コーヒーミルが大暴れ!

作者:柊暮葉



 愛知県。モーニング開始前の喫茶店--。
 その喫茶店の倉庫には、古いコーヒーミルが置かれていた。店長はその存在もすっかり忘れて、早朝から喫茶店の開店準備に追われていた。
 古いコーヒーミルに忍び寄る蜘蛛のような陰、コギトエスゴスムがいることにも、全く気づいていなかった。
 掃除をして、レジを開けて……と店長が忙しく働いていた時、倉庫からバリバリバリバリと凄い音が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
 慌てて見に行った店長の目の前には、巨大化変形コーヒーミルロボット!
「よくも俺を忘れやがったな! 二度と忘れられないように、こうしてやるーッ!!」
 巨大化ミルダモクレスは、喚きながら店長に襲いかかろうとした!


 ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
 プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)は真面目な顔で話を聞いている。
「愛知県の喫茶店の倉庫に放置されていたコーヒーミルがダモクレスになる事件が発生するようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいのです」


 ソニアは説明を続ける。
「このダモクレスはコーヒーミルを元にしたロボットのような形をしています。能力もそれにちなむものです」

 コーヒーカッター……内部の歯が出て来て敵を斬りつけます。
 コーヒープロペラ……内部のプロペラ式の歯が出て来て敵を列で斬りつけます。
 コーヒーダスト……コーヒーの粉を噴射して敵を足止めにします。

「ダモクレスが発生するのは、朝のかなり早い時間、喫茶店の倉庫です。倉庫のシャッターを壊して駐車場の方に出て来るのです。駐車場は広いので戦うスペースには困らないでしょう。喫茶店にはモーニングの準備をしていた店長さんがいて、ダモクレスが暴れ始めると様子を見に出て来ます。店長さんには避難誘導をしてください」


 最後にソニアはこう言った。
「罪もない一般人を虐殺するデウスエクスは許せません。必ず討伐してください」


参加者
落内・眠堂(指括り・e01178)
アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)
英・揺漓(花絲游・e08789)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)
暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)

■リプレイ


 愛知県でモーニングの準備をしている喫茶店の倉庫から、コーヒーミルのダモクレスが発生する--。
 その情報を得たケルベロス達は、即座に行動を開始した。

 シャッター街の道路を、ケルベロス達は目的の喫茶店に向かって進んでいた。
「えーっ、忘れ去られちゃってたの? ちょっとソレはかわいそうかな。でも元はといえば、機能が古いとか、さび付いて使えなかったから、かも? というわけで、成仏してね!」
 今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)は情報を確認してそう叫んだ。
「誰かに忘れ去られてしまうのが寂しい心は、わからなくも、ねえんだけど。命を持っちまったからには壊さねえとな」
 落内・眠堂(指括り・e01178)は早足で歩きながら呟いた。
「コーヒーミルか……お洒落だけど人を引くものじゃない……」
 逸見・響(未だ沈まずや・e43374)は無口そうにぼそっと言った。
「きっと美味い豆を挽いてくれていたのだろうな。たとえ其の存在を忘れられてしまったとしても、人に憩いの味を齎してくれた事には違いないだろう。故に……止めねば。決して人の血で染めさせるわけにはいくまいよ」
 英・揺漓(花絲游・e08789)は、決心した口ぶりである。
「えーっと行き先はどこじゃったっけ? 最近耄碌してきてのう……嘘じゃが」
 その一方でソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)はとぼけた調子である。彼は一足遅れて、今ようやく駆けつけて来たのだ。いつも通り余裕綽々の様子である。
「同情できる部分もあるけど、俺の手の届く範囲では好きにさせねぇよ」
 暮葉・守人(墓守の銀妖犬・e12145)は戦意高くそう言った。ちなみに遅れてきたソルヴィンを彼はかなり尊敬している。ソルヴィンには人間的な魅力があるのだ。
 アルルカン・ハーレクイン(灰狐狼・e07000)、ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)も一緒に、喫茶店へと急いだ。

 ケルベロス達が喫茶店の敷地に踏み込んだ正にその時、バリバリバリという異音が聞こえ、続いて、中年の男性の悲鳴が響き渡った。
 ケルベロス達は駐車場に大急ぎで駆け込んだ。
「よくも俺を忘れやがったな!!」
 巨大化コーヒーミルに頭と手足が生えたロボットが怒声を喫茶店の店長らしき男に浴びせかけている。
 今にも腰を抜かしそうな店長。
 アルルカンが店長の下に走りながら声をかける。
「私達はケルベロスです! 店内か安全な場所に避難してください!」
「ケ、ケルベロス……!?」
 店長はまた度肝を抜かれている。
 その店長の手を、響が握った。
「ケルベロスに任せて、店長さん、こちらへ……」
 響は怯えている店長の手を引いて、喫茶店の店内へと駆け込んでいった。

「待てぇ、逃げるな!!」
 コーヒーミルロボット--ダモクレスは、店長を追いかけようとするが、その前に7人のケルベロスが列を組んで阻止した。
「きさまら! 邪魔をするな!!」
 怒り狂ったダモクレスは、コーヒーミルだった巨大な胸部を開けたかと思うと、中から旋回するカッターを飛び出させる。
 カッターは高速回転しながら揺漓へと斬りかかった。
 揺漓は【棘】(バトルガントレット)で受け止めるものの、衝撃で後ろへずり下がる。
「くっ……」
 ダモクレスの怪力に呻く揺漓。

 守人は仲間と打ち合わせ通りにコンビネーションを使おうと目配せをする。しかし、仲間達は戦闘の緊張に固くなっているようだ。
『――逃さねぇ……』
 守人は黄泉縛り(ヨモツシバリ)で殺界形成で放っていた殺気の塊をダモクレスにぶつけ、その行動を止めようとした。
 ソルヴィンはブラックスライムを捕食モードへ切り替えると、ダモクレスの巨大な体を丸呑みにしようとした。
(「今回は色々とじわじわBSかけて、かっこつけて倒してみようかな。コーヒーミルが氷まみれでアイスコーヒーが完成♪ って、それはないか」)
 ルリカは真面目な顔になり、ダモクレスを侵食する影の弾丸で攻撃する。
『形なき声だけが、其の花を露に濡らす』
 金銀花葬(キンギンカソウ)を使うアルルカン。
 姿のない歌声に合わせて舞う無音の剣舞である。白から黄に変わる花弁の幻想がダモクレスを襲う。
「スキだらけだね、動かなくなーれ!」
 日和は気脈を絶つ指先の一撃で、ダモクレスを石化させようとする。
 傷つきながらも揺漓は電光石火の蹴りを抜き放ち、ダモクレスをさらに麻痺させる。
 眠堂は食らいつくオーラの弾丸をダモクレスへと撃つ。
「待たせた……」
 そこに店長を避難させた響が駆け戻ってきた。
 そして負傷した揺漓を見て顔を引き締める。
『気力に缺くる勿かりしか、安らかなる日は過ぎ去りし昨日のみ…』
 【氷魔法】氷晶壁(ヒョウショウヘキ)で揺漓を回復していく響。
 彼の全面に氷の壁を作った。ちょうど揺漓一人を覆うぐらいの大きさに展開される。

「くう……生意気な番犬どもめ!!」
 ダモクレスはまた怒声を上げた。
「きさまら全員、ぶっ殺してやる! これでも喰らえ!!」
 そう叫ぶとダモクレスはまた胸部のドアを開けて、そこからコーヒーの匂いのする黒い粉末をぶちまけた。
 物凄い勢いでぶちまけられていくコーヒーの粉末。ケルベロス達は足を取られそうになってしまい、動きが鈍る。

「みんな、互いの動きをよく見るんだ!」
 守人が声をかける。
 脳裏を前回悔しい結果に終わった依頼が過ぎった。
(「今回は絶対に、被害者は出させねぇ……!」)
 ケルベロス達は冷静に行動しようとした。
 守人が果敢にダモクレスに挑み、その傷口を絶空斬でなぞり上げる。
「よーし、捕まえたっ!」
 日和はケルベロス・チェインを精神操作し、ダモクレスを縛り上げる。
『猛き花弁と成りて、さあ穿て』
 白六角葬爪(パイリューテュー)を使う揺漓。
 拳から放つオーラの斬撃。それはさながら竜の爪。そして崩れ行く者に手向ける白き花。 アルルカンは両手に惨殺ナイフを構えると、舞うような動きで、素早く正確にダモクレスを斬り刻んでいく。
 ルリカは影のような見えない斬撃をダモクレスの急所に繰り出し、かききっていく。
『目を離せば…ほれ、そこ_ここに、おる。』
 ソルヴィンはVertu tharna(メフトゥサルティア)を使う。
 それは思想魔法だ。戦闘における数多の選択肢から、可能性が有る位置に存在する事が出来る魔法により、不意打ちを行う。
 眠堂は黄金の融合竜のエネルギー体を一体召喚し、ダモクレスにぶつけた。
 眠堂の武器は護符、ゐろは(シャーマンズカード)である。攻撃する際、真っ白な札に彩りある紋様や絵が描かれ、それが流れ出でるように現世へ喚び出されるのだ。それが今は黄金のドラゴンであった。
「さて、やりますか……」
 そこで響が爆破スイッチを押してカラフルな爆炎を起こし、仲間達を治療回復し、士気を高めていった。

「き、きさまらぁ……もうゆるさん!!」
 手負いとなったダモクレスは、大声で叫んだ。
 もしも、人間だったのなら、顔を真っ赤にしてツバを飛ばしていた事だろう。
 地団駄踏むように足を踏みならすと、ダモクレスは懲りずに胸部のドアを開けた。
 そのドアから先程のカッターが飛び出て来たと思うと、高速で回転しながらケルベロス達へと飛びかかった。
 カッターはプロペラのように回り、ケルベロスの前衛達を斬り刻んでいく。
 飛び散る鮮血。
 わきおこる悲鳴。

「支援するよ」
 響は全身の装甲からオウガ粒子を解き放って仲間達を回復していく。超感覚に目覚めていく仲間達。
 守人は雷の霊力を帯びた月華零式(斬霊刀)で、神速の突きを繰り出し、ダモクレスの胸部の装甲を撃破した。
「ほいっと」
 正にその直後に、ソルヴィンのVertu tharna(メフトゥサルティア)が命中。砕けた装甲の弱った部分に完璧な不意打ちが入る。
 アルルカンは惨殺ナイフにダモクレスの忘れたいトラウマを映し出した。
「ぎゃ、ぎゃああ、閉じ込めるのはやめろ、忘れるのはやめろぉ!!」
 悲鳴を上げて暴れ出すダモクレス。
「不浄のモノよ、浄化の光を浴びなさい!」
 日和は阿頼耶識から光を放ち、ダモクレスを麻痺させていく。
 揺漓は光輝く「聖なる左手」で引き寄せたダモクレスの拳を、漆黒の「闇の右手」で粉砕していく。
 眠堂は流星の煌めきを帯びながら重力を帯びた跳び蹴りをダモクレスに炸裂させた。
『花よ! 力を』
 超・散華(スーパーサンゲ)を使うルリカ。
 真紅の花びらのようなオーラが敵の動きを麻痺させる。
 舞い散る花にトドメを刺され、ダモクレスは駐車場のアスファルトに倒れ伏し、そのまま全く動かなくなった。


 戦闘後、ケルベロス達は皆でヒールと片付けを行った。
 すると、恐る恐る、店内から避難していた店長が出て来た。
「ああ、ありがとうございます。その、よろしければ……モーニングでも、食べて行ってください」
 申し訳なさそうに、それでも一安心した顔で店長はそう言った。
「頂けるのならモーニングをご馳走になろうかな」
 眠堂がそう言った。
「名古屋のモーニング! 待ってました!」
 ルリカは足取り軽く店内に向かった。
「ああ、これの為に頑張った! 名古屋の噂のモーニングを食べてみたかったんだよね。私、小倉トーストとゆで卵ね。ホットコーヒー」
 時代がかった雰囲気だが清潔な店内のテーブルに案内されてルリカは満面の笑みである。
「本場のモーニングの作り方を教えていただきたいんだが……」
 一方、守人はそんなことを目論んでいた。命を救われた店長は快く引き受けてくれた。
「モーニング? って何? コーヒー淹れてくれるの? やったー! トーストも食べたいなー!」
 日和は分かっていないなりに喜び、楽しんでいるようだ。
「折角のご好意ですから、モーニングサービスも食べて行きましょう。何かの参考になりそうですから。喫茶店員な揺漓も相席いかがです?」
 アルルカンが誘うと揺漓は勿論、と二つ返事で同じ席に座った。
「珈琲が好きなので、この店のお勧めを。先ずは一杯と…愛知県の喫茶店では、卵やトーストも出される噂を聞いた事がありまして。そう言ったメニューもあるなら、美味しく頂くと致しましょう」
 その通り、愛知県の喫茶店文化では、モーニングでコーヒーを頼むと、トーストとゆで卵、サラダが一緒に出てくる。
 揺漓はトーストにたっぷりとバターを塗り、サラダも卵も楽しむ事にした。
「愛知の喫茶店と言えばモーニング…実は少々楽しみだったんだ」
 揺漓は嬉しそうに言った。
「いい店があるか?」
 アルルカンがそう尋ねた。
「知っている。ただ俺の話だと魅力が伝わり難いだろう……良ければ共に言ってみないか? 案内しよう。沢山あるんだ、教えたい店」
 その一方で、響は涙目になっていた。
 彼女は、珈琲は味をそのまま楽しんだ方が良いかとブラックで飲むが苦いのは苦手で、更に猫舌。牛乳と砂糖を入れないと飲めないのだ。
「…うん、美味しそうだ…いただきま…アツッ!…うう…」

 そんな訳で、戦闘に勝利したケルベロス達は、愛知のカフェ文化、モーニングをたっぷり楽しんで、中にはカフェ巡りをして帰った者もいたのだった。
 辛い戦闘も、ちゃんと頑張れば、こうしたおいしさもついてくるものである--。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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