美緒の誕生日―和と甘味の一時を

作者:柊透胡

「2月といえばチョコレートとか、洋菓子のイメージなんだけど……東京の浅草にね、和菓子ブッフェの催しを見付けたの。ちょっと珍しいし、皆で一緒に行けたらなぁって」
 今日も結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)は、満面の笑みを浮かべている。
 今尚、江戸情緒が色濃い浅草は、和菓子の逸品も沢山ある。そのPRも兼ねて、各和菓子屋の名物が一堂に会したようだ。
「やっぱり和菓子と言えば、あんこよね♪ お汁粉とかぜんざい、あんみつも色々楽しめるのよ♪」
 目玉は東京が発祥のどら焼きで、生地も中身の餡もお店毎で工夫を凝らしているという。
「後は……きんつばとか羊羹。私は栗羊羹が好きよ。お団子なら焼き立ての醤油団子とかきび団子。定番のみたらしや餡団子も捨て難いわね」
 草餅、大福、団子など、所謂「朝生菓子」は、朝1番の出来たてをその日の内に。逆に「戻りが良い」栗饅頭等の焼き菓子は、種と餡が馴染んでくる作った翌日の方がぐんと美味しくなる。何れにしろ、それぞれの菓子が最も美味しい時を見計らって並べられる気遣いが嬉しい。
「上生菓子も絶対外せないわ!」
 匠が煉切りで季節の風物詩を描く上生菓子は、目にも口にも美味しい名作ばかりだ。今の季節だと寒椿や梅等の冬の花、来る春の芽生えを待ちわびるような作風が多い。
「お饅頭や大福だけでも、種類が沢山だものね。食べ過ぎに注意しないと」
 和菓子も様々。ラインナップは所謂「生菓子」が多いが、「半生菓子」や「干菓子」もそれなりに。餡子が苦手な人もいるだろうが、カステラや人形焼、金平糖や有平糖、おこしやあられ、煎餅もある。
「色々と召し上がって戴けるよう、どれも小さめのサイズだそうです。飲み物もお抹茶を始め、煎茶や深蒸し煎茶、玉露、玄米茶やほうじ茶、番茶と色々な日本茶が用意されています」
 日本茶と言えば緑茶だが、その製法や茶の部位で味わいも異なってくる。お茶の飲み比べ、和菓子の食べ比べで、自分にとってベストな組合せを探すのも楽しいだろう。
「まあ、小さいサイズは嬉しいわねぇ……和菓子もお茶も大好きだけれど、この頃食が細くなってしまって」
 いっそマネージャーの風情な、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)の捕捉に、貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)もにこにこと。美緒もちょっぴり残念そうにうんうんと頷く。
「盛り沢山みたいだから、流石に全種類制覇は難しいかなぁ……オススメがあったら、私にも教えてね♪」

「……当日、2月26日は結城さんの誕生日ですね」
 美味しいお誘いをして席を立った美緒を見送り、ケルベロス達に向き直った創は、静かに口を開く。
「確か19歳……ドワーフの方は判り難いですが、成人まで後少し、でしょうか」
「あらあら。だったら、お祝いしないと」
 ケルベロスとなって間もない梓織は、年若い友達のお祝い事に嬉しそうだ。
「ああ、でも……当日は和菓子のパーティみたいなものだし、改めてお誕生日会というのも、大仰かしら」
「何にせよ、好き『サプライズ』は、嬉しいものではないでしょうか」
 年頃の女の子らしく、綺麗なもの、可愛いもの、甘いものが大好きな美緒。サプライズには、きっと照れながらも喜んでくれる筈。
 19回目の誕生日を、美緒は「皆で一緒に」過ごしたいと願ったのだから。


■リプレイ

●和花さざめく
 2月26日、東京は浅草――今尚、古き好き江戸の風情漂う界隈に佇む老舗のホテル。
 『浅草和菓子尽くし』と銘打たれた会場には、一口サイズのどら焼きや彩りも美しい上生菓子、ころんと愛らしいお饅頭や大福、品よく小ぶりに分けられたカステラ等々、様々な和菓子が並ぶ。
「ほわぁ、和菓子がいっぱいなんよ」
「こんなに揃っていると壮観だな」
 紅玉の瞳がキラキラと。あどけなく鈴代・瞳李の手を引く巽・椿姫。
「瞳李お姉さん、どれも美味しそうなんよ」
「椿姫、慌てなくても和菓子は逃げないぞ?」
 和菓子尽くしの光景は見るだけでも楽しいが、1番可愛らしいのは椿姫だと、瞳李は思う。
「そや。何個か選んで、その中で1番美味しかったのひとつ、交換はどうやろうか?」
「とてもいい考えだが、1つだけか……頑張る」
 椿姫の提案に否やは無く、でも、絞るのも大変そうだから――葛餅に団子と色々お相伴しては、悩む事暫し。
「瞳李お姉さん、これが美味しかったんよ」
 椿姫のお気に入りは、苺大福。餡子の甘味が主の中、爽やかな甘みと酸味が心地好い。
「……ありがとう、とても美味しい。じゃあ、こちらもどうぞ、お嬢さん?」
 瞳李が差し出したのは、1番に目を留めた寒椿の上生菓子。
「本物には負けるが、これも可愛いかなと思って。味も美味しいぞ」
 お嬢さんという言葉に頬もうっすら染まる。勧められるまま、椿姫は寒椿をぱくり。
「ほわ! 美味しいんよ」
 妹のようにも想う彼女の笑顔に、瞳李も薄紅の双眸を細める。
「しづか、あれなぁに?」
「上用饅頭です。外の種を『上用粉』という米粉で作ります」
「じゃあ、これは?」
「石衣です。餡を石に周りの蜜を衣に見立てて、外はさくっと中はしっとりした食感なのですよ」
 九重・しづかの丁寧な説明に、エヴァンジェリン・エトワールは感心したように翠眼を瞬く。
「エトワール様、餡子は召し上がれます……か?」
「えぇ、大丈夫。でも、綺麗なお菓子と思うけど、食べ方を知らないの」
 作法を請うエヴァンジェリンに頷き、しづかは淑やかに唇を綻ばせる。
「……では、幾つか選んで、参りましょう? お作法もご一緒に」
 そうして、互いに似合うと思う和菓子を選ぶ。しづかが皿に取ったのは、半生干菓子。淡い半透明の桜は優しく、華やかでいて清楚。
「すごいわ、硝子細工のよう……美しいものを選んでくれて、ありがとう」
 エヴァンジェリンのお返しは、愛らしい外見に甘い宝石。
「皆に好かれるこれを、アナタに」
「苺大福! 嬉しい、です」
 称賛込めた比喩に、しづかは頬を染める。
「誰かと一緒に食べると、美味しさも倍になるんですね」
「本当に。ね、今度は、どら焼きを食べない?」
「是非! でも、お汁粉やあんみつも捨て難くて……帰る頃には、塩辛い物が欲しくなりそうです、ね」
 笑顔の花が2つ咲けば、今日はきっと幸せ。
 ――ホカホカと湯気立つ一角はお汁粉のコーナー。お餅が2つ浮かぶ御膳汁粉に手を伸ばし、ナディア・ノヴァは肩越しに声を掛ける。
「どれからいく?」
「うちもやっぱお汁粉かな」
 ウーリ・ヴァーツェルも、まずは一椀。
(「うーん……迷うてしまうなぁ。何て隙の無いラインナップやろか」)
 目移りしながらも、甘じょっぱいみたらし団子に寒椿の上生菓子を、皿に取る。
「ああ、目玉の逸品も外せないよな」
「そやね。噂のどら焼きもええな」
 江戸発祥のどら焼きは各店趣向を凝らしており、小ぶりと言えど取り過ぎにはご注意だ。
 柔らかな和の彩で皿を埋め、2人は拠点、もとい縁台に戻る。ナディアはお抹茶、ウーリは煎茶、2人の間に茶碗も仲良く並ぶ。
「……ふぅ」
 お汁粉の溶けた餡の優しい甘み、それをお抹茶の柔らかな苦みが流してくれる。至福の吐息を零すナディア。お次は梅花の上生菓子か、或いはつぶ餡のどら焼きか……そこで我に返ってしまった。今月は少々甘味過多だ。
「……運動、しないとな」
 ぽつり、と零れた決意に、ウーリも思わず呻く。
「……一緒に頑張らせて」
 両手を合わせて頼み込むウーリの声音は、真剣そのものだったとか。
「雲雀と一緒に出かけるのは久しぶりだ。とても嬉しい」
「今日は1日楽しみましょうね」
 折角の和菓子尽くし。装いは着物に揃えた。天司・雲雀は、薄紅梅に白梅の柄。梅重の帯に若菜色の帯締めと帯揚げを。イヴリン・アッシュフォードは、青磁色に桜柄の装い。鶸色の帯、半襟と帯揚げと帯締めは珊瑚色で纏める。
「あとで私にも送ってくださいね」
 艶やかな記念写真は、イヴリンのSNSを華やかに彩るだろう。
 今日で19歳となる結城・美緒に祝いの言葉とプレゼントを贈って、さあ、お楽しみの時間。
「どれから食べたら良いか凄く悩むね」
「上生菓子とお抹茶は外せませんよね」
「うん、普段あまり食べれないし」
 まず和えかな彩を皿に取り、若草色のお薄を堪能する2人。
「お団子もすごく柔らかくて美味しそう」
「イヴリンさん、どら焼き、半分こしませんか?」
 続いての甘味に悩む愉しさ。それぞれ小ぶりのサイズながら、じんわり帯もきつくなっていくような?
「お汁粉も美味しそうです……」
「あんみつは最後に食べようかな」
 結局は食べ過ぎて、お腹を擦って溜息を吐くイヴリンに、雲雀は腹ごなしを提案する。
「もう少しだけ私に時間をくださいね」
 口福の後は、浅草の町を一巡り。

●甘味比べ
(「……ぼくは今、夢を見ているんじゃないだろうか」)
 季節を描いた上生菓子は、洋菓子とは異なる華やかさ。ふわふわのカステラや、程好い甘さの餡子を使った大福やどら焼き。あられやお煎餅と、しょっぱいお菓子があるのも嬉しい。
「レッド、すごいよ、どれも美味しそうだよ」
「ああ、凄いな、全部食べてみたいぞ!」
 目を輝かせるクローネ・ラヴクラフト。自らのほっぺをつねる仕草も可愛らしい。食す前から一緒に来て良かったと、しみじみ思ったのはレッドレーク・レッドレッドの小さな秘密。
「……ネリキリ? これも、食べられるのか? こんなに綺麗な花の形が、何だか勿体無いな!」
 上生菓子の美しさに見入るのも束の間。レッドレークの視線は団子の山に。
「お、串の団子は俺様も全種類制覇したい。クローネも手伝ってくれ!」
「喜んで」
 その隣は、お饅頭や大福餅が並ぶ。勿論、苺大福もある。
「……そう言えば、レッドの農園でも苺を育てていたよね? あれで苺大福を作ったら美味しい予感がするよ」
 魔女の予感を呟きながら、一通り堪能したら抹茶で一休み。
「……ぅ、にがーい」
「……。これはまた、甘いものが幾らでも欲しくなるな!」
 揃って顔を顰める2人。同時に苺大福に手が伸びた。
「初めまして。誕生日おめでとうございます」
 まずはドワーフの少女に祝いを述べて――季節の和菓子尽くし、見るだけでわくわくすると言う琥月・クレハに、土方・竜は大いに同意。
「意外とか子供っぽいとか言われそうだけど、初めて食べた大福餅が凄い美味しくて……」
「今日は2人ですから、より多くを味わえますわね。折角ですから、全制覇するつもりでいきましょう」
「それは楽しそうだなぁ」
 クレハの豪快な言葉に、どれから食べようかなと、普段は揺らがない竜の視線もゆらゆらと。
 そうして、迷う程の和菓子を食べ比べたクレハのお薦めは、どら焼き。しっとりな生地に栗きんとんを贅沢にたっぷりと。なめらかさにアクセントのつぶつぶの栗で2度お得。
「嗚呼、美味しい……では、私も大好物を」
 口福は巡る。竜のお返しは、大福餅だ。もっちもちのお餅の中の粒餡が絶品。
「竜さんの大福も美味しいです」
「さぁ、俺はまだまだ大丈夫だから、どんどん行こう」
 重なる甘味に重くなった舌をお茶が蘇らせる。引き続き全制覇を目指して、大いに乗り気の竜に負けじと、クレハは彼の袖を引く。
「まだ見ぬ味目指して、次へ行きますわよ」
 会場は和やかにして賑やか。誰もが和の甘味を堪能している。
「和菓子は量を食べるものではなく、その見た目や素朴な味を楽しむものであり……」
 そんな薀蓄を呟きながら、神崎・晟の和菓子を口に運ぶスピードは衰えを知らず――やはり、全種類制覇は浪漫らしい。
「いっぱい食べますけれど、ついてこられますか?」
「シェアで制覇、なんて多分、お前さんには不要だろうが、こちとらも随分大食いなもんでな。ついていくも何も、追い越すかもな?」
 軽口に軽口を返し、でも大いに本気を秘めて笑い合う藤宮・怜とアベル・ヴィリバルト。2月といえばチョコが主流。和菓子ブッフェはいっそ新鮮だ。
「連れてきてくれたお前さんに、感謝だな」
 目に飛び込む優しい彩りに、アベルは目を細め、怜は溜息を零す。どれから行こうか、迷うその時間も惜しい。
「アベルさんは、和菓子は何がお好きです?」
「和菓子自体にあまり縁がないからなぁ。いっそ今日、好みを決めてっても良いかもな」
 それもきっと楽しい。という訳で、まずは目玉のどら焼きから。合間に茶を、和の雰囲気を丁寧に味わう。
「――我ながら食い気が全面に出てますね」
 ふと思い出すのは、以前出掛けた椿の花――花に誘ったアベルと、菓子に誘った怜。
「お恥ずかしいです」
「花より団子。怜らしくて微笑ましいけどな」
 お陰で珍しい味にも会えたと、料理好きの青年は紫の双眸を細める。
「結局は得しかしてねぇのさ」
 返る言葉に、怜も嬉しげに微笑んだ。

●和と甘味の一時を
「美緒、誕生日おめでとう」
 都築・創と貴峯・梓織、3人で卓を囲んでいた美緒は、ルリィ・シャルラッハロートのお祝いに、ありがとうと笑み零れた。
「日本に来て、アンコの美味しさを知ったわ。ヨウカンやキンツバ、お団子や大福も好きだけど、ドラヤキ最高ね!」
 という訳で、プレゼントもどら焼きだ。
「私もバウムクーヘンが好きだったけど、カステラも好きになったわ」
 続いて、ユーロ・シャルラッハロートはカステラ、カレン・シャルラッハロートは栗羊羹と、それぞれお気に入りの和菓子を贈る。
「和菓子屋さんのブッフェって初めてだから、楽しみにしてきたよ」
 美緒にどら焼きとお茶の組み合せを尋ねたり、創お薦めのカステラ饅頭とカステラを食べ比べたり、梓織が好む上生菓子と各種お茶を飲み比べたり――暫く和菓子談義を楽しんだ後は、三姉妹で水入らず。
「あ、ユーロ! それ私の!」
 ちょっと油断した隙に妹にどら焼きを浚われて、抗議の声を上げるルリィ。
「フフン♪ カステラが1番だけど、ドラ焼きも美味しいわね……って! ルリ姉様!」
「お返しよ」
 カウンター速攻。ユーロのカステラをもぐもぐしながら、ルリィは姉の威厳を保つべく大いに胸を張る。
「こらこら、2人共。私の栗ヨウカンをあげるから、仲良くね?」
 すかさず妹達の間に割って入り、カレンはそれぞれの口へ、あーん♪
「皆で、美味しく食べたいな」
 長姉の言葉に否やはない。お抹茶はちょっと苦いから、炒り玄米が香ばしい玄米茶をお供にして。
「お姉様にも、あーんのお礼をしなくちゃ」
「私はカステラをあげる♪」
 そうして、甘味が巡れば、取り合いなんか何処へやら。仲良く楽しく、和菓子を堪能する三姉妹。
「和菓子って素敵」
 笑み満面のユーロに頷いて。ルリィは甘えるようにカレンの肩にチョコンと頭を寄せた。

●或いは、美緒の誕生日
「美緒ちゃん、誕生日おめでとうございます」
 最初はぜんざい、続いてカステラと緑茶を堪能して。リュセフィー・オルソンは、上生菓子の詰め合わせを手にご挨拶。今の時季の上生菓子は梅や桃の花や芽生えを待ち望む造形で、誕生日のプレゼントにもぴったりだ。
「ありがとう、リュセフィーさん」
 心尽くしの度、美緒は笑顔で感謝を口にする。流石にアピールするのは面映いお年頃だけど、誕生日のお祝いは素直に嬉しいようだ。
(「女の子らしく、本当にみんなで一緒が好きなのですね」)
 イッパイアッテナ・ルドルフの小盆には、どら焼きに葛餅、草団子、ういろう――小さな湯呑み片手にまったりと楽しむ傍ら、相棒のザラキはひょいひょいと小さな和菓子を大きな口で味わっている。
「美緒さん、新たなお気に入りを発見出来ましたか?」
 頃合を見計らっての質問に、プレゼントを添えて。
「蒸し物って言うそうね。お饅頭もカステラも羊羹も、蒸した方は優しい口当たりで、美味しかったわ」
「蒸し物、ですか……菓子は、私も簡単なのを作ったりします。今度挑戦してみましょうか」
「美緒さん、お誕生日おめでとうございますです!」
 ペテス・アイティオのプレゼントは、和柄の手鏡。美緒に似合う物をと、じっくりと探してきた。
「あら、今日は緑茶でいいの?」
「私のウーロン茶は、今日はお休みなのです」
 ペテスといえばウーロン! らしいが、その実日本茶も好き。色々と飲み比べていたようだが、最終的に番茶の湯呑みを抱えて、ほっこリしている。
「美緒おねえ、お誕生日おめでとうなのじゃ」
「ありが……とう?」
 どら焼きを食べ比べているウィゼ・ヘキシリエンの隣では、アヒルちゃんミサイルがたい焼きばかりをぱくぱくと。
「……そのアヒルちゃん、お菓子食べられるのね」
「無論。じゃが、このまま丸呑みしておったら体に悪いのじゃ。これでは鵜飼いの鵜のようなのじゃ」
 ガジェッティアの不思議テクノロジーとしておこう。
「おめでとう、結城君。これは私から」
 いつの間にか、会場から姿を消していた晟がひょっこり顔を出す。
 1つは、桃枝の糖芸菓子。匠に美緒をイメージした和菓子を作って貰った。
「花と若芽は落雁で食べられるぞ」
 柔らかな桃色も鮮やかな青緑も、美緒の色だ。いたく感動の面持ちに笑みを浮かべ、続いて晟はお重を運び込む。
「それから……これでも、多少は心得があるのでな」
 依頼を切欠に、修練を積んできた成果だ。丹精込めた煉切りの細工菓子を、晟は美緒だけでなくビッフェの参加者にも振舞って回る。
「これはまた、見事なものじゃな」
 煉切りの細工には感心の表情で。ケルン・ヒルデガントはいっそ無邪気に美緒に声を掛ける。
「美緒姉様、誕生日おめでとうなのじゃな! みんなでお祝いに来たのじゃよー!」
 ケルンに誘われた窓際の卓で、和装のレディ達が美緒を迎える。大正浪漫を髣髴とさせるレトロな装いだ。
「美緒ちゃん、誕生日おめでとう~! ふふっ、何だかファンタジーな一時になりそうだね」
 実は美緒も袴姿で、鮫洲・蓮華は楽しげに笑む。
 想い想いに好きな和菓子を食べて、お茶を飲んで――美味しく楽しい、瀟洒なティーパーティの時間。
(「……それにしても、いつもティータイムしてるような」)
 ……いや、それでいいのかもしれない。戦いに戦いを重ねる日々だからこそ、平和を享受するのは――。
(「って、そういう哲学は置いといて!」)
 以上、ケルンの自己完結的自問自答終了。今はお茶会を満喫する事に専念だ。
「和菓子に合わせるなら、やはりお抹茶ですわ。春らしい綺麗な緑色ね!」
 浮き浮きと、湯気立ち上るお茶碗を両手で包むシア・ベクルクス。季節を感じさせる上生菓子が大好きだが、種類も多ければ、目移りし切り。帯をもう少し緩くしておけば良かったかもしれない。
 それは、セレネテアル・アノンも同じく。折角の優雅な和装、今日はお上品に上生菓子を……。
「むむっ! ぜんざいもあるみたいですね~。お~! あっちにはどら焼きもあります~!」
 折角のブッフェ、お淑やかにしている暇なんてなかった。
 賑やかに、和やかに談笑する事暫し――ふと、顔を見合わせた4人は、満面の笑みを美緒に向ける。
「結城さん、何時もお世話になっています! という事でこちらをっ」
 まず、シアが卓に置いたのは、ミニサイズの誕生日ケーキ風煉切り。
「結城さん、お誕生日おめでとうですよ~!」
 クラッカーは今回の雰囲気が合わないと思って、断念した。代わりに、セレネテアルは和菓子を乗せるのに似合いそうなお皿を、何枚かチョイスしている。
「美緒ちゃん、今年も楽しいお誕生日会だね! ……折角だし、蓮華は梅の上生菓子をブーケにしたよ!」
 紅白の花が如何にもお祝いカラー。蓮華のプレゼントは美しくて美味しそう。
 そして、ケルンのプレゼントは、茶道で使うお茶碗だ。
「次は野点も楽しみたいの!」
「これから気候もよくなるし、お外の茶席も素敵ね。お作法はあんまり得意じゃないんだけど……梓織さんに教えて貰おうかな」
 美緒の表情からして、乞うご期待、といったところだろうか。
「うむ、たくさん人が集まって賑やかでいいのぅ」
 やはり、美緒とは同じ師団の誼。誕生日を寿ぐ光景に、目を細めるミミ・フリージア。すっかり満腹のお腹を擦る。
 まずは、あんみつ。目玉のどら焼きも、お茶を片手にどんどん制覇。大福と草餅も忘れずに。人目も気にせず、和菓子を存分に堪能した。
 そうして、自らも美緒に祝いの髪飾りを贈りながら、小首を傾げるミミ。
「あとは、お土産で買えるところがあればいいんじゃが、どうじゃろうか」
 お土産は、気に入った甘味を浅草の各お店で。腹ごなしにもきっと丁度いいだろう。

 2月26日――寿ぎに溢れた和と甘味の一時を存分に堪能して、結城・美緒は19歳になる。
「本当に、皆、ありがとう」
 ちょっぴり苦しそうに袴を擦りながらも、ドワーフの少女は、とても幸せそうだった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月8日
難度:易しい
参加:27人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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