菩薩累乗会~無垢なる狂信者

作者:成瀬

「今日も世界の何処かで争い事が起こり、誰かが血を流している。戦いをこの世からなくすには、闘争封殺絶対平和菩薩の教えに従うしかない。私のように平和を愛するビルシャナになって祈るのだ、それだけでいい! 警察も裁判所も内閣も要らない。いや家族や友人、恋人なんて概念もなくていい。個性を潰せ、私欲を捨てろ。資本主義は駄目ぜったい。平和以外を考えずただひたすらに祈り願う、無垢な存在になるんだー!」
 まだ二十もいっていない若き青年は、既にビルシャナ化しており、暑苦しい声で唾を撒き散らしながら主張する。極論もいいところ、まわりなど見えているはずもない。
 ぽくぽく、と木魚を叩きながらフクロウにも似た姿の『カムイカル法師』がすっと姿を現した。
「いやいや素晴らしい。争いや競争がなければ、心穏やかに生きて死ぬことができるのです。共に戦いましょう。そして戦争と競争の化身、ケルベロス達を迎え撃ちましょうぞ。平和の為なら戦争も辞さない、競争をなくす為なら命も捨てる。この覚悟実に素晴らしい」
 満足そうに言うとカムイカル法師は続ける。
「恐らくケルベロスはすぐに此処へ襲撃してくるでしょう。ですが安心してください。闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応えて協力してくれた、この者もお前を守ります」
 すると一体のダモクレス、『輝きの書』が進み出て加わった。
「ビルシャナの菩薩達が恐ろしい作戦『菩薩累乗会』を実行しようとしてるって、予知をしたの」
 ミケ・レイフィールド(薔薇のヘリオライダー・en0165)は額に指を当て、軽く解すとケルベロスたちに視線を巡らせる。
「強力な菩薩を出現させ続け、最終的には地球をその力で制圧しようってのね。笑えないわ。阻止する方法はまだ分からない。今できるのは、出現する菩薩が力を得るのを阻止し進行を食い止めることだけ。現在は闘争封殺絶対平和菩薩の活動が確認されているわ」
 世界平和、競争の無い世界を願う人間を標的にし、人の生存本能まで奪い滅亡に導く恐ろしい菩薩。被害者は平和を求めているだけでも、その結果まで考えていない。ケルベロスを撃退しなければと、その考えを強く刷り込まれている為、問答無用で襲いかかってくるだろう。
「ビルシャナ化させられたこの男性は自宅でカムイカル法師と留まり、ケルベロスの襲撃を待ち構えているみたいね。配下として輝きの書と呼ばれるダモクレスも一体いるわ。できるだけ速く事件を解決しないと」
 敵についてもミケは説明する。
「現れるのはビルシャナ、カムイカル法師、そして輝きの書の合計三体。この男性を救出できるとしたら、カムイカル法師を先に倒さなくては……でも難易度は高くなる。それに、絶対できるというわけじゃない。法師を倒した後、平和を望むならこうした方がいいという説得や、戦い方次第で救出の可能性が出て来るでしょう」
 法師がいる限り、闘争封殺絶対平和菩薩の影響が強くて説得は届かない。
 ビルシャナとカムイカル法師はクラッシャーで、広範囲の氷攻撃や範囲の狭い炎の攻撃をメインに経文による催眠攻撃も持ち合わせている。輝きの書はジャマーとして、回復や破剣付与能力でサポート行動を。他は近い隊列へ氷の攻撃をしたり、麻痺のついた攻撃を仕掛けてくるとミケは告げた。
「ビルシャナの菩薩がこんな事件を……先触れなのかしら。悪い事が起こらないの良いのだけど。皆、十分気をつけてね」


参加者
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)
引佐・鈴緒(黒曜石の硯・e44775)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


「ビルシャナとダモクレス。随分と珍しい組み合わせだな」
「そうね、UC……こんな良い天気だと外を歩きたい気にもなりますが、今日はそういうわけにもいかないでしょう」
 仲間と共に目的地へ降り立ったウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が建物の前でぽつりとそう零すと、ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)が空を見上げ、その呟きを拾って応える。夜空になるにはまだ時間があるが、こんな青空も悪くはない。
「どっちが利用されているのかわかりませんね。……まとめて処理させてもらいましょう」
 建物へと向かい始めた引佐・鈴緒(黒曜石の硯・e44775)も浮かない顔だ。
「完全にビルシャナになってしまったら、彼のご家族は悲しむでしょうね」
 あんな気持ちにさせたくはない。静かな宵闇を秘めたような漆黒の瞳がそっと伏せられる。遠くない過去、奪われし命は戻ることは無く傷は言えぬ侭、ビルシャナと耳にするだけでほの暗く生々しい感情が鈴緒を苛む。
 妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)は足を止めて鈴緒の方を見遣る。
「『彼』の言い分は分からなくもないが、何分行き過ぎなところもあるのは事実。人としての在り方まで否定するのはどうなのか」
 ゆるりと鳳月は首を横に振る。ビルシャナの教義に理を求めるなど間違っていると、理解してはいるのだ。
「……なんとしてでも、助けましょう」
「無論だ。その為に私たちは此処に来たのだから」
 そして眠たげな眼をした少女が、ふらりと仲間たちの後を追いかける。血に溶けた怨霊の声が兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)の内に低く響くのに、誰一人として気付く者などいなかった。


「ケルベロス、やはり此処へやってきたか」
 橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が進み出て部屋の扉を開くと、そこには三体の敵がケルベロスたちを待ち構えていた。フクロウの羽を膨らませ、カムイカル法師が忌々しげに言い放つ。すぐ傍には書を携えたダモクレスとビルシャナ化してしまった青年が控えていた。
「ノックしなかったのは謝るわ。初めまして、そしてさようなら。かしらね。悪いけどそっちの彼は返してもらうわ」
 愛用の『キス&クライ』を構え芍薬は不敵な笑みを浮かべる。
「人の善意も悪意も苗床にする、悪い鳥。思う様にはさせないわよ、ダモクレス。アナタたちに渡すものも、何もない」
 凛として咲く花が如く、エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)が二体の敵、そしてビルシャナへ視線を流す。
「これより冰が狩る対象は、平和を妨げる者」
 銀糸の髪がさらりと揺れた。
 抑揚の少ない款冬・冰(冬の兵士・e42446)の声がビルシャナたちへ向けられる。
「聴衆3人のゲリラライブ、開演だ」
 室内に響くギターの音。弾き手はもちろん、ウルトレス。部屋の空気を戦場のものへと書き換えていく。
 先に動いたのは敵方の三体だ。
 法師の生み出した氷の輪が前衛へ襲い掛かる。腕に氷の鋭い欠片を受けながらもエヴァンジェリンは十三の前に駆け出しその身を盾として傷と痛みとを引き受ける。振り返って名前を呼ぶ。
「大丈夫? ……じゅーぞー」
 まだ言い慣れない呼び名ではあるが、小さく名前を呼ぶ。こくりと頷くのを見て、エヴァンジェリンはふわりと微笑んだ。
「UCら数名の負傷を確認。アンチヒール付与後、ヒール開始」
「助かります、冰。ありがとう」
 部屋が冷気に包まれる。続くビルシャナも具現化した氷を今度は後衛の三人へ放つ。今度は守り手のミチェーリが芍薬へ届く前に氷を受け止め身を挺して庇う。
「人の心の隙につけこんで利用するとは。……そうですか。貴方も冷気を扱うのですね。しかし――本当の吹雪とはどんなものか、私がお教えしましょう」
 ミチェーリはそう言って真っ直ぐに法師を見据える。
 他の二体とは違い、ジャマーのポジションを選んだ輝きの書は最初攻撃を抑えて、守護を打ち破る破剣の力を与えるべく、持っていた分厚いページを捲り綴られている呪文を唱える。
 ケルベロス側も負けてはいられない。一番手でウルトレスが動く。
「ノリが良いのは結構だが、少し黙ってろ――」
 慣れた手付きで激しくエレキベースを鳴らしながら、臆することなく踏み込みヘッド先端を法師の鳩尾部分へ突き込む。確かな手応え。柔らかそうな梟にも似た羽が辺りに飛び散った。輝きの書は己の手番がまわって来る度に時間をかけてでも己を含んだ味方全員に破剣を与えサポートすることを選ぶ。
「まだ自己回復の必要はなさそうですね、……では」
 怒りの矛先として多少ダメージを受けていたがシャウトする程ではなとそうだと判断しミチェーリは次なる攻撃を。
「震えることすら許さない……! 露式強攻鎧兵術、『凍土』!」
 ガントレットに取り付けられた強制冷却機構を展開し、速やかに法師を永遠の沈黙へと導くべく熱を奪い取る。
 主と違い守り手として九十九は敵の攻撃を受け止め、可愛らしい動物の動画を流して仲間の回復に当たり、その合間に凶器攻撃を挟んでいく。また鳳月も、仲間に合わせてまずは法師の撃破を目指し阿頼耶光で攻撃を仕掛けるが、足止めもまだ効いておらず序盤は時折避けられてしまう。
「戦闘継続に支障無し」
 咄嗟に腕で顔を守り、孔雀のカタチをした紅蓮の炎が消えるまで耐え忍んだ冰は悲鳴を上げることなどせず、その場に踏み止まって堪える。
「余所見しないでダモクレス。アナタの相手はアタシがするわ」
 炎、氷に続いてエヴァンジェリンの扱う黄金の稲妻が瞬間的に煌めく。突きを繰り出したglischを引き、戦いの最中であっても声は決して荒らげず静かな口調を崩さない。ほんの一瞬意識がhimmelにと向いた。どんな時でも決して独りではない。そう思うだけで温もりが広がり、どんな傷も耐えられる気がした。
「『月喰み』解放……呪怨の刃にて……その首……刎ねて、つかまつる」
 幼き体躯に似合わぬ大太刀、月喰みを容易く繰り法師の首を狙うは十三。大太刀に宿る怨霊を自らの殺意に重ね溶け合わせ、成した刃は呪怨の塊、不可視の刃。ふらりと危うい足取りの法師は避けるに至らず、それどころか深く食い込んだ刃で悲鳴もあげずに絶命する。呪わしい声が今は遠い。戦いに身を投じるこの時間だけが、十三を辛うじてこの世界に繋ぎ止めてくれる糸だ。とても細く、いつ切れるとも分からぬ代物ではあるが、確かに今はその役目を果たしている。
「議論を行い、平和への認識を高めることを奨励。……冰も、争いは好きじゃないから」
 法師を撃破し、菩薩の影響がこの場から消え去った。今なら説得すれば、青年を救出できるかもしれない。仲間たちは互いに目配せをして声をかけていく。
「平和を求める想いが間違いだとは思いません。しかし貴方はあまりにも答えを急ぎ過ぎています。焦って一人で突っ走って振り返れば誰もいない。そんなのは悲しすぎでしょう」
 本当の平和とは、とミチェーリは語りかける。
「周りの人と手を携えて、一歩ずつ先に進んだ先にあるはず。私達と一緒に考えながら、もう一度歩き出してみませんか」
「ヒトとして全てを棄ててしまえば、行き着く先は平和じゃない。破滅、滅亡だ。……あんたの求める平和ってやつは、ヒトを棄てなくても十分為せるはずだろう」
 低く力強い、ウルトレスの声がビルシャナの耳へ届けられる。僅かに動揺したようにビルシャナの肩が揺らぐ。
「もっとシンプルでいいわ。ただあんたが戦わないって姿勢を見せれば、感銘を受ける人が出て来るかもしれない。……最初っから矛盾してるのよ。争いの無い世界とか平和とか嘯いてみせても、今暴力でその考えを押し通そうとしてるじゃない」
 意志の強そうな橙の眼が真っ赤なリボルバーの代わりにビルシャナを射抜く。
「男なら、自分の行動で意志を示して見せろ!」
「……へい、わ。……争いの無い、世界……」
 ビルシャナは頭を抱えて身体を震わせる。確実に、言葉は青年の心に染み込んでいるとケルベロスたちは感じた。
 精神を落ち着かせると瞼の裏に浮かぶのは朱の混じった墨色、脳裏には懐かしき声。鈴緒は片手を軽く持ち上げその指先を輝きの書に向け、足元を爆破させ書物のページを爆風で何枚か破く。
 その様子を見ていた輝きの書が右手を持ち上げ、鳳月を指し示すよう指先を向ける。本のページから無数の短剣が具現化されようとするが、ぴりりと痺れたように動きが不自然になり、攻撃には至らない。
「効いてきたようだな。まずは一体、敵を残して去ることなどするものか」
 法師を倒した後は作戦通り、輝きの書に攻撃が集中している。
「妙とは不思議、縫とは繋げる、煉とは混ぜ合わせる、華とは魅せる。我が妙法ノ弐拾陸錦……」
 黄昏にも似た金色の瞳は傷を受けようとも一点の曇りも無く、希望と絶望その両方の色を知る心には本当の意味で光が宿る。掌を合わせ半ばほど伏せた瞳を憂いに染めながら、三日月の如き氣の刃を無数に放ち輝きの書を切り刻む。
「哀れなるかなダモクレスよ。志を持たずして利を得ようとする者の末路、この眼でしかと見届けよう」


 敵三体を相手にしたケルベロスは当然時が経つにつれて傷を深くしていく。癒し手が二人いようとも完全にダメージをゼロにはできず、命中率が鍵となり多少時間がかかっているようだ。
「С Рождеством Христовым……遠慮無く受領することを推奨」
 冰が扮したスネグーラチカが鈴緒へ軽い足取りで歩み寄り、プレゼントで傷を癒す。回復スプレーともう一つ、可愛らしいパンダのぬいぐるみ。グラビティで生み出したものゆえしばらくすれば消えてしまうだろうが、鈴緒の曖昧な瞳がじっとそれを見詰めた後、ありがとうございますと小さく唇が紡ぐのを冰は耳にした。その声が先程より、柔らかくなっていたのはきっと、気の所為ではない。
「ホウヅキ、説得の頃合いと推定」
 回復を追えた冰はビルシャナへ向き直る。
「あなたの言葉に間違いはあっても、内に秘める熱意は確かに観測した。人々に説く方法は幾つかある。学び探求し自らの身をもって説くことを推奨。その上で手が届かない争いの種は私達が何とかする。一緒に、人々とケルベロスで平和を紡いで行こう」
「何故君は戦うのだ。この世界から争いをなくすために平和を愛する使者になったのだろ? 祈れと言っておきながら戦っている……矛盾してると思わないか?」
「争いの無い世界なんて難しいと思うけど、人は『争わない』ことを選ぶことができる」
 鳳月や芍薬も続いて、何とか青年を救出すべく言葉を重ねる。
「争いを避けていく、争っても誰かを傷つけない。平和って、その積み重ねでできてると思うわ。だから、人をただの争う力の無い生き物に変えることを私は決して平和なんて呼ばない」
 ビルシャナの唱えた経文が音波となり放たれる、その軌道を読み切り避けた芍薬は声に思いを込めてぶつける。
「人の意志を甘く見るな!」
「う、……あああッ」
 ビルシャナが絶叫する。
 瞳から透明な滴を落とし、羽を震わせ何も考えず平和を叫ぶ時とは違う空気が滲み始めていた。だが戦いから離脱する気配は無い。輝きの書が回復にまわるが、殺神ウイルスにより回復量は低下。戦いは半ばを過ぎていた。法師を既に撃破し、キュアを持たない二体は徐々に蝕まれていく。だが、まだ気は抜けない。ミチェーリはシャウトで自らの体力を回復させ息を整えると、鎌を振るったウルトレスが大きく輝きの書の体力を削り取る。
「あなたは、戦いを、捨てて、平和を、祈るだけの、存在に、なれば、いいって、言っていた。なのに、どうして、あなたは、戦う、の? ……それは、本当に、あなたの、したいこと、だった、の?」
 疑問を投げかけ、倒れ伏した法師へ視線を向け存在を示す。
「じゅーぞーは、難しいことは、わからない、けれど、あなたの、平和を愛する心、は、正しいと、思う。だけど、平和を愛する心さえ、利用しようとする、敵がいる。そんなのは、許せない、よ。じゅーぞーは、そのために、戦う、よ」
 ビルシャナの瞳に理性的な色は無いにしても、十三の言葉も確実に届いているはずだ。決して油断していたわけではない。しかし、ビルシャナの生み出した炎の一撃は傷を負った十三が耐えるには厳しいものだった。伸ばしたその手は床を引っ掻くがビルシャナには届かない。静かに闇が訪れ、途絶える意識の中で仲間の呼ぶ声が聞こえた。
「……っ、人はひとりで生きてるんじゃない。アナタだって、自分や誰かの幸せを願って、平和で闘争のない世界を望んだのではないの? ――どうか思い出して。アナタが平和な世界で、共に生きたいと思った人を」
 ビルシャナにそう告げ、エヴァンジェリンは如意棒を構え輝きの書と対峙する。想いを乗せ叩き込む痛烈な一撃はその腹から敵の体躯を砕き、後には石像のような破片が残るばかり。
「良かった。あとは……彼を撃破するだけですね」
 頬についた小さな傷を拭い、鈴緒がエヴァンジェリンの鮮やかな一撃に称賛を送った。
「人というものは欲を失い、個を失えば、生きる気力も失せる。欲があってこそ生きられる、僕も貴方も、人とはそういう生き物ですよ。平和を願うことはとても良いことですよ」
 でも、と鈴緒は俯く。
「貴方の手段は間違っていると思います」
 ビルシャナの身体はもう傷付き苦しげで、ミチェーリにはそれを見ているのが少し辛かった。駆け出してトドメをさすよう渾身の蹴りを叩き込むがほんの僅かに体力が上回る。
「その一手、僕が引き継ぎます」
 和装の少年が発した声は、石の如き硬質さと澄んだ響きがあった。
「雅巳兄様、力を貸して」
 血を混ぜた赤墨で描くのは、今は亡き長兄が好んだ幽霊画。柳の下に佇む女の幽霊が具現化し、ビルシャナをその腕で抱擁する。逃れられず瘴気に包まれたビルシャナは、それきり動かなくなった。
「へいわな、世界……きっと、そこには、じゅーぞーの、居場所は、ないんだろう、ね」
 戦いが終わり曖昧な意識の中、十三がほとんど声も無く呟く。駆け寄ったエヴァンジェリンが覗き込むと、再び意識を闇に落とした。
「大丈夫だ、生きている」
「彼も……あの姿を見てください。ビルシャナから人に戻っています」
 心臓の鼓動と呼吸は途切れていないと確認した鳳月が皆に伝えると、鈴緒は被害者の姿が変わっているのに気付く。どうやら救出できたようだ。
「戦闘終了。皆お疲れ様」
 ベース弦を素手で引き千切り、ポンと青年の肩を叩いて立ち去ろうと歩き出すウルトレス。しかしそれを芍薬とミチェーリが呼び止めた。――逆方向だと。
 こうして闘争封殺絶対平和菩薩の企みは止めることが出来た。不穏な空気はまだ消し去れていないが、果たしてどうなるのだろうか。

作者:成瀬 重傷:兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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