予感が否応なしに過ってしまう。
『敵増援多数、至急浮上、撤退求む』
 涼乃と書かれた差出人は行きに見たもう一つの船に乗っていたグループのものだろう。
(「中々……拙い状況ですね」)
 ケルベロス達に追い打ちをかけるような状況が、確実に迫っていた。

●同士の絆
(「敵増援だと……?」)
 2人の只ならぬ様子を感じた影二も内容を確認し、僅かに見えるだけの素顔を顰めた。
 1体でどうにか出来るかまだ解らないのに、敵が増える事態を招くとなれば不利な状態を覆せない。
 兎に角先ず眼前で自分達を狙う戦艦竜を急ぎ落とさねばならない。
 気を引き締め、前衛のフォローへとシフトする。
(「回復は私が。攻撃は頼みます」)
 アイコンタクトの後傷の多い響へ友が癒しの霧を与え、邪魔されないようラセンが爆破スイッチを押して敵の視界を泡と衝撃で鈍らせる。間に影二が皆に状況をジェスチャー交えて伝えた後、敵の傷口へ空の霊力を帯びた手裏剣を的確に投げつけより悪化させた。
(「もう一息、後もう少し持ちこたえて押すことが出来れば……!」)
 辛うじて保たれている前線を気遣いながら潮流が突破口を開こうと忍刀を構えた瞬間、彼の頭上を黒色の魔導弾が通り抜け戦艦竜に命中した。
「な、何だ突然!?」
 驚く春風を始め仲間達が見上げると、海面が何度も発光しそれが様々なドラゴンを襲う力と成って真っ直ぐに突っ込んでくる。
 半透明の御業が敵の動きを捕縛し黒い触手が硬い鎧を蝕む。同時に一斉発射された光線や銃弾が炸裂すれば火炎のブレスが仕上げに燃え盛る。
「もしかして、連絡取り合ってた仲間の人達かなー……?」
 ウォーレンの思う通り、それは同じ進路を取っていた別グループのケルベロス達からの攻撃だった。
 彼等もまた仲間を助ける為留まり、海上から援護射撃を行ってくれている。
 突然増えた圧倒的な攻撃数に流石の大型ドラゴンも怯み始めたのを潮流は見逃さなかった。此処で決着をつけると接敵し刀を振り上げる。
「渦潮の力を今、我が手に!」
 繰り出された斬撃が凝縮された渦潮の激流と成り、蒼い瞳を撃ち抜いた。
 それが決定打と成ったのかドラゴンは激しくのたうち回った後大きく身体を反らし城ヶ島方面へと撤退していく。
(「逃がすかよ!」)
 追う体制のエリオットに響が立ちはだかり首を振る。
 警報を鳴らすように皆の周りをライドキャリバーが旋回している、気付けば此方へ近づく新たな殺気を無数に感じた。
(「倒せ……なかったね。でも」)
 援護もあり大きな被害はないがこれ以上の戦闘は困難だ。落ち込んでは居られない、ラセンは直ぐ様気持ちを切り替え皆に撤退を呼びかける。 
 最後は後ろを振り返る事無く、自分達の船へと帰還していった。

●願い叶わず
 島の上でなければ陽動も出来ない。今回は余りにも悪い条件が重なった。
 狙い定めた道に突破できぬ壁が多数存在し、味方の援護が無ければ帰還すら難しかった。
 全員が船に戻った時点で春風が再び舵を取り他の仲間の船を追うように戦線を離脱する。
「あー、やられたなー……」
 戦闘の緊張感から開放されたエリオットがデッキに背を預け空を仰ぐ。
「あの向こうに、彼等が護りたいものが在ったのでしょうか」
 力なく潮流が呟く。他も満身創痍で甲板に座り込み、遠ざかる城ヶ島を眺めていた。
「でも、皆が無事で帰れるなら良かったよー」
 まだ少しだけ戦闘の余韻を味わいながら、ウォーレンが緩い声を上げる。
「それにきっと、私達のように連携して上手くやってるチームがいるだろう」
「そうだね、仲間を信じよう」
 立ち上がる響にラセンも同意を示し、怪我人の手当を兼ねて明るく振る舞う。
 携帯を弄り終えた友が2人の姿に気付き、ふっと笑みを零して手伝いを申し出た。
 聞こえてくる『オレっちは大丈夫だって!』『まだ傷が残ってますよ』の軽いやり取りを背に、影二が収納していた耳を外気に触れさせる。
「これで任務完了、か……」
 銀の毛並みから滴る海水が、頬を伝って。
 重い結果と共に城ヶ島沖の海へと落ちていった。

作者:天満銀灰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 14
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