マガツスミレは霊園に咲く

作者:そらばる

●異形のスミレ
 郊外の緑地には多種多様な墓石が並び立ち、暖かな春の日差しに白々と浮かび上がっている。
 静謐で穏やかな空気に包まれる、広大な霊園。折しも春の彼岸、ぽつぽつと代々の墓に参る人々の姿があった。墓石を磨く人、線香をあげる人、花やおはぎを供える人、手を合わせ念仏を唱える人……。
 微かに漂ってくる線香の香りに、霊園周縁の木陰に身を潜める黒衣の女は、静かに微笑む。
「グラビティ・チェインが複数……良い塩梅ですね」
 たおやかな手が、球根めいた物体を傍らにそっと差し出すと、それは可憐なスミレを咲かせた攻性植物の体内へと吸い込まれていった。
「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです」
 攻性植物の、紫色の肌の女性の顔が、カッと目を見開いた。
 ――キエェェェェェン――!
 スミレの茎と花を頭髪の如く蠢かせる、巨大な頭部だけの異形は、狂乱の雄叫びを上げた。

●霊園を守れ!
「そろそろ霊園を訪れる人が増える時期だろうとは思っていましたが、やはり来ましたか……」
 ヘリオライダーの語る予知を静かに聞いていた卯京・若雪(花雪・e01967)は、柔和な顔立ちを曇らせた。
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は神妙に頷き返す。
「所は郊外の霊園、現るるはスミレの攻性植物『紫紺禍(しこんか)』。この個体は『死神の因子』を埋め込まれているようでございます」
 因子を受けた紫紺禍は、理性を失い、獣の如く片っ端から人々を殺し始める。
 そして大量のグラビティ・チェインを獲得したのちに死ぬことにより、死神勢力の強力な手駒となってしまうだろう。
「これを阻止するためには、紫紺禍が人々を手にかけ、グラビティ・チェインを得るよりも早く撃破せねばなりませぬ。急ぎ現場へと赴き、紫紺禍の撃破をお願い致します」

 敵は紫紺禍一体。配下はいない。
「その姿は、あたかもメドゥーサの類。紫色の肌をした、巨大な女性の顔の異形にございます」
 髪に当たる花茎部分で敵群に絡みつき麻痺毒を注入する、スミレの花々を妖しい紫色に光らせ敵群を毒で侵す、耳をつんざく絶叫で敵群を侵食する、といった攻撃を使用する。
 紫紺禍が現れるのは、霊園北端に存在する大きな花壇のある広場。ケルベロス達が広場に到着するのと、敵が出現するのはほぼ同時になるだろう。
「敵出現時、広場には家族連れの参拝者がいらっしゃいますゆえ、彼らの身の安全の確保をお願い致します。その後は彼らと周辺の人々に言葉で避難を促し、簡単な人避けを行えば十分でございましょう」
「なら、おれが広場のまわりで避難をよびかけて、殺界をはるよ」
 近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)がそう請け負った。となれば、あとは戦いに集中するだけだ。
「死神の因子を抱える紫紺禍は、撃破されると彼岸花のような花を咲かせ、いずこかへと消えてしまいます」
 おそらくは死神に回収されてしまうのだろう、と鬼灯は憂慮する。
「紫紺禍の残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させることで、体内の因子を破壊し、死体の回収を阻止することができましょう」
 死神の因子を植え付けた黒衣の死神は、すでに姿を消しており、今回の事件に現れることはないようだ。
「死神の動きは不穏極まるものではございますが、今はまず被害を防ぐため、紫紺禍の対処を。出来うるならば、死神の因子の破壊もお願い致します」


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
卯京・若雪(花雪・e01967)
周防・碧生(ハーミット・e02227)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
楝・累音(襲色目・e20990)
八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)
ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)
揺稀・ほこり(カササギ・e46760)

■リプレイ

●狂い咲くスミレ
 ――キエェェェェェン――!
 霊園につんざくような奇声が轟き渡った。
 と同時に、中央で色とりどりの花を咲かせている大きな花壇を、紫色の巨大な塊が踏みつけに現れた。
 紫色の肌、スミレの花茎の如き蠢く頭髪、その顔立ちの造形は美しく、しかし金色の両眼は狂乱とグラビティ・チェインへの渇望にぎらついている。
「――きゃーーーッ!」
「ふぇ……うぁぁぁああん!」
 幼い姉が悲鳴を上げ、幼い弟が火が付いたように泣き始めた。呆然としていた大人たちが思い出したように悲鳴をあげ、慌てふためき始める。
 その瞬間、家族連れの傍らを、一陣の風が通り過ぎた。
 一家の前に躍り出たのは、人々を守ると誓う少女と少年の背中。
「ご先祖様に会いにきた人達を連れて行かせはしないよ」
 敵と一家の間に敢然と立ちふさがり、敵を睨み据えるシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)。
「ここから逃げるんだ! 急げ!」
 一家を背に守るように割って入り、凛とした声を響かせる鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)。
 ケルベロス達が続々と集結し、一家への射線を阻み、敵を囲うように陣を敷いていく。
「今のうちに早く逃げるといい」
 楝・累音(襲色目・e20990)は冷淡に聞こえるほどに端的に、
「此処は必ず、番犬が食い止めます。どうかはぐれぬよう気を付けて、避難下さい」
 周防・碧生(ハーミット・e02227)は俯きがちに淡々と、
「皆様揃って退避下さい。家族の誰も欠けぬよう――僕達が、番犬が、必ずお護り致します」
 卯京・若雪(花雪・e01967)は礼儀正しく穏やかに。皆それぞれに一家に言葉を投げかけ、避難を促していく。
「お、おぉ、ケルベロスかい……!」
「よかった……これで助かるぞ!」
「大丈夫、もう大丈夫よ……!」
 祖父が、父母が、次々に状況を呑み込み、泣きじゃくる子供たちを促しながら広場からの退避を始めた。
「お前の相手は、私たち。掛かってくる」
 ノルン・ホルダー(黒雷姫・e42445)は敵に向けて言い放つと、未だぐずぐずと泣き止まぬ姉弟を振り返った。
「大丈夫。悪者は、わたしがやっつける」
 年嵩の少女に勇気づけられた幼い姉は洟をすすりながらも一生懸命頷き返し、弟の手を頼もしく引っ張って走り去っていった。
「もうすこしだけがんばってくれ。すぐに危険はなくなるから」
 近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が足の遅い祖父に手を貸し、励ましながら一家の避難を手伝った。
 そうしている間にも、紫色の化け物――紫紺禍は凶悪な殺気を放ちながら、触手の如きスミレの頭髪を活発に蠢かせる。造形は整っていながら、不気味さばかりが先立つ唇が緩められ、あぎとが開かれた。
 ――キエェェェェェン――!
 耳をつんざく絶叫が広場をこだました。しかし音の広がりは隙なく配置された陣営に遮られ、声に込められたグラビティは全てケルベロス達が受け止め切った。
「ここは家族にとってとても大事な場所なのに……」
 攻撃を防ぎ切った揺稀・ほこり(カササギ・e46760)が、衝撃をものともせずに紫紺禍をまっすぐ見据えた。
「グラビティ・チェインは絶対守るし、因子も残しておけないのっ」
 その傍らで、そつなく衝撃を受け流した八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)も、霊園で狼藉を働く敵への不快を隠さない。
「人の眠りを邪魔するとは頂けない。さっさと黙らせてやろう」
 霊園の花壇を踏みつけ咲き誇る忌むべきスミレは、ケルベロス達を睥睨し、狂乱にまみれた眼光を輝かせた。

●狂乱の暴走
 禍々しい視線を遮るように、雷の霊力が爆ぜる。
「悪業の花の狂い咲き等、あってはならない。春を長閑に彩る筈の花が、平和な祈りの場が、これ以上荒れぬように、確と務めを果たしましょう」
 柔らかな物腰に怜悧なものを秘めて、若雪は斬霊刀から神速の突きを繰り出した。
「閃迅雷轟」
 続けざま速攻を仕掛けるノルン。肉体とシュヴェルトラウテに黒い雷を纏わせ、神速の一太刀を浴びせる。
「長い眠りについてる人と、家族や友達とを繋ぐ大切な場、それが霊園なんだよな」
 さらに素早い身のこなしで畳みかけるヒノト。
「……ここに来る人達がどんな想いを抱えてるのか、俺にもわかる。絶対に守ってみせるぜ!」
 雷に裂かれた頬の表皮に、星型のオーラが蹴り込まれる。
 ――ギィッ、ギァッ! 初手から連続する強烈な威力に、紫紺禍は不快な声を上げた。
「他者の命を歪め、踏み躙る……相変わらず、忌まわしい神ですね」
 狂乱に猛る敵の様子に、背後にいる死神の姿を思い描きながら、碧生はケルベロスチェインを展開し、描き出した魔法陣で前衛を癒し守護していく。
「きっと紫紺禍も静かにそこにいただけなのに……」
 しかしこうなっては、止める術はただ一つ。シエラシセロは躊躇なく踏み込む。
「今助けるよ。そこから解放してあげるからね」
 電光石火の蹴りを眉間に叩き込まれ、紫紺禍の動きがぎこちなく鈍った。
「雪しまき、呑まれて消える人影よ」
 紫々彦が激しい吹雪を巻き起こす。紫紺禍の首の袂に降り積もった雪に、吹き荒れる風によって波紋状の起伏が作り出される。自由を奪われ足掻く紫紺禍を、さらなる雪が責め苛んでいく。
 陣営の消耗を見極め、累音は花山吹を舞わせた。
「治癒の手は必要なさそうだな……強化は任せたぞ」
「承知っ」
 託されたほこりは短く返すと、エクトプラズムで疑似肉体を作り出し、前衛に耐性を振り撒いていく。
 次々と降り注ぐグラビティに、紫紺禍の狂乱は深度を増す。蠢き続けていた髪が、とうとう牙を剥いた。うねり波打ち、荒ぶる鞭の如く前衛に殺到する。
「……っ、普通のスミレの花は綺麗だけど、こっちのはなんかキモイ」
 絡みつかれ麻痺毒を注入される感覚に顔をしかめながら、ノルンは花茎を振り払い、敵を真っ直ぐに見据えた。
「キッチリ倒して、死神の思い通りにさせない」

●紫紺は静かに目を閉ざす
 敵の防護を剥ぎ、機動を挫き、ケルベロス達は堅実に攻撃を浴びせていった。
「頼むぞ、アカ」
 ヒノトは穹鼠アカをネズミの姿に戻し、魔力を託して射出した。亡き父の形見であり、大切な相棒たる小さなファミリアの獅子奮迅により、紫紺禍の弱体化が増殖されていく。
「狂える花、禍の種……其の結実を許す訳には参りません。此処で徒花と散って頂きましょう」
 天地の導。冴え渡る一閃の刹那に降りたるは、陰陽の霊力。若雪は対極の調和成す刃を軽やかに舞わせ、重く強かに下す。清かに、静やかに。
 順調に攻撃を重ねる陣営に、ヒダリギが滑り込むように舞い戻った。ほこりがそれを振り返り、小さく首をかしげた。
「あ、おかえり。早いね?」
「うん。さっきの家族はちゃんと見とどけたし、ほかは殺界でたりた。治癒をてつだうよ」
「よろしくっ」
 端的に言葉を交わすと、ほこりはスヅクリを発動した。草木の霊が物質化され、地の底から伸びて網目状に広がる枝葉が、前衛を包み防御力を高めていく。合わせて、ヒダリギはオウガ粒子を輝かせ、仲間達の超感覚を励起していく。
 治癒の光を紫紺禍の不気味な眼差しが追ったのを、シエラシセロは見逃さない。
「余所見厳禁! ――染めてあげるよ」
 紅惜羽。二羽の小さな光鳥が、シエラシセロの靴を覆い、鋭利な刃物へと変じた。暗殺靴より放たれる鋭利な回し蹴り。真っ赤に染まった光鳥たちは、なくした故郷を映しながら、光へと還りゆく。
「治癒の層が厚くなったか。ここは攻勢を強めるべきだな」
 理論的に断じ、紫々彦は堂々たる体捌きで自ら敵の懐に飛び込んだ。敵の急所を電光石火で貫き、さらなる痺れを叩き込む。
 ケルベロスの猛攻が降り注ぐ。早々に夥しい弱体化に侵された紫紺禍は、避けられるはずの攻撃もほとんど躱しきれず、痛烈なダメージに打ち据えられて瞬く間に追い詰められていった。
 対し紫紺禍の火力もまた侮れぬものではあったが、ケルベロス陣営の連携はそつなく回り、十分に防御を固めて危なげなく敵の攻撃を捌いていく。戦いが佳境にもつれこむにつれ、回復の手を緩める余裕も生まれ始めていた。
「此処に眠る人々にも、祈り捧ぐ家族にも、異形と成り果てた花にも、再び安らかな刻が訪れるように――」
 碧生が、月光にも似た魔力を紫紺禍へと差し向ければ、そこに生じる影ひとつ。
「災いの芽吹は、せめて死神の目論見は、阻んでみせましょう」
 月喰。それは標的を追い、駆け抜け、獲物を呑み込まんと猛る狼。ボクスドラゴンのリアンが勇敢に全身を投じ、体当たりで追い討ちする。若雪のシャイニングレイが、懸命な一人と一匹を支えるように、その効力を増殖させていく。
 つきまとう痺れに抗うように、紫紺禍は大きなかぶりを激しく振り乱した。
 ――ギィ……ギ……ギァァァ――!
 紫紺禍がカッと目を見開くと、蠢く毛先のスミレが一斉に発光した。紫色の怪しい光が霧の如く辺りを照らし、毒で侵していく。
 素早く反応したノルンは、若雪を庇って毒に耐えながらも、拳を固めた。
「みんなが心配しないように……わたしたちがしっかりしないと、いけない……っ」
 獣化した拳が、反撃を繰り出す。重力を集中した高速かつ重い一撃が、敵の巨体を押し込んだ。
「お願い、助けてほしい……」
 再度スヅクリで前衛を固めるほこり。幾重にも張り巡らせた守護は、盤石のものとなりつつある。
「この場は、死を喰らう場所ではない。眠りを妨げる事、それを悼む心を踏みにじる行いは許されぬだろう」
 ヒノトの盾となった累音は、黄の花弁を風にのせる。哀悼めいた言葉を零しながら。
「ずっとこの場所で魂を見届けてきたのなら、お前もこのような形で、人の命を奪うのは本意では無かろうに」
 花弁に取り巻かれ、切り刻まれ、血を吸われ、紫紺禍は一層の痺れに侵されていく。
 間断ない攻撃の雨。紫紺禍はあえぐように、激しく身を揺らす。斬り刻まれた皮膚、もつれからみ合う乱れ髪。膨大な痺れに、髪を蠢かすこともままならない。限界は間近だ。
「……そろそろ仕上げか」
 呟き、紫々彦は空の霊力を纏わせた玄帝で正確に斬り込んだ。弱体化が最大級の増殖を遂げた手応え。敵はもはや、丸裸も同然だった。
「あと一撃といったところだ」
 確信をもって攻撃手たちを振り返る紫々彦。
 ケルベロスたちは頷き、攻撃の手を止めた。回復の光が瞬き、最後の一撃への仕込みが付与されていく。
「最後は任せたよ。……解放してあげて」
 カラフルな爆発を炸裂させて前衛の士気を高めながら、シエラシセロは仲間へと託した。
 手番が先に回ったのは――ヒノト。
「……穢身斬り裂くは双の閃雷!」
 エテルナライザー。両親から継いだ術を基礎にした、最大の切り札。
 紫電を帯びた二本の閃光槍が、瞬く間のうちに敵を十字に斬りつけた。
「…………ァ」
 紫紺禍が天を仰ぎ、吐息のような呻きを零してぴたりと動きを止めた。
 次の一手の不要を確信し、若雪は瞳を伏した。
「――せめて貴方も、安らかに眠れますよう」
 一拍の静寂、そして。
 紫紺禍の両眼もまた、静かに閉ざされた。
 その肉体は、紫紺の花弁となってほろほろと解け、地面に降り積もるより前に、音もなく消失していく。
 絶叫は轟かない。
「……お休みなさい」
 碧生の静かな眼差しが、憐れなスミレの消滅を見送った。
 踏み潰された花壇に、季節外れの彼岸花が咲くことはなかった。

●冥福を祈る心
 ケルベロス達は周辺を念入りに確認したが、因子が死神に回収された形跡は見受けられなかった。
「無事破壊できたようだな」
「良かった……」
 紫々彦の断定に、ほこりはほっと胸を撫で下ろした。
 ヒールによる修復で、崩れてた土台が瞬く間に元の姿を取り戻し、色とりどりの花も息を吹き返していく。
 平和と静けさを取り戻した霊園で、ケルベロス達は各々に思いを馳せる。彼岸を思い、黙祷を捧げ、各々に祈り……。
 シエラシセロは霊園で眠る人々へと、静かに手を合わせた。墓石を見ると、故郷を思い出す。
(「もう誰もいない、お墓しかない、ボクの故郷」)
 彼らはここにはいないけれど、彼岸に向けて、彼らの安息をただ祈った。
「騒がせて悪かったな。もう大丈夫だ……安心して眠ってくれ」
 小さく呟き、ふと顔を上げたヒノトは、件の家族連れがやってくるのを見て、複雑な表情を描いた。彼らが無事であることの安堵と、手を取り合える家族への羨望、そう感じてしまった自分自身への、わずかな嫌悪感……。
 皆が見守るなか、幼い姉は真っ先にノルンへと駆け寄った。
「おねーちゃん、ありがとう!」
「みんな、さん、あぃがと、う!」
 幼い弟も舌ったらずに姉を真似して、ケルベロス達に向けて深々と頭を下げた。ノルンはもちろん、皆に笑顔が溢れていく。
 一家を連れて戻った若雪は、友人の傍らにそっと佇んだ。
「子供たちもご老人も、怪我はないそうです。他の人々にも混乱はなかったようで、何よりでした」
「そうですか……家族の平穏が一日でも長く続くと良いですね、リアン」
 碧生は心持ち穏やかに、自身にとっての家族そのものであるボクスドラゴンへと語りかけた。
 子供たちの賑やかな声は途切れず続いている。累音は微かに口許を緩めつつ、墓石の連なりへと眼差しを馳せるように振り返った。今は既に姿無き者たちへと。
「騒がしくしてすまんな……」
 愛した相手を想う者、尊敬した相手を想う心。
 誰かを想う気持ちが、この場所には溢れている。
(「そうした心の欠片を浴びながら、美しく育つといい」)
 再び翻された累音の視線の先には、花壇の隅に根を下ろしたスミレの花が、可憐に、しかしどこか力強く、紫紺の花弁を広げていた……。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。