穿牙は血濡れて

■リプレイ

●偶然の悪意
　滋賀県彦根市、琵琶湖湖畔に建つ郊外型のスーパーマーケット。
　広大な敷地に幾つもの専門店が並び、子供達にとってはちょっとした遊園地の様な場所。
　休日であれば、多くの人が買い物に食事に、と訪れる事だろう。
　しかし、今日は平日の昼間……広大な敷地には車がちらほらとある程度で、人気もそんなに多くは無い。
　……しかし、そんなスーパーマーケットにも、不意に襲いかかるデウスエクスの影。
　晴天の空から降り注いだ竜牙兵の牙が、一般人の殺戮兵器となる……そんな話をセリカより聞きしケルベロス達は、未だ平穏を保つ駐車場へと降り立つ。
「……ふぅん、中々広いんだね」
　見渡す限りのエリアは駐車場……その広大さに比良坂・黄泉（静かなる狂気・e03024）が感嘆を漏らすと、鏑木・蒼一郎（ドラゴニアンの執事・e05085）も。
「そうだな。確か此処は2000台位が収容できる、という話だ。まぁ、郊外型のスーパーマーケットとしては、標準的な大きさ、とは言えるだろうか」
「そうなんだね。まぁ……駐車場が一杯な時じゃなくて良かった、と言えるのかな？　牙の刺さった車の持ち主は不幸だけど」
「確かに……な」
　僅かながらも苦笑する蒼一郎。
　勿論、一般人に被害が及ぶ事件を防ぐ……それは、ケルベロスとしての使命。
　車も、恐らくヒールグラビティを使えば牙の刺さった傷位なら癒やせるだろうから、大きな問題ではない。
　寧ろ、大きな問題と言えるのは、相も変わらずに、何度も何度も襲撃してくる竜牙兵達、と言えるだろう。
「本当、何度も同じような襲撃を繰り返し、その度に返り討ちにされ、それでも襲撃を繰り返すとは……良く飽きませんよね」
「うん。幾ら撃退されても同じような戦法で襲撃してくる……まぁ、命令されているのを繰り返しているだけの様だから、学習能力が無いんだろうね。骨しか無いだけに」
　と源・那岐（疾風の舞姫・e01215）と源・瑠璃（月光の貴公子・e05524）の姉弟の会話に、花見里・綾奈（閃光の魔法剣士・e29677）が。
「琵琶湖に竜牙兵、と……日本一の大きさを誇る湖に竜牙兵が現れるては、一般人も沢山居るので大惨事になってしまいますね。でも、そんな事は絶対に許しません」
　ぐっ、と拳を握りしめる綾奈、そして尻尾をピンと立たせながら、シルフォード・フレスヴェルグ（風の刀剣士・e14924）と皇・晴（猩々緋の華・e36083）も。
「ああ、ここを惨劇の場になどさせる訳には行かないだろう。竜牙兵が牙を剥くと言うのなら、私達も人を守る為に牙を剥く」
「そうですね。やっと僕も、誰かを護れるくらいには力が付いた筈……この力と、彼岸と共に必ずや市民を護り抜きます」
　並々ならぬ、市民を護る思い。
　そんな二人の言葉に、肩をコキ、コキと鳴らしながら戯・久遠（紫唐揚羽師団の胡散臭いモブ・e02253）が。
「ま、竜牙兵ってのは相変わらずに厄介なもんだ。平日だからお仕事中ってな訳なのかもしれないがね」
　何処か不遜に笑う久遠。
　ともあれ、ケルベロス達は、一端其の場にて待機する。
　すると……空から真っ直ぐに落下してくる、竜牙兵の牙。
　二つは車に、二つはアスファルトの地面を割り裂いて突き刺さる……そして、その轟音に、周りの一般人達は悲鳴を上げる。
「本当、代わりませんね。まあ、いつものように一般人に害を及ぼすなら、倒すだけです。瑠璃、行こう！」
「うん、那岐姉さん」
　瑠璃と那岐の言葉に皆も鵜名ズＫい、そしてケルベロス達は作戦を開始した。

●怒れる力は
『……グ、グフ……フゥハァハハハハハァ！！』
　と、突き刺さりし牙は、間を開ける事も無く、みるみる内に姿を変えて……竜牙兵となる。
　無論竜牙兵は、姿を現わすと共に、鎌と剣を空高く掲げ、周りの一般市民達へ威嚇。
『サァ、オマエタチの、グラビティ・チェインをヨコセぇ！！』
『ソウダソウダ、オマエタチがワレラに向ケタ、ゾウオとキョゼツはドラゴンサマのカテトナルノダ！！』
『ホラ、ブザマニ、シネ！！』
　半ば狂気に包まれた竜牙兵の咆哮は、一般人に憎悪と恐怖を植え付け、燻す。
　しかしそんな竜牙兵の下に、先陣切って接近するは蒼一郎。
「全く……相変わらず、力の無い市民を狙うんだな。お前達の主には、誇りとか矜持とかいったものは無いのか？　所詮、トカゲのでかくなっただけの存在か？」
　と、開口一番に挑発。
　そんな蒼一郎の言葉に、元々血気盛んな竜牙兵達は。
『ナンダトォ、テメェ、何イッテヤガル！！』
『テメェ……ケルベロスカ！　オモシレエ、殺ッテヤロウジャネェカ！！』
　禍々しい闘気と共に、ケルベロスへ鎌、剣の攻撃を嗾ける。
　鋭い剣戟は身を裂き、薙ぐ鎌閃は身を真っ二つにしようと……。
「……！」
　と、その攻撃を、負けずに大きな雷鳴の戦斧を振りかぶり、太刀筋を逸らす。
　……そう仲間が、竜牙兵の注目を惹きつけている間に、黄泉は事前に連絡しておいた警察と、その施設の警備員に。
「先ほど連絡した者ですが、至急市民の方々をこの場から避難させて下さい」
　とテキパキと指示を与え、更に那岐、瑠璃が。
「皆さん、こっちです！　大丈夫、私達はケルベロスです、皆さんを護る為にやって来ました！」
「至急、安全なデスーパーマーケットの中に避難して！　お爺ちゃんやお婆ちゃんは、周りの人が手を貸してあげて！」
　多少強い口調で、一般市民達をスーパーマーケットの中への避難を促す。
　勿論、身近な所で動けない人などには、背に背負ったり、肩を貸したりして、其の場から一人、また一人と避難させていく。
　そして、その間に他の仲間達は。
「さぁ、雷よ、来たれ……そして、敵を薙ぎ倒す力となれ……」
　と綾奈が『雷鳴斧撃』にて、敵列にパラライズ効果を持った雷の斧撃を放つ。
　そして、その攻撃を切っかけにして、蒼一郎と黄泉は、鎌持ちの竜牙兵に各々接近。
「お前の魂、喰らってやろう！」
　と蒼一郎の降魔真拳と、黄泉のスターゲイザーが放たれる。
　そして、クラッシャー二人に続き、シルフォードが絶空斬の一閃を放ち攻撃する。
　対し、晴は攻撃を受けた綾奈にブレイブマインで強化すると、彼岸も前衛の仲間達へ祈りを捧げるでBS耐性を付与。
　又、久遠は眼鏡を外しつつ。
「さて、術式開始だ。貴様ら市民を渡すわけにはいかん」
　と、武人の如き口調に変わりつつ、旋刃脚の一閃を叩き込むと、同時に綾奈のウイングキャットは綾奈に清浄の翼で更なるBS耐性を積み重ねる。
　そして、次の刻……まだ、逃げ切れていない市民がちらほら見受けられる。
『クソ、ジャマダ！！』
　と、苛立つ叫びを上げながら、鎌を強く振り薙ぎ、衝撃波を飛ばす。
　が、その攻撃を、身を挺するシルフォード。
　胸元辺りから血飛沫が飛び散るが、キッ、と竜牙兵を睨み付け。
「行かせはしない」
　そして蒼一郎も。
「お前達の相手はこっちだ！　よそ見している余裕があるのか！」
　と怒気の篭もった声と共に、鎌持ち一体へ。
「次は気脈を封じる！」
　と指天殺、そしてもう一方の敵には、黄泉のスカルブレイカーが襲いかかる。
『グォァ……！？』
　骨のみの体躯に、骨砕きの一撃がクリティカルし……鎌持ちの竜牙兵は、地面へと崩れ墜ちる。
　そして……残るもう言ったいの鎌持ち竜牙兵へ、シルフォードがレガリアスサイクロン、綾奈が。
「その傷口、更に広げてあげます……！」
　と絶空斬にて、その身のバッドステータスを一気に倍増。
　そして、更なる剣持ち竜牙兵の攻撃を、綾奈とシルフォードは身を挺し受け止めると、夢幻の清浄の翼に、彼岸の祈りを捧げる、晴のオラトリオヴェール。
「全力で回復する。簡単に落とせるとは思うなよ？」
　更にウィッチオペレーションでの大回復を施し、体力と戦線を維持。
　そして、３刻目には、全ての市民避難も完了し、那岐と瑠璃も合流。
「お待たせしました。後は容赦無く、叩き潰しましょう！」
　と那岐が轟竜砲で足止め効果を付与すると、連携した瑠璃がプラズムキャノン。
　更に蒼一郎が。
「足元が留守だぞ！」
　と旋刃脚を頭上から蹴り落とすと、二体目の鎌持ち竜牙兵も潰れる。
　……残る二体の剣持ち竜牙兵。
『グ……』
　かなり早い内に倒れた仲間の亡骸を見て、僅かな恐怖が去来。
　でも。
『コノ……コロス、コロスコロス！！』
　更なる狂気と共に、剣を力一杯振り回し続ける。
　そんな竜牙兵の攻撃を、身のこなしで交わしつつ懐に潜り込んでの綾奈が。
「光よ、我が翼に纏いて、敵を貫きなさい……！」
　とヴァルキュリアブラストを皮切りに、蒼一郎が。
「雷竜の咆哮を聞け！」
　と『真・雷帝』を穿ち、黄泉のスカルブレイカーが不意を突いて叩きつける。
　同敵を狙い、更なる猛攻……那岐の斉天截拳撃と、瑠璃の螺旋射ちが武器を傷付け、シルフォードの絶空斬がバッドステータスを更に倍加。
　そして……晴の死天剣戟陣の一閃に、竜牙兵は更に墜つ。
　……残るは、後一体。
　そんな竜牙兵に、久遠が。
「貴様らの敗因はたった一つ、シンプルな答えだ……貴様は、ケルベロスを怒らせた」
　静かな口調ながらも、怒りを秘めた久遠の達人の一撃が、その脚の骨を砕くと、当然、そのまま立ってはいられなくなる。
　そして。
「……そろそろ、終わりにしよう」
　と黄泉の言葉と共に、デッドエンドインパクトが頭を貫き……竜牙兵は、完全に崩れ去るのであった。

●狂いしは
　そして、竜牙兵４体を討ち取ったケルベロス達。
　周りに散らばるは、竜牙兵の牙の欠片……勿論、それらがもう一度動き出す事は無い。
「さて、終わったな。どれ、ちょいと傷を診てみるか」
　と久遠が仲間達の傷の具合を確認。
　幸いな事に、命に関わる程の大怪我は無い様だが……鎌や剣によって刻まれた生傷が、幾つも。
「やっぱりちょっと怪我してる様だな。ほら、回復するから大人しくしてろよ？」
　と、そそくさとそれら仲間の傷を一つ一つ癒していく。
　そして、皆の傷が癒えたところで、綾奈が。
「それでは、後は破壊された箇所のヒールでしょうか。壊れた車に、割れた地面のアスファルト……多く残る攻撃の爪痕も癒さなければなりませんね」
「そうですね。私も手伝いますよ」
　とシルフォードも進み出て、それらの被害箇所を一つ一つ、確実に修復していく。
　又、蒼一郎は避難させていた一般人の下へと駆けつけて。
「皆さん、無事に竜牙兵は討ち倒すことが出来ました、ご協力感謝します。もし、怪我をした人が居る様でしたら、教えて下さい」
　と一般人に無事に終わったことを告げて、又、避難時に怪我をした人を一人一人、治療していく。
　……施設の修理と、怪我人の治療が一通り終わり、程なくすると……スーパーマーケットは、いつもの風景を取り戻す。
「ふう……那岐姉さん、お疲れ様」
　と労いの言葉を掛ける瑠璃に、くすっと那岐は笑い。
「そうだね、瑠璃もお疲れ様……折角ここまで来たんだし、お買い物していこうか？」
「うん、そうだね。折角だから買い物して行きたいよね。色んな物があるみたいだしね」
　頷き合う二人に、黄泉が。
「本当、二人共仲の良い姉弟だね」
　と言うと、淀む事無く頷く二人。
　そして、ケルベロス達は後よりも大方終わり、個々に所用を済ませつつも、其の場を後にするのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年3月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 4
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