虚空たる心は崩れ

作者:幾夜緋琉

●虚空たる心は崩れ
『……』
 言葉無く、壊れた人形の如く……廃ビルの中に佇む影。
 その身体は所々に破壊痕の様はあるものの……全体的には、まだ人型の形を保っている。
 ただ、言葉は無く、目の光は失われ……電池の切れた人形の如き姿。
 そんな人形……いや、アンドロイド型のダモクレスは、このままならば、そのまま死を迎えるはずである。
 が……そんなアンドロイド型ダモクレスに、闇の中から姿を現わしたのは……死神。
 一歩、二歩……ダモクレスの下へと近づき、その肩に手を当てる。
 そして次の瞬間……離された肩口には、球根の様なものがくっついている。
 死神は、それに軽く頷くと。
「さぁ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されて来るのです」
 その指示は、ダモクレスへの命令となり……すっ、と立ち上がる。
 そして、こくり、と力無く頷き……廃ビルを後にした。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けたッスね! それじゃ、早速ッスけど説明するッス!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに力強く挨拶すると、早速。
「今日はケルベロスの皆さんに、横浜市のみなとみらいの辺りに現れた、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスの暴走を止めてきて頂きたいんッスよ!」
「この死神の因子を埋め込まれたデウスエクス、どうやらアンドロイド型のダモクレスの様ッスけど、失われたグラビティ・チェインを再獲得する為に、周りの町の人々を虐殺しようとしている様なんッス」
「もしも、このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ねば、死神によって強力な手駒に変えられてしまうのは間違い無いと思うッス。そんな事をさせない為にも、このダモクレスが人間を殺し、グラビティ・チェインを得るよりも早く撃破してきて欲しいんッスよ!」
 更にダンテは。
「このダモクレスッスけど、人型のアンドロイドダモクレスッス。なので傍目から見れば、人の様に見える様なんッスよ」
「でも身体の色んな所が破壊されている為、既に体力は残り少なく、瀕死の状態の女性、という様に傍目からは見える様なんッス」
「何も知らない人達から見れば、要らぬ誤解を招きかねないッスし、このダモクレスが一般人を優先的に狙う、という事も十分に考えられるッスから、周りの人達の避難誘導が重要になると思うッス」
「尚、このダモクレス自体の攻撃手段は、その手に装着された長剣を薙ぎ払うのしかない様ッス。当然ながら、力をセーブする事も無いッスから、真っ正面から防御なしに受けない様注意して欲しいッスよ」
 そして、ダンテは。
「延々と続く死神の動きは不気味ッスけど、暴走するデウスエクスの被害を放置しておく訳にもいかないッス。どうか、宜しく頼むッスよ!」
 と、最後も力強く、拳を振り上げるのであった。


参加者
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
絡・丁(天蓋花・e21729)
天音・刕桜(鉄騎兵・e21969)
朧・遊鬼(火車・e36891)
如月・高明(明鏡止水・e38664)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)
蛭犂・詠巳(微睡みの中の微笑み或いは柘榴・e43382)
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)

■リプレイ

●無の心
 横浜市のみなとみらいの傍らに放置された、とある廃ビル。
 不気味な雰囲気と、人気のなさが恐怖を呼び寄せる……そこに、突如現れたのは死神と、死にかけているアンドロイド型ダモクレス。
 勿論死神がいるという事は……死にかけているアンドロイド型ダモクレスは死神に利用させられているという事である訳で。
「……アンドロイド型のダモクレスですか……死者も、戦力に出来そうな者には見境無しの模様ですね」
 と如月・高明(明鏡止水・e38664)が溜息を吐くと、それにエドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)も。
「そうでござるね。死神ってのは廃品利用も得意なんでござるな。ま、こんなものでどうにか出来ると思ってるのなら、舐められたものでござるが」
「ええ……死神に利用されるアンドロイドには同情します。せめて、死神の因子を破壊する事が、彼女にとっての救済になるでしょうね」
 そんな高明とエドワードの会話を聞きつつ、一方高笑いするはベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)。
「し、し、死ハハハハッ! 死ャー死ヤッ死ヤッ死ヤッ! また、なのか。また死神とかほざくクソ人形遣いが死を穢した、と? 冥府の支配者たる妾の前でその蛮行、出逢うときが楽しみでならぬなぁあっ!?」
 声高らかに、笑いながら怒りを叫ぶベリリ、その言葉を聞きつつ、空を見上て肩を竦める蛭犂・詠巳(微睡みの中の微笑み或いは柘榴・e43382)。
「やれやれ、と……潔く死なせよったらええもんを、全く面倒な事をしてくれたもんやえ。ウチやったら、もう眠たい時にこないなことをされたらそら怒ってまうわ」
 何処か人を喰ったような言葉だが、やはりその中にも怒りの雰囲気は漂う。
 そして、絡・丁(天蓋花・e21729)と朧・遊鬼(火車・e36891)が。
「ん、まぁ確かに眠いところをたたき起されたら、不機嫌になるわよねぇ……特にお酒を一杯飲んだ次の日の朝とかにされたら、確かに殺意を覚えるレベルかもねぇ……」
「そうだな。ま……テイの様に酒を浴びるように飲むのも一因だと思うがな」
「むぅ……お酒が好きなんだから仕方ないじゃない」
 苦笑する丁、それに遊鬼のナノナノ、ルーナが。
『ナ~ノ』
 やれやれ、と言った感じに啼く。
 ……ともあれ、アンドロイド型ダモクレスを倒さない事には、死神の企みを抑える事も出来ず、更に言えば死神自体の糧になってしまう訳で。
「死に体に平気で鞭打つんだもんなぁ……ホント、死神さん達は趣味が悪いよ……ちょっとかわいそうだけど、こうなってしまったからには、止めるしかない。せめて安らかに、ね」
「そうですね。消え行く命、それを弄ぶ死神を許すことは出来ません。ダモクレスには……安らかに眠っていただきます……」
 虎丸・勇(ノラビト・e09789)と天音・刕桜(鉄騎兵・e21969)の言葉に皆も頷き、そしてケルベロス達は、廃ビルの入口へと急ぐのであった。

●無から無に繋がる心
 そして、ケルベロス達は廃ビルの入口へ到着。
 繁華街からは少し離れた所にあり、人通りはそこまで多くはないが……全く無い、という事もない。
「さて、と……それじゃ、早速だけど周りの人達を避難させようか」
「うむ。雑魚が戦場でうろちょろされると邪魔で仕方ないからなっ……それに倒れては、寝覚めが悪いであろ?」
「……寝覚め悪いとか、そういう問題じゃないけどね」
 とベリリの言葉に勇は肩を竦めつつ、防具特性の隣人力を使い、道を歩く人達にこの場からの避難を呼びかけ始める。
 勿論、いつアンドロイド型ダモクレスが現れるかは解らない為、廃ビルの中から響く音、破壊音等を、耳を欹てて聞き続ける。
 そして、周りの一般人らの前に立ちふさがっては。
「さて、ここらは危なくなる。故にここから避難してくれ」
 と遊鬼が殺界形成を発動させて、周囲に殺気を張り巡らせつつ、一方高明やエドワード、詠巳らはキープアウトテープを張り巡らせ、パニックテレパスでキープアウトテープの範囲害に逃がしつつ、アルティメットモードでこれから此処で戦闘が始まることを、音と動きで知らしめる。
 ……そうしていると、廃ビルの中から。
『パァァァン……!!』
 窓が破れる音。
 その音と共に、外から微かに見える……アンドロイド型ダモクレスの姿。
 そしてダモクレスはそのまま、また中へと身を翻す。
「出て来ましたね。3階から……恐らく降りてくるでしょうか。いつ外に出てくるかも解りませんから、急いで対峙しましょう」
 と刕桜の言葉に頷き、一般人もあらかた周囲から避難した所で、一斉に廃ビルの中へと突入。
 時折立ち止り、苦しむアンドロイド型ダモクレスの呻き声の方向に軌道修正。
 そして……廃ビルの二階フロアにて、通路の端と端に、対峙する。
 アンドロイド型ダモクレスは、当然ながら意思もなく……ケルベロス達を発見し、そして……他の一般人が居ない事から、ターゲットをケルベロスへと定める。
 ……その手に装着された、体長とほぼ同じ位の長剣を構えるダモクレスは、闘う意思のみが残った人形。
 そんなダモクレスの真っ正面に対峙した丁は、何処か余裕な雰囲気を醸し出しつつ。
「あたしは、難しいことはわからねぇ女よ。心があるとかないとか、そんな事は知らねぇわ。あんたは敵だもの。だけどね……あんたにはあんたの歴史があったんでしょう? 誇りが、意味が、歩いてきた道が。それはあんただけのもので……それをブチ壊すようなやり方が、あたしはめっぽう嫌いなの。だから……あんたを、ここで止めるわ」
 睨み付けるが如く、見据えた丁の言葉。
 対し、ダモクレスは……その言葉に何か反応を返すという事もなく、先手の一撃。
 鋭く頭上から振り落される一撃は、直撃すれば腕の一本は吹き飛んでしまう位。
 しかし、その攻撃をギリギリで躱した丁が、前衛の仲間達へ。
「かごめ、かごめ。籠の中の鳥は」
 と『かごめかごめ』を口ずさみ、盾アップの効果を付与すると同時にそのお供のテレビウムは、丁を応援動画で回復。
 そして、一斉にケルベロスらは攻撃開始……最初に高明が、スターゲイザーで足止めのBSを付与すると、続いてスナイパーの勇と詠巳が動く。
 勇はその手の惨殺ナイフを逆手に構え、斬術の一閃、惨劇の鏡像を叩き込み、詠巳は。
「ま、死んでも苦しんでる様やから、これ以上苦しません様にさせたるわ」
 とドラゴニックミラージュの炎効果を付与していく。
 そして、メディックのエドワードは、味方前衛への黄金の果実をぶちまけつつ、ルーナはナノナノばりあで防アップを付与して強化。
 そして、前衛陣はダモクレスに近接した所で、刕桜が屠竜の構えで自己壊アップを付与すると、遊鬼は。
「ほれ、死神に操られるのは嫌だろう?」
 と言い放ちながら、ブレイズクラッシュの一閃を叩き込み、炎付与、それに併せて勇のライドキャリバーは、デットヒートドライブ。
 そして、ベリリは最後に……視界の死角から飛び蹴り一閃。
 頭から地面に突っ伏すダモクレスに。
「あぁ、すまぬ。あまりに目障りなので、視界に入っておらんかった」
 と言い放つ。
 そして、次の刻。
 ダモクレスはむくり、と立ち上がるが……その視線には当然ながら意思は無く、呆然とケルベロス達を見据えてから、攻撃。
 とは言え攻撃手段は、その長剣から繰り出す一閃のみ。
 自己回復手段はどうやら無い様で、ただただ攻撃する一方。
 そんなダモクレスの熾烈な攻撃を回避しつつ、反撃。
 高明のグラインドファイアを基点に、勇もグラインドファイア、詠巳のドラゴニックミラージュと、炎で一気に燃え上がらせる。そしてエドワードがブレイブマインで強化しつつ、ルーナは更にナノナノばりあ。
 そして、丁も仲間へブレイブマイン、お供も応援動画を付与し、仲間の強化をする一方、エリィのデットヒートドライブに、遊鬼のブレイズクラッシュ。
 そして刕桜が。
「斬り潰す!」
 と『破壊の一撃』を、その頭から叩き込むと、同時にベリリの憑霊弧月。
「哀れだな人形。死ぬ事がではない、死ねぬ事が、だ」
 と断じるベリリに対し、ダモクレスは当然何も答える事は無い。
 とは言え、そんなダモクレスへ容赦無く攻撃を仕掛ければ、体力も自ずと削られて行く。
 そして、対峙した時から10分程。
 流石に、幾重ものダメージを喰らったダモクレスは……先ほど以上にボロボロ。
 そんなダモクレスの状況に刕桜が。
「潰れろ!」
 と放ったサイコフォースの一撃に、その片腕が吹っ飛んでいく。
 そして、その一撃に体勢を大きく崩すダモクレス……。
「む……そろそろ止めた方がよさそうでござるな」
 とエドワードが声を上げて、仲間達を制止。
 敵の攻撃を受け流しつつ、一先ず……全員が攻撃停止。
 そして……。
「さ、トドメを頼んだ」
 と遊鬼がベリリへ声を掛け、ベリリはすっとダモクレスの前へと立ち塞がる。
 そして。
「朽ちて死ねば良かったのだ。情けなくとも醜くとも、うぬはうぬであったのに。慈悲をくれてやる、疾く死ね……」
 と、ベリリ渾身の『Allatu Di-num Aba-tu』が、ダモクレスに直撃し……ダモクレスは、木っ端微塵に崩れ墜ちるのであった。

●消えた心の影
 そして……無事にアンドロイド型ダモクレスを倒したケルベロス。
 その死骸……といよりは、稼働停止したその身体からは……花は咲かず、完全にスクラップと化してしまう。
 何処か悲哀の残る姿形……それに、勇と丁が。
「……デウスエクスとは言え、少し同情するよ。あなたがもし無念を感じているなら、私が代わりに晴らしたいと思う……死神は嫌いだ」
「そうね……もう、いいのよ。ゆっくり休みなさいな」
 死神への怒りと、死したダモクレスへの弔いの気持ちを抱く。
 そして……。
「さて、と……花も咲かなかった様ですし、後は後片付けでしょうかね?」
 と高明の言葉に皆も頷き、遊鬼やエドワードが壊れてしまった壁、床等を一つ一つヒール。
 又、回りに人払いの為にしておいたキープアウトテープを詠巳が剥がし……小一時間。
「さて……と、これくらいでよさそうですね。では、帰りましょうか」
 と刕桜が皆を促し、ケルベロス達は、其の場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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