累乗会反攻作戦~ケルベロス反攻大作戦

作者:のずみりん

「菩薩累乗会の動きが判明した」
 集まるケルベロスたちに開口一番、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)が言う。
「シルフィディアや詩月、双吉たち……調査活動を行っていた皆が足取りを掴んでくれた。事件の黒幕……菩薩たちの目的は『精舎』の建立だ」
 精舎、ヴィハーラとも呼ばれるそれは、一般には宗教において出家修行者たちが住する僧院の事だ。だが現世まで影響の手を伸ばすビルシャナのそれは間違いなく大規模な儀式の拠点であり、難攻不落の要塞も兼ねることだろう。
 菩薩累乗会を引き起こしていた菩薩は、菩薩や拠点への犯行を考えたフィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)や大成・朝希(朝露の一滴・e06698)、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)たちの調べにより特定された。
 菩薩は四体。それぞれがビルシャナの占領地である埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城を拠点に精舎建立の準備を進めているという。
「これに対する、私たちの反攻作戦だが……ここまで来た上は、一斉攻撃しかない」
 手渡されるのはミッション地域破壊に使われる光り輝く短剣、グラディウス。
「今回の作戦は、使用可能なグラディウスを全て投入する。ビルシャナの占領地を強襲し、その混乱の隙をついて精舎建立中の菩薩を撃破するんだ」
 乾坤一擲の反攻大作戦をリリエはケルベロスたちの前に広げた。

「流れを説明する。まずやる事はミッション破壊作戦……過去に挑んだものもいると思うが、強襲型魔空回廊をグラディウスで攻撃し、破壊する。間髪を容れない波状攻撃という以外は過去の例と同じだ」
 強襲型魔空回廊の強度と破壊の可能性は幅があるが、確実に破壊するなら埼玉県秩父山地は3チーム、青森県上北郡おいらせ町で9チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城なら12チームは必要だろう。
 強襲型魔空回廊のを攻撃する際に生じる熱爆発でミッション地域は混乱状態となるので、残るであろうミッション地域の守護者……ビルシャナの他、提携する幻花衆と輝きの軍勢を撃破して制圧する。
「普段の攻撃では守護者を撃破し、追撃を振り切って離脱するが……今回はここからが本番だ。ミッション破壊の混乱に乗じ、中核となる菩薩たちの陣営に一気に侵攻……菩薩を撃破する」

 包囲を離脱できるという事は、中心へ突破も出来るという事だ、とリリエ。
「ここからはチームを分けての連携作戦になる……残る菩薩直属のビルシャナと協力組織のデウスエクスを引っ張り出し、混乱を広げる陽動班。陽動班が敵を引き付ける間に菩薩を撃破する隠密・強襲班だ」
 どちらを担当するかは他のチームの動きを見ながら決めて欲しいとリリエは言うが、どちらも相応のチーム数が必要となるだろう。
 10チームの戦力が集中できれば7割以上の勝率となるが、逆にそれ未満では菩薩の撃破の確率は下がってしまう。
「魔空回廊への攻撃で混乱している敵は単純に『より派手な攻撃を行っているチーム』の所に向かう。多くの敵を引き付けた場合は厳しい戦いになるが、無理に全てを撃破する必要はない」
 強襲班の相手は菩薩と周囲に残った戦力を相手にすることになるし、辿り着く前に発見されてしまえば菩薩のところまで辿り着く事も出来ない。
 チーム数にもよるが、多少無理をしても多くを引き付けた方が作戦の成功率はあがるはずだ。

 今回の作戦に二の矢はない。相応の覚悟は必要だろう。
「グラディウスを全て投入する今回の作戦は一発勝負……成功失敗を問わず、グラディウスは一月以上は使えない。失敗すれば、菩薩の精舎建立を防ぐ手立てはない」
 皆の力を信じている。言いつつも、リリエの顔と声は緊張に険しかった。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)

■リプレイ

●反攻開始
 奥州は胆沢の空からケルベロスたちが舞い降りる。
「そこは奥州の戦士たちの集った土地、よりによって闘争封殺だの絶対平和だの、賢しらに言うあなた方の手に落ちていてよい土地ではない!」
「お前達の訳の分からない主張を聞くのも、もううんざりなんだよ!」
 かつて蝦夷征伐の鎮守府が置かれたという地に建てられたある種冒涜的な寺院と、その主たるビルシャナへの怒りが千手・明子(火焔の天稟・e02471)、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)のグラディウスを発動させていく。
 過去に侵略型超巨大ダモクレスより奪取した光剣、魔空回廊破壊兵器グラディウス。現有する五百超のうち、今回の作戦で胆沢城柵に投入された数は現有の二割近く……九六本。
 史上まれにみる規模の大攻勢に、胆沢……鳳凰光背武強明王殿は完膚なきまでに破壊された。

「……此処があの菩薩のハウスか」
「仏塔、ぞよ。未完成であるようだが」
 竜顎の端を釣り上げた神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)へ、ある種の専門家であるワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)が補足する。
 精舎完成の暁には、仏塔の上層……左後ろのぞかせる闘争封殺絶対平和菩薩を収める形となるのだろうか?
「敵数は二十四……半分は輝きの軍勢で、他に幻花衆が四名。まだ気づかれた様子はない。陽動の皆が、うまくやってくれたようだな」
「あぁ。このままギリギリまで隠密、一気に踏み込む」
 警戒するアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)の合図に頷き、接近。
 晟の専門は海だったが、こうしていると陸の戦友の話を思い出す。
 魔空回廊の破壊効果による混乱をつき、隠密気流を迷彩とした浸透攻撃。アジサイたちの先導する虚をついた突破は、戦術教本の手本にも十分なほど理想的な機動だった。
「通信は……」
 片眼を瞬きし、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は首を振ると目線で合図した。
 多くの支配地域同様、通信は制限されているが、問題は何もない。
 フローネの指す先。正面に三チーム、後方に自分たちともう一チーム、五チーム計四十名は包囲し、突入を開始しようとしている。
 作戦と戦略が生み出す無言の連携。万全の布陣でケルベロスたちは闘争封殺絶対平和菩薩の仏塔へと挑みかかった。

「ケルベロス!?」
「これホドの数、何処ヨリ……!?」
 身構えるダモクレスと螺旋忍軍に曼荼羅めいた儀式図が崩れる。
「回廊の破壊、挑戦状は送らせてもらいましたよ? それで逃げないなら、アレです。待ってたんでしょう?」
 浮足立つデウスエクスに戦の気配に昂る嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)や、無明丸たち先陣がぶち当たろうという時。
『お待ちなさい』
 戦場に光が差した。
「よくここまで辿り着きました。ですが、これ以上の戦いは無益です。この地域は解放され、精舎の建設は失敗に終わりました、戦わずとも私たちは、この地より立ち去りましょう」
 その声が目前の闘争封殺絶対平和菩薩と気付くのに、意味を理解するのに、戦場の誰もが数瞬を擁した。
 反論できたものはいない。誰もが半端に口を開き、しかし声を出せず呆ける。
「他者のみならず、自らの闘争をも封殺する……そのために、累乗会の成果すら投げ出すと……?」
 周囲に広がっていく困惑と沈黙へ、空木・樒(病葉落とし・e19729)は興味深げに呟いた。
「戦いは何も生み出しません」
 樒の問いに、闘争封殺絶対平和菩薩が頷いて見えた。
「『絶対平和教義』に従い、疾く立ち去りなさい」
 菩薩が敗北を認め立ち去るのなら、それは勝利だ。勝利してなお無闇に戦うは正しい行いか? 膨れ上がる良心の疑問には抗えない。
「……困ります。それはとても困ります」
 ごく一部、例外を除いては。

●導かれぬものたち
 控えめに言って、嶋田・麻代はおかしかった。
「闘争封殺は困ります! 私はめっちゃ困ります!」
 例えるなら陸に打ち上げられた鮫か、殺生を禁じられた餓狼か。
 多くの『普通』にとって手段で闘争は手段だが、麻代にとってそれは目的であり、本能であり、それを封殺するということは欠片も受け入れられぬ不倶戴天であった。
「あなたはおかしな人ですね、麻代さん。その専心はビルシャナの……」
 樒の呟きは叫び声に遮られた。そう、例外は麻代一人ではない。
「お前らビルシャナのせいでこれまで何人犠牲になったと思ってる。 人間は餌じゃないしヒマつぶしの道具でもない――!」
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 並び立つ後方では藤の怒り、共鳴するような無明丸の咆哮。正面からもまた少なくない、漲る怒りと殺意が後光を陰らせ、はぎとっていく。
「 一方的に殺されろというのか、一方的に斬れというのか……どっちにしろ困ります!」
「菩薩殿ッ!」
 狂気の虹が菩薩を捕らえ、そこに割り込む輝きの軍勢を蹴り裂く。
「聞こえは良いが……個性と自由を排して平和とは、菩薩の銘が片腹痛い。貴様らの歪んだ教義もここまでだ」
 朗々たるワルゼロムの論説に額の赤菱が白く輝く。放たれる『白生姜治癒光線』が、並び立つ愛柳・ミライのオラトリオヴェールに拡散、不思議な力をほとばしらせる。
「麻代、教祖……感謝する……!」
 不幸にもティーシャの目前に来てしまったダモクレスに戦槌『カアス・シャアガ』が叩きつけられる。ゴリゴリと砲身を押し付けながら変形。溢れる力が擬態用マルチウェアより溢れ、殲滅の末妹の戦闘形態が露となる。
「勝利とは……ふざけた教義、貴様ら、全ての殲滅だけだ!」
 接射される轟竜砲。その破壊の奔流は、絶対平和教義を哀れな配下もろともに吹き飛ばした。

「良くぞ言ったケルベロス。我ら、鳳凰光背武強明王、ここで戦い果てる覚悟也。いざ勝負」
 なし崩しに始まる乱戦、意を得たりと争乱に進む同族の姿にカムイカル法師が哀し気に鳴いた。
「なんということ……あぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の御前というに、こうも暴虐を謡うかケルベロス!」
 闘争封殺絶対平和菩薩の下僕として授けられし力は主同様に意志を挫き、ケルベロスたちの心身を縛ろうとかき鳴らされるが、晟は躊躇なく一歩をつめた。
「闘争を封殺したい菩薩が武強の明王の元へ身を寄せているのは矛盾というかなんというか……衆合無に至れば何でもいいというわけか」
 防人の矜持を突かれ揺らぎかけた心だが、今は再び、その使命とラグナルが彼をまやかしから解き放ってくれている。
「平和と平等のために手段を選ばず、個を塗りつぶす。菩薩が聞いて呆れる、傲りもよいところだわ」
 明子のまとう誇り高き英雄の残滓『磨上無銘』が輝きをもって彼女に応える。庇う晟の肩を借り、跳躍からの『名物『白鷺』』、絶空を裂く二尺三寸が鳴り響く法師の数珠を引き千切った。
「綺麗事も嫌いじゃあないが、俺は我儘な個人主義者でな」
 生きるための我儘、アジサイは自身の生き様をそう括る。叩きつけられる鋼の『崩枝』にカムイカル法師の悲鳴が上がった。

●信徒乱戦
「お相手願おう――!」
 ティーシャの弾幕が足止めした間隙へ、右後方から伽藍とコロッサスが大きく踏み込んだ。
 突破を図るケルベロスたちとダモクレス、ビルシャナ。各チームはそれぞれに相手を定めつつも、重なる戦場が敵味方を激しい交錯させていく。
「続きます、これ以上善良で純朴な人々の心は利用させません!」
 伽藍たちがこじ開けた突破口を広げるのはフローネたち左後方のクラッシャー。
 パワーローダーもかくやという『ジェムズ・グリッター』のバックパックアームが金剛石の槌を薙ぎ払い、鳳凰光背武強明王の攻撃をアメジスト・シールドが受け止めるや、逆手の『アメジスト・バスター』ライフルを叩きつけるように接続。放たれる閃光が敵味方を照らす。
「皆を守りたい――だから届いて、私の歌! KIAIインストール!」
 ミライの歌が響けば、戦場が一つのステージのような幻想と化す。混沌の場において、癒し手たちは趨勢を大きく左右していった。
「歪みしものよ、我が奇跡を見るがいい」
「助かる! オォォッ」
 幻花衆の一打を受け止めるコロッサスを、ワルゼロムと共に祈りをささげるシャーマンズゴースト『タルタロン帝』が支え、必殺の反撃へとつないでいく。
「気にするでない。お代は後で請求する」
「そりゃうかうか倒れられんな、おい」
 ワルゼロムの調子にアジサイは軽口で返し、迫る輝きの軍勢を殴り飛ばす。背後からも幻花衆の螺旋が迫るが、加速する感覚がそれを難なくさばかせた。
「……空木、今のは?」
 誰とは聞かない。この場でこんな真似ができるのはアジサイの知る限り、樒一人。
「王薬【厘削】と名付けました。高揚は神経伝達速度の向上、危機回避力の強化……ご心配なく。わたくしが居る限り、いかなる戦況であろうと倒れるものなど決して出させません」
 解説を交えながらも無針注射器が戦場を駆ける。
 欧州の某製薬会社との共同開発との売り込みは相当にグレーゾーンの香りだが、規格外なケルベロスと現状なら頼もしい援護。加速するティーシャの身体が輝きの軍勢の連携をすり抜け、流れるように破砕アームを叩きつけていく。
「わけのわからん主張と論戦はうんざりだ。カレーパンに揚げパンの良さを語る羽目になった恨みは忘れてないぞ……!」
「わ、ワタしは関係な……!」
 終われ。『全て破砕する剛腕』が抵抗するダモクレスを引き千切り、恨みと共に残骸をカムイカル法師へ叩きつけた。
「あとニ、三手……随分と逃げられてしまったな、あきらちゃん君」
 輝きの軍勢の爆発が、カムイカル法師の場所を伝える狼煙となった。晟は輝きの軍勢へと『蒼竜之釣竿【瀕】』のルアーを叩きつけながら、初手で恐れおののかせた相手を他人事のように言う。
「愛しの平和と平等には程遠いものね、晟ちゃんさん」
 とは、明子に曰く。怒りを叩きつけた先端から、明るい声を取り戻しながらも目は笑っていない。
「大いに結構じゃあないですか。どんな理屈並べようと、アレだ。結局は殺し合い、力比べです」
 麻代の自らを貫いて吹き出させた地獄の炎と共に、伸びるケイオスランサーがまた一人。輝きの軍勢を貫いていく。
「……わざわざ水を差すようなことはいってくれるなよ?」
「おっ、お……おのれおのれおのれぁぁぁぁーっ!」
 目前では鳳凰光背武強明王が打倒され、もはや菩薩の守り手はカムイカル法師しかいない。後光と千切れた数珠を振り回し、まだしも抵抗を続ける法師だが、それも長くはない。
「そう取り乱さず。わたくしがあなたを、よいところへお連れします」
 明子の斬撃が光を裂いた。淡々と痛点の狭間を正確に、咲いた花が音もなく散り落ちるように、痛みなくその身を削ぎ落していく。
 十分に削りきられた後光を破り突き刺さるは蒼炎の竜。
「我々が連れていける場所は地獄だけだがな。溶かし刻むは我が焔刃……!」
 竜頭の如き蒼炎を手にした晟の『蒼竜之闘氣【澳】』が法師の嘴をこじ開けて叩き込まれ、その叫びを永遠に封じる。
『今がチャンスだ』
 正面の護衛は仲間たちが抑えてくれている。頷き合い、後方のケルベロスたちは闘争封殺絶対平和菩薩へと一気に肉薄する。今、この時ならば刃は届く。

●菩薩、解脱
 後方より肉薄したケルベロスへ、闘争封殺絶対平和菩薩はなおも悲し気に見やった。
『戦うのは本意ではありません』
「これだけ殺意をまいて、どの口がいうか!」
 ステルスリーフを焼き払う閃光に、ワルゼロムが飛び退く、庇うタルタロン帝が赤熱し、膝をつく。
 思いを塗りつぶさんとする力へ、フローネはアメジスト・シールドを大きく広げて前に出た。
「もはや甘言は無力です」
 守りの姿勢のまま、肩部アームドフォート『トパーズ・キャノン』がシールド上方より斉射。色無き意志の光を、黄昏の奔流が切り裂いて飛ぶ。
『今すぐ闘いを止めるのです』
「もはや菩薩の名に何の感慨もないけれど、あなたが名乗るのは許せない。絶対、倒す」
 この期に及び繰り返す空虚な『悟り』は、明子と共生『磨上無銘』者のように闘志に燃える戦士の心をささくれだて、刃を突き立てさせた。
「これ、これですよ! どんな理屈並べようと、結局あなたも今戦っているわけだ!」
「わははははっ! その通りじゃ! 力ある物が勝利を手にするのじゃ!」
 菩薩に天敵という存在があるとすれば、まさにこれ。
 拳を叩きつけるような麻代のトラウマボールが、無名丸の拳が、遂に辿り着いた闘争封殺絶対平和菩薩の本体をガンガンと殴り飛ばす。
『なにゆえ? 労なき勝利を捨て、闘争を選ぶ? 争いを悲しみ、平和を求める心は……』
「貴様はまだ降伏してないだろう?」
 単刀直入。晟は意図せず海の古兵の逸話を口にしていた。
「逃げる敵は慈悲の対象ではないぞ、明日の敵だ。武器を捨て、白旗をあげるというなら別だが……」
 返事は無言の閃光。それが最後通牒となった。
「去れ! 悪しき終焉を齎す者達よ!」
「てめえに仲間はやらせねえんだよ!」
 身を盾にするコロッサスと伽藍の肌が焼け、汗粒が弾ける。だがそこまでだ。
「かの菩薩、教義に偽りはなさそうですね」
「武闘派でないという意味では、な」
 樒のライトニングウォールから『Mark9』バスターライフルを突き出し、頷くティーシャがゼログラビトンを叩き込む。
 御前においえ闘争封殺の教義を破られる事がまず想定外なのだろう。菩薩はその教義の通り、戦いを得手としていない。
「この歌を聴くならば 死を思え敵対者! 流れ出る命脈の鼓動 その弱拍……!」
 キサナの歌に呼応する巨大な骨剣の群れが闘争封殺絶対平和菩薩を貫き、菩薩の力を千々に裂く。
 輝きを喪失した巨体に、フローネは素早く決断した。
「これ以上は……アメジスト・シールド!」
 交差した腕を開きざま、アメジスト・シールドをパージ。宙を駆ける光の盾が多重展開、決戦兵装のエネルギー走力を込めた紫の輝きが闘争封殺をも封じ込める。
『やめなさい。戦うことが愚かだと、なぜわからないのです――』
「お前に止める気はないのだろう? なら、お互い様だ……グラネット!」

 なおも咆え、上方へ逃れようとする闘争封殺絶対平和菩薩を、アジサイのそっけない声と崩枝が飛ぶ。察し、フローネは共に跳躍した。
「吼えなさい、ダイヤモンド・ハンマー……!」
「墜ちろ!」
 最大跳躍点から、ダイヤモンド・ハンマーのブースターを起動。アジサイの添えた拳が『飛竜ノ鉄槌』、竜の如き闘志を描く。
「飛竜」
『――鉄槌!』
 重なる声に、グラビティの竜が落ちる。空気を揺さぶり、闘争封殺絶対平和菩薩を喰らい、後に残るは手ごたえ、塵芥のみ。
「……やりました、よね?」
「あぁ」
 まだ半信半疑という明子に、降り立つアジサイは一言、総崩れとなった正面のデウスエクスたちを指さした。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。