不幸運の賽子

作者:絲上ゆいこ

●満開の桜の下で
 いつもの街並み。
 いつもの買い出しの途中。
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)も含めて彼女達、ヴァルキュリア達が定命化してからもう2年目の春が来た。
 花吹雪が風に舞う。
「桜も随分と花開いて、気持ちが良いでありますねー」
 眩しそうに樹を見上げるクリームヒルトは、少し弾んだ声音だ。
「商店街のくじ引きも一等が当たったでありますし、オマケもしてもらったでありますし」
 何度目になるだろうか。一等のチケットを買い物袋から取り出して確認。
 嬉しそうに仕舞い込むと、クリームヒルトはぐるりと回りを見渡した。
 いつもは通る事の無い、少し遠回りの道。
 この桜の通り抜けを選んだのは、あまりに天気が良くて、少しだけ歩きたくなったからだ。
 夢のように咲き誇る優しい色の花は、空を覆い尽くさんばかり。
「こんなに桜が綺麗なのに人が全くいないだなんて、今日は本当にラッキーであります!」
 心地よさに瞳を細めたクリームヒルトは、次の瞬間獲物を構えて後ろへと飛んだ。
「……っ!」
 ビリビリと肌が粟立つ程の殺気。
 どうして気が付かなかったのだろうか、ここには人がいなかった訳では無い。
 見知った感覚。
 ここは、人払いが行われているだけだ。
 いつの間にか眼前に立っていた少女の、セーラーワンピースの裾が風に揺れる。
「……何者で、ありますか?」
 全身に感じる敵意に、クリームヒルトは警戒に青い瞳を細めて尋ねた。
 黒い髪を靡かせ、不機嫌そうに唇を歪める少女。
 抱えたモザイクのサイコロは、彼女が一般人で無い事をありありと示していた。
「あなたのその幸運、妬ましいわね」
 瞳が赤く、嫉妬の色に揺れる。
 少女、――ドリームイーターのアンラックは呟き。
 一気に地を踏み込んだ。

●緊急出動
「良い所に来てくれたな、お前たち。すまねぇが、急いで準備をしてくれるか?」
 片目を瞑ったままのレプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)は、慌てた様子でケルベロス達にヘリオンに乗り込む事を催促した。
「クリームヒルトクンが襲われるっつー予知が出たンでな、今も連絡を取ろうとしているんだが連絡がつかねぇンだ」
 彼の瞑った瞳の奥。アイズフォンは再び留守番電話サービスに接続され、彼は溜息をついて、両目を開いた。
 クリームヒルトを襲撃すると予知に現れたのは、モザイクのサイコロを持つ少女の姿をしたドリームイーターだ。
「ソイツが求めているのは運だそうでな。クリームヒルトくんはきっと何か良い事があったんだろうな。……それで敵に襲撃されたっつーなら、逆に運が悪いのかもしれないが……」
 アンラックには配下はおらず、運が無いとは自覚しているのであろう。
 防御を固めて、堅実に戦うようだ。
「敵さんは確実にクリームヒルトクンを仕留めるためか、人払いをしてくれているようだ。こっちにとっては好都合だがなァ」
 それは、一般人に被害が至る事は無いという事だが――。ケルベロス達が駆け付けなければ、彼女に救援は訪れないと言う事でもある。
「さぁ、ちっとだけ乱暴に飛ばすぜ。シートベルトはしっかりな」
 レプスはヘリオンの操縦席に座り込むと、ケルベロス達に声を掛けた。
「ンで。着いたら即戦闘開始だ、そっちの準備も頼んだぜ」


参加者
リリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
月海・汐音(紅心ディストーション・e01276)
朔望・月(既朔・e03199)
アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)
アンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)

■リプレイ

●不運
 張り詰めた殺気。
 クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)に一直線に飛び込んだアンラックのサイコロのモザイクが、巨大な槍のように膨れ上がった。
 咄嗟に如意棒にグラビティを流し込み、伸ばし構えたクリームヒルトを貫かんとモザイクが襲いかかる。
「く……っ!」
 何とか受け止める事はできたが、不意打ちからの半端な体勢では支えきる事もできず。
 モザイクの勢いにクリームヒルトは弾き飛ばされ、背中を鈍色に輝く重厚な全身鎧に強かに打ち据えられた。
「……?」
 そう、これは壁や地面の感覚では無い。
「あぁ、クリームヒルト、あなたから飛び込んできてくれるなんて」
 どこかうっとりとした声音。
 クリームヒルトを受け止めた、アンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)が悪魔のような鎧の中から艶っぽく囁き。ぎゅっと彼女を抱きしめる。掌がするするとその身体を滑り――。
「怪我してない? あの子に変な事されてない? ……あ、されてるのもそれはそれで」
「あ、アンナ様!?」
 驚きの声と共にアンナをひっぺがしたクリームヒルトの頭に、ぽんとリリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028)が掌を載せて撫でた。
「クリームヒルトちゃんがピンポイントに狙われるなんてね……、これも縁ってヤツかしら?」
 ぽかんとしたクリームヒルトに、不敵な笑みを浮かべたリリィエルはウィンクを一つ。
「助けに来たわ」
「だ、大丈夫ですか……?」
 全身を覆う鎧の中から響いた、おどおどとした声。
 シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)が心配そうにクリームヒルトに尋ねてから、敵を睨めつける。
「――助けが来るだなんて。どうしてかしら? 人払いをしていたのに。でも……、きっとそれも幸運なのね、妬ましい、妬ましいわ」
 憎々しげに呟き、空中にパキパキとモザイクを広げるアンラック。
 デウスエクス――。
 その姿を見ているだけで、シルフィディアの腹の底から湧き上がる怒り、憎しみ。
 恐怖を塗り潰し、自らの肉体より地獄の炎がふつふつと膨れ上がるのを感じる。
「運に欠損もクソもないでしょうが……、それは所詮ただの嫉妬でしかない……!」
 地獄を全て覆い隠す鎧の中に全てを閉じ込めて、シルフィディアは踵を地に捻り込む。
 合図を必要とする事も無く、同時にリリィエルも踊る様に跳ねた。
「他人の幸運を妬む人の所に福は来ない、っていうの、お約束なのよねー」
「貴様の運の無さを理由に、クリームヒルトさんに難癖つけてんじゃないですよ、このゴミが……!」
 モザイクを回し受けて捌くリリィエルの如意棒、体重を乗せたシルフィディアの重い拳がアンラックへと叩きつけられる。
「幸運を求める敵、ね」
「運がいい人を狙っても、自分が幸運になるとは思えないんですがー……」
 月海・汐音(紅心ディストーション・e01276)の言葉に、ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)がどこか間延びした声で応えた。
 のんびりしたその声音に反して、羽根を大きく広げて光と化したウェンディの突撃は恐ろしく早い。
 突撃と共に如意棒を突きつけて、ウェンディは敵を蹴り上げ。
 同時に、黒いふわふわとしたボクスドラゴンのクリスチーナはブレスを吐く。
「私達の攻撃手段は、近接攻撃だけじゃないのよ?」
 たまらず彼女たちを振り払い下がろうとしたアンラックへと、汐音の放ったオーラは弾丸と化して喰らいついた。
 どれだけ幸運を欲しても、決して幸運にはならないであろうアンラック。
 ある意味ではこのアンラックこそが、不幸そのものなのだろう。
 ふ、と。
 汐音の胸に『哀れなのかもしれない』という感情が擡げた。
「……だとしても、斃すべき敵よ」
 汐音は暗い赤瞳に冷静さを湛え、感情に丁寧に蓋を閉じて呟く。
「クリームヒルトさんは、倒させはしないわ」

●モザイク
「ええ。皆で無事に戻れるよう、頑張らせて頂きましょうか」
 前方に向かい星図を描いたアルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)がグラビティと灯すと、地が加護に輝いた。
「……しかしケルベロスを狙うドリームイーターが居るとは。……狙われたクリームヒルト殿も運の悪い……」
 いえ、と小さく首を降ったアルルカンは、首を傾げて呟きなおす。
「一般人を狙われるよりは、運が良かったと言うべきなのでしょうか」
「何はともあれ、救援感謝であります!」
 テレビウムのフリズスキャールヴが癒やしの動画で応援を行い、クリームヒルトは改めて盾を持って構え直した。
 盾として在りたいクリームヒルトとしては、救援された上に守られるのは少々複雑な気持ちもありはするが……。
「……アルルカン様の言う通り。一般人の方が襲われる前に、囮になれたと考えるとしましょう!」
 自らを納得させ。グラビティを全身に駆け巡らせると、小型治療無人機の群れが皆を護る形で宙を翔ける。
「一般人の方に被害が出る前に、共にこの敵を打ち倒すであります!」
「ええ、それでは参りましょう」
 アルルカンが頷き、獣の牙の構えて敵を見据えた。
「はいっ。櫻、行きますよ」
 加護を纏った紙兵を撒き散らす朔望・月(既朔・e03199)の声掛けに。
 ビハインドの櫻は、桃色の髪を跳ねて頷くと同時に。アンラックを縛り付けるように念を籠めた。
 クリームヒルトの幸運も、運に繋がる縁も絆も。壊させはしない。
 ふと過る、記憶と感情の断片。
 今ではない、過去の自分の感情が肚の中で頭を擡げる。
 月も、過去には人の幸せが羨ましいと思っていた頃があった。それは妬ましいと思っていたのかもしれない。
 けれど、今、月は――。
 ぐ、と掌を握りしめる。
「うふふ。敵とはいえ、貴女みたいに可愛い娘を倒さなきゃいけないなんて悲しいわ」
 ブラックスライムが肌の上を這う感覚。
 アンナは鎧の隙間から黒い液体を溢れさせながら、ネクロオーブをぎゅっと抱きしめた。
「でも、貴女、……本当は運がいいんじゃない?」
 首を傾ぐアンナの表情は、鎧に隠されて見えはしない。しかし、その声はどこか楽しそうな響きを持っている。
 巨大な牙を持った黒い影と化したスライムが大口を開いた。
「だって。私は女の子に痛くするのも、されるのも好きだから」
「……バカじゃないの?」
 ケルベロスたちの攻撃を捌きながら。防御を固めていたアンラックは避ける事もできずに、目前に迫ったスライムに瞳を見開いた。
「狙った獲物は邪魔されるわ、しかも変態に絡まれるわ。……私って本当に、本当に運がないわね……」
 アンラックのボヤく声とその姿が、スライムの奥に消える。
「でも、あたしの幸運をあなた達は持っているかもしれないわね」
 次の瞬間、スライムの腹をモザイクが裂いた。
 羨望、憧れ、嫉妬。
「頂戴」
 モザイクと黒い液体を撒き散らしながら、アンラックの赤い瞳は揺らめいた。

●嫉妬
「わたしは歌う。わたしは願う。あなたへと繋がる「奇跡」があるならば」
 いつか、たどり着くその未来に。――この歌が、祈りが届くように。
 月のうたは、誰かを願う、うた。
 うたは祈りだ、うたは癒やしだ。
 胸の奥に燻る過去の香りに瞳を細め、月は呟く。
「僕は、今は思うんです。……幸せは、妬ましいと思っている場所には訪れないって。だって、自分自身の今ある幸せにすら気づけていないのですから」
 踊るように舞うように、褐色に纏う薄布が優雅に靡く。
「そうね、そういう意味では……貴女、きっと最初から間違えてるわよ、色々と」
 サイコロを鞠のようについて。モザイクを広げて盾としたアンラックを迎え撃つリリィエルは、一度身を低く構えた。
「でも、私のダンスを見れたのは、幸運だったと思わない?」
 強欲たるこそ、その黄金の刃の主たる資格となる。
 息を鋭く吐き出すと共に、黄金の筋を残してモザイクを裂き、リリィエルは観客にそうするように柔らかく笑った。
 一連の流れを舞だと言われれば納得してしまうかもしれぬ程、優雅な動き。
「言わせておけば、勝手な事を……ッ!」
 吼えるアンラック。
 リリィエルは腕をそのまま伸ばすと、アンラックの肩を支えに片腕で曲芸のように飛んで距離を取った。
 その横を飛び出したシルフィディアは、露出させた地獄の両腕を禍々しい地獄の刃と変える。
「貴様の嫉妬という自己満足に、人を巻き込んでんじゃないですよ。……私の怒りをその身に刻めッ!」
 地獄の炎がチリチリと空を焼く。
 一瞬で間合いに踏み込んだシルフィディアは、地獄の火花を散らして。
 側面から回り込んだ勢いをそのまま、旋回から逆水平の斬撃と化して叩き込む。
「喧嘩を売った相手が悪かったですね……貴様の運の無さを後悔して死ね……!」
 強かな衝撃に身体が浮くが、サイコロから広がったモザイクがアンラックの身体をその場に絡め引き留め。
「けほ……っ」
 何とか体勢を立て直した彼女は、デウスエクスの脚力で地を踏み込むとクリームヒルトとの距離を一気に詰めた。
 禍々しいモザイクが空気を揺さぶり、桜吹雪が舞う。
「確かに、もう逃げられないかもしれないわ。私が運が悪いのも本当よね」
 アンラックは元々、複数人を狙う予定は無かったのだ。
 そのために周到に人払いを行ったのだ。
 しかし、予知と――ケルベロスたちの絆によって彼女の作戦は覆された。
 バッドステータスは解除され、逆にケルベロス達の攻撃はエンチャントが重ねられて酷く痛い。
「それでも、……コイツだけは……ッ!」
 溢れる妬み、嫉み、モザイク。
 サイコロは刃と化し、クリームヒルトへ向けてオーバースロー気味に振り下ろされる。
「……!」
 最初の不意打ちとは違い、彼女の構えた盾とモザイクの刃はきちんと噛み合い。
 ギリギリと火花とモザイクが散る。
「ボクが今日幸運に恵まれたが、殺したい程妬ましいのでありましょう」
「それだけじゃあっ! 無いのよっ!」
 昂ぶったように吠えたアンラック。
「アンタが、アンタが悪いのよ!」
 アンラックが更に力を籠めると、がちん、と音を立てて盾を押し切り――。
「だめですよー、あたし達はクリームヒルトさんを助けに来たんですからー」
 如意棒を叩き込み。モザイクを弾いて間に割りいったのは、ウェンディだ。
「絶対に助けますからねー」
 新星の後に、光れ。
 ウェンディの作り上げる物語の主役は、自分以外の誰かだ。
 そう、今日は彼女であろう。
 白羽の矢は立った。
 あとは、輝くだけだ。
 クリームヒルトに癒やしの力が漲る。
 櫻が桜の花びらをポルターガイストで刃のように放つと、クリスチーナがウェンディに属性をインストールした。
「邪魔よッ!」
「そうね、邪魔をしにきたのだもの。この一撃、あなたに防ぎきれる、……かしらっ!」
 汐音より、みなぎる魔力は焔の如く燃え。
 ――赫の激情、闇を砕く剣と為れ。
 赫い赫い輝きを宿した巨大な刃。
 咄嗟に受け身を取って再びクリームヒルトに飛びかかろうとしたアンラックの脇腹を、その巨大な刃は穿つ。
「――形なき声だけが、其の花を露に濡らす」
 獣の牙。月喰らう大神。
 姿なき歌声に合わせて舞うアルルカン。
 地を転がり躱そうとしたアンラックの、転がった後の軌道を正確に貫く無音の剣舞。
 殺戮を好む胸奥が、じくと愉悦に染みる感覚。
 幻想の花弁が、桜吹雪に混じり舞う。
「うふふ、前にすごーいのを手に入れたの」
 アンナが、くすくすと嬉しそうに笑った。
 その手には二つのネクロオーブ。
「どう凄いかは、身体で味わってほしいわ。――死魂合成獣、オグンソード・ミリシャ」
 忌まわしき魔力により、魂をつなぎ合わせた人造モンスター。
「ひっ、何よソレ!」
 咄嗟に逃げようとしたアンラックは、千切れたスカートに足をとられてその場に転び。その隙を逃す事なく冒涜的な触手は、アンラックの身体を掴みあげる。
「――幸運という事は総じて幸せな時。ボクの他に被害が出る前に、ここで倒させていただくであります!」
 超高速演算。
 そう、今ならば敵を砕ける。
「は、ああっ!」
 合成獣を駆け上り、跳躍したクリームヒルト。
 狙うは触手に足を絡め取られたアンラック。
 クリームヒルトは、その触手をジャンプ台代わりに体重と勢いを載せてその盾を叩き込んだ!

●幸運とは
 桜吹雪が舞う。
 ばら、ばら、と崩れ落ちるモザイク。
「……あたしって、本当に運が無いのね」
 彼女の手から転げ落ちたサイコロが、地に落ちて砕け。
 砂が風に溶けるように、モザイクが綻び消えゆく。後に残るのは戦いの痕、そして、桜だけであった。
「終わったわね」
 黒い外套を揺らし。
 汐音は消え入ったモザイクを拾い上げるように、桜の花びらを一枚拾い上げた。
「災難でしたね」
「大丈夫でしたかー? 助けに来れて、よかったですー」
 アルルカンが地に降り立ったクリームヒルトに手を伸ばし、首を傾ぎ。
 ウェンディがぴょっこりとうさぎの耳のフードを揺らした。
 ――彼女との因縁は、全く思い出せないけれど。
「大丈夫であります。……でも今日は護られてばかりでありますね」
 守護の騎士なのに、と困ったように笑うクリームヒルト。
「うふふ、気にする事は無いわ。それより本当に怪我が無いか調べさせ」
「ヒールしますねー」
「あっ」
 ウェンディがヒールを重ね、アンナが残念そうな声を零す。
「クリスチーナ、それにアンナさんも周りもヒールしましょうよー」
 ウェンディの声掛けに、壊れてしまった街路にヒールをするクリスチーナとフリズスキャールヴ。
「はぁ……、でも無事倒せて良かったです……」
 片付けをしながら、シルフィディアは胸を撫で下ろし、はっと気がついたように顔を上げた。
「あっ、み、みなさん。あの、お掃除を終えたらお花見なんてどうでしょう……?」
「あ、良いわねっ! こんなにお花見日和にお花見をして帰らないなんて嘘よねぇ」
 リリィエルが陽気に頷き。
「そうと決まれば準備をしなくちゃ!」
「うふふ、ならお酒とそれに合うケーキね、お団子も良いかもしれないわ」
「お弁当も用意したいですねー」
 アンナが艶っぽく笑い、ウェンディがクリスチーナを拾い上げて頷きながら同意を示す。
 春の風の香り。
 細く息を吐いた月は、一度ぎゅうと掌を握りしめて。
 疼痛を噛み潰すように、櫻の頭を撫でた。
「幸運は何もせずに得られるものではありません、……自分で動いてこそ掴み取れるものなのですから」
 月の小さな小さな独り言。
 リリィエルは聴こえなかった振りをして、小さく呟く。
「そうね。……自分からつかみ取りに行くものよね、幸運って」
 リリィエルは、瞳を細めて。
 誰かを思い出すように、小さく笑った。
 本日は晴れ、仲間との絶好のお花見日和だ。
 汐音の拾った花片が風に攫われ、ひらひらと飛んでいった。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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