理想のサバット使い

作者:なちゅい

●サバット使いの技を奪って……
「やっ、はああっ!!」
 奈良県の山奥、そこでは1人の男性が鍛錬に励んでいた。
 大学院生である伊藤・誠志郎は格闘技、サバットを修めている。シューズを使った蹴技をメインとしたもので、靴底の堅いシューズが特徴的だ。
 存分に己の技を磨くには人のいないところの方がやりやすいと考え、誠志郎は時折、短期で山篭りをしているようだ。
「やっ、はあっ!!」
 叫び、蹴りを繰り出す彼の前に、木陰から現われたポニーテールの少女、幻武極がゆらりと現われて。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「……はああっ!」
 それまで、自身の意志で蹴りを放っていた誠志郎は操られるように、幻武極へと蹴りを繰り出す。
 対する幻武極はいとも簡単に、その攻撃を躱し続けて。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれなりに素晴らしかったよ」
 一通り技を見極めた幻武極は虚空より取り出した巨大な鍵で、誠志郎の胸を貫いた。
「ぐあっ……」
 前のめりに地面へと崩れ落ちた彼だったが、その体にはなぜか外傷が全くない。
 しかし、そばにはいつの間にか、誠志郎とほぼ同じ背格好をした男性が現われていて。
「さて、どんなものかな」
 早速、幻武極は腕試しと、そいつに拳を突き出す。
 それを男性は拳で受け止め、蹴りで応戦する。それらの技は互いにモザイクで包まれていた。
 一通り、相手の技を確認した幻武極は構えを解いて。
「お前の武術を、皆に見せ付けてきなよ」
 それに応じて頷いた武術家ドリームイーターは背を向け、山を降り始めたのだった。

 続く、幻武極による武術家襲撃事件。
 新たな事件が、アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)の一言で予見されることとなる。
「幻武極がサバット使いの武術を試すんじゃないのか?」
「……うん、そのようだね」
 ヘリポートにはすでにケルベロス達が集まっており、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がその事件の予知を完了していた。
「ドリームイーター、幻武極は自らに欠損した『武術』を奪い続けていて、モザイクを晴らそうとしているようだね」
 今回奪った武術ではモザイクを晴らせなかったようだが、幻武極は新たに武術家ドリームイーターを生み出し、そいつに暴れさせようとするらしい。
 現れる武術家ドリームイーターは、襲われた武術家が目指す究極の武術家としての技を使う。それもあって、かなりの強敵となるだろう。
「幸い、武術家ドリームイーターが山道を降りる途中で迎撃できそうだね」
 人が少ない場所での戦いとなる為、周囲の被害を気にせず戦うことができる。積極的にドリームイーターの撃破へと動きたい。
 現れる武術家ドリームイーターは、タンクトップに長ズボン、堅い靴底のシューズを履いている。
 その姿は今回襲われる武術家とさほど変わらぬ見た目だが、繰り出すサバットの技は全てモザイクに包まれているようだ。
 とある山小屋で鍛錬していた武術家から生まれたドリームイーターは、己の技を他人に見せ付ける為に住宅街の中央を目指している。
「戦場想定場所は、奈良県某所にある山道だね」
 山小屋から住宅地までの間はかなり距離がある為、ドリームイーターがすぐ住宅地に到着する状況ではない。
 また、この場所はほとんど人通りのない場所だ。
 山の麓から山小屋を目指して歩いていけば、武術家ドリームイーターと出くわすことができ、戦後のヒールだけで人的被害を考慮せず戦えるはずだ。
「ドリームイーターを倒した後は、武術家を発見してフォローを頼むよ」
 暦上では春になってきているとはいえ、まだまだ寒い中だ。彼の体を温めつつ介抱、事情説明などしてあげたい。
 もし、武術家が動ける状況であれば、実際に技を見せてもらうこともできるかもしれない。
「サバットって、足を高く上げて攻撃するんだよね。ボクには難しいかな……」
 そもそも、戦いの経験のないリーゼリット。しかも、スカートではさすがに予知の真似もできない。
 敵のグラビティはアンナらケルベロスに協力してもらいつつ、実演してもらいながら説明した形だ。
「以上だね。……技を奪われた当人の為にも、ドリームイーターの討伐を頼むよ」
 最後に、彼女はケルベロス達へとそう願うのである。


参加者
蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)
テンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
御門・愛華(獄竜の疑似ドラグナー・e03827)
草間・影士(焔拳・e05971)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)

■リプレイ

●サバットという武術
 奈良県の山奥。
 ケルベロス一行は山道を歩きながら、討伐対象を探す。
「ドリームイーターさんやっつけるんよー!」
 森で育った兎少女、シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)は見慣れた木々の中での依頼とあって、元気にはしゃぐ。
 その討伐に当たるメンバー、そして今回の被害者をフォローしようと、白狐の人型ウェアライダー、蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)は様々な準備をしてこの地にやってきている。
「そばっと……? はよくわかんないけど、キックなんやね。キックならシンシアも得意なん!」
 なんか美味しそうだと告げたシンシアに、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は優しくサバットだよと教えて。
「……え、さばっと?」
「サバット……って、あんまり聞いたことなかったなぁ」
 ほのかに笑う着物姿の陽葉は、そんな格闘技もあるんだと興味を抱いていたようだ。
「武術家とかカッコいいよねぇ」
 そう呟く、自宅警備員のグレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)。
 やや緩い雰囲気の彼にとって、格闘技は縁遠いものだと認識しながらも、格闘ゲームを思わせる為か憧れは持っていたようで。
「故に……、強そうだねぇ……。覚えて帰れそうな技とかあったら覚えたいねぇ」
「サバットか。あまり縁がなかったが」
 周囲の警戒を強める草間・影士(焔拳・e05971)。
 己の拳一つで戦いを挑む影士にとっても興味深い武術。今回はしっかり見せてもらおうと考えている。
 やがて、山道の向こうから歩いてくる青年の姿を、一行は発見することとなる。
「基本的に周囲の事や、一般人の安全、説得とか考えなくて良いって最高だな」
 身構えるフィルムスーツ姿のテンペスタ・シェイクスピア(究極レプリカントキック・e00991)。
 被害者のフォローこそ後に必要だろうが、ここはほとんど通行人のない場所。
「考えずにフィーリングで戦う、レプリカントの技のキレを見せてやる」
 まさに脳筋プレイといった戦闘スタイルのテンペスタである。
 その間、近づいてくる武術家ドリームイーターの前に、御門・愛華(獄竜の疑似ドラグナー・e03827)は立ち塞がって。
「貴方の相手は私達ケルベロスです。これ以上、ここから先には行かせません」
 私達がいる限り、犠牲者は出させない。この手で守ると告げる愛華に対し、相手も無言で身構える。
 サバットの構えをとる夢喰いの姿に、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は同い年の婚約者の姿を重ねる。
「なんとなく、親近感を覚えてしまいますね」
 森を守護する一族の次期族長として、厳しい教育を受けてきた那岐。
 彼女の剣の師匠兼婚約者も蹴り技も得意としており、近しい感情を抱いていたのだ。
「サバットの洗練された技は、武術の家育ちとしては興味があります。いざ、勝負です」
 山道周辺に殺界を展開していた那岐も応戦の態勢をとると、陽葉もこれで戦闘に集中できると冷静に相手を見つめて対峙する。
 静葉も相手の出方を伺いながら、サバットというのが古代ギリシャのキックボクシングから発展した武術だという話を思い出して。
「ボックス・フランセーズ以外にラ・カンやリュット・パリジェンヌも使うのかしら」
 そんなことを考える巫剣士といった出で立ちの静葉は、後方から仲間の回復支援にと立ち回る。
「此度も皆様を支えましょうか」
 その手前では、影士が相手に声をかけていて。
「話に聞いた武術使いとやらか。その技。見せて貰うとしよう」
 ワイルドな態度で、影士は相手を挑発していく。
「此処で使うのがお前にとっては最後の技だ。気を抜くなよ」
 すると、ならば見せてやろうと言わんばかりに、夢喰いはモザイクと共にこちらへと蹴りかかってくる。
「利用され生み出された存在……せめて、この手で安らかに」
 被害者を助ける為、愛華は目の前のドリームイーターを倒すべく、地獄化した上で混沌となった左腕を突き出していくのだった。

●その足技をさばきながら
 前方から襲ってくるのは、サバット使いのドリームイーター。
 モザイク交じりの蹴りを放ってくる相手を、那岐は怪訝そうに見つめる。
 技を研鑽する武術家は、那岐にとって敬意の対象だ。
 その信念ゆえに、一連の事件を引き起こすドリームイーター、幻武極の所業を許せずにいる。
「彼の名誉と誇りの為にも、歪んだ紛い者は倒してしまいましょう」
 相手が蹴りで威嚇してくる中、那岐はその勢いを削ぐべく、蒸気大鎚「クリーヴブレイカー」から蒸気を噴出しつつ砲弾を発射した。
「容赦しません。初めから全力で行きます」
 相手はまだ様子見といった具合だが、愛華は初撃から全力で攻め行く。
 確実にダメージを。彼女はその左腕を鉤爪で強襲する。
「遅いよ」
 その素早い動きに夢喰いは対処できず、刃を受けてしまう。その傷口はグラビティの影響でやや凍りかけていた。
 実戦となれば、グレイシアも凛々しく戦場を立ち回る。
 こちらも火力役ゆえに、命中率を気にしながらも全身を光の粒子に変えて突撃していく。
 自身を含む前衛メンバー中心にオウガ粒子を纏わせるシンシア。
 ぴょんぴょんと戦場を跳ね回る彼女へ、夢喰いはトーキックを見舞ってきた。
 その手前に飛び出てきたのは、シャーマンズゴーストのマー君だ。
「一緒に前衛なんとかするん!」
 強烈な一打を受けてなおマー君はシンシアに従順な態度を崩さず、メンバーのカバーに当たってくれる。
 仲間が傷つけば、すぐ静葉が回復へと動く。
 その腕のオウガメタルが粒子となって仲間をさらに包み込み、感覚を鋭くさせて相手の位置を寄り鮮明に知覚できるようにする。
「君のサバットがどれほどのものか、見せてもらおうか」
 相手の動きを冷静に観察していた後方の陽葉は、狙撃手として阿具仁弓を引く。
 ただ、番えるはずの矢はそこにはない。
「響け、大地の音色」
 陽葉がその弦を鳴らすと、足元が突然砕けたことで夢喰いの態勢が崩れてしまう。
「猛き炎を持つものよ。忌わしき牙を持つものよ」
 そこで、影士が逃がすまいと魔法陣を宙に描くと、その中心から生み出された炎が徐々に毒蛇を象っていく。
「我が命運切り開く為に。その身に宿りし力を以って、喰らい尽くせ、立ち塞がるものを」
 大蛇の姿を取った炎は夢喰いへと飛び掛り、食らいついた。
 外からは炎が、内からは流し込まれる猛毒が相手を蝕み、動きを封じんとする。
 相手が蹴り技ならこちらもと、飛び込んだテンペスタは電光石火の蹴りを相手の体に叩き込む。
 ただ、多少の痺れでは夢喰いの動きは止まらない。
 高く跳躍した敵は横回転し、モザイクに包まれた足の裏で相手の腹を叩き込む。
 プロレスなどでは、ソバットと呼ばれる一撃。それをテンペスタは咄嗟に豚ファーで防いでいた。
 出だしはケルベロスが順調に攻めている。
 だが、武術家ドリームイーターもまた己の技を見せつけようと、ケルベロス達をじっと見つめて機を窺うのだった。

 サバット使いのドリームイーターはケルベロス達の攻めにも臆する様子を見せず、迅速の、かつ強烈な回し蹴りを叩き込んでくる。
 その脚を叩けば、威力が弱まると見た那岐。
 青群竜棍でその蹴りを捌きながら打撃を与えようとするが、相手の足捌きはなかなか弱まる様子はない。
「流石、理想の武術家。単調な攻撃ではすぐ対処されてしまいますね」
 ならばと、愛華はワイルドスペースを纏わせた地獄の左腕にエネルギーを集中させて。
「いくよ、ヒルコ……薙ぎ払え!」
 獄竜の力を竜の吐息となし、愛華は解き放つ。
 力の奔流を浴びた相手はそれを何とか防ごうと両腕で頭を覆う。
「動けなくしてあげるねぇ」
 そこへグレイシアも迫り、全てを凍らせる冷気を放った。
 相手の蹴りを受け止めるシンシアもそこに続いて。
「戦術超鋼拳ってこう、拳法っぽいし……」
 とはいえ、さすがにオウガメタルの状況的に蹴りで出すのは難しかったらしく、シンシアは鋼の鬼となったオウガメタルを拳に纏わせて殴りかかることにしていた。
 その彼女に、静葉は光の盾を展開して援護を行う。
 相手には休ませないようにと、陽葉が流星の蹴りで応戦し、影士もまた刃のようにも思える回し蹴りで相手の動きを制していく。
「さあ、もっと打って来い。自分の武を示したければな」
 夢喰いはその一言に、ほぞをかんでいるようにも見えた。
 一撃一撃の蹴りを浴びせてきているのは間違いないが、如何せんケルベロスの攻めが激しく、そのサバットの攻撃による印象が薄れて見える状況なのだ。
「我が一撃は最強也り!!」
 道路わきの木々を足場に、高々と跳び上がるテンペスタ。
 無駄に洗練された無駄のない無駄なアクションで、彼女は相手の頭上から全力でキックを行う。
 ――その名も。
「究極ぅっ、レプリカントキック!!」
 炸裂した瞬間、閃光が飛び散りそうな鮮烈なる一蹴。
 相手は魂の一部を奪われたような感覚に陥る。その姿は徐々に淡いモザイクが掛かり始めていた。
 そのテンペスタと共に、シンシアはマー君とも協力して相手を押さえつけるが、仲間のカバーも合わせれば、さすがにダメージも重なる。
 終盤になれば、シンシアは満月を思わせるエネルギー光球を放って回復に徹する。ちょっと能天気に見えても、彼女は医者でもあるのだ。
 仲間の傷が深まれば、メインの回復役、静葉も癒しの力を存分に振舞って。
「蒼き月を祀る巫女の原点を此処に。幸福の祈り、信じ合う心、蒼き希望の風と共に汝に届けよう」
 蒼き月の御業で作り出した護符を静葉が仲間に投げ飛ばすと、それを中心として瑠璃唐綿の花弁を舞わせ、傷つくメンバーを癒す。
 前線メンバーの活躍もあって、この場は我流の体術を披露できなさそうだと、静葉は苦笑してしまっていた。
 ある程度、相手のモザイクに包まれた技を見ていた影士。
「確かに早い」
 彼は相手の動きと共にモザイクを発しながら繰り出す蹴りを見つめて。
「だが、足技だと心得て見切れば対処のしようはある」
 その一撃をやり過ごしながら、影士はチェーンソー剣による斬撃を見舞っていく。
 比較的、斬撃が通りやすいと踏んだグレイシアも仲間の足止めに助けられる形で、稲妻を纏わせた氷河を意味する槍「Ghiacciaio」の切っ先を突き入れる。
 すでに、相手の動きは鈍ってきており、那岐も仲間に続いて畳み掛けていく。
「さて、披露するのは我が戦舞の一つ。躍動の風!!」
 軽やかな彼女舞いは空色の風を起こす。
 それを浴びた夢喰いの正面には、陽葉が躍り込んでいて。
「せーの、破っ!」
 素早く踏み込んだ彼女は、オウガメタルを纏わせた手で掌底を叩き込んだ。
 だが、相手は全身をモザイクに包みながらも、己の蹴りを見せつけようと飛び上がる。
 ならばと、愛華は自らの左腕に視線を落とし、獄竜の力を纏う大剣へと変貌させて。
「いくよ、ヒルコ……わたし達の新しい力!」
 素早く刃を一閃させた愛華の一撃。火力特化の一撃には耐えられず、夢喰いは全身をモザイクに変えて霧散していく。
「やれやれ、トドメもってかれちゃったねぇ」
 トドメを狙っていたグレイシアは元のぬるっとした態度に戻り、息をついていたのだった。

●その蹴りを自らの技で
 目の前から武術家ドリームイーターが消え、グレイシア改めて仲間達へと声をかける。
「終わったねぇ。お疲れ様」
 早く帰りたいと考える彼だが、山道へとヒール作業は欠かせないからと仲間と修復作業に当たる。
 とはいえ、他者向けヒールを持たぬグレイシアは、手作業で仲間のサポートに当たっていく。
 陽葉は祝福の矢を荒れた道路へと撃ち込み、テンペスタも後始末をとヒールドローンを展開する。
 幻想化した周囲の木々が武術で使う木人のようになったように見えたのは、気のせいだろうか。

 その後、メンバーは被害者が倒れる山小屋付近へと移動していく。
 2月下旬だと、まだまだ寒い時期。
「寒空の下で倒れていたとなれば、誠志郎さんの体調が心配です」
 すぐに駆けつけて身体を温めなければという、那岐の主張に皆同意し、手早く捜索に当たる。
 倒れる青年、伊藤・誠志郎を発見した静葉。
 戦いの時と同様に彼女が使った護符より舞わせる璃唐綿の花弁の中、青年はゆっくり目を覚ます。
「ここは……」
「こんにちは、気分は大丈夫ですか?」
 問いかけてくる誠志郎に愛華は丁重に挨拶して、自分達がケルベロスだと名乗りながら毛布をかける。
 陽葉もまた上から毛布を被せ、グレイシアはカイロを差し出す。
 介抱する静葉も青年に防水毛布を被せ、水筒に用意してきたハチミツ入り生姜湯を器に注いで誠志郎に渡し、事情を説明した。
「大変な事があった様だが、大丈夫か」
 影士も彼の容態を気遣いながら、先ほどの戦いを絶賛する。
「お前の鍛えた武術、中々のものだった」
「いえ……」
 とはいえ、それはあくまでそれは理想でしかないと、誠志郎が首を横に振る。
 すると、テンペスタが近場の大木を示しつつ、高く跳躍して。
「究極っ!! レプリカントキック!!」
 叫びと共に繰り出す一蹴は、見事に彼の練習用の丸太を砕いて見せた。
「これくらいできるようになってから落ち込め」
 まだまだ、この長く険しいキック坂を上り始めた所だと、テンペスタは熱く激励する。
 その丸太は、再びテンペスタのドローンと陽葉が幻想交じりに戻していたのはさておき。
「まーでも、極めたらこれぐらいできるってことだし、ドリームイーターがやってたぐらいを目標にがんばろ!」
 可愛らしく両手をぎゅっと握り、シンシアは青年を励ます。
「よければ君のサバット、見てみたいな」
 体調が問題ない程度に青年が回復したと判断した陽葉が彼に技が見たいと促せば、グレイシアがやや大義そうに立ち上がって。
「……ちょっとオレに技を……」
「では、失礼して」
 誠志郎は一言断わってから気合を入れ、猛然と蹴りを繰り出す。
「……はっ!」
「おわぁっ」
 眼前に飛んできた蹴りに対処できず、グレイシアは思わず態勢を崩しかけてしまっていた。
 そんな誠志郎の姿を、那岐は見つめて。
(「あの方の武の道を、閉ざさなくてよかった」)
 再びサバットを仲間に繰り出す青年。
 その目指す極みへの可能性が潰れずに済んだことで、那岐は安堵の表情を見せていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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