ふるうつ・ぱらだいす

作者:東間

●目覚め
 ふわん、と甘い香りが漂う表通りから横に入り、少し進んだらまた横へ行った場所。背の高いビルの裏手で、小さな影がシャッ、と道を突っ切った。
 宝石を背負った蜘蛛のようなそれは、封のされていなかった段ボールの縁に飛び乗って数秒留まった後、段ボールの中――壊れたハンドミキサーの内部に侵入する。
 途端始まった機械的なヒールはハンドミキサーの姿をめまぐるしく変えていき、同時にハンドミキサーを抱えていた段ボールを内側から破壊していった。
 そして全てが終わった時。
『アッ、とイウ間ニ出来アがリ』
 それはそれはスリムな風体のパティシエロボットが誕生したのだった。

●ふるうつ・ぱらだいす
 とある店舗が処分しようとしていたハンドミキサーが、ダモクレスになってしまう。
 幸い人気の少ない時間帯である為、ダモクレスになってすぐ事件を起こす、という事にはならないがそれも時間の問題だ。
「という事で、君達にはそのダモクレスを可及的速やかに撃破してほしい」
 そう言ったラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は、何やら凄く真剣な顔をしていた。理由は簡単だった。
「現場近くに、最高に美味しいズコットとタルトを出す店があるんだ」
「そういう事ね」
 くすりと笑みを零した花房・光(戦花・en0150)に、ラシードはそういう事なんだと深く頷いた。甘くて美味しくて幸せな日常の為、その脅威となる存在は倒さなければならない。
 現場はビルとビルに挟まれた裏路地になる。納品に来た大型トラックが駐車する事もある為、広さは十分。
 ダモクレスの両腕を構成するハンドミキサーの攪拌翼部分は、鋭利な刃物となっており、繰り出す攻撃全てに防御力を下げる効果があるらしい。ヒールグラビティは持っていないが、全身から小型の攪拌翼ミサイルも射出してくる為、しっかりと対策をして挑む方がいいだろう。
「それから、備えるべきものは他にもある。これを見てくれ」
 タブレット画面に表示されたものは、現場近くにあるという店のホームページだった。
 レトロな雰囲気漂うロゴ『ふるうつ・ぱらだいす』。
 笑顔で並ぶスタッフ達。
 そんなトップページから飛んだ『めにゅー』では、ラシードが最高に美味しいと言ったズコットとタルトが並んでいた。ふんだんに使われているフルーツはどれも大粒で、艶々で、美しい。美しいが、光はある事に気付いた。
「ファルカさん。このお店のズコットとタルトのサイズって……」
 どれも、値札プレートより一回り以上はあるような。
 光の問いに、ラシードはそっと微笑みながら頷いた。
「フルーツの瑞々しさと味だけじゃなく、食べ応えも十分っていう恐ろしい店なんだよ」


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)

■リプレイ

●朝の風景
 『そこ』が迎える朝はいつも静かで、甘い香りが漂う朝。
 けれど今日だけは少しばかり違っていた。
 まず殺気が広がり、続いてしとやかな声がひとつ。
「あら? 妙な機械音がしますが、もしかしてここにダモクレスがいるのでしょうか?」
『アッと?』
「やっぱり、わたくしの思った通り」
「ケルベロスならではの第六感ね」
 シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)は無邪気に笑顔を輝かせ、花房・光(戦花・en0150)も笑顔を零す。
 対する機械兵は、ケルベロス達を視認するやいなや、元々の面影そのままの両腕、その先端にある攪拌翼を回転させ始めていた。
「処分しようとしていたハンドミキサーですか……」
 ちょうど欲しかったんですよねと呟いたクィル・リカ(星願・e00189)の脳裏に、道中で通り過ぎた家電量販店が過ぎる。帰りの予定を1つ立て――アスファルトへ、一雫。
「せっかくのお料理の道具、人を傷付ける前に止めてみせましょう」
「ああ。疾く、消えてもらおう」
 アルスフェイン・アグナタス(アケル・e32634)は森碧の瞳を和らげ、纏っていた銀に意識を向ける。
(「こういった機械には明るくないのだが、人を傷付ける物と化すなど不本意だろうよ」)
 変えられる前はきっと――大勢の心を満たすスイーツを作っていた筈。
 機械兵の足元から黒華が天を目指して咲き誇り、封印箱に身を滑り込ませたメロが激突し、鉄の血潮を散らすスリムボディの前へティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は銀の煌めきを飛び込え迫った。纏う銀は流れるように鋼鬼の拳に変わり――。
「大事なミッションが、あるから……!」
 殴り飛ばされた機械兵の肩に亀裂が走り、箱竜クラーレの花息吹が防ごうとする攪拌翼を擦り抜ける。途切れぬ流れに『おー』と感嘆の声を漏らしたサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)からは、紙兵の群れが波音に似た音を立てながら飛び立った。
「何つーか、食前の運動だな」
「間違っていないわね」
「そうですわ! ささ、美味しいデザートのためにも早く倒してしまいましょう!」
「とっとと倒してデザートを、じゃない市民の安全確保なの!」
 空の太刀筋を揮った光と、前衛を紙兵の守護で覆ったシエルが機械兵へきりりと眼差しを向け、言い直した大弓・言葉(花冠に棘・e00431)も全てを凍てつかす弾丸を撃ち出した。
 ケルベロスが届ける安心安全は、甘い物と市民の双方へきっちりバッチリ平等に。
 なぜなら。
「どっちも大事! ね、ぷーちゃん!」
 ブレスを見舞った箱竜ぷーちゃんの目も乙女達と同様にきりっと、そしてうるっとしていたのは性格故。その目が機械兵と合って思わず固まったのと同時、機械兵の全身にパカパカパカッと『窓』が空いた。
『アッとイウ間ニ……出来、アがリ!』
 機械兵の両腕と似た形のミサイルが次々に飛び出していく。家電だった頃と違い、今は被害ばかりを作っていくそれらをサイガは武器で、ぷーちゃんは体で受け、仲間達を守っていき――。
「こっちこそ、あっという間に片付けさせてもらうからね」
 マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)は相棒の箱竜ラーシュと視線を交わし、脚に纏う炎を蹴り上げた。放たれた炎撃の後にラーシュのブレスが続き、機械の体が真っ赤に染まる。
「そこなのじゃ!」
 ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)の攻撃がアスファルトの地面ごと機械兵を貫く。轟音が響く中、ゆらりとスリムボディが立ち上がり、
『ア、ッ、とイウ間ニ。出来アガ、リ!』
 回転する両腕から、細く高い音を響かせた。

●朝におやすみ
 早朝。人避けの殺気。そして戦いの音。
 それらが合わされば一般人が寄りつく要素は無い。
 クィルはかすかな安堵と共に走り、ビル壁を力強く蹴って跳んだ。
(「――あ、」)
 鼻をくすぐった香りに一瞬だけ心を躍らせ、刃煌めくルーンアックスを機械兵の脳天目掛け叩き込む。
 銀月が降ったかのようなその直後、漂う香りにサイガは鼻を鳴らし、笑みと共に蹴撃で機械兵を貫いた。
「しっかし、甘いな」
「すごく美味しそうな香りだよね!」
 続いたマイヤもキラキラの笑顔を浮かべ、魔法の杖から小動物へと変化した一撃を見舞う。大好きなフルーツは店内で大事にされている筈だ、こんな風に外まで香らないだろう。なら。
「ズコットのスポンジかタルト台かな? どっちだろ?」
 ラーシュが潜り込んだ封印箱が激突し、ぐわん、と痛そうな音が響いた。機械兵は恐ろしくスリムな体を右に左にと踊らせた後、両足で踏み留まっている。
「さて。どちらだろうな」
 どちらであれ、この香りは間違いなく美味しい。
 アルスフェインは微笑み、スイッチをカチリ。勇気を呼び起こす爆風が後衛陣の背を鮮やかに彩りメロのブレスが機械兵の顔を覆えば、機械兵は攪拌翼部分を勢い良く回転させ、逃れようとしていた。
『アッと! アッと!』
 くるくるとした動きは僅か数秒。一瞬静かになった後、両腕全体を回転させながら突っ込んでくる――が。
「市民の安全確保だけじゃなくて、仲間の安全も確保よ!」
 甘く可愛らしい衣装を切り裂かれながらも言葉は妖精弓に矢を番え、至近距離で機械兵を貫く。直後を箱、もとい少しだけ体震わせたぷーちゃんの突撃が続き、光のオーラの後、ティスキィはクラーレも癒しに向かわせながらバスターライフルの引き金に手を掛けた。
「あなたは、笑顔を生み出すお菓子のために頑張った道具。危険なものにしておけない……!」
 爆風の後押しを受けた一発は強大なものとなり、眩いほどの一撃が機械兵をのむ。
「その通りですわ。ここでお休みなさいませ」
 シエルは軽やかに妖精靴の踵を鳴らし、零れた星屑は甘い香りを裂きながら機械兵へと真っ直ぐに。星々の煌めきが更なる亀裂を走らせれば、『過ぎる』くらい細かった機械兵の体は弱々しく見えて。
『アア、ア、アッと、イウ! 間ニ!』
「『出来アがリ』とな。よくこの惨状を見てみるとよいのじゃ」
 ウィゼは僅かな隙を突いて懐に飛び込み、ふぉふぉふぉと笑いなら両手を閃かす。一瞬しか出来ないが、一瞬だからこそ仕込めた悪戯が、ダメージと共にきらりと光った。
「完成というより散らかしているだけなのじゃ」
 ダモクレスとなった以上は仕方のない事かもしれない。
 以前のように何かを作る事は出来ず、ただただ周りを傷付ける。
「まっ舌慣らしにゃなったぜ。そんじゃ俺、本戦控えてっから」
 サイガはそう言って笑い、踏み出す動きのついでに看板を掴み、『降魔』を注ぎ――ぶん殴った。
 ぐるんと一回転してアスファルトに沈んだ鉄の体が、ギギギ、と音を立て起き上がろうとする。そこにクィルの影が落ちる。パチッと煌めき爆ぜる穂先が、向けられる。
「もう、止まりましょう」
 真っ直ぐに稲妻が墜ち、くるくる回っていたハンドミキサーの名残が緩やかに止まった。

●ふるうつ・ぱらだいす
 お待たせしましたー。
 朗らかな声と共に目の前へ運ばれてきた品を前に、ウィゼはうむうむと頷き、ピンク色の髭を撫でた。
 戦闘が終わったらヒールで後片づけを――料理をしたらちゃんと後片づけもする。当たり前の、そしてこなさなければいけない案件を終えた後に迎えたタルトは、フルーツてんこ盛りだが、見事なバランスを保っており美しい。
「こういうようにしっかりと盛りつけてから完成というのじゃ」
 塵になって消えた機械兵のようなやり方では、とてもじゃないが完成には程遠い。
「それではいただきますなのじゃ」

 橙に煌めくピラミッドにフォークを差し込んで、一口頬張れば――ああ!
「食べ応えたっぷり~しゅっぱさが良い~」
 蜜柑のタルトに笑顔をとろけさす言葉の向かいでは、クーゼも苺のタルトに舌鼓。
「んん、甘酸っぱさと甘さが絶妙で、幸せな気分になるなぁ」
 1粒1粒が大きいけれど、紅茶でリセットしていればいつまでも味わえそうな美味しさ。
 言葉も紅茶を一口飲み――テーブルにしがみついているぷーちゃんのアツイ眼差しに気付き、破顔した。箱竜の眼差しは、こう語っている。自分の分が欲しいっスぅ! と。
「ああ分かってる、ぷーちゃんの分もちゃんとあるからね。はい」
 パアァッと目を輝かせたぷーちゃんが、あぐあぐと蜜柑のタルトを頬張る間、クーゼの相棒はというと。
「シュバルツは黄桃かぁ。なんだかんだで甘いの好きだもんな? ところで、その蜜柑のタルトも美味しそうだね?」
 恋人からニコニコと一口ねだられてしまったら、駄目とはいえない乙女心。真っ赤になりながらも勇気を出して――はい、あーん。
(「て、照れちゃうっ……!」)
 目を合わせられたのは、一口あげてから数秒後。
 彼女の照れが彼にも移ったか。
 甘味を頬張るサーヴァントと、赤面しているカップルという何とも仲睦まじいテーブルが生まれていた。
 完食後は――もう1つ?

 1人分にしては随分大きいけれど、ふたりだから大丈夫。
 アルスフェインは優しい笑みを浮かべ、瑞々しい苺を乗せたフォークをメロの口元に運んだ。メロの澄んだ瞳に苺の赤が映り――苺が、メロの口へと消えていく。
「美味しいか?」
 問えば、返ってきたのは上機嫌な鳴き声。
 アルスフェインは良かったと呟いて2個目の苺もメロに贈り、嬉しそうに食む姿を静かに見つめ続ける。
「偶にはこうしてふたり、店で落ち着くのもいいものだな」
 機嫌の良いメロを見ていると、自分まで嬉しくなる。
 頬を緩め、温かな紅茶を飲む。
 甘くて新鮮で、瑞々しいフルーツの魔法は、もう暫くふたりだけで味わおう。
 だってこの楽園は、逃げたりしないから。

 クィルより先に注文を決めていたジエロは、フォークを入れる前に、クィルの前にある優しいエメラルド色へ目を向けた。
 自分の前にはしっとり艶めく黄桃タルトがあって、あの子の前にあるのは、自分の物とは違うマスカットのタルト。違う物を選んだのは、きっと――なんて、少し自惚れてしまうのは、此方をちらちらと伺う双眸がメニューから覗いていたせいだろう。
「ね、交換こしようか」
「! ふふふ。交換こしましょうね」
 お供には2人揃って紅茶を選んで。そして咲くのは、甘く楽しい今後の予定。
「ね、ジエロ。タルト作りの参考に、使っているフルーツやクリーム、チェックしていきましょう。帰ったらそっくりの物を作ってみたいな」
「参考に出来るかなあ。難しそうだ」
 そう言いながらも、クィルとそう変わらない熱意でジエロは黄桃タルトを実食チェック。
 味やクリームの滑らかさを舌から脳へ刻む過程――食べる姿を、クィルはじぃっと見つめた。顔が、ふと上がる。見つめる瞳に気付いたジエロが瞬きをひとつ見せて。
「……やっぱり、食べてるところがとても好き」
 零した口元に差し出された一口分。黄薔薇のように鮮やかな黄桃をクリームやサクサクのタルト台と共に食べると、ほわりとした甘さが口いっぱいに広がった。頬を緩めたままお返しをすれば。
「私も、好きだよ」

「桃が、タルトの桃が輝いてる……お菓子の宝石みたい……!」
 しかも山盛りで! 大きくて!
 瞳をキラキラさせたマイヤがすごいね、と言えば、ラーシュも目をまん丸にしてコクコク頷くばかり。いっぱい動いてお腹が空いている今、これはまさしく、頑張ったご褒美!
「いやホント、宝石みたいな……待て、1人じゃ倒しきれんと呼ばれたンでは」
「ああも推されりゃまあ戦いてえじゃん?」
 キソラの視線に、サイガはテーブルに並ぶズコットあんどタルトを示す。
 マイヤは桃の、光は苺の、そしてシエルは蜜柑のタルトを頼んでいた。自分達の前には、色のせいかレアボス感溢れるメロンとマスカットのズコットが、どどん。
 1人1つ。無言のプレッシャーが、凄い。
 鮮やかな赤いピラミッドを前にした光も、少しばかり驚きを浮かべてはいたが。
「食べてみたら意外とぺろりと……あら。本当にぺろりと行けそう」
「え、ホント?」
「苺の甘酸っぱさがまた絶妙ですわ! 蜜柑も本来の甘さが出ていて美味ですの! さ、光様もどうぞ」
「ふふ、頂きます。マルヴァレフさんも、苺をどうぞ」
「わーい!」
 乙女達は、自分の分ぷらすシェア分も楽しく頂いている。
 ラーシュも元気に頬張り始めれば男2人も甘い戦いに参加する訳で。
「……あ、意外と爽やか。これ別のも食べてみたくなるヤツじゃん」
 見目も口当たりも良しという一品なら、尚の事。
 戦闘を終えたばかりのサイガは、元々果物を好む事も加わってか、メロンタルトをぺろりと半分平らげていた。
「かる。もはや飲みモンみてえなー? まだ行けるわ」
「俺ンとこから取るんじゃない。寄越せコラ」
 2人の間で別の戦いが始まれば、楽しそうな声も増えていく。しかし胃袋の容量には限りがある訳で。んん、と唸り始めた助っ人もといキソラに、緑茶を啜っていたサイガは頼りねえなあと言って、苺をほぼ倒していた光に取引を持ちかける。
 戦闘後の疲労にはもっと甘いものをドウゾ。一切れ強を乗せた小皿を差し出すが、これは敵前逃亡ではない。ケルベロスライフで学んだ成果だ。
「2人で胸焼け相打ちよか、3人でオイシク倒す、絆の力ってやつだ」
「上手い事言うネ。じゃ、光ちゃん。3人寄れば何とやら、ってネ?」
 つい零れた笑みを隠すように、更に大きめの一切れが追加。
 あら、と瞬いた目が不敵に笑う。
「それじゃあ――完全勝利、おさめましょう?」
「わ、バトル開始? 3人とも頑張って!」
 マイヤは応援を飛ばしつつ、タルトに舌鼓。一口食べるごとに美味しさが広がるものだから、次は仲良しの友達を誘って――と予定が膨らみ、それと一緒に広がる幸せを零さないよう、頬に手を当てとろけていた。
「なんだかもっと食べたくなっちゃう」
「この贅沢な時間、ずっと続いてくださればいいのに、ね」
「ね!」

「種類がたくさんあって嬉しいな~シアワセ! 全部残さずキレイに食べるからね」
「私も。食べきるために一食抜いてきたもの、大丈夫っ」
 金と紅緋の瞳を交えた2人の前には、苺煌めくタルトと苺を閉じ込めたズコットが1つずつある。心躍るスイーツとゼロアリエを1枚の写真におさめて、ティスキィは眩しい画面に笑みを零し――大好き、とキスをひとつ。
「ズコットの苺、ゼロの色ね。赤が眩しい」
「この苺は、キィの瞳と同じ色だ!」
 愛しい色に2人はまた視線を交え、温かな気持ちで最初の一口を頬張った。ズコットもタルトも苺をふんだんに使っていて、いくつ詰まっているかわからないくらい。
 爽やかな甘さで幸せいっぱいな2人に引き寄せられてか、クラーレが2人の食べている物に興味津々といった眼差しを向け始める。ちなみにゼロの相棒・ライキャリさんはクールにじっとしていた。
「食いしん坊だよねー。仕方ない、俺の苺タルトを分けてあげよう!」
『!』
「全部食べないで! あっキィこんなトコ写真撮ったらダメだよ!」
「ふふ」
 でも、苺タルトをねだる甘えん坊がちょっぴり羨ましい。
「私も、ゼロから欲しいな」
 お返しは勿論――と、目の前に差し出された量を見てティスキィは目を丸くした。
 だって一口なんて量じゃない。半分はある。
「……いいの?」
「いいんだよ。キィは美味しいも嬉しいも一緒に楽しめる、ステキな時間をくれるから。だから、ありがとうね」
 半分にされた苺の赤も、金の眼を細めて笑う目の前の赤も、ティスキィにたっぷりの幸せを与えていく。少女はほんのり薔薇色になった頬を押さえ、とろけるように微笑んだ。
「……あっという間に笑顔がたくさん、ね」

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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