●会敵
浜本・英世(ドクター風・e34862)は、地下駐車場を歩きながら、ふと違和感に気づいた。
誰も居ない……?
満車ではないがそれなりに駐車はされているというのに、人っ子一人見当たらず、入ってくる車両もない。
打ちっぱなしの無機質な世界で、人工の光が煌々と照らされて英世はひとり。
違和感を覚える彼の前に、太いコンクリートの柱の影から、ゆらりと人影が現れた。
「ローカスト……?」
赤いマフラーを揺らす、暗色のそれは蝗型のローカストに見えた。しかし既にローカストはアフリカのみに生きる存在となっていて、日本にはいないはずだ。
静か過ぎる駐車場だからこそ、英世の聴覚は小さなモーター音をとらえた。故に悟る――眼前の蝗人間はダモクレスだ。
英世がそう認識するなり、ダモクレスは高く跳躍する。
「っ!」
そして問答無用とばかりに英世に痛烈な一蹴を浴びせてきたのだった。
●蝗型機兵アームドホッパー
また宿敵に襲撃を受けるケルベロスの未来を見た、と香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)はヘリポートに駆け込んでくる。
「浜本さんに連絡しようとしたけど、圏外なんかな……通じひん。緊急事態や。手遅れになる前に、助けに行こう!」
英世を襲うダモクレスは、蝗型機兵アームドホッパーと称されている機体と判明している。
「端的に言えばバッタ人間や。すさまじい破壊力の格闘術が自慢やから、気をつけて」
場所は地下駐車場だが、周辺はダモクレスによって人払いがされているため、特に戦闘で考慮すべき存在はない。
「車とか駐車場の施設とかは壊れてしまうかもやけど、そこはホラ、ヒールでなんとかなるし」
とかく敵は一体、一般人の考慮は不要。英世を救出した後は、力と力もしくは技と技の純粋なぶつかり合いになるだろう。
ケルベロス達はそんな予想をしつつ、ヘリオンへと乗り込んでいくのだった。
参加者 | |
---|---|
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658) |
一式・要(狂咬突破・e01362) |
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634) |
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925) |
喜界ヶ島・鬱金(凡天・e10194) |
フィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338) |
浜本・英世(ドクター風・e34862) |
豊間根・嘉久(天ツ空・e44620) |
●乱入
凄まじい音とともに、緊急回避のために後ろに跳んだ浜本・英世(ドクター風・e34862)の横にあった車が大破する。
「…………」
じわりと滲む冷や汗は気づかないふりをして、英世は口元に笑みを浮かべた。
「ようこそ、蝗型くん」
全身に展開するのは凶科学式超鋼《Squid diabolum》。オウガメタルによって異形の姿を被り、英世は立ち上がる。
「君だけとは随分見通しが、甘いのではないかね?」
眼前の蝗型機兵アームドホッパーは、かけられた言葉など聞こえなかったかのように静かに英世へと近づいてくる。
だがその間にタイヤに悲鳴をあげさせながら割り込んでくるバイクが一台。
「その辺の改造人間なんかに遅れは取らんぞ!」
バイクを放り捨てた乗り手は、後ろに乗せていた家宝のミミック『アドウィクス』のエクトプラズムを浴びながら、全身をオウガメタルで覆った。
彼の名はガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)。茶飲み友達の危機を救うべく急行してきたドラゴニアンのケルベロスである。
「先生、来ましたよ!」
駆けつけたのはガロンドだけではない。恩人を救うべく現れたのは一式・要(狂咬突破・e01362)。先日見たヒーローショーによって掻き立てられた正義の魂を燃やしつつ、英世の横に立つ。彼もトラック海月丸を駆ってドリフト到着したかったが、地下駐車場の車高制限に引っかかったので諦めた。
「英世さん今助けますよ!」
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)がテレビウムの小金井の画面をフラッシュさせつつ駆け寄ってくる。
「はいっ! こっちにも居るよ! 知り合いのあんちゃんの助太刀にきました! たすけてけすた!」
東西南北の頭上をエアシューズが誇る跳躍力を活かしたハイジャンプで飛び越してきて、とんっとマンホールの蓋の上に華麗に着地したフィアールカ・ツヴェターエヴァ(赫星拳姫・e15338)が叫ぶ。
隣でマスコット的ミミックが、『スームカもいるよ!』とばかりにぴょんぴょこ跳んでアピールしていた。
「……あれ? なんか下が不安定?」
フィアールカの足の下、マンホール蓋がガコガコと上下している。
中から、
「む? くっ、重い?! ぬぅう……フルパゥヮアー!」
と小さな声も聞こえてくる。
「ひゃっ??」
フィアールカが飛び退いた瞬間、ドバーン! 勢い余った蓋が飛び、
「フフハハハ! 残念だったな浜本英世……おとなしく助けられて貰おう!! 天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ、バッタを倒せと俺を呼ぶ!! 参上! 喜界ヶ島鬱金と私より強い仲間達!!」
ハイテンションに叫びながら喜界ヶ島・鬱金(凡天・e10194)が這い出てきた。
飛んだ蓋は、走ってきたメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)が無事キャッチ。
「……うぉっほん! 世界の平和を守るため、友の笑顔を救うため! メリーナ・バクラヴァここにありぃ~~っ、です♪」
蓋もいい感じに構えつつ、格好いい決めポーズを決める旅役者。
背後にフィアールカがブレイブマインで虹色の花火を上げて盛り上げる。
ちょっと番組(番組って何だ)の趣旨が変わってきたのでは? という空気が漂い、一瞬の静寂。
その静寂を割るように、コンクリート柱の影から、一人のオラトリオが悠々と歩み出てくる。
「宿敵であっても、どんな敵であっても同胞を狙うのならば、反し、討つのみ。倒すべき相手である事に変わりはないのだから……」
真っ直ぐにデウスエクスを睨めつけ、豊間根・嘉久(天ツ空・e44620)は構えた。
(「あっ、これが一番『っぽい』……?」)
という気持ちがよぎったようなよぎらなかったような。
「どうやら来てくれたようだね、皆」
英世は冷静な表情のまま、凶科学式高振動メス《リジル》を構えると、宿敵に殺神ウイルスのカプセルをばらまいた。
●猛攻
「さて、スタイリッシュ戦闘と参りましょうか」
アームドホッパーの足元を灼熱に変え、東西南北は言うも、灼熱から逃れるようにアームドホッパーは跳ぶ。スームカとアドウィクスの噛みつきをも、自慢の跳躍力で振り切った。
「跳んだ……だと!?」
前衛全体を標的にした竜巻の如き回し蹴りを放つデウスエクスに驚愕の声をあげつつも、鬱金はメリーナを庇いに入った。
要のテレビウムである赤提灯と小金井がすかさず前衛をヒールして立て直す。
要自身は壁と天井を使った三角跳び蹴りで敵の体勢を崩しにかかった。その機を逃さず、ガロンドのドラゴニックハンマーが吼える。
すかさずメリーナがナイフ二刀流で踊るように斬り込んでいった。
「タルタロスゥウウ……クラァアアッッッシュ!!」
鬱金の気合がのったか、仲間の足止めが効いたか、あまり期待できる命中率ではなかったはずの鉄塊剣がまともにアームドホッパーを叩き潰す。
大騒ぎの大乱闘をまぶしげに眺め、嘉久は静かに飛ぶ。そしてよろめいているデウスエクスの背へと流星のごとく急降下、回し蹴りを放った。
「星! 重力! ならばロシアのお家芸なの!」
合わせるようにフィアールカが、同じグラビティをアームドホッパーに浴びせた。
退けとばかりにアームドホッパーは、鬱金に真正面から体重を乗せた前蹴りを放つ。
「うぐぉっ」
いわゆるケンカキックが鳩尾に綺麗に決まり、鬱金は吹き飛ぶと、ぶつかった車のボンネットの上でもんどり打った。
英世が駆け寄り、ウィッチドクターならではの妙技で応急処置を施す。
「マフラーの残像が……っ」
「喋れるなら命に別状はなさそうだね。あとはメディックに任せるとしよう」
駆け寄ってきた二体のテレビウムと交代する英世。
東西南北が振り回すチェーンソー剣を巧みに避けたデウスエクスだが、足元に無数にばらまかれるミミック達の黄金に惑わされる。
「よっ、と」
要が車の陰からローキックをアームドホッパーに浴びせる。ジャラジャラと黄金がうるさく響くなか、アームドホッパーはなんとか踏ん張って転倒を逃れつつ、自己修復を図る。
しかしアームドホッパーの背にはガロンドの黄金の爪が突き立っていた。
「こいつでいこうか……」
ルーンを刻んだ黄金爪は、アームドホッパーの復元を阻害する効果を持つ。ぬるりと修復により抜けて落ちたが、今回のヒールの邪魔は成った。
「在るべきように、在らせましょう?」
死角めがけてメリーナの一撃が正確無比に刺さり、再生したばかりの外骨格型装甲がアームドホッパーから飛び散る。
ジジッとまろび出た内部から火花を散らしながらも、尚もアームドホッパーは立ち、鬱金の放った地獄炎弾を避けた。
避けたデウスエクスの先に立つは、嘉久。
「武器は、見た目だけじゃないと思え」
と言うなり、嘉久の構えた零式鉄爪から無数の針が、デウスエクスへと放たれる。
半数は叩き落とされたが半数は刺さった。
アームドホッパーは再度の自己修復を図る――。
●友情
死の淵にて目覚めた零の境地を拳に乗せて、フィアールカはアームドホッパーに殴りかかる。
修復を試みてもすぐにケルベロスに破壊されるアームドホッパーは、すでに捨て身での英世暗殺に方針を切り替えていた。
連発され見切ったはずでもなお十分に当たる蹴りに、英世は到底避けきれぬことを悟る。
「英世さん! ボクのワイルドハントに駆けつけてくれたご恩この身に代えてもお返しします! ……うぐぁあっ」
少し不格好なバク転で、東西南北は英世の前に飛び出すと、まともにアームドホッパーの雷撃を思わせる蹴技を代わりに食らった。
眼の前が弾けるほどのクリティカルヒット。
「う、うう……こ、ぉんの……ボクの拳が炎と燃える……!」
音速の拳で反撃するも、東西南北はぐらつく視界に頭を抱えた。
英世が気遣わしげに視線をよこすのに気づき、東西南北は無理に微笑んで見せる。
英世は、メディックに自分の盾になってくれた少年を任せることにした。
「雷電の閃光天に轟き! 一千の刃地を穿つ! 行け、貴様の声で客席を焼け野原にして来い!!」
鬱金が東西南北に放った癒やしの稲妻による閃光を背に浴びながら、英世はリジルを振るう。
「私も君もどれだけ血の大河、死の荒野を越えてきた事か。だが今、私が倒れる訳にはいかんのだよ」
睨めつける英世に、アームドホッパーはただ視線を向ける。その視線には嘲りの色があった――たった一体を相手に大勢でかからねばならない程に定命化によって弱くなった英世への、ひいてはケルベロス全てへの嘲笑の色が。
要はその色の意味を悟り、しかし笑う。
「……上等だ。あたしらは友人を助けに来たんだからね。孤独に戦うヒーローである必要は無いのさ」
言うなり、要は鎌のように鋭い蹴りをアームドホッパーの首めがけて放つ。
ガロンドはミミックが作ってくれた槍で鋭く重くデウスエクスを貫く。
槍によって串刺しになったダモクレスにメリーナは死を舞ってやる。めちゃくちゃに切りつけられ、金属片が火花を伴って無数に飛び散る。
嘉久の遣わしたファミリアの鶯がデウスエクスに叩き落とされる。
そしてアームドホッパーは、ぐうっと腰を低めたかと思うなり、英世めがけて高らかに跳んだ。
「させない!」
メリーナは鬱金に視線を送りながら跳ねた。万事心得たとばかりに、鬱金は鉄塊剣の巨大な刃で旅役者の足裏を剛力で上へと跳ね上げる。
「行って来い大霊界!!」
「どっせーい!!」
空中でアームドホッパーと邂逅したメリーナは、エアシューズに包まれた足に渾身の力を込め、蹴り落とす。まさにシューティングスター。
「――皆さん、今ですっ!」
今こそ、ヒーローショーで学びしヒーローの技を放つ時。
要は、仲間に目配せをして、ジャンプする。同時にガロンド、鬱金、そしてフィアールカが跳んだ。
全員で天井を蹴り、急降下。
「喰らえ、旋刃脚!」
「ファナティックレインボー!」
「スタァアアアアッッゲイッザアアアアアアアアア!!!」
「これなるは女神の舞、流れし脚はヴォルガの激流! サラスヴァティー・サーンクツィイ!」
フィアールカのグラビティで舞う地吹雪の中、四人の千種万様なるキックが、アームドホッパーを踏み潰す!
派手な合体技を嘉久は目を細めて眺め、未だ動こうとするデウスエクスに眉をひそめると、雨針を見舞った。
「これ以上の抵抗は無粋だ。……俺も派手な攻撃をするべきだったかもしれないが、助太刀でご容赦を」
針で動きを止められたアームドホッパーの前に、英世が立つ。
「心に想う人、そして共に戦う仲間が居る。スペックの差などそれで充分に覆せるのだよ」
東西南北が伸ばす二重螺旋のケルベロスチェインを中心に広がるは不死鳥の如き焔。
「英世さん、アナタこそヒーロオブヒーローだ! さあ、いってください!」
頷き、炎を背負いながら英世は詠唱する。
「凶空領域、発生。 ――お見せしよう、我が渾身の秘儀・秘術を」
コンクリートの筈の地下駐車場の天井が、蕩けるように昏い異空結界へと姿を変える。
カラミティ・メテオ・ブレイク――アームドホッパーの上に無数に降り注ぐ隕石が、デウスエクスの動きを止める。
その中心へと英世は会心の蹴りを放った。
ぱりんと何かが破壊される音がして、蝗型機兵アームドホッパーは活動を完全に停止。
次の刹那、大爆発を起こして霧散した。
●終劇
シュウシュウと黒い焼け跡からあがる煙は、まるで荼毘のそれ。
その煙を眺めながら、英世は感慨に浸る。
運命が少しでも変わって、彼がデウスエクスのままであれば。今此処で討伐されていたのは自分自身だったかもしれない――。
しかし、英世は今、心を持つレプリカントになっている。そのきっかけをくれた者、そしてこうして彼のピンチに駆けつけてくれた者がいる。
(「こう居られる事に、感謝を」)
目を閉じ、英世は『今』への謝意をつぶやいた。
「浜本、そのダモクレスは一体何者だったのだ」
鬱金が英世に歩み寄りながら尋ねる。英世はそれに答えようとし……しかし、鬱金自身がその返答を止めた。
「否、その答えを探すため、ケルベロスは今日も戦うのだな」
「……そういうことにしておこう」
英世は苦笑し、頷いた。
「惜しい怪人でした」
東西南北はそう言いながら、めちゃめちゃになってしまった地下駐車場のヒールに励む。
「皆、無事でよかったね」
じわと涙ぐみながら、要もヒールを行う。ここに海月丸で乗り付けることが出来ていたら、きっと海月丸もこのガロンドのバイク同様、少しファンシーになる運命であったろう。
ガロンドはファンタジックな乗り物になったバイクを見下ろし複雑な表情だ。乗り捨てるつもりで来たのであまり心は傷まないが、愛車だったらもっと辛かったろう。
その様子を眺め、最近ケルベロスに目覚めたばかりである失伝者の嘉久は、疲れたような憂いの表情のまま、しかし心に埋火のごとくある憎悪という炭で燃える闘志はそのままに思う。
(「ケルベロスという存在は頼もしい……」)
メリーナが朗らかに英世に声を掛ける。
「英世さん、覚悟して下さいね? 帰ったら修理依頼したいブツがたっくさんあるんですからねー!」
英世は頷いた。さあ、日常に帰ろう。
作者:あき缶 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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