菩薩累乗会~竜甲上の遊戯

作者:寅杜柳

●竜の上の楽土
 とある人気のない海岸。
 真冬の厳しさはないがそれでもシーズンには遠い場所に、青年と白い鳥のような異形、ビルシャナがいた。
「一生ゲームだけできる楽え……場所がここに本当にあるんだろうな?」
 信じたからついてきたんだけど、と小野・慧斗という名の青年は呟いた。
「勿論」
 ビルシャナがそう答え、腕を空に伸ばし大袈裟に指を鳴らす。すると海底から巨大な存在がせりあがってくる。20mはあるだろう巨大なそれは戦艦竜。甲羅を背負ったその背には、砲台の他に居住スペースのような場所がセットされていた。
「おお……これなら、何者にも邪魔されずにゲームに没頭できる! ヒャッホゥ!」
 そう叫んだ青年の姿は既に羽毛塗れのビルシャナと化していた。
「この者はケルベロスを招き寄せる餌……闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれたこの戦艦竜を使い、絶対ケルベロス共を殺してみせよう」
 青年を招いたビルシャナ、ケルベロス絶対殺す明王は青年に聞こえない小さな声でそう呟き、襲撃してくるであろうケルベロス達への闘志を燃やした。

「またしても『菩薩累乗会』に関する事件が予知された。……これで四度目になるが」
 雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)はどこか暗い表情をしつつそう切り出した。
 強力な菩薩を次々に出現させてその力を利用してさらに強大な菩薩を出現させ続けて地球全てを制圧する『菩薩累乗会』だが、現時点で阻止する方法は判明していない。
「現時点でできるのは、出現する菩薩が力を得ることを阻止して進行を食い止める事だけだ。……今回活動が確認されたのは『芸夢主菩薩』という名の菩薩で、俗世を忘れゲームを楽しむ事こそ救世と考えている菩薩のようだ。ゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーを標的にビルシャナにさせている」
 この菩薩の勢力が強まれば多くの一般人がゲームと現実の区別をつけられなくなり、一気にビルシャナ化してしまう危険があるのだと知香は言う。
「これまでの戦いでケルベロス達は『菩薩累乗会』を妨害してきた。だからか、この菩薩はケルベロス達を警戒していて『ケルベロス絶対殺す明王』、そして『闘争封殺絶対平和菩薩』の導きにより引き込んだ戦力をもって襲撃を待ち構えている」
 その戦力は、と白熊の女は一瞬だけ言い難そうにし、意を決したようにその存在の名を告げた。
「……ドラゴン、戦艦竜だ」
 そこまで言った知香は、敵戦力について纏めた資料を広げる。
「戦場となるのは人気のない海岸近くの海上、オスラヴィア級戦艦竜の背に乗っているビルシャナを叩く作戦になる。すんなり上陸させてくるわけもないから、砲撃を掻い潜って戦艦竜に上陸して戦う必要がある。戦艦竜は背の砲台からそれなりに精度の高い砲弾や光線を放ってくるが、特に注意が必要なのが威力の高い蒼の光線だ。絞られたその一撃は、直撃すれば大ダメージは免れない」
 上陸したからと言って戦艦竜の攻撃が止むわけでもないから注意は必要だ、そう苦い顔をして知香が続ける。
「戦艦竜に乗っているビルシャナはケルベロス絶対殺す明王とそれに導かれた小野・慧斗という青年だ。ケルベロス絶対殺す明王はその拳や炎を中心とした火力役、被害者の青年は後方から羽を飛ばしたり経文や閃光を放ち、正確な攻撃で援護してくる。
 これまでの『菩薩累乗会』と同様、ケルベロス絶対殺す明王を倒すまでは被害者はこちらの言葉に耳を貸さないが、明王を先に撃破できれば一般人の救出も可能になるのだと知香は言う。
「戦艦竜についてはビルシャナを両方撃破できれば闘争封殺絶対平和菩薩の制御が利かなくなって海底に戻っていく。もし戦艦竜を撃破するのであればビルシャナ二体を撃破する前にやる必要があるが……それはとても難しいだろう」
 説明を終え、知香が資料を閉じる。
「戦艦竜はとても強力だが、定命化により死に瀕しているから無理に撃破を狙わなくてもいずれは死ぬ。ビルシャナを倒せば海底に沈んでいくはずだから速攻でビルシャナを撃破し、離脱する作戦がいいかもしれない」
 難しい作戦になるだろうけど、任せた。知香は信頼を込めそう告げると、ケルベロス達を送り出した。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)

■リプレイ

●海上の戦艦竜
 麗らかな春の海にそぐわぬ竜が海上にその存在を主張している。
 その竜の元へ一艘の小型のモーターボートが一直線に向かう。
「来たか!」
 甲羅の上にいるケルベロス絶対殺す明王が手を振り上げ合図を出すと、戦艦竜から砲撃が放たれる。
「砲撃が来るのだ!」
 戦艦竜がケルベロス達の接近に気づいたことを見て取ったパティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)が警告、その声に操舵手の朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)は砲撃を確認すると舵を切り、速度を落とさぬまま直撃を避けつつ距離を詰めるが近づくにつれ砲撃の数、精度が増していく。
 そしてとうとう、砲撃がボートを捉える。爆発、炎上。けれどもその残骸には人の姿は残っていない。
 星狩を盾にしつつ甲羅に飛び乗ったリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)が明王に無数の霊体を纏わせた冰水で切りかかり汚染、さらに夏空の色合いの瞳の少女、隠・キカ(輝る翳・e03014)が星形のオーラを羽を飛ばそうとしていたビルシャナに蹴りこみそれを牽制する。
「――ム。ここにきてこの攻勢か……」
 水飛沫を突っ切り戦艦竜に飛び乗った灰色の竜人、バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)は思う。戦艦竜という戦力まで使い累乗会を進行させようとするビルシャナの攻勢は防げなければ恐ろしい事になるだろう。けれども逆にいえば、ここを耐えきり乗り切れば、返し刃で奴らの喉元へこの剣を突き刺す機会があるということでもある。
(「見せ掛けの楽園、といったところかしら」)
 同じく上陸した藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)は甲羅の上を見渡し思った。ここは寧ろ、ゲームくらいしか出来ない場所なのだから。
「申し訳ないけどその楽園は今日でお終いよ!」
 うるるが元気にきっぱりと言い切る。
「ガンダーラから来たなどとほざくおまえ等は、三蔵法師とゴダイゴに代わってお仕置きっす!」
 さらにピッと指差し宣言するのは中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)。
「お前らケルベロスなぞ……」
「我は、ケルベロス絶対殺す明王完璧に殺す修羅っす!」
 明王の言葉を憐が遮る。
「ここが! お前達ケルベロスの墓場だ! 絶対殺す!」
「きぃたちは、ぜったいころされないよ。あなたをたおして、慧斗をつれて帰るの」
 怒りを露にする明王の言葉にキカが返し、
「絶対、という言葉を使われましたか」
 巫女服のビルシャナの言葉に芥川・辰乃(終われない物語・e00816)が静かに反応する。
 普段の彼女の定位置は古書店のカウンター、けれども今日ここにいるのは命を救うためだ。
 明王が気づけば甲羅の上には八人のケルベロスが既に居た。
「私達は生きます。生きねばなりません。だから、貴方は『絶対』に至れない」
「いいや、至ってみせよう!」
 その声と共に戦艦竜が砲を放った。

●明王は踊る
 最初に動いたのは憐。彼が螺旋を込めた掌で触れ、明王を内部へと衝撃を走らせる。けれどもその程度で怯む明王ではない。その手で憐を掴むと跳躍、そのまま甲羅へ危険な角度で叩き落す。けれどもその着地に合わせ、霊体を纏った冰水の斬撃が重ねて明王を切り裂く。
 さらにうるるが旋風のような蹴りで追撃をかけるが回避されたが、呼吸を合わせた昴が流星の飛び蹴りを明王へと見舞う。精度を重視した彼女の一撃は正確に敵を捉え、動きを鈍らせる。それに続くバーヴェンの空の霊力を纏った斬霊刀は明王を捉え、深い傷を刻み付けた。
 並行してキカが慧斗に右手のライフルからエネルギー光弾を射出、その攻撃を弱体化させようとしているが、動きを縛られていない状態の彼を捉え切るのは中々難しい。
 明王が鐘を鳴らし、それに合わせるかのように戦艦竜が弾丸をばら撒く。狙いはいずれも前衛。
 敵の構成は完全に攻撃的、守りをほぼ捨てている分その破壊力は凄まじいものがあるが、
「まだまだ頑張るのだ!」
 パティが飴玉のような色取り取りの薬液の雨を、辰乃がステップを踏み花弁のオーラを降らし前衛を癒やせば箱竜のジャックと棗が属性インストールで残った分の傷をも癒やす。
 即座に回復され舌打ちした明王に炎を纏った昴の蹴りが炸裂、距離をとる明王を援護するように戦艦竜が動き、ケルベロス達から距離をとらせる。

 そして数合、グラビティの応酬が続く。
 キカが利き腕に持つハンマーを砲撃形態へと変化させ、慧斗に向けて砲弾を放つ。攻撃態勢に入りかけていたからか、命中したそれは慧斗の動きを鈍らせる。
(「でも……」)
 攻撃と共に幾許かの言葉をかけてはいるが、全く会話が成立しない。明王が健在の限りはこのままなのだろう。
 慧斗がその腕の翼から羽を矢のように飛ばし後衛を狙う。植物を纏う白い仔竜とハロウィン風の赤竜がが庇いに入り、それぞれの主を守る。
「敬意を。感謝を。――そして、永き贖罪を」
 庇い切れなかった昴に辰乃がリボルバー銃の引鉄を引けば、込められた想いに呼応し銃口から柔らかな命の光が迸り、経文の呪いを祓い落とす。
「パティさん、前の方は任せました」
「うむ。任せるのだ!」
 辰乃の言葉にパティが応え、ジャックオーランタン型の紙を舞わせて癒しと耐性を前衛に与える。さらに棗とジャックも箱竜同士上手く被らないように属性インストールで主二人の回復をサポート。
「やられてなるものか、そうなったとしても一人でも多く殺す!」
「あなたがきぃたちをころす前にきぃたちがあなたをこわすよ」
 思い通りにいかない展開に怒る明王の叫びと火炎、キカを狙ったそれを棗が防ぐが、消耗した棗に慧斗が追撃で経文を唱える。しかしそれはジャックが割り込み食い止め、棗の消滅を防ぐ。
 それを見たキカは慧斗にライフルからの光弾を飛ばし切り返す。
「私は何時でも『視て』いるわ。何処にいても逃がさない」
 リシティアの展開した紫の魔眼の群れは視線を明王から外さない。それから逃れようと明王が進行方向を切り替えようとした刹那、魔法の一斉放火が殺到し、その体を焼き払う。
 焦がされた明王にさらに、流星の飛び蹴りを憐が見舞う。護り手ながら容赦なくビルシャナへと攻撃を繰り出すその姿はまさに修羅。逃れようとする明王だが、網にかかった鳥のように足止めが機能し避けられない。呼吸を合わせた棗のリボルバーの速射が明王の腕を撃ち抜き、
「だいじょうぶ、こわくないよ」
 あと一押し、そう見たキカが明王に掌を押し付ける。その所作とは裏腹に、発生した衝撃は酷く強烈。
「聖なるかな、聖なるかな。聖譚の王女を賛美せよ。その御名を讃えよ、その恩寵を讃えよ、その加護を讃えよ、その奇跡を讃えよ」
 昴がワイルドスペースを全身に侵食させ、黒く淀んだスライム状の半獣の姿へと変化、信仰を歌いながらその爪と牙で明王を引き裂かんと飛び掛かる。明王は数撃その連続攻撃を防ぐが、爪牙はそれでも止まらずとうとう直撃、昴から距離をとる。
 けれどもその先にも二人のケルベロス。逃げ場はない。
「その様じゃ『絶対』なんて大きい言葉もう使えないわね。塵と消えなさい」
 リシティアの放った虚無の球体が明王の体を削り取り、
「大丈夫、今に何も見えなくなるわ」
 どこか優しいうるるの声。その拳には喰らってきた力が集中、輝かしい光を纏った降魔の一撃が明王へと振るわれる。インパクトと同時、敵を飲み込むような光が一際明るく輝き、それが去った後には明王のすべては喰らい尽くされていた。
 ここまで10分足らず。敵の構成が攻撃一辺倒であった事、そしてケルベロス達の作戦と力量が組み合わさった結果であった。

●羽と砲弾の雨霰
 しかし、そこから戦況は膠着状態に陥る。
「威力の高いのが来るのだ!」
 戦艦竜の砲の一つに蒼の輝きが高まり始めたのを察知したパティが警告を発し、明王撃破後の状況の単体を狙うグラビティに対し備えていた憐が防ぐ。けれど、
「これはちょっとヤバいっすかね……!」
 全身に禍々しい呪紋を浮かべる憐の自信に満ちた表情は崩れない、が、冷や汗が一筋流れる。長期戦になり攻撃回数が増えてくると回復しきれないダメージが積み重なってきているからだ。
 竜を無視し慧斗を狙おうと攻撃手が近づこうとするも、戦艦竜が暴れ砲塔を振り回し近づけさせない。
(「……まずいわね」)
 無表情を崩さぬままリシティアは思考する。魔眼も刃も戦艦竜が健在である今、後衛の彼には届かない。唯一届く虚無の球体も連続で使えば見切られてしまう。うるるも同様、気弾しか届かない状態では与えるダメージはかなり落ちてしまう。
「――ム。逝くぞ!!」
 バーヴェンが雷の霊力を纏わせた太刀を甲羅に突き立て、発生させた八つの龍の如きエネルギーと共に彼自身も突撃、その剣を叩きつける。それは広範囲を狙う業、威力は落ちるがそれでも炎弾の合間に挟めば十分役割を果たす。
「行くぞ! このボール、防げるものなら防いでみろっす!」
 憐の手にエネルギーの球体が生じ、それを投擲する。なんでもない軌道のそれを慧斗は防ごうと腕で弾こうとするが、ふわっと跳ねてその腕を躱し、頭部へと吸い込まれるような軌道でめり込み爆発。
 さらに昴が混沌の水を砲弾として放ち追撃する。混沌の水、ワイルド由来のグラビティを使うたびに彼女の肉体には激痛が走るが、それは全て聖王女への信仰の為の試練、狂信の域に達する彼女の歩みを止めさせるものではない。
 しかし彼らの攻撃に構うことなく戦艦竜の加護砕きの砲撃が前衛を襲う。広範囲に散らばっているため威力は多少落ちるものの、地力の高さによる被害は大きい。それに加え慧斗が狙撃手として正確に狙って来ているが、パティと辰乃が目くばせして上手く回復を分担していることで何とか戦況は崩れずにいる。
「みんな! あの子を救うまで膝を付いてる暇はないのだ!」
 南瓜型のオーラをバーヴェンへと飛ばしパティが仲間を励ます。
 慧斗の唱える経文が司書の女の思考を惑わせ、更に戦艦竜の掃射が前衛へとばら撒かれる。
 傷を癒やす為に攻撃手の三人が叫び、あるいは地獄の炎を溢れださせ傷を癒やすも敵の攻撃は止まらない。
「……ずっとゲームばかりしていても、その事を話せる友達がいないと楽しくないのだ?」
 南瓜の少女がそう問う。
「あなたがやるべきことはゲームだけではないでしょう?」
 敵より生命力を奪う術を持たぬうるるがオーラで自身を癒やしながらはっきりと言う。華奢な外見の少女からの強い言葉に一瞬ビルシャナが怯んだ。
「――ム。人生はゲームだけでやってはいけん。食うにも寝るにも……所帯を持つにも……必要なのはゲームではない」
「ゲーム以外なんて興味ないし……でも、必要なのは?」
 武人風のドラゴニアンの雰囲気に圧されたのか慧斗が恐る恐る尋ねる。
「金だ! あと新作ゲームを買いたければ……働いて金を稼げ!!」
「考えても見なさい。こんな甲羅の上じゃゲームが壊れたり新作が出ても買いに行けない状態じゃない」
 一生ゲームができる環境なんて完全に嘘っぱちじゃないの、とリシティアは無表情無感動に指摘する。
「ごはんも食べないでずっとゲームばっかりしてたら、おなかすいて死んじゃうよ。ここにはごはん、ないでしょ」
 生活するには何もかも足りない甲羅の上の光景、それを見てキカが慧斗に言葉を紡ぐ。
「お仕事イヤかもしれないけど、ごはんのお金かせがないとだいすきなゲーム、できなくなっちゃうよ」
「好きなことだけをして生きていくのは、夢の一つであると思います。……ですが、それは自分の手でなし得るべきです」
 ビルシャナの力によるものではダメだと辰乃は言う。彼自身も薄々そう考えていたのか、慧斗が言葉に詰まる。
「それと、しっかりと休憩をとりなさい!」
 さらに棗の速射が重ねられ、慧斗を撃つ。どちらかというと言葉の方にダメージを喰らっているようだ。
「一時の愉しみのために躍らされてるわよ、あんた」
 リシティアの虚無の球体が甲羅の表面を削りつつビルシャナへと加速する。一手、回復に回った後のそれは見切られず、羽毛の一部を消滅させる。
「このままここに居たら、家族や友人と会えなくなるっす。……それはとても悲しいから俺達と一緒に帰りましょうっす」
「……どちらも俺を邪魔をするだけだ!」
 慧斗が羽を手裏剣のように飛ばし、憐を狙う。慧斗の様子から大分此方に心が傾いてきているようだがもう一押し。その間も敵の攻撃は止まない。経文と蒼の光が同時、どちらかが合わせたのか癒し手を嫌ったか、狙いはいずれも辰乃へ。
 けれども棗がその翼を広げ、辰乃を庇う。経文を受け止め、蒼の光を主に届かせず、けれど棗はそれに耐えきれず姿を消失させてしまう。
「……意地を、見せます」
 辰乃が視線をパティへとやり、それにパティが頷く。愛竜が稼いでくれた時間を活かすために。破壊のルーンを辰乃が描き、パティが南瓜のオーラを飛ばす。
「楽しいばかりが人生ではないわ。だけど、自分の人生だからこそ自分が楽しくしてあげなきゃ、ってママが言っていたわ!」
 うるるがきっぱりと叱る。
「仕事もしないで、好きなだけゲームだけし続けられるなんて裏があるに決まってるっすよ」
 楽しい時と頑張る時の両方あっての人間の生活だ、そう憐が諭しつつ轟竜砲を放つ。
「そこに居てもずっと1人なのだ! こっちに戻って来るのだ!」
 さらにパティが呼びかけ、手を差し伸べる。
「帰ってあったかいごはん、食べよ」
 キカがさらに続け、星形のオーラを慧斗に蹴りこむ。殺すのではなく、救うために。
 その願いが届いたか、慧斗はその体の羽毛を散らし、倒れこんだ。

●竜は海に還る
 戦艦竜が本来在るべき海底へと還っていく。その姿に海岸へと泳ぐケルベロス達を狙う様子はない。
「皆さん大丈夫ですか……?」
 人の姿へと戻った昴が泳ぎ、陸地へと戻る。
「無事なのだ!」
 海岸に上がったパティが振り返り、仲間たちを確認して元気に応える。意識を失っている慧斗はリシティアが引っ張り上げている。
 火力重視の構成で短時間に明王を仕留めた事が幸いした。しかしあと少し遅れていればケルベロス達への被害は大きなモノとなっただろう。
「でも、これで勝ちね!」
 日傘を差したうるるが笑顔で元気に言った。
「死にぞこないにトドメ刺す程、落ちぶれてないっす。海底で身体をいとえよ」
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
 憐が沈み行く戦艦竜を見送り、バーヴェンは竜と明王へと祈りを捧げる。定命化の進行で次の機会がある程の余命もないだろう。
「もう、死んでしまうのに助けてあげられなくて、ごめんね」
 玩具のロボを抱きしめ、キカが竜に対しぽつりと呟く。
「さあ、帰りましょう」
 命を救う、その目的を遂げた辰乃が仲間達を促し、ケルベロス達と一人の青年は帰路へとついた。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月12日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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