軟弱な雛祭絶対許さない明王出現!

作者:秋津透

 岐阜県可児市郊外のショッピングセンター。
 ここでは、バレンタインデーのチョコ商戦が終わった後、ホワイトデーに移行せず、中央ホールに大きな雛壇を設置し、大きな雛人形を飾っていた。まあ、大きい分、まったく精緻なものではなく、金紙を貼った段ボールの屏風の前に、デフォルメされた張りぼての内裏雛一対と同じく張りぼてのぼんぼり一対、商品の菱餅と雛霰、白酒などを盛った大鉢が置いてあるだけなのだが。
 ここにも、ザ・クレーマー、はた迷惑デウスエクス、鳥人間ビルシャナはやってきた。
「我こそは、雛祭なんていう軟弱な祭り絶対許さない明王である!」
 ショッピングセンター正面に車を突っ込ませ、信者とおぼしき三人の男を従えて乱入してきたビルシャナは、翼を広げて耳障りな大声で叫ぶ。
「ここ、美濃の国可児の郷は、かの英雄豪傑可児才蔵を生んだ尚武の地! よりにもよってその土地で、軟弱な公家のお遊び行事、雛祭をアピールするとはどういうことか! 武士の魂を持つ美濃人を堕落させようという、後白河法皇の陰謀か! だいたい雛祭なんぞは、女児のいる家の中だけで、女子供が私的にうじうじやっておればよいのだ!」
 このような人目につく所へ、巨大化してしゃしゃり出てくるとは、もっての外の身の程知らず、天誅を下す、と言い放ち、ビルシャナは雛壇へと孔雀型の火炎を叩きつける。
 哀れ、張りぼての雛人形は一瞬にして火炎に包まれ、そのまま中央ホール全体へと炎が広がる。ビルシャナの乱入自体を気付かずにいた大勢の買物客が、パニックを起こして逃げ惑う。その中で、ビルシャナの哄笑だけが耳障りに響く。
「かっかっかっか! 軟弱な雛祭の形代などは、潔く燃えて灰になってしまえ! どうせ雛祭が終われば、川に流されて環境汚染の原因となるだけなのだからな!」
 ……いや、それ、いろいろ間違ってるから。

「今度は、雛祭なんていう軟弱な祭り絶対許さない明王……本当に、アホなビルシャナの種は尽きないとしか言いようがない」
 呆れたとも怒っているともとれる口調で、ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056) が唸る。
 そしてヘリオライダーの高御倉・康が、真剣な口調で続ける。
「岐阜県可児市のショッピングセンターに、えー、『雛祭なんていう軟弱な祭り絶対許さない明王』と名乗るビルシャナと信者三名が現れ、中央ホールに設置されていた張りぼての雛人形を焼き討ちし、そのままセンター自体に火災を広げて大惨事を招く、という予知が得られました。ビルシャナは人だかりを襲うのではなく、雛人形が許せないらしいので、既に避難勧告を出してショッピングセンターを無人にするよう手配していますが、だからといって放置はできません」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。ショッピングセンターの構造図が、こっちです。本来、車で来た買物客は、駐車場に車を止めてそちら側から入るのですが、ビルシャナ一味はお構いなしに、中央ホールまで直接突っ込んできました。現状、中央ホール入口には臨時休業の張り紙が出してあり、自動ドアがロックされている状態ですが、ビルシャナ一味はまったく気にせず突っ込んでくると予想されます。ですから、中央ホールで待ち構えるのが確実と思いますが、建物の破損や万一の放火を気にするなら、ビルシャナ一味の車がセンター敷地に入ってきてからホール入口に突っ込んでくるまでの間に、強制停止して対決する、という方法もあります。臨時休業のショッピングセンターには一般の車も入ってこないので、捕捉は可能だと思いますが、どの入口から敷地に入ってくるのかはわかりませんので、ある程度の手配は必要でしょう。皆さんの現場到着は、ビルシャナ一味突入予知時間の三十分前なので、手配を行う余裕はあると思います」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「ビルシャナのポジションは、おそらくクラッシャー。使用グラビティは孔雀炎のみが予知で確認されています。配下三人は、黒いスーツ姿の壮年男性。ビルシャナを車に乗せて同乗してきた以外には何もしていないので、どの程度ビルシャナに同調しているのかはわかりません。経験則として、説得・離脱させられないうちに戦闘になったら、ディフェンダーとして盾に使われるものと思われます」
 そして、康は小さく溜息をつく。
「いったい何がどうなって、こんな変な教義を奉じるに至ったのかわかりませんが、ビルシャナになってしまった人は倒すしかありません。できるだけ、他に被害や悪影響を与えないうちに、撃破していただければと思います」
 そう言って、康は頭を下げた。


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
戒業・誠至(地球人の鎧装騎兵・e40810)
ルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)
獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)
宇宙・大将軍(初心者・e46530)
ヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)

■リプレイ

●ビルシャナ襲来
 岐阜県可児市郊外のショッピングセンター中央ホール前、入口の外にある広場のようなスペース。
 普段なら、出入りする人で終日賑わう場所だが、ビルシャナの襲来が予知され、センターは臨時休業、関係者を含めすべての人が避難退避した現状では、ただがらんとしている。
 そこへ到着したケルベロスたちが、ビルシャナ一味を迎撃すべく、用意を始める。何人かの者は、用意した誘導看板等を持って、構内に分散する。
「結局、ビルシャナたちの車がどこから入ってきても、最終的にはここに来る……か、来る前に止められるか、どちらかになるわけですよね?」
 なぜかビルシャナに標的と定められた大きな張りぼての雛人形を、軽々とホールから外に出しながら、ヤクモ・プラブータ(似非巫女オウガ・e50398)が訊ねる。
 ちなみに張りぼて雛人形は大きさに比してごく軽いが、たとえ少々重かったとしてもヤクモにとっては同じこと。彼女は、つい最近定命化してケルベロスとなった剛腕種族オウガの一員で、非グラビティの一般物質なら何と100トンまで単身で扱える。
「……そうだね」
 逸見・響(未だ沈まずや・e43374)が、思案顔でうなずく。
(「早く止められれば、それ越したことはないだろうけど、最終的にここで止められれば、屋内に被害を及ぼすことはない」)
 雛人形も、パネル等で代用できればと思ったが、そこまでの余裕はなかったな、と響は肩をすくめる。
 すると、その時。
「正面三番入口、車が突っ込んできた! たぶんビルシャナ! 止めて!」
 全員の通信機器に、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)から急報が入る。
 そして、ほとんど同時に、中央ホール前スペースに、凄い勢いでワゴン車が突っ込んでくる。
「ぬおおおおおおお!」
 気合声をあげ、宇宙・大将軍(初心者・e46530)とサーヴァントのテレビウム『金城先輩』がいち早く突進、スマホの急報受信操作に手間取り響の手を借りたヤクモが、少々遅れて続く。
 響とルエリラ・ルエラ(幸運エルフ・e41056)ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)は、二人が躱された時に備えて、雛人形の前で状況を見る。
 車は、魁偉な姿の大将軍に気づいて急ハンドルを切り、かろうじて避けたが、元の方向へ戻ろうとした途端、巫女服姿のたおやかな女性にしか見えないヤクモに、軽く片手で止められた。
「!?」
「ここまでです」
 ヤクモはそのまま、ひょいと車を持ち上げる。タイヤが空転し、車の中から、ぎゃーとかぎょえーとか恐怖の叫びがあがる。そしてドアの一つが開き、鳥人間ビルシャナが飛び出してきた。
「おのれ、女! 貴様、只者ではないな! 名を名乗れ!」
「はじめまして、ヤクモです」
 片手で車を持ち上げたまま、ヤクモは平然と名乗る。
「そういう貴方は、どなたです?」
「我は、雛祭なんていう軟弱な祭り絶対許さない明王! かの、忌まわしき出しゃばり大型雛人形に天誅を加えに来た!」
 ビルシャナが名乗ると、大将軍が負けじとばかりに名乗りをあげる。
「そして、わしが宇宙大将軍じゃ。えらいんじゃ」
「宇宙大将軍? そのバカげた称号、どこかで聞いたことがあるな」
 ビルシャナは大将軍へと視線を向け、胡散臭そうな声を出す。
「おお、そうだ! あれは古代中国、梁とかいう国で反乱を起こしたコーケー……侯景とかいう奴が名乗った称号だ。それも、敵国で反乱を起こして失敗し、命からがら梁に逃げ込んで皇帝に重用してもらったというのに、増長して梁でも反乱して大恩ある皇帝を監禁悶死させ、傀儡皇帝を立てて自分は宇宙大将軍を称して威張り散らしたという極悪非道、鬼畜馬鹿っぷりで有名だったぞ!」
 そしてビルシャナは、ぽんと両手羽を叩いた。
「しかも、一年ほどで傀儡皇帝もぶち殺して自ら皇帝を名乗り、たちまち討伐を受けて半年ももたずに惨敗、部下に殺され首はさらされて身体は八つ裂きという惨めな最期をとげたのだが……お前、そんな奴が使ってた称号だって知ってて、宇宙大将軍を名乗ってるわけ?」
「……ぐぬぬ」
 まくしたてられ、大将軍は呻く。
 一方ヤクモは、持ち上げたままの車から信者たちが出てこないので覗き込んでみると、気絶してたりがたがた震えてたりで、すっかりビルシャナに従う気をなくしているようだ。
「い、命ばかりは、どうかお助け~」
「安心してください。今、下ろしますから、安全な所へ逃げてくださいね」
 できるだけ穏やかに告げると、ヤクモは数歩歩いて、ビルシャナとは反対側に車を下す。転がるように出てきた三人の黒いスーツ姿の男性は、ヤクモと、既にビルシャナを包囲する位置に布陣しているケルベロスたちにぺこぺこ頭を下げ、その場から逃げ出す。どうやら、教義に同調して信者になっていたのではなく、妖力で惑わされていただけの人々だったようだ。
「さて、と。信者は正気に返って逃げた、と」
 別の入口から駆けつけてきた獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)が、ビルシャナと大将軍の方を見やって呟く。
「あとは、問答無用でビルシャナを叩きのめせばいいんだろ?」
「そうだな。言ってやりたいこともあるが、それは戦闘中に言えばいい」
 やはり別の入口から急行してきた戒業・誠至(地球人の鎧装騎兵・e40810)が、流していた髪を後ろにまとめながら険しい表情でうなずく。
「さっさと、始めよう」

●ビルシャナ討伐
「とにかく、べらべらしゃべる余裕なくしてもらお。ウザいから」
 言い放つと、エルネスタがいきなりオリジナルグラビティ『穿鵠御霊箭術(センコクゴリョウセンジュツ)』を発動させる。
「みたまさんおねがい!」
 愛用の縛霊手『エルのミシンハンド56.75』より御霊を載せた針を発射し、敵の急所を衝く。容赦ない一撃は、大将軍の名乗りにケチをつけて勝ち誇っていたビルシャナの隙を見事に突いた。
「ぐぁお!」
「戦国武将の可児吉長さんをリスペクトしてるらしいけど、武家なら娘のひな祭りくらい豪勢に上げないと、家名に傷が付いちゃう。吉長さんは主家の福島さんの所のひな人形を燃やしたりしたのかなー?」
 喉から血を噴いて悶絶するビルシャナに、エルネスタは意図的に軽く言い放つ。
 するとビルシャナは、もはや意地で言葉を絞り出す。
「福島……正則が雛祭をしたかどうか知らんが、やったとしても家の中で、女子供が私的にやっただけだろう。福島の女房は家康の養女で、正則は頭が上がらなかったとかいうが、それでも可児才蔵が憤慨して退転するようなことはなかったのだから、表で見苦しい真似はしなかったのだろうよ」
 そう言って、ビルシャナはげほげほと血を吐きながら続ける。
「武家が雛祭で見栄を張るようになるのは、武家が軟弱化して堕落した江戸時代も中期以降だ。それでも幕府は、雛人形が贅沢に過ぎると規制をしている。こんなバカでかい雛人形は、軟弱が幅を効かせる江戸時代でも規制対象だ」
「ダメージを受けているのに、なんだか妙に元気ですね」
 ミリアが首を傾げ、これまた早々とオリジナルグラビティ『病魔の弾丸(ビョウマノダンガン)』を放つ。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
「ぐえっ!」
 ミリアは過去に捕えた『デウスエクスの力』を、病魔の弾丸として射出、ビルシャナに撃ち込む。ビルシャナの嘴から、更に大量の血がどばっと溢れる。
 そしてルエリラも、オリジナルグラビティ『幸運の矢Ⅴ(コウウンノヤ・フュンフ)』から攻撃を開始する。
「私に出会ったのが運の尽き。さようなら。ここがあなたの終着点」
 宣告とともに、巨大な雷の矢が光の弓から放たれる。胸を射抜かれたビルシャナは、雷撃パワーを受けて悶絶する。
「ぐわがが……」
「雛祭が終われば雛人形が川に流される、か。なるほど、確かに雛祭の原点である上巳の節句では草やわらで作られた人形を流していた」
 にこやかに告げながら、晴人がビルシャナに歩み寄る。
「でも川を汚してしまうということで流すのをやめて、人形を飾る「雛飾り」に変化していったんだ。せっかく環境を汚さないよう飾り付けた雛人形を燃やして灰にするなんて、君たちのほうが環境汚染してるんじゃないかなぁ?」
「雛祭の変遷など、知ったことか……だが、もともと厄を肩代わりし払うための人形を、しまい込んで毎年飾る方が愚の骨頂……厄を溜め込むばかりではないか」
 まだ意地を張る気力があるのか、ビルシャナは血を吐きながら言い放つ。
「……焼くのが環境汚染? ならば、ゴミは、厄は、汚れはどう処理する気だ。埋めるのか、仕舞い込むのか……いずれも後世に禍を残すばかり。焼け、焼くのだ。できる限り高温でな。そして、真っ白な灰にしてしまえ」
「ふぅん……」
 肩をすくめた瞬間、晴人の姿がばらばらっと十人ほどに増える。
「な、なっ!?」
「さて、本当の僕はどこかわかるかな……?」
 無雑作に告げると、大勢の晴人「たち」は一斉に一対の零式鉄爪『機構爪『雷牙』』と『兎龍爪』を装着、四方八方からビルシャナに襲い掛かる。
 晴人のオリジナルグラビティ『Echoes(エコーズ)』は、立体ホログラムによる分身を大量に発生させ、虚と実の入り混じった攻撃を連続で仕掛ける。勘の鋭い相手には、ビハインド『夜明けの口笛吹き』まで絡めてフェイントに使うことがあり、そうなると両方躱すのはまず不可能だが、この相手に、そこまですることもない。
「ぐぶっ!」
 零式鉄爪で首脇を抉られ、ビルシャナはまたも血を吐く。そこかしこに血だまりが生じ、屋外戦にしといてよかった、と、エルネスタが声には出さず呟く。
 そして誠至が、厳しい口調で言い放つ。
「庶人の憩いの場を破壊し、危害を加えようという時点で、お前の言う武士の魂は其処には既に無い。武士を名乗り、尚武の気風を尊ぶならば、私心無く弱者を護るのが正道であろう。それを忘れて恥もせず、なおかつ己の欲望のままに破壊し、弱者を甚振ると言うならば、武士ではなく悪党だとでも名乗るが良い!」
「笑わせるな、傷に響く……坊やが夢見る『私心無く弱者を護る』武士など、其処にも何処にも、歴史上存在したためしがない。存在したのは、すべて悪党だ。自分の権益、血族の権益、盟した仲間の権益を、きれいごと抜きの断固たる力で確保する。それこそが武士だ」
 そう言って、ビルシャナはごふっと血を吐く。
 誠至は眉を寄せ、雷電を放つ。
 続いて響が、硬い口調で言い放つ。
「雷滅する……」
 オリジナルグラビティ『雷電鳴リ響クガ如シ(ライデンナリヒビクガゴトシ)』を発動させ、響はビルシャナに雷撃魔法を連続して叩きこむ。
「なぜ! 軟弱を! 雛祭を! 平和を! 憎む! 武士は! 好きで! 修羅に! 身を! 置いて! いる! のでは! ない! 鬼武蔵の! 嘆きを! 知らんとは! 言わせんぞ!」
「ぐ……痛いところを……」
 絶え間ない雷撃に身悶えながら、ビルシャナが呻く。
「……鬼武蔵? オウガの剣豪か何かですか?」
 ヤクモが訊ねると、エルネスタが首を横に振って答える。
「いいえ、勇士がひしめく織田家中でも、随一の武豪として織田信長に愛された美濃金山の森長可……森武蔵守のことよ。その武勇は絶倫、武勲は数知れない一方、短気で粗暴、癇癪持ち、喧嘩で殺人沙汰を起こしたり、役目で検問をしようとした関守や橋守を斬って捨てたこともある。当然、問題になるんだけど、主君の信長が許しちゃうんでお咎めなし。斬られた人は斬られ損」
「そ、それはちょっと……でも、なんでそんな人が嘆くんです?」
 訊ねるヤクモに、エルネスタは哀しげに答える。
「鬼武蔵さんは、織田信長が亡くなった本能寺の変の時、征服地の信濃にいたので、大変な苦労をしたけどなんとか美濃に帰ってくることができた。でも、愛してくれた主君も、森蘭丸をはじめとする弟たちも、みんな本能寺で討ち死にしてしまった。鬼武蔵さんは、そのあと豊臣秀吉に仕えるんだけど、徳川家康との決戦に出ることになって、戦陣から奥さんに手紙を送るの。それが遺言状で、自分の死後は領地をどうしろ、茶器をどうしろと指示しているんだけど、その中で、娘は武家に嫁がせず、京都の町人で医師のような人物に嫁がせてほしいと言っているの」
「え?」
 ヤクモは目を丸くし、エルネスタは続ける。
「鬼武蔵さんの奥さんは、池田恒興という織田家の重鎮武将の娘で、いわば当時の武家のトップクラスの家なのに。その娘は、京都の町人、お医者さんに嫁がせるようにと。そして、その後の、豊臣と徳川の決戦で、鬼武蔵さんも奥さんのお父さんの池田恒興さんも、戦死しちゃったのよ」
「……つまり、鬼武蔵さんは、娘さんには奥さんのような苦労はさせたくなかった……」
 ヤクモが呟くと、雷撃に散々打ちのめされたビルシャナが、苦しげに口を入れる。
「いや、それは鬼武蔵とまで呼ばれた剛毅な武人の、最後の最後に出てしまった弱気……逆に、そのような弱気が出る状態だったから、敗戦、戦死の憂き目を見るにあたったとも言える」
「でも、最後の最後に鬼武蔵さんが後事を託したのは奥さん、気を使っていたのは娘さんの嫁ぎ先。きっと、娘さんが育っていくうえで、ご夫婦で雛人形に娘さんのすこやかな成長の願いを籠めたこともあったと思う。それを貴方は軟弱というの?」
 エルネスタに突っ込まれ、ビルシャナは呻く。
「それは……それは……」
「武士も、やはり人間。我々オウガのように、武のみを専一に極めたがる者ではない。ならば、英雄豪傑といわれる人々は、弱い人の願いを受け、乱世を収めて治世にする人々。その人たちの頑張りで、女子供の雛祭が賑々しく行われるようになったのですから、雛祭を否定するのは、貴方の尊敬する英雄豪傑さんたちを否定することになりませんか?」
 そう言うと、ヤクモは両腕を形成するワイルドウェポンを合一、巨大な拳を形成する。
 別に、オリジナルグラビティでも何でもないのだが、あまりに「嵌る」攻撃ギガントナックルを、ヤクモは容赦なくビルシャナに叩きつける。
 そして、棒立ちになったビルシャナを、大将軍が攻撃する。
「他の宇宙大将軍など知らん。ただ、わしが、わしだけが宇宙大将軍なのじゃ。えらいんじゃ」
 訥々と呟くと、大将軍はコアブースターからビームを放ち、同時に『金城先輩』が凶器で殴る。
 すると満身創痍のビルシャナは、ばったりと倒れて絶命した。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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