継ぎ接ぎの悪夢

作者:雷紋寺音弥

●噂の断片
 それは、ほんの些細な噂から始まったことだった。
 最近、街の中で野良犬や野良猫の姿を見なくなった。小学校で飼われていた兎が一夜にして行方不明になった。廃墟と化した病院を探索に行った大学生のグループが消息を絶った。
 どれも、事件としては小さなものであり、地方の新聞の片隅に掲載される程度の話。だが、そこに何か不穏な空気を感じ取り、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)は一連の事件が発生した街の外れにある、今では使われなくなった病院の跡地を訪れていた。
「それにしても、薄気味悪い場所ですね……。ですが、この臭いは……」
 鼻腔に漂う微かな気配を敏感に察知し、セデルは地下へと続く重たい鉄の扉を開いた。
 瞬間、地の底から溢れ出て来る黴臭い空気。それに混ざって彼女の肌を刺激するのは、ヴァルキュリアとして忘れたくとも忘れられない、死の匂い。
 ここから先は、かつて遺体安置所だった場所である。しかし、それにしては死の匂いが随分と新しい。朽ち果てた亡者の残滓などではなく、鉄錆を思わせる血の匂いだ。
「キヒヒヒッ! またまた、お客さんが来てくれたよぉ!」
 長い階段を降り、地下へと足を踏み入れた瞬間、硝子を引っ掻いたような耳障りな声が響き渡った。
「……っ! あなたは!?」
 思わず身構えたセデルの前に現れた者。それは実に奇妙な姿をした、一体のデウスエクスだった。
 右翼は竜で、左翼はタール。左腕も完全な翼と化し、しかし騎士鎧を思わせる装甲を纏った右腕の先は、こちらは鍵になっている。腹部には謎の植物が咲き、腰からは無数の触手を生やし、左足は完全に機械化している。
「普通の動物や人間じゃ、脆すぎて飽きてたところなんだよねぇ! でも……ケルベロスだったら、ちょっと切り刻んで繋いでも、そう簡単には死なないよねぇ!!」
 狂った笑みを浮かべながら、謎のデウスエクスがセデルに迫る。見れば、辺りには全身を切り刻まれた人や動物の残骸が、血溜りの中で無造作に転がされていた。
「戦うしか……ないようですね」
 このまま逃がしてくれるとは思えない。ビハインドのイヤーサイレントと共に武器を構え、セデルは襲い来る謎のデウスエクスと対峙した。

●継ぎ接ぎの冒涜者
「召集に応じてくれ、感謝する。とある街の廃病院を調査中に、セデル・ヴァルフリートが宿敵のデウスエクスに襲われる事件が予知された」
 大至急、セデルを救出に向かって欲しい。連絡を取ろうとしたが間に合わなかったと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、事件の詳細について語り始めた。
「セデルを狙っているのは、接剥・端付(ツギハギ・ハヅキ)。色々なデウスエクスの身体を寄せ集めたような姿をしているが、種族としては死神だ」
 その外見からも想像できる通り、端付は様々な生き物を切り刻み、繋ぐことを趣味としている。サルベージしたデウスエクスを異形化させるだけに飽き足らず、その辺の野良猫や一般人にまで魔の手を伸ばしていたところを、セデルに嗅ぎ付けられたらしい。
「今から向かえば、セデルが敵と本格的な戦闘に入る直前に、介入することも可能だぞ。場所は、街外れの廃病院。そこの地下室……かつての遺体安置所で、セデルは敵と遭遇し戦闘に突入するようだな」
 敵は端付が1体のみで、幸いにしてサルベージされたデウスエクスや屍隷兵の類などは確認されていない。だが、それでも油断は禁物だ。
 様々なデウスエクスの部位が合体したような姿の端付は、正に混沌と不条理の塊といっても過言ではない。それ故に、腹部の植物から光線を発射したり、伸縮自在な尻尾の毒針で攻撃して来たりする他に、自らの身体を接合手術によって再生させるなど、死神の枠に捉われない多彩な技を使うことができる。
「自分の気に入った部位を繋いで、新たな命を想像する……。命に対して、これ以上の冒涜は存在しないだろうな。セデルのことを抜きにしても、こんなやつを野放しにするわけにはいかないぜ」
 それこそ、放っておけば人々が、凄惨な事件に巻き込まれないとも限らない。そんな事件を起こされる前に、なんとしても端付を撃破し、セデルを救出して欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
ユーディアリア・ローズナイト(宝石の戦乙女・e24651)
リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)
霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)

■リプレイ

●狂笑のパッチワーク
 静まり返った廃病院。かつては死者が安置されていたはずの地下室で、対峙するは二つの影。
「やはり貴方でしたね、『死神』。あの頃から看取りを役とする私と貴方は反りが合わなかった」
「あれぇ、お知り合いだっけ? 悪いけど、アタシは気に入ったやつの、気に入った部品しか興味なんだよねぇ!」
 セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)の言葉に、『死神』と呼ばれたデウスエクス、接剥・端付は狂った笑いを浮かべるだけだった。
 背中から生えた、龍の翼とタールの翼。全身を様々なパーツで無秩序に構成している端付の姿は、パッチワーク人形そのものだ。
「それじゃ、アンタの部品をいただくよぉ! そうだねぇ……やっぱり、その背中に生えた、キラキラ光った翼からもらおうかな♪」
 こちらの都合などお構いなしに、端付の尻尾がセデルへと迫る。瞬間、ビハインドのイヤーサイレントが割り込んだことで、繰り出された尻尾の毒針は、セデルの相棒の腹を深々と貫いていた。
「あらら~、残念だなぁ。背後霊じゃ、部品も取れないからつまんないよぉ~。キャハハハハッ!!」
 先端から毒液を滴らせた尻尾を収納しながら、端付は相変わらず狂ったように笑っていた。
 広がる狂気と、耳障りな声。周囲の血の匂いも相俟って、まともな人間ならとっくに頭がおかしくなっているだろう。
「させませんよ……。こんな場所で、貴方の玩具にされるわけには……」
 己の制御する攻性植物に黄金の果実を実らせて、セデルはその力をイヤーサイレントへと注がせる。正直、これでどこまで耐えられるかは未知数。だが、このまま狂った死神の玩具にされて、身体をバラバラにされては堪らない。
「キヒヒヒッ! 無駄な努力、ご苦労さん! でもねぇ……守ってばっかりじゃ、アタシには勝てないんだよぉ~!!」
 そちらが植物なら、こちらも植物。にやりと笑った端付の腹から、グロテスクな形の花が牙を剥く。
 本当の攻性植物は、こうやって使うのだ。そんなことを言っているようにも思われる行動だった。もっとも、続けて仕掛けようとする端付だったが、今度ばかりはそうそう彼女の思い通りにはならなかった。
「とっつげーきっ!!」
 突然、遺体安置所の扉を突き破り、燃え盛る火炎を纏ったバイクが突っ込んで来たのだ。
 これには、さすがの端付も余裕を持って迎撃することはできなかった。仕方なく、ギリギリのところで攻撃を避けたが、しかしそれは意識が正面だけに集中してしまう結果となり。
「喰らい付く!」
 本命はこちらだ。ライドキャリバーのクォーツから飛び降りたユーディアリア・ローズナイト(宝石の戦乙女・e24651)が、炎の腕で端付の顔面を殴り付けた。
「おぉっ!? アハハハ! 世界がぐるぐる回ってるよぉ!!」
 衝撃で縫合糸が緩み、皮一枚で首に胴に頭が繋がっている状態になった端付が、ゲラゲラと下品な笑い声を上げている。もっとも、そうやって余裕を見せつけていられる程、状況は彼女にとって甘くは無く。
「……後ろが隙だらけ」
 薄暗がりの部屋を駆け抜ける雷刃が一閃。リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)の繰り出した鋭い突きが端付の背中を貫いて、衝撃で彼女の身体を部屋の奥まで吹き飛ばした。
「無事っすか、セデルさん?」
 長剣を掲げ、護りの紋様を展開しつつ、グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)が声をかける。その言葉に頷くセデルだったが、しかし視線は真っ直ぐに端付の方へと向けたまま動かさない。
「アイタタタ……。あらら、こりゃいけないねぇ、アタシの首が胴体とサヨナラしてるよぉ」
 果たして、そんな彼女の懸念は正しく、端付は転がった自分の頭を抱えると、何事もなかったかのようにして起き上がり。
「でもでも~、残念無念、元通り~♪ アタシにかかれば、ピッタリくっついちゃうんだなぁ♪」
 そのまま頭を首に密着させれば、どこからともなく伸びて来た新しい縫合糸が、端付の首を繋いでしまった。
「ここまでツギハギでも生きているとは、デウスエクスの不死性に改めて驚かされますね」
 あまりに出鱈目な端付の身体に、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は思わず口にした。敵も自分達も、グラビティ以外ではダメージを受けない身体だが、それにしても、こいつは異常だ。
「うーん……悪趣味ねぇ……。死神のセンスはよく分からないわ」
 ホラー映画さながらの光景に、神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)が溜息一つ。見れば、そこら中に転がっている犬や猫の死体。その大半は原型を留めていないが、中には人のものもあるのだろうか。
「……まー、清掃対象としては碌なもんじゃねぇの並べてくれちゃってな」
「……酷いものだ。殺す事に快楽を覚えたのなら、今度は私達が救ってやろう」
 込み上げる嫌悪感を抑え込みながら、リノン・パナケイア(黒き魔術の使い手・e25486)と霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)は、それ以上は考えるのを止めた。
 己の趣味と快楽のためだけに、数多の命を弄ぶ。その報いを受けさせてやるべきだと心に決め、ケルベロス達は目の前で笑い続ける狂った死神へ、一斉に攻撃を開始した。

●冒涜の使途
 生臭い、血の匂いが漂う地下の部屋にて、激突する端付とケルベロス達。だが、数の差では圧倒的な差がありながらも、ともすればケルベロスの方が、掴みどころのない端付のペースに翻弄されそうになっていた。
「貴方の好きにはさせませんよ。蝕む害悪よ、砕け散れ!!」
 注入された猛毒を仲間の身体から靄のような形にして摘出し、セデルは文字通り、拳で握り潰して破壊する。だが、幾度となく毒や炎を除去されても、敵もまたその度に、新たな獲物を定めて次々と攻撃を繰り出して来る。
「う~ん……な~んか、キミ達は気に入らないんだよねぇ。アタシの楽しみ邪魔するなら、さっさと先に死んでくれないかなぁ?」
 腹に咲いた不気味な花が大きく開き、内部で蠢く眼球から、凄まじい光線が発射される。咄嗟に身構えるセデルだったが、それは彼女の脇をすり抜け、後方にいる蘇馬を直撃した。
「うおっ! な、なんか、さっきから俺ばっかり狙われてる気がするんだが……」
 オウガという種族が物珍しいのだろうか。自慢の角を取られては堪らないと、蘇馬は気合を入れ直して自らの身体を殴り飛ばした。
 衝撃と共に痛みが吹き飛び、身体に纏わり付いた炎もまた消えて行く。だが、いかに回復に特化しているとはいえ、格上の相手が繰り出して来た一撃を、たったの一度でカバーできるわけもなく。
「お助け下さいなー」
 祭神の白蛇に祈りを捧げ、純恋がすかさず蘇馬の体力を回復させた。攻撃はテレビウムのテレ蔵くんに任せておき、とにかく今は、こまめに体勢を立て直さねば。
(「単独攻撃に妨害特化……救護役からすれば、カモだと思ってたんだけどね」)
 自分の認識が、少しばかり甘かったか。そう思う純恋の懸念は、ある意味では正しい。
 手数と手厚いヒールで押し切れるのは、あくまでお互いの力量が拮抗していた場合の話。格上相手の繰り出す一撃は普通に重く、おまけに後衛が先に狙われてしまえば、味方をフォローする人間がいなくなってしまう。
「癒し手から狙うとは……。脳まで継ぎ接ぎになっているのかと思っていたが、なかなか悪知恵も回るようだな」
 呪詛を乗せた刃を敵の尻尾を斬り結びながら、リノンは改めて目の前の死神が、危険な存在であると実感していた。
 一見して何も考えていないように見えながら、しかし戦いにおいては常道を貫きつつもポーカーフェイスを崩さない。冷静沈着というのではなく、狂った笑みと軽口で、その本心を読ませない。
 このまま力押しで戦っても、勝てない相手ではないだろう。だが、そんな戦い方をすることは、即ち仲間に無駄な負担と犠牲を強いることだ。
「貴方はここで止めるよ……。絶対に……」
 死角から斬り込み、リーナが端付の身体を構成している、オークのものに酷似した触手を斬り落とした。切断された触手の先端はしばらく別の生き物のように蠢いていたが、やがて完全に動きを止め、瞬く間に腐った肉塊となって溶け落ちた。
「ちょっと個人的な事情で、勝手に人のもの盗ってく奴が大嫌いでしてねぇ」
「さて、回復力は高いとの事ですが、いたちごっこに付き合ってもらいましょう」
 いかに出鱈目な生命力を持つデウスエクスとて、限界は必ず存在する。グーウィの紡いだ魔の輝きが、紫御の放った惑わしの矢に重なって、端付の脳天を直撃し。
「どんなにバラバラになっても生き返るなら、傷口ごと燃やしてやりますよ!」
 高速回転するクォーツと共に、燃え盛るユーディアリアの大剣が、左右から敵の身体を挟み込む。小柄な体から繰り出されるそれは、大剣というよりも、人と刃が一体化した大鋏と言った方が正しかった。
「ンッフフフ~♪ 今のは、ちょ~っとだけ痛かったよぉ? アンタの身体が使い物にならなくなったら、代わりにアタシの身体を頂戴ねぇ……あれ? ちょっと違う? アハハハハッ!!」
 既に自分と他人の区別もつかず、身体の各所に痺れを伴っていながらも、端付の勢いは衰えない。それでも、彼女が戦術を練る頭を持った相手だからこそ、この状況は上手く行かせるとグーウィは踏んだ。
「何、滅多に発動するもんじゃありません、放っておいてもいいんじゃないですかね? 出た時の責任は取りませんが」
 それでも不安なら、手術でも何でもして勝手に除去しろ。そんな彼女の言葉の真意を、果たして端付は解っていたのだろうか。
「ハイハイ、残念! 無駄だったねぇ。こうして、こうして……キシシシ! ほ~ら、この通り元通り~♪」
 身体に刻まれた傷を縫い合わせると共に、端付は全身に積み重なった様々な毒素や炎をも、一度に纏めて振り払って見せた。
 これで戦いは、また振り出しか。否、違う。こうして回復に走らせること自体が、ケルベロス達の作戦なのだ。
「今ので1手、稼げましたね。仲間がいるという私達の最大の武器、ここで生かしましょう」
 眼鏡の位置を軽く直して紫御が告げる。無理やり何かを繋げた継ぎ接ぎ人形と、本当の意味で繋がっている者達の違い。それが勝利の鍵であるということは、言葉に出さずとも、その場にいる全員が理解していた。

●断罪の時
 気が付けば、戦いは一方的な展開になっていた。
 己の好む部位を集め、それを移植することで完成した端付の身体。だが、果たして強そうに見える部分を寄せ集めたところで、それは真の強さ足り得るのだろうか。
「人からものを貰うときは、有形無形それなりに対価ってもんが必要です。ま、払ったから何を持ってってもいいってもんでもないっすけど」
 どうせなら、お前も奪われる経験をしてみたらどうだ。そう言わんばかりに、グーウィは端付の身体を削り取る。かつて、自身の宝を奪った忌々しい宿敵から、グーウィ自身が奪った技で。
「働いて返せ、ヴィゴラス!」
「アイタタ……! こら~! そこはアタシのお気に入りだ! 持って行くんじゃない!!」
 右肩を覆う鎧の一部を抉られ、端付が吠えた。他者から奪うことには貪欲な死神も、自分自身が奪われる側に回れば脆かった。
「なんていうかコンセプトがないというか行き当たりばったりというか……ここまで来ちゃうとなぁ……。元々の方が強かったんじゃない?」
「次はこちらです。さあ、早く治さないと大変なことになりますよ?」
 純恋が、紫御が、挟み込むようにして同時に仕掛ける。研ぎ澄まされた一撃は端付の肉体を瞬時に凍らせ、継ぎ接ぎの肉体がますます脆くなり。
「……狙え」
 間髪入れず、リノンが影の魔物をけしかける。黒い爪が、牙が実体と化し、端付の翼を喰らって捥いだ。
「一つの綺麗な形をしていた命を、無理矢理つなぐなんて……」
「解体の時間だよ……。命を弄んだ償い……ここでして貰う…!」
 これ以上は、生命への冒涜は許さない。炎を纏ったユーディアリアの豪剣が端付の顔面を叩き潰すのと同時に、リーナは自身の纏っていたデウスエクスの残滓を自らの似姿へと固めて変えた。
「もう一人のわたし……! ここに現れて、力を貸して……!」
 双子と見紛う連携で、リーナと彼女の似姿をしたスライムが、徐々に端付を追い込んで行く。立て続けに繰り出される連撃に嫌気が指したのか、思わず端付が距離を取ったが。
「我が両手に天より墜つる星々の輝きを! ……ぶち砕く!! 『流星拳:星墜』ッ!」
 入れ替わるようにして追撃する蘇馬が、待っていたとばかりに拳の連打を叩き込んだ。
「うがががっ!! な、なんて馬鹿力だ!? ア、アタシの……アタシの素晴らしい肉体がぁぁぁっ!!」
 度重なる攻撃で全身の縫合が解れた端付には、もはや抗う力も残されてはいなかった。それでも再び身体を蘇生させんと手を伸ばすが、しかしそんな動きでさえも、後ろから忍びよった影によって阻まれた。
「……あがっ! こ、この背後霊めぇっ! は、離せぇぇぇっ!!」
 もがく端付だったが、イヤーサイレントが背後から絡みついて、しっかりと動きと止めている。そんな端付へ止めを刺すべく、セデルは静かに歩を進め。
「命を弄び楽しむことしか考えない貴女を、私は許さない! 貴方に遊ばれた全ての死者に対し……その罪、悔いる時です!」
 縫合個所の脆い部分を見切り、瞬時に痛烈な一撃を叩き込む。機械の脚が、竜の翼が……およそ、端付の身体を形作る、全ての部位がバラバラに吹き飛んで。
「死ぬ……? アタシは死ぬのかな? もっと、頑丈な身体を手に入れておけばよかったねぇ……」
 紡がれた後悔の言葉は、しかし最後まで悪びれず。
 継ぎ接ぎの悪夢。命を弄ぶ狂った死神の肉体もまた、闇の中に飲まれるようにして溶け落ちた。

●繋ぐ者、繋げる者
 静寂が、再び辺りを支配していた。
 院内に残る、接剥・端付の犠牲者達の残滓。それら全てに簡単な弔いを施し、ケルベロス達は朽ち果てた病院を後にした。
「次に目覚める時には、彼らにも幸せな生が訪れると良いんだが……」
「まあ、俺らに出来んのは、それを祈ることぐらいだしな」
 失われた命は戻らない。しかし、それらの残滓を繋いだところで、新たなる命にも成り得ない。
 数多の身体を繋ぎ合わせて来た死神は、しかし最後まで他者との絆を繋げなかった。肉体ばかりに固執して、目に見えぬ魂の力を疎かにしたことが、彼女がケルベロス達に敗北した理由であろう。
「皆さん、ありがとうございました」
 戦いを終え、改めて仲間達へと感謝の言葉を述べるセデル。これからも、自分は皆と一緒に戦い続けて行こうと思う。他人から奪った力ではなく、互いに支え合うことのできる、絆という名の力を信じて。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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