ソロで唄う食器乾燥機

作者:baron

 ブオオオ。
 けたたましい音を立てて、山中の雪が散っていく。
 ゴッ! と音を立てて今度は炎が吹き始めた。周囲には雪が積もっているので直ぐには燃えないが、放置すればそのうち火が付くだろう。
『ディーッシュ!』
 そこから現われたのはダモクレス。
 周囲にナイフやフォークの肩血をしたミサイルをばらまき、あるいは炎で彩るロボットであった。
 そいつは山を燃やしながら、町中を目指したのである。


「とある山中に捨てられていた家電製品がダモクレス化します」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
 山中ゆえに幸いにも被害は出ていないが、モクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
 その前に現場に向かいダモクレスを撃破して欲しいと言う。
「このダモクレスは食器乾燥機が変形したロボットになっています。旧型なので洗浄装置とくっついて居ませんので、基本的には炎と食器を象ったミサイルを使用する用です。またダモクレスですので手足が無い様に見えても、格闘戦は可能でしょう」
 セリカが見せてくれたのは、籠にプラスチックのクリアケースを付けた装置だ。
 中には温風で温める装置があるようだが……今時の食器を荒らすマシンと違って、洗ってはくれないようだ。
 これが洗うだけのマシンであれば、もしかしたら使って放置することで乾燥させたかもしれないが、乾燥するだけのマシンだったので捨てられてしまったのだろう。
 その機能が悪い訳ではないが、機械の進化の方が早かったらしい。
「この食器乾燥機が悪い訳ではありませんが、罪もない人々を虐殺するデウスエクスを放置できません。被害が出る前に対処をお願いします」
 セリカはそういうと、資料や地図を皆に渡して出発の準備を整えるのであった。


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
皇・絶華(影月・e04491)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
日向・灯理(ロマンの探求者・e44910)
神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)
水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)

■リプレイ


「今回は家電ダモスレスですし、人払いは不要ですかね?」
「まあ依頼としてはシンプルでいいけど……もうちょっと暖かい時期が良かったかしらね?」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)と曽我・小町(大空魔少女・e35148)はガッチリ固めたコートとブーツで雪道を歩きながら、白い息をホウとついた。
 控えめに言って寒い。翼猫のグリを交代で抱きしめながら、温かさとニャンコニウムを補給する。
「ダモクレスも減らないねぇ……というか」
 山道の先頭を歩いていた楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)は僅かに首を傾げた。
 周囲に視線を巡らせ、少しだけ言葉を修正する。
「山に捨てられてたってことはこれも不法投棄とかなのかな。不法投棄も減らないねぇ……減ったらダモクレスも少しは減るのかな」
「減るだろう。廃棄家電型ダモクレスの結構な割合が不法投棄だ」
 牡丹の呟きに皇・絶華(影月・e04491) が答える。
 廃棄家電型ダモクレスは壊れて放置された家電を変異修復して活用して居るようなので、不法投棄を減らせば不法投棄に由来する個体が減るだろう。
「他にも要因はあるが、可能性を減らす事は出来る。……しかし食器乾燥器か」
「食器洗浄機じゃなくて食器乾燥機なんだっけ……ダモクレスとはいえ、私実物初めて見たかも。というか初めて聞いたかも」
 絶華が戦闘の参考にとカタログを開くと、牡丹は歩くペースを緩めて覗きこんだ。
 今では同じ物として考えられがちだが、本来は別の物であった。
 当初は綺麗に洗うだけでも難しいと考えられており、食器を乾かすだけの乾燥機は別である。
「それだって十分便利な気はするのよね。そもそも食洗器使った事無いし、食器手洗いするの好きだし!」
「私はこういうものを使う習慣はないのだが……主婦の方々はやらねばならない事が多い故にこういう簡略化できるものが必要になるのだろうな。だが……あれでは便利は得られても安心が得られまい」
 小町の言葉に絶華はしみじみと頷いた。無い者からすれば乾燥だけでも便利だ。
 今の乾燥もできる新型食器洗濯機を基準するから不便に見えるだけ……そんな事を言おうとした時、森が揺れ動くのが見えた。
「あたしのところに来れば、って思うけど。こうなっちゃったら仕方ないわ。人様に迷惑かける前に……それが情けってものよね」
「雪山とはいえ山火事はさすがに困っちゃうよね」
 小町が走り始めると牡丹たちも続いて行く。

 森の一角から炎が上がり、雪を溶かしながらブスブスと黒く燃えて居たのだ。
「食器乾燥機がこんなロボットになってしまうんですね。もっと大きい物がダモクレスになったらどうなってしまうのでしょう?」
「見てみたいけど怖いよねー。でも暴れ始めたのが雪山で良かったよー、町のゴミ捨て場とかだったら大変だもの」
 水森・灯里(ブルーウィッチ・e45217)は喉をゴクリと鳴らして、雪山を登る途中の話題を思い出した。
 その脇を神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)はシャーマンズゴーストとお揃いのマフラーをなびかせて駆けあがった。
「さくっと倒して雪遊びを……じゃなかった、後片付けヒールしちゃいましょう」
「ウンウン! いっくよー! わたしの本気!!」
 ミリアは元気な飛燕の様子に思わず笑みと本音がこぼれたが、本人はどこ吹く風の子供の子。きーんと走り込んだまま、両手を広げて流体金属の手をニギニギ攻撃を始める。
「乾燥器としての意義を失う……だが……どのような道具で在れこうして凶悪な凶器に至るのは全てに等しい事なのだろう」
「寒いのは嫌だし火も暖かいしたき火とか好きだけど、山火事はNG! おとなしくしなさい!」
 次に絶華と牡丹が接近し、炎をまとった蹴りで周囲を赤く彩る。だが燃えるのはダモクレスだけで、森に着火する事は無かった。


『ブロー!』
「いけない!」
 日向・灯理(ロマンの探求者・e44910)は帽子が飛ばない様に手で押さえ、スノーブーツで雪を踏みしめながらダモクレスの前に飛び出した。
 急激なブローを掛けられて炎が舞いあがり、雪は泥になって散っていく。乾いた泥がズボンを汚すのだが、それが人々の血では無かったことに安堵を覚える。
「みなさんが言う様に不法投棄がなくなればこういうこともなくなるのでしょうか……?」
(「仮に打ち捨てられた量産機に魂があり同期の発展を羨み己が境遇を嘆いていたとしよう。でももう遅い、全ては過ぎ去った事だ。人類の敵となった今、見過ごす事は出来ない」)
 灯里が悲しそうに呟くが、灯理には答えを出す事が出来ない。
 沈黙したままダモクレスを睨み、通さない様にするしかできなかった。それですらも、今はまだ一人で何とかする力も無いのだ。
「ここは一歩も……、町へは絶対に通しません」
 まだ灯理には一歩も通さないなどと言う自信など無い。
 だが山を居りさせないだけなら、仲間達と共に連携すれば防げるだろう。
 その為に重力の鎖で結界を張り、前衛の仲間を守ると同時に絆を繋げるのであった。
「ともかく、このダモクレスが人の居る所へ行ってしまう前に、何としてでも倒さないといけませんね。……これで動きを封じさせてもらいますね」
 躊躇し温情を掛ける余裕など無い。
 灯里はためらいながらも意思を切り替え、まずは相手の動きを止めることにした。
 炎が焙り出すダモクレスの影へ自らの指を刺し入れる。そして影を起こし具現化させて本体である筈の食器乾燥機の動きを止めさせるのだ。足元から延びる食器ストッパーの影がまるで肋骨のように絡みついていく。
「パパっと癒しはしたけど、大丈夫?」
「なんとかな。……ったく、酷い目にあった。やられっぱなしは性に合わねえ。めんどくせえが、さっさと片付けてくるか」
 ミリアが散布した薬剤の雨の中から外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)が顔を出した。
 先ほどの火炎攻撃を盾役がカバーに入ったが、全てを守りきれると言うものでもない。クラッシャーである彼はかなり傷付いており、ミリアも灯理も即座に回復を行ったのである。
「山中に不法投棄とかするなっつの……ていうか、ミサイルを使う食器乾燥機ってどんなのだよ。つーか随分とシュールだな」
 咒八はまだ見ぬお皿爆弾を想像しようとしたが面倒くさくなってやめた。
 代わりにヤクザキック気味の飛び蹴り食らわせ、炎で焙られた鬱憤を晴らしたのである。
「希望の輝きよ、未来への道を切り拓け! ――シャイニング・デストーーームッ!」
 小町が祈る様に祈るように組むと、両手に光り輝く竜巻が立ち上った。
 それを敵に向かって放つと、その光はダモクレスの周囲にまとわりついた。
 右に移動すれば右から左へ、左へ移動しようとすれば左から右にビュンビュンと唸る様に小さな竜巻がぶつかっていく。
 次第に竜巻は合わさって大いなる嵐の壁と成って束縛を始めるのであった。

 だがダモクレスとは黙ってやられる存在では無い。
『ディーッシュ!』
「単体攻撃……今度こそ。守って見せます」
 嵐の壁の向こうから、ナイフやフォークの腕を突き出して来る。
 灯理はサーヴァント達と一緒に食器で作られた腕に立ち向かう!
「ディーッシュ! じゃないでしょ! これはフォーク! ブローラも回り込んで」
 牡丹はテレビウムのブローラにも支持を出し斧槍を構えて走り込む。そして防いでくれた盾役の仲間を回り込んで突撃を掛けた。
「マナーがなってないわね、この子は……!」
 その突入を先導するのは小町が飛ばした黒鳥で、一仕事終えると杖に戻っていく。黒い羽飾りだけがその名残の様だ。
「援護します」
「助かる」
 灯理が照らした黄金の輝きを背に、絶華はハイキック気味のショートジャンプからの飛び蹴りを食らわせた。
 そのまま脇に抜けて、次の仲間が攻撃する為の場所を開ける。
「ったく、めんどくせえ。安息に堕ちろ」
 咒八は紫色の花から作られる甘い香を焚きしめた。
 誘うのは安息かそれとも虚無か。人々を傷つけぬように二度と醒めない夢に堕ちるのも良いだろう。


「神冥さん、いきますよ」
「そ-れっ。雪で滑ってコケてくれたりしないかなぁ、ダメ?」
 灯里がバールでダモクレスの透明な装甲……というか蓋を引っぺがすと、飛燕が光で出来たサッカーボールを蹴り込んだ。
 カパンと開いた所に星が飛び込んで、内側から装甲をこじ開けたのである。
『パリンパリンパリン!』
「も~。猫ちゃん達が怯えったらどうするんですか。メっですよ」
 ミリアは最初、怪我の累積して居た灯理を治療して居た。
 だがダモクレスが皿をバンバン飛ばしてきたことで、再び薬剤の雨を降らせる事にした。
 何しろ翼猫やミミックにシャーマンズゴースト達が仲間を庇おうと右往左往しているので、見て居られなかったのだ。
「わたしたちはお皿じゃないよ! お返ししちゃうんだからね!」
 飛燕は皿もだが細かいことを投げ捨てて、果敢に反撃へ打って出る。
 流体金属の手で皿を掴み、片っ端ながら投げ返し始めた。
 投げつけられたナイフや割れた皿が、ビュンビュン突き刺さって装甲を引き裂いて行ったのである。
「私のことはもう大丈夫です。早く皆を……」
「傷の方は問題無いわよ。むしろ負荷の方ね。相手はジャマーだから。……あらやだ全快しなかったし」
 灯理が薫る様な風を吹かせるが、ミリアの雨と合わせて傷自体は治療を殆ど終えて居た。
 だがしかし、喰らった負荷を全て吹き払うには至らなかったのである。
「まー確率的な問題だもんね。全部カバーできるとは限らない、出来たとして治療しきれるか判らない。回復しても負荷を外せるかは判らない。だからといって足踏みなんかしてられないっての!」
「だから受けに回ってると何度も何度も面倒くさいからな。だからさっさと潰すのが一番なのさ」
 小町が光の嵐を再び呼び起こすと、咒八は苦笑しながらダモクレスに鉄拳を喰らわせた。
 クリーンヒットすると唄う様に装甲が震え、振動を内部へと叩き込んで行く。
「どんな状況でも逃げるわけにはいかないから、やるしかないんだけどね」
 牡丹は流体金属で巨大な手を作り、抑え込む様にして仲間の攻撃をアシスト。
「その通りだ。結局やるしかないのであればケルベロスがやらねば誰がやる」
 そこへ絶華はカタールを煌めかせて飛び込んで行った。
 素早い動きを炎や黄金の輝きが光の軌跡を描き出し、戦場に細い線を浮かび上がらせる。
 その形状はスマートかつシンプルで、無駄の無い動線をクッキリと見せてくれたのであった。


「ダモクレスも苦しそうですね。逃がさない様にすべきでしょうか」
 灯里は怨霊を宿す剣で戦っていたが、敵の動きが鈍ってきたとみてバールのような何かに持ち落ち変えた。
 そして仲間達の動きを見て突入するタイミングを窺っておく。
「ちゃんとスクラップに分別してあげるんだから!」
 飛燕は自分が持ってる人体発火装置に繋いだロープをシャーマンズゴースト君に加えてもらって、ダモクレスをグルグル巻きにしたのだ。
「逃がしませんっ」
 ボンと小気味いい音がして燃え始めた時、灯里はバールを片手に回り込んだのである。
「ちょっと早い気がするけど、こんなものなのかな?」
「まっ、そういうタイプだからな」
 灯理は懐中時計で時間を確認すると、苦労している割りに時間が経過して居ないことを理解する。
 咒八が再び香料を焚きながら教えてくれるのだが、ジャマーゆえに苦労している様な気がするが、攻撃力はそれなりで治療ばかりではないし防御力も高くないから追い込むのが思ったよりも早いのだろう。
「古い時代の日々には肌をさらす事なんて――とてもはしたないと思われていた――天は知るだろう――すべてが、変わっていくと―――」
 灯理はここに来て初めて攻撃に打って出た。
 もはや回復するより倒した方が早いということもあるかもしれない。
 時の隙間に流され既に滅びた祖国の歌を唄う。黄金の砂時計はヤスリの様に無慈悲で、あるいはブラックホールのように重い時の流れで持って押し潰す。
「では私も攻撃するとしましょうかね」
 ミリアも周極であると理解して、
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門…! ……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 絶華は走りながら魔獣を自身に降ろし、僅か一瞬の間だけ超加速を掛ける。
 牙の代わりにカタールを振るい、神速の斬撃を牙の様に突き立てて行くのだ。
「いくわよ、ブローラ! サーヴァント~アターック!」
 最後に牡丹がダモクレスを炎の足で蹴りあげて、テレビウムのブローラがモンキーレンチを投げつけた。

 非常に珍しいことながら、最後にサーヴァント(それも盾役)が全てを持って行ったのである。
「やっぱり最後はだいしょーり! ってね! でも残念だなー。シャーマンズゴースト君が行けると思ったのに」
「まあその辺はタイミングでしょ。運が良ければうちのグリでも行けたわけだし……お疲れ様」
 飛燕がちっとも残念ではない表情で笑っていると、小町は誰ともなく労わりの声を掛けた。
「では手分けしましょうか。ダモクレスも直ぐだったんです、みんなでやれば修復もきっと直ぐですよ」
「じゃあ私は残骸整理かな。ヒール持って来てないし」
 灯里は率先して手を上げると、人が少ない場所のヒールに向かう。
 牡丹達は折れた木々や壊れたダモクレス、そして森の中にチラホラ見える捨てられた家電を整理して行った。
「確かに、このままにしておくわけにもいかないだろう。山は修復するとして、其れに……これらもリサイクルすれば新しい人の役に立つ物に変わるかもしれない」
「うげ。面倒癖え……やるならやってとっとと帰ろうぜ」
 絶華がダモクレスの残骸を漁りながら、ヒールすれば使えるかもしれないと告げた。
 咒八は最後まで面倒そうな顔を浮かべた後、皆が動き始めたので仕方ねえと口にして残骸を片付ける。
「そ-だね。人気が無いとは言え、荒らしてしまったままなのも何か嫌だし!」
「哀愁漂う残骸もこの時代ならリサイクルで生まれ変わる事があるかもしれませんね」
 小町たちがヒールを掛けて居ると、灯理は壊れたことが捨てられた原因の廃棄家電も、ヒールで修復すれば変異したとしても使えるかもしれないと残骸整理を手伝って行く。
「なにそれー? 雪だるま~?」
「雪崩になっても行けませんし……いえ、カマクラではないですよ? 小動物が退避するシェルターです」
 飛燕が興味深そうに、一仕事を終えたミリアの様子を眺めた。
 彼女は担当箇所のヒールを終えた後、雪を積み上げたり周辺を凍らせて小さなドームを作っていたのだ。
 それを見て自分も遊ぼうと思った子が、居るとか居ないとか。
 こうしてケルベロスの戦いは無事に終わり、一同は愉しく帰還したのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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