菩薩累乗会~競争の中の真実とは

作者:沙羅衝

「なんで、俺、レギュラーになられへんねん……」
 一人の高校球児、鈴木・次郎が、とぼとぼと人影の居ない狭い夜道を歩きながら呟いていた。どうやら、部活帰りの様であった。
「競争なんか、無かったらええねん。せやろ? 競争が無かったら、みんな幸せにやりたいことやれるんやで……」
 次郎は、来年度に3年生になる。しかし、入部当初から頑張ってきたものの、あまり活躍することが出来ず、とうとうレギュラーの座を、後輩に奪われたのだった。
 すると、物陰から彼を見ていた者が、彼の前に現れ、口を開いた。
「その考え! 良いですな! 闘争封殺絶対平和菩薩の心に通じるものがありますね。
 戦いや競争がなければ、人は戦う事も競争する事もなくなり、心穏やかに生きそして死に絶える事ができるのです」
 そう言って、大げさに頷くのは『カムイカル法師』。木魚を片手にぽくぽく鳴らし、彼に歩み寄る。
「さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、暴虐たるケルベロス達を迎え撃ちましょう!」
 その言葉を聞いた次郎は、最初はぽかんとしていたのだが、段々と怒りがこみ上げ、叫んだ。
「その通りやー! 争いなんかくそくらえじゃあああ!!」
 そう言って、次郎はビルシャナと化していく。その様子を見ながら、カムイカル法師はうんうんと頷きながら隣に居たデウスエクス『輝きの鎌』を見る。
「あ、そうそう。直ぐにケルベロスが来るのはわかってます。ケルベロスこそ、平和の敵、必ず打ち倒さねばならない、悪の権化。闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応えて強力してくれた、この者もお前を守るだろう。必ずケルベロスを打ち倒しますよ!」

「ああ、もう! またこいつらかぁ!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まってくれたケルベロス達を前に、珍しく声を荒げていた。ケルベロス達は彼女の様子に、少し怯えながら、宮元さん宮元さん、どうかしましたか? と尋ねた。
「ああ、ごめんやであんな『菩薩累乗会』のことは知っとる、わな?」
 すると、何人かはそれを聞き、頷いた。
「簡単に説明すると、強力な菩薩を次々に出現させて、その力をまた使って……て言う事を繰り替えすことによって。最終的に強大な菩薩を出現させるちゅうビルシャナの作戦や。まだこれを阻止する方法は見つかってへんねんけど、とりあえず、出てきた菩薩を食い止めていくことになる。
 で、今回の菩薩は、闘争封殺絶対平和菩薩。世界平和や競争の無い世界を求める人間を標的にしてな、人間の生存本能まで無くさせて人類を滅亡させようとするっちゅう、恐ろしいやつや。
 被害者は、世界平和とか競争の無い世界を純粋に求めているだけやねんけど、その結果の事に関しては考えてへん。
 その挙句や。完全平和の為には、ケルベロスを撃退せなあかんちゅう、矛盾した考えを刷り込まれてるみたいやねん。当然、うちらケルベロスが現れれたら、問答無用で襲い掛かってくるやろな。
 今回ビルシャナ化させられた一般人は、カムイカル法師ちゅうモンと共に自宅におる。なんや、いったん自宅に閉じこもることでケルベロスの襲撃を待ち構えているみたいや。この戦いでケルベロスが撃退されてしまえば、平和の名を借りて人類を滅亡させようとする教義が急速に広まってしまうっちゅう可能性もある。せやから、ちょっと頑張ってや」
 今月に入ってからのビルシャナの動きも気になる。ケルベロス達は、今回の敵の情報を求めた。
「今回は、ビルシャナ2体と、なんや知らんけど『輝きの軍勢』っちゅうダモクレス1体や。ビルシャナは、さっき言うたカムイカル法師と、そいつによってビルシャナになってしもた高校球児の鈴木・次郎君。一応ポジションはセカンドみたいやけど、公式戦には一回もでたことあらへんっちゅう所を狙われたわけやな。次郎君もそんなに才能がない訳やないんやけど、運が悪いんか、いつもライバルがおって、そのたんびに負けてしもてるみたいやな。
 で、倒し方やねんけど、まずこの次郎君はそんなに強くない。でも、彼を倒すと、カムイカル法師は逃げ出すで。まあ、依頼自身は彼を倒せばええっちゃええねんけど、カムイカル法師を先に倒せば、次郎君を説得できるチャンスが生まれる。で、問題なんが、全く関係ないやろと思える『輝きの軍勢』。今回は『輝きの鎌』ちゅうのがおるわけやけど、意外と強いで。そいで、最後まで戦い続けるっちゅうめんどくさいやつや。その辺、色々考える事あるけど、良く作戦練って、挑むんやで」
 絹の話を聞いたケルベロス達は、お互いに顔を見合わせ、頭を悩ませる。誰をどうやって倒していくか、また、説得をどうすれば良いかを思案する。
「まあ、競争の無い世界を説いている割には、なんやこっちには挑んでくるしな。平和はええ事やし、うちらもそれを望んでるけど、競争ってなんやろか? そんな事が少しひっかかるかなと、うちは思う。皆も何処かひっかかってるんちゃうかな? その辺りをバシーって突っ込んでやって、正気に目覚めさせたって欲しいかな。ほな、頼んだ!」


参加者
天道・晶(髑髏の降魔拳士・e01892)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)
ユーナ・シャムロック(一振り・e44444)

■リプレイ

●ケルベロスの意志
 ドシュ!
「ぐ……!」
 サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)が左腕で輝きの鎌の攻撃を受ける。すると、彼女の左腕から鮮血がほとばしり、傷口からグラビティを吸い取られる。
「サロメさん!」
 その傷を見て、綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)が祝詞を読み上げる。
『遍く日影降り注ぎ、かくも美し御国を護らんが為、吾等が命を守り給え、吾等が力を寿ぎ給え。』
 鼓太郎の心臓付近から光の球が出現し、サロメへと与える。
「ホホホ……。争いなど無謀というものですよ! さあ、参ったと言うのです! そして、死んでいただけますかな!?」
 ぽくぽくぽくぽく……!!
 カムイカル法師が放つ木魚を打ち鳴らし、舞う。すると、中衛に位置した黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)と、ユーナ・シャムロック(一振り・e44444)に衝撃派が飛ぶ。
「ねこさん、頼んだよ!」
「わわっ! お、おねがい、しまっぶ!」
 すると、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)と相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)が、ウイングキャット『ねこさん』と『つばさ』に、二人を護るように指示をする。
 ボウッ!
 その指示に従い、二匹はその衝撃派に飛び込む。
 炎を上げる二匹。
「か、噛んじゃい、まいた、……したあ!」
 愛がその炎を見て、オーロラのような光を前衛のサロメ、ねこさん、つばさ、それとサロメのテレビウム『ステイ』に纏わせる。
「ざけんじゃねえ! もっともらしい理由つけやがって、そんなクソみてぇな平等と平和の為に死ねってんなら……上等だ! 悪の権化にでもなんでもなってやらァ」
 炎が消えたのを確認しながら、ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)は改造銃『ミタマシロ』をガチャリと構える。言葉は熱いが、頭は冷静さを保つ。
『真血を吐け、血花を咲かせ!』
 狙いをぴたりと合わせ、引き金を引き、撃鉄を弾丸に叩き付ける。
 ヒスイの狙いは輝きの鎌だ。その弾丸は輝きの鎌の仮面の額部分に打ち込まれ、そこではじける。はじけた弾丸はグラビティを撒き散らし、輝きの鎌の仮面を覆うようにべったりと張り付いていった。
「だだだだああ!!!」
 そこへ、ビルシャナ化した鈴木・次郎が、金属バットでやたらめったら野球のボールを打ち放つ。
 ドドドドドド!
 だが、その攻撃は狙いが良くないのか、狙われた後衛全員が避けることに成功した。幾つかのボールは不発に終わっていた物もあるようだった。
「マキ! そっちは大丈夫か!?」
 そのボールをかいくぐりながら、天道・晶(髑髏の降魔拳士・e01892)がうずまきに声をかける。
「晶くん、こっちは大丈夫だよ!」
 うずまきの言葉に晶は頷く。そして、ドラゴニックハンマーを構える。
「いやぁ、野球のボールよか幾分も暴力的だけど。これも勝負事だから手ぇ抜いてらんないんだよねぇ」
 ドゥン!!
 音を上げて放った竜砲弾が、輝きの鎌を吹き飛ばす。
「よし、そこね!」
 舞彩がその吹き飛んだ輝きの鎌に、『ドラゴニックメイス』を叩き付ける。そして、ユーナがその落下点を見極め、蹴り付けた。
 ケルベロス達は、何とかして次郎を助けようと作戦を組んだ。
 まずは最初に倒すべきは輝きの鎌。そう決めたのだ。前衛で体を張る輝きの鎌の防御の力はかなりのものである事が予想されたが、一人ずつ確実に倒して行くと作戦を練ったのだ。
「ほほほ……なかなかやりますねえ。ですが、やはり平和が一番ですなあ……」
 すると、すかさずカムイカル法師が輝きの鎌にヒールを施す。
 ぐぐっと力を入れながら、立ち上がる輝きの鎌。
 ケルベロスの作戦の中心はここにあった。一番強いと言われたカムイカル法師の手を止める。それには、回復という手段を取らせれば良い、と。
 当然、その作戦は持久戦を覚悟したものだったのだ。此方の傷は後衛に位置した鼓太郎、うずまき、愛に託された。
 しかし、いくら防御を固めても、回復を行っても、ダメージはじわじわと蓄積されるのだ。
 そうしてまでも、ビルシャナとなった次郎を助けたい。それは、紛れも無くケルベロス達の意志だった。

●一人と3匹
 ケルベロス達とビルシャナ達との戦いは、削りあいの様相を見せた。
 ドウッ!
 次郎がステイを金属バットで殴りつける。
 ドガッ!!
 そのまま壁に叩きつけられ、跳ねるステイ。何とか立ち上がるが、そのダメージの蓄積はかなりのものとなっていた。
 ケルベロス達は鼓太郎の戦歌によって気力を保ち、うずまきのケルベロスチェインによる魔方陣、愛の魔導金属片を含んだ蒸気により、幾重にも味方を守護させていた。
 だが、それ以外の者は輝きの鎌攻撃を与え続けた。一時気を抜いてしまうと、カムイカル法師によって、その盾がはがされてしまう恐れがあったからだ。
 ビュウン!!
 しかし、その守りの力を引き剥がさんと、輝きの鎌が愛に鎌を投げつける。
 寸分の狂いも無く、愛に突き刺さろうとする。
 ズバア!!
 そして、その回転した鎌はサロメの腹部に突き刺さった。
 ぼたりぼたりと滝のように血が流れる。
「あ、しゃ、シャノワーヌ、様!?」
 目を見開き、へたり込む愛。しかし、その泣きそうな愛にサロメはそっと微笑む。
「お嬢さん、怪我はないかい?」
 こくこくと頷く愛を見て、危険だから私の後ろにと言い残し、腹部に刺さった鎌を引き抜きながら、前に出て、自らと周囲を鼓舞する歌を歌う。
『すまいるっぜろえんーっ』
 そのサロメの笑みに応えるように、うずまきが回復の弾丸を彼女に飛ばす。
「相川、仕事をしましょう? そして、私も!」
 舞彩がそう言って、鶏ファミリアの『メイ』を飛ばす。その言葉にはっとなった愛は、すぐにサロメに蒸気を与えた。感謝と、願いを込めて。
 そしてヒスイがオウガメタルを拳に纏わせ、振るう。すると、オウガメタルの意志が拳に宿り、鬼の拳となって射出される。
 ドウッ!
 メイにズタズタに切り裂かれた後に、ヒスイの拳をモロに食らう輝きの鎌。
「終わりだ!!」
 晶がドラゴニックハンマーを振り下ろすと、漸く輝きの鎌は消滅したのだった。

 ぽくぽくぽくぽくぽく!! どうぅん!!
 容赦なく前衛の一人と3匹に衝撃派が襲い、炎が上がる。そしてとうとう、ねこさんとステイが倒れる。
 前に盾がいなくなったため、カムイカル法師が攻撃に転じてきた為だ。
「なかなかやりますなあ……。これも平和の力です。平和こそ素晴らしい……ほほ、ほ?」
 ぼう!
 そうカムイカル法師が言った時、足元から炎が上がる。
「そうですね。それではお相手していただいてもよろしいでしょうか?」
 ユーナがゆっくり、にっこりと微笑む。そしてエアシューズの蹴り足を元に戻しながら、喰霊刀『血桜』の鞘を左手で掴んで、言葉を続けた。
「ですが、こうなった時点で、此方の作戦の大半は無事に消化いたしました。あなたに勝ち目は無いかと思いますが、こちらが戦うのを止める事はありません」
『こいつで……ブッ飛びやがれ!!』
 ユーナの言葉に乗り、晶が距離を詰め下から上へと拳を振り上げる。
 ドグ!
 鈍い音を立て、カムイカル法師の腹に拳がめりこむ。そしてその巨体を宙に浮かせた。
「貴方の教義の事ですが、はっきりと言いますと。何を言っているのかさっぱり理解できません」
 そして更に鼓太郎の御業による炎が襲う。
『メイ、みんなを呼んで。総攻撃!』
 舞彩がメイに命じ、大量の鶏を呼び寄せ、カムイカル法師に突っ込む。
 大量の鶏につつかれ続けたカムイカル法師の体から、大量の炎が上がる。
「ひ、ひい……!」
 するとカムイカル法師は、炎を上げながら逃走を試みようとする。
「さて、元凶がのうのうと逃げられると思うなよ」
 しかし、ヒスイが回り込み、鬼の拳で殴りつける。
『炎――氷――光の矢――巨人の腕――お掃除道具――』
 愛がそう唱える。すると、魔方陣から何かが飛び出した。
 ガツン!!
 それは、次郎の持っていた金属バットだった。くるくると回転し、カムイカル法師の頭に直撃したそれは、弧を描き床に情けなく転がったのだった。
「……では」
 最期を見切ったユーナが、腰を屈め、ウサギの耳を後ろに畳む。そして、目を見開いた。
『――この身は、一振りの刃。』
 駆け抜け、『血桜』を鞘にしまう。すると、カムイカル法師は言葉を発する事無く消滅したのだった。

●青春はフルスイング
「待たせたな……」
 サロメがそう言って、ぼろぼろになった身体に鞭を打ち、爆破スイッチで爆破を行う。
「……ああ、ケルベロスに、負ける、また……まける……」
 吹き飛ばされながらも、情けなく呟く次郎。
「やっぱり、競争なんて、無いほうが、良いんだ……」
 その言葉に、ユーナが反論する。
「競争のない世界……ええ、皆がそれで満足であるのならば、それは良いかもしれませんね」
 そして、そのビルシャナの翼を切る。
「しかし、あなたは野球が好きでレギュラーになりたかったのではありませんか?
 あなたの好きな野球に勝ち負けがなかったら、あなたはそれを好きでいられますか……?
 そうだと言うのならば、わたしから言うことはなにもありません。
 どうぞ、そのままで」
 あくまでも事実を淡々と話すユーナ。
「争いや諍いの無い世界、何と素晴らしいものでしょう。でも鈴木さん、貴方のそれは平和への願いではないでしょう」
 そして、鼓太郎が矛盾を付く。
「レギュラーで活躍出来ないと言う恐怖から目を背けたいばかりの逃避です。
 逃げ出した瞬間、本当はこうしたいと願う自分自身に追われる競争が始まります。自らの影を切り離すことは出来ません、延々と惨めに逃げ続けるだけ。そこに貴方の平和は有りません。
 そして野球部を頑張り続けた貴方なら、惨めな逃避を終わらせる方法は既に御存知のはず!」
「ち、違う。そんな……俺は、逃げて、る? 違う!?」
 自分の少しばかり残った理性があるのか、鼓太郎の言葉は次郎に重く突き刺さる。
「野球ってのがそもそも勝った負けたの競争を楽しむスポーツじゃねぇか。攻撃と守備と、お互い一瞬一瞬競い合って勝負するから、ドラマが生まれるし惹かれるんだろ? バッティングセンターに行くんでも、キャッチボールがしたかったんでもなく。『野球』がやりたいからレギュラーにもなりたかったんじゃねぇのか?」
 ヒスイは次郎に野球そのものの価値を思い起こさせるべく語る。
「……や、きゅう。でも、負けたく、ない……」
「そうね。競争しない限り敗北はないわ。でもやっぱり競争は良いものよ。負けないように、勝てるように、自分を高める力になる」
 舞彩は自分の事を思い出しながら、また頑張ってほしいと思いながら、言葉を紡ぐ。
「そうして競い争い、成長する。結果負けて嫌になる気持ちもわかるけどね。
 無駄ではないから。いえ、無駄にするかどうかは貴方次第ね。負けてもう競うのは嫌だって、終わりにする?
 無駄でも、終わりでも、まだないけれど。それでもまた、頑張れるでしょう?」
「がんば、る? むだ、ジャナイ、のか?」
「競争というのはお互いを高め合うことなんだ。負けたくないから頑張れる。単純なことだろう?
 そうすれば、もっと強く、高みに登っていける。競争がなければただ落ちていくだけなんだ」
 サロメは舞彩に続き、頑張ることの意義を伝える。
「競争することで、磨かれるものもあるはずですっ。競争で、よし、やるぞ、って、なります、しっ!」
 愛はそう言って、競争の存在を肯定する。
「そ、それに、レギュラーになるだけがスポーツじゃ、ありません、から。
 お互いに切磋琢磨して、楽しみ合う。それが、理想なんじゃ、ないでしょうか?」
「たのしみ、合う。俺は、楽しいん、か?」
 明らかに次郎のその言葉は、ビルシャナのものとは異なってきた。人間に戻ってきている。もう少しだ。
 そう思ったうずまきが口を開く。
「うん……ボクもさ。人と比べちゃってしょぼんとする事、あるよ。
 周りが出来る人ばっかりに思って疎外感感じたり……さ?」
 うずまきは自分を振り返りながら、目を瞑り、話す。
「でもさ、それでもさ。
 競争無しで……なんて自分が変わる事も、ないよね? 一歩踏み出さないときっと変われないよ」
 それはうずまきが、自分自身で思っている事に他ならない。
(「やっぱり、勇気を出さないと。出してからじゃないと……諦められないと、思う」)
 自分自身に照らし合わせながら。そして、目を次郎に向けた。
「きっと助けてくれる人が周りにいるから! 信じて!」
「一歩、一歩の、……勇気」
 そして最期に、晶がうずまきと入れ替わり、次郎と対峙する。
「もう、分かってるみたいだな。じゃあ、あとふと分張りだ」
 そう言って、カムイカル法師に当たった金属バットを広い、差し出す。
「ほら、兄ちゃんも兄ちゃんなりに頑張ったんだろうさ。ましてサボってなんかいやしねぇってのはよーく分かるよ。
 でもよ、勝負事ってさ…待ってくれねぇじゃん。誰が何考えてようがさ、勝負に混ざった以上は進むしかねぇ。
 ……俺も昔は助っ人で色々やってたさ。それでも負けたら悔しいわな、そりゃ」
「ああ、悔しい。……悔しくて堪らへんねん!」
 そして、とうとう次郎は自分の意思の根幹である『悔しい』という感情を表に出した。すると、次郎のビルシャナの嘴がぽろりと落ちた。
「そうだ、悔しくない訳ないよな。わかるぜ。でも、それで終わりじゃ駄目だろ。終わったら、本当に終わるんだ。悔しいまま、な」
「……い、嫌や。このまま、終わりたく、ない!」
 その次郎の叫びは、心の叫びだった。その言葉に晶は頷く。
「ああ、その気持ち、モヤモヤした気持ちは、スイングと一緒にぶっ飛ばしちまえ。バカヤロー! ってさ」
 すると、次郎は金属バットを受け取り、じっと見る。
 そして、構えた。自分で見つけたオリジナルのルーティーン。
「ほら、いくぞ」
 晶はそう言って、不発に終わっていたボールを投げた。
 そして、そのボールに向かって次郎はフルスイングした。
『バカヤロー!!』
 ドゥン!
 そして、そのボールはグラビティの力を取り戻したのか、派手に爆発したのだった。
 ぷすぷすと煙を上げながら、ビルシャナから戻った次郎。
「気絶、してる、ね」
 うずまきはそう言いながら、命に別状が無い事にほっとした。そして、彼女は少し何かを決めたように頷いた。

 こうして、カムイカル法師の作戦を阻止したケルベロス達。
 次郎を介抱した後に、また次の依頼へと戻っていく。
 平和と競争。その意義は共存し得る物だ。ケルベロス達はその事を知っている。
 気がついた次郎は、礼を言いながら部活に戻っていくと話した。そしてその表情は、晴れやかな物だった。
 命を賭ける者達に言われた言葉を、胸にしまいながら。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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